(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092988
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】加熱装置およびその製造方法、定着装置、並びに画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240701BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/20 515
G03G15/00 552
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216750
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2022208432
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391051256
【氏名又は名称】株式会社美和テック
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA32
2H033BA25
2H033BA26
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB08
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB33
2H033BE03
2H033CA44
2H171FA19
2H171FA26
2H171GA18
2H171JA12
2H171MA02
2H171MA18
2H171QA03
2H171QA08
2H171QA24
2H171QB03
2H171QB15
2H171QB32
2H171QC03
2H171QC37
2H171QC40
2H171SA11
2H171SA14
2H171SA18
2H171SA22
2H171SA26
2H171TB02
2H171TB03
2H171UA03
2H171UA07
2H171UA10
2H171UA22
2H171XA03
(57)【要約】
【課題】特性を向上させることができる加熱装置を提供する。
【解決手段】加熱装置は、グラフェンまたはカーボンナノチューブを導電材料として含む導電性の薄膜10と、前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極12と、を備える。加熱装置の製造方法は、グラフェンまたはカーボンナノチューブを含む導電材料とバインダーとが混合された分散液を下地材上に塗布する工程と、前記分散液を加熱することで前記下地材上に薄膜を形成する工程と、前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極を形成する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンまたはカーボンナノチューブを導電材料として含む導電性の薄膜と、
前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極と、
を備える加熱装置。
【請求項2】
前記薄膜は、前記導電材料としてグラフェンを含む請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記薄膜は、バインダーを含む請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記薄膜の厚さは5μm以上かつ160μm以下であり、前記一対の電極間の間隔は10mm以上かつ45mm以下である請求項2または3に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記一対の電極間に3V以上かつ24V以下の直流電圧または交流電圧が印加される請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記一対の電極は前記薄膜の主面には接触しない請求項1から3のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記バインダーは無機系バインダーである請求項3に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記無機系バインダーの熱分解温度は500℃以上である請求項7に記載の加熱装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の加熱装置と、
前記加熱装置の主面に設けられた絶縁フィルムと、
前記絶縁フィルムの前記加熱装置と反対の面に被定着物を押圧する押圧部と、
