(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009299
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】管継手離脱防止構造
(51)【国際特許分類】
F16L 21/08 20060101AFI20240112BHJP
F16L 21/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16L21/08 B
F16L21/02 D
F16L21/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201071
(22)【出願日】2023-11-28
(62)【分割の表示】P 2018228468の分割
【原出願日】2018-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000105556
【氏名又は名称】コスモ工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】小形 敏彦
(57)【要約】
【課題】管径に関わらず安定的且つ高い離脱防止力を生じることのできる管継手離脱防止構造を提供する。
【解決手段】流体管2の受口部2aと、受口部2aに密封状態で挿入された他の流体管3の挿口部3aとからなる管継手に外嵌され、該管継手の離脱を防止する管継手離脱防止構造であって、挿口部の外周面3bに形成された側壁部10aと、側壁部10aに管軸方向に係止されるロックリング15と、ロックリング15を収容するとともに挿口部3aに外嵌され、周方向に分割構造を有する挿口側部材13と、受口部2aに管軸方向に係止される係止部21を有し受口部2aに外嵌され、周方向に分割構造を有する受口側部材12と、挿口側部材13と受口側部材12とを管軸方向に連結する連結部材14と、を少なくとも備え、係止部21は、受口部2aと挿口部3aとを接続する接続具8を周方向に避けて、且つ接続具8よりも管軸方向に突設されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管の受口部と、該受口部に密封状態で挿入された他の流体管の挿口部とからなる管継手に外嵌され、該管継手の離脱を防止する管継手離脱防止構造であって、
前記挿口部の外周面に形成された側壁部と、該側壁部に管軸方向に係止されるロックリングと、該ロックリングを収容するとともに前記挿口部に外嵌され、周方向に分割構造を有する挿口側部材と、前記受口部に管軸方向に係止される係止部を有し該受口部に外嵌され、周方向に分割構造を有する受口側部材と、前記挿口側部材と前記受口側部材とを管軸方向に連結する連結部材と、を少なくとも備え、前記係止部は、前記受口部と前記挿口部とを接続する接続具を周方向に避けて、且つ該接続具よりも管軸方向に突設されていることを特徴とする管継手離脱防止構造。
【請求項2】
前記接続具は周方向に複数設けられ、前記係止部は複数の前記接続具の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の管継手離脱防止構造。
【請求項3】
前記接続具はT頭ボルト及びナットから構成されており、前記T頭ボルトの頭部が前記受口部と前記受口側部材との間に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の管継手離脱防止構造。
【請求項4】
前記係止部は、前記連結部材よりも内径側に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の管継手離脱防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管の受口部と、この受口部に密封状態で挿入された他の流体管の挿口部とからなる管継手の離脱を防止する管継手離脱防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流体管路には、流体管の受口部に他の流体管の挿口部を密封状に挿入することで、これら流体管の端部同士に管継手が構成されるものがある。