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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092981
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214421
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022207852
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健翔
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
(72)【発明者】
【氏名】貫井 啓介
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK52C
4F100BA03
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100DA20
4F100DD07
4F100DD07A
4F100DD07B
4F100EJ38
4F100EJ94
4F100JA02
4F100JK14
(57)【要約】
【課題】微細なシワやキズが低減されたポリエステルフィルムロールを提供する。
【解決手段】少なくともA層とB層を有し、A層表面であるA面とB層表面であるB面とを有するポリエステルフィルムを巻取ってなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロールの幅が500mm以上8000mm以下、前記ポリエステルフィルムロールの長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数がいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下、幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)の最大値と最小値の差がいずれも100nm以下であるポリエステルフィルムロール。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層とB層を有し、A層表面であるA面とB層表面であるB面とを有するポリエステルフィルムを巻取ってなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロールの幅が500mm以上8000mm以下、前記ポリエステルフィルムロールの長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数がいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下、幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)の最大値と最小値の差がいずれも100nm以下であるポリエステルフィルムロール。
【請求項2】
前記A面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)がいずれも50nm以上1000nm以下である請求項1に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
前記A面及びB面における中心面平均粗さ(SRa)がいずれも5nm以上60nm以下である請求項2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムの厚みが15μm以上60μm以下である請求項3に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
前記A層及び/またはB層に体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の粒子を該層に対して0.05質量%以上0.50質量%以下含有してなる請求項3に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項6】
前記A面上に離型層を有してなる請求項3~5のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寸法安定性が高く、フィルム幅方向での中心面山高さのばらつきが小さく、更にはキズが低減されたポリエステルフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械特性や熱特性、コストの観点から、工業材料用途として広範に用いられている。中でも、昨今のスマートフォンや電気自動車、自動運転の普及に伴う電子部材、特に、積層セラミックコンデンサ(以下、MLCCということがある)の需要の伸びに応じて、その製造に用いられるポリエステルフィルムの消費量も増加することが見込まれている。MLCCは以下の手順で製造される。離型層を塗布した基材フィルム上に誘電体ペーストを塗工、乾燥し、内部電極印刷後に誘電体ペーストからなる固形物を離型フィルムから剥離する。得られた誘電体シートを積層、プレスした後、所定の大きさに切断し、最後に焼成することで完成する。
【0003】
MLCC製造用の基材フィルムに求められる特性として厚みの均一性、異物や粗大突起等の欠陥がないこと、また、誘電体ペースト乾燥時に加熱することから加工温度領域での寸法安定性が挙げられる。これまでに厚み均一性や寸法安定性を向上させたポリエステルフィルムを提供する技術として、特許文献1では厚さ振れを0.14μm以下に低減したセラミックグリーンシートの支持体用ポリエステルフィルムロールが、特許文献2では低温低湿、低温高湿、高温低湿、高温高湿の全ての温湿度領域での寸法安定性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムが、特許文献3ではポリエステルフィルム表面上の突起数低減と幅方向の寸法安定性を安定化させたポリエステルフィルムがそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-160240号公報
【特許文献2】特開2021-55077号公報
