(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093013
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20240701BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240701BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219972
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022208513
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】右田 恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 一平
(72)【発明者】
【氏名】中村 みづき
(57)【要約】
【課題】熱衝撃によるESR変化を抑制した固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極体と陰極体と電解質層を備える。陽極体は、弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成されている。陰極体は、陽極体と対向する。電解質層は、陽極体と陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む。電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体と、
前記陽極体と対向する陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む電解質層と、
を備え、
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を更に含み、
酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸の3倍以下のモル比で、前記電解液に含まれること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記電解液に含まれる酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸又はピメリン酸から選ばれる1種又は2種以上であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記電解質層は、多価アルコールを含むこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記電解質層は、前記導電性高分子と多価アルコールとを含む導電性高分子液を用いて形成されたこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項5記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記多価アルコールは、ポリエチレングリコール、キシリトール及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の混合であること、
を特徴とする請求項4記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
表面に誘電体皮膜が形成された陽極体、又は当該陽極体と陰極体と対向させたコンデンサ素子に導電性高分子液を付着及び乾燥させる導電性高分子付着工程と、
導電性高分子付着工程の後、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる電解液含浸工程と、
を含み、
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質層に電解液と導電性高分子を含む固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体皮膜層を有する。この電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、そのため大きな静電容量を有し、高容量化の要求を満たしている。
【0003】
電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔の間に電解液を介在させている。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくでき、近年の大電力化に伴う高容量の要求に適しているものである。電解液には、時間経過とともに電解コンデンサの外部へ抜けてしまう蒸発揮散が起こる。そのため、電解コンデンサはドライアップに向けて経時的に静電容量が低下し、また経時的に損失角の正接(tanδ)が上昇し、ついには寿命を迎える。
【0004】
そこで、電解コンデンサのなかでも、固体電解質を用いた固体電解コンデンサが注目されている。固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子を用いた固体電解コンデンサが急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、またモノマー分子内にドーパントとして作用する部分構造を有し、高い導電性が発現する。そのため、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0005】
但し、固体電解質を備えた電解コンデンサは、電解液を備えた電解コンデンサと比べて、誘電体皮膜の欠陥部の修復作用に乏しい。そこで、陽極箔と陰極箔との間に導電性高分子を介在させると共に、電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの電解コンデンサも注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば寒冷地における車載用途及び発送電分野において、電解コンデンサは、-55℃等の低温から155℃等の高温へ向けて急激に加熱されたり、反対に155℃の高温から-55℃の低温に向けて急激に冷却されたりすることがある。この急激な温度変化を熱衝撃と呼ぶ。
【0008】
