(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093051
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】セパレータおよびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20240702BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240702BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240702BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/414
H01M50/449
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209168
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】電極表面における電解液の液切れ(未充填)を抑制し、リチウムイオンの移動速度を向上できるセパレータおよびリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用のセパレータ20であって、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体25を有し、前記弾性樹脂発泡体25の40%圧縮硬さが10kPa以上であり、前記弾性樹脂発泡体25の厚さが1.5mm以上2.5mm以下である。また、前記弾性樹脂発泡体25の空隙率は、92%以上である。また、前記弾性樹脂発泡体25は、メラミン樹脂発泡体である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用のセパレータであって、
三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有し、
前記弾性樹脂発泡体の40%圧縮硬さが10kPa以上であり、前記弾性樹脂発泡体の厚さが1.5mm以上2.5mm以下であることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記弾性樹脂発泡体の空隙率は、92%以上であることを特徴とする請求項1記載のセパレータ。
【請求項3】
前記弾性樹脂発泡体は、メラミン樹脂発泡体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のセパレータ。
【請求項4】
前記弾性樹脂発泡体の外周を覆う被膜を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のセパレータ。
【請求項5】
負極、正極およびセパレータを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記セパレータは、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有し、
前記弾性樹脂発泡体においては、空隙率が40%以上であり、圧縮応力が50kPa以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用のセパレータおよびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いため、スマートフォンやノートパソコンなどの電子・電気機器には幅広く搭載されている。近年では、ドローン用や回生ブレーキ用の蓄電池として、より高いエネルギー密度と高い出力への要望が高まっている。そのため、リチウムイオン二次電池の放電レート特性のハイレート化が求められている。
【0003】
また、負極にリチウム金属を用いたリチウムイオン二次電池の実用化についても検討がなされている。リチウム金属は金属の中で最も高いエネルギー密度を有するが、負極にリチウム金属を用いると充電時にリチウムがデンドライト状に析出してしまい、部分短絡や電解液の枯渇、析出リチウムの脱落等が生じてしまう。その結果、著しくサイクル劣化することが知られており、実用化するうえで安全性に難がある。そのため、負極にリチウム金属を用いるリチウム金属二次電池は、一般には利用されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-68883号公報
【特許文献2】特開2012-134145号公報
【特許文献3】特開平5-205717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオンは電解液を介して正極と負極との間を移動する。電極とセパレータとの間についても同様であり、電解液が偏って隙間が生じてしまうと、隙間が生じた部分においてリチウムイオンが移動しにくくなる。そのため、隙間が生じていない場合と比べて、リチウムイオンの移動度の低下やデンドライトの発生による著しいサイクル劣化が生じるおそれがある。
【0006】