【特許文献3】特開2012-153100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、MLCCは小型化、大容量化される傾向にあり、それに伴い誘電体シートは益々薄膜化されている。加えて自動運転のような信頼性が特に重要視される分野への利用も増加していることから、以下のような課題が顕在化している。従来では基材フィルムによるMLCCの品質への影響が小さかったが、加工時に基材フィルムに生じる軽微なしわに起因する誘電体シートの厚み不良もMLCCの品質や歩留まりに大きく影響するようになってきた。また、基材フィルムのキズは誘電体シートにピンホールを生じさせ、或いはピンホールとならずとも局所的に誘電体シートに凹凸が生じ、MLCCのショート不良や容量不良の原因となる。MLCCは多数の誘電体シートを積層した構成をしているので、誘電体シートの欠陥を更に低減させるためには基材フィルムのキズを従来以上に制御する必要が生じてきた。
【0006】
本発明の目的は、微細なシワやキズが低減されたポリエステルフィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、以下の構成とすることで、上記の課題を解決したポリエステルフィルムロールとすることができることを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、以下の構成からなる
(1)少なくともA層とB層を有し、A層表面であるA面とB層表面であるB面とを有するポリエステルフィルムを巻取ってなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロールの幅が500mm以上8000mm以下、前記ポリエステルフィルムロールの長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数がいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下、幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)の最大値と最小値の差がいずれも100nm以下であるポリエステルフィルムロール。
(2)前記A面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)が50nm以上1000nm以下である(1)に記載のポリエステルフィルムロール。
(3)前記A面及びB面における中心面平均粗さ(SRa)がいずれも5nm以上60nm以下である(1)または(2)に記載のポリエステルフィルムロール。
(4)前記ポリエステルフィルムの厚みが15μm以上60μm以下である(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
(5)前記A面及び/またはB面を構成する層に体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の粒子を該層に対して0.05質量%以上0.50質量%以下含有してなる(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
(6)前記A面上に離型層を有してなる(1)~(5)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微細なシワやキズが低減されたポリエステルフィルムロールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明は、少なくともA層とB層を有し、A層表面であるA面とB層表面であるB面とを有するポリエステルフィルムを巻取ってなるポリエステルフィルムロールであり、前記ポリエステルフィルムロールの幅が500mm以上8000mm以下、前記ポリエステルフィルムロールの長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数がいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下、幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)の最大値と最小値の差がいずれも100nm以下であるポリエステルフィルムロールに関する。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルとは、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルである。芳香族二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などを用いることができる。脂環族二塩基酸としては、蓚酸、琥珀酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などを用いることができる。グリコールとしては、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができる。芳香族ジオールとしては、ナフタレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ヒドロキノンなどを用いることができる。脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどを用いることができる。
【0013】
上記ポリエステルは公知の方法で製造することができ、固有粘度は下限0.50、上限0.80のものを用いることが好ましい。更に好ましくは下限0.55、上限0.75である。なお、固有粘度の測定は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いる。
ηsp/C=[η]+K[η]・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定する。単位は[dl/g]で示す。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムロールは、少なくともA層とB層を有し、A層表面であるA面とB層表面であるB面とを有するポリエステルフィルムを巻取ってなる。A面とB面を有する層は、単層、複合構成いずれでもよく、A面を構成する層をA層、B面を構成する層をB層とした場合、ポリエステルフィルムの層構成としてはA層/B層の2層構成のほか、A層/C層/B層などの3層以上の構成も挙げられる。また、本発明は幅が500mm以上8000mm以下のポリエステルフィルムロールを対象とする。幅500mm未満でも特段問題はないが、幅8000mm超過だと、フィルム巻き取りの際にしわや巻きずれが発生し、ロール採取が困難となる場合がある。