熱衝撃を繰り返し受けた電解コンデンサは、熱衝撃による劣化によってESRが劣化し易い。ESRが大きくなれば、電解コンデンサが発熱し易く寿命を短くし、また大きなリップル電圧が発生する等のように様々な影響が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、熱衝撃によるESR変化を抑制した固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体と、前記陽極体と対向する陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む電解質層と、を備え、前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含む。
【0011】
酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸が電解液に含まれると、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が抑制される。
【0012】
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を更に含み、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸の3倍以下のモル比で、前記電解液に含まれるようにしてもよい。
【0013】
酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解液に含まれると、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が大きくなる。しかし、モル比でこの範囲内であれば、固体電解コンデンサのESR変化は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサと同等にまで抑制される。
【0014】
前記電解液に含まれる酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸又はピメリン酸から選ばれる1種又は2種以上であるようにしてもよい。
【0015】
前記電解質層は、多価アルコールを含むようにしてもよい。即ち、この固体電解コンデンサは、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有し、且つ電解質層に多価アルコールを含有する。この固体電解コンデンサの熱衝撃によるESR変化は更に抑制される。
【0016】
前記電解質層は、前記導電性高分子と多価アルコールとを含む導電性高分子液を用いて形成されるようにしてもよい。
【0017】
前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含まれるようにしてもよい。
【0018】
前記多価アルコールは、ポリエチレングリコール、キシリトール及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の混合であるようにしてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体、又は当該陽極体と陰極体と対向させたコンデンサ素子に導電性高分子液を付着及び乾燥させる導電性高分子付着工程と、導電性高分子付着工程の後、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる電解液含浸工程と、を含み、前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱衝撃を繰り返し受けても、固体電解コンデンサのESR変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】粒径D50が450nmの導電性高分子を含む固体電解コンデンサのESR変化を示すグラフである。
【
図2】グルタル酸に対するアゼライン酸の量とESR変化との関係を示すグラフである。
【
図3】コハク酸に対するアゼライン酸の量とESR変化との関係を示すグラフである。
【
図4】多価アルコールの種類とESR変化との関係を示すグラフである。
【
図5】多価アルコールの添加比率とESR変化の関係を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る固体電解コンデンサについて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0023】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。固体電解コンデンサは、コンデンサ素子を備えている。コンデンサ素子は、陽極体、陰極体、電解質層及びセパレータを備える。陽極箔の表面には誘電体皮膜が形成されている。陽極体と陰極体は、誘電体皮膜を挟んで対向している。電解質層は、陽極体の誘電体皮膜と陰極体の間に介在する。電解質層は、陽極体の誘電体皮膜と密着して、真の陰極として機能し、誘電体皮膜と陰極体の間に延在して導電パスを作出している。
【0024】
この固体電解コンデンサは、電解液と導電性高分子を備えた所謂ハイブリッド型である。電解質層には、少なくとも電解液と導電性高分子が含有している。セパレータは、ショート防止のために陽極体と陰極体を隔て、また電解質層を保持する。導電性高分子によって、電解質層の形状が自力で保持され、また陽極体と陰極体とを隔離できる場合、セパレータは固体電解コンデンサから排除できる。
【0025】
陽極体と陰極体とは、電解質層を挟んで交互に積層される。この積層型では、外装を省略した平板型とするほか、例えば、コンデンサ素子をラミネートフィルムによって被覆し、又は耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂をモールド、ディップコート若しくは印刷することで封止する。または、陽極体と陰極体は、電解質層を挟んで交互に積層されて巻回される。この巻回型では、例えば、コンデンサ素子は有底筒状のケースに収容される。ケースの開口は、加締め加工により封口体で封止する。
【0026】
コンデンサ素子を封止した後は、エージング工程に移って、高温下で固体電解コンデンサに直流電圧を印加し、固体電解コンデンサの巻回等の作製で損傷した酸化皮膜の修復を行う。これにより、固体電解コンデンサの完成品が形成される。
【0027】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属を材料とした箔体である。巻回型では、陽極体は、弁作用金属を延伸した長尺の帯形状であり、積層型では、陽極体は、平板又は粉末を平板形に成型及び焼結した焼結体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極体に関して99.9%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0028】
