(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093026
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ハイドロゲル電解質及びこれを備えた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20240702BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240702BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240702BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240702BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20240702BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20240702BHJP
H01M 10/26 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/054
H01M12/08 K
C08F220/56
H01M10/30 A
H01M10/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209121
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】千賀 明香音
【テーマコード(参考)】
4J100
5H028
5H029
5H032
【Fターム(参考)】
4J100AM21P
4J100AM21Q
4J100AM21R
4J100BA56R
4J100BC09Q
4J100BD04P
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA16
4J100JA43
4J100JA45
5H028AA06
5H028FF09
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM16
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032CC17
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、二次電池の充放電の安定性を維持できる電解質を提供することであり、特に二次電池において金属負極に形成されるデンドライトによる充放電の安定性の阻害を抑制できる電解質を提供することである。
【解決手段】ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体、水並びに電解質を含むハイドロゲル電解質。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体、水並びに電解質を含むハイドロゲル電解質。
【請求項2】
ホスト基が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ゲスト基が、n-ブチル基、n-ドデシル基、t-ブチル基及びアダマンチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のハイドロゲル電解質。
【請求項3】
架橋構造体が、
下記一般式(1a)で表される繰り返し構成単位
【化1】
(式(1a)中、Raは水素原子又はメチル基、R
1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、R
Aはホスト基を表す。)、
下記一般式(2a)で表される繰り返し構成単位
【化2】
(式(2a)中、Raは水素原子又はメチル基、R
2はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、R
Bはゲスト基を表す。)、及び
下記一般式(3a)で表される繰り返し構成単位
【化3】
(式(3a)中、Raは水素原子又はメチル基、R
3はハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を表す。)
を有する重合体の架橋体である請求項1又は2記載のハイドロゲル電解質。
【請求項4】
ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋部以外の架橋部をさらに有する請求項1又は2記載のハイドロゲル電解質。
【請求項5】
正極、負極及び請求項1又は2記載のハイドロゲル電解質を備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体と水と電解質とを含むハイドロゲル電解質、及び前記ハイドロゲル電解質を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の開発が盛んに行われている。なかでも金属負極は高い電荷容量密度を有しているため、金属負極を用いた二次電池の開発が行われてきた。しかし、金属負極を使用する場合、充放電の繰り返しにより溶解して析出した金属がデンドライト(樹枝状突起)を形成し、これが絶縁性のセパレータを貫通するなどして、充放電の安定性を阻害するとの問題があった。金属負極を用いる二次電池に関しては、アニオン伝導膜をセパレータとして用いる方法が提案されているが(特許文献1参照)、これはデンドライトの生成による問題を解決するものではなかった。また、吸水性ポリマー及びアルカリ水溶液からなるゲル電解質を使用してデンドライトの生成による問題を解決しようとする方法が提案されているが(特許文献2参照)、吸水性ポリマーのアルカリに対する安定性が低いため、強度の低下やそれに伴う電解液の漏洩が懸念され、強度を補強するためにカルボキシメチルセルロース及びポリテトラフルオロエチレンを添加することにより、電解質の質量が増加しエネルギー密度が低下するとの問題があった。また、複数の電解質保持部を有する構造とする方法も提案されているが(特許文献3参照)、電池の構造が複雑になるとの問題があった。このような状況下、デンドライトの生成による問題を有効に簡易に解決し、充放電の安定性を得ることのできる方法が求められていた。また、デンドライト生成の有無にかかわらず、充放電を繰り返しても安定した状態を保ち、充放電の安定性を維持できる電解質の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-95286号公報