を備える定着装置。
【請求項10】
請求項9に記載の定着装置を含む画像形成装置。
【請求項11】
グラフェンまたはカーボンナノチューブを含む導電材料とバインダーとが混合された分散液を下地材上に塗布する工程と、
前記分散液を加熱することで前記下地材上に薄膜を形成する工程と、
前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極を形成する工程と、
を含む加熱装置の製造方法。
【請求項12】
前記バインダーは無機系バインダーである請求項11に記載の加熱装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置およびその製造方法、定着装置、並びに画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置の定着装置等には、加熱装置が用いられている。定着装置の加熱装置に、グラフェンまたはカーボンナノチューブを含むヒーターを用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱装置には、昇温速度の向上およびPCT(Positive Temperature Coefficient)特性に由来する飽和温度の向上が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、加熱装置の特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、グラフェンまたはカーボンナノチューブを導電材料として含む導電性の薄膜と、前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極と、を備える加熱装置である。
【0007】
上記構成において、前記薄膜は、前記導電材料としてグラフェンを含む構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記薄膜は、バインダーを含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記薄膜の厚さは5μm以上かつ160μm以下であり、前記一対の電極間の間隔は10mm以上かつ45mm以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記一対の電極間に3V以上かつ24V以下の直流電圧または交流電圧が印加される構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記一対の電極は前記薄膜の主面には接触しない構成とすることができる。上記構成において、前記バインダーは無機系バインダーである構成とすることができる。上記構成において、前記無機系バインダーの熱分解温度は500℃以上である構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記加熱装置と、前記加熱装置の主面に設けられた絶縁フィルムと、前記絶縁フィルムの前記加熱装置と反対の面に被定着物を押圧する押圧部と、を備える定着装置である。
【0013】
本発明は、上記定着装置を含む画像形成装置である。
【0014】
本発明は、グラフェンまたはカーボンナノチューブを含む導電材料とバインダーとが混合された分散液を下地材上に塗布する工程と、前記分散液を加熱することで前記下地材上に薄膜を形成する工程と、前記薄膜の端面のうち前記薄膜を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極を形成する工程と、を含む加熱装置の製造方法である。上記構成において、前記バインダーは無機系バインダーである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱装置の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る加熱装置の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る加熱装置の製造方法を説明する断面図である。
【
図3】
図3は、比較例1に係る加熱装置の断面図である。
【
図4】
図4(a)は、サンプルA1~E1における時間に対する温度を示す図、
図4(b)は、サンプルA2~E2における時間に対する温度を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、サンプルF1における時間に対する温度を示す図、
図5(b)は、サンプルG1における時間に対する温度を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、サンプルH1における時間に対する温度を示す図、
