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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093032
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20240702BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B41J2/16 401
B41J2/14 501
B41J2/16 517
B41J2/14 613
B41J2/16 503
B41J2/16 511
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209127
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 航平
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃久
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG01
2C057AP13
2C057AP23
2C057AP25
2C057AP60
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体射出性に優れた液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】撥液膜、基材及び接着層をこの順に有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、前記基材の液体吐出側の表面に前記撥液膜を有し、当該撥液膜が、フッ素系化合物を含有し、かつ、前記基材の前記接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液膜、基材及び接着層をこの順に有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記基材の液体吐出側の表面に前記撥液膜を有し、
当該撥液膜が、フッ素系化合物を含有し、かつ、
前記基材の前記接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有する
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記接着層が、固形粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
フッ素元素の原子濃度が、前記基材の前記撥液膜側より前記接着層側の方が低い
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記固形粒子の体積存在比率が、前記接着層全体に対して0.1~10.0%の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記固形粒子の体積平均粒径が、0.2~5.0μmの範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記固形粒子が、シリカ粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記固形粒子が、球形粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記撥液膜が、蒸着膜である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記基材の前記接着層側表面における前記フッ素元素の存在範囲が、前記基材の各端部からの距離が、20~100μmの範囲内である
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記基材の前記接着層側表面の前記フッ素元素の原子濃度が、1.0~50.0atm%の範囲内である
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記基材の前記接着層側のノズル穴近傍にも撥液膜が付着している
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記ノズルプレートをレーザー加工する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。より詳しくは、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体射出性に優れた液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、高画質化のため、耐久性及び吐出性能に優れた液体吐出ヘッドが求められている。
従来、液体吐出ヘッドとしては、液体に吐出圧を付与するためのチャネル(流路)が設けられたヘッドチップに対して、当該チャネルに液体(例えばインク等)を供給するためのマニホールドや、当該チャネルからの液体を吐出するノズルが形成されたノズルプレートを接着してなるものが知られている。
【0003】
特許文献1では、マニホールドとヘッドチップ等を接着する接着部を、熱硬化性組成物を加熱硬化させることにより形成し、液体吐出ヘッドの耐久性及び吐出性能を向上する技術が開示されている。
【0004】
ここで、液体吐出ヘッドの液体吐出性能に与える影響は、当該液体吐出ヘッドが備えるノズルの液体吐出面の表面特性によるところが大きい。
【0005】
そのため、一般にノズルの液体吐出面の表面に撥液膜(「撥水膜」、又は「撥液層」ともいう。)を形成し、ノズル周辺部の液体の付着を防止することにより、液体吐出性能を向上する技術が知られている。
【0006】
近年、液体吐出ヘッドは高密度化のために、当該液体吐出ヘッドが備えるノズルプレートの隣接ノズルの間隔がますます狭くなってきている。
【0007】
一般的にノズルプレートを記録素子基板や流路部材等に接着する際には接着剤を用いて、当該接着剤を硬化することにより接着する。
【0008】
しかしながら、上記の接着剤を硬化するための加熱処理を施すと、これにより当該接着剤の粘度が低下し流動性が上がってしまうため、接着部分に近接して存在しているノズル部に当該接着剤が流れ込み、ノズル部の一部、又は場合によっては全域を塞いでしまうことがあった。
【0009】
特許文献2では、上記のようなノズル領域(接着部分に近接して存在しているノズル部)への接着剤の流れ込みを防止する方法として、室温では固体となるような高粘度接着剤を溶媒に溶解させて塗布する技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2では接着剤を溶剤に溶解させる必要があり、作業性に改善の余地があった。
【0011】
特許文献3では、光カチオン重合開始剤及び特定の熱カチオン重合開始剤を含有する接着剤で接着し、はみ出した接着剤に紫外線を照射して第一次硬化を行い、次いで加熱処理をして光の当たらなかった部分を硬化することでノズル部への接着剤の流れ込みを防止する技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、上記の文献に開示されている技術において用いられる接着剤は光に対する感度が低いことから、当該接着剤の流動を停止させ、かつ長時間の光照射を行うことが必要となり、作業効率の面で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006-291167号公報
【特許文献2】特開2002-192731号公報
【特許文献3】特開2009-148965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体射出性に優れた液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、ノズルプレートが備える基材の液体吐出側の表面にフッ素系化合物を含有する撥液膜を有し、接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有し、かつ、当該ノズルプレートが備える接着層が、固形粒子を含有することによって上記課題を解決できることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0016】
1.撥液膜、基材及び接着層をこの順に有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記基材の液体吐出側の表面に前記撥液膜を有し、
当該撥液膜が、フッ素系化合物を含有し、かつ、
前記基材の前記接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有する
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【0017】
2.前記接着層が、固形粒子を含有する
ことを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0018】
3.フッ素元素の原子濃度が、前記基材の前記撥液膜側より前記接着層側の方が低いことを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0019】
4.前記固形粒子の体積存在比率が、前記接着層全体に対して0.1~10.0%の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0020】
5.前記固形粒子の体積平均粒径が、0.2~5.0μmの範囲内であることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0021】
6.前記固形粒子が、シリカ粒子であることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0022】
7.前記固形粒子が、球形粒子であることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0023】
8.前記撥液膜が、蒸着膜であることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0024】
9.前記基材の前記接着層側表面における前記フッ素元素の存在範囲が、前記基材の各端部からの距離が、20~100μmの範囲内であることを特徴とする第3項に記載の液体吐出ヘッド。
【0025】
10.前記基材の前記接着層側表面の前記フッ素元素の原子濃度が、1.0~50.0atm%の範囲内であることを特徴とする第3項に記載の液体吐出ヘッド。
【0026】
11.前記基材の前記接着層側のノズル穴近傍にも撥液膜が付着していることを特徴とする第1項に記載の液体吐出ヘッド。
【0027】
12.第1項から第11項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記ノズルプレートをレーザー加工する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記手段により、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体射出性に優れた液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することができる。
【0029】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0030】
本発明の液体吐出ヘッドは、当該液体吐出ヘッドが備えるノズルプレートが有する基材の液体吐出側の表面にフッ素系化合物を含有する撥液膜を有し、前記基材が他部材と接着する部分に形成される層(接着層)側の表面に、前記フッ素系化合物を有し、これによりノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体の射出性を向上させる。
