(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092993
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20240701BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20240701BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
D04B1/14
D02G3/38
D02G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217530
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022208953
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【弁理士】
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田倫子
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
【Fターム(参考)】
4L002AA01
4L002AA05
4L002AB00
4L002AB01
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC04
4L002AC07
4L002BA01
4L002BB02
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA01
4L036MA04
4L036MA08
4L036MA37
4L036MA39
4L036RA25
4L036UA01
4L036UA23
(57)【要約】
【課題】麻糸による編物を得ること。
【解決手段】本発明は、芯糸である水溶性の糸と、前記芯糸をその軸方向に巻回する鞘糸である麻糸と、を含む交撚糸を用いて編成する編物の製造方法に関する。前記のように得られた編物を水に浸漬して水溶性の糸を除去することにより、麻糸を含む、好ましくは麻糸のみで編成された編物を得ることができる。必要に応じて麻糸及び交撚糸の撚り係数を調整する事により、麻糸を用いた編物をより容易にかつより効率よく製造することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸である水溶性の糸と、前記芯糸をその軸方向に巻回する鞘糸である麻糸と、を含む交撚糸を用いて編成する編物の製造方法。
【請求項2】
前記麻糸がラミーの糸である、請求項1に記載の編物の製造方法。
【請求項3】
Z方向への撚り数を+の数値とし、S方向への撚り数を-の数値とした場合において、前記麻糸の撚り数+前記交撚糸の撚り数の絶対値に基づいて計算した撚り係数が0~7.7の範囲である、請求項1に記載の編物の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性の糸の素材が水溶性ビニロン樹脂である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編物、特に麻糸を用いた編物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麻糸は、繊維の強度が高く丈夫で、その光沢による高い意匠性が得られ、さらに身につけたときに清涼感を得ることができるため、被服や身の回り品を製造する際に好んで使用されている。
【0003】
前記の通り、麻糸は高い繊維強度を有しているが、それ故に生じる問題も抱えている。麻糸は、繊維の強度は高いが固くて柔軟性に乏しく、その軸方向に引っ張られることにより容易に切断してしまう。編み機等の機器を用いて編物を編む際には、編み糸がその軸方向に引っ張られるため、麻糸を用いた場合には糸切れが頻繁に生じ、編物を編み上げることが困難となる。したがって、麻糸を被服や身の回り品用途で使用する際、麻糸を織る事により得られる布を縫製して作成される事がほとんどである。前記の通り、身につけた際の清涼感が麻糸の大きな特徴であることから、織物と比較して伸縮性の高い編物を麻糸で製造できることが望まれる。
【0004】