陽極体の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、投影面積よりも表面積を増大させる処理がなされた表面層であり、箔体にエッチング処理を施したエッチング層、弁作用金属の粉体を箔体に付着及び焼結させた焼結層、又は箔体に弁作用金属粒子を蒸着した蒸着層である。即ち、拡面層は、多孔質構造を有し、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体若しくは粒子間の空隙により成る。
【0029】
トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔であり、箔体を貫通していてもよい。このトンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。海綿状のエッチングピットによって、拡面層は、空間状に細かい空隙が連なり拡がったスポンジ状の層になる。この海綿状のエッチングピットは、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で交流電流を流すことで形成される。
【0030】
焼結層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属の粉末を箔体に付着させて焼結させることで作製される。粉末は、粉砕法、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法等によって得られる。粉末は、バインダーや溶剤によってペースト化し、箔体に塗布及び乾燥させる。そして、真空又は還元雰囲気等で加熱することで焼結させる。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。蒸着層は、例えば抵抗加熱式蒸着法又は電子線加熱式蒸着法により作製される。この蒸着層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属を抵抗熱や電子線エネルギーによって加熱して蒸発させ、弁作用金属粒子の蒸気を箔体の表面に堆積させることで成膜する。
【0031】
誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層に形成されている。誘電体皮膜は、典型的には、陽極体の表層を陽極酸化させた酸化皮膜である。陽極体がアルミニウム箔であれば、誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体皮膜は化成処理によって形成される。化成処理では、化成液中で陽極体に対して、所望の耐電圧を目指して電圧印加する。化成液は、ハロゲンイオン不在の溶液であり、例えば、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液である。
【0032】
(陰極体)
陰極体は、弁作用金属を延伸した箔体である。陰極箔の純度は、99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。箔体は、表面が平坦なプレーン箔であり、又は拡面化により表面に拡面層が形成されている。拡面層には、意図的又は自然に酸化皮膜が形成されていてもよい。意図的には、化成処理により、1~10Vfs程度の薄い酸化皮膜を形成してもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0033】
固体電解コンデンサが積層型である場合、陰極体は、金属層とカーボン層の積層体が好ましい。陰極体のカーボン層は陽極体に向けて配置される。カーボン層は、ペースト状にして、陽極体上に電解質層を形成された後に電解質層上に塗工し、加熱より硬化させることで形成される。金属層は例えば銀層であり、金属層は、ペースト状にして、カーボン層の上から塗工し、加熱により硬化させることで形成される。
【0034】
また、陰極体は、更に導電層を積層して備えていてもよい。導電層は、導電性材料を含有し、酸化皮膜よりも高導電性の層である。この導電層は、陰極箔の片面又は両面に積層され、陰極体の最表層に位置する。導電性材料としては、例えばチタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、これらの窒化物若しくは炭化物、炭化アルミニウム、炭素材、及びこれらの複合材又は混合材が挙げられる。この導電層は複数層が積層されてもよく、各層は異種の層であってもよい。導電層と陰極体とは圧接構造を有していてよい。導電層の積層後にプレス処理を加える。圧接構造は、拡面層の細孔に導電層が押し込まれ、また拡面層の凹凸面に沿って導電層が変形している。圧接構造は、導電層と陰極体との密着性及び定着性を向上させ、固体電解コンデンサのESRを低減させる。
【0035】
(電解質層)
電解質層の電解液は、アニオン成分として、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含有している。脂肪族ジカルボン酸は、鎖状炭化水素の2個の水素をヒドロキシ基で置換している。酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸は、例えばコハク酸、グルタル酸及びピメリン酸が挙げられる。コハク酸、グルタル酸又はピメリン酸から選ばれる1種又は2種以上を、電解質層の電解液に含有させてもよい。尚、酸解離定数pKaは水中において25℃で測定された値である。
【0036】
酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解質層に含む固体電解コンデンサは、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を電解質層に含む固体電解コンデンサと比べて、急激な温度変化で起こる熱衝撃を繰り返し受けても、導電性高分子の劣化が抑制され、ESRの変化が抑制される。
【0037】
推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、ESR変化が抑制されるのは、次の理由によると推測される。まず、pKaが大きい脂肪族ジカルボン酸は直鎖状のアルキル基が長いために低温で析出しやすい。析出した脂肪族ジカルボン酸が導電性高分子と陽極体の間及び導電性高分子と陰極体の間に入り込んでしまうと、導電性高分子と陽極体との間の界面抵抗、及び導電性高分子と陰極体との間の界面抵抗を増大させてしまう。そのため、pKaが大きい脂肪族ジカルボン酸を用いた際、熱衝撃によるESR劣化が大きくなると考えられる。
【0038】
一方、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸は、pKaが大きい脂肪族ジカルボン酸と比べて直鎖状のアルキル基が短く、低温での析出量は少ない。そのため、導電性高分子と陽極体の間及び導電性高分子と陰極体の間に入り込んでしまう脂肪族ジカルボン酸の析出物は少なくて済み、導電性高分子と陽極体との間の界面抵抗、及び導電性高分子と陰極体との間の界面抵抗が抑制される。