以上のことから、二次電池に関する研究・開発は盛んに行われている(例えば、特許文献1~3)が、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電極表面における電解液の液切れ(未充填)を抑制し、リチウムイオンの移動速度を向上できるセパレータおよびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のセパレータは、リチウムイオン二次電池用のセパレータであって、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有し、前記弾性樹脂発泡体の40%圧縮硬さが10kPa以上であり、前記弾性樹脂発泡体の厚さが1.5mm以上2.5mm以下であることを特徴とする。
【0009】
三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有するから、リチウムイオン二次電池内で圧縮されても十分な空隙率を保つことができる。また、弾性樹脂発泡体の厚さが1.5mm以上2.5mm以下であるから、リチウムイオン二次電池内で電極間に挟まれ50kPa以上250kPa以下の圧力でセパレータが圧縮された場合にその復元力によりセパレータが電極に隙間なく密着する。これにより、電極表面における電解液の液切れ(未充填)を抑制し、セパレータ内でのリチウムイオンの移動速度を向上できる。結果として、リチウムイオン二次電池における放電レート特性を向上させるとともに、リチウム金属二次電池におけるデンドライトの発生を抑制して安全性を向上する。
【0010】
(2)また、上記(1)記載のセパレータにおいて、前記弾性樹脂発泡体の空隙率は、92%以上であることを特徴とする。これにより、二次電池内で圧縮された状態において良好な空隙率を保つことができる。
【0011】
(3)また、上記(1)または(2)記載のセパレータにおいて、前記弾性樹脂発泡体は、メラミン樹脂発泡体であることを特徴とする。これにより、二次電池内で圧縮されたときに、良好な空隙率を保つとともに、圧縮応力により電極に隙間なく密着する。そして、電極表面における電解液の液切れ(未充填)の発生を抑制できる。
【0012】
(4)また、上記(1)~(3)のいずれかに記載のセパレータにおいて、前記弾性樹脂発泡体の外周を覆う被膜を有することを特徴とする。これにより、電解液の保持性を向上してサイクル劣化を抑制する。
【0013】
(5)また、本発明のリチウムイオン二次電池は、負極、正極およびセパレータを備えるリチウムイオン二次電池であって、前記セパレータは、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有し、前記弾性樹脂発泡体においては、空隙率が40%以上であり、圧縮応力が50kPa以上であることを特徴とする。
【0014】
セパレータの空隙率が40%以上であり、圧縮応力が50kPa以上であるから、十分な空隙率を確保しつつ、外圧に対する圧縮応力によって電極に隙間なく密着する。そして、電極表面における電解液の液切れ(未充填)の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極表面における電解液の液切れ(未充填)を抑制し、リチウムイオンの移動速度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池における負極とセパレータ付近の断面を示す概念図であり、(a)は充電時の様子を表す図であり、(b)は放電時の様子を表す図である。
【
図2】本発明に係る弾性樹脂発泡体の特徴を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池に封入される積層体の一例における構成を示す構成図である。
【
図4】本発明に係るリチウムイオン二次電池における負極とセパレータ付近の構成を示す構成図である。
【
図5】各実施例および各比較例の試験条件および試験結果をまとめた表である。
【
図6】実施例1における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。
【
図7】実施例2における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。
【
図8】実施例3における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。
【
図9】比較例2における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。
【
図10】実施例2および実施例4における各サイクルの容量維持率を示すグラフである。
【
図11】実施例2における充放電曲線を示すグラフである。
【
図12】比較例2における充放電曲線を示すグラフである。
【
図13】従来のリチウムイオン二次電池における負極とセパレータ付近の断面を示す概念図であり、(a)は充電時の様子を表す図であり、(b)は放電時の様子を表す図である。
【
図14】従来のリチウム金属二次電池における負極とセパレータ付近の断面を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[原理]
