(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092996
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】濃度測定装置及び濃度測定装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217745
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022208099
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】満塩 勝
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059EE04
2G059FF04
2G059GG02
2G059HH02
2G059JJ17
2G059JJ19
2G059JJ22
2G059KK01
2G059KK03
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】複数の物質の濃度を同時かつ高精度に測定することができる濃度測定装置及び製造方法を提供する。また、溶液に含まれる物質の濃度が低い場合、又は、溶液に測定対象以外の夾雑物が含まれる場合であっても物質を高精度に測定することができる濃度測定装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】直線偏光成分を含む光を一端から入射し、表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜10Aが形成された第1側面4aで直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部4Aを備え、濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜20Aが金属薄膜10A上に形成されている。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光成分を含む光を一端から入射し、表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜が形成された側面で前記直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部を備え、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜が前記金属薄膜上に形成されている、
濃度測定装置。
【請求項2】
前記選択膜は、金属ナノ粒子を含む、
請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記選択膜は、酸化グラフェンから成る層と、金属ナノ粒子から成る層とが交互に積層されて構成される、
請求項2に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
前記選択膜は、酸化グラフェンと金属ナノ粒子との混合層を含む、
請求項2に記載の濃度測定装置。
【請求項5】
前記選択膜は、前記混合層が積層されて構成される、
請求項4に記載の濃度測定装置。
【請求項6】
前記導波路部は、
前記側面として、前記一端から入射した光に含まれる第1直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第1側面と、前記一端から入射した光に含まれる、第1直線偏光成分とは偏光方向が異なる第2直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第2側面と、を有し、
前記第1側面に形成された金属薄膜上に、前記選択膜としての第1選択膜が形成されている、
請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項7】
前記第2側面に形成された金属薄膜上に、前記第1選択膜が吸着する物質とは異なる物質を選択的に吸着する第2選択膜が形成されている、
請求項6に記載の濃度測定装置。
【請求項8】
前記導波路部は、前記側面として、前記第1側面と平行な第3側面を有し、
前記第3側面に形成された金属薄膜上に、前記第1選択膜が形成されている、
請求項6に記載の濃度測定装置。
【請求項9】
前記導波路部は、前記側面として、前記第2側面と平行な第4側面を有し、
前記第4側面に形成された金属薄膜上に、前記第2選択膜が形成されている、
請求項7に記載の濃度測定装置。
【請求項10】
前記選択膜を前記金属薄膜に密着させる物質が前記金属薄膜上に吸着されている、
請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項11】
偏光方向が互いに異なる第1直線偏光成分及び第2直線偏光成分を含む光を一端から入射し、表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜が形成された側面で全反射させる柱状の導波路部と、
前記導波路部の一端から入射した入射光を他端で反射して、前記一端から出射する反射光を生成する反射部と、
前記複数の直線偏光成分を含む光を出射する投光部と、
前記投光部と前記導波路部の一端との間に挿入され、前記投光部から出射された光と、前記導波路部の一端から出射された反射光とを2方向に分離するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで分離された一方の反射光を、前記第1直線偏光成分の反射光と前記第2直線偏光成分の反射光とに分離する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで分離された前記第1直線偏光成分の反射光の強度を検出する第1検出部と、
前記偏光ビームスプリッタで分離された前記第2直線偏光成分の反射光の強度を検出する第2検出部と、
を備え、
前記導波路部は、前記側面として、前記第1直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第1側面と、前記第2直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第2側面と、を有し、
前記第1側面に形成された金属薄膜上に、第1濃度測定対象となる物質を選択的に吸着する第1選択膜が形成されている、
濃度測定装置。
【請求項12】