ここで、以下に挙げる特許文献1は、芯部が単糸繊度0.6~2.2dtexのアルカリ易溶性短繊維から構成され、鞘部が単糸繊度0.6~2.2dtexのセルロース短繊維から構成され、かつ芯部と鞘部との質量比率(芯:鞘)が10:90~60:40の範囲にある紡績糸であり、撚係数が2.5~5.7で、太さが10~60番手であることを特徴とする複重層糸を開示している。特許文献1では、前記糸により軽量感と嵩高性が得られるとし、前記糸を用いて織編物が製造できるとしている。また、特許文献1では、前記セルロース短繊維がリネン又はラミーである事を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1において実施例で実際に製造されているのは綿繊維による織物であり、麻繊維を用いた編物は製造されておらず、麻糸を用いて編物を編む技術は確立していなかった。したがって、麻糸を用いて編物を製造できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の方法により前記課題が解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
[1]芯糸である水溶性の糸と、前記芯糸をその軸方向に巻回する鞘糸である麻糸と、を含む交撚糸を用いて編成する編物の製造方法、
[2]前記麻糸がラミーの糸である、[1]に記載の編物の製造方法、
[3]Z方向への撚り数を+の数値とし、S方向への撚り数を-の数値とした場合において、前記麻糸の撚り数+前記交撚糸の撚り数の絶対値に基づいて計算した撚り係数が0~7.7の範囲である、[1]に記載の編物の製造方法、並びに
[4]前記水溶性の糸の素材が水溶性ビニロン樹脂である、[1]に記載の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、麻糸、特に麻の繊維以外の繊維を実質的に含まない麻糸を用いて編物を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の方法に使用する交撚糸の拡大写真である。
【
図2】本発明の方法で使用できるイタリー撚糸機の一例を示す写真である。
【
図3】
図2のイタリー撚糸機で使用したボビンの拡大写真である。
【
図4】実施例において編成したテストピースの一例を示す写真である。
【
図5】編物のループ長を説明するための図面である。
【
図6】実施例1により得られた編物の断面拡大写真。
【
図7】実施例22により得られた編物の断面拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の編物の製造方法は、芯糸である水溶性の糸と、前記芯糸をその軸方向に巻回する鞘糸である麻糸と、を含む交撚糸を用いて編成する工程を含んでいる。以下に、本発明の方法で使用する糸及び当該糸を用いた製造方法の詳細について説明をする。
【0011】
1.麻糸
本発明の方法で使用する麻糸は、従来から織物等を製造する際に使用されてきた麻糸を特に制限無く使用出来る。麻糸の種類としては、ラミー及びリネンの糸のいずれも特に制限無く使用可能である。本発明においては、従来はその固さ故に編物を編むことができなかった、より固い麻の繊維であるラミーの繊維からなる糸を使用した場合であっても編物を製造可能である。また、本発明においては、麻糸が麻の繊維以外の繊維を実質的に含まない、好ましくは麻の繊維のみからなる麻糸を用いた場合でも編物を製造することが可能である。
【0012】
麻糸は、後述するように水溶性の糸と撚り合わせる前に、あらかじめ下撚りをしておくことが好ましい。下撚りを行う際の撚り係数は、地撚り方向に、好ましくは2.7~6.6、より好ましくは3.0~6.3、さらに好ましくは3.0~5.5である。なお、ここで、撚り係数とは以下の式により導かれる数値を意味する。
式1
式中、tは麻糸の撚り数を意味する。また、Nは、麻糸の太さを表す番手を、綿番手に換算した数値を意味する。
【0013】
下撚りの撚り係数が前記数値範囲である事により、麻糸を後述するような交撚糸にした際に、交撚糸を用いて編成する際の糸切れの可能性を下げることができる。なお、購入した麻糸が既に撚られている場合において、麻糸の撚り係数を前記数値範囲とするために、さらに撚り機を用いて撚りを加えても良い(以下、前記さらなる撚りを「追撚り」とする)。下撚り及び追撚りをする際には、従来から撚糸で用いられているリング撚糸機等が特に制限無く使用できる。
【0014】
2.水溶性の糸
本発明の方法で使用する水溶性の糸は、酸性、中性又はアルカリ性の冷水又は温水で溶解する素材からなる糸を意味する。このような糸の素材としては、有機物を主成分とする水溶性の成分が好ましい。このような水溶性の糸の成分として、例えば、ポリビニルアルコール及びポリエステル等が挙げられる。後述するように、編成した編物を水や温水に浸漬して水溶性の糸を除去する際に、水溶性の糸をより容易に溶解させることができ、また使用する水又は温水が中性でも溶解でき麻糸に与えるダメージを最小限に抑えられるため、水溶性の糸の素材として水溶性のポリビニルアルコール(ビニロン)樹脂を用いることがより好ましい。