【特許文献2】国際公開WO02/23663パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2021/049609パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、二次電池の充放電の安定性を維持できる電解質を提供することを課題とし、特に二次電池において金属負極に形成されるデンドライトによる充放電の安定性の阻害を抑制できる電解質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を開始した。検討を進めるなかで、ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体を使用する構造とし、この架橋構造体に水と電解質を含ませたハイドロゲル電解質とすることにより、金属界面表面に形成されるデンドライトの形態を制御でき、デンドライトによりハイドロゲル電解質に生じた損傷を自己修復機能によって復元できることを見いだした。このハイドロゲル電解質は、上記の仕組みによりデンドライトによる充放電への影響を低減でき、二次電池の充放電の安定性を維持できるものであった。さらに、このハイドロゲル電解質は、デンドライトによる損傷のみでなく使用時の種々の要因による損傷を自己修復できるため、デンドライト生成の有無にかかわらず、充放電を繰り返しても安定した状態を保ち、二次電池の充放電の安定性を維持できるものであった。本発明は、こうして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
[1]ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体、水並びに電解質を含むハイドロゲル電解質。
[2]ホスト基が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ゲスト基が、n-ブチル基、n-ドデシル基、t-ブチル基及びアダマンチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[1]のハイドロゲル電解質。
[3]架橋構造体が、下記一般式(1a)で表される繰り返し構成単位
【0007】
【0008】
(式(1a)中、Raは水素原子又はメチル基、R1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RAはホスト基を表す。)、下記一般式(2a)で表される繰り返し構成単位
【0009】
【0010】
(式(2a)中、Raは水素原子又はメチル基、R2はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RBはゲスト基を表す。)、及び下記一般式(3a)で表される繰り返し構成単位
【0011】
【0012】
(式(3a)中、Raは水素原子又はメチル基、R3はハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を表す。)を有する重合体の架橋体である上記[1]又は[2]のハイドロゲル電解質。
【0013】
[4]ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋部以外の架橋部をさらに有する上記[1]又は[2]のハイドロゲル電解質。
[5]正極、負極及び上記[1]又は[2]のハイドロゲル電解質を備えた二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハイドロゲル電解質は、二次電池の充放電の安定性を維持できる。特に二次電池において金属負極に形成されるデンドライトが充放電の安定性を阻害することを抑制できる。本発明の二次電池は、本発明のハイドロゲル電解質を備えることにより、充放電の安定性を維持できる。特に金属負極に形成されるデンドライトの影響を抑制し、充放電の安定性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1で作製したハイドロゲル電解質の写真である。
【
図2】
図2は、実施例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のCV曲線を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の1、10、20、30、50及び100サイクルの各CV曲線を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のCV曲線を示す図である。
【
図5】
図5は、
図4の1、10、20及び24サイクルの各CV曲線を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のサイクル特性を示す図である。
【
図7】
図7は、比較例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のサイクル特性を示す図である。
【
図8】
図8は、KOH水溶液を電解質として使用した場合のCV測定後の亜鉛電極表面のSEM画像である。
【
図9】
図9は、比較例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のCV測定後の亜鉛電極表面のSEM画像である。
【
図10】