図6(b)は、サンプルJ1における時間に対する温度を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、サンプルK1における時間に対する温度を示す図、
図7(b)は、サンプルK2における時間に対する温度を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、サンプルL1における時間に対する温度を示す図、
図8(b)は、サンプルL2における時間に対する温度を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例3における定着装置に用いられる加熱モジュールを示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施例3における定着装置の断面図である。
【
図11】
図11は、実施例3における画像形成装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0018】
図1(a)は、実施例1に係る加熱装置の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)および
図1(b)に示すように、フィルム14の下面にコーティング層15が設けられている。フィルム14の上面に薄膜10が設けられている。フィルム14の上面において薄膜10を挟むように一対の電極12が設けられている。電極12は、薄膜10の端面に接触されている。
【0019】
薄膜10は、グラフェンまたはカーボンナノチューブ(CNT)を含む導電材料とバインダーとを含む。グラフェンは、2次元的に電気伝導性を有し、例えば高純度黒鉛を水中において剥離することにより作製できる。グラフェンは、単層でもよく複数層でもよい。薄膜10には、例えば1層~100層のグラフェンを用いてもよいし、10層~50層のグラフェンを用いてもよい。CNTは、六員環の炭素原子がチューブ状に配列されており、1次元的に電気伝導性を有する。CNTは単層でもよいし複数層でもよい。
【0020】
バインダーは、有機絶縁体または無機絶縁体であり、例えば樹脂である。バインダーとして、例えばセルロース系バインダーを用いることができる。セルロース系バインダーとして、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロースなどを用いることができる。薄膜10がバインダーを含む場合、グラフェンまたはCNTとバインダーとの重量比は例えば1:10~10:1であり、例えば1:5~5:1である。
【0021】
電極12は、銅層または金層などの金属層である。フィルム14は、耐熱性を有する絶縁フィルムであり、例えば樹脂フィルムである。耐熱性樹脂フィルムの材料としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリエーテルイミドを用いることができる。フィルム14等のシートの材料としては、ポリテトラフルオロエチレン多孔質繊維、ポリテトラフルオロエチレン含浸ガラス繊維不織布、アラミド繊維不織布、またはセラミック繊維を用いてもよい。コーティング層15は、耐熱性を有する絶縁層であり、フィルム14と同様の材料を用いることができる。コーティング層15は設けられていなくてもよい。
【0022】
<製造方法>
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る加熱装置の製造方法の工程を説明する断面図である。
図2(a)に示すように、フィルム14を準備する。フィルム14の下面には、コーティング層15が設けられていてもよい。
図2(b)に示すように、フィルム14上に電極12を形成する。電極12の形成方法としては、例えばフィルム14上に金属箔(例えば銅箔)を貼り付ける。電極12の形成にはめっき法などの他の方法を用いてもよい。
【0023】
図2(c)に示すように、電極12間にグラフェンまたはCNTを分散させた分散液11を塗布する。分散液11の溶媒は、例えば水または有機溶媒である。有機溶媒は、例えばメタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド)、N-メチルピロリドンもしくはジメチルスルホキシドまたはこれらの混合液である。分散液11にはバインダーを含むことが好ましい。例えば分散液11はペースト状になるまで濃縮されている。分散液11の塗布方法としては、例えばスクリーン印刷法を用いる。分散液11の塗布にはスプレーコート法などの他の方法を用いてもよい。
図2(d)に示すように、分散液11を加熱することで、分散液11を焼成する。これにより、薄膜10が形成される。分散液11の加熱温度は、例えば100°~250℃である。加熱温度は、分散液11が焼成される温度かつバインダーおよびフィルム14が焼失しない温度に設定される。