このような管継手は、密封部材の摩擦力等により一定程度の外力に対し離脱防止されているものの、流体管路に不測の地震や不等沈下等の大きな外力が作用した場合に、管継手を構成する受口部と挿口部とが管軸方向に離脱する虞が生じる。既設の管継手には予め十分な耐震構造が施されていないものも存在することから、このような管継手に対し補強的に離脱防止具を外嵌することで抜け出しを防止するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるように、挿口部を外嵌しロック部材を収容した環状体と、受口部を外嵌した環状体とをねじ棒及びナットで連結することで、これら受口部と挿口部とが離間する方向の外力が作用した場合に、この外力を利用してロック部材を挿口部の外周面に食い込ませて、離脱を防止する構造のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-122456号公報(第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の離脱防止構造にあっては、管継手の離脱方向に外力が作用した場合に、挿口部を外嵌した環状体の内部に収容されたロック部材の内径端に形成された楔状の刃部が挿口部の外周面に内径方向に食い込むことで、管継手の離脱を防止する構造であるため、挿口部の管壁に局所的且つ大きな負荷が掛かるという問題がある。
【0006】
特に、例えば幹線の水道管など大口径の流体管にあっては、その管径に比例する抜け出し力に抗する大きな離脱防止力を要するうえに、その管径に対して管厚が相対的に小さいことから、ロック部材の食い込みに大口径管が耐えられずに破損する虞がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、管径に関わらず安定的且つ高い離脱防止力を生じることのできる管継手離脱防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の管継手離脱防止構造は、
流体管の受口部と、該受口部に密封状態で挿入された他の流体管の挿口部とからなる管継手に外嵌され、該管継手の離脱を防止する管継手離脱防止構造であって、
前記挿口部の外周面に形成された側壁部と、該側壁部に管軸方向に係止されるロックリングと、該ロックリングを収容するとともに前記挿口部に外嵌され、周方向に分割構造を有する挿口側部材と、前記受口部に管軸方向に係止される係止部を有し該受口部に外嵌され、周方向に分割構造を有する受口側部材と、前記挿口側部材と前記受口側部材とを管軸方向に連結する連結部材と、を少なくとも備えることを特徴としている。
この特徴によれば、挿口側部材及び受口側部材が周方向に分割構造であるため、離脱防止対象である管継手の管径や形状あるいは変形に関わらず、これらの部材を容易に組み付けできるばかりか、挿口部の外周面に形成された側壁部にロックリングを係止することで、挿口部に大きな負荷を掛けることなく、管軸方向に高い離脱防止力を発揮することができる。また、ロックリングは、挿口側部材に収容されるので、管継手が元来有する曲げの性能にも柔軟に追随しながらも、高い離脱防止力を発揮することができる。
【0009】
前記側壁部は、前記挿口部の外周面に周方向に形成された凹溝の内側壁であることを特徴としている。
この特徴によれば、挿口部の外周面に凹溝を形成するだけで簡便且つ所望の位置に側壁部を構成できるとともに、凹溝の内側壁により確実にロックリングを管軸方向に係止できる。また他方の内側壁を挿口部の過挿入を規制するために利用することができる。
【0010】
前記凹溝は、前記挿口部の全周に亘り無端状に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ロックリングを周方向に規制せずに移動を許容できるため、管継手の捻じり荷重を吸収して、管軸方向のみに離脱防止力を発揮することができる。
【0011】
前記挿口側部材は、前記ロックリングを内径方向に調整可能に押圧する押圧部材を有することを特徴としている。
この特徴によれば、押圧部材によってロックリングの挿入深さを調整できるため、流体管の管形状に追従して係止力を自由度高く調整することができる。
【0012】
前記挿口側部材及び前記受口側部材のそれぞれは、互いに接続された分割部材からなることを特徴としている。