【0031】
前述のように、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込み防止及び液体の射出性を向上させるために様々な技術が開示されているが、それらは作業性及び作業効率の面で改善の余地があった。
【0032】
本発明においては、液体吐出ヘッドが備えるノズルプレートが有する基材の液体吐出側の表面にフッ素系化合物を含有する撥液膜を形成した際に生じる当該ノズルプレートの他部材との接着面側へのフッ素系化合物の裏回りを利用する。
【0033】
これにより、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤の流れ込みを防止し、液体射出性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】液体吐出ヘッドの一例を示す分解斜視図
図2】本発明に係るノズルプレートが有する撥液膜、基材及び接着層の位置関係を表す一例の概念図
図3】本発明に係る基材の接着層側表面を表す簡略図
図4】ノズルプレートを撥液膜側から見たときの撥液膜と基材の位置関係を表す一例の概念図
図5】ノズルプレートを接着層側から見たときの基材と接着層の位置関係を表す一例の概念図
図6】本発明に係るノズル穴近傍の領域を表す簡略図
図7】ヘッドチップの背面を示す図
図8】ヘッドチップと配線基板との接合状態を配線基板側から見た図
図9】液体吐出ヘッド製造処理の一例を示すフローチャート
図10】第1のノズルプレート製造処理を示すフローチャート
図11A】ノズル加工前の基材を模式的に示す断面図
図11B】プライマー層が形成された基材を模式的に示す断面図
図11C】撥液膜が形成された基材を模式的に示す断面図
図11D】保護シートが貼付された基材を模式的に示す断面図
図11E】ノズル孔が形成された基材を模式的に示す断面図
図11F】保護シート剥離後のノズル孔が形成された基材を模式的に示す断面図
図12】第2のノズルプレート製造処理を示すフローチャート
図13A】ノズル孔が形成された基材を模式的に示す断面図
図13B】プライマー層が形成された基材を模式的に示す断面図
図13C】撥液膜が形成されたノズルプレートを模式的に示す断面図
図14】ノズルプレートの模式的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の液体吐出ヘッドは、撥液膜、基材及び接着層をこの順に有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記基材の液体吐出側の表面に前記撥液膜を有し、
当該撥液膜が、フッ素系化合物を含有し、かつ、
前記基材の前記接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有する
ことを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態(態様)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0036】
前記接着層が、固形粒子を含有することが、接着層の厚さを確保する観点から好ましい。
【0037】
本発明の実施態様としては、フッ素元素の原子濃度が、前記基材の前記撥液膜側より前記接着層側の方が低いことが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0038】
前記固形粒子の体積存在比率が、前記接着層全体に対して0.1~10.0%の範囲内であることが、接着剤のノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止と接着性の両立の観点から好ましい。
【0039】
前記固形粒子の体積平均粒径が、0.2~5.0μmの範囲内であることが、接着剤のノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止と当該接着剤の過剰な流動性を抑制する観点から好ましい。
【0040】
前記固形粒子が、シリカ粒子であることが、粒子径制御の精度向上及び接着層の厚さ確保の観点から好ましい。
【0041】
前記固形粒子が、球形粒子であることが、接着層の形状を一定に保ち、接着剤のノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止の観点から好ましい。
【0042】
前記撥液膜が、蒸着膜であることが、前記撥液膜と基材との接着性及び製造性の観点から好ましい。
【0043】
前記基材の前記接着層側表面における前記フッ素元素の存在範囲が、前記基材の各端部からの距離が、20~100μmの範囲内であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0044】
前記基材の前記接着層側表面の前記フッ素元素の原子濃度が、1.0~50.0atm%の範囲内であることが、不要な接着剤の流れ込み防止の観点から好ましい。
【0045】
前記基材の前記接着層側のノズル穴近傍にも撥液膜が付着していることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0046】
本発明の液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法は、前記ノズルプレートをレーザー加工することを特徴とし、これによりアブレーションによって生じるフッ素系化合物の裏回りの効果が向上する。
【0047】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0048】
[I. 液体吐出ヘッド ]
本発明の液体吐出ヘッドは、撥液膜、基材及び接着層をこの順に有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記基材の液体吐出側の表面に前記撥液膜を有し、
当該撥液膜が、フッ素系化合物を含有し、かつ、
前記基材の前記接着層側表面に、前記フッ素系化合物を有する
ことを特徴とする。
【0049】
はじめに、本発明の液体吐出ヘッドの基本的構成例について、図を参照して説明する。
【0050】
図1は液体吐出ヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【0051】
図1に示すように、液体吐出ヘッド100は、せん断モード(シェアモード)型の液体吐出ヘッドである。
【0052】
液体吐出ヘッド100は、Z方向に順に積層され、ヘッドチップ2の前面2aに接合されるノズル基板であるノズルプレート1、ヘッドチップ2、ヘッドチップ2の後面2bに接合される配線基板3、配線基板3の端部3aに接続されるFPC(Flexible Printed Circuit:フレキシブル基板)4、配線基板3の後面に接合される液体マニホールド(共通液体室)(図示略)などを備える。
【0053】
なお、本明細書においては、ヘッドチップ2のノズルプレート側にあたる液体が吐出される側の面を「ヘッドチップの吐出口面」といい、その反対側の面を「ヘッドチップの背面」という。
【0054】
1.ノズルプレート
本発明に係るノズルプレート1は、前面から後面へのZ方向に、撥液膜13、基材12及び接着層11をこの順に有している。
【0055】
前記ノズルプレート1には、液体吐出性を向上させるため、前記基材12の液体吐出側の表面に前記撥液膜13が形成される。
【0056】
また、上記撥液膜13は、フッ素系化合物を含有しているため、上記ノズルプレート1の形成時に当該撥液膜13が含有するフッ素系化合物の一部が前記基材12の表面又はノズル孔14から裏回りすることで当該基材12の前記接着層11側表面に付着する。
【0057】
また、ノズルプレート1には、X方向に沿って、ヘッドチップ2の駆動流路(21A、21B)の出口に対応する位置に液体を吐出するための微細なノズル孔14が微小な間隔を隔てて複数形成されており、ヘッドチップ2に配線基板3が接合された後、ヘッドチップ2の吐出口面に接着剤を用いて接合される。
【0058】
なお、本明細書において上記のようにノズルプレートとヘッドチップを接着する際に用いられる接着剤を「接着剤11a」とし、当該接着剤11aによって形成される接着層を接着層11とする。
【0059】
従って、各駆動流路(21A、22B)の入口、出口及びノズル孔14が直線状に配置される。
【0060】
そして、上記接着剤11aが硬化又は乾燥することにより前記接着層11が形成される。
【0061】
(1.1)撥液膜
本発明に係る撥液膜13は、前記基材12の液体吐出側の表面に形成され、また、フッ素系化合物を含有することを特徴とする。
【0062】
図2は、本発明に係るノズルプレート1が有する撥液膜13、基材12及び接着層11の位置関係を表す一例の概念図である。
【0063】
上記撥液膜13は、例えばパーフルオロ系炭素鎖を有する構造を有し、撥液性(撥水性)を有する。
【0064】
本発明に係る撥液膜の厚さは、1nm~3.00μmの範囲内であることが好ましいが、レーザー等によりノズル孔の形成を行う場合には、1500nm以下であることがより好ましい。
【0065】
(1.1.1)撥液剤
本発明に係る撥液膜は、撥液剤としてフッ素系シランカップリング剤を塗布、又は蒸着することにより形成されることが好ましい。
【0066】
「フッ素系シランカップリング剤」とは、YSiX4-n(n=1~3)で表されるケイ素化合物において、Yがフッ化アルキル基などのフッ素を含む基であり、Xがハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基など基質表面のヒドロキシ基あるいは吸着水との縮合により結合可能な基からなるものである。
【0067】
具体的には、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリプロポキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリアミノシラン、パーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0068】
シランカップリング剤を用いて本発明に係る撥液膜を形成する方法としては、シランカップリング剤の溶液を塗布するか、又はシランカップリング剤の溶液中に浸漬した後、乾燥する方法や、シランカップリング剤を噴霧する方法が用いられる。
【0069】
フッ素系シランカップリング剤の溶剤としては、イソプロピルアルコール、アセトンや、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロポリエーテルなどフッ素系アルコールよりなる群から選ばれるものが用いられる。
【0070】
シランカップリング剤としては、具体的にはダイキン工業社製オプツール、メルク社製WR4、フロロテクノロジー社製FG-5080、FG-5010などを用いることができる。
【0071】
乾燥後のシランカップリング剤からなる撥液膜は、例えば後述するプライマー層の密着力により、その表面に強固に固定される。
【0072】
(1.1.2)フッ素系化合物
本発明に係る撥液膜は、フッ素系化合物を含有する。
上記のフッ素系化合物としては、例えば(1)少なくともアルコキシシリル基、ホスホン酸基若しくはヒドロキシ基を含有するパーフルオロアルキル基を有する化合物、又はアルコキシシリル基、ホスホン酸基若しくはヒドロキシ基を含有するパーフルオロポリエーテル基を有する化合物、又は、(2)パーフルオロアルキル基を有する化合物を含む混合物、又はパーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含む混合物であることが好ましい。
【0073】