【0015】
使用する水溶性の糸の太さについては、使用する麻糸の種類、太さ等に基づいて適宜調整可能である。例えば、水溶性糸の太さを、交撚糸の太さ(麻糸の太さ+水溶性糸の太さ)に対して、20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上とすることにより、交撚糸を用いて機械編成する際に、糸切れの発生を極力抑えつつより適切な編成速度(例えば0.6m/s以上の速度)で編成できる。
【0016】
3.交撚糸の調製
前記の通り、前記水溶性の糸を芯糸として、前記麻糸を鞘糸として、鞘糸により前記芯糸をその軸方向に巻回するように交撚糸を調製する。ここで、本発明における交撚糸の一態様を示す写真が
図1である。
図1に示すように、芯糸である水溶性の糸の周囲を鞘糸である麻糸が巻回している。交撚糸を調製する際には、前記のような芯鞘構造の糸を撚り合わせる事ができる機器を特に制限無く使用できる。前記のような機器として、例えば、イタリー撚糸機及びカバーリング機等が挙げられる。これら撚糸機のうち、袋錘機構を備えた撚糸機を用いて交撚糸を調製する。
【0017】
交撚糸の具体的な調製方法を、イタリー撚糸機を用いた場合に基づいて説明する。
図2は、袋錘機構を備えたイタリー撚糸機の写真である。
図3は、
図2のイタリー撚糸機で使用するボビン2の拡大写真である。
図2における1は水溶性の糸を芯に巻き付けてできたコーンである。コーン1から伸びた糸は、麻糸を巻き付けたボビン2の中心に開けられた孔を通されている。前記ボビン2にはボビン2の回転に合わせて回転するように取り付けられたフライヤー21が備えられており、フライヤー21の先端に設けられたループに麻糸が通されている。ボビン2の上部にはシリンダー3が備えられている。イタリー撚糸機を駆動させることにより、シリンダー3が水溶性の糸を巻き取るように回転を始める。同時に、ボビン2がフライヤー21と共に回転し、ボビン2の中心を通った水溶性の糸の周囲にボビン2から供給された麻糸がフライヤー21により巻き付けられる。水溶性の糸の周囲に麻糸が巻き付けられた糸は、シリンダー3に巻き取られる。シリンダー3に巻き取られた糸を用いて編成を行う事ができる。
【0018】
前記の通り、芯糸に鞘糸を巻回させて撚りが加わる(以下、芯糸に鞘糸を巻回させる際の撚りを、「上撚り)と称する)。上撚りを行う際の上撚りの撚り数のみを用いた撚り係数は、Z方向又はS方向に、好ましくは0.5~3.8、より好ましくは0.8~3.6、さらに好ましくは1.1~3.3である。なお、上撚りの撚り係数の計算は、前記式1を用いて計算し、麻糸の撚り数をtとして、麻糸の太さを表す番手を綿番手に換算した数値をNとして計算する。上撚りの撚り係数が前記数値範囲である事により、前記麻糸を後述するような交撚糸とした際に、交撚糸を用いて編成する際の糸切れの可能性を下げることができる。なお、撚りの方向はS方向又はZ方向のどちらでも良い。また、麻糸の撚りの方向と同じ(例えば、麻糸がZ方向に撚られている場合に、上撚りをZ方向に行う)でも良いし、麻糸のより方向と逆方向(例えば、麻糸がZ方向に撚られている場合に、上撚りをS方向に行う)でも良い。
【0019】
また、Z方向への撚り数を+の数値とし、S方向への撚り数を-の数値とした場合において、前記麻糸の撚り数+前記交撚糸の撚り数(上撚りの数)の絶対値に基づいて計算した撚り係数が、好ましくは0~7.7、より好ましくは0~7.1、さらに好ましくは0~6.6、さらにより好ましくは0~6.0の範囲であることがより好ましい。また、撚り係数が7.0以上の場合は、下撚りの撚り係数が6.3未満であることが好ましい。「麻糸の撚り数+前記撚り合わせた糸の撚り数の絶対値に基づいて計算した撚り係数」が前記数値範囲内にある事により、撚り合わせた糸を用いて編成する際の糸切れの可能性を下げることができる。なお、前記絶対値を用いた撚り係数の計算は、前記式1を用いて計算し、撚り数の絶対値をtとして、麻糸の太さを表す番手を綿番手に換算した数値をNとして計算する。
【0020】