図10は、実施例1で作製したハイドロゲル電解質を使用した場合のCV測定後の亜鉛電極表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のハイドロゲル電解質は、ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体、水並びに電解質を含む。本発明における架橋構造体は、ハイドロゲルを構成するマトリックス成分である。架橋構造体は、重合体が架橋されて形成された、いわゆる三次元網目構造を有している。本発明のハイドロゲル電解質では、架橋構造体は、ホスト基及びゲスト基による相互作用、いわゆるホスト-ゲスト相互作用によって形成された結合を架橋点としている。ホスト-ゲスト相互作用は、例えば、ホスト分子とゲスト分子との疎水性相互作用、水素結合、分子間力、静電相互作用、配位結合、π電子相互作用等によって生じ得るが、これらに限定されるものではない。本発明のハイドロゲル電解質における架橋構造体としては、ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有している限り、その種類は特に限定されず、例えば、側鎖にホスト分子及びゲスト分子が結合した重合体(側鎖にホスト基及びゲスト基を有する重合体)の架橋体を挙げることができる。前記ホスト分子及びゲスト分子は、互いにホスト-ゲスト相互作用が生じることが可能な分子であれば特にその種類は制限されない。本発明において、「ハイドロゲル電解質」とは、ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造体、水並びに電解質を含み、これらを一体としてハイドロゲル電解質という。また、本発明において、単に「電解質」という場合は、「ハイドロゲル電解質」に含まれる電解質成分をいう。
【0017】
ホスト分子としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12-クラウン-4、18-クラウン-6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル、ククルビット[8]ウリル等を挙げることができ、これらの群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらは置換基を有していてもよい。このようなホスト分子をホスト基として有していることにより、後述のゲスト基との相互作用が起こりやすいので、安定した架橋構造を有する架橋構造体が形成され、また、自己修復機能も発揮されやすい。上記のようなホスト分子は、例えば、重合体の側鎖に置換されることでホスト基となり得る。
【0018】
ゲスト分子としては、例えば、炭素数4~18の鎖状又は環状のアルキル化合物及びそのアルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物などを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらは置換基を有していてもよい。前記炭素数4~18のアルキル化合物としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、アダマンタン等が挙げられ、いずれの化合物も直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。上記のようなゲスト分子は、例えば、重合体の側鎖に置換されることでゲスト基となり得る。本願明細書において、X~Yとの表記はX以上Y以下を表し、炭素数の場合はX以上Y以下の整数であることを表す。
【0019】
ホスト-ゲスト相互作用が起こりやすく、自己修復材料の自己修復性がより向上すると言う観点から、ホスト基としてα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の分子又はこれらいずれかの誘導体を含んで形成される置換基であることが好ましい。同様の理由により、ゲスト基としてn-ブチル基、n-ドデシル基、t-ブチル基、及びアダマンチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ホスト基とゲスト基の組み合わせとしては、α-シクロデキストリンとn-ドデシル基、β-シクロデキストリンとアダマンチル基が特に好ましい。
【0020】
架橋構造体を構成する重合体は、上記ホスト基及びゲスト基を有している限りは、主鎖の構造は特に制限されない。例えば、架橋構造体としては、下記一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位のすべてを有することが好ましい。
【0021】
【0022】
式(1a)中、Raは水素原子又はメチル基、R1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RAはホスト基を表す。
【0023】
【0024】
式(2a)中、Raは水素原子又はメチル基、R2はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RBはゲスト基を表す。
【0025】
【0026】
式(3a)中、Raは水素原子又はメチル基、R3はハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を表す。
【0027】
なお、以下では、一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位をそれぞれ有する重合体を「重合体A」と表記する。
【0028】
式(1a)中、R1がアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルコキシ基として炭素数1~10のアルコキシ基が例示され、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0029】
式(1a)中、R1がチオアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該チオアルコキシ基として炭素数1~10のチオアルコキシ基が例示され、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0030】
式(1a)中、R1がアルキル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルキル基として炭素数1~30のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0031】
式(1a)中、R1が1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アミノ基の窒素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。式(1a)中、R1が1個の置換基を有していてもよいアミド基である場合、アミド基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。式(1a)中、R1がアルデヒド基である場合、アルデヒド基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。式(1a)中、R1がカルボキシル基である場合、カルボキシル基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0032】
