(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093056
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】硫酸還元菌の検出部材、硫酸還元菌の検出キット、硫酸還元菌の検出方法、及び被膜形成用の塗料
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240702BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240702BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N17/00
C12M1/34 B
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209182
(22)【出願日】2022-12-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、英知を終結した原子力科学技術・人材育成推進事業、「健全性崩壊をもたらす微生物による視認不可腐食の分子生物・電気化学的診断及び抑制技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
(72)【発明者】
【氏名】イムラン モハメド ヨウセフ マフムード
【テーマコード(参考)】
2G050
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA20
2G050CA01
2G050CA04
2G050EB01
2G050EB07
4B029AA07
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
4B029GB09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出可能な検出部材を提供する。
【解決手段】硫酸還元菌の検出部材10であって、鉄を含有する基材11と、基材11上に形成されている被膜12とを有する。被膜12は、導電性ポリマーと、該導電性ポリマーに含有される、金属を含むイオンと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸還元菌の検出部材であって、
鉄を含有する基材と、
前記基材上に形成されている被膜と、を有し、
前記被膜は、
導電性ポリマーと、
前記導電性ポリマーに含有される、金属を含むイオンと、を含む、検出部材。
【請求項2】
前記金属が、銅、モリブデン、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の検出部材。
【請求項3】
前記金属が銅である、請求項2に記載の検出部材。
【請求項4】
前記金属が、硫化鉄よりも高い電気伝導率を有する硫化物を形成可能である、請求項1に記載の検出部材。
【請求項5】
前記導電性ポリマーがポリアニリンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の検出部材。
【請求項6】
前記金属を含むイオンの対イオンを更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の検出部材。
【請求項7】
硫酸還元菌検出キットであって、
硫酸イオンを含む培地と、
請求項1~6のいずれか1項に記載の前記検出部材と、を備える、硫酸還元菌検出キット。
【請求項8】
硫酸還元菌の検出方法であって、
請求項7に記載の硫酸還元菌検出キットを用意することと、
前記培地内への前記検出部材の浸漬、及び試料の添加を行うことと、
前記検出部材の浸漬、及び前記試料の添加からあらかじめ定めた所定時間経過後、前記検出部材の腐食の程度を評価することと、を含む硫酸還元菌の検出方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の前記被膜を形成するための塗料であって、
前記導電性ポリマーの前駆体と、
前記金属を含むイオンと、を含む、塗料。
【請求項10】
前記塗料が、
前記導電性ポリマーの前駆体を含む第1組成物と、
前記金属を含むイオンを含む第2組成物と、を含む、請求項9に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸還元菌の検出部材、硫酸還元菌の検出キット、硫酸還元菌の検出方法、及び被膜形成用の塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
海底や地下に埋設された多くの鉄パイプライン等で発生する、嫌気環境における鉄腐食は、主に硫酸還元菌の代謝活動により生じることが知られている(微生物腐食)。硫酸還元菌の作る硫化水素により鉄表面は硫化鉄不動態層に覆われるが、その後も、硫酸還元菌は、導電性を有する硫化鉄不動態層を介して、直接、鉄から電子を引き抜き続ける(EEU:Extracellular Electron Uptake)。このような細菌が引き起こす、電子の引き抜きに依存した腐食をEMIC(Electrical microbially influenced corrosion)と呼ぶ。発明者らは、硫酸還元菌の細胞膜を詳細に分析して電子取り込み機構を解析した結果、鉄から電子を直接引き抜くこと(EEU)に特定の酵素群が関わっていることを明らかにし(特許文献1)、更に、この酵素を有さない場合であっても、硫酸還元菌は硫化鉄を使って鉄の腐食を加速させることを明らかにした(非特許文献1)。