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムロールの長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数はいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下であることが好ましい。熱膨張係数を上記範囲内とすることで、本発明のポリエステルフィルムロールを基材として加熱工程を経る加工した際の寸法安定性が向上する。一方で熱膨張係数が-100ppm/℃未満、もしくは100ppm/℃より大きくなると、加工時の加熱工程でフィルムの縮み、または伸びが大きくなりシワが生じやすくなる。例えば本発明のポリエステルフィルムロールをMLCCの誘電体シートのような厚み均一性が特に要求される用途の離型フィルム基材として用いる場合は、ポリエステルフィルムロールに離型層を塗布した後に、離型層乾燥し、硬化させる目的で80℃~140℃の加熱工程があり、その工程で生じる離型フィルムの軽微なしわによる誘電体シートの厚み斑もMLCCの容量不良の原因となることから、熱膨張係数を上記範囲とすることが好ましい。長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数のより好ましい範囲は-75ppm/℃以上75ppm/℃以下、更に好ましい範囲は-50ppm/℃以上50ppm/℃以下である。80~140℃における熱膨張係数を上記範囲とするには、長手方向及び幅方向の延伸倍率と温度、熱固定温度を後述する範囲に調整したり、熱固定後に中間冷却ゾーンや徐冷ゾーンを設けたりすることで可能である。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムロールの幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)の最大値と最小値の差はいずれも100nm以下であることが好ましい。幅方向の中心面山高さはポリエステルフィルムロールの中央部と両端部の3箇所で測定するものとする。具体的には、実施例に記載の方法で測定するものとする。中心面山高さの幅方向の差を100nm以下とすることで、本ポリエステルフィルムロールを巻き出して塗材を塗工した際の塗材の均一性が向上するだけでなく、製膜時や加工時にポリエステルフィルムを搬送する際のポリエステルフィルムと搬送ロールの滑りが抑制されて搬送ロール起因のキズが低減される。例えば本発明のポリエステルフィルムロールをMLCC製造用の離型フィルムとして用いた場合、中心面山高さのばらつきが抑制されていることから、極めて薄膜な誘電体シートであってもその厚み均一性が担保され、MLCCとして用いた際の不良率低減に寄与する。また、離型フィルムにキズがあるとその凹凸が被離型物、即ち誘電体シートに転写する。本発明のポリエステルフィルムロールは搬送ロール起因のキズが抑制されているので、上記観点からも誘電体シートの厚み均一性が向上し、MLCCの不良率低減に効果がある。
【0017】
幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さの最大値と最小値の差の好ましい範囲は80nm以下、更に好ましい範囲は60nm以下である。幅方向のA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さの最大値と最小値の差を上記範囲とするには、長手方向及び幅方向の延伸や熱固定、冷却を以下のような手段を用いて均一に行うことで達成できる。長手方向及び幅方向の延伸を均一に行う手段としては、延伸時のフィルム幅方向の温度斑を低減させることが挙げられる。長手方向の延伸を搬送ロールによってフィルム予熱し、続く二本のロールの周速差を利用して行う場合は、予熱及び延伸で用いるロールの温度斑をなくすことでフィルムの温度斑を低減させられる。また、延伸時にニップロールを使用する場合には該ロールを幅方向で均等に圧着させたりすることも効果的である。幅方向の延伸をクリップでフィルム両端を把持して左右対称に引き延ばして実施する場合は、延伸前及び延伸中にフィルムが通過する空間の温度を幅方向で均一にすることでフィルムの温度斑を低減させられる。給気温度や給気量を調整することに加えて、外気の影響を遮断するために遮蔽版や保温材を使用したり隙間なく囲ったりすることが効果的である。熱固定及び冷却工程においても延伸時と同様な手法を用いてフィルムが通過する空間の温度を幅方向で均一にすることでフィルムの温度斑を低減させられる。
【0018】
中心面山高さの幅方向の差が100nmより大きくなると本ポリエステルフィルムロールを基材として加工した際の幅方向での加工均一性が損なわれたり、ポリエステルフィルムを搬送した際のフィルムの蛇行により搬送ロール起因のキズが生じたりする。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムロールのA面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さ(SRp)は50nm以上1000nm以下であることが好ましい。A面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さを該範囲とすることで、本発明のポリエステルフィルムロールを基材として離型フィルムとした際の被離型物のピンホール欠陥を抑制することができる。中心面山高さが1000nmを超えると、被離型物にピンホールが生じやすくなり、例えば被離型物がMLCCの誘電体シートであった場合にはMLCCの耐電圧が低下するという問題につながってしまう。中心面山高さが50nm未満であると、フィルムをロールとして巻き取った際の巻姿が悪くなる。A面及びB面におけるそれぞれの中心面山高さのより好ましい範囲は50nm以上900nm以下、更に好ましい範囲は200nm以上800nm以下である。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムロールのA面及びB面における中心面平均粗さ(SRa)はいずれも5nm以上60nm以下であることが好ましい。A面及びB面における中心面平均粗さが該範囲であることで、本発明のポリエステルフィルムロールを基材として離型フィルムとした際の被離型物の凹凸の抑制と、製膜及び加工工程でのハンドリング性を両立させることができる。A面またはB面における中心面平均粗さが5nm未満であると、製膜工程や加工工程でフィルムが接触する搬送ロールとの擦過によりキズが生じたり、ロールとして巻き取った際の巻姿が悪くなったりする。一方でA面またはB面における中心面平均粗さが60nmを超えると前述の擦過キズや巻姿は良化させることができるが、離型層を有する面の中心線粗さが60nmを超える場合はフィルムの凹凸が被離型物に転写する問題が、離型層を有する面の背面の中心線粗さが60nmを超える場合は離型層上に被離型物を設けてロール状に巻き取った際に背面の凹凸が被離型物に転写する問題がそれぞれ生じる。A面及びB面における中心面平均粗さのより好ましい範囲は5nm以上50nm以下、更に好ましい範囲は5nm以上40nm以下である。
