(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092992
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】シャツ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20240701BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240701BHJP
A41D 27/28 20060101ALI20240701BHJP
A41B 1/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A41D13/00 115
A41D31/00 502C
A41D27/28 E
A41B1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217366
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2022208419
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100196623
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 計介
(72)【発明者】
【氏名】越田 まなみ
(72)【発明者】
【氏名】西 駿明
(72)【発明者】
【氏名】松本 竜文
【テーマコード(参考)】
3B035
3B211
【Fターム(参考)】
3B035AA01
3B035AB03
3B035AD04
3B035AD13
3B211AA01
3B211AB11
3B211AC18
(57)【要約】
【課題】本発明は、発汗時においても生地が肌に貼り付くことなく、着用者に不快感を与えることがないシャツを提供する。
【解決手段】着用者の前側を覆う前身頃及び着用者の後側を覆う後身頃を含む身頃本体を有するシャツであって、前身頃及び後身頃の少なくとも一方に、畝状の凸部を有する編地により形成された低タック領域tが配置され、低タック領域tは、畝状凸部4が肌に接する側に配置されるとともに、身頃本体の上下方向に並んで配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の前側を覆う前身頃及び着用者の後側を覆う後身頃を含む身頃本体を有するシャツであって、
前記前身頃及び前記後身頃の少なくとも一方に、畝状の凸部を有する編地により形成された低タック領域が配置され、
前記低タック領域は、前記畝状の凸部が肌に接する側に配置されるとともに、前記身頃本体の上下方向に並んで配置される、シャツ。
【請求項2】
前記身頃本体は、前記前身頃の中央部に上下方向に延びる前側中央領域と、前記後身頃の中央部に上下方向に延びる後側中央領域を有し、前記低タック領域は、前記前側中央領域の上部及び前記後側中央領域に配置されている、請求項1に記載のシャツ。
【請求項3】
前記編地は、肌に接する裏面側生地とベース生地とを連結して設けられた畝状の凸部と、前記ベース生地からなる凹部とを、交互に配列された畝状ダブルラッセル編地により形成され、前記ベース生地は、メッシュ生地で構成される、請求項2に記載のシャツ。
【請求項4】
前記低タック領域は、前記畝状の凸部の幅及び前記畝状の凸部間の間隔の少なくとも1つが異なる、請求項1から3のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項5】
前記身頃本体の前記前身頃は、前記着用者の側部を覆う脇部領域及び前記前側中央領域と前記脇部領域との間に前側中間領域を有し、前記前側中央領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx1、前記前側中間領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx2、前記脇部領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx3とそれぞれしたときに、x1<x2<x3を満たす、請求項3に記載のシャツ。
【請求項6】
前記身頃本体の前記後身頃は、前記後側中央領域と前記脇部領域との間に後側中間領域を有し、前記脇部領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx3、前記後側中央領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx4、前記後側中間領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx5とそれぞれしたときに、x4<x5<x3を満たす、請求項5に記載のシャツ。
【請求項7】
前記畝状の凸部は、起立している着用者の身体に対して上下方向に凹凸部が形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項8】
前記低タック領域が、畝状凸部の面積比率が1%以上25%以下且つ二乗平均平方根高さが100μm以上2000μm以下のダブルラッセル編地からなる、請求項1又は2に記載のシャツ。
【請求項9】
前記低タック領域が、前記前身頃の50%以上、後身頃の50%以上に配置される、請求項8に記載のシャツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャツに関する。
【0002】
マラソンをはじめとするスポーツにおいて、発汗に伴いシャツの生地が着用者の肌に密着しやすい状況になる。このような状態においては、肌と生地の付着と脱離が繰り返し発生する。これにより、着用者は不快感を覚える。
【0003】
そこで、発汗時でも肌と生地の付着力が小さい生地をシャツの然るべき箇所に配置することが望まれている。
【0004】
従来、マラソンをはじめとするスポーツに使用されるシャツは、生地表面に撥水処理などの化学処理や、通気性促進を意図した通気孔の設置などが行われている。
【0005】
しかしながら、生地表面の撥水処理などの化学処理や通気性促進を意図した通気孔の設置を施した生地から構成されるシャツでは、シャツの最大保水量を上回る発汗量に達した場合、着用者の肌と生地の接触界面が水(汗)で満たされることで、大きな付着力が発生する。これにより、生地が肌に貼り付き、着用者に不快感を与える。
【0006】