【0003】
このように、硫化鉄不動態層の形成後も進行する微生物腐食(EMIC)は、一度発生すると毎年数十mmという急激な速度で進む。このため、例えば、石油パイプライン内部、汚染水や処理水を扱う設備、処理水の貯留タンクなど、日常的に目視確認できない環境で、嫌気鉄腐食が原因の、突発的かつ重大な事故が多数報告されている。先進国のエネルギー産業や海運業を中心に、年間数百億ドルと推定される甚大な経済損失が生じており、腐食を引き起こす細菌を現場で早期検出する技術の開発が強く求められている。
【0004】
例えば、非引用文献2には、石油ガスシステム中の硫酸還元菌(SRB:Sulfate Reducing Bacteria)をモニタリングするために、該システムから採取された水(試料)中のSRBを検出する方法が報告されている。この検出方法では、まず、試料と、培地と、鉄供給源としての釘とを混合して混合媒体(混合液)を調製する。混合直後の混合媒体は透明であるが、試料中にSRBが存在する場合、SRBによって硫化物が生成し、それが液中に溶解している鉄、及び釘中の鉄と反応し、黒色の沈殿物を生じる(SRB陽性)。一方、試料中にSRBが存在しない場合は、混合液は透明のままであり、釘にも変化が生じない(SRB陰性)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Xiao Deng, et al. “Biogenic Iron Sulfide Nanoparticles to Enable Extracellular Electron Uptake in Sulfate-Reducing Bacteria” Angew. Chem. Int. Ed., December 25, 2019
【非特許文献2】API-RP38 (API) Detection of Sulfate Reducing Bacteria (SRB). [online]. BIOTECHNOLOGY SOLUTIONS TX, LLC, 2020. [retrieved on 2022-05-26]. Retrieved from the Internet: <URL: https://biotechnologysolutions.com/api-rp38-api/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の硫酸還元菌の検出方法は、検出感度が不十分であり、硫酸還元菌の絶対数が少ない場合は検出できなかった。このため、嫌気鉄腐食(微生物腐食)による事故を事前に抑制することは難しかった。また、従来の検出方法は、検出時間が長いという課題も有していた。
【0008】
本発明はこれらの課題を解決するものである。即ち、本発明は、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出可能な検出方法に用いることができる、硫酸還元菌の検出部材等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 硫酸還元菌の検出部材であって、鉄を含有する基材と、前記基材上に形成されている被膜とを有し、前記被膜は、導電性ポリマーと、前記導電性ポリマーに含有される、金属を含むイオンと、を含む、検出部材。
[2] 前記金属が、銅、モリブデン、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の検出部材。
[3] 前記金属が銅である、[2]に記載の検出部材。
[4] 前記金属が、硫化鉄よりも高い電気伝導率を有する硫化物を形成可能である、[1]に記載の検出部材。
[5] 前記導電性ポリマーがポリアニリンである、[1]~[4]のいずれかに記載の検出部材。
[6] 前記金属を含むイオンの対イオンを更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の検出部材。
[7] 硫酸還元菌検出キットであって、
硫酸イオンを含む培地と、
[1]~[6]のいずれかに記載の前記検出部材と、を備える、硫酸還元菌検出キット。
[8] 硫酸還元菌の検出方法であって、
[7]に記載の硫酸還元菌検出キットを用意することと、
前記培地内への前記検出部材の浸漬、及び試料の添加を行うことと、
前記検出部材の浸漬、及び前記試料の添加からあらかじめ定めた所定時間経過後、前記検出部材の腐食の程度を評価することと、を含む硫酸還元菌の検出方法。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の前記被膜を形成するための塗料であって、
前記導電性ポリマーの前駆体と、
前記金属を含むイオンと、を含む、塗料。
[10] 前記塗料が、
前記導電性ポリマーの前駆体を含む第1組成物と、