【0021】
中心面山高さ及び中心面平均粗さを上記範囲に調整する手法としては、例えばA面及びB面を構成する層に含有せしめる粒子の体積平均粒子径や含有量を後述する範囲に調整することで可能である。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するポリエステルフィルムの厚みの好ましい範囲は15μm以上60μm以下であり、より好ましい範囲は18μm以上40μm以下である。厚みが15μm未満であると薄膜すぎるため、製膜安定性が不安定となる他、加工工程や離型用途に用いた際に破断など引き起こす場合がある。一方で、60μmを超えると、同一幅、同一重量のフィルムロールを採取した場合に巻長さが短くなり加工工程の生産性が悪化する他、離型用として用いた場合には本発明のポリエステルフィルムは使用後に廃棄されるため、廃棄物削減の観点からも好ましくない。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムロールのA面及び/またはB面を構成する層は体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の粒子を該層に対して0.05質量%以上0.50質量%以下含有していることが好ましい。体積平均粒子径及び粒子含有量を該範囲とすることで、A面及びB面のそれぞれの中心面山高さを50nm以上1000nm以下、中心面平均粗さを5nm以上60nm以下とすることができる。体積平均粒子径が0.05μm未満、又は粒子含有量が0.05質量%未満であると該層の中心面山高さは小さくなり、離型フィルムとして用いた際にピンホール欠陥の抑制に効果的であるが、中心面平均粗さを5nm以上にすることが難しくなり、製膜工程や加工工程でフィルムが接触する搬送ロールとの擦過によりキズが生じたり、ロールとして巻き取った際の巻姿が悪くなったりする場合がある。また、体積平均粒子径が2.00μmを超える粒子を用いると、中心面山高さが1000nmを超え、離型フィルムとして用いた際にピンホール欠陥の原因となる他、粒子とポリエステル樹脂との間に空洞が形成されることで粒子が脱落しやすくなり、脱落した粒子が搬送ロールに付着してキズを生じさせたり、離型フィルムとして用いた場合は被離型物の凹凸形成の原因となったりする場合がある。一方で、粒子含有量が0.50質量%を超えると易滑性は向上するが、該層に対して粒子が過多状態となり中心面平均粗さが60nmを超えて、離型フィルムとして用いた際に被離型物に凹凸を形成してしまう場合がある。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムロールのA面及び/またはB面を構成する層に含有せしめる粒子は有機粒子、無機粒子のいずれか、又は両方を用いることができる。有機粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子が好ましく、無機粒子においては、球状シリカ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムが好ましい。粒子の形状・粒子径分布については均一なものが好ましく、特に粒子形状は球形に近いものが好ましい。体積形状係数は好ましくはf=0.3~π/6であり、より好ましくはf=0.4~π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
f=V/Dm
ここでVは粒子体積(μm),Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。なお、体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6(=0.52)をとる。また、必要に応じて濾過などを行うことにより、凝集粒子や粗大粒子などを除去することが好ましい。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムロールを巻き出す際の剥離帯電の絶対値は0kV~10kVが好ましく、より好ましくは0kV~5kVである。剥離帯電が大きいと、ポリエステルフィルムに離型層を塗布する際に均一性が損なわれ、微小な凹凸を有する離型層が形成されることとなり、更にその上に塗布する誘電体シートにも、その微小凹凸が転写し、最終製品としての歩留まり低下を引き起こすこととなる。
【0026】
次に、本発明のポリエステルフィルムロールの製造方法について、ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレートを用いて説明する。
【0027】
本発明のフィルムの主成分を構成するポリエチレンテレフタレートに粒子を含有せしめる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに粒子を所定割合にてスラリーとして分散せしめ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加することで、粒子の分散性が良好になり粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の製造に有効である。
【0028】
このようにして、各層のために準備した、粒子含有マスターペレットと粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給する。本発明のポリエステルフィルムロールの製造における押出機は、1軸、2軸の押出機を用いることができる。ペレットの乾燥工程を省くために、押出機に真空引きラインを設けたベント式押出機を用いることもできる。また、最も押出量が多くなる層には、ペレットを溶融する機能と溶融したペレットを一定温度に保つ機能をそれぞれの押出機で分担する、いわゆるタンデム押出機を用いることができる。本発明のポリエステルフィルムロールにおけるA面及びB面を構成する層は、2軸式ベント式押出機を用いることが、粒子の分散性を良好に保てるので好ましい。
【0029】