また、ダブルラッセル編地を全部又は一部に用いた衣服が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1には、粗目に編成した表面メッシュ地と細目に編成した裏面メッシュ地との間にモノフィラメントの連結糸を往来させるように編成することによって、表面メッシュ地と裏面メッシュ地との間に通気性の緩衝間隙が形成されるように前記表面メッシュ地と裏面メッシュ地とを一体化してなるダブルラッセル編地を上衣又はパンツの全部又は一部に含むように用いている。そして、裏面メッシュ地は、毛細管現象によって着用者の汗又は与えられた水分を速やかに吸収して保水する吸水機能を発揮するように構成されている。そして、表面素材における緩衝間隙は、裏面メッシュ地から表面メッシュ地に至ろうとする水分を遮断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1に記載の技術は、発汗時の水分を吸収して保水することを意図している。従って、この特許文献1においても最大保水量を上回る発汗量に達した場合には、生地が着用者の肌に貼り付き、着用者に不快感を与える。
【0009】
本発明は、発汗時においても生地が肌に貼り付き難く、着用者に不快感を与えることがないシャツを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、肌と生地の界面に水が介在する場合であっても、付着力を軽減することができる生地の表面形状について検討した。本発明者等は、鋭意検討の結果、以下のような構成に想到した。
【0011】
本発明の一実施形態にかかるシャツは、着用者の前側を覆う前身頃及び着用者の後側を覆う後身頃を含む身頃本体を有するシャツであって、前記前身頃及び前記後身頃の少なくとも一方に、畝状の凸部を有する編地により形成された低タック領域が配置され、前記低タック領域は、前記畝状の凸部が着用者の肌に接する側に配置されるとともに、前記身頃本体の上下方向に延びて配置される。
【0012】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な例を述べる。しかしながら、当業者は、これらの具体的な例がなくても本発明を実施できることが明らかである。
【0013】
よって、以下の開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、畝状の凸部が身体の表面側に存在するので、畝状の凸部のみが実質的に肌に接することになり、肌との接触面積が少なくなり、発汗時の生地への貼り付きを少なくできる。さらに、畝状の凸部が身頃本体の上下方向に並んで配置されることにより、発汗時の汗が重力方向に流れ易く、汗の滞留を抑止することにより、生地への貼り付きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態にかかるシャツを前身頃側から見た平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態にかかるシャツの低タック領域に用いられる畝状編地の模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態にかかるシャツの低タック領域と肌との状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、人体サーモマッピング図であり、(a)は前面、(b)は背面を示している。
【
図6】
図6は、人体発汗率分布図であり、(a)は前面、(b)は背面を示している。
【
図7】
図7は、異なる表面形状の低タック領域を組み合わせた編地を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態の変形例にかかるシャツを前身頃側から見た平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態の変形例にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。
【
図10】
図10は、本発明で用いる畝状の凸部を片面に有する編地の一例を示す平面図であり、4種類の異なる表面形状を(a)~(d)に示している。
【
図11】
図11は、編地を上下方向に段面した時の凸部のベース生地との関係を示す模式図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態にかかるシャツの低タック領域と肌との状態を示す模式図である。
【
図14】
図14は、本発明に適用される畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図15】
図15は、
図14に示す生地表面を3次元測定機で測定した結果の高さ分布を示し、(a)は凹部、(b)は凸部、(c)は度数・分布ヒストグラムである。
【
図16】
図16は、比較例1のダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図17】
図17は、比較例2のダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施例1の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施例2の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図20】
図20は、本発明の実施例3の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図21】
図21は、本発明の実施例4の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図22】
図22は、本発明の実施例5の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図23】
図23は、本発明の実施例6の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図24】
図24は、本発明の実施例7の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図25】
図25は、本発明の実施例8の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図26】
図26は、本発明の実施例9の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図27】
図27は、本発明の実施例10の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図28】
図28は、本発明の実施例11の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図29】
図29は、本発明の実施例12の畝状ダブルラッセル編地による試料の俯瞰図である。
【
図30】
図30は、本発明の官能試験を行った装置の模式図である。
【
図31】
図31は、凸部面積比率と官能値の関係を示す図である。
【
図32】