この特徴によれば、管継手に組付けた挿口側部材及び受口側部材のそれぞれを一体に取扱うことができる。
【0013】
前記分割部材は、溶接により互いに接続されていることを特徴としている。
この特徴によれば、分割部材同士を溶接することで、一体化により剛性が高まり、強力な離脱防止効果を奏する挿口側部材及び受口側部材を構成することができる。
【0014】
前記挿口側部材及び前記受口側部材のそれぞれは、周方向に少なくとも3分割された分割部材からなることを特徴としている。
この特徴によれば、大口径の流体管の管継手であっても、その外周面に挿口側部材及び受口側部材を外嵌し易く、管の変形に対して許容量を有する。
【0015】
前記挿口側部材と前記受口側部材との間に介設されるスペーサを備えることを特徴としている。
この特徴によれば、スペーサにより挿口側部材と受口側部材との離間距離を一定に保持することができる。
【0016】
前記受口部と前記挿口部との管軸方向の過挿入を規制する規制部を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、規制部を備えることで、受口部と挿口部との過挿入により管継手が損傷する虞を回避することができる。
【0017】
前記規制部は、周方向に沿って複数で且つ径方向に非対向の位置に設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、受口部と挿口部との過挿入を複数の規制部で強固に規制するとともに、これら規制部が径方向の非対向の位置に設けられていることで、受口部と挿口部との曲げを一定程度許容することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1における管継手離脱防止構造の受口側部材を示す正面図である。
【
図4】(a)は挿口部に凹溝を形成した状態を示す断面図であり、(b)は離脱防止装置を取付けた状態を示す断面図である。
【
図6】6分割構造の挿口側部材を示す正面図である。
【
図7】ロックリングを仮止めする変形例を示す一部断面正面図である。
【
図8】管継手の過挿入を規制する規制部を備えた変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る管継手離脱防止構造を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0020】
実施例1に係る管継手離脱防止構造につき、
図1から
図8を参照して説明する。先ず
図1~3の符号1は、本発明の適用された管継手離脱防止装置(以下、離脱防止装置1と称する)である。
【0021】
図1~3に示されるように、本実施例で離脱防止対象となる管継手は、一方の流体管である受口管2と、他方の流体管である挿口管3と、これら受口管2及び挿口管3を密封状に接続する接続具8と、から主として構成されている。受口管2及び挿口管3は、例えば、既設に地中に埋設される大口径の上水道用のダクタイル鋳鉄製であり、管の内周面がモルタル層で被覆されている。尚、本実施例において大口径の流体管とは、φ1000mm以上の管であるものとする。更に尚、本発明に係る流体管は、その他鋳鉄、鋼等の金属製、あるいはコンクリート製、塩化ビニール、ポリエチレン若しくはポリオレフィン製等であってもよい。さらに、流体管の内周面はモルタル層に限らず、例えばエポキシ樹脂等により被覆されてもよく、若しくは適宜の材料を粉体塗装により流体管の内周面に被覆してもよい。また、本実施例では流体管内の流体は、本実施例の上水に限らず、例えば工業用水や農業用水、下水等の他、ガスやガスと液体との気液混合体であっても構わない。
【0022】
受口管2は、受口形状の受口部2aと、受口部2aの端部に外径方向に突出されたフランジ部2bと、を有しているとともに、挿口管3は、受口部2aに挿入される先端開口部を備えた挿口部3aを有している。また、受口管2及び挿口管3は、受口部2aの内周面2cと挿口部3aの外周面3bとの間に全周に亘って配置された環状の弾性部材からなるシール材4を介して挿嵌されている。また、
図3に示されるように、挿口部3aの外周面3bには、一体あるいは周方向に複数に分割された円弧状の部材を接続してなる環状の押輪5が外嵌設置されており、この押輪5は、フランジ部2b側に突出する押圧部5aを有しているとともに、フランジ部2bに対して複数のT頭ボルト6及びナット7により連結されている。