前記金属を含むイオンを含む第2組成物と、を含む、[9]に記載の塗料。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出可能な検出方法に用いることができる、硫酸還元菌の検出部材等を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の硫酸還元菌検出キットの断面模式図である。
【
図2】本実施形態の硫酸還元菌の検出方法を説明するフローチャートである。
【
図3】ポリアニリンのエメラルジン塩基と、エメラルジン塩を示す図である。
【
図4A】実験1で用いた、研磨後の炭素鋼表面のSEM写真である。
【
図4B】実験1で作成した、炭素鋼上のアニリン層のSEM写真である。
【
図4C】実験1で作成した、炭素鋼上のポリアニリン層のSEM写真である(低倍率)。
【
図4D】実験1で作成した、炭素鋼上のポリアニリン層のSEM写真である(高倍率)。
【
図5A】実験1~5で作製した試料の腐食試験の結果(検出部材の重量減少量)を示すグラフである。
【
図5B】実験1~5で作製した試料の腐食試験の結果(検出部材の実重量減少量)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。尚、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[検出部材]
図1に示すように、本実施形態の硫酸還元菌の検出部材10は、鉄を含有する基材11と、基材11上に形成される被膜12とを有する。上述のように、EMICと呼ばれる鉄の嫌気性腐食(微生物腐食)では、硫酸還元菌が、基材11上に形成された硫化鉄不動態層を介して、基材11の鉄から電子を引き抜き続け(EEU)、これにより腐食が進む。発明者らは、この硫化鉄不動態層の代わりに、基材11上に被膜12を設けることで、基材11の腐食を促進できる(加速できる)ことを見出し、本発明に至った。即ち、被膜12を設けることで基材11の腐食の加速試験が可能となり、検出部材10の腐食の程度を評価することで、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出できる。このメカニズムは定かではないが、次のように推測される。まず、硫酸還元菌の代謝活動により硫黄成分(硫黄イオン)が生じ、この硫黄成分(硫黄イオン)が被膜12に含有される。硫酸還元菌は、硫化鉄不動態層を介するよりも、硫黄成分を含む被膜12を介した方が、より容易に基材11中の鉄から電子を引き抜くことができると推測され、この結果、基材11の腐食が促進される。尚、以上説明したメカニズムは推測であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0015】
検出部材10は、例えば、後述する硫酸還元菌の検出キット100(
図1参照)、及びそれを用いた硫酸還元菌の検出方法(
図2参照)等に利用できる。
以下に、本実施形態の検出部材10の詳細について説明する。
【0016】
<基材>
基材11は、鉄を含有していれば特に限定されず、純鉄(純度99.90~99.95%程度)であってもよいし、鉄合金であってもよい。鉄合金としては、例えば、炭素鋼(Fe-C)、ステンレス(Fe-Ni-Cr)、クロムモリブデン鋼(Fe-Cr-Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe-Mn-Mo)等が挙げられる。安価で入手し易いという観点から、基材11は炭素鋼であることが好ましい。
【0017】
基材11の大きさ、形状等は、硫酸還元菌の検出部材10の用途に適した大きさ、形状等、即ち、硫酸還元菌の検出試験(腐食試験)に用いることに支障のない大きさ、形状等であれば、特に限定されない。
【0018】
<被膜>
被膜12は、導電性ポリマーと、該導電性ポリマー中に含有される、金属Mを含むイオン(以下、適宜、「特定イオン」と記載する)と、を含む。
【0019】
導電性ポリマーとは、π電子共役系を有する有機分子(単量体)の重合反応により得られる高分子(ポリマー)であり、半導体~金属レベルの導電性を示す。本実施形態の導電性ポリマーの種類は、特に限定されず、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT-PSS)、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリアセチレンポリピロール等を挙げることができる。このような高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。中でも、原料のアニリンが安価で比較的簡単に合成できる観点から、ポリアニリンが好ましい。尚、ポリアニリンは、その酸化還元状態によって4つの構造をとるが、導電性を有するのは、エメラルジン塩(エメラルジン塩基をプロトン価した状態)のみである。したがって、本実施形態のポリアニリンとは、ポリアニリンのエメラルジン塩を意味する(
図3参照)。以上説明した導電性ポリマーは、単一のポリマーを単独で用いてもよいし、2種類以上のポリマーを混合して用いてもよい。
【0020】