図32は、二乗平均平方根高さと保水量との関係を示す図である。
【
図33】
図33は、本発明の具体例1にかかるシャツを前身頃側から見た平面図である。
【
図34】
図34は、本発明の具体例1にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。
【
図35】
図35は、本発明の具体例2にかかるシャツを前身頃側から見た平面図で ある。
【
図36】
図36は、本発明の具体例2にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態にかかるシャツに基づいて具体的に説明する。尚、本発明にかかるシャツは、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0017】
図1は、本発明の実施形態にかかるシャツを前身頃側から見た平面図、
図2は、本発明の実施形態にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。本発明の実施形態のシャツ100は、例えば、マラソンなど発汗量が多いスポーツ用に好適に用いられる。シャツ100は、着用者の前側を覆う前身頃1と、着用者の後側を覆う後身頃2とを含む身頃本体10を有する。シャツ100は、発汗に伴い生地が着用者の肌に密着しやすい状況になる。本発明の実施形態にかかるシャツ100は、このような状況においても生地が肌に貼り付くことを抑制する。
【0018】
従来のシャツにおいては、生地の表面に撥水処理などの化学処理や、通気性を促進するために生地表面から裏面まで貫通した通気孔を設けるなどの対策がとられている。通気孔はメッシュ状の生地よりさらに通気性を促進するために生地の縦糸又は横糸が切断されて形成された通気孔を設けたシャツが知られている。
【0019】
本願発明者等は、撥水処理や通気性とは異なる観点から、肌と生地の界面に水が介在した状態においても、シャツ100の肌への付着力を抑制することを検討した。その結果、生地の表面形状を最適化することで、肌と生地の界面に水が介在した状態においても生地の肌への付着力を低減することを見出した。この付着力を軽減させることにより、発汗による水分を生地内部に移動させることを抑制することができる。これにより、生地の最大保水量を大きくする必要性がない。従来は、発汗した水分を生地内部に移動させ、水分を気化させて外部に放出していた。このため、最大保水量を超えると生地が肌に貼り付いてしまうことから、最大保水量をできる限り大きくする必要があった。
【0020】
前記したように、シャツ100においては、生地の最大保水量を大きくする必要性がないので、湿潤シャツ重量と直結する最大保水量は少なくすることが可能となり、湿潤シャツの軽量化が図れる。
【0021】
シャツ100においては、生地の表面形状の最適化により、低タック性を確保した低タック領域を前身頃1及び後身頃2の少なくとも一方に配置する。
【0022】
ここで、タック性とは、生地の着用者の肌への貼り付きを意味する。低タック領域とは、生地の肌への貼り付きが抑制された領域を意味する。
【0023】
図1、
図2に示すように、本実施形態においては、前身頃1の中央部に上下方向に延びる前側中央領域11に低タック領域tを、後身頃2の中央部に上下方向に延びる後側中央領域21に、低タック領域tをそれぞれ配置している。
【0024】
図3に示すように、低タック領域tを構成する編地40は、畝状凸部4と凹部5が交互に配列されている。そして、
図4に示すように、畝状凸部4が肌10sに接する側に配置される。低タック領域tの畝状凸部4は、身頃本体10の上下方向に並んで配置されている。
【0025】
シャツ100の低タック領域tに用いられる編地40は、例えば、
図3に示すように、畝状ダブルラッセル編地40を用いることができる。畝状ダブルラッセル編地40は、肌10sに接する裏面側生地4aと表面側のベース生地3とを連結して設けられた畝状凸部4と、ベース生地3からなる凹部5とを、交互に配列されて構成されている。本実施形態においては、ベース生地3をメッシュ生地で構成し、通気性を良好にしている。
【0026】
図3及び
図4に示すように、畝状凸部4を有する畝状ダブルラッセル編地40は、裏面側生地4aとベース生地3とつなぎ糸6とから主に構成されている。裏面側生地4aは、裏面を構成する糸で編まれて形成されている。なお、裏面側生地4aが衣料の肌側になる。ベース生地3は、表面を構成する糸で編まれて形成されている。また、つなぎ糸6は、裏面側生地4aとベース生地3との間をほぼ縦方向(厚み方向)に走ってこの間を充填し繋ぎ合わせている。このつなぎ糸6は、がダブルラッセル編地40に厚みを持たせる。
【0027】
本実施形態の畝状ダブルラッセル編地40の畝状凸部4と凹部5は、畝状凸部4と凹部5で構成される表面形状が付着力を小さくするために機能させるものである。この機能を達成させるために、生地における中の凸部面積比率と凸部の二乗平均平方根高さを設定した編地40が用いられる。従って、本実施形態の畝状ダブルラッセル編地40の畝状凸部4の高さは、凹部の領域を通風領域として機能させるために設定された従来の畝状ダブルラッセル編地の畝状凸部の高さとは異なる。付着力を小さくするための表面形状と凸部面積比率と凸部の二乗平均平方根高さについては後述する。
【0028】
図4に示すように、本実施形態においては、畝状凸部4が身体の表面側に存在するので、畝状凸部4のみが実質的に肌10sに接することになる。これにより、肌10sとの接触面積が少なくなり、発汗時の生地への貼り付きを少なくできる。さらに、畝状凸部4が身頃本体10の上下方向に並んで配置されることにより、発汗時の汗が重力方向へ流れ易くなる。これにより汗の滞留が抑止され、生地への貼り付きを抑制することができる。
【0029】
シャツ100に設ける低タック領域tは、身体の発汗量が多い箇所に設けることが好ましい。
図5に人体サーモマッピング図、
図6に人体発汗率分布図を示す。
図5及び
図6から、人体の前面中心部上部と背面中心部において、温熱ストレスが最も高くなると考えられる。そして、
図6に示すように、人体の前面中心部と背面中心部が発汗の量が多いことが分かる。このことから、発汗量が多い領域に低タック領域tを配置することによって、発汗時の生地の肌への貼り付きを抑制することができる。
【0030】
身頃本体10は、前身頃1の中央部に上下方向に延びる前側中央領域11と、後身頃2の中央部に上下方向に延びる後側中央領域21を有する。そして、温熱ストレスが最も高いと考えられる前側中央領域11の上部及び後側中央領域21の少なくとも一方に低タック領域tを配置するとよい。
図1及び
図2においては、前側中央領域11の上部及び後側中央領域21の双方に低タック領域tを配置している。また、
図1においては、前側中央領域11の上部に低タック領域tを設けているが、前側中央領域11全体に低タック領域tを設けてもよい。なお、前側中央領域11の上部とは、前側中央領域11を上下方向に二分割したときの上側半分の領域のことをいう。