【0039】
従って、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解質層に含む固体電解コンデンサは、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を電解質層に含む固体電解コンデンサと比べて、急激な温度変化で起こる熱衝撃を繰り返し受けても、導電性高分子の劣化が抑制され、ESRの変化が抑制されると推測される。
【0040】
電解液には、公知の他のアニオン成分を特に限定することなく含有させることができる。もっとも、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を加える場合、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸の3倍以下のモル比に抑える。酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有する固体電解コンデンサは、熱衝撃を繰り返し受けるとESRを大きく変化させる。しかし、この範囲内であれば、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が非含有で、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸が含有する固体電解コンデンサと遜色なく、ESRの変化が抑制される。
【0041】
電解質層には、更に、多価アルコールを含有させてもよい。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、1-ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。電解質層中に、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸及び多価アルコールが共存すると、熱衝撃を繰り返し受けた後のESR変化が更に抑えられる。
【0042】
(電解液)
電解液に含有可能な他種のアニオン成分としては、有機酸として、脂肪族ジカルボン酸とは異なる他のカルボン酸、フェノール類及びスルホン酸が挙げられる。他種のアニオン成分となる無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。他種のアニオン成分となる有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0043】
電解液には、アニオン成分に加えて公知のカチオン成分を含有させることができる。電解液の溶媒は、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒が挙げられ、単独又は2種類以上が組み合わせられる。
【0044】
カチオン成分としては、アンモニウム、四級アンモニウム、四級化アミジニウム、アミン、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。四級アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0045】
溶媒であるプロトン性の有機溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリグリセリン、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリン、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0046】
溶媒である非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0047】
電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
電解液は、コンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子内の空隙に含浸させる。電解液をより細かな空隙内に含浸させるべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行ってもよい。含浸工程は複数回繰り返してもよい。例えば、コンデンサ素子の内部を減圧し、電解液を加圧しながらコンデンサ素子の内部に電解液を注入してもよい。
【0049】
(導電性高分子)
電解質層に含有させる導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドープされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドープされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子にドープ反応を行うことで導電性高分子は高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、若しくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを少量添加することで導電性を発現する。
【0050】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0051】
上記の共役系高分子のなかでも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0052】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンにアルキル基が付加された、アルキル化エチレンジオキシチオフェンでもよく、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)などが挙げられる。
【0053】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートホウ酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0054】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0055】