特定イオンに含まれる金属Mとしては、例えば、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)等が挙げられる。鉄の微生物腐食をより促進させるという観点から、金属Mは、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)が好ましく、銅(Cu)がより好ましい。これらの金属Mは、特定イオン中に1種類のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0021】
また、金属Mは、硫化鉄よりも高い電気伝導率を有する硫化物を形成可能である金属であってもよい。金属Mは、硫酸還元菌の代謝活動により生じた硫黄成分(硫黄イオン)と反応して硫化物MSを生成し、それを被膜12が含有する場合がある。硫化物MSが硫化鉄不動態層(例えば、磁硫鉄鉱(ピロータイト)、Fe1-xS(X=0~0.17))よりも高い電気伝導率を有する場合、硫酸還元菌は、基材11中の鉄から電子をより引き抜き易くなり、この結果、基材11の腐食がより促進されると推測される。このような金属Mとしては、Cu、Mo等が挙げられる。これらの金属Mが形成可能な硫化物と、その電気伝導率を表1に示す。尚、本願明細書において、特定イオンに含まれる金属Mの硫化物を「硫化物MS」と記載するが、この記号(MS)は、硫化物の金属Mと硫黄Sとの元素比を1:1に限定するものではない。
【0022】
【0023】
本実施形態の特定イオンは、金属Mを含むイオンであれば特に限定されず、例えば、金属イオン、金属酸イオン等が挙げられ、具体的には、銅イオン(Cu2+)、モリブデン酸イオン(MoO4
2ー)、ニッケルイオン(Ni2+)が好ましく、銅イオン(Cu2+)がより好ましい。これらの特定イオンを用いれば、より効率的に鉄の微生物腐食を促進できる。特定イオンは、1種類のイオンを単独で用いてもよいし、2種類以上のイオンを混合して用いてもよい。
【0024】
本実施形態の被膜12における金属Mの濃度は、例えば、0.0001M/m2~0.001M/m2としてよい。
【0025】
本実施形態の被膜12は、導電性ポリマーと、特定イオンのみから構成されていてもよいし、本実施形態の効果を奏する範囲において、その他の成分を含有してもよい。また、被膜12は、特定イオンの対イオンを更に含有してもよい。対イオンとしては、例えば、塩化物イオン等のハロゲン化物イオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の被膜の厚さは特に限定されないが、例えば、0.1μm~100μmとしてよい。被膜の厚さが上記範囲の下限値以上であれば、鉄の微生物腐食をより効率よく促進でき、被膜の厚さが上記範囲の上限値以下であれば、被膜を形成し易くなる。被膜の厚さは、例えば、被膜のFE-SEM画像から求めることができる。
【0027】
被膜12は、基材11の表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、基材11の腐食を促進させて硫酸還元菌の検出感度を高める観点からは、被膜12は基材11の全表面を覆っていることが好ましい。
【0028】
尚、被膜12が「基材の微生物腐食を促進する」とは、例えば、後述する実施例で示すように、同条件で実施する腐食試験において、本実施形態の被膜12を有していない基材11そのもの(実験4)と比較して、本実施形態の被膜12を形成した基材11(実験1~3)の方が、微生物腐食が大きいことを意味する。腐食の評価方法は、特に限定されず、例えば、腐食試験前後の基材の重量減少量を評価してもよい。重量減少量が大きいほど、腐食が大きい(腐食が促進された)と判断できる。また、腐食の評価として、腐食試験後の基材11の表面形状の評価を行ってもよい。表面形状の評価は、例えば、目視、光学的評価方法等により行うことができ、腐食部分の大きさが大きい程、及び/又は、腐食深さが深い程、腐食が大きい(腐食が促進された)と判断できる。
【0029】
本実施形態の検出部材10は、硫酸還元菌の中でも、特にEMICを引き起こす硫酸還元菌の検出に適している。EMICを引き起こす硫酸還元菌としては、例えば、Desulfovibrio vulgaris Hildenborough,D. ferrophilus IS5,Desulfobacterium corrodens IS4等が挙げあれる。
【0030】
[検出部材の製造方法]
検出部材10は、まず、基材11を用意し、基材11の表面に被膜12を形成することにより製造できる。
【0031】
被膜12の形成方法は特に限定されないが、例えば、被膜12を形成するための塗料(被膜形成用塗料)を用いて形成してもよい。塗料は、例えば、導電性ポリマーの前駆体と、金属を含むイオン(特定イオン)とを含む。また、塗料は、導電性ポリマーの前駆体を含む第1組成物と、特定イオンとを含む第2組成物とを含んでもよい。
【0032】
第1組成物、及び第2組成物を含む塗料を用いる場合、被膜12の形成方法は、例えば、以下の工程(I)~(III)を含む。
(I)基材11上に第1組成物を付与し、第1組成物層を形成する工程、
(II)第1組成物層中の前駆体を重合し、導電性ポリマー層を形成する工程、及び
(III)導電性ポリマー層上に第2組成物を付与する工程。