一端から入射した直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部の側面に表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜を生成し、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜形成液を前記金属薄膜上に充填可能な被覆用カバーを前記導波路部に取り付けて前記金属薄膜上に前記選択膜形成液を充填することにより、酸化グラフェンを含む選択膜を形成する、
濃度測定装置の製造方法。
【請求項13】
一端から入射した直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部の側面に表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜を生成し、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜形成液の前記金属薄膜への塗布又は前記選択膜形成液への前記金属薄膜の浸漬と乾燥とを、120℃以上に加熱することなく複数回繰り返すことにより、酸化グラフェンを含む選択膜を形成する、
濃度測定装置の製造方法。
【請求項14】
前記選択膜形成液の前記金属薄膜上への塗布又は浸漬と乾燥とを繰り返す回数を3回以上7回以下とする、
請求項13に記載の濃度測定装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定装置及び濃度測定装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(SPR)現象とは、金属表面に存在する自由電子と光が相互作用を起こし、金属と接触している媒体の屈折率に応じて光の一部が吸収される現象である。このSPR現象を利用して、石英ガラス棒(光ファイバのコア)の側面に数十nmの厚さの金属薄膜を形成し、石英ガラス棒の一端から入射し他端から出射した光の強度を測定することで、金属薄膜と接触している特定の物質の濃度と相関する屈折率が測定される。
【0003】
SPR現象を利用する測定装置として、2種類の物質の濃度を同時に測定可能な測定装置も開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された測定装置では、2種類以上の物質の濃度を同時に測定することが可能であるが、さらに高精度に物質の濃度を測定することが求められている。
【0006】
また、特許文献1に開示された測定装置では、例えば測定対象の濃度が低い場合、又は、溶液に測定対象以外の夾雑物が多く含まれる場合、測定対象の測定精度が低下する場合がある。
【0007】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、複数の物質の濃度を同時かつ高精度に測定することができる濃度測定装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、溶液に含まれる物質の濃度が低い場合、又は、溶液に測定対象以外の夾雑物が含まれる場合であっても物質を高精度に測定することができる濃度測定装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る濃度測定装置は、
直線偏光成分を含む光を一端から入射し、表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜が形成された側面で前記直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部を備え、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜が前記金属薄膜上に形成されている。
【0010】
この場合、前記選択膜は、金属ナノ粒子を含む、
こととしてもよい。
【0011】
前記選択膜は、酸化グラフェンから成る層と、金属ナノ粒子から成る層とが交互に積層されて構成される、
こととしてもよい。
【0012】
前記選択膜は、酸化グラフェンと金属ナノ粒子との混合層を含む、
こととしてもよい。
【0013】
前記選択膜は、前記混合層が積層されて構成される、
こととしてもよい。
【0014】
前記導波路部は、
前記側面として、前記一端から入射した光に含まれる第1直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第1側面と、前記一端から入射した光に含まれる、第1直線偏光成分とは偏光方向が異なる第2直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第2側面と、を有し、
前記第1側面に形成された金属薄膜上に、前記選択膜としての第1選択膜が形成されている、
こととしてもよい。
【0015】
前記第2側面に形成された金属薄膜上に、前記第1選択膜が吸着する物質とは異なる物質を選択的に吸着する第2選択膜が形成されている、
こととしてもよい。
【0016】
前記導波路部は、前記側面として、前記第1側面と平行な第3側面を有し、
前記第3側面に形成された金属薄膜上に、前記第1選択膜が形成されている、
こととしてもよい。
【0017】
前記導波路部は、前記側面として、前記第2側面と平行な第4側面を有し、
前記第4側面に形成された金属薄膜上に、前記第2選択膜が形成されている、
こととしてもよい。
【0018】
前記選択膜を前記金属薄膜に密着させる物質が前記金属薄膜上に吸着されている、
こととしてもよい。
【0019】
本発明の第2の観点に係る濃度測定装置は、
偏光方向が互いに異なる第1直線偏光成分及び第2直線偏光成分を含む光を一端から入射し、表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜が形成された側面で全反射させる柱状の導波路部と、
前記導波路部の一端から入射した入射光を他端で反射して、前記一端から出射する反射光を生成する反射部と、
前記複数の直線偏光成分を含む光を出射する投光部と、
前記投光部と前記導波路部の一端との間に挿入され、前記投光部から出射された光と、前記導波路部の一端から出射された反射光とを2方向に分離するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで分離された一方の反射光を、前記第1直線偏光成分の反射光と前記第2直線偏光成分の反射光とに分離する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで分離された前記第1直線偏光成分の反射光の強度を検出する第1検出部と、