【0023】
なお、受口部と挿口部との接合態様は、必ずしも本実施例のように押輪5を利用したメカニカル接合に限られず、別態様のメカニカル接合でもよいし、あるいはいわゆるプッシュオンタイプの接合態様のほか、耐震式の接合態様等であっても構わない。
【0024】
シール材4を介して挿嵌された受口管2及び挿口管3は、T頭ボルト6及びナット7を緊締して押輪5をフランジ部2bに対し接近させることにより、押圧部5aがシール材4を押圧するようになっており、シール材4が受口部2aの内周面2cと挿口部3aの外周面3bとに密着して密封状に接続されている。すなわち前述したシール材4、押輪5、T頭ボルト6及びナット7は、本実施例の接続具8を構成している。
【0025】
図1~3に示されるように、離脱防止装置1は、受口部2aに全周に亘り外嵌され周方向に分割構造を有する受口側部材12と、挿口部3aに全周に亘り外嵌され周方向に分割構造を有する挿口側部材13と、これらを管軸方向に連結する周方向に複数設けられた連結部材14と、挿口側部材13に収容されたロックリング15と、を主として備えている。連結部材14はボルト41、ナット42、及び、ボルト41が挿通された中空円筒状のスペーサ43を備え、受口側部材12及び挿口側部材13は、複数のボルト41、ナット42により連結されて、受口部2aと挿口部3aとの離脱方向の相対移動が規制され、すなわち密封状に接続された受口管2及び挿口管3が管軸方向に離脱することを防止するものである。以下、受口側部材12、挿口側部材13について説明する。
【0026】
図1及び
図3に示されるように、受口側部材12は、本実施例では周方向に等配に3分割された分割部材20からなり、各分割部材20は全て同一の形状に構成され、周方向に略120°延設される弧状部材からなる。本実施例では各分割部材20は、径方向に延びる弧状部材25及び管軸方向に延びる弧状部材26を互いに溶接し、更にこれらの部材に架けて周方向に沿って複数のリブ材27を溶接することで、高い剛性を有し一体に構成されている。また受口側部材12は、受口部2aに外嵌された状態で、各分割部材20,20の周方向に対向する端部20a,20a同士を溶接することで、一体の環状に形成されるようになっている。
【0027】
このように、受口側部材12は、互いに接続された分割部材20からなることで、管継手に組付けた受口側部材12を一体に取扱うことができる。
【0028】
またこのように、受口側部材12は、周方向に3分割されていることで、大口径の流体管や経年等で変形した流体管の管継手であっても、その外周面に受口側部材12を外嵌し易く、すなわち管の変形に対して許容量を有する。特に本実施例のように、受口側部材12が周方向に少なくとも3分割されている場合、各分割部材20が周方向に略120°又はそれ以下に延設されるため、組付けの際に作業者のアプローチが容易である。
【0029】
また分割部材20,20同士を溶接することで、一体化により剛性が高まり、強力な離脱防止効果を奏する受口側部材12を構成することができる。なお、必ずしも分割部材20,20同士を溶接するものに限られず、例えば図示しない締結部材等により分割部材20,20同士を締結するようにしてもよい。
【0030】
なお、本実施例では分割部材20の端部20a,20aの間に当て板29を溶接により介設している。このようにすることで、管継手ごとに個別に異なる受口部2aの管径や偏平形状に追従した適宜形状の当て板29を介在させることができるため、受口側部材12の汎用性が高まる。
【0031】
受口側部材12は、受口部2aのフランジ部2bに管軸方向に係止する係止部21を備える。本実施例の係止部21は、各分割部材20の管軸方向の端面に、周方向にT頭ボルト6及びナット7を避けて所定間隔離間して管軸方向に突設されており、その突出寸法はT頭ボルト6の頭部6aの管軸方向の寸法と略同寸若しくは僅かに大寸に形成されている。このようにすることで、係止部21とT頭ボルト6及びナット7との干渉を避けた状態で、フランジ部2bに管軸方向に係止することができる。
【0032】
一方、
図2及び