フッ素系化合物は、市販品としても入手が可能であり、例えば東レ・ダウコーニングシリコーン(株)、信越化学工業(株)、ダイキン工業(株)(例えばオプツールDSX)、旭ガラス社(例えばサイトップ)、また、(株)セコ(例えばTop CleanSafe(登録商標))、(株)フロロテクノジー(例えばフロロサーフ)、Gelest Inc.ソルベイ ソレクシス(株)(例えばFluorolink S10)等により市販されており、容易に入手することができる。
【0074】
その他、例えばJ.Fluorine Chem.,79(1).87(1996)、材料技術,16(5),209(1998)、Collect.Czech.Chem.Commun.,44巻,750~755頁、J.Amer.Chem.Soc.1990年,112巻,2341~2348頁、Inorg.Chem.,10巻,889~892頁,1971年、米国特許第3,668,233号明細書等、また、特開昭58-122979号、特開平7-242675号、特開平9-61605号、同11-29585号、特開2000-64348号、同2000-144097号の各公報等に記載の合成方法、又はこれに準じた合成方法により製造することができる。
【0075】
具体的には、シラン基末端パーフルオロポリエーテル基を有する化合物としては、例えば上記に示したダイキン工業(株)製の「オプツールDSX」、シラン基末端フルオロアルキル基を有する化合物としては、例えばフロロサーフ社製の「FG-5010Z130-0.2」等、パーフルオロアルキル基を有するポリマーとしては、例えばAGCセイミケミカル社製の「エスエフコートシリーズ」、主鎖に含フッ素ヘテロ環状構造を有するポリマーとしては、例えば上記旭ガラス社製の「サイトップ」等を挙げることができる。
また、FEP(4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体)分散液とポリアミドイミド樹脂との混合物も挙げることができる。
【0076】
その他には、フッ素樹脂を適用することもでき、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を用いることができるが、FEPは臨界表面張力が低く、撥液性に優れており、また、熱処理温度である300~400℃の範囲内における溶融粘度が低く、均一な膜形成が可能な点で好ましい。
【0077】
その他のフッ素系化合物としては、例えば特開2017-154055号公報に記載のフッ素基を含有する加水分解性シラン化合物、国際公開第2008/120505号に記載の有機系フッ素化合物、含フッ素有機金属化合物等を挙げることができる。
【0078】
撥液膜をPVD法により形成する方法としては、フッ素系化合物として、フルオロアルキルシラン混合酸化物であるメルクジャパン社のEvaporation substance WR1及びWR4を用い、例えばシリコン基板にWR1による撥液膜を形成する場合の下地としてプライマー層又は密着層として酸化シリコン層をあらかじめ形成しておくことが好ましい。
【0079】
WR1及びWR4により形成される撥液膜は、水以外にエタノール等のアルコール、エチレングリコール(ポリエチレングリコールを含む)、シンナー及び塗料等の有機溶媒に対して撥液性を示す。
【0080】
(フッ素系化合物以外の含有物)
本発明に係る撥液膜は、上記のフッ素系化合物の他、4族又は5族元素、窒素元素及び酸素元素を含有してもよい。
【0081】
前記4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。
【0082】
前記5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられ、これらの中でもタンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)が好ましく、タンタル(Ta)が特に好ましい。
【0083】
(1.1.3)撥液膜の形成方法
撥液膜の形成方法としては、例えば湿式法や乾式法等の薄膜形成方法を適宜選択することができる。
【0084】
湿式法としては、スプレーコーティング、スピンコーティング、はけコーティング、ディップコーティング、ワイヤーバーコーティング等を用いることができる。
【0085】
また、乾式法(真空製膜法の総称)としては、物理気相成長法(PVD)及び化学気相成長法(CVD)が挙げられる。
【0086】
物理気相成長法(PVD)としては、例えば抵抗加熱式真空蒸着法、電子ビーム加熱式真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト真空蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。
【0087】
化学気相成長法(CVD)としては、例えばプラズマCVD、熱CVD、有機金属CVD、光CVD等を挙げることができる。
【0088】
前記撥液膜が、蒸着膜であることが、前記撥液膜と基材との接着性及び製造性の観点から好ましい。
【0089】
なお、本明細書において、「蒸着膜」とは、蒸着法によって形成された膜、すなわち上記にいう物理気相成長法(PVD)又は化学気相成長法(CVD)によって形成された膜をいうものとする。
【0090】
また、撥液膜の形成前に、後述のプライマー層を形成してもよく、この場合、当該プライマー層の形成から撥液膜の形成までは、大気雰囲気に暴露させずに連続して処理することが望ましい。
なお、本発明に係る撥液膜には、上記プライマー層が含まれるものとする。
【0091】
大気雰囲気に暴露しないようにすることで、各層界面が汚染されることに起因する各層間の密着性低下、膜質の変化などを避けることができる。
【0092】
(撥液膜の形成前処理)
撥液膜の形成前処理として、プラズマ処理を行ってもよい。
プラズマ処理としては、酸素ガス、又はアルゴンガスやこれらの混合ガスによるプラズマ処理を行うことができる。
【0093】
プラズマ処理を行うことで、プライマー層の表面の汚染除去効果、又は表面活性化効果が得られ、反応性、密着性が向上し、耐アルカリ性、及び化学機械研磨に対する耐久性を上げることができる。
【0094】
(1.1.4)プライマー層
ノズルプレートの吐出側の表面に形成される撥液膜には、ワイピング(摺動)に対する機械的耐久性が要求されており、特に、基材と形成される撥液膜との密着性は重要である。
【0095】
そのため、基材と撥液膜との密着性を強化するために、基材表面に設けるプライマー層(「密着層」ともいう。)が形成されることが好ましい。
【0096】
なお、本発明に係る「撥液膜」の概念には、上記の「プライマー層」が含まれるものとする。
【0097】
ここで、「ワイピング」とは、吐出孔から被印刷物に向けて噴出された液体等から発生する微量なミスト等の付着物を除去するために、ブレードや布からなるワイパーをノズルプレートに当接させながら摺動させるメンテナンス処理である。
【0098】
(材料)
プライマー層の材料は、炭化酸化シリコン(炭化酸化シリコン膜)であることが好ましい。
【0099】
炭化酸化シリコン膜は、共有結合性が高いため、表面にヒドロキシ基を有し、親液性(親インク性、親水性)に優れている。
【0100】
このため、液体吐出ヘッドにインク導入を行う場合など、流路内の気泡が抜け易く、また液体吐出ヘッド動作中にも流路内の気泡が付着し難くなり、ノズルの射出欠などの発生が起き難くなる。
【0101】
プライマー層の材料が、炭化酸化シリコン膜であることにより、ノズル表面でのシランカップリング剤との反応性を保持しながら、アルカリ耐性を向上することができるため、耐アルカリ性、及び化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)に対する耐久性と、撥液剤の定着性(シロキサン結合が形成可能)と、を両立できる。
【0102】
化学機械研磨に対する耐久性とは、具体的には、クリーニングする際のインクふき取りによるプライマー層の膜減りに対する耐久性である。
【0103】
(結晶性)
プライマー層は、非晶質又は単結晶であることが好ましい。
【0104】
多結晶の場合は、アルカリ浸漬時に結晶粒界がエッチングサイトとなり選択的にエッチングが進行してピンホールが形成され、下地の基材にエッチングが進行することがある。
【0105】
一方、非晶質又は単結晶の場合は、エッチングサイトとなる結晶粒界がないため、アルカリ浸漬時にも選択的にエッチングが進行することがなく、よりアルカリ耐性の高いプライマー層(ノズル内壁では流路保護膜)とすることができる。
【0106】
(プライマー層の形成方法)
プライマー層の形成方法としては、例えば以下の3つが挙げられる。
【0107】
(1)オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、トリメチルシラン(TMS)、シランや、メタン、エタン、アセチレンなどの炭化水素ガス、アルゴン、酸素ガスなどを用いた高周波放電プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)成膜による方法又はPIG(Penning Ionization Gauge)方式プラズマCDVによる方法。
【0108】
(2)Si、SiC、SiOターゲットとし、アルゴンガス、酸素ガス、メタンなどの雰囲気下でのスパッタ成膜による方法。
【0109】
(3)シリカを含んだ溶液材料(ポリシラザン系)を用いた塗布による方法。
【0110】
中でも、上記(1)のプラズマCVD法は、プラズマプロセスを利用して反応ガスにより形成するものであり、また、形成装置の構造も比較的単純であって、安価である。
【0111】
したがって、本発明の一実施形態においては、プライマー層を形成するために、プラズマCVD法が好ましく用いられる。
【0112】
〔プライマー層の形成前処理〕
プライマー層の形成前処理として、基材に対してプラズマ処理又は逆スパッタ処理を行ってもよい。
【0113】
プラズマ処理又は逆スパッタ処理としては、酸素ガス、又はアルゴンガスやこれらの混合ガスによるプラズマ処理を行うことができる。
【0114】
プラズマ処理又は逆スパッタ処理を行うことで、基材表面の汚染除去効果、又は表面活性化効果が得られ、プライマー層形成後の基材との密着性を上げることができる。
【0115】
〔プライマー層の形成時又は形成後処理〕
プライマー層形成時に、材料ガスに水素添加を行ってもよく、これにより、応力や膜硬度が向上し、擦過耐性が向上する場合がある。
【0116】
また、プライマー層形成後、その膜表面に炭素導入を行ってもよく、メタン、エタンなど炭化水素系ガスを含んだプラズマ処理を用いることができる。
また、炭素導入としては、イオンインプラ法、イオンシャワードーピング法なども用いることができる。
【0117】
プライマー層の表面から炭素導入を行うと、炭素組成比の下地膜深さ方向のプロファイルがプライマー層表面からテールを引くが、プライマー層表面(最表面層)が所望の組成比となるように炭化して制御することができる。
【0118】
本発明に係る撥液膜は、プライマー層と撥液剤との定着性をさらに向上させることを目的として、プライマー層の形成中又は形成後に酸化処理などを行って表面のシロキサン結合サイト数(-OH基)を増加させてもよい。
【0119】
上記の酸化処理としては、例えばプライマー層の形成中に酸素を添加する、又は形成後に酸素プラズマ処理などにより表面を酸化する処理などが挙げられる。
【0120】
上述の形成方法及び前処理方法は、適宜組み合わせて用いてもよく、上記説明の方法に限定されない。
【0121】
(1.2)基材
本発明のノズルプレートが備える基材は、液体吐出側の表面にフッ素系化合物を含有する撥液膜を有し、当該基材の前記接着層側表面に、フッ素系化合物を有する。
【0122】
基材の厚さは、ノズルプレートの設計に応じて適宜選択され、特に限定されないが、通常、150μm以下で、50~75μmの範囲内のものがよく用いられる。
