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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093005
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】きのこの香気成分の増強方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20240701BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20240701BHJP
【FI】
A01G18/20
A23L19/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218720
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022208816
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一彦
【テーマコード(参考)】
2B011
4B016
【Fターム(参考)】
2B011AA01
2B011AA02
2B011AA04
2B011AA05
2B011BA05
2B011GA12
4B016LC02
4B016LG14
4B016LK04
4B016LP13
(57)【要約】
【課題】きのこの香気成分を増強させ、きのこが放つ香りを向上させる方法を提供すること。
【解決手段】有機酸および/またはその塩を有効成分として含有する組成物を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することを特徴とする、きのこの香気成分の増強方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸および/またはその塩を有効成分として含有する組成物を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することを特徴とする、きのこの香気成分の増強方法。
【請求項2】
有機酸および/またはその塩を有効成分として含有し、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することを特徴とする、きのこの香気成分増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分として用いる、きのこの香気成分の増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつては天然でしか採取できなかったきのこも、近年では人工栽培法の確立により、容易かつ安価に、様々な種類のきのこを入手できるようになった。日本におけるきのこの生産量は年々伸びており、近年の生産量は約46万トンにも達する規模となっている。また、きのこの消費は1人当たり年間3Kgを超える量にもなり、身近な食材となっている。
きのこが好まれる要因は様々であり、食物繊維やビタミンB群、ビタミンD前駆体、ミネラルを豊富に含む上に低カロリーであるため、健康食材として位置付けられているだけでなく、近年では、抗腫瘍活性や血圧降下作用、抗糖尿病効果、抗高脂血効果などの薬理効果も報告されている。さらに、きのこはその食味や食感と共に、特有の香りが重要な要素のひとつである。
きのこの菌床栽培では、培地への栄養補給を目的として、米ぬか、ふすま、コーンブランなどの農業副産物が培地基材への添加物として有効利用されており、これらの添加物の種類により、きのこの子実体の発生状況、発生量に差が出ることや、培地中の無機成分の一部が子実体に移行することが報告されているものの、添加物の違いによりきのこにどのような影響を及ぼすのかに関する報告は極めて少なく、その報告の1つとして、培地に乳酸菌を担持させることにより、きのこに乳酸菌や乳酸を導入する報告がある(特許文献1等)。しかしながら、きのこの香りに影響を及ぼす、添加物や資材に関する報告は、未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-233535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、きのこの香気成分を増強させる方法は、未だ有用な手法は知られていない。したがって、きのこの香気成分を増強させることができれば、当該きのこの特徴づけにおいて非常に有用である。
そこで、本発明は、きのこの香気成分を増強させ、きのこが放つ香りを向上させる方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、きのこに対して有機酸および/またはその塩を施用することにより、きのこの香気成分を増強し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、詳しくは以下の事項を要旨とする。
1.有機酸および/またはその塩を有効成分として含有する組成物を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することを特徴とする、きのこの香気成分の増強方法。
2.有機酸および/またはその塩を有効成分として含有し、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することを特徴とする、きのこの香気成分増強剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、きのこの香気成分を増強することができる。