【0031】
上記本実施形態においては、低タック領域tに用いる畝状ダブルラッセル編地40は、ベース生地3をメッシュ生地で構成している。ダブルラッセル編地40のベース生地3を高通気性のメッシュ生地で構成し、通気性を良好にすることにより、シャツ100内部の空気を外部に放出しやすくなる。これにより、シャツ100内部の放熱性が良くなると共に、気相の汗は、高通気性のメッシュ生地を透過して外部に放出され、生地が乾きやすくなる。
【0032】
図6の人体発汗率分布図に示されるように、人体の発汗量は場所によって異なる。発汗量に応じてダブルラッセル編地40の肌側の生地の表面形状を異ならせるとよい。例えば
、人体脇部は、肌と生地との接触が少ないことから通気性に重点をおいて畝状凸部4、4間の間隔xを広く構成し、ベース生地3のメッシュ生地からの通気性をよくすればよい。このため、本実施形態においては、
図7に示すように、低タック領域tは、畝状凸部4の幅a及び畝状凸部4、4間の間隔xの少なくとも1つが異なるように、肌側の表面形状が異なる編地を組み合わせて構成する。
【0033】
身頃本体10の上下方向と直交するように設けられた畝状凸部4の幅a及び畝状凸部4、4間の間隔の少なくとも1つが異なる編地を組み合わせることにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じ易い。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付きが抑制される。
【0034】
図1に示すように、身頃本体10の前身頃1は、前側中央領域11以外の領域として、着用者の側部を覆う脇部領域13及び前側中央領域11と脇部領域13との間の前側中間領域12を有する。シャツ100において、前側中央領域11、前側中間領域12及び脇部領域13は全て低タック領域tで構成されているが、隣接する畝状凸部4、4同士の間隔が領域ごとに異なっている。具体的には、前側中央領域11に配置される低タック領域tの隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
1、前側中間領域12に配置される低タック領域tの隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
2、脇部領域13に配置される低タック領域tの隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
3としたときに、x
1<x
2<x
3を満たすように構成されている。
【0035】
このように構成することにより、身体の発汗量の多い箇所ほど低タック領域tの畝状ダブルラッセル編地40の畝状凸部4の間隔を狭くして、生地の発汗時の身体への貼り付きを抑制することができる。
【0036】
さらに、前側中央領域11と、前側中間領域12と、脇部領域13とを異なる編地を隣り合わせて構成することにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じやすくなる。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付けが抑制される。
【0037】
また、
図2に示すように、身頃本体10の後身頃2は、後側中央領域21及び脇部領域23以外の領域として、後側中央領域21と脇部領域23との間に後側中間領域22を有する。シャツ100において、後側中央領域21、後側中間領域22及び脇部領域23は全て低タック領域tで構成されているが、隣接する畝状凸部4、4同士の間隔が領域ごとに異なっている。具体的には、脇部領域23に配置される低タック領域tの隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
3、後側中央領域21に配置される低タック領域tの隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
4、後側中間領域22に配置される低タック領域の隣接する畝状凸部4、4同士の間隔をx
5としたときに、x
4<x
5<x
3を満たすように構成されている。
【0038】
このように構成することにより、身体の発汗量の多い箇所ほど低タック領域tの畝状ダブルラッセル編地40の畝状凸部4の間隔を狭くして、生地の発汗時の身体への貼り付きを抑制することができる。
【0039】
さらに、後側中央領域21と、後側中間領域22と、脇部領域23とを異なる編地を隣り合わせて構成することにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じやすくなる。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付けが抑制される。
【0040】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図8は、本発明の実施形態の変形例にかかるシャツを前身頃側から見た平面図、
図9は、本発明の実施形態の変形例にかかるシャツを後身頃側から見た平面図である。この変形例においては、前側中間領域12を前側中央領域11側に位置する第1中間領域12aと、脇部領域13側に位置する第3中間領域12c、第1中間領域12aと第3中間領域12cとの間に位置する第2中間領域12bの3つの領域に分け、第1中間領域12aと第2中間領域12bと第3中間領域12cの低タック領域tの表面形状を異ならせている。同様に、後側中間領域22を後側中央領域21側に位置する第1中間領域22aと、脇部領域23側に位置する第3中間領域22c、第1中間領域22aと第3中間領域22cとの間に位置する第2中間領域22bの3つの領域に分け、第1中間領域22aと第2中間領域22bと第3中間領域22cの低タック領域tの表面形状を異ならせている。
【0041】
次に、本実施形態のシャツ100で用いられるダブルラッセル編地40の表面形状について説明する。
図10は、畝状の凸部を片面に有する編地の一例を示す平面図であり、4種類の表面形状を
図10(a)~
図10(d)に示している。これらの編地40は、例えば、肌に接する裏面側生地とベース生地とを連結して設けられた畝状凸部4と、ベース生地からなる凹部5とを、交互に配列された畝状ダブルラッセル編地を用いることができる。尚、
図10(a)~
図10(d)においては、畝状凸部4にハッチングを施して凹部5と区別しやすく図示している。
【0042】
図10(a)に示すダブルラッセル編地40の畝状凸部4と凹部5は、ほぼストレ-トなストライプ状模様に形成されている。
図10(b)に示すダブルラッセル編地40の畝状凸部4は波状模様に形成され、隣り合う畝状凸部4は、身頃本体10の上下方向に対して線対称の形状に配置されている。