前記偏光ビームスプリッタで分離された前記第2直線偏光成分の反射光の強度を検出する第2検出部と、
を備え、
前記導波路部は、前記側面として、前記第1直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第1側面と、前記第2直線偏光成分の励起光がP偏光として入射する第2側面と、を有し、
前記第1側面に形成された金属薄膜上に、第1濃度測定対象となる物質を選択的に吸着する第1選択膜が形成されている。
【0020】
本発明の第3の観点に係る濃度測定装置の製造方法は、
一端から入射した直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部の側面に表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜を生成し、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜形成液を前記金属薄膜上に充填可能な被覆用カバーを前記導波路部に取り付けて前記金属薄膜上に前記選択膜形成液を充填することにより、酸化グラフェンを含む選択膜を形成する。
【0021】
本発明の第4の観点に係る濃度測定装置の製造方法は、
一端から入射した直線偏光をP偏光として全反射させる柱状の導波路部の側面に表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜を生成し、
濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含む選択膜形成液の前記金属薄膜への塗布又は前記選択膜形成液への前記金属薄膜の浸漬と乾燥とを、120℃以上に加熱することなく複数回繰り返すことにより、酸化グラフェンを含む選択膜を形成する。
【0022】
前記選択膜形成液の前記金属薄膜上への塗布又は浸漬と乾燥とを繰り返す回数を3回以上7回以下とする、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複数の物質の濃度を同時かつ高精度に測定することができる。また、本発明によれば、溶液に含まれる物質の濃度が低い場合、又は、溶液に測定対象以外の夾雑物が含まれる場合であっても物質を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の実施の形態1に係る濃度測定装置の構成を示す模式図である。
【
図1B】
図1Aの濃度測定装置の光路を示す第1模式図である。
【
図1C】
図1Aの濃度測定装置の光路を示す第2模式図である。
【
図2B】第1選択膜が形成された導波路部での測定結果を示すグラフである。
【
図2C】第1選択膜が形成されていない導波路部での測定結果を示すグラフである。
【
図3A】第1選択膜を形成する第1の方法を示す図である。
【
図3B】第1の方法で用いられる被覆カバーの構造を示す図である。
【
図3C】第1選択膜を形成する第2の方法を示す図である。
【
図4】第1選択膜として酸化グラフェンを用いた場合の規格化透過光強度の測定結果の一例を示すグラフである。
【
図6A】本発明の実施の形態2に係る濃度測定装置の構成を示す模式図である。
【
図6B】金属薄膜に第1選択膜の被覆がない場合の測定結果を示す図である。
【
図6C】第1選択膜が形成される様子を示す図である。
【
図6D】第1選択膜が形成されていない金属薄膜での測定結果を示す図である。
【
図6E】第1選択膜が形成された金属薄膜での測定結果を示す図である。
【
図7A】本発明の実施の形態3に係る濃度測定装置における導波路部の構造を示す模式図である。
【
図7B】第3選択膜が形成されていない金属薄膜での測定結果を示す図である。
【
図7C】第3選択膜が形成された金属薄膜での測定結果を示す図である。
【
図8A】グルコースの測定結果の一例を示すグラフである。
【
図8B】カテキンの測定結果の一例を示すグラフである。
【
図8C】エタノールの測定結果の一例を示すグラフである。
【
図8D】アデニンの測定結果の一例を示すグラフである。
【
図9A】塗布回数が互いに異なる第3選択膜での測定結果の第1例を示すグラフである。
【
図9B】塗布回数が互いに異なる第3選択膜での測定結果の第2例を示すグラフである。
【
図9C】塗布回数が互いに異なる第3選択膜での測定結果の第3例を示すグラフである。
【
図9D】塗布回数が互いに異なる第3選択膜での測定結果の第4例を示すグラフである。
【
図10A】5回被覆して形成された第3選択膜を用いて加熱なしで測定された測定結果の一例を示すグラフである。
【
図10B】5回被覆して形成された第3選択膜を用いて120℃に加熱した場合の測定結果の一例を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態5に係る濃度測定装置における第4選択膜の構造を示す模式図である。
【
図12A】
図11の第4選択膜を用いて加熱なしで測定された測定結果の一例を示すグラフである。
【
図12B】
図11の第4選択膜を用いて120℃に加熱した場合の測定結果の一例を示すグラフである。
【
図17A】金属薄膜上に酸化グラフェンから成る膜が形成されていない濃度測定装置でのコーヒー中のカフェインの濃度の測定結果の一例を示す図である。
【
図17B】金属薄膜上に酸化グラフェンから成る膜が5層積層されて構成される第1選択膜が形成された濃度測定装置でのコーヒー中のカフェインの濃度の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。本実施形態では、適宜、図面に表されたXYZ3軸直交座標系にしたがって説明を行う。
【0026】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1Aに示すように、本実施の形態に係る濃度測定装置1Aは、電源2と、投光部としての発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)3と、導波路部4Aと、レンズ5と、偏光ビームスプリッタ6と、第1検出部7Aと、第2検出部7Bと、測定部8A、8Bと、表示装置9と、パイプライン11と、を備える。
【0027】