式(1a)中、RAとしては、上述したホスト基が例示される。
【0033】
式(2a)中、R2の定義は上記式(1a)中のR1と同様であり、主鎖(C-C結合)への結合の仕方も同様である。式(2a)中、RBとしては、上述したゲスト基が例示される。
【0034】
式(3a)中、R3が1個の置換基を有するカルボキシル基である場合、カルボキシル基の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)等で置換されたカルボキシル基が挙げられる。
【0035】
式(3a)中、R3が1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの少なくとも一つの水素原子又は2個の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基)等で置換されたアミド基が挙げられる。
【0036】
式(3a)中、R3における置換基は、イオン基を有していてもよく、イオン基であってもよい。イオン基としては、アニオン性基、カチオン性基又は両イオン性基が挙げられる。イオン基としては、特に制限されるものでないが、アニオン性基としては、例えば、スルホ基、リン酸基、カルボキシル基、ボロン酸基、スルホニルイミド基等を挙げることができ、カチオン性基としては、例えば、アンモニウム基等を挙げることができる。イオン基を有する置換基としては、例えば、イオン基により置換されたアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基)等を挙げることができる。
【0037】
式(1a)中、R1がアミド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成されていることが好ましい。すなわち、式(1a)で表される繰り返し構成単位は、水素原子がRAで置換されたアミド基を側鎖に有する構造及び水素原子がRAで置換されたカルボキシル基が側鎖に有する構造の少なくともいずれか一方を有していることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易であり、また、耐乾燥性、自己修復性、強度等の物性に優れたハイドロゲルが形成されやすい。
【0038】
また、式(2a)中、R2がアミド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成されていることが好ましい。すなわち、式(2a)で表される繰り返し構成単位は、水素原子がRBで置換されたアミド基を側鎖に有する構造及び水素原子がRBで置換されたカルボキシル基を側鎖に有する構造の少なくともいずれか一方を有していることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易であり、また、耐乾燥性、自己修復性、強度等の物性に優れたハイドロゲルが形成されやすい。
【0039】
また、式(3a)中、R3が、アミノ基;アミド基;水素原子がアルキル基、水酸基、ヒドロキシアルキル基又はアルコシル基で置換されたアミド基;カルボキシル基;水素原子がアルキル基、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)又はアルコシル基で置換されたカルボキシル基;であることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易であり、また、耐乾燥性、強度等の物性に優れたハイドロゲルが形成されやすい。また、アミノ基、カルボキシル基又はアミド基が、イオン基を有する置換基又はイオン基を有すると、架橋構造体の親水性を向上させることができる。また、金属負極でのデンドライトの形態制御機能をより向上させることができる。金属が亜鉛の場合は、イオン基はアニオン性基が好ましく、スルホ基がより好ましい。
【0040】
重合体A中、各繰り返し構成単位は、規則的に配列していてもよいし、あるいはランダムに配列していてもよい。すなわち、重合体Aは、ブロックポリマー、交互ポリマー及びランダムポリマーのいずれであってもよく、また、グラフトポリマーであってもよい。
【0041】
重合体Aを構成する一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位各々の含有割合は特に限定されない。例えば、重合体Aのすべての繰り返し構成単位に対して、一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が0.5~15モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が0.5~15モル%とすることができる。この場合、ホスト基とゲスト基との相互作用が生じやすく、重合体Aが架橋構造を形成しやすくなるので、安定した架橋構造体となりやすく、しかも、自己修復性にも優れる。重合体Aのすべての繰り返し構成単位に対して、一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が5~10モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が5~10モル%であることがより好ましく、この場合、自己修復性がより向上すると共に、透明性の高い高分子ゲルが得られ、適用可能な用途がより広くなる。一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が7~9モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が7~9モル%であることが特に好ましく、この場合、自己修復性がより向上すると共に透明性の高い高分子ゲルとなり、しかも、伸縮性にも優れる高分子ゲルとなる。
【0042】
上記重合体Aは、例えば、一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位を形成するための重合性単量体を重合する方法によって製造され得る。重合体Aのその他の製造方法として、ホスト基及びゲスト基を有していない重合体をあらかじめ製造しておき、この重合体とホスト分子及びゲスト分子を反応させて、重合体側鎖にホスト基及びゲスト基を導入する方法も挙げられる。