【0033】
工程(I):
まず、基材11上に第1組成物を付与する。これにより、基材11上に導電性ポリマーの前駆体が吸着して、第1組成物層が形成される。
【0034】
第1組成物が含有する、導電性ポリマーの前駆体とは、例えば、上述した導電性ポリマーを構成可能なモノマー、オリゴマー等であり、重合反応により上述した導電性ポリマーとなる化合物である。前駆体は、目的とする導電性ポリマーの構成に応じて適宜選択することができ、1種類のみから構成されてもよし、2種類以上の混合物であってもよい。第1組成物は、前駆体を溶解可能な第1溶媒を更に含んでもよい。第1溶媒は、導電性ポリマーの前駆体を溶解可能であれば特に限定されず、前駆体の種類に応じて選択してよい。第1溶媒としては、例えば、水、エタノール、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。第1組成物中の導電性ポリマーの前駆体の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.0025M~0.25Mとしてよい。前駆体の濃度が上記範囲内であれば、最終的に形成される被膜12の厚さを上述した好ましい厚さの範囲内に調整し易い。第1組成物は、導電性ポリマーの前駆体のみから構成されてもよいし、導電性ポリマーの前駆体及び第1溶媒のみから構成されてもよいし、本実施形態の効果を奏する範囲内において、導電性ポリマーの前駆体及び第1溶媒以外の、その他の成分を含有してもよい。
【0035】
第1組成物を基材11上に付与する方法は、特に限定されず、例えば、ディップコーティング、ローラ又は刷毛等による塗布、スプレー塗布、スピンコーティング等を用いることができるが、簡便な方法で均一な膜が形成できる観点から、ディップコーティングが好ましい。ディップコーティングの条件(例えば、温度、浸漬時間)は特に限定されず、導電性ポリマーの種類、被膜12の所望の厚さ等に応じて適宜選択してよい。
【0036】
工程(II):
次に、第1組成物層中の前駆体を重合し、導電性ポリマー層を形成する。前駆体の重合方法は特に限定されず、形成される導電性ポリマーの種類に応じて、適宜、公知の方法を選択してよい。
【0037】
例えば、第1組成物層が形成された基材11を、重合開始剤を含む溶液に浸漬して、第1組成物層中の前駆体を重合してもよい。この場合の重合条件も、導電性ポリマーの種類に応じて、適宜、調整してよい。例えば、導電性ポリマーの前駆体としてアニリンを用いてポリアニリンを合成する場合、アニリンの吸着層(第1組成物層)が形成された基材11を、重合開始剤を含む酸性溶液に浸漬し、酸性条件下(pH1.0以下)、低温(5℃以下)で重合することが好ましい。上述のように、ポリアニリンは、その酸化還元状態によって4つの構造をとるが、導電性を有するのは、エメラルジン塩のみである(
図3参照)。酸性条件下で重合することで、ポリアニリン(エメラルジン塩)を容易に得ることができる。
【0038】
工程(III):
次に、形成した導電性ポリマー層上に第2組成物を付与する。これにより、第2組成物中の特定イオンが、導電性ポリマー層に吸着、浸透等して導入され、本実施形態の被膜12が形成される。特定イオンは、導電性ポリマー層に存在する細孔を通って、及び/又は、導電性ポリマー層の導電性によって、導電性ポリマー層の様々な深さまで移動(浸透)できる。また、特定イオンと、導電性ポリマーの特定の官能基(例えば、ポリアニリンの場合、-NH-)との相互作用によっても、特定イオンの導電性ポリマー層への導入(吸着、浸透等)が促進される。
【0039】
第2組成物が含有する、特定イオンは、上述した被膜12が含有する、特定イオンと同態様のものを用いることができる。また、特定イオンは、それの対イオンを伴った塩として、第2組成物に含有されてもよい。対イオンとしては、上述した被膜12が含有できる対イオンと同態様のものを用いることができる。第2組成物が含有する塩としては、具体的には、例えば、塩化銅(CuCl2)、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)、塩化ニッケル(NiCl2)等が挙げれらる。第2組成物は上述の塩を溶解可能な第2溶媒を更に含んでもよい。第2溶媒は、上述の塩を溶解可能であれば特に限定されず、塩の種類に応じて選択してよい。第2溶媒としては、例えば、水が挙げられる。第2組成物中の特定イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.0001M(M=mol/L)~0.01Mが好ましい。特定イオンの濃度が上記範囲内であれば、最終的に形成される被膜12中に十分な量の特定イオンを含有させることができる。第2組成物は、特定イオン及び第2溶媒のみから構成されてもよいし、本実施形態の効果を奏する範囲内において、特定イオン及び第2溶媒以外の、その他の成分を含有してもよい。
【0040】
第2組成物を導電性ポリマー層上に付与する方法は、特に限定されず、例えば、ディップコーティング、ローラ又は刷毛等による塗布、スプレー塗布、スピンコーティング等を用いることができるが、簡便な方法で均一に付与する観点から、ディップコーティングが好ましい。ディップコーティングの条件(例えば、温度、浸漬時間)は特に限定されず、導電性ポリマーの種類、特定イオンの種類等に応じて適宜選択してよい。