前記の通り、本発明に係る交撚糸においては、一般的に麻糸よりも柔軟性の高い水溶性の糸の周囲を固い麻糸が巻回している。本発明の方法において前記交撚糸を使用することにより、鞘糸である固い麻糸が、芯糸であるより柔らかい水溶性の糸を中心としてらせんを描くことにより、編成時に交撚糸が軸方向に引っ張られる際に糸切れが起こる可能性を極力下げることができる。また、前記の通り、芯糸である水溶性の糸は一般的に有機物で構成されているところ、このような有機物で構成された糸は一般的に柔軟性が高い一方で物理的強度が低い傾向にある。したがって、このような水溶性の糸を単体で使用して編成を行う場合には、これら水溶性の糸が編機の部品(例えばローラー等)との間で摩擦を起こすことにより、水溶性の糸が切断する場合がある。一方、本発明の交撚糸では、鞘糸であるより固い麻糸でカバーされているため、芯糸である水溶性の糸が前記のような編機の部品と直接接触する機会を極力下げることができ、水溶性の糸が糸切れを起こす可能性を極力下げることができる。以上の通り、本発明の交撚糸を使用することにより、編成時、特に編機により編成を行う際に生じる問題が、麻糸の長所と水溶性の糸の長所との相乗効果により解消できる。
【0021】
また、前記のように前記麻糸の撚り数+前記交撚糸の撚り数(上撚りの数)の絶対値に基づいて計算した撚り係数を調整する事により、得られる編物の伸縮性や柔らかさ等の物性や、手触りや表面状態等の風合いを調整できる。例えば、前記撚り係数を0.3~4.1の範囲とすることにより、適度なシャリ感(ハリがあって、握ると反撥するような生地の触感)と柔らかさとを兼ね備えた編物を得ることが出来る。また、前記撚り係数を5.0~5.4の範囲とすることにより、シャリ感の強い編物を得ることが出来る。さらに、前記撚り係数を6.3~7.4の範囲とすることにより、伸縮性に優れ、表面がパイル地のような立体性を有する生地を得ることが出来る。
【0022】
4.交撚糸を用いた編成
本発明の方法においては、前記のように調製した交撚糸を用いるため、編成を行う際には、編物を製造する際に使用されるいかなる編機を用いて編成をする事が可能である。このような、編機として、例えば、よこ編機(横編機、丸編機及び靴下編機)及びたて編機(トリコット編機、ラッシェル編機及びミラニーズ編機)等を用いることができる。具体的な編成の方法については、各編機による通常の編成方法、編成条件により適宜調整可能である。もちろん、本発明に係る交撚糸を用いて手編みをする事も可能である。編み方についても、平編み(天竺編み)、ゴム編み(リブ編み)又はパール編みのいずれの編み方でも良い。
【0023】
編機を用いて編成を行う場合、編成の速度は、使用する編機の種類及び上記調製した交撚糸の状態により、適宜調整可能である。しかしながら、生産効率を考慮に入れると、編成速度が好ましくは0.3m/s以上、より好ましくは0.4m/s以上、さらに好ましくは0.6m/s以上である事が好ましい。
【0024】
5.編成後の後処理
前記交撚糸を用いて編成をし、得られた編物を、水又は温水に浸漬することにより、交撚糸に含まれる水溶性の糸が除去され、鞘糸である麻糸のみにより編成された編物を得ることができる。前記水又は温水には、必要に応じてアルカリ性物質又は酸性物質を添加しても良い。浸漬する際に使用する水の温度は、使用した水溶性の糸の種類等に応じて適宜調整可能である。なお、水溶性の糸の除去を効率よく進めるため、温水(例えば70℃の温水)を用いることがより好ましい。浸漬時間についても、使用した水溶性の糸の種類等に応じて適宜調整可能である。具体的な浸漬時間は、例えば、5~30分である。
【0025】
前記浸漬を終了した後、麻糸に残存する水溶性の成分を除去するために洗濯を行っても良い。洗濯の方法及び条件に特に制限は無く、通常の編物を洗濯する際の方法及び条件により洗濯することができる。洗濯をする際には、必要に応じて中性洗剤等の洗剤を用いても良い。また、洗濯方法も、手洗いでも良いし、洗濯機を用いた機械洗浄でも良い。
【0026】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、実施例が本発明の範囲に影響を与えないことは言うまでも無い。
【実施例0027】
1.実施例で使用する糸
麻糸(トスコ株式会社製ラミー麻糸:番手NeL60/1)(地撚り550T/m・Z)(麻の繊維のみからなる麻糸)(276dtex相当)
水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製:番手SF88-24(112KM))(88dtex)
水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製:番手SF31-12(212KM))(31dtex)
水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製:番手SF44-12(212KM)))(44dtex)
水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製:番手SF220-50(311KM))(220dtex)
水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製:番手SF330-100(211KM))(330dtex)