【0043】
架橋構造体を構成するための重合体は1種又は2種以上を含むことができる。例えば、架橋構造体を構成するための重合体は、1種類の重合体Aのみを含んでいてもよいし、異なる2種類以上の重合体Aを含んでもよい。なお、架橋構造体は、本発明の効果を阻害しない程度であれば、ホスト基及びゲスト基を有していない重合体を含んでもよい。
【0044】
重合体Aは、側鎖にホスト基及びゲスト基を有しているので、ホスト-ゲスト相互作用によって重合体Aどうしの架橋が生じ、架橋構造体として形成される。上記架橋構造体がハイドロゲル電解質に含まれることにより、本発明のハイドロゲル電解質は、自己修復性の機能を発揮することができる。上記架橋構造体を含むハイドロゲル電解質に対して応力が加わると、その応力によって架橋構造体の中でも比較的弱い結合であるホスト基とゲスト基との結合が解消する。これにより、架橋構造体の一部が崩壊し、ハイドロゲル電解質自体が切断され得る。一方、切断部どうしを接触させると、切断されたホスト基とゲスト基との結合が再度起こり得る。これにより、切断部どうしの再結合が生じ、切断されたハイドロゲル電解質が自己修復され得る。また、上記ホスト-ゲスト相互作用は、一旦、相互作用が解消されても再包接しやすい。そのため、再接着後のハイドロゲル電解質は、初期のゲル強度に戻りやすい。
【0045】
金属負極のデンドライトは充電過程において溶解している金属イオンが負極表面で還元され金属として析出することで形成される。その後、再び放電を行うことでデンドライトは縮小し、再充電によって再び成長する。この充放電過程を繰り返すことでデンドライトは次第に大きく成長していく。通常の化学架橋型のポリマーゲルはこのデンドライトによって損傷した部分が残るため、短い充放電サイクルでデンドライトがポリマーを貫通してしまう。しかし、本発明のハイドロゲル電解質は、包接現象を利用した自己修復性を有するため、損傷を受けても次のデンドライト成長のときまでに修復する。このため、デンドライトによるポリマーの貫通を防ぐことが可能である。
【0046】
本発明のハイドロゲル電解質に含まれる電解質としては、二次電池に使用できる電解質であって水に溶解するものであれば、特に制限されるものではないが、例えば、金属の水酸化物、金属の塩等を挙げることができる。前記金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウ等のアルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウムなどを挙げることができる。塩としては、例えば、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。本発明における電解質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の水に溶解したときの水溶液(電解液)がアルカリ性となる電解質、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛などを挙げることができる。亜鉛源となる化合物を使用することで、亜鉛の溶解-析出反応を促進することができる。酸化亜鉛は、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液に溶解させて使用することができる。本発明のハイドロゲル電解質においては、電解質を1種又は2種以上使用することができる。本発明のハイドロゲル電解質中の架橋構造体の含有量は、ゲル電解質としての使用に耐えるゲル状態を維持できれば、特に制限されるものではないが、ゲル状態をよりよく維持する観点や電解質としての働きを維持する観点から、ハイドロゲル電解質の全質量に対して10~80質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。ハイドロゲル電解質中の電解質の含有量は、ゲル電解質として使用できる範囲であれば、特に制限されるものではないが、ゲル電解質としての特性を維持する観点から、ハイドロゲル電解質の全質量に対して1~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0047】
本発明のハイドロゲル電解質における架橋構造体は、ホスト基及びゲスト基による相互作用による架橋部以外の架橋部(以下、「他の架橋部」ともいう。)を含んでもよい。ホスト基及びゲスト基による相互作用による架橋部と、他の架橋部とを組み合わせることにより、自己修復性を有しながら架橋構造体の機械的強度を向上させることができ、ハイドロゲル電解質に自立性を付与したりすることができる。他の架橋部では、共有結合、イオン結合、水素結合等により化学結合される。他の架橋部は、架橋構造体を作製するときに、架橋剤を添加することにより形成することができる。架橋剤としては、特に制限されるものはでないが、例えば、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、グリセリントリ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチリロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能(メタ)アクリルアミド、多官能(メタ)アクリレート等を挙げることができる。本発明のハイドロゲル電解質が他の架橋部を含む場合の、ホスト基及びゲスト基による架橋と他の架橋との割合としては、ホスト基及びゲスト基による架橋に対する他の架橋の割合が、0%超10%以下が好ましく、0.001%~10%が好ましい。
【0048】
本発明のハイドロゲル電解質は、本発明の効果が損なわれない程度であれば、その他添加剤をさらに含有していてもよい。その他添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等が挙げられる。また、ハイドロゲル電解質の機械特性等を改良する目的で、架橋構造体とは別の高分子化合物が含まれていてもよい。
【0049】
本発明のハイドロゲル電解質の製造方法は、特に制限されるものではないが、以下に製造方法の一実施形態を示す。
【0050】
まず、架橋構造体を作製する。架橋構造体は、例えば、水性媒体及び重合開始剤を含む重合性単量体の混合物を重合することにより製造される。