【0041】
本実施形態の被膜12の形成方法では、工程(I)~(III)の各工程の後に必要により洗浄工程を設けてもよい。
【0042】
以上、被膜12の形成方法の一例を説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、第1組成物と、第2組成物とを含む塗料に代えて、導電性ポリマーの前駆体と、特定イオンとの両方を1つの組成物中に含む塗料(以下、「第3組成物」と記載する)を用いてもよい。この場合、基材11上に第3組成物を塗布し、第3組成物中の前駆体を重合することで、被膜12を形成できる。また、導電性ポリマー前駆体に代えて、導電性ポリマーを含む塗料を用いてもよい。例えば、塗料として、導電性ポリマーと、特定イオンと、溶剤とを含有する塗料(以下、「第4組成物」と記載する)を用いてもよい。この場合、基材11上に第4組成物を塗布した後、乾燥等により溶剤を除去することで、被膜12を形成できる。
【0043】
[硫酸還元菌検出キット]
以下に、以上説明した検出部材10を利用した硫酸還元菌検出キットについて説明する。
図1に示すように、本実施形態の硫酸還元菌検出キット100は、硫酸イオンを含む培地20と、硫酸還元菌の検出部材10とを備える。検出部材10は、鉄を含有する基材11と、上述の被膜12とを有する。被膜12が硫酸還元菌による基材11の微生物腐食を促進することで、硫酸還元菌検出キット100は、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出できる。
【0044】
尚、
図1には、硫酸還元菌検出キット100を用いて、硫酸還元菌検出試験(検出部材10の腐食試験)を行っている状態を示している。このため、検出部材10を培地20中に浸漬させているが、本実施形態の検出キット100の形態は、これに限定されない。例えば、検出キット100は、工場出荷時、販売時、保管時等において、検出部材10と、培地20とが接触しておらず、硫酸還元菌検出試験時に初めて、これらを接触させてもよい。こうすることで、検出試験前の検出部材10の劣化を防ぎ、硫酸還元菌の検出感度を高められる。
【0045】
培地20は、硫酸イオンを含むものであれば、特に限定されない。培地は、細胞(本実施形態においては、硫酸還元菌)の増殖に必要な足場となるものであり、硫酸イオンに加えて、炭素源、ビタミン、無機塩類など栄養素を含んでもよい。本実施形態の培地は、硫酸イオンを含有する市販の培地であってもよいし、市版の培地に硫酸イオンを添加して調製すしたものであってもよし、任意の配合の自家調製した培地であってもよい。市販の培地としては、例えば、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、RPMI 1640培地、MEM(最小必須培地)、F-10及びF-12ハム培地、199培地(M199)等が挙げられ、適宜、必要に応じて、硫酸イオンを添加して用いることができる。
【0046】
硫酸イオンは、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩として、培地に含有させてよい。培地における硫酸イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.002M~0.2M、又は0.01M~0.03Mとしてよい。硫酸イオンは、硫酸還元菌の電子受容体であり、硫酸還元菌の代謝により還元される。硫酸イオンの濃度が上記範囲内であれば、本実施形態の硫酸還元菌検出キット100において効率よく、硫酸還元菌を検出できる。
【0047】
培地20の量は、特に限定されない。例えば、硫酸還元菌検出試験時に、培地20内に完全に検出部材10が浸漬できる量であることが好ましい。
【0048】
硫酸還元菌検出キット100は、培地20及び検出部材10のみから構成されてもよいし、更に、その他の構成物を含んでもよい。例えば、硫酸還元菌検出キット100は、硫酸還元菌検出試験時に培地20及び検出部材10を保持可能な容器30を有してもよい。容器30の材質等は、本実施形態の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、内部の様子を目視可能なように、ガラス、アクリル等の可視光において透明な(透光性の、又は透過率が高い)材質が好ましい。
【0049】
[硫酸還元菌の検出方法]
図1及び
図2を参照しながら、本実施形態の硫酸還元菌の検出方法の一例について説明する。検出方法は、例えば、以下の工程S1~S3を含み、試料(サンプル)中の硫酸還元菌の検出を行う。
。
S1:硫酸還元菌検出キット100を用意する工程
S2:培地20内への検出部材10の浸漬、及び試料の添加を行う工程、及び
S3:検出部材10の浸漬、及び試料の添加からあらかじめ定めた所定時間経過後、検出部材10の腐食の程度を評価する工程。
【0050】
工程S1:
まず、硫酸還元菌検出キット100を用意する。硫酸還元菌検出キット100の態様については既に説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0051】