図3に示されるように、挿口側部材13は、本実施例では周方向に等配に3分割された分割部材30からなり、各分割部材30は全て同一の形状に構成され、周方向に略120°延設される弧状部材からなる。本実施例では各分割部材30は、径方向に延びる弧状部材35及び、断面視で内径側に開口する略コ字状の収容凹部31を備えた弧状部材36を互いに溶接し、更にこれらの部材に架けて周方向に沿って複数のリブ材37を溶接することで、高い剛性を有し一体に構成されている。また挿口側部材13は、挿口部3aに外嵌された状態で、各分割部材30の周方向に対向する端部30a,30a同士を溶接することで、一体の環状に形成されるようになっている。
【0033】
このように、挿口側部材13は、互いに接続された分割部材30からなることで、管継手に組付けた挿口側部材13を一体に取扱うことができる。
【0034】
またこのように、挿口側部材13は、周方向に3分割されていることで、大口径の流体管や経年等で変形した流体管の管継手であっても、その外周面に挿口側部材13を外嵌し易く、すなわち管の変形に対して許容量を有する。特に本実施例のように、挿口側部材13が周方向に少なくとも3分割されている場合、各分割部材30が周方向に略120°又はそれ以下に延設されるため、組付けの際に作業者のアプローチが容易である。
【0035】
なお本実施例では、受口側部材12及び挿口側部材13は、いずれも同じ3分割の構造であるが、分割数は2分割又は4分割以上でもよく、また互いに異なる分割数であってもよい。
【0036】
また分割部材30,30同士を溶接することで、一体化により剛性が高まり、強力な離脱防止効果を奏する挿口側部材13を構成することができる。なお、必ずしも分割部材30,30同士を溶接するものに限られず、例えば図示しない締結部材等により分割部材30,30同士を締結するようにしてもよい。
【0037】
なお、本実施例では分割部材30の端部30a,30aの間に当て板39を溶接により介設している。このようにすることで、管継手ごとに個別に異なる挿口部3aの管径や偏平形状に追従した適宜形状の当て板39を介在させることができるため、挿口側部材13の汎用性が高まる。
【0038】
挿口側部材13を構成する分割部材30のそれぞれは、内径側に開口するとともに周方向に弧状に延びる収容凹部31を備える。収容凹部31は、その開口部が挿口部3aの外周部に管径方向に対向しており、また管軸方向に互いに対向する収容凹部31の内壁31a、31bの対向面間で、且つ周方向の両端の壁部間にロックリング15を収容している。また各分割部材30は、収容凹部31内のロックリング15を内径方向に押圧可能な押圧部材としての押しボルト32が、周方向に沿って複数螺合されている。
【0039】
図3及び
図5に示されるように、ロックリング15は、周方向に弧状に湾曲して延設された金属製等の剛体からなり、その内径部分が挿口部3aの外周面3bに形成された後述する凹溝10内に嵌合して収容されるとともに、その外径部分が収容凹部31内に嵌合して収容されている。
【0040】
またロックリング15は、断面視略長方形であって、凹溝10の内側壁10a,10bにそれぞれ面接触する側端面15a,15bと、凹溝10の底面10cに面接触する内周面15cと、を備え、押しボルト32により内径方向に向け位置決めされ、凹溝10内に深さ方向に嵌合された状態で保持されている。
【0041】
このように、挿口側部材13を構成する分割部材30のそれぞれには、ロックリング15が収納され、各ロックリング15は、分割部材30に螺合された押しボルト32を内径方向に螺進させることによって径方向内側に押圧され、ロックリング15の内周面15cが凹溝10の底面10cに当接し、また側端面15a,15bが凹溝10の内側壁10a,10bに接触若しくは近接した状態で挿口部3aに係止される。
【0042】
なお、本実施例では、一つの分割部材30に一つのロックリング15が収容され、このロックリング15を内径方向に押圧する押しボルト32が周方向に沿って複数設けられているが、これに限らず例えば、一つの分割部材30に複数のロックリングが収容され、これらのロックリングをそれぞれ内径方向に押圧する押しボルトが一つ、若しくは周方向に沿って複数設けられてもよい。
【0043】
次に、離脱防止装置1の組立て手順を
図4及び
図5を参照して説明する。最初に、凹溝の形成工程を行う。
【0044】