電源2は、LED3(Light Emitting Diode)に電流を供給する直流安定化電源である。LED3は、電源2から供給された電流により光を出射する。LED3から出射された光は、表面プラズモン共鳴現象を発生させることが可能な波長帯域の励起光であり、例えば波長654nmの赤色光である。この光は、偏光方向が互いに異なる複数の直線偏光成分を含んでいる。
【0028】
図1Bには、励起光のうち、X軸に沿ったa-aの方向を偏光方向とする第1直線偏光成分の励起光IL1が示されており、
図1Cには、励起光のうち、Y軸に沿ったb-bの方向を偏光方向とする第2直線偏光成分の励起光IL2が示されている。LED3は、この励起光IL1、IL2を、複数の直線偏光成分として含む励起光を出射する。
【0029】
導波路部4Aは、角柱状の導光部材である。本実施の形態では、導波路部4Aは、細長い正方形角柱である。LED3は、導波路部4Aの底面であるその一端に接するように配置されている。導波路部4Aは、その一端からLED3から出射された励起光を入射し、他端から出射する。
図1B及び
図1Cでは、導波路部4Aの光軸をAXとして示している。
【0030】
導波路部4Aには、側面として、第1側面4aと、第2側面4b、とが設けられている。
図1Bに示すように、第1側面4aの法線はX軸に平行であり、入射した励起光IL1に含まれる第1直線偏光成分がP偏光として入射する。導波路部4Aの一端から入射した励起光IL1は、第1側面4aで全反射しつつ、他端から出射する。また、
図1Cに示すように、第2側面4bの法線はY軸に平行であり、入射した励起光IL2に含まれる第2直線偏光成分がP偏光として入射する。導波路部4Aの一端から入射した励起光IL2は、第2側面4bを含む側面で全反射しつつ、他端から出射する。
【0031】
図1B及び
図1Cに示すように、導波路部4Aにおいて、第1側面4aには金属薄膜10Aが形成されており、第2側面4bには金属薄膜10Bが形成されている。本実施の形態では、この金属薄膜10A、10Bの材質は金である。この金属薄膜10A,10Bは、第1側面4a及び第2側面4bで全反射する励起光IL1,IL2により、表面プラズモン現象を生じさせるために設けられている。
【0032】
図1Aに戻り、レンズ5は、屈折光学系であり、導波路部4Aから光が出射される出射端に配置されている。レンズ5は、導波路部4Aから出射された光を集光して、偏光ビームスプリッタ6に入射させる。
【0033】
偏光ビームスプリッタ6は、導波路部4Aの光軸AX上に配置されている。
図1Bに示すように、第1直線偏光成分の励起光IL1は、偏光ビームスプリッタ6を直進し、
図1Cに示すように、第2直線偏光成分の励起光IL2は、偏光ビームスプリッタ6で反射される。
【0034】
図1A、
図1B及び
図1Cに示すように、第1検出部7Aは、第1直線偏光成分の励起光IL1の光強度を検出する。一方、第2検出部7Bは、第2直線偏光成分の励起光IL2の光強度を検出する。第1検出部7A及び第2検出部7Bは、例えばフォトダイオードであり、受光した光強度に対応する電流を発生させる。第1検出部7Aで発生した電流は、コンデンサ及び抵抗より成る受光回路により電圧に変換されて測定部8Aに入力される。また、第2検出部7Bで発生した電流は、コンデンサ及び抵抗より成る受光回路により電圧に変換されて測定部8Bに入力される。
【0035】
測定部8A、8Bは、励起光IL1,IL2が第1側面4a,第2側面4bで全反射する際に発生する表面プラズモン共鳴現象により減衰する励起光IL1、IL2の光強度を測定する。
図1Aに示すように、パイプライン11は、導波路部4Aの周囲に配置され、第1濃度測定対象である物質12を含む液体(溶媒)が流れる流路であり、その物質12の濃度に応じて、液体の屈折率が変化する。測定部8A、8Bは、この性質を利用して、第1濃度測定対象である物質12の濃度を測定する。測定部8A,8Bの測定結果は、表示装置9に表示される。なお、パイプライン11として、例えば内径4mm、長さ11cmのガラス管内に試料導入・排出用のテフロン(登録商標)チューブとともにエポキシ樹脂で固定してフローセルとしたものを用いることができる。
【0036】
[導波路部の詳細構成]
導波路部4Aについて、より詳細に説明する。
図2Aに示すように、導波路部4Aは、光軸AXの方向(Z軸方向)に延びる細長い正方形柱状のガラス棒である。導波路部4Aとしては、屈折率が高いものを用いるのが望ましく、例えば1.458である。導波路部4Aの+X側の側面が、第1側面4aであり、+Y側の側面が、第2側面4bである。本実施の形態では、金属薄膜10Aが第1側面4aに形成され、金属薄膜10Bが第2側面4bに形成される。金属薄膜10A、10Bの厚さは、例えば45nmである。
【0037】
また、導波路部4Aには、第3側面4cと第4側面4dとが形成されている。第3側面4cは、第1側面4aと平行であり、-X方向を向いている。また、第4側面4dは、第2側面4bと平行であり、-Y方向を向いている。導波路部4Aの一端に入射した励起光IL1は、第1側面4a及び第3側面4cにそれぞれ少なくとも1回全反射して、端部から出射する。導波路部4Bの一端に入射した励起光IL2は、第2側面4b及び第4側面4dにそれぞれ少なくとも1回全反射して、端部から出射する。
【0038】
図2Aに示すように、導波路部4Aでは、第1側面4aに形成された金属薄膜10A上に、第1選択膜20Aが形成されている。第1選択膜20Aは、第1濃度測定対象の物質12を選択的に吸着する。「選択的に吸着」とは、溶液に含まれる物質のうち、特定の物質を他の物質よりも高い吸着率で吸着することをいう。第1選択膜20Aの材質は、第1濃度測定対象の物質12に応じて選択される。例えば第1濃度測定対象の物質12がエタノールである場合、第1選択膜20Aの材質を、2,2-ビストリフルオロメチル‐4,5‐ジフルオロ1,3‐ジオキサレートフルオロエチレン共重合体(以下、テフロン(登録商標)AF2400と称する)とすることができる。また、第1濃度測定対象の物質12がカフェインである場合、第1選択膜20Aの材質を、酸化グラフェンとすることができる。
【0039】
図2Bには、第1濃度測定対象の物質12をエタノールとして、第1選択膜20Aの材質をテフロン(登録商標)AF2400としたときの第1直線偏光成分の励起光IL1による濃度測定結果が示されている。エタノールのみを含む溶液Aと、エタノールの濃度が同じでブドウ糖を5重量%添加した溶液Bとで、測定される濃度の比較を行ったところ、溶液Aと溶液Bとで、測定されるエタノールの濃度は一致する。
【0040】