工程S2:
次に、培地20内への検出部材10の浸漬、及び試料の添加を行う。本実施形態の検出方法では、「試料」中の硫酸還元菌を検出する。試料としては、特に限定されないが、例えば、環境から採取したサンプルであり、具体的には、海水、海底土、汚泥、地下水、河川水、土壌である。培地20に添加する試料の量も特に限定されないが、実質的な量としては、例えば、例えば、培地20に対して、0.5~10%(v/v)としてよい。
【0052】
工程S3:
培地20に検出部材10を浸漬し、且つ試料を添加してから、あらかじめ定めた所定時間、そのままの状態を維持する。所定時間とは、例えば、7日~200日としてよく、このときの培地の温度は、例えば、20℃~40℃、又は室温としてよい。また、試料を添加した硫酸還元菌検出キット100は、所定時間の間、嫌気性条件下に置くことが好ましい。
【0053】
試料内に硫酸還元菌が存在する場合、基材11中の鉄から電子が引き抜かれて(酸化されて)、基材11が腐食される。本実施形態では、被膜12を介して、硫酸還元菌はより容易に基材11中の鉄から電子を引き抜くことができ、この結果、基材11の腐食が促進される。この結果、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出できる。
【0054】
所定時間経過後、検出部材10の腐食の程度を評価する。腐食の評価方法は、特に限定されず、例えば、腐食試験前後の基材11の重量減少量を評価してもよい。重量減少量が大きいほど、腐食が大きい、即ち、試料中の硫酸還元菌の数が多いと判断できる。また、腐食の程度の評価として、腐食試験後の基材11の表面形状の評価を行ってもよい。表面形状の評価は、例えば、目視、光学的評価方法等により行うことができ、腐食部分の大きさが大きい程、及び/又は、腐食深さが深い程、腐食が大きい、即ち、試料中の硫酸還元菌の数が多いと判断できる。
【0055】
以上説明した本実施形態の硫酸還元菌の検出方法では、基材11の腐食を促進する被膜12を有する、硫酸還元菌検出キット100を使用する。このため、本実施形態の硫酸還元菌の検出方法は、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出可能である。
【実施例0056】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
[実験1]
以下に説明する方法により、基材11上に被膜12を形成して、検出部材10を作製した(
図1参照)。本実験では、導電性ポリマーの前駆体を含む第1組成物と、特定イオンとを含む第2組成物とからなる塗料を用いて、被膜12を形成した。
【0058】
(I)第1組成物の付与(第1組成物層の形成)
まず、基材11として、炭素鋼片(CS、サイズ:2.0cm×1.0cm×0.2cm)を用意し、その表面を400番、1000番、及び1500番のサンドペーパーで研磨した。次に、第1組成物として、20mLのアニリン溶液(アニリン濃度:0.025M、溶媒:水/エタノール混合液(体積比:水/エタノール=1/1))を調製した。基材11(研磨した炭素鋼片)を20mLの第1組成物(アニリン溶液)に浸漬させ、室温の暗所で15時間、静置した。これにより、炭素鋼片の表面にアニリンが吸着し、アニリン層(第1組成物層)が形成された。
【0059】
(II)前駆体(アニリン)の重合(導電性ポリマー層の形成)
次に、炭素鋼片が浸漬しているアニリン溶液(20mL)に、200μLの(NH4)2S2O8の塩酸溶液((NH4)2S2O8濃度:1M、溶媒:1MのHCl)を加え、そのまま、暗所で24時間、氷浴中で静置した。(NH4)2S2O8は、重合開始剤である。反応液((NH4)2S2O8の塩酸溶液を加えたアニリン溶液)中の(NH4)2S2O8とHClの終濃度は、共に、0.01Mである。以上の手順により、炭素鋼上でアニリンが重合し、ポリアニリン(PAN)層(導電性ポリマー層)が形成された。
【0060】
次に、反応液の上澄み液を捨て、水/エタノール混合液(体積比:水/エタノール=1/1)を用いて、PANが形成された炭素鋼(CS+PAN)を数回洗浄し、CS+PAN表面から残留及び未反応のアニリンを除去した。ガルバニック腐食の発生を防ぐため、CS+PANはN2フロー下で直接乾燥させ、N2雰囲気下で保管した。
【0061】
<SEM観察>
上述した、CS+PANの作製過程において、SEM観察を行った。結果を
図4A~
図4Dに示す。
図4Aは、研磨後のCS表面のSEM写真である。研磨後の表面は清浄であり、Fe
2O
3やその他の吸着物質の残留は見られなかった。
図4Bは、第1組成物(アニリン溶液)に浸漬した後のCS表面のSEM写真である。SEM写真中に確認される黒い斑点は、アニリン分子が特に多く吸着している部分である。このSEM写真から、CS表面に第1組成物層(アニリン層)が形成されたことが分かる。
図4C及び
図4Dは、CS+PANのSEM写真である(
図4Cは低倍率、
図4Dは高倍率)。
図4DのSEM画像では、CSの表面を覆う繊維状の層(PAN層)の輪郭が確認できる。
【0062】
(III)第2組成物の付与(特定イオンの導入)