図1、13、14を参照して、電極とセパレータとの間に隙間が生じてしまう一因と、本発明の原理について説明する。
【0018】
図13は、従来のリチウムイオン二次電池における負極とセパレータ付近の断面を示す概念図であり、(a)は充電時の様子を表し、(b)は放電時の様子を表している。
図13(a)、(b)に示すように、負極30では充電時にリチウムイオンを吸収して還元反応が起こり、局所的に体積が膨張する。一方、放電時には、酸化反応によってリチウムイオンが放出され、膨張していた部分が収縮する。
【0019】
このとき、電極の膨張および収縮によって、電解液40が局所に集中して偏りが生じてしまう。これにより、電極とセパレータ120との間に電解液40が満遍なく行き渡らず、電解液40が存在しない部分で隙間50が生じてしまう。
【0020】
電極とセパレータ120との間に隙間50が生じてしまった部分については、セパレータ120と電極との間をリチウムイオンが移動しにくくなる。その結果、リチウムイオンの移動度が低下してしまう。また、リチウム金属を負極30に用いたリチウム金属二次電池では、電極の表面にリチウムイオンが吸収されるため、電極の膨張および収縮が顕著である。
図14に示すように、リチウム金属二次電池では、電解液40が存在する場所にリチウムイオンが集中し、リチウムイオンがデンドライト状に析出してしまうおそれがある。
【0021】
なお、上記では、負極を例にして説明したが、正極においても同様の現象が起きる。ただし、正極では、充放電時に負極と対の反応が生じている。すなわち、正極では充電時に収縮し、放電時に膨張する。
【0022】
これに対し、本発明では電池内で従来よりも厚く空隙率が高い弾性体のセパレータを圧縮することにより、セパレータの圧縮応力により隙間の発生を抑制できる。これにより、二次電池における放電レート特性を向上させるとともに、リチウム金属二次電池におけるデンドライトの発生を抑制して安全性を向上できる。
【0023】
図1は、本発明におけるリチウムイオンを用いる二次電池における負極とセパレータ付近の断面を示す概念図であり、(a)は充電時の様子を表し、(b)は放電時の様子を表している。
図1に示すように、充電時には負極30の膨張およびセパレータ20の圧縮応力により、電極に隙間なく密着する。これにより、電極表面における電解液の液切れ(未充填)が生じることが抑制される。また、放電時においては、セパレータ20の圧縮応力によって、電極の圧縮および収縮に伴う電解液40の偏りを抑制できる。
【0024】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0025】
[セパレータの構成]
本発明のセパレータは、リチウムイオン二次電池またはリチウム金属二次電池用のセパレータであり、弾性樹脂発泡体25を有する。
図2は、電解液を保持した状態の弾性樹脂発泡体を示す模式図である。弾性樹脂発泡体25は線状の複数の高分子鎖が、架橋剤もしくは高分子鎖自体が有する官能基によって架橋されて骨格が形成された三次元網目構造を有する。三次元網目構造は、繊維状もしくは棒状の部位が三次元的に連結して網目状の骨格を形成している構造のことを指し、高い空隙率を実現可能にする。弾性樹脂発泡体25は、セパレータとして電極間に挿入される程度の変形範囲では弾性を示し、力を加わればひずみが生じ、力が除かれれば元の寸法に戻る。
【0026】
弾性樹脂発泡体25は、厚さが1.5mm以上2.5mm以下であり、好ましくは2mmである。弾性樹脂発泡体25は、セパレータ20を挿入しようとする電極間の寸法より大きいサイズで製造され、カッター等により切り出されることでセパレータ用に調整される。厚さが1.5mm以上であるから、弾性樹脂発泡体の加工が容易になる。2.5mm以下であるから、電池内で圧縮された場合にリチウムイオンの移動を確保でき、リチウムイオン二次電池に適用した際に良好な放電レート特性を得ることができる。弾性樹脂発泡体25の40%圧縮硬さは10kPa以上である。これにより、弾性樹脂発泡体25が電池内で圧縮された場合に電極に密着するのに十分な反発力が得られる。
【0027】
弾性樹脂発泡体25は、空隙率が92%以上であることが好ましく、98.5%以上であることがさらに好ましい。空隙率が92%であるから、リチウムイオン二次電池内で圧縮された状態において良好な空隙率を保つことができる。
【0028】
弾性樹脂発泡体25は、上述した条件を満たすものであればよいが、電解液に対しほぼ溶解または膨潤しない、電解液中で安定性が高い材料で形成されていることが前提である。弾性樹脂発泡体25は、メラミン樹脂発泡体(MLM)が好ましい。メラミン樹脂発泡体は、気泡が連続気泡となるように形成されることから、
図2に示す三次元網目構造を有する。また、メラミン樹脂発泡体は、リチウムイオン二次電池内に配置した際に良好な圧縮応力を発揮することができ、電極とセパレータとの間における隙間が形成されることを抑制できる。また、リチウム金属二次電池における電極電位においても溶解しないため、リチウム金属二次電池用セパレータにも適している。なお、セパレータは、弾性樹脂発泡体の外周を覆う被膜を有してもよい。被膜の詳細は後述する。
