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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093058
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エンドトキシン吸着材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20240702BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240702BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B01J20/22 C
B01J20/30
B01D15/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209190
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】植林 佑太郎
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA20
4D017BA07
4D017BA20
4D017CA14
4D017CA17
4D017CB10
4D017DA07
4G066AB05D
4G066AB09D
4G066AB13B
4G066AC21C
4G066BA03
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA01
4G066CA56
4G066DA07
4G066FA07
4G066FA11
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】エンドトキシン(ET)吸着率が高い新たなET吸着材を提供する。また、ET吸着率が高いET吸着材を簡単に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】基材と、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を備える、ET吸着材。エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物は、さらにエチレン性不飽和基を有するものであることが好ましく、またアミノ基含有分子鎖が基材にグラフト重合されたものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を備える、エンドトキシン吸着材。
【請求項2】
エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物が、さらにエチレン性不飽和基を有するものである、請求項1に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項3】
1価アミンが炭素数1以上の炭化水素鎖を有する脂肪族アミンである、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項4】
(A)さらに、未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖を備え、上記アミノ基含有分子鎖と、未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖との合計に対する上記アミノ基含有分子鎖の比率が90mol%以上であるか、又は(B)未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖を有さない、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項5】
陰イオン交換容量(AEC)が0.2以上である、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項6】
上記アミノ基含有分子鎖が基材にグラフト重合されたものである、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材と、エンドトキシン除去対象液を接触させる工程を含む、エンドトキシンが除去された液体の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着材と、目的物質及びエンドトキシンを含有するエンドトキシン除去対象液を接触させる工程を含む、目的物質を含みエンドトキシンが除去された液体の製造方法。
【請求項9】
窒素原子含有カチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを基材にグラフト重合させる工程を含む、エンドトキシン吸着材の製造方法。
【請求項10】
窒素原子含有カチオン性基供与体と、この窒素原子含有カチオン性基供与体と反応して結合を形成できる官能基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとを反応させて、窒素原子含有カチオン性基供与体とエチレン性不飽和基を有するモノマーを得る工程をさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシン吸着材、その製造方法、及びエンドトキシンが除去された液体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(endotoxin)(以下、「ET」ということもある)は、毒性物質の1つであり、具体的には、グラム陰性細菌の外膜の成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)を指す。ETは、多糖とリピドAで構成され、主にリピドAが毒性に寄与する。ETは、注射用溶液等への混入により生体内に取り込まれた場合、発熱やショック反応を引き起こす。そのため、日本薬局方では、注射用溶液のET濃度を10~100 pg/ml(0.1~1.0 endotoxin unit (EU)/ml)以下にすることが規定されている。また、例えば、近年、遺伝子組み換え大腸菌等からDNAを分離精製してDNAワクチンとして用いる試みがなされているが、そのようにして得られるDNAには菌体由来のETが残存している。よって、そのようにして得られるDNAをDNAワクチンとして生体に投与するためには、残存しているETを除去する必要がある。従って、医薬品からETを除去する方法の開発が切望されている。また、食品もETを含まないことが必要であり、加工食品の材料からETを除去することも求められている。
【0003】
ETを除去する方法の一つとして、各種ET吸着材を利用する方法が知られている。
例えば、特許文献1は、アミノ基を有するセルロースナノファイバーをET吸着材として用いることを教えている。特許文献1は、セルロースナノファイバーをエピクロロヒドリンで活性化させた後、ポリエチレンイミン又はエチレンジアミンと反応させることで得られる材料がETを吸着したことを実証している。
【0004】
また、特許文献2は、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースをET吸着材として用いることを教えている。特許文献2によれば、このET吸着材は、水性材料とのなじみが良く、水性材料から効率よくETを除去することができる。また、一般に、親水性高分子化合物を基材とするET吸着材は、基材と水分子の相互作用により、バッチ法ではろ過性が悪く、カラム法では圧力損失が大きくなるが、このET吸着材は、水性材料との分離が容易であるため、高粘性を有する水性材料からのET除去に適している。特許文献2は、結晶セルロースをエピクロロヒドリンで活性化させた後、多価アミン、イミン、又は第4級アンモニウム塩と反応させることで得られる材料がETを吸着したことを実証している。
【0005】
また、特許文献3は、窒素原子を含むカチオン性基を有する球状多孔性エポキシ樹脂粒子をET吸着材として用いることを教えている。特許文献3によれば、このET吸着材は、バッチ法ではろ過性が良く、カラム法では圧力損失が小さいため、高粘性材料からも作業効率よくETを除去することができる。特許文献3は、球状多孔性エポキシ樹脂粒子をエピクロロヒドリンで活性化させた後、ジメチルオクチルアミンと反応させることで得られる材料がETを吸着したことを実証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/018524
【特許文献2】WO2018/139415
【特許文献3】特開2022-144336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ET吸着率が高い新たなET吸着材を提供することを課題とする。また、本発明は、ET吸着率が高いET吸着材を簡単に製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
(1)1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を基材に結合させてなる材料は、ETを含む液体材料から効率よくETを除去することができる。
(2)窒素原子を含むカチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを、グラフト重合で基材に結合させることによりET吸着材を製造すれば、窒素原子を含むカチオン性基の導入効率が良いため、ET吸着率が高いET吸着材が得られる。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕~〔9〕を提供する。
〔1〕 基材と、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を備える、エンドトキシン吸着材。