第2組成物として、CuCl2水溶液(Cu2+濃度:0.001M)を調製した。20mLのCuCl2水溶液に、ポリアニリン層が形成された炭素鋼(CS+PAN)を室温で1時間浸漬した。これにより、Cu2+がポリアニリン層に導入(吸着及び/又は浸透)され、基材11上に被膜12が形成された。以上説明した方法により、本実験の検出部材10を得た。
【0063】
[実験2]
CS+PANを浸漬する第2組成物として、CuCl2水溶液に代えて、Na2MoO4水溶液(MoO4
2-濃度:0.001M)を用いたこと以外は、実験1と同様の方法により、検出部材10を作製した。したがって、実験2の検出部材10は、被膜12として、MoO4
2-を含むポリアニリン層を含む。
【0064】
[実験3]
CS+PANを浸漬する第2組成物として、CuCl2水溶液に代えて、NiCl2水溶液(Ni2+濃度:0.001M)を用いたこと以外は、実験1と同様の方法により、検出部材10を作製した。したがって、実験3の検出部材10は、被膜12として、Ni2+を含むポリアニリン層を含む。
【0065】
[実験4]
本実験では、検出部材として、実験1で用いた炭素鋼(CS)を用意した。
【0066】
[実験5]
本実験では、実験1と同様の方法により、ポリアニリン(PAN)層か形成された炭素鋼(CS+PAN)を作製し、それを検出部材とした。即ち、本実験では、PAN層は金属含有イオンを含有していない。
【0067】
[評価]
以下に説明する腐食試験(硫酸還元菌検出試験)を行い、実験1~5で作製した検出部材の評価を行った。
【0068】
(1)硫酸還元菌検出キットの用意
実験1~5の検出部材それぞれと、既知組成培地(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen (DSMZ) 195c medium)20mLとを組み合わせた硫酸還元菌の検出キット100を、実験毎に2個ずつ、合計10個を用意した。尚、既知組成培地における硫酸イオン濃度は、約0.02Mであった。
【0069】
(2)培地内への検出部材の浸漬、及び試料の添加
実験1~5で作製した検出部材10をそれぞれ有する5個の検出キット100において、培地20内に検出部材10を浸漬し、更に、硫酸還元菌Desulfovibrio ferrophilus IS5株(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen (DSM) no. 15579)を加えた。その後、検出キット100を、嫌気性雰囲気下の室温で107日間静置した。この5個の検出キット100を以下、適宜、「IS5有りグループ」(WIS5)と記載する。
【0070】
実験1~5で作製した検出部材10をそれぞれ有する、別の5個の検出キット100において、培地20内に検出部材10を浸漬した。その後、「IS5有りグループ」(WIS5)と同条件で同時間の間、検出キット100を静置した。この別の5個の検出キット100を以下、適宜、「IS5無しグループ」(W/OIS5)と記載する。
【0071】
(3)腐食の程度の評価
所定時間(107日)経過後、各検出キット100の培地から検出部材10を取り出して重量を測定し、培地20への浸漬前後の重量変化(重量減少量)を計算した。結果を
図5Aに示す。重量減少量が大きい程、腐食が促進されたと判断できる。
図5Aから理解できるように、「IS5有りグループ」(WIS5)では、実験1~5間に重量減少量の差が確認されたが、「IS5無しグループ」(W/OIS5)では、実験1~5間に重量減少量の大きな差は確認されなかった。即ち、「IS5有りグループ」(WIS5)で確認された実験1~5間の重量減少量の差は、硫酸還元菌の活動に基づく腐食(微生物腐食)によるものだと理解できる。
【0072】
次に、
図5Aに示す、各試験結果から、硫酸還元菌の活動に基づく腐食量である「実重量減少量」を求めた。「実重量減少量」は、実験1~5それぞれにおいて、「IS5有りグループ」(WIS5)の重量減少量(WIS5)から、IS5無しグループ」(W/OIS5)の重量減少量(W/OIS5)を減じて求めた差である。結果を
図5Bに示す。更に、「実重量減少量」から、実験1~5それぞれの腐食速度(mm/year)を求めた。結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
図5Bに示すように、検出部材10が炭素鋼CSである実験4と比較して、炭素鋼上にポリアニリン層を設けた(CS+PAN)実験5の方が基材10の微生物腐食が促進され、ポリアニリン層が特定イオンを含有する実験1~3では、更に腐食が促進された。中でも、銅イオンを含むポリアニリン層である被膜12を用いた実験1は、実験4と比較して、実重量減少量が7倍程度と大きかった。
また、表2に示すように、腐食速度(mm/year)も、実験1~3は、実験4と比較して、3~4倍程度と大きかった。
本発明の検出部材は、例えば、硫酸還元菌検出キット、硫酸還元菌検出方法等に利用でき、高感度、且つ短時間で硫酸還元菌を検出可能である。これにより、例えば、石油パイプライン内部等に存在する嫌気鉄腐食を早期に検出することができ、微生物腐食による事故を事前に抑制することができる。