【0024】
<実験>
実施例1および比較例1の加熱装置を作製し、加熱特性を測定した。
図3は、比較例1に係る加熱装置の断面図である。
図3に示すように、比較例1では、薄膜10がフィルム14の上面全体に設けられ、電極12は薄膜10上に設けられている。
【0025】
実施例1および比較例1の加熱装置は、以下のように作製した。
図2(a)において、下面にコーティング層15が形成されたフィルム14を準備した。フィルム14は、ポリイミド(PI)フィルムであり、厚さT4が125μmであり、幅W4が65mm、長さL4が90mmである。フィルム14の下面にコーティング層15(
図1(b)参照)が設けられている。コーティング層15は、厚さが1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層である。
【0026】
図2(b)において、フィルム14上に、厚さT2が70μm、幅W2が10mm、長さL4が90mmの銅箔を電極12として貼り付けた。貼り付けには耐熱性接着剤を用いた。電極12の間隔D0を所望の間隔とした。
【0027】
図2(c)において、高純度の黒鉛から水中で剥離した30層のグラフェンが溶媒として水に分散されている分散液11を作製した。分散液11には、バインダーとしてセルロース系材料を分散させた。分散液11におけるグラフェンの固形分の濃度は2.5質量%~3.5質量%とし、分散液11におけるバインダーの固形分の濃度は0.75質量%~1.5質量%とした。分散液11を濃縮率(すなわち、濃縮前の固形分の濃度/濃縮後の固形分の濃度)が50%~70%となるように濃縮した。これにより、分散液11はペースト状となる。濃縮したペースト状の分散液11をせん断および分散処理することで、粘度が110~130Pa・sのペーストを作製した。作製したペーストである分散液11を、スクリーン印刷法を用い電極12間のフィルム14上に塗布した。
【0028】
図2(d)において、分散液11を加熱温度が100℃または200℃かつ加熱時間30分の条件で加熱した。これにより、分散液11が焼成し薄膜10が形成された。比較例1も同様の方法を用い作製した。
【0029】
表1は、作製した実施例1のサンプルを示す表である。
【表1】
【0030】
表2は、作製した比較例1のサンプルを示す表である。
【表2】
【0031】
表1および2において、厚さT0は薄膜10の厚さを、間隔D0は、電極12の間隔を示している。表面抵抗率は四探針法(JIS(日本工業規格)K7194)を用い5点測定した平均値である。日東精工アナリテック社製ロレスタ-AXを用い、直列4探針を薄膜10の表面に当接して、定電圧として10Vを印加して、表面抵抗率を測定した。電極間抵抗は、電極12間の抵抗であり、5点の平均である。電極間抵抗の単位は、電極12の長さL2として単位長さ(すなわち1cm)あたりである。日置電機社製デジタルマルチメーターDT4281を用い、2本の電極プローブを電極12に当接して、定電圧として6Vを印加して、電極間抵抗を測定した。表1および表2のサンプルは
図2(d)の加熱温度を100℃とした。
【0032】
表1のA1~E1と表2のA2~E2とでは、薄膜10の厚さT0の目標とする厚さを同じとし、電極12間の間隔D0をほぼ同じとしている。サンプルA1とA2では、厚さT0はほぼ40μmであり、間隔D0はほぼ45mmである。サンプルB1、B2、C1およびC2では、厚さT0はほぼ5μmである。サンプルB1およびB2では、間隔D0はほぼ10mmであり、サンプルC1およびC2では、間隔D0はほぼ20mmである。サンプルD1、D2、E1およびE2では、厚さT0はほぼ10μmである。サンプルD1およびD2では、間隔D0はほぼ10mmであり、サンプルE1およびE2では、間隔D0はほぼ20mmである。
【0033】
表面抵抗率は、厚さT0が大きくなると低くなる。電極間抵抗は、厚さT0が大きくなると低くなり、間隔D0が大きくなると高くなる。サンプルA1~E1は、サンプルA2~E2より表面抵抗率および電極間抵抗が若干高い。これは、実施例1と比較例1とでは、製造方法が異なることなどが影響していると考えられる。
【0034】
サンプルA1~E1およびA2~E2について、電極12間に一定の電圧を印加し、電圧印加した時点からの時間に対する温度を測定した。温度の測定箇所は、電極12間の中心のコーティング層15の下面であり、
図1(b)および
図3の箇所50である。温度の測定はフリアーシステムズ社製のサーモグラフィ(FLIR C5)およびキーエンス社製の計測器(NR-1000)を用いた。サンプルA1~E1およびA2~E2にDC(直流)12Vを印加した。サンプルA1およびA2については、電極12間にDC24Vを印加する測定も行った。