【0028】
2.実施例で使用する機器
下撚り 株式会社共立機械製作所製リング撚糸機(型番:今村式)
上撚り 久保田撚糸機株式会社製イタリー撚糸機(型番:TK型)
編機 株式会社島精機製作所製シマトロニックホールガーメントコンピューター横編機(型番:MACH2XS15L)
引張エネルギー測定試験機 カトーテック株式会社製引張りせん断試験機(型番:KES-FB1)
曲げ剛性測定試験機 カトーテック株式会社製純曲げ試験機(型番:KES-FB2)
【0029】
3.追撚り工程
前記撚糸機を用いて、前記麻糸を追撚した。追撚の条件は、200T/m・Z、400T/m・Z及び600T/m・Zとした。前記追撚により、麻糸の撚り数(下撚りの数)が750T/m・Z、950T/m・Z及び1150T/m・Zの麻糸がそれぞれ得られた。実施例及び比較例においては、前記麻糸に加えて、追撚をしていない糸(すなわち下撚りの数が550T/m・Zの糸)も使用した。
【0030】
4.交撚糸の調製(上撚り工程)
袋錘機構を備えた前記イタリー撚糸機を用いて、前記水溶性ビニロン糸(88dtexの糸)を芯糸とし、追撚していない麻糸及び前記のように追撚したそれぞれの麻糸を鞘糸として、上撚りを行った。下撚りと上撚りの撚り数の組み合わせが、以下の表1に示されている。
【表1】
表1において、麻糸の撚り数の行及び上撚りの撚り数の列において、Z方向の撚り数が+の数値で、S方向の撚り数が-で表されている。各実施例及び比較例のマス目における数値は、麻糸の撚り数+上撚りの撚り数(前記交撚糸の撚り数)の絶対値であり、括弧内の数値は当該絶対値に基づいて計算した撚り係数の数値である。括弧内に記載した撚り係数は、前記式1を用いて前記の通り計算して導き出した値である。なお、比較例においては、水溶性の糸を用いた上撚りを行わず、下撚りのみが行われた麻糸のみを単独で使用している。
【0031】
5.麻編物の製造
前記上撚り工程によって得られた各実施例又は比較例の同じ撚糸を2本引きそろえ、前記編機を用いて下記条件で編成を行った。
・密度15ゲージ
・ループの長さ:5.6mm、6.0mm及び6.4mm(各ループ長について150目×100コースとし、前記ループ長の順番を縦方向に2回繰り返して編成を行い1つのテストピースを編み上げた(
図4参照))(なお、ループ長とは、
図5におけるaからbを経由してcに至るまでの糸の長さを意味する)
・編み方:平編
・編成速度:0.3~0.8m/s
・その他編機の編成調整の設定:DSCSの色糸測長において色糸エラーが10.0~15.0%となるように設定
上記条件で編み上げられた編物を、70℃の温水で15分浸漬して水溶性ビニロン糸を溶解させ、次いで中性洗剤を用いて洗濯機によるドライコースにて洗濯を行い、仕上げを行った。
【0032】
6.編成性の評価
(1)編成速度
編成速度を0.8m/sから開始して0.3m/sまで徐々に下降させて、前記テストピースを編み上げることができる速度を測定した。具体的には、最初に0.8m/sで編成を開始し、下記基準において×に相当する場合、0.1m/sずつ編成速度を下降させた。編成速度を徐々に下降させ、下記基準において◎、○又は△に相当する基準に達した速度を編成速度とした。
(2)編成性の評価
以下の基準に従って評価を行った。
×:引きそろえた2本の糸が切れることにより編成ができなくなった状態
◎:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が1回以下
○:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が2回程度
△:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が3回以上
【0033】
試験の結果が、以下の表2に示されている。
【表2】
【0034】
表2に示すように、芯糸としての水溶性の糸を含まない麻糸のみで編成を行った各比較例においては編成が不可能か、又は編成が行えたとしても編成速度が極端に遅い結果となっている。一方で、本発明の方法により編成を行った場合には、良好な編成速度と共に編成が可能となっている。
【0035】
7.得られた編物の評価
前記編成試験によって得られた筒状の編物を「5.麻編物の製造」にて説明した方法と同じ方法により水溶性ビニロン糸を溶解除去後、洗濯した。乾燥後の筒状の編物のループ長6.0mmの部分を切断後、切り開いて平面状とし、試験片とした。前記試験片の長さ方向(Wale)及び幅方向(Course)における引張エネルギーと曲げ剛性を、前記引張エネルギー測定試験機及び曲げ剛性測定試験機により測定した。なお、測定条件は、前記これら機器におけるニットの標準測定条件である。測定結果が以下の表3に示されている。