図2Cには、同じ条件での第2直線偏光成分の励起光IL2による濃度測定結果が示されている。
図2Cでは、横軸が、測定される屈折率となっている。溶液Aと溶液Bとで、測定される濃度に相関する屈折率の比較を行ったところ、溶液Aと溶液Bとでは、エタノールの濃度が同じであっても、測定される屈折率、すなわちエタノールの測定濃度に違いが生じている。これは、溶液中のブドウ糖の存在により、エタノールの濃度に測定誤差が出ることを示している。
【0041】
これらの測定結果は、本実施の形態に係る濃度測定装置1Aでは、金属薄膜10A上に第1選択膜20Aを形成することにより、すなわち第1濃度測定対象の物質12を第1選択膜20Aに選択的に吸着させることにより、他の物質の有無に関わらず、第1濃度測定対象の物質12の濃度を正確に測定することができることを示している。この濃度測定装置1Aによれば、複数種類の物質が混合する溶液において、特定の物質の濃度を測定するのに好適である。
【0042】
なお、金属薄膜10Bについては第1選択膜20Aが設けられていないため、金属薄膜10Bでの測定結果は、溶液中に含まれる複数種類の物質の全体の濃度に応じた屈折率となる。導波路部4Aを用いれば、ある特定の物質の濃度測定と、溶液に含まれるすべての物質の平均濃度の測定とが同時に可能となる。
【0043】
また、導波路部4Aは、第1選択膜20Aの材質の発見に用いることも可能である。特定の物質を含む溶液について、金属薄膜10Aでの測定結果と、金属薄膜10Bでの測定結果とに大きな違いが出た場合、そのときの第1選択膜20Aを構成する材質が、特定の物質の測定に感度のある物質となる。
【0044】
[選択膜の形成方法]
次に、濃度測定装置1Aの製造方法、具体的には、導波路部4Aの製造工程の一部について説明する。まず、導波路部4Aの母体として正方形角柱状のガラス棒が形成される。そして、真空蒸着により、第1側面4aに金属薄膜10Aが形成され、第2側面4bに金属薄膜10Bが形成される。このようにして、一端から入射したP偏光を全反射させる柱状の導波路部4Aの側面(第1側面4a及び第2側面4b)に表面プラズモン共鳴現象を生じさせる金属薄膜10A、10Bが生成される。
【0045】
なお、必要に応じて、第1選択膜20Aとの密着性を高めるための物質を、金属薄膜10Aの上に吸着させるとよい。例えば、金属薄膜10Aが金で、第1選択膜20Aがテフロン(登録商標)AF2400である場合、第1選択膜20Aを形成する前に、金属薄膜10A上に接着剤として作用するパーフルオロデカンチオールを吸着させるようにすればよい。
【0046】
その後、第1選択膜20Aが形成される。その形成方法には、以下の2つの方法がある。
(1)
図3A及び
図3Bに示すように、第1濃度測定対象の物質12を選択的に吸着する物質を含む選択膜形成液が金属薄膜10Aから漏れないように充填可能な被覆用カバー30を導波路部4Aに取り付けて金属薄膜10A上にその選択膜形成液を例えば駒込ピペット31を用いて充填することにより、物質を含む第1選択膜20Aを形成する。
【0047】
(2)
図3Cに示すように、第1濃度測定対象の物質12を選択的に吸着する物質を含む選択膜形成液を金属薄膜10A上に例えば綿棒32を用いて塗布又は選択膜形成液に金属薄膜10Aを浸漬し、その後乾燥させる工程を複数回繰り返す。上記工程は、導波路部4Aを加熱せずに行われる。選択膜形成液として常温の液が用いられ、乾燥の方法として、自然乾燥が採用される。上記工程の繰り返し回数は、3回以上7回以下が好ましく、3回以上5回以下がより好ましい。
【0048】
[変形例1]
なお、本実施の形態では、第1濃度測定対象の物質12をエタノールとし、第1選択膜20Aを構成する物質をテフロン(登録商標)AF2400としている。第1濃度測定対象の物質12が他の物質である場合、第1選択膜20Aについては、他の物質で構成されるものが用いられる。
【0049】
例えば、前述のように、第1濃度測定対象の物質12がカフェインである場合、第1選択膜20Aの材質として、酸化グラフェン(Graphene Oxide;OG)を用いるのが望ましい。
図4では、第1選択膜20Aが形成されていない金属薄膜10B(第1選択膜20A無)でのある溶液中のカフェインの測定結果と、第1選択膜20Aが形成された金属薄膜10A(第1選択膜20A有)での同溶液中のカフェインの測定結果との両方が示されている。ここでは、金属薄膜10A、10Bに暴露する溶液に含まれるカフェインの濃度を0%、0.01%、0.05%、0%、0.1%、0%と900秒毎に変更していった場合の金属薄膜10A、10Bでの感度(規格化透過光強度の変化)が示されている。以降の測定結果は、このように測定対象の濃度を変更していった場合の感度を示すものである。
【0050】
図4に示すように、金属薄膜10Bで第1選択膜無しの場合には屈折率には表れないほどの低濃度のカフェインであっても、酸化グラフェンから成る第1選択膜20Aが形成された金属薄膜10Aの方で測定すれば、微量のカフェインを高感度に検出することができる。なお、この測定結果に係る第1選択膜20Aは、酸化グラフェンを綿棒32(
図3C参照)で塗布し乾燥させることにより形成されたものである。
【0051】
[変形例2]
また、濃度測定装置1Aでは、導波路部4Aに代えて、
図5Aに示す導波路部4Bを用いることが可能である。導波路部4Bでは、第2側面4bに形成された金属薄膜10A上に、第1濃度測定対象の物質12とは異なる第2の濃度測定対象の物質13を選択的に吸着する第2選択膜20Bが形成されている。導波路部4Bを用いれば、2つの異なる物質の濃度を同時かつ正確に計測することが可能である。
【0052】
さらに、導波路部4Bに代えて、
図5Bに示す導波路部4Cを用いることが可能である。導波路部4Cでは、第3側面4cに形成された金属薄膜10Cが形成され、金属薄膜10C上に第1選択膜20Aが形成されている。このような構成であれば、第1側面4aでも第3側面4cでも表面プラズモン共鳴現象を発生させることができるので、全反射する励起光IL1の光強度の検出感度を上げることが可能となる。
【0053】
さらに、導波路部4Bに代えて、
図5Cに示す導波路部4Dを用いることが可能である。導波路部4Dでは、第4側面4dに金属薄膜10Dが形成され、金属薄膜10D上に第2選択膜20Bが形成されている。このような構成であれば、第2側面4bでも第4側面4dでも表面プラズモン共鳴現象を発生させることができるので、全反射する励起光IL2の光強度の検出感度を上げることが可能となる。