【0035】
図4(a)は、サンプルA1~E1における時間に対する温度を示す図、
図4(b)は、サンプルA2~E2における時間に対する温度を示す図である。温度は時間とともに上昇し、飽和する。温度が飽和したときの温度が飽和温度であり、電圧印加直後の温度に対する時間が昇温速度である。サンプルB1とC1との比較、サンプルD1とE1との比較より、同じ厚さT0では、間隔D0が小さい方が飽和温度は高く、かつ昇温速度が速い。サンプルB1とD1との比較、サンプルC1とE1との比較より、同じ間隔D0では、厚さT0が大きい方が飽和温度は高く、かつ昇温速度が速い。これは、飽和温度が高くかつ昇温速度が速くなる傾向は、電極間抵抗が低くなる傾向と同じである。サンプルB2~E2においてもサンプルB1~E1と同様の傾向である。サンプルA1のAC12Vと24Vとの比較のように、同じサンプルでは、印加電圧が高い方が飽和温度は高くかつ昇温速度が速い。サンプルA2においてもサンプルA1と同様の傾向である。
【0036】
サンプルA1~E1とサンプルA2~E2とを比較すると、同じ条件では、サンプルA1~E1の方がサンプルA2~E2より飽和温度が高くかつ昇温速度が速い。
【0037】
サンプルA1~E1内の比較、サンプルA2~E2内の比較では、電極間抵抗が低い傾向にあるサンプルは、飽和温度が高くかつ昇温速度が速い。しかし、サンプルA1~E1とサンプルA2~E2との比較では、電極間抵抗が高いサンプルA1~E1の方がサンプルA2~E2より飽和温度が高くかつ昇温速度が速い。このように、サンプルA1~E1内の傾向およびサンプルA2~E2内の傾向と、サンプルA1~E1とサンプルA2~E2との傾向と、は一致しない。
【0038】
このように、サンプルA1~E1とサンプルA2~E2との違いは、電極12と薄膜10との接触抵抗に起因しているのではないかと考えられる。電極12と薄膜10との接触面積は、サンプルA1~E1では、厚さT0×長さL2である。サンプルA2~E2では、幅W2×長さL2である。厚さT0は、5μm~45μmであり、幅W2は10mmである。よって、電極12と薄膜10との接触面積はサンプルA2~E2の方がサンプルA1~E1より大きい。この考察では、電極12と薄膜10との接触抵抗もサンプルA2~E2の方がサンプルA1~E1より低くなるとも考えられる。
【0039】
グラフェンは、2次元的に電気伝導性を有する。グラフェンを含む薄膜10では、薄膜10の主面(上面および下面)の面方向の導電率が厚さ方向の導電率より高いと考えられる。このため、サンプルA1~E1のように薄膜10の端面に電極12を接触させると、サンプルA2~E2のように薄膜10の上面に電極12を接触した場合より接触抵抗が低いのではないかと考えられる。これにより、サンプルA1~E1では、実質的に薄膜10内を流れる電流がサンプルA2~E2より大きくなり、飽和温度が高くかつ昇温速度が速くなったのではないかと考えられる。
【0040】
表3は、作製した実施例1のサンプルを示す表である。
図2(d)の加熱温度を200℃としている。
【表3】
【0041】
サンプルF1とG1では、厚さT0はほぼ30μmであり、間隔D0はほぼ45mmである。サンプルH1では、厚さT0はほぼ10μmであり、間隔D0はほぼ20mmである。サンプルJ1では、厚さT0はほぼ10μmであり、間隔D0はほぼ10mmである。
【0042】
図5(a)は、サンプルF1における時間に対する温度を示す図、
図5(b)は、サンプルG1における時間に対する温度を示す図である。
図5(a)に示すように、サンプルF1にはAC(交流)電圧として12V、18Vおよび24Vを印加した。なお、交流の電圧は実効値である。
図5(b)に示すように、サンプルG1にはDC電圧として12V、18Vおよび24Vを印加した。サンプルF1およびG1ともに、温度がバインダーの熱分解温度である約250℃を越えたところで、バインダーが焼失した。
【0043】
サンプルF1とG1とでは、飽和温度および昇温速度はほぼ同じである。より詳細には、サンプルF1はG1に比べ、飽和温度が若干高くかつ昇温速度が速い。これは、サンプルF1とG1との製造条件のばらつきにより、サンプルF1の方が表面抵抗率および電極間抵抗が若干低いためと考えられる。このように、実施例1では、交流電圧と直流電圧によらず、飽和温度を高くかつ昇温速度を速くできる。
【0044】
図6(a)は、サンプルH1における時間に対する温度を示す図、
図6(b)は、サンプルJ1における時間に対する温度を示す図である。
図6(a)に示すように、サンプルH1にはDC電圧として8V、10V、12Vおよび14Vを印加した。電圧が高くなると飽和温度が高くかつ昇温速度が速くなる。