【表3】
シャリ感の強い生地を得るには、Course方向の引張エネルギーが120~150gf・cm/cm
2であり、Wale方向の曲げ剛性が0.13gf・cm
2/cm以上である事が好ましい。上記実施例12及び14は前記条件を満たしていることから、これら撚り係数5.2の編物が強いシャリ感を示していることが解る。また、伸縮性が高い生地を得るには、Course方向の引張エネルギーが150gf・cm/cm
2以上であり、Wale方向の曲げ剛性が0.10gf・cm
2/cm以上である事が好ましい。上記実施例15、18、19、21及び22は上記条件を満たしていることから、これら撚り係数6.3~7.4の編物が高い伸縮性を有していることが解る。さらに、実施例19、21及び22は表面が立体的な表面形状を有している。なお、実施例1により得られた編物の断面写真が
図6に、実施例22により得られた編物の断面写真が
図7に示されている。
図6及び7との比較により、実施例22の編物が、パイル地のような立体的形状を有していることが解る。このことから、表面がパイル地のように立体的な形状を有するようにするためには、撚り係数6.3~7.4であることが好ましいことが解る。またさらに、適度なシャリ感と柔らかさとを兼ね備えた編物を得るには、Course方向の引張エネルギーが120gf・cm/cm
2未満であり、Wale方向の曲げ剛性が0.13gf・cm
2/cm未満である事が好ましい。上記実施例1~11、13、17及び比較例2は上記条件を満たしていることから、これら撚り係数0.3~4.1の編物が適度なシャリ感とやわらかさを有していることが解る。
【0036】
8.水溶性の糸の太さを変更した編成試験
下記表4の条件にて、水溶性ビニロン糸の太さを変化させつつ、下撚り及び上撚りの条件を振った交撚糸を用いて編成を行った。具体的には、使用する麻糸(NeL60/1)の太さが276dtex相当である。これに対して、使用する水溶性ビニロン糸の太さを31dtex(交撚糸の太さに対して約10%)、44dtex(交撚糸の太さに対して約14%)、88dtex(交撚糸の太さに対して約24%)、220dtex(交撚糸の太さに対して約44%)及び330dtex(交撚糸の太さに対して約54%)のように変化させて交撚した糸を用いて編成を行った。
(1)編成速度
編成速度を0.8m/sから開始して0.3m/sまで徐々に下降させて、前記テストピースを編み上げることができる速度を測定した。具体的には、最初に0.8m/sで編成を開始し、下記基準において×に相当する場合、0.1m/sずつ編成速度を下降させた。編成速度を徐々に下降させ、下記基準において◎、○又は△に相当する基準に達した速度を編成速度とした。
(2)編成性の評価
以下の基準に従って評価を行った。
×:引きそろえた2本の糸が切れることにより編成ができなくなった状態
◎:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が1回以下
○:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が2回程度
△:編成中に、引きそろえた2本の内の1本の糸が糸切れを起こした回数が3回以上
編成試験の結果が、以下の表4に示されている。
【表4】
上記表に示すように、水溶性ビニロン糸の太さを交撚糸の太さに対して好ましくは24%以上、さらに好ましくは44%以上とすることにより、撚り数及び撚り係数の数値にかかわらず、適切な編成速度を保持した状態で編成可能である。
【0037】
以下に、本発明のさらなる態様を示す:
[1]芯糸である水溶性の糸と、前記芯糸をその軸方向に巻回する鞘糸である麻糸と、を含む交撚糸を用いて編成する編物の製造方法、
[2]前記麻糸がラミーの糸である、[1]に記載の編物の製造方法、
[3]Z方向への撚り数を+の数値とし、S方向への撚り数を-の数値とした場合において、前記麻糸の撚り数+前記交撚糸の撚り数の絶対値に基づいて計算した撚り係数が0~7.7の範囲である、[1]又は[2]に記載の編物の製造方法、並びに
[4]前記水溶性の糸の素材が水溶性ビニロン樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
本発明の方法により、麻糸による編物を得ることができる。また、本発明の方法により得られる編物は、実質的に麻以外の繊維を含まない、好ましくは麻の繊維のみからなる編物を得ることができる。麻糸による編物は、織物と比較して伸縮性がより高いため、麻糸製品の清涼感をより向上させ、麻製品の用途をより広げることが可能となる。