【0051】
重合性単量体としては、少なくとも上記ホスト基を分子構造中に有する化合物、上記ゲスト基を分子構造中に有する化合物、並びに、ホスト基及びゲスト基のいずれをも有していない化合物を使用できる。以下、ホスト基を分子構造中に有する化合物を「単量体(1)」、ゲスト基を分子構造中に有する化合物を「単量体(2)」、ホスト基及びゲスト基のいずれをも有していない化合物を「単量体(3)」と略記する。
【0052】
単量体(1)としては、例えば、下記一般式(1b)で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
【0054】
式(1b)中、Raは水素原子又はメチル基、R1、RAは上記一般式(1a)と同義である。
【0055】
単量体(1)は、上記一般式(1a)で表される繰り返し構成単位を構成するための化合物になり得る。単量体(1)は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体であることが好ましい。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのいずれかを示す。
【0056】
単量体(1)の具体例としては、6-(メタ)アクリルアミド-α-シクロデキストリン、6-(メタ)アクリルアミド-β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンメタクリレート、β-シクロデキストリンメタクリレート、α-シクロデキストリンアクリレート、β-シクロデキストリンアクリレートが挙げられる。上記単量体(1)は公知の方法で製造することができる。
【0057】
単量体(2)としては、例えば、下記一般式(2b)で表される化合物を挙げることができる。
【0058】
【0059】
式(2b)中、Raは水素原子又はメチル基、R2、RBは上記一般式(2a)と同義である。
【0060】
単量体(2)は、上記一般式(2a)で表される繰り返し構成単位を構成するための化合物になり得る。単量体(2)は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体であることが好ましい。
【0061】
単量体(2)の具体例としては、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、1‐アクリルアミドアダマンタン、N-(1-アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-1-ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。なお、単量体(2)の代わりにスチレンを使用してもよい。上記単量体(2)は公知の方法で製造することができる。
【0062】
単量体(3)としては、例えば、下記一般式(3b)で表される化合物を挙げることができる。
【0063】
【0064】
式(3b)中、Raは水素原子又はメチル基、R3は上記一般式(3a)と同義である。
【0065】
単量体(3)は、上記一般式(3a)で表される繰り返し構成単位を構成するための化合物になり得る。
【0066】
単量体(3)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、アニオン性、カチオン性又は両イオン性のイオン性単量体を使用してもよい。イオン性単量体としては、アクリルアミド系のイオン性単量体を使用することが好ましい。イオン性単量体としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等を挙げることができる。
【0067】
重合性単量体には、本発明の効果が阻害されない限りは、上記単量体(1)~(3)以外の単量体が含まれていてもよい。
【0068】
重合性単量体(1)~(3)の配合割合は、目的とする架橋構造体に応じて適宜決めることができる。例えば、重合性単量体(1)~(3)の総量に対して重合性単量体(1)を0.5~15モル%、重合性単量体(2)を0.5~15モル%とすることができる。この場合、得られた重合体Aのホスト基とゲスト基との相互作用が生じやすく、重合体Aが架橋構造を形成しやすくなるので、安定した架橋構造体となりやすく、しかも、自己修復性にも優れるハイドロゲルが得られやすくなる。重合性単量体(1)~(3)の総量に対して重合性単量体(1)を5~10モル%、重合性単量体(2)を5~10モル%とすることがより好ましい。この場合、自己修復性がより向上すると共に、透明性の高いハイドロゲルが得られやすくなる。重合性単量体(1)~(3)の総量に対して重合性単量体(1)を7~9モル%、重合性単量体(2)を7~9モル%とすることが特に好ましい。この場合、自己修復性がより向上すると共に透明性の高いハイドロゲルとなり、しかも、伸縮性にも優れるハイドロゲルが得られやすくなる。
【0069】
上記水性媒体は水である。また、架橋構造体の形成が阻害されない程度であれば、水性媒体は水とその他の溶媒の混合溶媒であってもよい。その他の溶媒としては、上述の水よりも沸点が高い親水性の溶媒が挙げられ、その他、水と相溶性のある有機溶媒、例えば、低級アルコールであってもよい。上記混合物中の水性媒体の量は、重合性単量体の総量に対して10~80質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。この場合、安定なハイドロゲルが形成されやすくなり、最終的に得られるハイドロゲル電解質は耐乾燥性に優れ、自己修復性等の諸物性も損なわれにくい。
【0070】
上記重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤等が使用でき、特に制限されるものではない。例えば、過硫酸アンモニウム(以下、APSと称することもある)、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと称することもある)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(以下、VA-044と称することもある)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)シリーズ等)等が挙げられる。好ましくは、APS、VA-044である。また、水溶性の重合開始剤であることが好ましい。上記重合反応で使用する混合物において、重合開始剤の濃度は、重合性単量体の総量に対し、0.5~5モル%とすることができる。