押出機で溶融して押し出したポリマーは、フィルターにより濾過する。極小さな異物もフィルム中に入ると粗大突起欠陥となるため、例えば3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度なフィルターを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、2層構成の場合は2台の押出機、2層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば短形合流部を有する合流ブロック)を用いて2層に積層し、異種3層構成の場合は3台の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロックを用いて3層に積層し、口金からシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化及び厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置することが好ましい。
【0030】
延伸方法は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸はロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱斑を抑制し、均一な品質が得られると共に、延伸時にロール延伸に伴うフィルムとロールとの接触場所での速度差、ロールの微少傷の転写による傷の発生を抑制できる点で好ましく、逐次二軸延伸は長手方向と幅方向の特性を個別に細かく制御できる点で好ましい。
【0031】
以下では逐次二軸延伸を例に延伸方法を説明する。上記から得られた未延伸フィルムを、まず長手方向及び幅方向に延伸温度をポリエステル樹脂のガラス転移温度+1℃以上ガラス転移温度+60℃以下、好ましくはガラス転移温度+1℃以上ガラス転移温度+50℃以下として長手方向に2.5倍以上5.0倍以下延伸する。延伸温度がガラス転移温度+1℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度がガラス転移温度+60℃よりも高くなると十分な強度が得られない傾向がある。幅方向の延伸温度はガラス転移温度+20℃以上ガラス転移温度+50℃以下、好ましくはガラス転移温度+20℃以上ガラス転移温度+45℃以下である。幅方向の延伸倍率は2.5倍以上5.0倍以下であることが好ましい。また、長手方向・幅方向の面積延伸倍率(長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率の積)は、12倍以上36倍以下が好ましく、13倍以上35倍以下がより好ましく、16倍以上30倍以下が更に好ましい。かかる範囲とすることで、十分な強度を維持したまま、安定してフィルムを製造することができる。長手方向・幅方向に延伸した後、ガラス転移温度+130℃以上ガラス転移温度+170℃以下、好ましくはガラス転移温度+140℃以上ガラス転移温度+170℃以下で0.5秒以上20秒以下、好ましくは1.0秒以上15秒以下熱固定を行う。熱固定温度がガラス転移温度+130℃よりも低いとフィルムの熱結晶化が進まないため寸法変化率などが安定しにくい傾向がある。また、フィルム上下の温度差は20℃以下、好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下であるとフィルム物性の安定化の点で好ましい。フィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、熱固定時に微小な平面性の悪化を引き起こしやすい傾向にある。その後、長手方向及び/または幅方向に0.5%以上7.0%以下の弛緩処理を施す。ポリエチレンテレフタレートを具体例にすると、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は一般的に70℃であるため、長手方向の延伸温度が71℃以上130℃以下、幅方向の延伸温度が90℃以上120℃以下、熱固定温度が200℃以上240℃以下である。段階的に延伸する場合であっても同範囲の条件であればよく、その手法としては、長手方向に延伸した後幅方向に延伸し再度長手方向に延伸し必要に応じて再度幅方向に延伸する方法や、長手方向に延伸した後再度長手方向に延伸し幅方向に延伸する方法などが挙げられる。
【0032】
逐次二軸延伸において、長手方向の延伸過程は、フィルムとロールが接触し、ロールの周速とフィルムの速度差による傷が発生しやすい工程につき、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。長手方向の延伸過程において、搬送ロールの材質は、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上に加熱するか、ガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱するかにより選択される。本発明のポリエステルフィルムロールの中心面山高さの最大値と最小値の差が100nm以下を達成するためには延伸時のフィルム温度の幅方向の均一性が重要となるので、前者の手法の方が好ましい。延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上まで加熱する際は、加熱による粘着を防止する上で、非粘着性シリコーンロール、セラミックス、テフロン(登録商標)から選択できる。また、延伸ロールは最もフィルムに負荷がかかり、該プロセスで傷や延伸斑が発生しやすい工程につき、延伸ロールの算術平均粗さRaは、0.005μm以上1.000μm以下、好ましくは0.100μm以上0.600μm以下である。Raが1.000μmよりも大きいと延伸時ロール表面の凹凸がフィルム表面に転写するため好ましくなく、0.005μmよりも小さいとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルムが熱ダメージを受けやすくなる傾向がある。表面粗さを制御するためには研磨剤の粒度、研磨回数などを適宜調整することが有効である。未延伸フィルムをガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱する際、予熱ゾーンの搬送ロールは、ハードクロムやタングステンカーバイドで表面処理を行った、Raが0.200μm以上0.600μm以下の金属ロールを使用するのが好ましい。
【0033】
熱固定後のフィルムは、例えば中間冷却ゾーンや徐冷ゾーンを設け、寸法変化率や平面性を調整することができる。特に、長手方向及び幅方向の80~140℃における熱膨張係数がいずれも-100ppm/℃以上100ppm/℃以下を達成するには、中間冷却ゾーンや徐冷ゾーンに角度変更機構を持つ遮蔽板を上下に設けるなどして熱固定ゾーンの高温が漏れないよう、かつ、逆流しないように調整することが有効である。また、80~140℃の温度領域において、縦方向及び/または横方向に弛緩することも効果的である。