【0054】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図6Aに示す本実施の形態に係る濃度測定装置1Bは、表面プラズモン共鳴現象を利用して、物質の濃度を測定する装置である点については、上記実施の形態1に係る濃度測定装置1Aと同じである。
【0055】
濃度測定装置1Bは、LED3、導波路部4A、レンズ5、偏光ビームスプリッタ6、第1検出部7A及び第2検出部7Bを備える点は、濃度測定装置1Aと同じである。また、濃度測定装置1Bは、電源2、測定部8A、8B、表示装置9を備える点は、濃度測定装置1Aと同じであるが、
図6Aでは、その図示が省略されている。濃度測定装置1Bは、この他、反射部40と、ビームスプリッタ41と、第3検出部7Cと、を備える。
【0056】
反射部40は、導波路部4Bの一端から入射した入射光を他端で反射して、一端から出射する反射光を生成する。ビームスプリッタ41は、LED3と導波路部4Aの一端との間に挿入され、LED3から出射された光と、導波路部4Aの一端から出射された反射光とを2方向に分離する。
【0057】
LED3から出射された複数の直線偏光成分を含む光は、ビームスプリッタ41で2方向に分離され、一方は、レンズ5を経て導波路部4Aに入射し、他方は、第3検出部7Cに入射する。第3検出部7Cは、ビームスプリッタ41から出た光の光強度を検出する。第3検出部7Cで検出された光強度は、LED3の光源の光強度の補正に用いられる。
【0058】
導波路部4Aの一端から入射した光は、第1側面4a及び第2側面4b等で全反射しつつ、導波路部4Aの他端に到達し、反射部40で反射して反射光となる。この反射光は、再び第1側面4a及び第2側面4b等で全反射しつつ導波路部4Aの一端から出射し、レンズ5を経てビームスプリッタ41に入射する。ビームスプリッタ41では、反射光の一部が反射して、偏光ビームスプリッタ6に入射する。
【0059】
偏光ビームスプリッタ6は、ビームスプリッタ41から入射した反射光を、第1直線偏光成分の励起光IL1と第2直線偏光成分の励起光IL2とに分離する。第1検出部7Aは、偏光ビームスプリッタ6で分離された第1直線偏光成分の励起光IL1の強度を検出する。第2検出部7Bは、偏光ビームスプリッタ6で分離された第2直線偏光成分の励起光IL2の強度を検出する。
【0060】
この濃度測定装置1Bでは、導波路部4A内部で光を往復させることができるので、導波路部4Aの長さを半分にしても、
図1Aに示す濃度測定装置1Aと同じ測定結果を得ることができる。
【0061】
また、導波路部4Aの周囲に、パイプライン11を形成しなくても、容器に入った溶液に導波路部4Aを浸すだけで物質12の濃度測定が可能になる。
【0062】
また、導波路部4Aの長さを同じとすれば、光に導波路部4Aを往復させるようになるので、第1側面4a及び第2側面4bで全反射する回数を増やすことができる。このため、光強度の検出感度を上げることが可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態では、導波路部4Aを用いている。しかしながら、導波路部4Aに代えて、導波路部4B~4D(
図5A~
図5C参照)を用いることも可能である。
【0064】
図6Bに示すように、第1選択膜20Aの被覆がない金属薄膜10A上に蒸留水、エタノール水溶液10%、50%、100%を、この順に、1試料ずつ、300秒間流したときの応答を確認したところ、それぞれの溶液において大きな変化はみられていない。
【0065】
ここで、金属薄膜10A上に第1選択膜20Aを形成する。第1選択膜20Aは、酸化グラフェンで構成される。例えば、
図6Cに示すように、被覆用カバー30で周囲が囲まれた金属薄膜10A上に、エアスプレー60で酸化グラフェン水溶液を噴霧することにより、酸化グラフェンから成る第1選択膜20Aが形成される。
【0066】
図6Dには、蒸留水、グルコース2%水溶液、グルコース2%水溶液に0.1%のカフェインを添加した溶液、蒸留水を、この順に、1試料ずつ、900秒間、第1選択膜20Aが形成されていない金属薄膜10A上に流したときの応答が示されている。
図6Dに示すように、グルコース2%水溶液から、0.1%のカフェインが添加されたグルコース2%水溶液へ切り替わる際、規格化透過光強度に大きな変化はない。
【0067】
図6Eには、蒸留水、グルコース2%水溶液、グルコース2%水溶液に0.1%のカフェインを添加した溶液、蒸留水を、この順に、1試料ずつ、900秒間、第1選択膜20Aが形成された金属薄膜10A上に流したときの応答が示されている。
図6Eに示すように、グルコース2%水溶液から、0,1%のカフェインが添加されたグルコース2%水溶液へ切り替わる際、規格化透過光強度が大きく変化している。このことは、酸化グラフェンから成る第1選択膜20Aを形成することにより、0.1%のカフェインを検出可能であることを示している。
【0068】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
図7Aに示すように、本実施の形態に係る濃度測定装置1Cは、導波路部4Aの代わりに導波路部4Eを用いる点が、上記実施の形態1に係る濃度測定装置1Aと異なる。また、本実施の形態に係る濃度測定装置1Cでは、
図1の濃度測定装置1Aのように、偏光ビームスプリッタ6、第1検出部7A及び第2検出部7Bの一方、測定部8A,8Bの一方は必要ない。
【0069】
図7Aに示すように、導波路部4Eは、丸棒、すなわち円柱状のガラス棒である。ガラス棒の側面の一部に、金属薄膜10Eが形成されている。この金属薄膜10Eは、例えば真空蒸着により形成される。導波路部4Eの直径は例えば2mmであり、金属薄膜10E
の厚さは、例えば45nmである。
【0070】
また、導波路部4Eの金属薄膜10E上を含む外周側面には、第3選択膜20Cが形成されている。第3選択膜20Cは、濃度測定対象を選択的に吸着する酸化グラフェンを含んでいる。
【0071】
図7Bには、濃度0%、16.5%、0%、83.5%、0%のコーヒーをこの順に1試料ずつ、300秒間、第3選択膜20Cが形成されていない金属薄膜10E上に流したときの応答が示されている。各コーヒーにおけるカフェインの濃度は、それぞれ0%、0.01%、0%、0.05%、0%である。また、
図7Cには、濃度0%、16.5%、0%、83.5%、0%の市販のコーヒーをこの順に1試料ずつ。900秒間、第3選択膜20Cが形成された金属薄膜10E上に流したときの応答が示されている。各コーヒーにおけるカフェインの濃度は、それぞれ0%、0.01%、0%、0.05%、0%である。