【0123】
基材の材料としては、例えばポリイミド(略称:PI)、ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS)及びポリエチレンテレフタレート(略称:PET)等の有機樹脂材料やステンレス鋼(略称:SUS:steel use stainless)及びシリコン(Si)等の無機樹脂材料を用いることができる。
【0124】
耐熱性の観点からはポリイミドが好ましく、プライマー層形成後、あるいは撥液膜形成後などにアニール処理を高温で行うことができる。
【0125】
ポリイミドは、薬品による腐食や変形に対しての耐性を有しており、また、耐熱性の材料であるため、撥液膜を蒸着法により形成する時や、撥液膜を高温処理する時など、高温処理条件下においても、劣化しにくい。
【0126】
そのため、本発明の効果発現の観点からは、特に、ポリイミド(略称:PI)を用いることが好ましい。
【0127】
寸法安定性の観点からはポリフェニレンサルファイドが好ましく、液体吐出ヘッド241のノズル列長バラツキを低減することができる。
【0128】
より具体的には、Dupon社製カプトンフィルム、宇部興産社製Upilex75S、TORAY社製トレリナ等が挙げられる。
【0129】
基材としては、ケイ素又は金属材料等その他のものを用いることもできる。
基材が、ケイ素(シリコン)からなることにより、ノズル加工にフォトリソプロセスなどを用いることができ、これにより高精度なノズル孔14の加工が可能となる。
また、射出角バラツキが非常に少なく、良好な描画品質を有する液体吐出ヘッドを作製できる。
【0130】
金属材料がステンレス鋼であることで、ポンチ加工、レーザー加工、又は電鋳によりノズル孔14を容易に形成できる。
【0131】
(撥液膜側と接着層側のフッ素元素の原子濃度)
本発明に係るノズルプレートが有する基材は、当該基材の接着層側表面にフッ素系化合物を有する。
【0132】
図3は、本発明に係る基材12の接着層11側表面を表す簡略図である。
【0133】
なお、本明細書において、「基材の接着層側表面」とは、基材12と接着層11とが接する当該基材12の接着層11側の面で、当該基材12が当該接着層11と接する面より基材12方向に深さで5nmまでの領域をいう(図3参照。)。
【0134】
ただし、後述するフッ素系化合物の原子濃度の測定において液体吐出ヘッド100からノズルプレート1を剥がした際には、上記の「基材の接着層側表面」には、当該ノズルプレート1を剥がした際に付着した接着層11の一部である接着剤11aを含むものとする。
【0135】
前記基材の前記接着層側表面における前記フッ素元素の存在範囲が、前記基材の各端部からの距離が、20~100μmの範囲内であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0136】
また、前記基材の前記接着層側表面の前記フッ素元素の原子濃度が、1.0~50.0atm%の範囲内であることが、不要な接着剤の流れ込み防止の観点から好ましい。
【0137】
前記フッ素元素の原子濃度が、前記基材の前記撥液膜側より前記接着層側の方が低いことが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0138】
図4は、撥液膜13、基材12及び接着層11をこの順に有するノズルプレート1を撥液膜側(図2のC方向)から見たときの撥液膜13と基材12の位置関係を表す一例の概念図である。
【0139】
本発明に係る基材の接着層側のノズル穴近傍にも撥液膜が付着していることが、本発明の効果発現の観点の観点から好ましい。
【0140】
図5は、上記のノズルプレートを接着層側(図2のD方向)から見たときの基材と接着層の位置関係を表す一例の概念図である。
また、図6は、本発明に係るノズル穴近傍の領域を表す簡略図である。
【0141】
なお、本発明において、「ノズル穴近傍」とは、基材の表裏両面の表面のノズル穴の淵を0μmとし、当該ノズル穴の淵から外側に向かって10μmの範囲内の領域をいうものとする。
【0142】
(フッ素元素の存在範囲と原子濃度の算出方法)
本明細書において、フッ素元素の原子濃度とは、XPSにより測定される炭素原子の原子番号以上の原子番号を持つ全ての原子数定量値の合計を100atm%としたときのフッ素元素の原子数の比率を表したものである。
【0143】
本発明において、フッ素元素の層厚方向における存在範囲と原子濃度[atm%]を算出する方法は、特に限定されないが、例えば本発明に係る基材の接着層側表面のフッ素元素の原子濃度を算出する場合には、以下のような方法が挙げられる。
【0144】
なお、フッ素元素の撥液膜側の原子濃度を算出する方法は、下記の操作を撥液膜側からすることによって行うことができる。
【0145】
液体吐出ヘッドからノズルプレートを剥がし、トリミング用のガラスナイフなどを用いて当該ノズルプレートが有する基材の接着層側の最表面から100nmの領域を削って、当該切片部位を構成する材料の組成を定量分析する方法や、基材の接着層側の最表面から当該基材の厚さ方向の化合物の質量を赤外分光法(IR)や原子吸光などでスキャンする方法などを用いて定量化する方法、また、XPS(X線光電子分光:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析法によって定量化することできる。
【0146】
X線光電子分光分析法とは、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)、又はESCA(ElectronSpectroscopy for Chemical Analysis,エスカ)と呼ばれている光電子分光の一種で、サンプル表面からある特定の深さまでの表面部に存在する構成元素とその電子状態を分析する方法である。
【0147】
中でも、XPS分析法を用いることが、原子濃度分布曲線(以下、「デプスプロファイル」という。)測定によって、ノズルプレート全体の層厚方向での組成分布プロファイルを測定できる観点から、好ましい方法である。
【0148】
本発明に係るフッ素元素の層厚方向における存在範囲と原子濃度[atm%]は、原子濃度分布曲線(以下、「デプスプロファイル」という。)を作成することにより算出することができる。
【0149】
上記の原子濃度分布曲線を作成することによるフッ素元素の層厚方向における存在範囲と原子濃度[atm%]は、フッ素元素の原子濃度等を、X線光電子分光法の測定と希ガス等によるイオンスパッタとを併用することにより、基材の接着層側又は撥液膜側の最表面より基材の厚さ方向に向かって露出させつつ順次、基材の接着層側又は撥液膜側の最表面から基材側の面の表面組成分析を行うことにより算出することができる。
【0150】
このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば縦軸を各元素の濃度(単位:atm%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。
【0151】
なお、このように横軸をエッチング時間とする原子濃度分布曲線においては、エッチング時間は基材の厚さ方向における接着層側又は撥液膜側の最表面からの距離におおむね相関することから、「基材の厚さ方向における接着層側又は撥液膜側の最表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される接着層側又は撥液膜側の最表面からの距離として採用することができる。
【0152】
また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用することができる。
【0153】
エッチング速度(エッチングレート)は、あらかじめ膜厚がわかっているSiO熱酸化膜で計測することができ、エッチング深さを、SiO熱酸化膜換算値で表記することが多い。
【0154】
以下に、本発明に係るノズルプレートが備える基材の接着層側表面又は撥液膜側のフッ素元素の層厚方向における組成分析に適用可能なXPS分析の具体的な条件の一例を示す。
【0155】
・分析装置:アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM
・X線源:単色化Al-Kα 15kV 25W
・スパッタイオン:Ar(1keV)
・デプスプロファイル:SiO換算スパッタ厚さで、所定の厚さ間隔で測定を繰り返し、深さ方向のデプスプロファイルを求める。この厚さ間隔は、2.6nmとした(深さ方向に2.6nmごとのデータが得られる)
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバック・ファイ社製のMultiPakを用いる。
【0156】
(1.3)接着層
ヘッドチップの吐出口面とノズルプレート1は、接着剤11aによって接着され、当該接着剤11aが乾燥及び硬化することにより、本発明に係る接着層11が形成される。
【0157】
本発明に係る接着層11が、固形粒子を含有することが、接着層11の厚さを確保する観点から好ましい。
【0158】
上記接着層11を形成するもととなる接着剤11aは硬化性樹脂を含有することが好ましく、当該硬化性樹脂は、エポキシ樹脂からなる主剤と硬化剤を含有することが好ましい。
また、固形粒子を含有していることが好ましい。
【0159】
この接着剤11aは、液状で塗布して加熱や紫外線照射によって硬化が可能な接着剤であり得る。
【0160】
エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する化合物のモノマー及びそのオリゴマーのいずれも使用して生成できる。
【0161】
具体的には、従来公知の芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
【0162】
なお、以下エポキシ化合物とは、モノマー又はそのオリゴマーを意味する。
【0163】
(1.3.1)固形粒子
前記固形粒子としては、無機化合物及び有機ポリマーが挙げられるが、無機化合物であることが好ましい。
【0164】
上記の無機化合物としては、例えばシリカ、ガラス及びジルコニア等の金属酸化物が挙げられるが、粒子径制御の精度向上及び接着層の厚さ確保の観点向上の観点からシリカであることが好ましい。
【0165】
また、上記の固形粒子は、球形粒子であることが、接着層の形状を一定に保ち、接着剤11aのノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止の観点から好ましい。
【0166】
上記の球形粒子としては、例えばシリカを材料とするハイプレシカTS N3N(体積平均粒径3~12μm(0.1μm間隔で指定可能)、13~20μm(1μm間隔で指定可能)、25μm、30μm、宇部日東化成製)、ハイプレシカBS(体積平均粒径12~60μm、宇部日東化成製)、ガラスを材料とするQ-CEL5070s(平均粒径40μm、比重0.2の中空粒子、ポッターズ・バロティー二株式会社製)、Q-CEL5020FPS(平均粒径60μm、比重0.2中空粒子、ポッターズ・バロティー二株式会社製)、富士シリシア化学(株)製の中空ガラス粒子フジバルーンH30(平均粒径40μm、比重0.20)、S-35(平均粒径40μm、比重0.24)、S-40(平均粒径40μm、比重0.26)、S-45(平均粒径40μm、比重0.28)、スフェリセル110P8(平均粒径12μm、比重1.1の中空ガラス粒子、ポッターズ・バロティー二株式会社製)、スフェリセル60P18(平均粒径18μm、比重0.6の中空ガラス粒子、ポッターズ・バロティー二株式会社製)等が市販されている。
【0167】
(体積存在比率)
前記固形粒子の体積存在比率が、前記接着層全体に対して0.1~10.0%の範囲内であることが、接着剤11aのノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止と接着性の両立の観点から好ましい。