図6(b)に示すように、サンプルJ1にはDC電圧として8Vを印加した。
【0045】
図4(a)のサンプルE1と
図6(a)のサンプルH1は、厚さT0はほぼ同じ、間隔D0はほぼ同じである。しかし、
図6(a)のDC12Vは、
図4(a)のサンプルE1のAC12Vに比べ、飽和温度が高くかつ昇温速度が速い。
図5(a)および
図5(b)のように、電圧がACかDCでは飽和温度および昇温速度にあまり影響しない。このことから、
図2(d)の薄膜10の焼成温度は100℃より200℃の方が好ましいと考えられる。なお、薄膜10の焼成温度は、バインダーの種類等により適宜選択できる。
【0046】
図6(b)のサンプルJ1では、DC8Vでも飽和温度が200℃を越えている。このように、厚さT0を10μmおよび間隔D0を10mmとすると、電極12の間に印加する電圧を8Vとしても飽和温度を200℃以上とすることができる。
【0047】
実施例1によれば、薄膜10は、グラフェン導電材料として含む導電性である。一対の電極12は、薄膜10の端面のうち薄膜10を挟み対向する一対の端面に接触する。これにより、
図4(a)のサンプルA1~E1のように、
図4(b)のサンプルA2~E2より、飽和温度を高くしかつ昇温速度を速くできる。
【0048】
薄膜10がCNTを含む場合であっても、CNTは薄膜10の主面方向の電気伝導性が高いと考えられる。よって、薄膜10がグラフェンを含む場合と同様に、飽和温度を高くしかつ昇温速度を速くできる。
【0049】
薄膜10はバインダーを含むことが好ましい。これにより、グラフェンまたはCNTを含む薄膜10を成形することができる。バインダーは例えばセルロース系バインダー等の有機バインダーである。
【0050】
飽和温度を高くかつ昇温速度を速くする観点から、薄膜10の厚さT0は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。薄膜10の厚さT0が大きいと薄膜10の成膜が難しくなる。この観点から、薄膜10の厚さT0は160μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、45μm以下がさらに好ましい。
【0051】
飽和温度を高くかつ昇温速度を速くする観点から、間隔D0は、45mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。間隔D0が小さすぎると発熱量が小さくなる。この観点から間隔D0は、5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。
【0052】
薄膜10の厚さT0は、例えば、間隔D0の1/100以下であり、1/1000以下である。また、厚さT0は、例えば、間隔D0の1/10000以上である。
【0053】
電極12の間に印加される電圧は交流電圧でも直流電圧でもよい。飽和温度を高くかつ昇温速度を速くする観点から、電極12の間に印加される電圧は、3V以上が好ましく、5V以上がより好ましい。消費電力を低減する観点から、電極12の間に印加される電圧は、24V以上が好ましく、10V以上がより好ましい。
【0054】
電極12が薄膜10の主面に接触すると、電極12間の間隔D0を制御することが難しくなる。よって、一対の電極12は薄膜10の主面には接触しないことが好ましい。
【0055】
実施例1の製造方法では、
図2(c)のように、グラフェンまたはカーボンナノチューブを含む導電材料とバインダーとが混合された分散液11をフィルム14(下地材)上に塗布する。
図2(d)のように、分散液11を加熱することでフィルム14上に薄膜10を形成する。
図2(b)のように、薄膜10の端面のうち薄膜10を挟み対向する一対の端面に接触する一対の電極12を形成する。これにより、薄膜10内のグラフェンまたはCNTは薄膜10の主面の方向に高伝導となり、薄膜10の端面における電極12との接触抵抗を低くできる。
実施例2は、薄膜10に含まれるバインダーを無機系のバインダーとした例である。無機系のバインダーとは例えばシリカ系の無機バインダーである。バインダーの溶媒は、水およびアルコールである。アルコールとは例えばメタノールおよびエタノールなどである。無機系バインダーの熱分解温度は有機系バインダーより高く、例えば650℃以上である。無機系バインダーとして、シリカ系バインダー以外に例えばセラミック、ガラス、セラミック繊維、金属粉、または耐火微粉末を混合したバインダーを用いてもよい。バインダー以外の構成は実施例1と同じである。
製造方法において、分散液11は、グラフェンまたはCNTを含み、かつ無機系バインダーを含む。分散液の溶媒は水および有機溶媒である。実施例1と同様に、分散液11をフィルム14上に塗布する。分散液11を加熱し、焼成することで、薄膜10が形成される。無機系バインダーを使用する場合の焼成温度は、有機系バインダーを使用する場合の焼成温度より低くてもよい。焼成温度は例えば100℃以下である。