【0029】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上述の本実施形態に係るセパレータを備えるリチウムイオン二次電池である。
図3は、本実施形態のリチウムイオン二次電池を構成する積層体の一例を説明するための模式図である。
図3に示す積層体を図示しないケース内に封入することでリチウムイオン電池が作製される。ケースとして、円筒型や角型の金属缶、ラミネートフィルム、熱収縮チューブ等が挙げられる。リチウムイオン二次電池では、充放電による体積の変動を緩和するために、ケースの内部に一定の圧力がかかっている。圧力のかけ方としては、ケースで押し込むこと、収縮製チューブにより電池を巻くことが挙げられる。また、ケース内の圧力は、ケースの強度やサイズ、電解液充填時の真空度などにより定められる。ケース内の圧力は、試験用セルにおいてバネ定数3kgf/mm以上5kgf/mm以下のバネを用いた場合と同等の圧力となるように調整されることが好ましい。
【0030】
積層体1は、正極10と、セパレータ20と、負極30とを備えている。セパレータ20は、正極10と負極30とを隔てるように設けられ、
図2のように電解液40を保持している。セパレータ20は、上述した実施形態のセパレータを用いればよく、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を有する。
【0031】
正極10としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる正極を使用可能である。例えば、正極10としてコバルト酸リチウム等を用いることができる。
【0032】
セパレータ20は、弾性樹脂発泡体25および被膜27を備えている。弾性樹脂発泡体25は、ケース内において空隙率が40%以上であり、圧縮応力が50kPa以上である。空隙率が40%以上であるから、目詰まりによる短絡を抑制するとともに放電レート特性を向上できる。圧縮応力が50kPa以上であるから、電極とセパレータとの間における隙間の発生を抑制できる。配置前後における体積比が3.0以上10以下であるから、セパレータが圧縮された場合に復元力により電極とセパレータ20との間における隙間の発生を抑制できる。
【0033】
被膜27は、蒸発などで外部に流出して、弾性樹脂発泡体の内部に保持される電解液が低減することを目的として、ポリビニルフッ化ビニリデンで形成されることが好ましい。被膜27は、弾性樹脂発泡体25の内部まで浸透すると空隙率を低下させるおそれがある。そのため、被膜27は、弾性樹脂発泡体25の外周を覆うように形成されることが好ましい。弾性樹脂発泡体の外周は、少なくとも弾性樹脂発泡体の外表面を含み、電解液の蒸発を妨げられる位置を指す。また、被膜27は、リチウムイオンを透過させる性質を有しており、リチウムイオンの移動度に与える影響を抑えられる。
【0034】
弾性樹脂発泡体25の外周に被膜27を形成する方法としては、浸漬やハケやスプレー、塗布ガン等を用いた塗布などが挙げられる。なお、セパレータ20は、被膜27を有することが好ましいが、必ずしも有する必要はない。
【0035】
負極30としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極を使用可能である。負極30として、例えば、黒鉛、グラファイトなどの炭素系材料等を用いることができる。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、負極30としてリチウム金属も用いることができる。ここで、上述したように高エネルギー密度化を目的として、最も高いエネルギー密度を有する材料であるリチウム金属の利用について従来検討がなされているが、負極にリチウム金属を用いた場合には、充電時にリチウムがデンドライト状に析出するため、部分短絡や電解質媒体の枯渇、析出リチウムの脱落等により、著しくサイクル劣化することが知られている。特に、ハイレートや大型電池では、短絡が発生する等、安全性に難があるため、これまでのところリチウム金属二次電池は、一般には利用されていないのが現状である。
【0036】
これに対して本実施形態に係るセパレータを備えるリチウムイオン二次電池によれば、圧縮応力によって電極とセパレータとの間における隙間の発生を抑制でき、デンドライトの発生を抑制できる。そのため、負極30としてリチウム金属を用いることが可能である。また、同様の理由により、負極としてリチウム金属合金を用いることも可能である。
【0037】
リチウムイオン二次電池は、正極集電体および負極集電体がさらに設けられてもよい。正極集電体および負極集電体は、例えば、ステンレス鋼、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、または、これらの合金等からなるものとすることができ、板状体、箔状体、網目状体等を有することができる。
【0038】
電解液は、電解質溶媒および電解質塩から構成される。電解質溶媒および電解質塩としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる電解質溶媒および電解質塩を使用可能である。電解質溶媒としては、鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含むことが好ましい。