【0071】
水性媒体及び重合開始剤を含む重合性単量体の混合物は、各々、所定の配合量で混合することで調製することができる。なお、混合物を調製するにあたり、単量体(1)と単量体(2)とをあらかじめ加熱混合してから、その他の原料を混合するようにしてもよい。当該混合物には必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、重合促進剤、架橋剤等が例示される。上記重合促進剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。架橋剤としては、上記で述べた架橋剤が挙げられる。
【0072】
上記混合物の重合反応の条件は、使用する単量体の重合性や使用量、重合開始剤の半減期温度等に応じて適宜の条件で行うことができる。例えば、上記混合物を、0~100℃で撹拌することで行える。重合反応の時間は、1~24時間とすることができる。なお、重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合は、例えば、上記混合物に波長200~400nmのUV光を照射することにより重合反応を行うことができる。
【0073】
上記のように重合反応を行うことで、単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)が重合してなる共重合体が得られる。ここでいう共重合体は上記の重合体Aに相当する。このように得られる重合体Aは、側鎖にホスト基及びゲスト基を有しているので、ホスト-ゲスト相互作用によって架橋が形成されて架橋構造体となり得る。
【0074】
架橋構造体を形成した後、架橋構造体に含まれる水性媒体を電解質を含む水に置換することにより、あるいは架橋構造体に含まれる水性媒体に電解質を含有させることにより、本発明のハイドロゲル電解質を得ることができる。置換する方法としては特に制限されず、例えば、形成した架橋構造体を乾燥して架橋構造体に含まれる水性媒体を除去した後、乾燥後の架橋構造体を電解質を含む水である電解液に浸漬させ、電解液を架橋構造体に含侵させることにより置換してもよく、形成した架橋構造体を電解液に浸漬して、水性媒体と電解液との架橋構造体への浸透度の違い等を利用して、架橋構造体に含まれる水性媒体を電解液に置換してもよい。架橋構造体に含まれる水性媒体の電解液への置換は、架橋構造体に所定量の水と電解質が含まれる状態になればよいため、水性媒体の全てを置換してもよく、一部を置換してもよい。電解液は電解質を水に溶解させて調製できる。または、架橋構造体に含まれる水性媒体に電解質を溶解させる操作を行ってもよい。このような工程により、本発明における架橋構造体中に水及び電解質を含む本発明のハイドロゲル電解質が得られる。本発明のハイドロゲル電解質は、亜鉛等の金属を負極活物質とする負極に対して使用する場合は、架橋構造体中にアルカリ水溶液を含むことが好ましい。
【0075】
本発明の二次電池は、正極、負極及び本発明のハイドロゲル電解質を備える。本発明における正極及び負極は、二次電池に使用できるものであれば特に制限されない。本発明の二次電池における負極に使用する負極活物質としては、例えば、炭素、各種の金属等を挙げることができ、金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、錫、シリコン、これらの合金等を挙げることができる。本発明の二次電池における正極に使用する正極活物質としては、例えば、酸素、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、コバルト含有水酸化ニッケル等のニッケル含有化合物、二酸化マンガン等のマンガン含有化合物、酸化銀、コバルト酸リチウム等のリチウム含有化合物、鉄含有化合物などを挙げることができる。負極及び正極は、負極活物質又は正極活物質を含む層を集電体上に設けることによって作製することができる。例えば、粒子状の負極活物質及び正極活物質を、それぞれ結着剤と混練してスラリー状の負極合材及び正極合材を得た後、得られた各合材を銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔等の集電体上に塗布して乾燥、必要により加圧成型、加熱処理することにより、負極及び正極を製造することができる。また、金属を負極活物質として使用する場合は、金属酸化物等の金属化合物を更に負極合材中に加えて負極を作製してもよい。例えば、亜鉛を負極活物質として使用する場合に、亜鉛金属粉末及び酸化亜鉛粉末等の亜鉛化合物粉末を負極合材中に含有させてもよい。結着剤としては、二次電池に使用できるものであれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。各合材には、導電助剤やその他の添加剤を加えてもよい。導電助剤としては、特に制限されるものでないが、例えば、無定型炭素、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素質物質などを挙げることができる。また、金属を負極活物質として使用する場合は、金属板、金属をメッキした板、粉体等などを使用してもよい。本発明の二次電池は、正極及び負極と本発明のハイドロゲル電解質を備える。本発明の二次電池は、電解質として本発明のハイドロゲル電解質を備えるため、金属を負極活物質として含む金属負極を用いた二次電池に好適に使用できる。
【実施例0076】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