図7Bと
図7Cとを比較するとわかるように、第3選択膜20Cが形成されている場合、カフェインに対する応答が大きくなっている。
【0072】
また、酸化グラフェンから成る第3選択膜20Cは、グルコースには感度がなく(
図8A参照)、カテキン(
図8B参照)、エタノール(
図8C参照)、アデニン(
図8D参照)に感度を有する。このため、導波路部4Eを用いれば、例えば、カテキンとグルコースを含む溶液であっても、カテキンの濃度を正確に測定することが可能となる。
【0073】
なお、0.5mg/mLの酸化グラフェン分散液で第3選択膜20Cを形成した場合のエタノール又はカフェインに対する感度は、第3選択膜20Cを形成していない場合の感度とほぼ同じとなった。これに対して、5mg/mLの酸化グラフェン分散液で第3選択膜20Cを形成した場合の感度は大きくなった。したがって、第3選択膜20Cの形成には、5mg/mLの酸化グラフェン分散液を用いるのが望ましい。
【0074】
第3選択膜20Cは、酸化グラフェンを含む溶液に塗布又は浸漬した後、乾燥させる工程を複数回繰り返すことにより、形成される。
【0075】
図9A、
図9B、
図9C及び
図9Dには、上記工程を3回、5回、7回、10回繰り返して形成された酸化グラフェンを含む第3選択膜20Cによるカフェインの測定結果が示されている。
図9Aに示すように、上記工程の繰り返しの回数が3回である第3選択膜20Cの場合、5回繰り返しに比べ感度は小さいものの、測定対象の物質の濃度が0%となれば、規格化透過光強度は1.00に戻るが、
図9B及び
図9Cに示すように、上記工程の繰り返しの回数が5回、7回である第3選択膜20Cの場合、測定対象の物質の濃度が0%となっても、規格化透過光強度は1.00に戻らず、変化し続ける。
【0076】
このように、繰り返し正確な物質の検出を行う必要がある場合には、上記工程の繰り返しの回数が3回である導波路部4Aを用いる物質の検出を行うのが望ましいと言える。これは、第3選択膜20Cの膜厚が厚すぎると、物質12が脱離してリフレッシュし難くなるためであると考えられる。
【0077】
なお、上記工程を1回行うごとに形成される第1選択膜20Aの膜厚は、1μm弱であるため、3回繰り返しにより形成される第3選択膜20Cの膜厚は、3μm弱となる。
【0078】
また、上記工程の繰り返しの回数が5回である導波路部4Eは、3回、7回及び10回であった導波路部4Eよりも感度が大きくなっている。したがって、測定時間が短く、好感度が要求される場面においては、上記工程の繰り返しの回数が5回である導波路部4Aを用いる物質の検出を行うのが望ましい。なお、上記工程を1回行うごとに形成される第1選択膜20Aの膜厚は上述のように、1μm弱であるため、感度が高い第1選択膜20Aの膜厚は、5μm弱程度ということになる。
【0079】
以上のように、繰り返し測定の精度及び感度を考慮すると、上記工程の繰り返しの回数が3回以上5回以下である導波路部4Aを用いる物質の検出を行うのが望ましいと言える。
【0080】
また、本実施の形態では、導波路部4Eを丸棒としているが、これには限られない。導波路部4Eは、導波路部4A~4Dと同じように、正方形角柱状又は他の形状としてもよい。また、導波路部4Eを、導波路部4A~4Dと同じように、2つ以上の側面に金属薄膜が設けられる構造を有するものとしてもよい。
【0081】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。
【0082】
5mg/mLの酸化グラフェン分散液に金属薄膜10Eを1分間浸漬して5分間乾燥させる工程を繰り返して、第3選択膜20Cを形成し、上記工程の繰り返し回数とカフェインに対する応答の大きさとの関係を比較したところ、繰り返しが5回の場合には1回の場合よりも、応答の大きさが大きくなり、7回において応答が小さくなりはじめ、10回において、応答の大きさが1回と同じ大きさとなった。したがって、応答の大きさのみを考慮した場合、上記工程の繰り返し回数は5回以上7回以下が望ましい。
【0083】
この工程において、形成中の第3選択膜20Cを120℃以上に加熱した場合には、第3選択膜20Cのカフェインに対する感度が小さくなる。したがって、上記工程では、第3選択膜20Cを120℃以上に加熱しないようにすることが要求される。
【0084】
図10Aには、上記工程を5回繰り返して酸化グラフェンを含む第3選択膜20Cに熱を加えていない状態での測定結果が示されている。また、
図10Bには、上記工程を5回繰り返して酸化グラフェンを含む第3選択膜20Cを120℃に加熱した状態での測定結果が示されている。
図10Aと
図10Bとを比較するとわかるように、120℃に加熱すると、検出感度が大幅に低下している。本実施の形態に係る濃度測定装置1Dは、このような加熱による感度の低下を抑制する構成を有する。
【0085】
まとめると、上記工程の繰り返し回数は、3回以上7回以下が好ましく、繰り返し使用を考慮すれば、3回以上5回以下がより好ましい。
【0086】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。
【0087】
図11には、本実施の形態5に係る濃度測定装置1Dを構成する導波路部4Fの一部が示されている。
図11に示すように、第4選択膜20Dは、金属薄膜10F上に酸化グラフェンから成る層50と、金属ナノ粒子から成る層51とが交互に積層されて構成される。本実施の形態では、金属ナノ粒子は、金ナノ粒子である。しかし、他の金属のナノ粒子、金と他の金属が混合されたものを採用してもよい。
【0088】
図12Aには、第4選択膜20Dに熱を加えていない状態での測定結果が示されている。また、
図12Bには、第4選択膜20Dを120℃に加熱した状態での測定結果が示されている。
図12Aと
図12Bとを比較するとわかるように、120℃に加熱による感度の低下が抑制されている。これは、金属ナノ粒子から成る層51が、酸化グラフェンから成る層50を熱から保護して、層50に形成された物質12の吸着構造が維持されるためであると考えられる。なお、
図12A及び
図12Bにおいて、規格化透過光強度が上に変化しているのは、第4選択膜20Dの膜厚が、第1選択膜20A~第3選択膜20Cの膜厚とは異なるためである。
【0089】
図13Aには、金属薄膜10F上に酸化グラフェンから成る層50が3層、金属ナノ粒子から成る層51が2層積層された構成が示されている。また、