【0034】
二軸延伸後のフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻取ることで、本発明のポリエステルフィルムロールが得られる。この搬送工程にて、フィルムの厚みを測定し、該データをフィードバックしてダイ厚みなどの調整によってフィルム厚みの調整を行い、また、欠点検出器による異物検知を行う。エッジの切断時には、切粉の発生を抑制することが好ましい。エッジの切断は丸刃、シェア刃、ストレート刃のいずれを使用して行うことも可能であるが、ストレート刃を用いる場合は、刃がフィルムに当たる箇所を常に同じ箇所にさせないことが刃の摩耗を抑制できるため好ましい。更に刃はオシレーションする機構を有することが好ましい。また、フィルム切断箇所に吸引装置を設けて、発生した切り粉や切断後のフィルム端部同士が削れて発生する削れ粉を吸引することも効果的である。
【0035】
また、得られた本発明のポリエステルフィルムロールを適切な幅・長さにスリットして本発明のポリエステルフィルムロールとして巻き取ることも可能である。
【実施例0036】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0037】
[特性の評価方法]
(1)長手方向及び幅方向の熱膨張係数
ポリエステルフィルムロールの幅方向に対して50%の位置を中心位置として、測定方向を長手とした40mm×5mmの試料を切り出し、株式会社池田理化製の熱伸縮測定装置(TM9300)を用いて以下の条件でフィルムの伸縮を測定する。
【0038】
昇温速度:10℃/分
測定範囲:30~190℃
測定雰囲気:窒素
荷重:5g(幅方向測定時)、50g(長手方向測定時)
チャック間距離:20.00mm
測定間隔:1秒
温度T℃の時のフィルム長さをL(T)mm、温度T-10℃の時のフィルム長さをL(T-10)として、温度T℃の時の熱膨脹係数(ppm/℃)を以下の式より求めた。
【0039】
熱膨脹係数(ppm/℃)=(ΔL/ΔT)÷L(T-10)×10
ここで、
ΔL=L(T)-L(T-10)
ΔT=T-(T-10)=10
長手方向及び幅方向の測定結果に対して80~140℃の区間について、1℃毎に上記式を用いて熱膨張係数を求めた。
【0040】
(2)フィルム表面の中心面山高さ(SRp)及び中心面平均粗さ(SRa)
ポリエステルフィルムロールの中央部と両端部の3箇所から切り出した試料の両面を測定する。ここで中央部はポリエステルフィルムロール全幅に対して50%の位置、両端部はポリエステルフィルムロール全幅に対して6.3%及び93.7%の位置を中心として、試料を切り出したことを示す。株式会社小坂研究所製の三次元微細表面形状測定器(ET4000AK)を用いて以下の条件で測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、JIS-B0601に準じ3次元に拡張した中心面山高さ及び中心面平均粗さを求める。これを各試料それぞれの各面について5回繰り返し、各試料における同一面側での計15点測定の平均値を算出し、中心面山高さ及び中心面平均粗さとした。また、切り出した各試料における同一面側で計5点測定の平均値を算出し、同一面側における中心面山高さ平均値の最大値と最小値の差を求めた。なお、各試料各面における5回測定は、試料中央を0mmとして幅方向に対して±20mm、40mm位置で行う。
X方向測定長さ:0.5mm
X方向送り速度:0.1mm/秒。
Y方向送りピッチ:5μm
Y方向測定本数:80本。
カットオフ:0.25mm。
触針圧:0.1mN。
【0041】
(3)ポリエステルフィルムの厚み
ポリエステルフィルムロールから長手方向は5cm以上の任意の長さ、幅方向はポリエステルフィルムロール幅と同一の長さのフィルムを5枚重ねで切り出した試料を用いて測定する。ソニー株式会社製のデジタルマイクロメータ(μ-mate)を用いて幅方向に等間隔な10箇所の厚みを測定する。その平均値を5で除してポリエステルフィルム1枚当たりの厚みを求めた。
【0042】
(4)A面及び/またはB面を構成する層に含有される粒子の体積平均粒子径
ポリエステルフィルムロールからサンプリングしたフィルム片からプラズマ低温灰化処理法でポリエステルを除去して粒子を露出させる。ポリエステルは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択する。その粒子を株式会社日立製作所製走査型電子顕微鏡(FE-SEM)S-4000型で観察し、粒子画像を株式会社ニレコ製イメージングアナライザLUZEX_APに取り込み、等価円相当径を求める。SEMの倍率は粒子径により5,000~20,000倍から適宜選択する。任意に観察箇所を変えて、少なくとも5,000個の粒子で粒子径の等価円相当径を測定して体積平均粒径を求めた。
【0043】
(5)A面及び/またはB面を構成する層の粒子含有量
各層を形成する押出機へ供給したポリエステルへの粒子配合量から算出した。
なお、以下の方法に従ってポリエステルフィルムを分析することにより各層の粒子含有量を算出することもできる。A(B)層の表面を片刃で削り取り、削れ粉100gにo―クロロフェノールを加え、攪拌しながら100℃で1時間かけてポリマーを溶解する。次いで株式会社日立製作所製分離用超遠心機40P型にローターRP30を装備し、セル1個当たりに上記溶解液30mLを注入した後、徐々に加速して30,000rpmにする。30,000rpmに到達してから60分後に遠心を終了する。次いで上澄み液を除去し分離粒子を採取する。採取した該粒子に常温のo―クロロフェノールを加えて均一懸濁した後、超遠心分離操作を行う。この操作を後述の分離粒子を示差走査熱量測定装置で測定した際にポリマーに相当する融解ピークが検出されなくなるまで繰り返す。このようにして得た分離粒子を120℃で16時間真空乾燥した後、測定した質量を粒子の総含有量とし、A(B)層の粒子含有量を求めた。
【0044】
(6)巻き姿
フィルムロールの端側面の凹凸をフィルムロールの側面上部から観測する。測定は、フィルムロールの端側面の中心部から端部にむけてスケールを当てて、フィルムロールの最表層からスケールのメモリを測定し、その長さを凹凸の変化量とし、巻き姿を評価した。
A:凹凸なし(0.1mm未満)。
B:凹凸が0.1mm以上1.0mm未満。