本発明により、きのこ自体の香りはもとより、食した際に鼻に抜ける香りを強く感じるきのこを得ることができるので、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における「子実体」とは、一般的には「きのこ」と呼ばれ流通、販売されているもの、生物学的には胞子を形成するための構造体を意味し、菌糸の状態のものは意味しない。
<きのこ>
本発明におけるきのこは、特に限定されないが、食用のきのこであることが好ましい。具体的には、例えば、エノキタケ、ブナシメジ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、マイタケ、エリンギ、トリュフ、ナメコ、タモギタケおよびバカマツタケなどが挙げられる。中でも、エノキタケ、ブナシメジ、シイタケ、マイタケ、エリンギ、ナメコが好ましい。
【0009】
<有機酸および/またはその塩>
本発明における、きのこの香気成分を増強させる有効成分は、有機酸および/またはその塩である。
本発明における有機酸としては、カルボキシル基(-COH基)を有するカルボン酸と、スルホ基(-SOH基)を有するスルホン酸が挙げられるが、中でも、カルボン酸が好ましい。カルボン酸としては、蟻酸、酢酸等の飽和カルボン酸、オレイン酸等の不飽和カルボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸、シュウ酸、コハク酸等のジカルボン酸が挙げられる。中でも、炭素数1以上10以下の有機酸が好ましく、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸等の飽和脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
これらの有機酸の中でも、本発明のきのこの香気成分の増強方法の有効成分として、炭素数1以上5以下の飽和カルボン酸が好適である。
また、本発明のきのこの香気成分の増強方法の有効成分として、例えば、酢酸を用いる場合は、純粋な酢酸の他、食酢である醸造酢や合成酢が含まれる。これらは市販されており、例えば、穀物酢や特濃酢、高濃度醸造酢、粉末食酢(酢酸とデキストリン等の混合物)などを利用することができる。また、ワインビネガーやアップルビネガーといった果実酢も利用可能である。ただし、木酢液、竹酢液等の木材や竹等を乾留した際に生じる乾留液から得られるものは、ホルムアルデヒドやベンゾピレンなどの毒性の高い物質や、臭気を伴う物質が含まれており、本発明における有機酸および/またはその塩としては好ましくない。
有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられ、本発明におけるきのこの香気成分を増強させる方法の有効成分として、有機酸塩を使用する場合には、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましい。これらの塩は単体としてきのこの香気成分を増強させる方法において使用しても良いが、有機酸と対応する中和剤とを別々に加えて製剤調製時に塩を形成させてもよい。例えば、有機酸と、中和剤として水酸化ナトリウムを別々に加えて、ナトリウム塩として使用することができる。中和剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適である。
本発明における、きのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、上記の有機酸および/またはその塩を含有するものを、1種のみ使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0010】
<香気成分>
ほとんどのきのこに共通して含まれ、いわゆる「きのこの香気成分」を形成している成分として、1-オクテン-3-オール、2-オクテン-1-オール、1-オクテン-3-オン、3-オクタノール、3-オクタノンなどの揮発性の炭素原子数8個からなる化合物、すなわち揮発性C8化合物が知られている。多くの子実体において、これらの揮発性C8化合物の中でも1-オクテン-3-オールの占める割合が最も多いことも知られている。
本発明においても、有機酸および/またはその塩を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することにより、子実体中の揮発性C8化合物からなる香気成分を増強させることができる。中でも、1-オクテン-3-オール、2-オクテン-1-オール、3-オクタノール、3-オクタノンを増強させる点において優れた効果を発揮する。
一方、本発明においては、有機酸および/またはその塩を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用することにより、子実体中のジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィド、3-ブチン-1-オール等の、一般的に悪臭として認識される成分を低減させることが、後述する実験データにより確認されている。すなわち、本発明のきのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、子実体中の悪臭として認識される成分を低減させるという、すなわち、「悪臭成分抑制剤」としての機能を有し、予測し得ない優れた効果を奏するものである。
【0011】