6-アクリルアミド-β-シクロデキストリン(AA_β-CD)とN-(1-アダマンチル)アクリルアミド(AA_Ad)とをモル比1:1で所定量の水に溶解させ、AA_β-CD及びAA_Adの濃度が、それぞれ0.08mol/Lの水溶液を得た。得られた水溶液に、モノマーとして2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)をAA_β-CDに対して10当量加えて溶解させた。さらに、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)をAMPSに対して0.05当量と、架橋剤としてFOM-03006(富士フィルム和光純薬(株)社製)をAA_β-CDに対して0.01当量を水溶液に加えて溶解させた。こうして調製した水溶液を70℃の恒温装置に入れて1時間反応させた。その後、室温に戻して、アセトンで洗浄し、乾燥してゲルを得た。得られたゲルに5mol/LKOH水溶液を含侵させた。この操作により中和されて、スルホン酸のユニットがスルホン酸カリウムに置換されてスルホン酸カリウムのユニットが生成された。この処理は、スルホン酸は酸性であるため、電解質溶液として加えるアルカリ性溶液と中和反応して電解質溶液中の電解質濃度が変化するのを抑えるための事前の中和処理である。得られた湿潤ゲルをメタノールで洗浄して余分なKOH水溶液を除去し、乾燥して乾燥ゲル(ドライゲル)を得た。その後、5mol/LKOH+sat.ZnO水溶液を乾燥ゲルに含浸させて実施例1のハイドロゲル電解質を得た。得られたハイドロゲル電解質における5mol/LKOH+sat.ZnO水溶液の含有量は70質量%であった。
図1に得られたハイドロゲル電解質の状態を示す。黄色みを帯びた均一な状態のゲルが得られた。FOM-03006の化合物名は、
N,N’-{[(2-acrylamido-2-[(3-acrylamidopropoxy)methyl]propane-1,3-diyl)bis(oxy)]bis(propane-1,3-diyl)}diacrylamideである。
【0078】
[比較例1]
AMPSを所定量の水に溶解させ、AMPSの濃度が0.84mol/Lの水溶液を得た。得られた水溶液に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)をAMPSに対して0.05当量と、架橋剤としてFOM-03006(富士フィルム和光純薬(株)社製)をAMPSに対して0.1当量を水溶液に加えて溶解させた。こうして調製した水溶液を70℃の恒温装置に入れて2時間反応させた。その後、室温に戻して、アセトンで洗浄し、乾燥してゲルを得た。得られたゲルに5mol/LKOH水溶液を含侵させた。この操作により中和されて、スルホン酸のユニットがスルホン酸カリウムに置換されてスルホン酸カリウムのユニットが生成された。得られた湿潤ゲルをメタノールで洗浄して余分なKOH水溶液を除去し、乾燥して乾燥ゲル(ドライゲル)を得た。その後、実施例1と同様に5mol/LKOH+sat.ZnO水溶液を所定量ゲルに含浸させて比較例1のハイドロゲル電解質を得た。
【0079】
[サイクリックボルタンメトリー(CV)]
ガラス板上に白金メッシュ(対極)を置き、白金メッシュ上にハイドロゲル電解質を置いて、ハイドロゲル電解質上に亜鉛板(試験極)と参照極(Ag/AgCl)を離して置き、最上部にガラス板をおいて、測定用のセルを作製した。このセルを用いて、実施例1のハイドロゲル電解質と比較例1のハイドロゲル電解質について、それぞれサイクリックボルタンメトリーによる電気化学的評価を行った。走査範囲は-2.2~0.5V、走査速度は10mV/s、還元・酸化のサイクル数は100サイクルで測定を行った。
図2及び3に実施例1のハイドロゲル電解質のサイクリックボルタンメトリーを示し、
図4及び5に比較例1のハイドロゲル電解質のサイクリックボルタンメトリーを示す。また、
図2~5のデータに基づき得られたサイクル特性のグラフを
図6及び7に示す。
図6は実施例1のハイドロゲル電解質のグラフであり、
図7は比較例1のハイドロゲル電解質のグラフである。
【0080】
図2~5のCV曲線から、どちらも亜鉛金属電極の酸化-還元反応が起きており、亜鉛の溶解-析出が起きていることが分かる。溶解-析出時に生じる電流値も同程度であることから、ホスト基及びゲスト基による相互作用によって架橋された架橋構造が、亜鉛の溶解-析出に対して影響を与えていない、すなわち本発明のハイドロゲル電解質は電気化学反応を阻害していないことが示された。
図6及び7のサイクル特性のグラフにおいて、比較例1のハイドロゲル電解質では24サイクルで電気化学反応が停止したのに対して(
図7)、実施例1のハイドロゲル電解質では100サイクルにわたって初期の酸化電流の値を維持し続けた(
図6)。このように本発明のハイドロゲル電解質を使用するとサイクル特性の大幅な改善がみられた。これは、本発明のハイドロゲル電解質の場合、ホスト-ゲスト相互作用によって形成された結合により架橋点となる包接構造が可逆的に構築されるため、デンドライトによるハイドロゲルの破壊が起きたとしても、還元時にデンドライトが縮小する際に再度架橋構造が形成されているためだと推察される。
【0081】
[比較例2]
0.1mol/L KOH+sat.ZnO水溶液に白金メッシュ(対極)、亜鉛板(試験極)及び参照極(Ag/AgCl)を浸漬した3極式ガラスセルを作製し、走査範囲-2.2~0.5V、走査速度10mV/s、還元・酸化のサイクル数10サイクルで、サイクリックボルタンメトリー(CV)による電気化学的評価を行った。
【0082】
[走査型電子顕微鏡(SEM)による観察]
比較例2のCV測定後の亜鉛電極表面のSEM観察像を
図8に示す。また、比較例1のハイドロゲル電解質を用いたCV測定後の亜鉛電極表面のSEM観察像を
図9に示し、実施例1のハイドロゲル電解質を用いたCV測定後の亜鉛電極表面のSEM観察像を
図10に示す。
【0083】
図8では、CV測定後の亜鉛電極表面には針状のデンドライトが形成され、
図9では、球状に近い形態のデンドライトが形成されていた。
図10では、デンドライトの析出状態は、
図9に比べてより細かな球形の析出形態となっており、デンドライトの成長が抑制されていた。これらの結果から、本発明のハイドロゲル電解質は、デンドライトの形態制御機能に優れており、ハイドロゲルの自己修復機能がハイドロゲルの破壊を修復するだけでなく、デンドライトの形態制御機能に対しても寄与していることが分かった。
本発明のハイドロゲル電解質は、二次電池に使用でき、特にアルカリ蓄電池(二次電池)等の金属負極を使用する二次電池に好適に使用でき、水系の二次電池に好適に使用できる。二次電池としては、例えば、ニッケル・亜鉛二次電池、ニッケル・カドミウム二次電池、ニッケル・水素二次電池、亜鉛・空気二次電池、亜鉛・銀二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム・空気二次電池、リチウム・硫黄二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム・空気二次電池等を挙げることができる。