図10(b)の畝状凸部4の幅は
図10(a)の畝状凸部4より広く形成されている。そして、隣り合う畝状凸部4は、互いが近接する位置において接触する。
図10(c)に示すダブルラッセル編地40の畝状凸部4は、
図10(b)と同様に波状模様に形成され、
図10(b)より、隣り合う畝状凸部4間の間隔が広く、波のスパンが
図10(b)より大きく形成されている。
図10(c)の畝状凸部4の幅は
図10(b)の畝状凸部4より広く形成されている。
図10(d)に示すダブルラッセル編地40の畝状凸部4は、
図10(b)、(c)と同様に波状模様に形成され、
図10(c)より、隣り合う畝状凸部4間の間隔が広く、波のスパンが
図10(c)より大きく形成されている。
図10(d)の畝状凸部4の幅は
図10(c)の畝状凸部4より広く形成されている。
【0043】
図10(a)~
図10(d)の編地において、
図10(a)に示す編地が最も発汗量が多い領域に配置される低タック領域tに用いられ、発汗量が少なくなるにつれて、
図10(b)~
図10(d)へと波のパターンが大きくなっている編地を用いる。これにより、人体の発汗量に対応した低タック領域tを配置し、畝状凸部4による肌への貼り付きの抑制とベース生地3による通気性を発汗量に応じて対応することができる。
【0044】
図11に、編地40を上下方向に段面した時の畝状凸部4とベース生地3の関係を示す。
図11に示すように、畝状凸部4の身体側に位置する表面は、起立している着用者の身体に対して上下方向に波状に高さが異なるように形成されている。すなわち、畝状凸部4とベース生地3との間に隙間を設けている。このように、着用者の身体に対して上下方向に波状に高さが異なる畝状凸部4を設けた編地40を用いても良い。例えば、
図10(d)に示す編地40に、
図11に示すような畝状凸部4を設ける。このような編地40を脇部に用いれば、通気を良好に行える。これにより、シャツ100内部の換気を促進することができる。
【0045】
尚、
図10においては、畝状凸部4はその長手方向に切れ目なく連続しているものを示してあるが、必ずしも連続せずに比較的少ない面積割合で小さな面積の切れ目が複数個存在してもよい。すなわち斑点状の凹凸模様となってしまうのではなく、実質上畝状であれば畝に切れ目が入ってもよい。
【0046】
ここで畝の向きとは、畝の長手方向の向きであり、
図10(a)の場合には、図の上下方向であり、
図10(b)~10(d)のように、畝状凸部が波状模様であっても、巨視的な全体的な観点から見た畝の長手方向を意味し、従って、この場合も図の上下方向になる。
【0047】
ここで、身頃本体10の上下方向とは、シャツの縦方向(垂線方向)並びにシャツの縦方向から±45度までの角度の範囲で傾いている場合も含む意味である。しかしながら、なるべくシャツの垂線方向に沿った方向からあまり角度がつかないほど好ましい。
【0048】
図8及び
図9に示す変形例のシャツ100の各領域には、
図10(a)~
図10(d)の表面形状の編地40が使用されている。
図8に示す前身頃側の身頃本体10は、前側中央領域11、第1中間領域12a、第2中間領域12b、第3中間領域12c、脇部領域13で構成される。なお、発汗量は前側中央領域11と第1中間領域12aが多いので、これら領域には、
図10(a)の表面形状の低タック領域tを配置する。第2中間領域12bは、前側中央領域11に比べ発汗量が少ないので、
図10(b)の表面形状の低タック領域tを配置する。脇部領域13に隣接する第3中間領域12cは、第1中間領域12aに比べ発汗量が少ないので、
図10(c)の低タック領域tを配置する。脇部領域13は肌に触れることが少ないので、通気性が最大の
図10(d)の表面形状の低タック領域tを配置する。
【0049】
同様に、
図9に示す後身頃側の身頃本体10は、後側中央領域21、第1中間領域22a、第2中間領域22b、第3中間領域22c、脇部領域23で構成される。この変形例においては、発汗量は後側中央領域21が多いので、この領域には、
図10(a)の表面形状の低タック領域tを配置する。第1中間領域22aは、後側中央領域21に比べ発汗量が少ないので、
図10(b)の表面形状の低タック領域tを配置する。第2中間領域22bは、第1中間領域22aに比べ発汗量が少ないので、
図10(c)の表面形状の低タック領域tを配置する。脇部領域23に隣接する第3中間領域22cは、第2中間領域22bに比べ発汗量が少ないが、この変形例においては、
図10(c)の低タック領域tを配置する。脇部領域23は肌に触れることが少ないので、通気性が最大の
図10(d)の表面形状の低タック領域tを配置する。
【0050】
このように、人体の発汗分布に対応してそれぞれ表面形状の異なる低タック領域tを配置することにより、発汗時における生地の貼り付きの抑制と良好な通気性が得られる。
【0051】
さらに、各領域間を異なる編地を隣り合わせて構成することにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じやすくなる。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付けが抑制される。
【0052】
次に、具体的実施例に基づき本発明をさらに説明する。
【0053】
一般に、生地は表面に凹凸を有するため、生地と肌の接触では、主に生地表面の凸部が肌と接触する。ここで、
図12に示すように、生地をベース生地3と畝状凸部4の複合体とモデル化する。発汗などによって接触界面が水50で充填されつつ、着用者の運動に伴い生地と肌が剥離を繰り返す場合を考える。
【0054】
この場合、
図12及び
図13に示すように、接触界面に一定量の空気51が供給され、畝状凸部4と肌10sの接触部周辺に水が柱状に局在化すると考えられる。肌10s、水50、空気51が接する箇所に生じるメニスカスにより、水圧が負となる。この結果、生地と肌には付着力が発生する。水圧が負になるということは、接する全てのものを飲み込もうとする状態といえる。そのため、水を介して接触している生地と肌が引き合うことになる。このことから、
図12の枠aで囲んだ領域(
図13参照)の投影面積(断面積)を最小化することが付着力の最小化に結びつくと考えられる。よって、肌10sと接触する畝状凸部4の総数と、総断面積の最小化により、柱状の水50の断面積の最小化が達成されると推察される。
【0055】
そこで、本発明者等は、低タック性生地の設計パラメータの一つとして、肌と接触する生地の凸部の総断面積に着目した。ここで、生地投影面積に占める凸部の面積比率を凸部面積比率(Asperity area ratio)と定義する。
図14の俯瞰図に示す試料を用意して、凸部面積比率を測定した。
【0056】
図14に示す試料は、ポリエステル糸100%、繊度:56T/36F、33T/12Fの材料を用いピエゾジャカード技術搭載のダブルラッセル機を用いて、経編がダブルラッセルジャガード、組編がリブ組織からなる畝状凸部を有する編地を形成した。