【0168】
上記体積存在比率が、前記接着層全体に対して0.1%以上であることで本発明の効果が安定して得られる。
また、10%以下であることで接着効果が十分に得られる。
【0169】
前記固形粒子の体積存在比率は、例えば以下のようにして求める。
【0170】
接着剤11aによって接着されたノズルプレート1とヘッドチップ2とを引き剥がした場合、当該接着剤11aがノズルプレート1に付着したまま残り、また、ヘッドチップ2にも付着したまま残る。
【0171】
したがって、これらの表面を観察することで前記固形粒子の体積存在比率を算出する。
なお、観察面は界面破壊している個所で測定する。
【0172】
接着剤11aを上記固形粒子の体積平均粒径に相当する厚さで後述するヘッドチップ2に転写塗布し、光学顕微鏡で観察しながらノズルプレート1を所定の位置に接合する。
【0173】
次いで、100℃・5時間で硬化させたのち、ヘッドチップ2とノズルプレート1を剥離し、接着剤11aの表面(300μm×230μm)を光学顕微鏡で観察し、固形粒子の直径、個数をカウントする。
【0174】
固形粒子の直径を厚さとし、観察表面の面積、固形粒子の個数から体積存在比率を計算で求める。
なお、固形粒子の個数のカウントは光学顕微鏡でもよいし、画像処理でカウントしてもよい。
【0175】
(体積平均粒径)
前記固形粒子の体積平均粒径が、0.2~5.0μmの範囲内であることが、接着剤11aのノズル穴近傍又は基材端部への流れ込み防止と当該接着剤11aの過剰な流動性を抑制する観点から好ましい。
【0176】
0.2μm以上であると接着剤11aが硬化しやすく、5.0μm以下であることにより、接着剤11aが流動しづらく、ノズル詰まりの発生が抑制される。
【0177】
前記固形粒子の体積平均粒径は、マルチサイザーIII(ベックマンコールター製)コールターカウンターと標準粒子15μm(ベックマンコールター製)を用いて、粒径分布を測定することができる。
【0178】
(1.3.1)主剤
(エポキシ樹脂)
〔芳香族エポキシ化合物〕
前記芳香族エポキシ化合物として好ましいものは、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルである。
【0179】
例えばビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0180】
〔脂環式エポキシ化合物〕
シクロアルケンオキサイドタイプの脂環式エポキシ化合物としては、少なくとも1個のシクロヘキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルケンを有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。
【0181】
具体的には(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3′,4′-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス-(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル等が挙げられる。
【0182】
多価アルコールグリシジルエーテルタイプの脂環式エポキシ化合物としては、例えば1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールモノグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンモノグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグルシジルエーテル、アリルグルシジルエーテル、2-エチルヘキシルグルシジルエーテルなどが挙げられる。
【0183】
(1.3.2)硬化剤
加熱による硬化のための硬化剤としては、ポリアミン、ジシアンジアミド、イミダゾール誘導体、カチオン型硬化剤、ポリチオール化合物等が用いられ、加熱温度がインクジェットの性能に悪影響を及ぼさない程度の温度で、硬化でき、高い耐インク性を有することから、イミダゾール類が好ましい。
これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0184】
イミダゾール類としては、1-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-2-エチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0185】
(1.3.3)シランカップリング剤
前記接着剤11aは、接着力の耐久性を向上できる点から、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0186】
シランカップリング剤の好ましい化合物例としては、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0187】
シランカップリング剤の添加量は、エポキシ樹脂100質量部に対し0.5~5質量部の範囲内が好ましい。
0.5質量部以上であれば、接着力の耐久性に優れ、5質量部以下であれば、室温保存で粘度上昇が小さく、可使時間を長くできる。
【0188】
2.ヘッドチップ
ヘッドチップ2は、各流路列において駆動流路21A、21Bとダミー流路22A、22Bとが相互に配置される独立駆動型のヘッドチップであり、各駆動電極24に所定電圧の駆動信号を印加することによって、一対の駆動電極24、24に挟まれた駆動壁23をせん断変形させる。
【0189】
これによって駆動流路21A、21B内に供給された液体に吐出のための圧力変化を与え、ヘッドチップ2の前面2aに接合されたノズルプレート1のノズル孔14から液滴として吐出させる。
【0190】
「駆動流路」とは、画像記録時に画像データに応じて液体吐出を行う流路であり、ダミー流路とは、画像データに関わらず常に液体吐出を行わない流路である。
【0191】
ダミー流路22A、22Bは液体吐出を行う必要がないため、通常、液体が充填されないか、ノズルプレート1にノズル孔14が形成されない。
【0192】
各駆動流路21A、21Bに対応する位置のみにノズルプレート1のノズル孔14が開設されている。
【0193】
図7は、ヘッドチップの背面を示す図である。
ヘッドチップ2は、六面体からなり、A列、B列の2列の流路列を有している。
ここでは、図7に示す下側の流路列をA列、上側の流路列をB列とする。
【0194】
ヘッドチップ2は、X方向に沿って、A列の駆動流路21A及びダミー流路22Aが交互に形成され、駆動流路21A及びダミー流路22Aの間の駆動壁23の両端に、駆動壁23の圧電素子の駆動電極24が配置されている。
【0195】
なお、本実施態様においては一例としてダミー流路を有するヘッドチップを例示したが、これに限定されない。
【0196】
例えばダミー流路22A、22Bに対応する部位に対応して同様に図示しない貫通穴、及び接続電極を設けると共に、該接続電極に電気的な接続を行い、ノズルから液体を吐出するように構成してもよい。
【0197】
各流路列は、それぞれ駆動流路21A、21Bとダミー流路22A、22Bとが交互に配置されることによって構成されている。
【0198】
隣り合う駆動流路21A又は21Bとダミー流路22A又は22Bとの間の隔壁は、圧電素子からなる駆動壁23となっている。
駆動壁23の圧電素子は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)である。
【0199】
各駆動流路21A、21B及び各ダミー流路22A、22Bは、ヘッドチップ2の前面2aと後面2bとにそれぞれ開口しており、前面2aと後面2bとにわたるストレート状に形成されている。
【0200】
各駆動流路21A、21B内及び各ダミー流路22A、22B内に臨んでいる壁面のうちの少なくとも駆動壁23の表面には、駆動電極24がそれぞれ形成されている。
【0201】
図1に示すように、液体吐出ヘッド100において、互いに垂直な3つの軸として、X軸、Y軸、Z軸をとる。
【0202】
X軸は、ヘッドチップ2の長手方向のノズル孔14の配列方向である。
【0203】
ノズル孔14が記置されて液体が吐出される側のXY平面を「前面(ノズル面)」、その反対側の平面を「後面」と定義する。
【0204】
また、ヘッドチップ2の前面2a又は後面2bと平行なXY平面上の方向であってヘッドチップ2から離れる方向をヘッドチップ2の「側方」と定義する。
【0205】
ヘッドチップ2の後面2bには、駆動流路21A、21B及びダミー流路22A、22Bに1対1に対応するように接続電極25A、25Bが形成されている。
【0206】
各接続電極25A、25Bの一端は、対応する駆動流路21A、21B又はダミー流路22A、22B内の駆動電極24と電気的に接続している。
【0207】
A列の駆動流路21A及びダミー流路22Aに対応する各接続電極25Aの他端は、各流路21A、22A内からヘッドチップ2の後面2bにおける一方の端縁2cに向けて延び、端縁2cとの間に200μm程度の間隔をあけて止まっている。
【0208】
また、B列の駆動流路21B及びダミー流路22Bに対応する各接続電極25Bの他端は、各流路21B、22B内からA列側に向けて延び、当該A列の流路列との間に200μm程度の間隔をあけて止まっている。
【0209】
従って、接続電極25A、25Bのいずれも、各流路21A、21B、22A、22Bから同一方向に向けて延びている。
【0210】
3.配線基板
配線基板3は、接合領域31を確保する観点からヘッドチップ2の後面2bの面積よりも大きな面積を有する平板状の基板であることが好ましく、接着剤を介してヘッドチップ2の後面2bに接合されている。
【0211】
なお、本明細書において上記のように配線基板とヘッドチップを接着する際に用いられる接着剤を「接着剤34a」とし、当該接着剤34aによって形成される接着層を接着層34とする。
【0212】
接合後の配線基板3の少なくとも一つの端部3aは、ヘッドチップ2が接合される接合領域31(図1中に一点鎖線で示す)の外側に延びており、ヘッドチップ2の流路列の並び方向に沿う側方に大きく張り出していることが好ましい。
【0213】
なお、この接合領域31は、配線基板3の表面が、接合されたヘッドチップ2によって覆われる領域であり、ヘッドチップ2の後面2bの外周縁から配線基板3に垂下した線によって規定される。
【0214】
配線基板3の材質は、ガラス、セラミックス、シリコン、プラスチックなどの適宜の材料を用いることができる。
中でも適度に剛性を備え、安価で加工も容易である点でガラスが好ましい。
【0215】
配線基板3は、ヘッドチップ2の後面2bに配置される全ての流路を覆うように接合されるが、この配線基板3におけるヘッドチップ2の接合領域31内には、ヘッドチップ2の駆動流路21A、21Bに対応する位置のみに、配線基板3の背面側から液体を各駆動流路21A、21Bに供給するための貫通穴32A、32Bがそれぞれ個別に開設されている。
【0216】
各貫通穴32A、32Bは、ヘッドチップ2側の閉口部が、各駆動流路21A、21Bの後面2b側の開口部と同一形状となるように形成されている。
【0217】
一方、配線基板3におけるダミー流路22A、22Bに対応する部位にはこのような貫通穴が形成されていない。
このため、ダミー流路22A、22Bは配線基板3によって塞がれている。
【0218】
配線基板3のヘッドチップ2との接合面となる表面には、ヘッドチップ2の後面2bに配列されている各接続電極25A、25Bに1対1に対応するように配線電極33A、33Bが形成されている。
【0219】
配線電極33AはA列の流路列の各接続電極25Aに対応し、配線電極33BはB列の流路列の各接続電極25Bに対応している。