導電性高分子を電解質層に含有させる方法は、特に限定されない。例えば、導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸させることで電解質層に充填すればよい。導電性高分子液を陽極体の誘電体皮膜に塗布又は吐出してもよい。導電性高分子液は、導電性高分子の粒子又は粉末が分散又は溶解した液体である。導電性高分子液のコンデンサ素子への含浸の促進を図るべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を施してもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸させた後は、乾燥工程により分散媒又は溶媒を除去する。
【0056】
導電性高分子液は、アンモニア水によってpHが調整されてもよい。電解質層に充填する多価アルコールは、この導電性高分子液に添加し、導電性高分子と同時に電解質層に充填するようにしてもよい。多価アルコールは、沸点が高いため、導電性高分子液を含浸させて乾燥させた後でも電解質層に残留する。好ましくは、多価アルコールは、導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含有させる。この範囲で多価アルコールを含有させると、電解質層に含まれる多価アルコールは、導電性高分子の劣化をより効果的に抑制し、ESRの変化が更に抑制される。
【0057】
導電性高分子液には、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の添加剤を添加してもよい。導電性高分子液に添加剤を添加したり、導電性高分子液をコンデンサ素子へ含浸する回数を増やすことでESRを大幅に低下させることも可能である。
【0058】
また、例えば、コンデンサ素子を重合液に浸漬し、化学酸化重合又は電解酸化重合といった重合反応により導電性高分子を生成し、コンデンサ素子内に導電性高分子を付着させるようにしてもよい。次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマー等を除去する。
【0059】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロース及びこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例0060】
以下、実施例の固体電解コンデンサをさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものでない。
【0061】
(実施例1-3)
実施例1乃至3並びに比較例1及び2の固体電解コンデンサを作製した。まず、アルミニウム箔を用いて陽極体及び陰極体を作製した。陽極体は、エッチング処理により拡面化した。
【0062】
次いで、陽極体をアジピン酸水溶液に浸漬して化成電圧を印加することで、誘電体皮膜を形成した。陰極体は、エッチング処理により拡面化した。陽極体と陰極体にリード線を接続し、セルロース系のセパレータを介して陽極体と陰極体を対向させて巻回した。巻回体に対しては、リン酸二水素アンモニウム水溶液に30分間浸漬されることで、修復化成が行われた。その後、100℃で乾燥させた。
【0063】
この巻回体を導電性高分子液に浸漬し、陽極体の誘電体皮膜、陰極体及びセパレータに導電性高分子を付着させた。巻回体を1回目に導電性高分子液に浸漬した後、巻回体を125℃で30分間乾燥させた。更に、巻回体を導電性高分子液に浸漬し、2回目に浸漬した後、巻回体を145℃で30分間乾燥させた。
【0064】
導電性高分子液には、ポリスチレンスルホン酸でドーピングされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の粒子を導電性高分子として分散させた。分散媒は水であり、導電性高分子の濃度が2wt%の導電性高分子液を調製した。導電性高分子液はアンモニア水でpH4に調整し、導電性高分子は超音波ホモジナイザーにより分散させた。
【0065】
更に、導電性高分子の電解質層を形成した巻回体に電解液を含浸させた。電解液の溶媒はエチレングリコールである。電解液には、各実施例及び比較例に対応したアニオン成分を混合した。アニオン成分は、電解液100gあたり16mmolの割合で電解液に添加した。また電解液には、カチオン成分として、16mmolのアンモニアを添加した。
【0066】
実施例1の電解液には、アニオン成分として、酸解離定数がpKa=4.51のピメリン酸を添加した。実施例2の電解液には、アニオン成分として、酸解離定数がpKa=4.31のグルタル酸を添加した。実施例3の電解液には、アニオン成分として、酸解離定数がpKa=4.20のコハク酸を添加した。比較例1の電解液には、アニオン成分として、酸解離定数がpKa=4.55のアゼライン酸を添加した。比較例2の電解液には、アニオン成分として、酸解離定数がpKa=4.526のスベリン酸を添加した。
【0067】
導電性高分子と電解液で電解質層を形成した後、コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収容した。外装ケースの開口端部には封口ゴムが装着され、加締め加工によって封止された。各固体電解コンデンサは、電圧印加によってエージング処理した。各固体電解コンデンサは、直径6.3mmで高さ5.8mmであり、定格耐電圧は35WV、静電容量は47μFであった。
【0068】
(熱衝撃試験)
実施例1乃至3並びに比較例1及び2の固体電解コンデンサに対して繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験は次の通りである。まず、固体電解コンデンサに実装時のリフロー熱を加えた。リフロー熱に晒した後、固体電解コンデンサのESRを測定した。ESRは、LCRメーター(Agilent Technologies社製、E4980A)を用い、交流電流レベルを1.0Vrms、測定周波数を100kHz、及びDCバイアスに設定して測定した。リフロー熱に晒した後のESRを初期ESRという。
【0069】
初期ESR測定後、固体電解コンデンサの温度環境下を高温と低温との間で繰り返し変化させた。高温環境下は155℃であり、低温環境下は-55℃である。固体電解コンデンサを高温環境下に30分晒し、次いで低温環境下に30分間晒すサイクルを、150時間繰り返した。150時間の熱衝撃試験の後、再びESRを測定し、初期ESRに対する熱衝撃試験後のESRの百分率をESR変化(ΔESR)として計算した。
【0070】
実施例1乃至3並びに比較例1及び2の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表1に示す。また、
図1は、下表1に基づいて作成されたものであり、横軸を酸解離定数pKaとし、縦軸をESR変化とするグラフである。
(表1)
【0071】
表1及び