C:凹凸が1.0mm以上3.0mm未満。
D:凹凸が3.0mm以上ある。
【0045】
(7)キズの評価
以下の要領で蛍光灯下及び投光器下で長さ10mに渡ってポリエステルフィルムロールから繰り出したフィルム全幅を目視検査する。
蛍光灯下:700Lux以上の照度の蛍光灯下で反射及び透過にてキズを検査。
投光器下:700Lux以上の照度の投光器下で反射及び透過にてキズを検査。
A:長さ0.5mm、または、高低差0.5μmを超えるキズが無い。
B:Aに該当せず、長さ3.0mm、または、高低差1.0μmを超えるキズが無い。
C:A、○に該当せず、長さ5.0mm、または、高低差1.5μmを超えるキズが無い
D:長さ5.0mm、または、高低差1.5μmを超えるキズがある。
【0046】
(8)ピンホール欠陥の個数および凹凸個数
離型フィルムの上に成型された誘電体シートついて、背面から1,000ルクスのバックライトユニットで照らしながら塗布抜けによるピンホール、或いは離型フィルムの凹凸形状転写による凹み状態を観察する。観察する領域は長さ500mm幅500mmである。
A:ピンホールも凹みも無い。
B:ピンホールは無く、凹みが1個以上2個以下認められる。
C:ピンホールは無く、凹みが3個以上4個以下認められる
D:ピンホールが有るか、凹みが5個以上認められる。
【0047】
(9)剥離後の誘電体シートの微小凹凸
離型フィルムから剥がした誘電体シートの離型フィルムと接していた面を顕微鏡(倍率50倍)で観察、1cm四方あたりの凹みの数をカウントし、次の4段階で評価した。
A:凹み無し。
B:凹みが1個認められる。
C:凹みが2個認められる
D:凹みが3個以上認められる。
【0048】
実施例および比較例では、以下のようにして作製したポリエステルペレットを用いて二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0049】
[実施例1、2、3]
(1)ポリエステルペレットの作製
(ポリエステルペレットAの作製)
テレフタル酸86.5質量部とエチレングリコール37.1質量部を255℃で、水を溜出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチル燐酸0.02質量部、酢酸マグネシウム0.0600質量部、酢酸リチウム0.0100質量部、三酸化アンチモン0.0085質量部を添加し、引き続いて、減圧下、290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.63dl/gのポリエステルペレットAを得た。
(ポリエステルペレットBの作製)
シード法によるジビニルベンゼン80質量%、エチルビニルベンゼン15質量%、スチレン5質量%からなる体積平均粒径0.8μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子(架橋度80%)の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないホモポリエステルペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒径0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルに対し2.0質量%含有するポリエステルペレットBを得た。
【0050】
(2)ポリエステルペレットの調合
各層の押出機に供給するポリエステルペレットは、各層に含有する粒子量が表に記載の比率になるよう調合した。なお以下に記載する比率は、各々の層を構成するポリエステル樹脂全体に対する質量比(単位:質量%)である。
【0051】
(3)ポリエステルフィルムロールの製造
以下ではA面を構成する層をA層、B面を構成する層をB層と記載する。
A層及びB層を構成するために、上記で得られたポリエステルペレットA及びポリエステルペレットBをポリエステルペレットA:ポリエステルペレットB=92.5:7.5(質量比)の割合で混合して160℃で8時間減圧乾燥した後押出機1へ、C層を構成するために、ポリエステルペレットAを160℃で8時間減圧乾燥した後押出機2へ供給した。押出機1及び2では275℃でポリエステルペレットを溶融し、押出された溶融ポリマーはフィルターで高精度濾過した。押出機1から押し出された溶融ポリマーは高精度濾過後にA層とB層を形成するために流路を二手に分離し、C層の一方の面にA層が、もう一方の面にB層が積層されるように矩形の3層用合流ブロックでA/C/Bの3層積層とした。この時、最終フィルムの厚みがA層は2μm、C層は27μm、B層は2μmとなるよう押出機1及び2から吐出される溶融ポリマーの量を調整した。ここでA層とB層は同一の押出機1より供給されたポリマーであるので実質的に同一の層と見做すことができる。その後、295℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸フィルムを得た。
【0052】
この未延伸フィルムを2組ずつのロールの周速差を用いて延伸するロール式延伸機にて85℃で長手方向に4.0倍で延伸した。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の90℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に110℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向に4.2倍延伸した。得られた二軸延伸フィルムを220℃の温度で8秒間の熱固定を施し、更に160℃の温度で4.0%幅方向に弛緩処理を行った後、25℃に均一に冷却した。この時テンターの幅方向の温度斑を延伸及び熱固定工程は2%以下、冷却工程は5%以下になるように、給排気の風量を調整したり、温度の異なる空間の気体が混ざり合わないように遮蔽板を設置したりした。
【0053】
得られたポリエステルフィルムのエッジを除去し、コアに巻き取り、全体厚さ31μm、ロール幅6000mmの中間ポリエステルフィルムロールを得た。各評価の結果は表に示す。
【0054】
更に得られた中間ポリエステルフィルムロールを両端は250mmずつ耳巻き取りとし、端部から幅500mm(01位置)、1500mm(02位置)、1500mm(03位置)、1500mm(02位置)、500mm(01位置)の5本取りセットでスリットし、01位置の幅500mm及び02位置の1500mmの製品ポリエステルフィルムロールを得た。各評価の結果は表に示す。
【0055】
(4)離型層の塗布