【0220】
図8は、ヘッドチップと配線基板との接合状態を配線基板側から見た図である。
図8に示すように、配線電極33Aの一端は、対応する駆動流路21A及びダミー流路22Aの近傍に達し、対応する接続電極25Aと重なり合っていると共に、他端は、ヘッドチップ2の側方へ張り出した配線基板3の同一の端部3aに向けて延びている。
【0221】
また、配線電極33Bの一端は、対応する駆動流路21B及びダミー流路22Bの近傍に達し、対応する接続電極25Bと重なり合っていると共に、他端は、A列の流路列の隣り合う駆動流路21A、21A間を通ってA列の流路列を跨ぎ、配線電極33Aと同様に、配線基板3の端部3aに向けて延びている。
【0222】
このため、ヘッドチップ2の側方に張り出した配線基板3の表面には、接合領域31の内側から端部3aにかけて、配線電極33A、33Bが交互となるように並設されている。
【0223】
配線電極33A、33B、駆動電極24、接続電極25A、25Bは、アルミ製であるものとするが、これに限定されるものではなく、銅など、他の金属製としてもよい。
【0224】
配線基板3の端部3aには、外部配線部材の一例であるフレキシブル基板4が、例えばACF(Anisotropic Conductive Film:異方性導電フィルム)などを介して接続され、不図示の駆動回路との間を電気的に接続している。
【0225】
これにより、駆動回路からの所定電圧の駆動信号が、フレキシブル基板4、配線基板3の各配線電極33A、33B、ヘッドチップ2の接続電極25A、25Bを介して、各流路21A、21B、22A、22B内の駆動電極24に印加されるようになっている。
【0226】
(ヘッドチップと配線基板との接合に使用される接着剤)
ヘッドチップ2と配線基板3との接合に使用される接着剤34aは、例えばAu、Niなどの金属粒子や、樹脂粒子の表面に金属膜を被覆した粒子などの導電性粒子を含有させた導電性接着剤である。
【0227】
接着剤34aとしては常温で硬化させる常温硬化型接着剤、加熱によって重合を促進させて硬化させる熱硬化型接着剤、紫外線などの活性エネルギー線の照射によって重合を促進させて硬化させる活性エネルギー線硬化型接着剤などを用いることができる。
【0228】
本実施の形態では、ヘッドチップ2と配線基板3との接合に用いる接着剤34aは、例えばフッ素系樹脂を用いた導電性接着剤とするが、エポキシ樹脂、ポリイミド(PI)樹脂などを用いた導電性接着剤としてもよい。
【0229】
配線基板3は、X方向に沿って、駆動流路21Aに対応する位置に形成された貫通穴32Aを有し、貫通穴32Aの周囲に、遮蔽部としての庇形状のテーパー部321を有する。
【0230】
テーパー部321は、後面から前面の-Z方向に沿って、貫通穴32Aの開口面積が小さくなるように構成されている。
【0231】
これにより、貫通穴32Aの開口面積は、駆動流路21Aの開口面積よりも小さくされている。
【0232】
また、配線基板3とヘッドチップ2との間に、有機物からなる接着層34が形成されている。
なお、上記の接着層34は、本発明に係る前述の接着層11とは異なり、フッ素化合物等を含有していなくともよい。
また、上記の接着層34を形成する際に用いられる接着剤34aは導電性接着剤である。
液体吐出ヘッド100のA列についての上記構成は、B列についても同様の構成とする。
【0233】
例えば配線基板3の後面にプラズマ処理が施されてから、プラズマ処理された当該後面に液体マニホールド(図示略)が接合される。
ただし、本発明においては、上記配線基板3の後面へプラズマ処理が施されていなくてもよい。
【0234】
[II. 液体吐出ヘッドの製造方法 ]
本発明の液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法は、前記ノズルプレートをレーザー加工することを特徴とし、これによりアブレーションによって生じるフッ素系化合物の裏回りの効果が向上する。
【0235】
前記液体吐出ヘッドの製造方法としては、まず、ノズルプレートを作製し、その後当該ノズルプレートに流路部材等を接着剤11aにより接着する。
【0236】
上記のノズルプレートを加工する方法としては、例えば本発明に係る撥液膜の形成後にノズル孔を加工する方法と当該撥液膜の形成前にノズル孔を加工する方法とが挙げられる(以下、「ノズル孔を加工する」ことを単に、「ノズル加工」ともいう。)。
【0237】
以下、本明細書において、「撥液膜の形成後にノズル孔を加工する方法」を単に、「後穴加工」ともいい、「撥液膜の形成前にノズル孔を加工する方法」を単に、「先穴加工」ともいう。
【0238】
(レーザー加工)
レーザー光としては、例えばエキシマレーザー光等を好ましく例示できる。
エキシマレーザー光は、波長が短く、好ましい微細加工が可能であるからである。エキシマレーザー光の波長は190nm~355nmの範囲であり、具体的には、例えばArF(波長193nm)、KrF(248nm)、XeCl(波長308nm)、XeF(波長351nm)等を好ましく挙げられる。
【0239】
なお、エキシマレーザー光は、上述のように波長が短く、エネルギーが非常に高いため、エキシマレーザー光を、例えばポリイミド等の樹脂からなる被加工物に照射することで、ノズル等を貫通形成する加工作業を好適に行うことができる。
【0240】
4.ノズルプレートの作製
(4.1)第1のノズルプレートの作製:後穴加工
まず、本発明の液体吐出ヘッドが備えるノズルプレートの製造方法の一例として、まず、後穴加工について説明する。
【0241】
後穴加工の特徴は、撥液膜を形成した後にノズル孔を加工するため、レーザー加工によるアブレーション効果がより高く、当該撥液膜が含有するフッ素系化合物の裏回りが促進される。
【0242】
図10は、第1のノズルプレート製造処理を示すフローチャートである。
以下、図10のフローチャートに沿って第1のノズルプレートの作製工程を説明する。
【0243】
<ステップST11>
図11Aは、ノズル加工前の基材12を模式的に示す断面図である。
まず、図11Aに示すように、ステップST11では、ベース部材となる基材12を準備する。
【0244】
<ステップST12>
図11Bは、プライマー層13aが形成された基材12を模式的に示す断面図である。
図11Bに示すように、ステップST12では、ステップST11で準備された基材12の液体吐出側に、プライマー層13aを形成する。
【0245】
<ステップST13>
図11Cは、撥液膜13が形成された基材12を模式的に示す断面図である。
図11Cに示すように、ステップST13では、ステップST12で形成されたプライマー層13aの液体吐出側に、撥液剤を塗布し、蒸着することで撥液膜13を形成する。
【0246】
なお、図11Cにおける13bは、撥液剤によって形成された上記撥液膜の上層であり、当該撥液膜13は、下層のプライマー層13aと上層13bの二つの層によって形成されている。
【0247】
<ステップST14>
図11Dは、保護シート15が貼付された基材12を模式的に示す断面図である。
図11Dに示すように、ステップST14では、ステップST13で形成された撥液膜13の液体吐出側の表面に、保護シート15を貼付する。
【0248】
(保護シート)
保護シート15は、基材シート15aと、基材シート15a上の粘着層15bと、を有する。
【0249】
〔基材シート〕
基材シート15aとしては、例えばポリイミド、PET、PPSなどを用いることができる。
【0250】
〔粘着層〕
粘着層15bが撥液膜13の液体吐出側に粘着される。
【0251】
保護シート15の粘着層15bは、保護シート15と撥液膜13表面との粘着力が、保護シート15と基材12とを180度反対方向に引っ張った場合に、0.1~0.7N/10mmの範囲内、より好ましくは0.15~0.64N/10mmの範囲内とすればよい。
【0252】
このような粘着層15bを用いることで、例えばノズル孔の形成においてレーザー加工を行った時のワークの取り回しで保護シート15と撥液膜13表面とが剥離することなくノズル加工をすることが可能となり、バリ発生などを抑制することができる。
【0253】
また、後述するステップST16において保護シート15を剥離する場合に、基材12に寸法歪みが生じるような応力を印加することなく、剥離することができる。
【0254】
<ステップST15>
図11Eは、ノズル孔14が形成された基材12を模式的に示す断面図である。
図11Eに示すように、ステップST15では、ステップST14で保護シート15が貼付された基材12、撥液膜13の流路側(裏面)に、ノズル加工を行いノズル孔14を形成する。
【0255】
(ノズル加工)
ノズル加工は、レーザー加工によって行う。
【0256】
レーザー光源としては、例えばKrFエキシマレーザーを用いることができ、これによってノズル加工を行う場合、その波長は248nm、すなわち光子エネルギーが5.0eVである。
【0257】
本発明に係る撥液膜は、フッ素系化合物を含有しており、上記のノズル加工時に当該撥液膜の一部が基材の撥液膜が形成されている面とは逆側の面に付着する等、裏回りすることによって本発明の効果が発現する。
【0258】
なお、前述のプライマー層13aに炭素導入する場合、KrFエキシマレーザーの吸収効率が向上し、ノズル加工時にプライマー層13aもアブレーションされてバリの発生が抑えられ、ノズル端の加工精度が向上する。
【0259】
また、上記の場合、プライマー層13aの厚さは、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。
【0260】
プライマー層13aの厚さが薄いほうが、レーザーアブレーションがしやすく、バリが残り難くなる。
【0261】
また、基材12がステンレス鋼等の金属材料からなる場合、レーザーでノズル加工する場合はレーザー光源にピコ秒パルスレーザーを用いることが好ましい。
【0262】
ピコ秒パルスレーザーを用いることで、金属に対してバリやドロスの発生を抑制し、良好な形状のノズル孔14を形成することができる。
【0263】
<ステップST16>
図11Fは、保護シート15剥離後のノズル孔14が形成された基材12を模式的に示す断面図である。
図11Fに示すように、ステップST16では、ステップST15でノズル孔14が形成された基材12、撥液膜13及び保護シート15から、保護シート15を剥離してノズルプレートNAを形成する。
【0264】
(4.2)第2のノズルプレートの作製:先穴加工1
本変形例の液体吐出ヘッドは、前述の液体吐出ヘッドと同様であるが、ノズルプレートNAをノズルプレートNBに代えた構成とする。
【0265】
このため、上記実施の形態と同様の部分については説明を省略し、主として異なる部分を説明する。
【0266】
図12は、第2のノズルプレート製造処理を示すフローチャートである。
以下、図12のフローチャートに沿って第2のノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドの作製工程を説明する。
【0267】
<ステップST21>
図13Aは、ノズル孔14が形成された基材12を模式的に示す断面図である。
まず、図13Aに示すように、ステップST21では、流路側(裏面)にノズル加工してノズル孔14が形成されたベース部材となる基材12を形成する。
【0268】
基材の材料及び厚さ、ノズル加工等については、前述のとおりである。
【0269】
<ステップST22>
図13Bは、プライマー層13cが形成された基材12を模式的に示す断面図である。
図13Bに示すように、ステップST22では、ステップST21で形成された基材12の液体吐出側の表面及び流路側(裏面)に、プライマー層13cを形成する。
【0270】
(プライマー層)
本発明に係る撥液膜は、プライマー層を有することが好ましい。
上記プライマー層の材料及び形成方法等については前述のとおりである。