【0039】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を用いることができる。
【0040】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)を用いることができる。
【0041】
電解質塩としては、リチウム塩を含むことが好ましく、従来公知のリチウム二次電池に使用可能なリチウム塩を用いることができる。具体的には、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム:LiPF6、テトラフルオロホウ酸リチウム:LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI等のリチウム塩を用いることができる。
【0042】
また、電解質塩として、さらに多価カチオン塩を含むことが好ましい。多価カチオン塩は、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(Mg(TFS)
2):(Mg(SO
3CF
3)
2、酸化マグネシウム:(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgTFSI
2):Mg[N(SO
2CF
3)
2]
2を用いることができる。これにより、
図4に示すように、負極30と電解質媒体との界面に有機被膜や無機被膜が形成される。負極30と電解質媒体との界面に有機被膜や無機被膜が形成されることにより、電解液の分解を抑制する。
【0043】
電解液は結着剤をさらに含んでもよい。結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。
【0044】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、三次元網目構造を有する弾性樹脂発泡体を用いてセパレータを準備し、50kPa以上の圧力で電極間に挟み込むことで製造できる。
【0045】
[実施例]
次に、リチウムイオン二次電池の試験用セルを作製して、放電特性試験を行なった。
[リチウムイオン二次電池の試験用セルの作製]
リチウムイオン二次電池の各試験用セルの作製条件は以下の通りである。
【0046】
(実施例1)
負極として、銅箔に塗工したグラファイト電極(3.6mAh、2cm2、Mic-Lab製)を用いた。正極として、アルミニウム箔に塗工したコバルト酸リチウム電極(3mAh、2cm2、Mic-Lab製)を用いた。電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:2)に1.0MのLiPF6を添加したものを用いた。セパレータとして、「激落ちくん(登録商標)」として流通するコンシューマ用ホワイトタイプのメラミン樹脂発泡体(BASF社製、40%圧縮硬さ11kPa)を厚さ2mm、外径16mmφとなるように切断したものを使用した。
【0047】
正極、負極、セパレータおよび電解液を治具セル(電池評価用2極セルSB2A、ECフロンティア製)に配置することで、実施例1の試験用セルを作製した。バネ定数が1kgf/mmのスプリングを用いた。治具セル内の圧縮応力は50kPaであった。
【0048】
治具セル内に配置される前のセパレータは、空隙率が98.5%、密度が1.5gcm3であった。治具セル内に配置されたセパレータは、厚さ0.2mm、空隙率83%であり、配置前後の体積比が10%であった。空隙率については、治具セル内に配置される前のセパレータの体積、空隙率および密度から重量を算出し、治具セル内に配置されたセパレータの厚さから体積を算出して、空隙率を算出した。
【0049】
(実施例2)
バネとして、治具セルに付属してるスプリング(3kgf/mm、SUS316)を用いた点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。なお、治具セル内の圧縮応力は150kPaであった。治具セル内に配置されたセパレータは、厚さ0.09mm、空隙率63%であり、配置前後の体積比が4.5%であった。
【0050】
(実施例3)
バネとして、バネ定数が5kgf/mmのスプリングを用いた点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。なお、治具セル内の圧縮応力は250kPaであった。治具セル内に配置されたセパレータは、厚さ0.06mm、空隙率45%であり、配置前後の体積比が3.5%であった。
【0051】
(比較例1)
バネとして、バネ定数が7kgf/mmのスプリングを用いた点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。なお、治具セル内の圧縮応力は350kPaであった。治具セル内に配置されたセパレータは、厚さ0.04mm、空隙率17%であり、配置前後の体積比が2.0%であった。
【0052】
(比較例2)
セパレータとして、シート状セパレータ(ポリプロピレン)を用いた点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。セパレータの厚さは0.02mmであり、空隙率は40%であった。