【0057】
図14の俯瞰図に示すように、ベース生地に畝状の凸部が形成されたダブルラッセル編地である。
図14に示すように、10mm四方の生地表面を3次元形状測定機により測定し、その高さ分布(度数分布・ヒストグラム)を導出した。ここで、3次元形状測定機は、(株)キーエンス製のVR3000を用いた。
図14の試料を測定すると、
図15(a)及び
図15(b)が得られた。
図15(a)の白い領域が凹部となっており、その総面積が
図15(c)のヒストグラムの左側である。
図15(b)の白い領域が凸部となっており、その総面積が
図15(c)のヒストグラムの右側に相当する。
【0058】
次に、
図16から
図29の俯瞰図に示す試料を
図14に示す俯瞰図の試料と同じ材料、同じ機械を用いて作成した。比較例1は、メッシュ組織である。比較例2と実施例1~12は組編がリブ組織である。
【0059】
表1に示す5つの異なる種類の生地を生地試料として測定した。多くの生地試料の場合、凸部とベース面(凹部)それぞれに相当するピークが確認される。ここで、凸部に相当するピークの中央値よりも高い領域(肌との接触が想定される凸部領域)の面積比率を凸部面積比率(Asperity area ratio)と定義する。
【0060】
このように用意した5つの生地試料に対するタック性(付着力)の官能試験を行った。
【0061】
被験者は、30歳から60歳までの成人健常者、男性4名、女性2名の合計6名で、各生地試料を被験者の肌に乗せて剥離する作業を行って、その都度、べたつき感を1~5の
5段階で感覚的に評価してもらった。数字が大きくなるほどタック性が小さい、すなわち
、べたつき感小さい。
【0062】
官能試験は
図30の模式図で示す装置を用いて行った。各被験者の左上腕内側に各100mm×30mmに裁断した生地試料を設置し、
図30に示すように、生地試料100Sをクリップ101、ナイロン糸(0.1号)102、滑車103を用いて100gの錘104に接続する。そして、錘104の自由落下により肌から生地試料を剥離する。その際のタック性を5段階(タック性最小:5point、タック性最大:1point)にて被験者が評価した。
【0063】
各生地試料100Sは、官能試験直前に10秒以上イオン交換水の中に静置した後に、各被験者の左上腕内側に設置した。
【0064】
【0065】
表1及び
図31に、各生地試料の凸部面積比率と官能試験結果を示す。
【0066】
表1及び
図31から凸部面積比率の増大に伴い、官能値は減少することが確認できる。
2標本t検定に基づくと、比較例1と比較例2では有意差はなかった。一方、比較例2と実施例3では有意差があると判断できる。つまり、凸部面積比率を25.3%よりも小さくすることでタック性が減少することが示唆される。このことから、低タック性生地としては、畝状の凸部を有する編地において、凸部面積比率が25%以下、好ましくは、15%以下であることが適していると考えられる。
【0067】
次に、生地の表面形状と含水量について考察した結果を示す。
図16~
図29の俯瞰図に示す比較例1、2と実施例1~12を上記の材料と編機を用いて生地試料を策定した。
【0068】
表2に示す各生地試料は、10mm四方の表面形状を(株)キーエンス製のVR3000の3次元形状測定機にて測定し、表面粗さのパラメータとして二乗平均平方根高さSqを算出した。
【0069】
また、各生地試料(25mm×60mm)をイオン交換水に10秒含侵させた前後での質量変化から,単位面積当たりの保水量を算出した。
【0070】
【0071】
図32及び表2に二乗平均平方根高さS
qと保水量の関係を示す。二乗平均平方根高さS
qの増大に伴い、保水量が減少したことが分かる。発汗時でのシャツ重量の軽量化を達成する観点から,二乗平均平方根高さS
qが100μm以上1000μm以下、好ましくは、200μm以上1000μm以下であることが良いと判断できる。
【0072】
次に、身頃本体10に対する低タック領域の配置領域についてさらに説明する。
図5に示す人体サーモマッピングと
図6に示す人体発汗率分布図より、人体の前面中心上部と背面中心部において、温熱ストレスが最も高くなると考えられる。この領域に、凸部面積比率が15%以下のテキスタイルを配置することが好ましい。また、これらの領域から人体脇部の間の領域においても、肌とテキスタイルに軽度の張り付きが想定されることから、凸部面積比率が25%以下のテキスタイルの配置が好ましい。尚、人体脇部においては、肌とテキスタイルの接触が少ないことから、この限りではない。
【0073】
次に、本発明の具体例につき説明する。
図33は、本発明の具体例1にかかるシャツの前身頃側から見た平面図、
図34は、本発明の具体例1にかかるシャツの後身頃側から見た平面図である。
【0074】
図33及び
図34は、前身頃1及び後身頃2に異なる低タック領域tを畔状に配置している
【0075】
図33に示すように、前身頃1は、前側中央領域11、脇部領域13、前側中央領域1
1と脇部領域13との間の前側中間領域12により構成される。そして、前側中間領域1
2を前側中央領域11側に位置する第1中間領域12aと、脇部領域13側に位置する第3中間領域12c、第1中間領域12aと第3中間領域12cとの間に位置する第2中間領域12bの3つの領域に分けられている。脇部領域13は第3中間領域12cと隣接する第1脇部領域13aとその隣の第2脇部領域13bの2つの領域に分けられている。
【0076】
この具体例1においては、前述した生地試料として用いた実施例1(
図18参照)の表面形状、実施例3(
図20参照)の表面形状、実施例7(
図24参照)の表面形状、実施例10(
図27参照)の表面形状と4つの表面形状のパターンによる低タック領域tを構成するダブルラッセル編地を用いている。
図33及び
図34においては、実施例1は白抜き、実施例3はハッチング、実施例7はクロスハッチング、実施例10は破線のハッチングを施している。
【0077】
低タック領域tは次のように配置される。発汗量は前側中央領域11と第1中間領域12aと第2中間領域12bが多い。前身頃1は、生地の肌への貼り付けも考慮する。このため、前側中央領域11と第2中間領域12bは、同じ生地の種類を用い、その間の第1中間領域12aは生地の種類を変える。このことから、前側中央領域11と第2中間領域12bは、実施例1の表面形状の低タック領域tを配置する。第1中間領域12aは、保水量の少ない実施例7の表面形状のタック領域tを配置する。脇部領域13に隣接する第3中間領域12cは、前側中央領域11に比べ発汗量が少ないので、実施例3の表面形状の低タック領域tを配置する。第2脇部領域13bは肌に触れることが少ないので、通気性が最大の実施例10の表面形状の低タック領域tを配置する。第1脇部領域13aは、実施例7の表面形状の低タック領域tを配置する。