本発明における、きのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、有効成分である有機酸および/またはその塩を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用する組成物中に、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.01重量%以上となるように含有させることができる。また、有機酸および/またはその塩をあまり多量に用いると、子実体に薬害様の症状が発出する場合もあるため、10重量%以下の含有量とすることが好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下が特に好ましい。すなわち、有効成分である有機酸および/またはその塩を、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に施用する組成物中に、0.001重量%以上10重量%以下の範囲で含有することが好ましく、0.005重量%以上5重量%以下の範囲で含有することがより好ましく、0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含有することがさらに好ましく、0.01重量%以上1重量%以下の範囲で含有することが特に好ましい。
本発明における、きのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、そのまま子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に処理することができるが、所定の有効成分を含有した製剤を使用時に水で希釈して子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に処理することもできる。この場合、水で希釈された製剤中での有効成分である有機酸および/またはその塩の含有量は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.01重量%以上となるように、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、特に好ましくは1重量%以下となるように調製して使用することができる。すなわち、水で希釈された製剤中での有効成分である有機酸および/またはその塩の含有量は、0.001重量%以上10重量%以下の範囲で含有することが好ましく、0.005重量%以上5重量%以下の範囲で含有することがより好ましく、0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含有することがさらに好ましく、0.01重量%以上1重量%以下の範囲で含有することが特に好ましい。
なお、本発明における生育基質とは、菌床栽培における菌床、原木栽培における原木、堆肥栽培における堆肥、林地栽培における林地を意味する。本発明における生育基質は、市販されている菌床栽培用の菌床や、原木栽培用の原木を使用しても、自ら準備したものを使用しても良い。菌床栽培用の菌床は、菌糸の伸長を阻害する害菌を防除する目的で、栽培開始前の菌床を加熱等により殺菌したものを使用することが好ましい。
【0012】
本発明のきのこの香気成分の増強方法や、きのこの香気成分増強剤において、有効成分である有機酸および/またはその塩を各種製剤として用いることができる。
製剤としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。その中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明のきのこの香気成分の増強方法の性能を、最大限に活用することができる製剤型として好適である。スプレー剤やエアゾール剤とするには、所定の噴霧パターン、噴霧粒子を供給する噴霧装置を備えたエアゾール缶、薬剤ボトルを用いることができる。
本発明における、きのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、本発明の効果を奏する限り、液剤に限らず、粉剤、顆粒剤、微細粒等の固形剤として用いることもできる。
上記製剤の1つの製造例としては、有機酸および/またはその塩と必要に応じて界面活性剤を用いて溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌して製剤とすることにより、使用時に希釈する必要がない施用形態とすることができる。また、きのこ栽培時に汎用される散水機を用いて散布し、その後浸透させる態様を採用することもできる。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、濾過処理した水、滅菌処理した水、地下水などを用いることができる。
【0013】
製剤時に用いられる液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、ハッカ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0014】
製剤時に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エーテルなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-またはジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミンの各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-モノ-またはジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)化フェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルオキサイドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシドなどが挙げられる。なお、界面活性剤は展着剤としても用いられる。
【0015】
エアゾール剤とする時に用いられる噴射剤としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、代替フロン(HFO、HFC等)、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガスが挙げられる。