分散液11は、溶媒、グラフェン、非イオン系分散剤、無機系バインダーを含む。無機系バインダーはシリカ系のバインダーである。バインダーの溶媒は水およびメタノールである。バインダーの熱分解温度は650℃である。分散液11におけるカーボンの濃度は約2.5wt%である。バインダーの固形分の濃度は約4.0wt%である。焼成温度は100℃以下である。加熱時間は30分である。
表4のサンプルK1において、薄膜10の厚さT0は12μmであり、電極12間の間隔D0は45mmである。サンプルL1において、厚さT0は14μmであり、間隔D0は20mmである。表5のサンプルK2において、厚さT0は12μmであり、間隔D0は45mmである。サンプルL2において、厚さT0は13μmであり、間隔D0は20mmである。各サンプルにおける厚さT0および間隔D0は平均値である。
サンプルK1の表面抵抗率は16.0Ω/□であり、電極間抵抗は3.5Ω/cmである。サンプルL1の表面抵抗率は17.6Ω/□であり、電極間抵抗は3.9Ω/cmである。サンプルK2の表面抵抗率は19.9Ω/□であり、電極間抵抗は4.4Ω/cmである。サンプルL1の表面抵抗率は17.1Ω/□であり、電極間抵抗は3.8Ω/cmである。
サンプルの電極12間に一定の電圧を印加し、時間に対する温度を測定した。温度の測定装置はサンプルA1などの測定で使用したものと同じである。サンプルK1およびK2に、DC3V、5V、12V、18V、および24Vを印加した。サンプルL1およびL2に、DC3V、5V、12V、および18Vを印加した。
有機系バインダーを使用した場合、温度が200℃以上まで上昇すると、火花、煙、および突入電流が発生することがある。温度上昇によって有機系のバインダーが昇華し、薄膜10にカーボンが残留する。バインダーの昇華により薄膜10の電気抵抗が急激に低下し、大電流が流れることで、火花等が発生するものと考えられる。
無機系バインダーを使用したサンプルK1~L2では、温度が上昇しても、火花等は発生しなかった。温度が200℃以上に上昇してもPCT特性が得られた。無機系バインダーの熱分解温度は650℃以上であり、無機系バインダーは昇華しにくい。薄膜10の電気抵抗の急激な変化が抑制されたと考えられる。
サンプルK1とサンプルK2との間で比較すると、同一の電圧ではサンプルK1の方が昇温速度は大きく、かつ飽和温度が高い。サンプルL1とサンプルL2との間で比較すると、同一の電圧ではサンプルL1の方が昇温速度は大きく、かつ飽和温度が高い。サンプルK1の表面抵抗率および電極間抵抗はサンプルK2より低い。一方、サンプルL1の表面抵抗率および電極間抵抗はサンプルL2より高い。上記のように、サンプルK1およびL1において昇温速度および飽和温度が高くなる。こうしたサンプルK1およびL1とサンプルK2およびL2との違いは、電極12と薄膜10との接触抵抗に起因していると考えられる。サンプルK1およびL1における接触抵抗は、サンプルK2およびL2の接触抵抗よりも低いと考えられる。サンプルK1およびL1の薄膜10に流れる電流が、サンプルK2およびL2より大きくなったものと考えられる。サンプルL1およびL2に18Vを印加して数秒後に、温度が400℃を越えた。温度が測定範囲外であるため、測定を中止した。
実施例2によれば、薄膜10のバインダーは無機系バインダーである。無機系バインダーの熱分解温度は有機系バインダーの熱分解温度より高い。したがって、薄膜10の温度が上昇しても無機系バインダーは分解しにくく、薄膜10の電気抵抗が変化しにくい。例えば200℃以上の温度においても、火花等の発生は抑制され、PCT特性が得られる。無機系バインダーは例えばシリカ系のバインダーなどである。
無機系バインダーの熱分解温度は、例えば500℃以上、600℃以上、650℃以上、700℃以上、800℃以上などである。温度が上昇してもバインダーが分解しにくく、例えば400℃程度までPCT特性を得ることができる。
有機系バインダーの熱分解温度は無機系バインダーの熱分解温度より低い。例えば200℃以上で有機系バインダーが分解する。使用時の有機系バインダーの昇華を抑制するため、分解液11の焼成温度を例えば250℃以上とすることで、有機系バインダーをあらかじめ昇華させることができる。使用中に温度が上昇しても、電気抵抗が急激に変化しにくい。しかし、高い焼成温度にも耐えるように、フィルム14に耐熱性の高いものを選ぶことになる。フィルム14の選択の自由度が低くなる。実施例2によれば、無機系バインダーを用いるため、焼成温度を高めなくてよく、100℃以下とすることができる。フィルム14の選択の自由度が高くなる。