次にスリットして得られた製品ポリエステルフィルムロールの表面粗さの低い面に、架橋プライマー層(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY24-846)を固形分1質量%に調整した塗布液を塗布/乾燥し、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、100℃で20秒乾燥硬化した。その後1時間以内に付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名LTC750A)100質量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名SRX212)2質量部を固形分5質量%に調整した塗布液を、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコートで塗布し、120℃で30秒乾燥硬化した後に巻き取り、離型フィルムロールを得た。
【0056】
(5)誘電体シートの塗布状態の評価(セラミックススラリーの塗布性)
チタン酸バリウム(富士チタン工業株式会社製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学株式会社製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが0.8μmとなるように、ダイコーターにて塗布し乾燥させ、巻き取り、誘電体シートを得た。
【0057】
上記で巻き取られた誘電体シートを、繰り出し、離型フィルムから剥がさない状態にて目視で観察し、ピンホールや凹みの有無を前述の要領にて確認した。その後、誘電体シートを離型フィルムから剥離し、凹み状態を前述の要領にて確認した。評価の結果は表に示す。
【0058】
[実施例4]
ポリエステルペレットBの製作において、ジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を体積平均粒径0.05μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子に替えて同様にポリエステルペレットCを得た。また、ポリエステルフィルムロールの製造において、ポリエステルペレットBに替えてポリエステルペレットCを用いた以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0059】
[実施例5]
ポリエステルペレットBの製作において、ジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を体積平均粒径2.00μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子に替えて同様にポリエステルペレットDを得た。また、ポリエステルフィルムロールの製造において、ポリエステルペレットBに替えてポリエステルペレットDを用い、ポリエステルペレットA:ポリエステルペレットD=95.0:5.0の割合で混合して押出機1へ供給した以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0060】
[実施例6]
ポリエステルフィルムロールの製造において、ポリエステルペレットA:ポリエステルペレットB=97.5:2.5の割合で混合して押出機1へ供給した以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0061】
[実施例7]
ポリエステルフィルムロールの製造において、ポリエステルペレットA:ポリエステルペレットB=75.0:25.0の割合で混合して押出機1へ供給した以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0062】
[実施例8]
ポリエステルフィルムロールの製造において、C層の厚みが16μmになるように押出機2から吐出される溶融ポリマーの量を調整した以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0063】
[実施例9]
ポリエステルペレットA及びポリエステルペレットBをポリエステルペレットA:ポリエステルペレットB=92.5:7.5の割合で混合して160℃で8時間減圧乾燥した後押出機1へ、また、ポリエステルペレットA及びポリエステルペレットCをポリエステルペレットA:ポリエステルペレットC=92.5:7.5の割合で混合して160℃で8時間減圧乾燥した後押出機3へ、C層を構成するために、ポリエステルペレットAを160℃で8時間減圧乾燥した後押出機2へ供給した。押出機1、2及び3では275℃でポリエステルペレットを溶融し、押出された溶融ポリマーはフィルターで高精度濾過した。押出機1から押し出された溶融ポリマーは高精度濾過後にA層へ、押出機3から押し出された溶融ポリマーは高精度濾過後にB層へ、C層の一方の面にA層が、もう一方の面にB層が積層されるように矩形の3層用合流ブロックでA/C/Bの3層積層とした。この時、最終フィルムの厚みがA層は2μm、C層は27μm、B層は2μmとなるよう押出機1、2及び3から吐出される溶融ポリマーの量を調整したこと以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0064】
[比較例1]
ポリエステルフィルムロールの製造において、テンターの幅方向の温度斑を低減するような給排気の風量の調整や遮蔽板の設置を実施しなかった以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。尚、この時の幅方向の温度斑は延伸及び熱固定工程は5%、冷却工程は20%であった。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0065】
[比較例2]
ポリエステルフィルムロールの製造において、熱固定温度を190℃とした以外は実施例1と同様にして02位置の製品ポリエステルフィルムロールを得た。また、誘電体シートを得た。各評価の結果は表に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリエステルフィルムロールは、微細なシワやキズが低減されたポリエステルフィルムロールであることから、離型フィルムとして用いた場合に凹凸やピンホールが抑制された均一な被離型物を得ることができる。特に積層セラミックコンデンサの製造工程における誘電体シート形成用の離型フィルムとして用いることで、厚み不良や欠陥のない均一な誘電体シートを得ることができ、積層セラミックコンデンサ製造の歩留まりを向上させることができる。