また固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、ゼオライト、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0016】
本発明のきのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤において、有効成分を製剤として用いる場合は、製剤調製時に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤および増粘剤等を添加することができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物、イソチアゾリン系化合物、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、およびビタミンE、混合トコフェロール、α-トコフェロール、エトキシキンおよびアスコルビン酸等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【0017】
<施用について>
本発明における、きのこの香気成分の増強方法やきのこの香気成分増強剤は、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種に、有効成分である有機酸および/またはその塩を付着させるものである。
施用する時期は、子実体の生育状況に応じて適宜選択すれば良く、生育基質準備段階から施用しても良い。
施用頻度は、単回施用もしくは複数回施用のいずれでも良く、複数回の場合は1~30日に1回、好ましくは1~10日に1回、より好ましくは1~4日に1回の頻度で施用するのがよい。
施用手段は特に制限されないが、例えば、生育基質への配合、菌糸や生育基質への浸水処理、子実体、菌糸、生育基質への散水処理などが挙げられる。中でも、菌糸、生育基質への浸水処理や、子実体、菌糸、生育基質への散水処理が好ましい。
本発明における、きのこの香気成分を増強させる有効成分である有機酸および/またはその塩処理量としては、施用頻度に関わらず、子実体、菌糸および生育基質からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む施用対象100gあたりに対して、有機酸および/またはその塩の積算処理量で0.00001g/週以上、15g/週以下の範囲内で施用することが好ましく、0.00005g/週以上、10g/週以下の範囲内で施用することがより好ましく、0.0001g/週以上、7g/週以下の範囲内で施用することがさらに好ましく、0.0001g/週以上、5g/週以下の範囲で施用することが特に好ましい。
【実施例0018】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
<きのこの香気成分増強効果確認試験1>
(1)試験検体
実施例1
酢酸0.25重量%およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量%として実施例1の試験検体を調製した。
比較例1
イオン交換水のみを用いて、比較例1の試験検体とした。
(2)きのこの香気成分増強作用の確認試験方法1
シイタケ完熟菌床(森産業:森XR1号)を、実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ13個使用した。遮光したガラスハウス(20±2℃、RH70±20%)に上述の菌床を静置して、1個の菌床に対して、実施例1または比較例1の試験検体を10日間にわたり毎日1回、菌床上面と側面が十分に濡れる程度(約10mL)にハンドスプレーを使用して散布した。試験開始から3~4日後に1個の菌床当たり子実体が10個程度残るように芽かきを行った。
試験開始から10日後、実施例1または比較例1を処理した各菌床から採取した子実体の香りについて評価を行った。評価を行う子実体の大きさおよび開き具合は、実施例1および比較例1で同程度になるようにした。臭気判定士4名と、香り官能試験を業務としているパネラー7名により、それぞれのきのこの香り強度、香質の良さについて、下記に示す基準に従い絶対評価を行った。当該評価基準は、においの快・不快の程度を表示するために用いられる評価方法(9段階快・不快度表示方法)を参考に設定したものである。
[香り強度評価基準]
5点:強い
4点:やや強い
3点:強くも弱くもない
2点:やや弱い
1点:弱い
[香質評価基準]
5点:良い
4点:やや良い
3点:良くも悪くもない
2点:やや悪い
1点:悪い
臭気判定士4名の評価結果の平均値を表1に、香り官能試験を業務としているパネラー7名の評価結果の平均値を、表2にまとめて示した。
【0020】
【表1】

【表2】
【0021】
(3)試験結果
表1、2に示したとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体を生育基質に施用した結果、比較例1と比較すると、香りが強く、香質についても良好な子実体が得られることが確認された。特に、悪臭防止法に基づき創設された国家資格である臭気判定士4名の評価結果を示す表1から、実施例1は香りの強度、香質ともに、比較例1に比べて顕著に優れることが明らかとなった。
【0022】
<きのこの香気成分増強効果確認試験2>
(1)子実体の香気成分増強作用の確認試験方法2
供試食用きのことして、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験1」で得られた子実体をホットプレートにより加熱し、適量の食塩で処理したものを使用した。
臭気判定士3名、香り官能試験を業務としているパネラー7名を含む15名のパネラーに、上記供試食用きのこを口に含ませ、香りの観点からどちらの子実体を食べたいかを選択させた。