【0078】
図34に示すように、後身頃2は、後側中央領域21、脇部領域23、後側中央領域2
1と脇部領域23との間の後側中間領域22により構成される。そして、後側中間領域2
2を後側中央領域21側に位置する第1中間領域22aと、脇部領域23側に位置する第3中間領域22c、第1中間領域22aと第3中間領域22cとの間に位置する第2中間領域22bの3つの領域に分けられている。脇部領域23は第3中間領域22cと隣接する第1脇部領域23aとその隣の第2脇部領域23bの2つの領域に分けられている。
【0079】
低タック領域tは次のように配置される。発汗量は後側中央領域21が多いので、これら領域には、実施例1の表面形状の低タック領域tを配置する。第2中間領域22bは、後側中央領域21に比べ発汗量が少ないので、実施例3の表面形状の低タック領域tを配置する。第1中間領域22a及び第3中間領域22cは、生地の肌への貼り付きを考慮して、実施例7の表面形状の低タック領域tを配置する。第1脇部領域23aは肌に触れることが少ないので、通気性が最大の実施例10の表面形状の低タック領域tを配置する。第2脇部領域23bは実施例3の表面形状の低タック領域tを配置している。
【0080】
このように、人体の発汗分布に対応してそれぞれ表面形状の異なる低タック領域tを配置することにより、発汗時における生地の貼り付きの抑制と良好な通気性が得られる。
【0081】
さらに、各領域間を異なる編地を隣り合わせて構成することにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じやすくなる。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付けが抑制される。
【0082】
この本発明の具体例1を用いて着用評価を行った。着用評価については後述する。
【0083】
図35は、本発明の具体例2にかかるシャツの前身頃側から見た平面図、
図36は、本発明の具体例2にかかるシャツの後身頃側から見た平面図である。
【0084】
図35及び
図36は、前身頃1及び後身頃2に異なるダイヤモンド形状の低タック領域tを上下左右に配置した網目状配置である。
図35及び
図36においては、実施例1は白抜き、実施例3はハッチング、実施例7はクロスハッチング、実施例10は破線のハッチングを施している。
【0085】
身頃本体10の前身頃1は、前側中央領域11と、着用者の側部を覆う脇部領域13、及び前側中央領域11と脇部領域13との間の前側中間領域12を有する。
【0086】
この具体例2においては、前側中央領域11は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例1の表面形状の低タック領域tを複数個配置し、その実施例1の低タック領域tと隣り合うように、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例7の表面形状の低タック領域tを配置する。前側中央領域11において、最も総面積が大きいのが実施例1の低タック領域tである。
【0087】
前側中間領域12は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例1の表面形状の低タック領域tを複数個配置し、その実施例1の低タック領域tと隣り合うように、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例7の表面形状の低タック領域tを配置する。さらに、脇部領域13に隣接する前側中間領域12は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例3の表面形状の低タック領域tと平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例7の表面形状の低タック領域tが配置される。
【0088】
脇部領域13は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例3の表面形状の低タック領域tと、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例10の表面形状の低タック領域tが配置される。
【0089】
身頃本体10の後身頃2は、後側中央領域21と、着用者の側部を覆う脇部領域23及び後側中央領域21と脇部領域23との間の後側中間領域22を有する。
【0090】
この具体例2においては、後側中央領域21は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例1の表面形状の低タック領域tを複数個配置し、その実施例1の低タック領域tと隣り合うように、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例3の表面形状の低タック領域tを配置する。後側中央領域21において、最も総面積が大きいのが実施例1の低タック領域tである。
【0091】
後側中間領域22は、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例1の表面形状の低タック領域tを複数個配置し、その実施例1の低タック領域tと隣り合うように、平面視においてダイヤモンド形状に構成された実施例3の表面形状の低タック領域tを配置する。
【0092】
このように、人体の発汗分布に対応してそれぞれ表面形状の異なる低タック領域tを配置することにより、発汗時における生地の貼り付きの抑制と良好な通気性が得られる。
【0093】
さらに、各領域間を異なる編地を隣り合わせて構成することにより、その境に編地同士のゆがみ、萎縮が生じやすくなる。これにより、身体とシャツ100の間に隙間ができ、通気孔の機能を果たし、シャツ100内部の換気が促進され、発汗による身体への生地の貼り付けが抑制される。
【0094】
次に、本発明の具体例1及び具体例2の着用評価試験の結果について説明する。
【0095】
汗によるシャツの濡れ具合及びシャツの貼り付き度合を測定項目として、被験者4名に対し官能評価をした。実験は、温度を25℃、湿度を50%に設定した人工気象室において、具体例および比較例にかかるシャツを着用した被験者にトレッドミルで30分走行してもらい、その間に測定項目について評価をしてもらうことによって行った。なお、走行中は前方から送風して被験者に風を当てている。
【0096】
比較例として用意したシャツは全面がメッシュ素材である。各シャツの乾燥した状態における重量は比較例が53.2g、具体例1が46.1g、具体例2が45.8gであった。
【0097】