先ず離脱防止対象となる管継手及びその周辺部分を掘削して外面を清掃した後、挿口部3aの外周面3bの所定位置に、周方向に沿って凹溝10を図示しない工具や切削装置等により切削形成する。凹溝10の形状及び形成位置につき、以下に詳述する。
【0045】
図4(a)に示されるように、本実施例の凹溝10の断面形状は、外径方向に開口するとともに、内側壁10a,10b及び底面10cを有する略コ字状に形成されている。ここで挿口部3aの先端側に位置する内側壁10aが本発明に係る側壁部に相当する。なお、例えば凹溝の断面形状は、凹曲面状に湾曲形成されていてもよい。
【0046】
凹溝10の管軸方向の形成位置は、フランジ部2bに係止するように受口部2aに外嵌される受口側部材12と、この凹溝10に嵌合するロックリング15を収容して挿口部3aに外嵌される挿口側部材13とがスペーサ43により規定される離間距離で連結される位置である。凹溝10の管軸方向の幅寸法は、少なくともロックリング15が嵌合可能若しくは遊嵌可能な寸法であればよい。
【0047】
また凹溝10の管径方向の深さ寸法は、少なくともロックリング15の側端面15aが凹溝10の内側壁10aに管軸方向に係止可能な寸法であって、より好ましくは挿口部3aの管壁の半分以下の寸法であればよく、このようにすることで、挿口部3aの構造強度を維持できる。
【0048】
更に本実施例では凹溝10は挿口部3aの全周に亘り略同一断面で無端状に連続形成されている。このようにすることで、ロックリング15を周方向に規制せずに移動を許容できるため、管継手の捻じり荷重を吸収して、管軸方向のみに離脱防止力を発揮することができる。
【0049】
なお、本実施例に限られず、例えば特に図示しないが、周方向に沿って設けられる複数のロックリング15の位置に対応して、挿口部3aの周方向に沿って複数の凹溝を断続的に形成してもよい。
【0050】
次に、受口側部材12及び挿口側部材13の仮組工程を行う。
図4(b)及び
図5に示されるように、受口側部材12を構成する各分割部材20を受口部2aの周方向に沿って外嵌する。このとき分割部材20の各係止部21が、管継手の周方向に複数設けられたT頭ボルト6及びナット7の間に配置される位置に組付け、各分割部材20の端部20a,20a同士の間に当て板29を介設した状態で、端部20a,20a近傍の鍔部24,24に挿通した仮止め部材28によって、各分割部材20同士を周方向に連結させ、すなわち受口側部材12を仮止め状態で環状に構成させる。
【0051】
一方で、挿口側部材13を構成する各分割部材30を挿口部3aの周方向に沿って外嵌する。このとき分割部材30の収容凹部31内に収容された各ロックリング15が、挿口部3aの外周面3bに形成された凹溝10内に対向する位置に組付け、各分割部材30の端部30a,30a同士の間に当て板39を介設した状態で、端部30a,30a近傍の鍔部34,34に挿通した仮止め部材38によって、各分割部材30同士を周方向に連結させ、すなわち挿口側部材13を仮止め状態で環状に構成させる。この仮組工程において各ロックリング15は、例えばロックリング15の外周面と収容凹部31の内周面との間等に貼付した図示しない両面テープやバンド等により、収容凹部31内の外径側に仮止め状態で配置しておく。また
図5に示されるように、この仮組工程において、ロックリング15の周端側に設けられた押しボルト32を一旦取外すことで、当該押しボルト32と仮止め部材38との干渉を避けることができる。
【0052】
次に、受口側部材12及び挿口側部材13の溶接工程を行う。仮止め部材28によって連結された受口側部材12の各分割部材20の端部20a,20a同士を溶接によって接合し、すなわち受口側部材12を一体の環状体に構成させる(
図1参照)。溶接後に仮止め部材28を取外す。尚、仮止め部材28を取外すことなく残しておいてもよい。
【0053】
一方で、仮止め部材38によって連結された挿口側部材13の各分割部材30の端部30a,30a同士を溶接によって接合し、すなわち挿口側部材13を一体の環状体に構成させる(
図2参照)。溶接後に仮止め部材38を取外し、前述した周端側の押しボルト32を取付ける。尚、仮止め部材38を取外すことなく残しておいてもよい。
【0054】
次に、ロックリング15の押圧工程を行う。