各パネラーが食べたいと選択した子実体が、実施例1または比較例1の施用により得られた子実体であるかを、表3にまとめて示した。
【0023】
【表3】
【0024】
(2)試験結果
表3に示したとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、比較例1と比較して食べたいと、詳しくは、きのこの香りから「きのこらしさ」や「香ばしい香り」を強く感じるほか、「香りが濃く、きのこらしい香りを感じる」、「収穫したての香りを感じる」など明らかに美味しいと感じることができるとの評価が得られた。また、「嫌な香りが少ない」との評価も得られた。
【0025】
<きのこの香気成分増強効果確認試験3>
(1)きのこの香気成分増強作用の確認試験方法3
分析サンプルとして、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験1」で得られた子実体を使用した。
バイアル瓶(GLサイエンス社製、Clean Pin Hole Septum with vial、40mL)に、実施例1または比較例1の試験検体の施用により得られた子実体の傘部を、天面部の形状が、子実体中心部から周辺部の弧の長さが5mm程度の鋭角三角形となるように切断して7.0g入れ、捕集剤(GLサイエンス社製、MonoTrapRGC18TD)をバイアル瓶の上部から吊るし、香気成分を約16時間捕集した。下記の分析条件により香り成分の分析を行った。
[分析条件]
加熱脱離装置:ポータブル・ハンディ・ディソーバーTD265(GLサイエンス社製)
圧力:150kPa
保持温度:200℃
保持時間:2.0分
分析装置:ガスクロマトグラフ質量分析装置GC-2010Plus(島津製作所製)
カラム:InetCap Pure-WAX(GLサイエンス社製)内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm
カラム温度:40℃(5min)→4℃/min→250℃(5min)
キャリアガス:ヘリウム、120kPa
注入口温度:250℃
検出器温度:200℃
サンプル注入量:1.0μL
分析により明らかとなった、各分析サンプルに含まれる主たる香り成分と、実施例1の試験検体を施用した子実体におけるその香り成分増加度を、比較例1の試験検体を施用した当該香り成分に対する相対比を「香り成分増加度」として、表4に示した。
【0026】
【表4】
【0027】
(2)試験結果
表4に示すとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、ほとんどのきのこに共通して含まれ、いわゆる「きのこの香気成分」を形成している成分である1-オクテン-3-オール、3-オクタノンが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、概略1.2倍と大きく増強されることが明らかとなった。
一方、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、一般的に人が悪臭と認識するジメチルトリスルフィド、3-ブチン-1-オール、ジメチルジスルフィドが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、概略0.9倍と大きく抑制されることも明らかとなった。
【0028】
<きのこの香気成分増強効果確認試験4>
(1)きのこの香気成分増強作用の確認試験方法4
シイタケ完熟菌床(北研:HS705号)を、実施例1用の菌床として3個、比較例1用の菌床として2個使用した。遮光したビニールハウス(20±2℃、RH70±20%)に上述の菌床を静置して、1個の菌床に対して、実施例1または比較例1の試験検体を10日間にわたり2~3日に1回、合計3回、菌床上面と側面が十分に濡れる程度(約12mL)に電動噴霧器を使用して散布した。
試験開始から10日後、実施例1または比較例1の試験検体を施用した各菌床から採取した子実体の香りについて、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験3」に記載の方法により分析を行った。分析により明らかとなった、各分析サンプルに含まれる主たる香り成分と、実施例1の試験検体を施用した子実体におけるその香り成分増加度を、比較例1の試験検体を施用した当該香り成分に対する相対比を「香り成分増加度」として、表5に示した。
【0029】
【表5】
【0030】
(2)試験結果
表5に示すとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、ほとんどのきのこに共通して含まれ、いわゆる「きのこの香気成分」を形成している成分である3-オクタノン、3-オクタノールが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて概略1.3倍と大きく増強されることが、また、1-オクテン-3-オールは、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて概略1.1倍に増強されることが明らかとなった。
一方、一般的に人が悪臭と認識するジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィドについては、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体でのみ確認され、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体では確認されなかった。
【0031】
<きのこの香気成分増強効果確認試験5>
(1)きのこの香気成分増強作用の確認試験方法5