被験者Aは、走速度12.5Km/時間で30分走行した。着用順は具体例2、比較例、具体例1である。被験者Bは、走速度14.3Km/時間で30分走行した。着用順は比較例、具体例1、具体例2である。被験者Cは、走速度10.0Km/時間で30分走行した。着用順は比較例、具体例2、具体例1である。被験者Dは、走速度14.0Km/時間で30分走行した。着用順は具体例2、具体例1、比較例である。
【0098】
測定項目のうち、シャツの濡れ具合は、被験者へのアンケート形式により、4:濡れている、3:湿っている、2:一部湿っている、1:乾いている、の4段階で評価した。
【0099】
もう一方の測定項目であるシャツの肌への貼り付き具合は、同じく被験者へのアンケート形式により、×:全体がべったり貼り付いている、▲:2箇所以上貼り付いている、○ :一部が貼り付いている、又は貼り付いたり、離れたりしている、無:濡れているが貼り付きはない又はシャツが濡れ始めた又はシャツは濡れていない、の4段階で評価した。
【0100】
評価する部位は、胸、腹、左脇、背上、背下の5箇所である。そして、10分後、20分後、30分後にそれぞれの部位で評価した。
【0101】
測定結果を表3に示す。表3において、「1」~「4」の数字がシャツの濡れ具合の評価であり、「×」、「▲」、「○」がシャツの肌への貼り付き具合の評価である。なお、「×」、「▲」、「○」の記号がないところは、シャツの肌への貼り付き具合において上記「無」の評価に該当する。
【0102】
【0103】
表3において、例えば、比較的汗をかきやすい部分である胸部分の評価結果を見ると、汗をかき始める10分以降において、具体例1、2のシャツは比較例のシャツに比べ、貼りつき具合の評価が高い傾向にあることが分かる。これは、運動時の発汗量が最も多い身体部位に低タック領域を構成する編地を最適に配置したことと、異なる低タック領域を組み合わせたことにより、汗がシャツに浸透せずに流れ落ちやすくなったことと、シャツ内部の高通気性が得られたことに起因すると考えられる。
【0104】
上記した実施形態、変形例、具体例1、2は、袖が無いランニングシャツに適用したが、本発明はこれに限らず、袖を有するシャツにも適用できる。
【0105】
また、本発明は、生地表面に撥水加工した編地を用いてもよい。また、肌と接触しない編地の表面形状は問わない。さらに、本発明は、生地の化学組成(モノマー種と比率,ポリマー種と比率,分子量,直鎖又は分岐鎖,純度,含水率,粘弾性,化学組成に基づく濡れ性)、単繊維形状(断面形状,断面積,繊維長,直線状/巻き毛状,側面の表面粗さ)、紡績状態(単繊維本数,短繊維密度,捩り角度,短繊維間の摩擦係数)、織物構造(糸の種類と比率,糸の空間分布,生地厚さ,生地剛性)は限定されない。
【0106】
さらに、本発明は、生地を貫通する通気孔を設けてもよい。本発明は、超臨界流体染色を含む染料を用いて染色した生地を用いてもよい。
【0107】
さらに、シャツ以外の人の肌と接触する衣服に低タック領域を設けてもよい。例えば、ショートパンツ、レギンス、ロングパンツ、スコート、ワンピース等に低タック領域を用いることもできる。
【0108】
上述した実施形態と変形例の任意の組合せもまた本発明の実施形態として有用である。組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0109】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)着用者の前側を覆う前身頃及び着用者の後側を覆う後身頃を含む身頃本体を有するシャツであって、
前記前身頃及び前記後身頃の少なくとも一方に、畝状の凸部を有する編地により形成された低タック領域が配置され、
前記低タック領域は、前記畝状の凸部が着用者の肌に接する側に配置されるとともに、前記身頃本体の上下方向に延びて配置される、シャツ。
(2)前記身頃本体は、前記前身頃の中央部に上下方向に延びる前側中央領域と、前記後身頃の中央部に上下方向に延びる後側中央領域を有し、前記低タック領域は、前記前側中央領域の上部及び前記後側中央領域に配置されている、上記(1)に記載のシャツ。
(3)前記編地は、肌に接する裏面側生地とベース生地とを連結して設けられた畝状の凸部と、前記ベース生地からなる凹部とを、交互に配列された畝状ダブルラッセル編地により形成され、前記ベース生地は、メッシュ生地で構成される、上記(1)又は(2)に記載のシャツ。
(4)前記低タック領域は、前記畝状の凸部の幅及び前記畝状の凸部間の間隔の少なくとも1つが異なる、上記(1)から(3)のいずれかに記載のシャツ。
(5)前記身頃本体の前記前身頃は、着用者の側部を覆う脇部領域及び前記前側中央領域と前記脇部領域との間に前側中間領域を有し、前記前側中央領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx1、前記前側中間領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx2、前記脇部領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx3とそれぞれしたときに、x1<x2<x3を満たす、上記(1)から(4)のいずれかに記載のシャツ。
(6)前記身頃本体の前記後身頃は、前記後側中央領域と前記脇部領域との間に後側中間領域を有し、前記脇部領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx3、前記後側中央領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx4、前記後側中間領域に配置される低タック領域の畝状の隣接する前記凸部同士の間隔をx5とそれぞれしたときに、x4<x5<x3を満たす、上記(1)から(5)のいずれかに記載のシャツ。
(7)前記畝状の凸部は、起立している着用者の身体に対して上下方向に凹凸部が形成されている、上記(1)から(6)のいずれかに記載のシャツ。
(8)前記低タック領域が、畝状凸部の面積比率が1%以上25%以下且つ二乗平均平方根高さが100μm以上2000μm以下のダブルラッセル編地からなる、上記(1)から(7)のいずれかに記載のシャツ。
(9)前記低タック領域が、前記前身頃の50%以上、後身頃の50%以上に配置される、上記(8)に記載のシャツ。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、ランニングシャツなどのスポーツシャツに利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 :前身頃
2 :後身頃
3 :ベース生地
4 :畝状凸部
4a :裏面側生地
5 :凹部
10 :身頃本体
11 :前側中央領域
12 :前側中間領域
12a :第1中間領域
12b :第2中間領域
12c :第3中間領域
13 :脇部領域
21 :後側中央領域
22 :後側中間領域
23 :脇部領域
40 :編地
10s :肌
t :低タック領域