図5に示されるように、挿口側部材13に設けられた押しボルト32を内径方向に螺挿することで、収容凹部31内にて外径側に仮止めされたロックリング15を内径方向に押圧し、その内径側部分を凹溝10内に嵌合させる。
【0055】
このように、押しボルト32によってロックリングの挿入深さを調整できるため、受口管2及び挿口管3の管形状に追従して係止力を自由度高く調整することができる。なお、挿口側部材13の周方向に沿って複数設けられた押しボルト32の螺挿量を適宜調整することで、環状の挿口側部材13を挿口部3aに対し軸心合わせの位置調整をすることができる。
【0056】
最後に、連結部材14の連結工程を行う。
図3に示されるように、受口側部材12に管軸方向に貫通した挿通孔12cと、挿口側部材13に管軸方向に貫通した挿通孔13cとに、連結部材14を構成するボルト41を挿通して、またスペーサ43にボルト41を挿通して受口側部材12及び挿口側部材13の間に配置させ、更にボルト41にナット42を締付けることにより、スペーサ43の軸方向の両端が受口側部材12及び挿口側部材13に当接する。すなわち、受口側部材12と挿口側部材13とは、これらの管軸方向の離間距離がスペーサ43により一定に保持された状態で、連結部材14により連結される。上記した工程により、離脱防止装置1が管継手に組み付けられる。
【0057】
なお、受口側部材12及び挿口側部材13の周方向に沿って複数設けられた連結部材14を構成するボルト41及びナット42の螺挿量を適宜調整することで、受口側部材12及び挿口側部材13を管継手に対し管軸方向若しくは傾き調整をすることができる。
【0058】
上記した工程により、離脱防止装置1が管継手に組み付けられた状態で、受口管2及び挿口管3に管軸方向に離脱する外力が作用した場合、受口部2aのフランジ部2bに係止する受口側部材12と、挿口部3aの凹溝10の内側壁10aに係止するロックリング15を収容した挿口側部材13とが連結部材14によって連結されているため、これら受口管2及び挿口管3の離脱が防止されるようになっている。
【0059】
このように、挿口側部材13及び受口側部材12が周方向に分割構造であるため、離脱防止対象である管継手の管径や形状あるいは変形に関わらず、これらの部材を容易に組み付けできるばかりか、挿口部3aの外周面3bに形成された側壁部としての凹溝10の内側壁10aにロックリング15を係止することで、挿口部3aに大きな負荷を掛けることなく、管軸方向に高い離脱防止力を発揮することができる。また、ロックリング15は、挿口側部材13に収容されるので、管継手が元来有する曲げの性能にも柔軟に追随しながらも、高い離脱防止力を発揮することができる。
【0060】
また、挿口部3aの外周面3bに凹溝10を形成するだけで簡便且つ所望の位置に側壁部を構成できるとともに、凹溝10の内側壁10aにより確実にロックリング15を管軸方向に係止できる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、受口側部材12及び挿口側部材13は、それぞれ周方向に3分割された構造であるが、これに限らず例えば
図6に示されるように、挿口側部材53が周方向に6分割された分割部材50からなる構造であってもよく、分割部材50の端部50a,50a近傍の鍔部51,51に挿通した仮止め部材58によって、各分割部材50同士を周方向に連結させ、当て板を介設することなく端部50a,50a同士を直接に溶接してもよい。また
図6に示されるように、仮止め部材58を取外すことなく残しておいてもよい。
【0063】
このように分割数を多く取ることで、例えばφ1300mm以上等の大口径の流体管に適用する場合でも、組立て作業や大口径管に対する位置合わせが容易となる。なお特に図示しないが、この挿口側部材53に替えて、若しくは挿口側部材53に加えて、受口側部材が周方向に6分割された構造であってもよい。
【0064】
また例えば、前記実施例では、仮組工程においてロックリング15は、ロックリング15の外周面と収容凹部31の内周面との間等に貼付した図示しない両面テープやバンド等により、収容凹部31内の外径側に仮止め状態で配置されていたが、これに限らず例えば、