【0053】
(放電特性試験)
上記の各実施例および各比較例を用いて、放電特性試験を実施した。放電特性試験は、25℃恒温槽中で定電流を印加し、カットオフ電圧4.2V-3.0Vで行なった。また、0.75mAcm-2(0.5C)で充電し、放電電流を1.5mAcm-2(1C)、3mAcm-2(2C)、6mAcm-2(4C)、12mAcm-2(8C)として、それぞれにおいて測定した。
【0054】
8Cにおける放電容量が2.5mAh未満もしくは1Cにおける放電容量が1.5mAh未満のものを合格(C)とし、8Cにおける放電容量が2.5mAh以上もしくは1Cにおける放電容量が1.5mAh以上のものを良好(B)とし、8Cにおける放電容量が2.5mAh以上もしくは1Cにおける放電容量が2.0mAh以上のものを優秀(A)として評価した。
【0055】
(結果)
図5は、各実施例および各比較例の試験条件および試験結果をまとめた表である。
図6は、実施例1における各放電電流による放電曲線を示すグラフであり、
図7は、実施例2における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。
図8は、実施例3における各放電電流による放電曲線を示すグラフであり、
図9は、比較例2における各放電電流による放電曲線を示すグラフである。なお、
図5に示すように、比較例1は動作不能であったため、放電曲線が得られなかった。
【0056】
実施例1~3および比較例2において正常に動作することが確認できた。また、実施例2および3は、実施例1および比較例2と比べて、8Cにおいて良好な放電容量を示した。空隙率が45%の実施例3が、空隙率が40%の比較例2より良好な放電容量を示すことから、同程度の空隙率であっても、反発力によりセパレータと電極との間の隙間がない方がレート性能が高いことが確認できた。また、実施例2は、実施例3と比べて、1Cと8Cにおける放電容量の差が少なかった。このことから、実施例2は、実施例3よりもレート特性が良好であることが確認できた。
【0057】
次に、ポリビニルフッ化ビニリデン被膜がサイクル特性に与える影響を検証するために、充放電サイクル試験を実施した。
【0058】
(実施例4)
ポリビニルフッ化ビニリデン(5wt%NMP溶液)にセパレータを浸漬させることにより、セパレータの外周にポリビニルフッ化ビニリデン被膜を設けた点以外は実施例2と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0059】
(充放電サイクル試験)
実施例2および実施例4を用いて、充放電サイクル試験を実施した。充放電サイクル特性試験は、25℃恒温槽中で定電流を印加し、カットオフ電圧4.2V-3.0Vで行なった。また、充電は0.75mAcm-2(0.5C)の条件で放電は6mAcm-2(4C)の条件でサイクルを50回繰り返した。実施例1および実施例4の試験用セルにおいて、初回の充放電時における放電容量を100%として各サイクルの放電容量の百分率を算出して、算出した値を容量維持率とした。
【0060】
実施例2および実施例4の試験用セルにおける容量維持率の推移を
図10に示す。
図10において白菱形が実施例2の充電容量の結果を示し、白丸が実施例2の放電容量の結果を示す。また、ストライプの菱形が実施例4の充電容量の結果を示し、黒丸が実施例4の放電容量の結果を示す。
【0061】
図10に示すように、充電および放電のどちらにおいても、実施例2よりも実施例4の方が、容量維持率を高く維持していた。そのため、ポリビニルフッ化ビニリデン被膜によりサイクル特性が向上することが確認できた。
【0062】
次に、実施例2および比較例2において、リチウム金属二次電池におけるサイクル特性を検証した。
[リチウム金属二次電池の試験用セルの作製]
リチウム金属二次電池の各試験用セルの作製条件は以下の通りである。
リチウム金属二次電池の試験用セルは、負極として、リチウム金属電極(厚さ20μm、面積1.5cm2、本庄ケミカル製)を用いた点以外、リチウムイオン二次電池の試験用セルと同じ工程・同じ条件で作製した。
【0063】
(充放電サイクル試験)
充放電特性試験は、25℃恒温槽中で定電流を印加し、カットオフ電圧4.2V-3.0Vで行なった。また、充電は0.75mAcm-2(0.5C)の条件で充電し、6mAcm-2(4C)の条件で放電するサイクルを30回繰り返した。
【0064】
図11は、実施例2の試験用セルにおける充放電曲線を示す図である。また、
図12は、比較例2の試験用セルにおける充放電曲線を示す図である。実施例2と比較例2は、5サイクルのときには同程度の容量を示しているが、30サイクルのときには実施例2が比較例2よりも容量の値を維持している。そのため、従来のシート状セパレータと比べて、本発明のセパレータはリチウム金属二次電池において優れたサイクル特性を示すことが確認できた。
【符号の説明】
【0065】
1 積層体
10 正極
20 セパレータ
25 弾性樹脂発泡体
27 被膜
30 負極
40 電解液
50 (電極とセパレータとの間の)隙間
120 従来のセパレータ