図14Aには、金属薄膜10F上に酸化グラフェンから成る層50が5層、金属ナノ粒子から成る層51が4層積層された構成が示されている。
図13Bには、
図13Aに示す構成で、カフェインの濃度が0%、0.01%、0%、0.05%、0%、0.1%、0%の溶液を、この順に、900秒間ずつ、金属薄膜10A上に流したときの900秒間の応答(加熱有/無)が示されている。
図14Bには、
図14Aに示す構成で、カフェインの濃度が0%、0.01%、0%、0.05%、0%、0.1%、0%の溶液を、この順に、金属薄膜10A上に流したときの900秒間の応答(加熱有/無)が示されている。
図13Bと
図14Bとを比較するとわかるように、
図13Aに示す構成と、
図14Aに示す構成とは、ともにカフェインに対して反応し、その感度は、
図13Aに示すセンサの方が、やや高い。また、
図13Aに示す構成の方が、加熱有で測定した場合と、120℃への加熱無で測定した場合との間で応答(規格化透過光強度の変化)が異なっている。これは、
図13Bに示す構成の方が、高い加熱耐性を有することを示している。
【0090】
なお、
図15A及び
図16Aに示すように、金属薄膜10A上に第5選択膜20Eが形成されていてもよい。第5選択膜20Eは、酸化グラフェンと金属ナノ粒子との混合層52を含むものであり、
図15Aに示す第5選択膜20Eは、酸化グラフェンと金属ナノ粒子との混合層52が3層積層されたものであり、
図16Aに示す第5選択膜20Eは、酸化グラフェンと金属ナノ粒子との混合層52が5層積層されたものである。
図15B及び
図16Bに示すように、
図15Aに示す第5選択膜20Eと、
図16Aに示す第5選択膜20Eとは、加熱有で測定した場合と、加熱無で測定した場合との間で応答(規格化透過光強度の変化)の違いが小さく、高い耐熱特性を有している。
【0091】
酸化グラフェンと金属ナノ粒子の混合層52は1層のみであってもよい。
【0092】
本実施の形態に係る第4選択膜20Dによれば、上述のように、耐熱性を向上することができる。
【0093】
また、本実施の形態では、全体構成としては、濃度測定装置1A~1Cの構成を採用することができる。
【0094】
以上詳細に説明したように、上記実施の形態に係る濃度測定装置1A~1Dによれば、複数の物質の濃度を同時かつ高精度に測定することができる。
【0095】
また、上記実施の形態に係る濃度測定装置1A~1Dによれば、金属薄膜10A上に酸化グラフェンを含む第1選択膜20Aを形成しているので、溶液に含まれるカフェインの濃度が低い場合、又は、溶液に他の物質(夾雑物)が多く含まれる場合であっても物質を高精度に測定することができる。
【0096】
例えば、コーヒー中のカフェインの濃度を直接測定することが可能となる。
図17Aには、金属薄膜10A上に酸化グラフェンから成る膜が形成されていない構成でのコーヒー中のカフェインの濃度の測定結果が示されている。また、
図17Bには、金属薄膜10A上に酸化グラフェンから成る膜が5層積層されて構成される第1選択膜20Aが形成された構成でコーヒー中のカフェインの濃度の測定結果が示されている。
図17Aと
図17Bとを比較するとわかるように、酸化グラフェンを5層積層した積層膜を第1選択膜20Aとして形成することにより、夾雑物が多く含まれるコーヒー中のカフェインの濃度を高感度で測定することができる。
【0097】
また、上記実施の形態2に係る濃度測定装置1Bによれば、導波路部4Aの長さを短くすることができるうえ、溶液に浸すだけで、溶液に含まれる物質の濃度を測定することができる。
【0098】
また、上記実施の形態3に係る濃度測定装置1Cによれば、酸化グラフェンを選択膜として用いることにより、アデニン、エタノール、カテキンの濃度を高精度に測定することができる。
【0099】
また、上記実施の形態4に係る濃度測定装置1Dによれば、酸化グラフェンから成る層と、金属ナノ粒子から成る層とが交互に積層された選択膜を用いることによって、高熱の環境でも、高精度な物質の測定が可能となる。
【0100】
選択膜の膜厚を3μm未満とすることにより、濃度測定装置の繰り返し使用を可能とすることができる。
【0101】
なお、上記実施の形態1、2に係る濃度測定装置1A、1Bでは、導波路が正方形角柱状であるが、これには限られない。導波路部の形状は、他の多角形の角柱状であってもよいし、上記実施の形態3に係る濃度測定装置1Cのように円柱状であってもよい。例えば、円柱の側面の一部に金属薄膜10A,10Bが形成され、金属薄膜10A,10Bの上に第1選択膜20A,第2選択膜20Bが形成されるようにしてもよい。また、断面が六角形の場合には、3つの直線偏光成分をP偏光として同時に3種類の物質の濃度測定が可能となる。断面が八角形の場合には、4つの直線偏光成分をP偏光として同時に4種類の物質の濃度測定が可能となる。また、側面の一部が曲面で他の部分が少なくとも1つの平面で構成されるものであってもよい。
【0102】
また、上記実施の形態では、LED3を投光部としている。しかしながら、これには限られない。他の種類の光源を用いるようにしてもよい。
【0103】
また、上記実施の形態では、金属薄膜の材質を金としたが、他の金属で構成してもよい。例えば、アルミニウムであってもよいし、銀としてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0104】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、溶液に含まれる物質の濃度測定に適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1A,1B,1C,1D 濃度測定装置、2 電源、3 発光ダイオード(LED;投光部)、4A,4B,4C,4D,4E,4F 導波路部、4a 第1側面、4b 第2側面、4c 第3側面、4d 第4側面、5 レンズ、6 偏光ビームスプリッタ、7A 第1検出部、7B 第2検出部、7C 第3検出部、8A,8B 測定部、9 表示装置、10A,10B,10C,10D,10E,10F 金属薄膜、11 パイプライン、12 物質(第1濃度測定対象)、13 物質(第2濃度測定対象)、20A 第1選択膜、20B 第2選択膜、20C 第3選択膜、20D 第4選択膜、20E 第5選択膜、30 被覆用カバー、31 駒込ピペット、32 綿棒、40 反射部、41 ビームスプリッタ、50,51 層、52 混合層、60 エアブラシ、AX 光軸、IL1,IL2 励起光