【0271】
<ステップST23>
図13Cは、撥液膜13が形成されたノズルプレートNBを模式的に示す断面図である。
そして、図13Cに示すように、ステップST23では、ステップST22でプライマー層13cが形成された基材12の液体吐出側に、前述の方法で撥液膜13を形成してノズルプレートNBを作製し、第2のノズルプレート製造方法を終了する。
【0272】
なお、図13Cにおける13dは、撥液剤によって形成された上記撥液膜の上層13dであり、当該撥液膜13は、下層のプライマー層13cと上層13dの二つの層によって形成されている。
【0273】
また、<ステップST23>では、ノズル孔14の内壁及び流路側(裏面)に撥液膜13が形成され、ノズル孔14の内壁及び流路側(裏面)の全て又は一部の撥液膜13が除去されて撥液膜13が形成されてもよい。
【0274】
除去方法としては、プラズマ処理、薬液処理などを用いることができる。
【0275】
以上、第1の変形例によれば、液体吐出ヘッドのノズルプレートNBは、基材12の液体吐出面側及びノズル孔14の内壁に形成されるプライマー層13cを有する。
【0276】
このため、耐アルカリ性に優れ、かつ親液性に優れたプライマー層13cにより、液体の流路を保護できる。
【0277】
また、プライマー層13cにより、液体吐出ヘッドに液体導入を行う場合など、流路内の気泡を抜け易くでき、また液体吐出ヘッド動作中にも流路内の気泡を付着し難くでき、ノズル孔14の射出欠などの発生を低減できる。
【0278】
(4.3)第2のノズルプレートの作製:先穴加工2
本変形例の液体吐出ヘッドは、前述の液体吐出ヘッドと同様であるが、ノズルプレートNAをノズルプレートNCに代えた構成とする。
【0279】
このため、上記実施の形態と同様の部分については説明を省略し、主として異なる部分を説明する。
【0280】
図14は、ノズルプレートNCの模式的な断面図であり、当該ノズルプレートNCは、基材12と、撥液膜13と、流路保護膜22aと、を有する。
【0281】
(流路保護膜)
流路保護膜22aは、基材12の吐出面側及びノズル孔14の流路内に設けられ、一部がプライマー層13aの基材12側の下地層となる層(膜)である。流路保護膜22aは、耐インク性を有する保護膜である。
【0282】
〔種類〕
流路保護膜22aとしては、タンタル、ハフニウム、ニオブ、チタン、ジルコニウムなど、高酸化状態が化学的に安定な金属元素を一種類以上含んだ金属酸化膜を用いるとよい。
このような金属酸化膜は、耐アルカリ性に優れている。
【0283】
また、流路保護膜44として、タンタル、ハフニウム、ニオブ、チタン、ジルコニウムなど、高酸化状態が化学的に安定な金属元素を一種類以上含んだ金属酸化膜にシリコンを含有した金属シリケート膜を用いてもよい。
【0284】
このような金属シリケート膜としては、タンタルシリケート、ハフニウムシリケート、ニオブシリケート、チタンシリケート、ジルコニウムシリケートなどが挙げられる。
【0285】
前記金属シリケート膜は、耐アルカリ性を有しつつ、シリコンを含むことでイオン結合性が低下して共有結合性が向上するため、流路保護膜22aのヒドロキシル基が増加し、流路保護膜22aの表面の親液性が向上する。
【0286】
親液性が向上することで液体吐出ヘッドに液体導入を行う場合など、流路内の気泡が抜けやすく、また液体吐出ヘッド動作中にも流路内の気泡が付着し難くなり、ノズル孔14の射出欠などの発生が起き難くなる。
【0287】
(第2のノズルプレートの作製:第2の変形例)
次いで、ノズルプレートNCの製造方法を説明する。
ノズルプレートNCの製造方法は、前述の図12のフローチャートに従ってノズルプレートNCが製造される。
【0288】
ただし、図12において、ステップST21とステップST22との間において、ステップST21でノズル孔14が形成された基材12の液体吐出側及び流路側に、流路保護膜22aを形成する。
【0289】
また、ステップST22では、プライマー層13cに代えて、流路保護膜22aが形成された基材12の液体吐出面側にプライマー層13aが形成されるものとする。
【0290】
例えば流路保護膜22aが形成された基材12の液体吐出面側及び流路側にプライマー層が形成され、プライマー層が形成された基材12の液体吐出面側に保護シートが貼られ、エッチング処理やプラズマ処理などにより流路側のプライマー層が除去され、保護シートが剥離されて、プライマー層13aが形成される。
そして、ステップST23が実行され、ノズルプレートNCが製造される。
【0291】
5.ヘッドチップの作製及びノズルプレートとの接着及びその他の工程
次に、図9、を参照して、液体吐出ヘッド100の製造方法の一例を説明する。
図9は、液体吐出ヘッド製造処理の一例を示すフローチャートである。
【0292】
<ステップS31:ヘッドチップ製造工程>
まず、ステップS31では、駆動壁23の材料として圧電素子(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いて、せん断モード型のヘッドチップ2を作製する。
【0293】
このとき、ヘッドチップ2の後面に、当該後面に配置される駆動流路21A、22A、ダミー流路22A、22Bを介して、内部の駆動電極24に電気的に接続する接続電極25A、25Bが形成される。
【0294】
<ステップS32:配線基板貼合工程>
そして、ステップS32では、透明なガラス製などの基板に、ヘッドチップ2の駆動流路21A、21Bに対応する位置のみに液体流路孔としての貫通穴32A、32Bをブラスト加工によって形成するとともに、ヘッドチップ2の接続電極25A、25Bに1対1で対応する配線電極33A、33Bを形成して、配線基板3を作製し、接着剤34aを用いて、ステップS31で作成されたヘッドチップ2に貼り合わせる。
【0295】
このとき、配線基板3にテーパー部321が形成され、貫通穴32A、32Bの開口面積が、必ず駆動流路21A、21Bの開口面積より狭くなるように形成される。
【0296】
また、ヘッドチップ2と配線基板3とは、接続電極25A、25Bと配線電極33A、33Bとの位置が合わせられ、接着剤34aとして例えばフッ素系化合物であるフッ素系樹脂としての信越化学工業社製「SIFEL2614」を介して均等な加圧接着により貼り合せられ、接着層34が形成される。
【0297】
<ステップS33:ノズルプレート作製工程>
<ステップS33>では、前述の方法によりノズルプレート1を作製する。
【0298】
<ステップS34:ノズルプレート貼合工程>
そして、ステップS34では、ステップS32で作製された配線基板3が貼り合わされたヘッドチップ2の前面に、接着剤11aを塗布し、ステップS33で作製されたノズルプレート1の後面を位置合わせしながら貼り合わせ、接着剤11aを加熱硬化して接合し、液体吐出ヘッド100を作製する。
【0299】
なお、ノズルプレートとヘッドチップを接着するために用いる接着剤11aについては前述のとおりである。
【0300】
<ステップS35:プラズマ処理工程>
そして、ステップS35では、プラズマ処理装置を用いて、ステップS34で作製された第1の部材としての液体吐出ヘッド100の配線基板3の後面側から、例えば反応性イオンエッチング(RIE(Reactive Ion Etching)モード)によるプラズマ処理を実施する。
【0301】
なお、反応性イオンエッチングのプラズマ処理であることにより指向性の高いプラズマ処理を実施できる。
【0302】
なお、プラズマ処理の方法にはいくつかの形態(モード)があるが、本発明の液体吐出ヘッドの製造において、これに限定されることはない。
また、このようなプラズマ処理工程を介さず、前述のステップ34から直接次のステップS36に移行してもよい。
【0303】
<ステップS36:フレキシブル基板貼付、接合工程>
そして、ステップS36では、ステップS35でプラズマ処理された液体吐出ヘッド100の配線基板3の前面の配線電極33A、33Bと、第3の部材としてのフレキシブル基板4の配線電極とを位置合わせして、AFC(Anisotropic Conductive Film:異方性導電フィルム)を用いた加熱圧着接合を実施し、また配線基板3の後面に第2の部材としての液体マニホールド(図示略)を接合して液体吐出ヘッド100を作製し、液体吐出ヘッド製造処理を終了する。
【実施例0304】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0305】
A.ノズルプレートの作製
(A.1)ノズルプレート〔1〕の作製
(A.1.1)基材の準備
基材として、ポリイミドフィルム(宇部興産(株)製、ユーピレックス)、フィルム厚75μmのものを準備した。
【0306】
(A.1.2)プライマー層の形成
プライマー層の材料として、テトラメチルシランのみのガスを用いてプラズマCDV法により上記の基材上にプライマー層を形成した。
【0307】
(A.1.3)撥液膜の形成
UVオゾン装置(テクノビジョン社)で600secクリーニングを行った後、novec7100(スリーエム株式会社製)中に撥水材(オプツールDSX、ダイキン工業株式会社製)を0.1%添加した溶液を、抵抗加熱の蒸着方式で膜厚が20nmとなるよう成膜した。
【0308】
(A.1.4)保護シート貼付
撥液膜〔1〕の液体吐出側の表面に、保護シートを貼付した。
保護シートとしては、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0309】
(A.1.5)ノズル加工
直径が40μm、テーパー角度30度、ノズル貫通孔50μmのノズル256個を4列有するノズルプレートを下記の方法にて作成した。
【0310】
フォトマスクを用いてマスクアライナーで露光した後、現像及びエッチング処理を行って直径23μmの穴を141μm間隔で1列に512個並んでおり、そのノズル列が2列存在する厚さ200μmのノズル孔を形成した。
【0311】
(A.1.6)保護シート剥離
その後、保護シートを剥離し、ノズルプレート〔1〕を作製した。
【0312】
(A.2)ノズルプレート〔2〕~〔18〕の作製
ノズルプレート〔2〕~〔18〕に関しては、基材の材料、撥液膜の形成方法を表III~Vのように変更したこと以外は、ノズルプレート〔1〕と同様にして作製した。
【0313】
ただし、ノズルプレート〔6〕、〔8〕及び〔9〕に関してはノズルプレート作製後、裏面側へのプラズマ処理により、裏面撥液膜を除去する作業(以下、「裏面リムーブ」ともいう。)を施した。
【0314】
B.改良接着剤の調製
(B.1)ノズルプレート〔1〕とヘッドチップの貼付用の接着剤の調製
表Iに記載の主剤及び硬化剤を含有した接着剤〔A〕に表IIに記載の固形粒子〔1〕を当該接着剤〔A〕全体に対し1.0体積%となるように添加し、分散した。
【0315】
なお、以下上記のように調整された「ノズルプレート〔1〕とヘッドチップの貼付用の接着剤」を「改良接着剤〔1〕」とする。
【0316】
なお、上記の改良接着剤〔1〕及び後述する改良接着剤〔2〕~〔18〕は、前述の接着剤11aに相当するものである。
【0317】
【表1】
【0318】
なお混合は、表Iに記載の接着剤〔A〕の主剤及び硬化剤の比重を1.2とし、体積%から主剤及び硬化剤と表IIに記載の固形粒子〔1〕との質量比率を求めて、秤量により両者を混合し、改良接着剤〔1〕を調製した。
【0319】
上記の固形粒子〔1〕としては、体積平均粒径1.00μmの「ハイプレシカSS N3N」(シリカ球形粒子;CV値2.49、比重2.0、宇部エクシモ社製)を使用した。
【0320】
なお、固形粒子〔1〕の体積平均粒径及びCV値の測定は下記の方法で行い、測定個数は50000個とした。
【0321】
(固形粒子の体積平均粒径及びCV値の測定)
マルチサイザーIII(ベックマンコールター製)コールターカウンターと標準粒子15μm(ベックマンコールター製)を用いて、粒径分布を測定し、体積平均粒径及びCV値を求めた。