図1に示すように、比較例1及び比較例2の群に対し、実施例1乃至3の群は、熱衝撃試験後のESR変化が良好に抑制されている。即ち、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含むと、固体電解コンデンサの熱衝撃試験後のESR変化が良好になることが確認できる。
【0072】
(実施例4-9)
更に実施例4乃至9の固体電解コンデンサを作製した。実施例4乃至9は、電解液に2種類のアニオン成分が混合されている。実施例4乃至9の全てにおいて、第1種目のアニオン成分A1は、酸解離定数pKa=4.52以上であるアゼライン酸である。実施例4乃至6の第2種目のアニオン成分A2は、酸解離定数pKa=4.51以下であるグルタル酸である。実施例7乃至9のアニオン成分A2は、酸解離定数pKa=4.51以下であるコハク酸である。
【0073】
実施例4では、アゼライン酸とグルタル酸の含有量はモル比において等量にした。実施例5では、アゼライン酸A1とグルタル酸A2の含有量はモル比においてA1:A2=2:1にした。実施例6では、アゼライン酸A1とグルタル酸A2の含有量はモル比においてA1:A2=3:1にした。
【0074】
実施例7では、アゼライン酸とコハク酸の含有量はモル比において等量にした。実施例8では、アゼライン酸A1とコハク酸A2の含有量はモル比においてA1:A2=2:1にした。実施例9では、アゼライン酸A1とコハク酸A2の含有量はモル比においてA1:A2=3:1にした。
【0075】
これら実施例4乃至9の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、比較例1、実施例1乃至3と同一である。
【0076】
実施例4乃至9の固体電解コンデンサのESR変化の結果を、比較例1、実施例2及び実施例3の結果と共に下表2に示す。
(表2)
【0077】
また、
図2は、上表2に基づいて作成されたものであり、グルタル酸に対するアゼライン酸の量とESR変化との関係を示すグラフである。
図3は、上表2に基づいて作成されたものであり、コハク酸に対するアゼライン酸の量とESR変化との関係を示すグラフである。
【0078】
表2、
図2及び
図3に示すように、比較例1と比べて、実施例2、4乃至6は、ESR変化が抑制されており、実施例3、7乃至9もESR変化が抑制されている。即ち、電解液に酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が含まれていたとしても、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸の3倍以下のモル比で含有していれば、固体電解コンデンサのESR変化は抑制されることが確認された。
【0079】
(実施例10-16)
更に実施例10乃至16の固体電解コンデンサを作製した。実施例10乃至16は、導電性高分子液に多価アルコールが加わっており、電解質層に多価アルコールが含まれている点で実施例3と異なる。その他の構成、組成、製造方法及び製造条件については、アニオン成分が酸解離定数pKa=4.51以下であるコハク酸である点を含め、実施例10乃至16は実施例3とは同一である。
【0080】
実施例10の導電性高分子液には1-ヘキサノールが添加されている。実施例11の導電性高分子液にはエチレングリコールが添加されている。実施例12の導電性高分子液にはジエチレングリコールが添加されている。実施例13の導電性高分子液にはグリセリンが添加されている。実施例14の導電性高分子液には平均分子量が300のポリエチレングリコールが添加されている。実施例15の導電性高分子液にはソルビトールが添加されている。実施例16の導電性高分子液にはキシリトールが添加されている。実施例6乃至12の導電性高分子液に添加された多価アルコールの量は、pH4に調整した導電性高分子液に対して8wt%になるように添加した。
【0081】
これら実施例10乃至16の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は実施例2と同一である。
【0082】
実施例10乃至16の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表3に示す。また、
図4は、下表3に基づいて作成されたものであり、実施例10乃至16のESR変化を示すグラフである。
(表3)
【0083】
表3及び
図4に示すように、実施例10乃至16は、実施例3よりも更にESR変化が抑制されている。このように、更に多価アルコールが電解質層に含まれると、ESR変化をより小さくできることが確認された。
【0084】
しかも、実施例14乃至16はESR変化が殆どみられない。即ち、ポリエチレングリコール、キシリトール又はソルビトールが電解質層に含まれると、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたとしても、ESRの変化を殆ど抑制できることが確認された。
【0085】
(実施例17及び18)
更に実施例17及び18の固体電解コンデンサを作製した。実施例17及び18は、実施例11と同様に、導電性高分子液に多価アルコールとしてエチレングリコールが加わっている。実施例11においてエチレングリコールの量が、pH4に調整した導電性高分子液に対して8wt%になるように添加したのに対し、実施例17のエチレングリコールの量は、導電性高分子液に対して30wt%になるように添加され、実施例18のエチレングリコールの量は、導電性高分子液に対して50wt%になるように添加された。その他の構成、組成、製造方法及び製造条件については、実施例17及び18は実施例11とは同一である。
【0086】
これら実施例17及び18の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、実施例11と同一である。
【0087】
実施例3及び実施例11と共に実施例17及び実施例18の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表4に示す。また、
図5は、下表4に基づいて作成されたものであり、多価アルコールの添加比率とESR変化の関係を示すグラフである。
(表4)
【0088】
表4及び
図5に示すように、多価アルコールを導電性高分子液に対して8wt%以上50wt%以下の範囲で添加している場合、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が小さくなっていることが確認された。
【0089】
このような熱衝撃を繰り返した劣化は、電解液のみを用いた電解コンデンサや導電性高分子のみを用いた固体電解コンデンサでは発生せずに、導電性高分子と電解液を組み合わせたハイブリッドコンデンサでのみ劣化が発生することを確認した。