図7に示されるように、ロックリング15の外周部の例えば両端などの適宜箇所に、雌ネジ部15eを形成するとともに、この雌ネジ部15eに対応する挿口側部材13の適宜箇所に、雌ネジ部15eに螺合する雄ネジ19を挿通させるための挿通孔13eを形成してもよい。これによれば、仮組工程において雄ネジ19を雌ネジ部15eに螺挿することで、ロックリング15を収容凹部31の内径側に落下させることなく外径側に引き寄せて確実に仮止めでき、また仮組工程の終了後に雄ネジ19を雌ネジ部15eから取り外すことで、ロックリング15の仮止めを容易に解除することができる。なお、挿口側部材13に上記した挿通孔13eを特段に形成せずとも、ロックリング15の周端側に設けられた押しボルト32を一旦取外し、この押しボルト32用の雌ネジ孔を挿通孔として利用し、当該雌ネジ孔よりも小径の雄ネジ19を挿通するようにしてもよい。
【0065】
また例えば、前記実施例では、管継手に離脱防止装置1を取付けることで、受口管2と挿口管3との管軸方向の離脱を防止する構造を提供しているが、これに限らず例えば、
図8(a)に示されるように、挿口側部材13が、管継手を構成する接続具8に管軸方向に係止可能に突設された規制部54を備えるものであってもよく、このようにすることで、受口管2と挿口管3とが管軸方向に過挿入するような外力が作用した場合に、挿口管3の先端面3dが受口管2の奥端面2dに当接するよりも手前で、規制部54が接続具8に管軸方向に係止することで、受口管2と挿口管3とを過挿入させずに、管継手の損傷の虞を回避することができる。また、挿口部3aに形成した凹溝10の他方の内側壁10bをロックリングに係止させることで、挿口部3aの過挿入を規制するために利用することができる。
【0066】
同様に例えば、
図8(b)に示されるように、連結部材14のスペーサ43が受口部2aのフランジ部2bに管軸方向に係止可能に径方向に膨出した規制部55を備えるものであってもよく、このようにすることで、挿口管3の先端面3dが受口管2の奥端面2dに当接するよりも手前で、規制部55がフランジ部2bに管軸方向に係止することで、管継手の損傷の虞を回避することができる。
【0067】
また例えば、
図8(c)に示されるように、受口側部材12が、受口部2aのフランジ部2bに係止可能に内径方向に突設された規制部56を備えるものであってもよく、このようにすることで、挿口管3の先端面3dが受口管2の奥端面2dに当接するよりも手前で、規制部56が連結部材14に管軸方向に係止することで、管継手の損傷の虞を回避することができる。
【0068】
また、上記した規制部54、規制部55若しくは規制部56は、周方向に複数設けられ、且つ径方向に互いに非対向の位置に設けられていることが好ましく、このようにすることで、受口部2aと挿口部3aとの過挿入を、複数の規制部54,複数の規制部55若しくは複数の規制部56で強固に規制するとともに、これら規制部54,55,56が径方向の非対向の位置に設けられていることで、受口部2aと挿口部3aとの曲げを一定程度許容することができる。
【0069】
また、前記実施例では、挿口部3aの外周面3bに凹溝10を切削形成することで、その内側壁10aを側壁部として構成していたが、これに限らず例えば特に図示しないが、挿口部3aの外周面3bに、凹溝を備えた部材を溶接等により取り付けることで、挿口部3aの外周面3bに側壁部を形成するようにしてもよいし、あるいは挿口部3aの外周面3bに、断面視略矩形状の凸部を溶接して、該凸部の側面を側壁部とするとともに、ロックリングに、前記凸部を収容する凹溝を設けるようにしてもよい。
【0070】
また、前記実施例では、複数の分割部材20同士を周方向に接続することで環状の受口側部材12を構成するとともに、複数の分割部材30同士を周方向に接続することで環状の挿口側部材13を構成していたが、これに限らず例えば特に図示しないが、分割部材20同士及び分割部材30同士を周方向に接続することなく、管軸方向に対向する分割部材20と分割部材30とを個別に連結するようにしてもよい。
【0071】
また、前記実施例では、受口側部材12を構成する複数の分割部材20は全て互いに同一形状で構成されているが、これに限らず、複数の分割部材20のうち一部又は全部が互いに異なる形状であってもよい。同様に、前記実施例では、挿口側部材13を構成する複数の分割部材30は全て互いに同一形状で構成されているが、これに限らず、複数の分割部材30のうち一部又は全部が互いに異なる形状であっても構わない。