【0322】
(B.2)ノズルプレート〔2〕~〔18〕とヘッドチップの貼付用の接着剤の調製
ノズルプレート〔2〕~〔18〕とヘッドチップの貼付用の接着剤(以下、「改良接着剤〔2〕~〔18〕」とする。)については、表Iに記載の主剤及び硬化剤を含有した接着剤〔A〕~〔C〕のいずれかに表III~Vに記載の固形粒子〔1〕~〔5〕と接着剤〔A〕~〔C〕のいずれかの組合せで、接着剤全体に対し2体積%となるように添加し、分散した。
【0323】
なお混合は、主剤及び硬化剤の比重を1.2とし、体積%から主剤及び硬化剤と固形粒子との質量比率を求めて、秤量により両者を混合し、改良接着剤〔2〕~〔18〕を調製した。
【0324】
なお、表III~V中の固形粒子〔1〕~〔5〕についての詳細は、下記の表IIに示す。
【0325】
【表2】
【0326】
C.ヘッドチップと配線基板の貼付
図9の液体吐出ヘッド製造処理のフローチャートに従ってヘッドチップ〔1〕を作製した。なお、当該ヘッドチップ〔1〕は液体吐出ヘッド〔1〕~〔18〕の全てに共通して用いた。
【0327】
駆動壁23の材料として圧電素子(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛、厚さ700μm、キュリー温度210℃)を用いて、せん断モード型のヘッドチップ〔1〕を作製した。
【0328】
このとき、ヘッドチップ〔1〕の後面に、当該後面に配置される駆動流路21A、22A、ダミー流路22A、22Bを介して、内部の駆動電極24に電気的に接続する接続電極25A、25Bが形成されるようにした。
【0329】
透明なガラス製などの基板に、ヘッドチップ〔1〕の駆動流路21A、21Bに対応する位置のみに液体流路孔としての貫通穴32A、32Bをブラスト加工によって形成するとともに、ヘッドチップ〔1〕の接続電極25A、25Bに1対1で対応するアルミの配線電極33A、33Bを形成して、配線基板3を作製し、フッ素系化合物であるフッ素系樹脂としての信越化学工業社製「SIFEL2614」を介して均等な加圧接着によりヘッドチップ〔1〕に貼り合せた。
【0330】
このとき、配線基板3にテーパー部321が形成され、貫通穴32A、32Bの開口面積が、必ず駆動流路21A、21Bの開口面積より狭くなるように形成される。
【0331】
D.ノズルプレートとヘッドチップの接着
(D.1)ノズルプレート〔1〕とヘッドチップ〔1〕の接着
上記のように作製したヘッドチップ〔1〕の吐出口面に、転写シートから表IIIに記載の改良接着剤〔1〕を1.5μmの厚さで転写塗布した。
【0332】
転写によりヘッドチップの吐出口面に塗布される改良接着剤〔1〕の厚さについては、転写シートへの当該改良接着剤〔1〕の塗布量をバーコータによる塗布でコントロールすることより調整し、当該改良接着剤〔1〕が含有する固形粒子〔1〕の体積平均粒径以上になるように設定した。
【0333】
次いで、光学顕微鏡で観察しながら、ヘッドチップ〔1〕の改良接着剤〔1〕を塗布した吐出口面に、ノズルプレート〔1〕の後面を位置合わせしながら貼り合わせた。
【0334】
次いで、100℃にて1時間加熱することにより改良接着剤〔1〕を硬化させた。
【0335】
これによりノズルプレート〔1〕とヘッドチップ〔1〕との間に、固形粒子〔1〕の体積平均粒径以上の厚さを有する接着層が形成された。
【0336】
その後、ピンセットにてヘッドチップ〔1〕からノズルプレート〔1〕を剥がし、前述の方法により上記固形粒子〔1〕の接着層全体に対する体積存在比率を測定したところ、1.00vol%であった。
【0337】
ノズルプレート〔1〕が備える基材の接着層側の表面のフッ素元素の原子濃度を測定したところ、58atm%であった。
また、撥液膜側のフッ素元素の原子濃度を測定したところ、29atm%であった。
【0338】
また、測定の際に用いたX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製)、60μmごとに測定する装置であり、接着層表面におけるフッ素元素の存在範囲の範囲は20であると判断した。
【0339】
(D.2)ノズルプレート〔2〕~〔18〕とヘッドチップ〔1〕の接着
表III~Vに記載のように改良接着剤〔2〕~〔18〕の塗布、厚さ等について設定した。
【0340】
ヘッドチップの吐出口面へのノズルプレートの接合や及び硬化条件等についてはノズルプレート〔1〕とヘッドチップ〔1〕の接着と同様とした。
【0341】
これによりノズルプレート〔2〕~〔18〕とヘッドチップ〔1〕との間に、それらを接着する接着剤が含有する固形粒子の体積平均粒径以上の厚さを有する接着層が形成された。
【0342】
改良接着剤〔2〕~〔18〕が含有する各固形粒子の接着層全体に対する体積存在比率、ノズルプレート〔2〕~〔18〕が備える基材の接着層側の表面のフッ素元素の原子濃度及び撥液膜側のフッ素元素の原子濃度の測定はノズルプレート〔1〕と同様に行った。測定結果は表III~Vのとおりである。
【0343】
E.フレキシブル基板貼付、接合工程(液体吐出ヘッド1~18の作製)
上記のノズルプレート〔1〕~〔18〕とヘッドチップ〔1〕を接着したまま、両者を剥がさないものを準備した。
【0344】
上記のそれぞれの配線基板の前面の配線電極と、フレキシブル基板の配線電極とを位置合わせして、異方性導電フィルム(AFC)を用いた加熱圧着接合を実施し、また配線基板の後面に液体マニホールドを接合して液体吐出ヘッド1~18を作製した。
【0345】
なお、液体吐出ヘッド1~18の作製において、各ノズルプレートに対応する撥液膜、基材、接着層及び加工方法については表III~Vのとおりである。
また、下記の評価1~5における「接着層」とは前述の「接着層11」であり、「接着剤」とは前述の「接着剤11a」を指すものとする。
【0346】
[ 評価1:接着剤はみ出し ]
〔評価方法〕
各ノズルプレートを表III~Vの接着剤の組合せで100℃にて1時間で硬化させることによってヘッドチップに接着し、液体吐出ヘッド1~18を作製後、ノズル穴近傍又は基材端部への不要な接着剤のはみ出し(以下、「接着剤のノズルプレート表面へのはみ出し」ともいう。)を目視により観察し、以下の評価基準にて評価した。
【0347】
なお、液体吐出ヘッドについては、同一のものについて10個ずつ作製した。
評価結果は表III~Vに示した。また、評価基準については、A及びBを実用上問題ないものとし、Cを実用上問題あるとした。
【0348】
〔評価基準〕
A ノズルプレート10個中、0~1個において接着剤のノズルプレート表面へのはみ出しが観察された。
B ノズルプレート10個中、2~3個において接着剤のノズルプレート表面へのはみ出しが観察された。
C ノズルプレート10個中、4個以上接着剤のノズルプレート表面へのはみ出しが観察された。
【0349】
[ 評価2:接着層空隙 ]
〔評価方法〕
液体吐出ヘッド1~18について、当該液体吐出ヘッド1~18が備えるヘッドチップをノズルプレート側から赤外線顕微鏡により観察し、以下の評価基準で評価した。
【0350】
なお、液体吐出ヘッドについては、同一のものについて10個ずつ作製した。
評価結果は表III~Vに示した。また、評価基準については、Aを実用上問題ないものとし、Cを実用上問題あるとした。
【0351】
〔評価基準〕
A ヘッドチップ10個中、0~1個のヘッドチップの吐出口面で、隣り合う流路間又は流路と外部の間を貫通する空隙が存在した。
C ヘッドチップ10個中、2個以上のヘッドチップの吐出口面で、隣り合う流路間又は流路と外部の間を貫通する空隙が存在した。
【0352】
[ 評価3:ノズル詰まり ]
〔評価方法〕
液体吐出ヘッド1~18について、酢酸ブトキシエチルとシクロヘキサノンの70:30混合溶液からなるインクを導入し、ヘッドに駆動回路よりパルス信号を送ることによりインクを射出して、ノズル間の射出状態を観察する射出試験を行った。
【0353】
上記の射出試験において、各ノズルから射出されるインク滴をビデオカメラで観察した。
射出されないノズルがある場合、射出試験の終了後、顕微鏡で当該ノズルを観察し、ノズルに接着剤が流れ込んでいないかを観察し、接着剤の流れ込みによる不吐出が発生したノズルのある液体吐出ヘッドの数をもとに以下の評価基準で評価した。
【0354】
なお、液体吐出ヘッドについては、同一のものについて10個ずつ作製した。
評価結果は表III~Vに示した。また、A及びBを実用上問題ないものとし、Cを実用上問題あるとした。
【0355】
〔評価基準〕
A:10個の液体吐出ヘッドにおいて、接着剤の流れ込みによる不吐出が発生したノズルがない。
B:液体吐出ヘッド10個中、1~3個において、接着剤の流れ込みによる不吐出が発生したノズルがある。
C:液体吐出ヘッド10個中、4個以上において、接着剤の流れ込みによる不吐出が発生したノズルがある。
【0356】
[ 評価4:インク漏れ ]
〔評価方法〕
上記の射出試験を行った際に、ヘッドチップ端部からのインク漏れをビデオカメラで観察し、以下の評価基準で評価した。
【0357】
なお、液体吐出ヘッドについては、同一のものについて10個ずつ作製した。
評価結果は表III~Vに示した。また、評価基準については、Aを実用上問題ないものとし、Cを実用上問題あるとした。
【0358】
〔評価基準〕
A 液体吐出ヘッド10個において、ヘッドチップ端部からのインク漏れが発生したヘッドがない。
C 液体吐出ヘッド10個において、ヘッドチップ端部からのインク漏れが発生したヘッドが1個以上ある。
【0359】
[ 評価5:射出安定性 ]
〔評価方法〕
液体吐出ヘッド1~18について、酢酸ブトキシエチルとシクロヘキサノンの70:30混合溶液からなるインクを導入し、ヘッドに駆動回路よりパルス信号を送ることによりインクを射出して、ノズル間の射出状態を観察する射出試験を行った。
【0360】
上記の射出試験において、各ノズルから射出されるインク滴をビデオカメラで観察する際にインク曲がりによる射出不良が発生するかどうかを観察し、以下の評価基準で評価した。
【0361】
なお、液体吐出ヘッドについては、同一のものについて10個ずつ作製した。
評価結果は表III~Vに示した。また、評価基準については、Aを実用上問題ないものとし、Cを実用上問題あるとした。
【0362】
〔評価基準〕
A 液体吐出ヘッド10個中、0~3個において、インク曲がりによる不良が発生した。
C 液体吐出ヘッド10個中、インク曲がりによる不良が発生したヘッドが4個以上あった。
【0363】
【表3】
【0364】
【表4】
【0365】
【表5】
【0366】
なお、表III~V中「PI」はポリイミド、「Si」はシリカ、「SUS」はステンレス鋼を表す。
以上、表III~Vから明らかなように、実施例では比較例と比べて不要な接着剤の流れ込みがなく、液体射出性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0367】
1、NA、NB、NC ノズルプレート
2 ヘッドチップ
2a ヘッドチップの前面
2b ヘッドチップの後面、駆動流路の後面
3 配線基板
3a 配線基板の端部
4 フレキシブル基板(FPC)
11 ノズルプレートとヘッドチップとの間の接着層
12 基材
13 撥液膜
13a、13c プライマー層
13b、13d 撥液膜の上層
14 ノズル孔
15 保護シート
15a 基材シート
15b 粘着層
21A、21B 駆動流路
22A、22B ダミー流路
23 一対の駆動電極に挟まれた駆動壁
24 駆動電極
25A、25B 接続電極
31 接合領域
32A、32B 貫通穴
33A、33B 配線電極
34 配線基板とヘッドチップとの間に形成される接着層
100 液体吐出ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図12
図13A
図13B
図13C
図14