シイタケ完熟菌床(北研:HS705号)を、実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ7個使用した。遮光したビニールハウス(20±2℃、RH70±20%)に上述の菌床を静置して、1個の菌床に対して、実施例1または比較例1の試験検体を10日間にわたり10日に1回、合計2回、菌床上面と側面が十分に濡れる程度(約12mL)に電動噴霧器を使用して散布した。
試験開始から20日後、実施例1または比較例1の試験検体を施用した各菌床から採取した子実体の香りについて、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験3」に記載の方法で分析を行った。分析により明らかとなった、各分析サンプルに含まれる主たる香り成分と、実施例1の試験検体を施用した子実体におけるその香り成分増加度を、比較例1の試験検体を施用した当該香り成分に対する相対比を「香り成分増加度」として、表6に示した。
【0032】
【表6】
【0033】
(2)試験結果
表6に示すとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、ほとんどのきのこに共通して含まれ、いわゆる「きのこの香気成分」を形成している成分である3-オクタノン、3-オクタオールが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、概略2倍と大きく増強されることが明らかとなった。
一方、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、一般的に人が悪臭と認識する、3-ブチン-1-オールが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、概略0.9倍と抑制されることも明らかとなった。
【0034】
<きのこの香気成分増強効果確認試験6>
(1)きのこの香気成分増強作用の確認試験方法6
下記のキノコ菌床(マッシュルーム菌床、ブナシメジ菌床、ヒラタケ菌床、エリンギ菌床)を、実施例1用と比較例1用の菌床として使用した。遮光した室内(12±2℃、RH70±20%)に上述の菌床を静置して、1個の菌床に対して、実施例1または比較例1の試験検体を約3週間にわたり1週間に5回、合計15回、菌床上面が十分に濡れる程度(約10mL)にハンドスプレーを使用して散布した。
試験開始から約3週間後、実施例1または比較例1を施用した各菌床から採取した子実体の香りについて、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験3」に記載の方法で分析を行った。分析により明らかとなった、各分析サンプルに含まれる主たる香り成分と、実施例1の試験検体を施用した子実体におけるその香り成分増加度を、比較例1の試験検体を施用した当該香り成分に対する相対比を「香り成分増加度」として、表7に示した。
<キノコ菌床>
マッシュルーム菌床(聖新陶芸、おうちで育てるキノコ栽培セットホワイトマッシュルーム)を、実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ2個使用した。
ブナシメジ菌床(森産業、もりのぶなしめじ農園)を実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ2個使用した。
ヒラタケ菌床(森産業、もりのひらたけ農園)を実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ3個使用した。
エリンギ菌床(森産業、もりのえりんぎ農園)を実施例1用と比較例1用の菌床として、それぞれ3個使用した。
【0035】
【表7】
【0036】
(2)試験結果
表7に示すとおり、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた複数キノコ種の子実体において、いわゆる「きのこの香気成分」を形成している成分である3-オクタノン、3-オクタオール、1-オクテン-3-オール、2-オクテン-1-オールが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、大きく増強されることが明らかとなった。
一方、本発明の具体例である実施例1の試験検体の施用により得られた子実体は、一般的に人が悪臭と認識する、3-ブチン-1-オール、3-メチル-1-ブタノールが、比較例1の試験検体の施用により得られた子実体に比べて、大きく抑制されることも明らかとなった。
【0037】
<シイタケの食香味確認試験>
(1)試験検体
本発明の具体例である実施例1と、実施例1の試験検体の酢酸を、純粋木酢液(日本漢方研究所社製)に代え、酸度が実施例1と同一になるように調整した比較例2の試験検体を使用した。
(2)シイタケの食香味確認試験方法
食香味確認用の子実体として、上記「きのこの香気成分増強効果確認試験1」と同様の方法で菌床から採取した子実体(シイタケ)を使用した。
臭気判定士2名、香り官能試験を業務としているパネラー5名を含む10名のパネラーに、上記食香味確認用の子実体を香りの観点から「食べたくない」子実体が、実施例1または比較例2を施用したものかを選択させた。
各パネラーが「食べたくない」と選択した子実体が、実施例1または比較例2の施用により得られたいずれの子実体であるかを、表8にまとめて示した。
【0038】
【表8】
【0039】
(3)試験結果
表8に示したとおり、比較例2の施用により得られた子実体は、本発明の具体例である実施例1の施用により得られた子実体と比較して、10名のパネラー全員が「食べたくない」と評価した。詳しくは、比較例2の施用により得られた子実体は、「線香臭さ」や「灰や煙のような臭い」を強く感じるほか、「木酢液の臭いにより、きのこ本来の香りを感じ取ることが出来ない」といった、子実体の香りに対して極めて悪い評価であった。
この結果より、木酢液は本発明における有効成分としては好ましくないことが明らかとなった。