〔2〕 エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物が、さらにエチレン性不飽和基を有するものである、〔1〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔3〕 1価アミンが炭素数1以上の炭化水素鎖を有する脂肪族アミンである、〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔4〕 (A)さらに、未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖を備え、上記アミノ基含有分子鎖と、未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖との合計に対する上記アミノ基含有分子鎖の比率が90mol%以上であるか、又は(B)未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖を有さない、〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔5〕 陰イオン交換容量(AEC)が0.2以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔6〕 上記アミノ基含有分子鎖が基材にグラフト重合されたものである、〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔7〕 〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材と、エンドトキシン除去対象液を接触させる工程を含む、エンドトキシンが除去された液体の製造方法。
〔8〕 〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着材と、目的物質及びエンドトキシンを含有するエンドトキシン除去対象液を接触させる工程を含む、目的物質を含みエンドトキシンが除去された液体の製造方法。
〔9〕 窒素原子含有カチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを基材にグラフト重合させる工程を含む、エンドトキシン吸着材の製造方法。
〔10〕 窒素原子含有カチオン性基供与体と、この窒素原子含有カチオン性基供与体と反応して結合を形成できる官能基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとを反応させて、窒素原子含有カチオン性基供与体とエチレン性不飽和基を有するモノマーを得る工程をさらに含む、〔9〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のET吸着材は、1価アミン及び/又はアンモニアに由来する部分と、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物に由来する部分を含むアミノ基含有分子鎖が基材に結合したものであるため、ET吸着率が非常に高い。
【0011】
また、本発明のET吸着材は、水性のET除去対象液と混合した後にこの水性液と分離し易い。従って、バッチ法でET除去対象液と接触させた後は、ETが除去された液体を速やかにろ過分離することができる。また、本発明のET吸着材をカラムに充填してET除去対象液を通液する場合は、圧力損失が少なく、高圧をかけなくても迅速に通液できる。医薬品や食品材料には、多糖類のような高粘性の材料が多いが、本発明のET吸着材を用いれば、このような高粘性材料からも速やかにETを除去することができる。
【0012】
また、本発明のET吸着材の製造方法によれば、ET吸着率の高いET吸着材を簡単に製造することができる。
詳述すれば、グラフト重合は基材表面で優先的に発生するため、基材表面に分子鎖を効率良く結合させたい場合、グラフト重合が広く行われている。また、グラフト重合は基材形状に拘わらず分子鎖を効率よく結合させ易いというメリットもある。グラフト重合は、真空中又は空気中で基材に放射線、光、電子線などを照射してラジカルを生成させた後、分子鎖を接触させて重合させる方法と、基材と分子鎖の共存下で放射線、光、電子線などを照射して、ラジカルの生成と分子鎖の基材との重合反応を行う方法とがある。予め基材に放射線、光、電子線などを照射しておく方法は、真空中で行う場合は真空にする操作に手間がかかり、空気中で行う場合はラジカル以外の生成物が多くなるため、グラフト率が低くなり易い。これに対して、基材と分子鎖の共存下で照射を行う方法は、簡便であり、生成したラジカルの利用効率が高いため、共存照射法でグラフト重合したい場合が多い。
【0013】
ここで、窒素原子を含むカチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマー由来の分子鎖が基材に結合したものをグラフト重合により製造する場合、窒素原子を含むカチオン性基をエチレン性不飽和基を有するモノマーに導入した後に、これを基材にグラフト重合させる方法と、エチレン性不飽和基を有するモノマーを基材にグラフト重合させた後に窒素原子を含むカチオン性基を導入する方法とがある。
窒素原子を含むカチオン性基を導入していない上記モノマーを、共存照射法でグラフト重合すると、モノマー中の、窒素原子を含むカチオン性基と反応できる官能基が、放射線、光、電子線などにより失活し、カチオン性基導入率が低下するため、得られるET吸着材のET吸着率が低くなる。
一方、窒素原子を含むカチオン性基を導入した上記モノマーを基材に共存照射法でグラフト重合させると、放射線、光、電子線などにより失活ないしは変化する官能基が存在しないか又は非常に少ないため、窒素原子を含むカチオン性基を高い比率で有する分子鎖を基材に結合させることができる。このため、ET吸着率が高いET吸着材を簡単に製造することができる。
本発明の製造方法は、窒素原子を含むカチオン性基を導入済みのエチレン性不飽和基含有モノマーを基材にグラフト重合させるため、共存照射法でもET吸着率が高いET吸着材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)エンドトキシン吸着材
本発明のET吸着材は、基材と、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を備えるものである。即ち、本発明のET吸着材は、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖を基材に結合させてなるものである。
【0015】
1価アミン・アンモニア
1価アミンとしては、脂肪族アミン、特にアルキルアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミンのような第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミンのような第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルペンチルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルヘプチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルノニルアミン、ジメチルデシルアミンのような第3級アミン);芳香族アミン(アニリン、トルイジンのような第1級アミンなど);複素環式アミン(ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾールのような第2級アミン;ピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン(コリジン)、2,6-ルチジン、キノリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンのような第3級アミンなど);アルカノールアミン又はアミノアルコール(モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタンのような第1級アミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミンのような第2級アミン;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-ジメチルアミノエタノール、N-ジエチルアミノエタノールのような第3級アミン)などが挙げられる。
【0016】
1価アミンとアンモニアとでは、1価アミンが好ましく、中でも1価脂肪族アミンが好ましく、1価アルキルアミンがより好ましい。
1価アミンが脂肪族アミンである場合の窒素原子に結合している炭化水素鎖の炭素数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上とすることができる。また、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、又は15以下とすることができる。中でも炭素数4以上の炭化水素鎖を有することが好ましい。これにより、ET吸着率が高いET吸着材となる。
1価アミン及び/又はアンモニアは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物
エポキシ基を有する炭素数4以上の化合物としては、エポキシ基を有するアクリルモノマー(メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルなど);脂肪族グリシジルエーテル(ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエーテル、ヘキサデシルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシブチルビニルエーテルなど)、芳香族グリシジルエーテル(ナフチルグリシジルエーテルなど)のようなグリシジルエーテル;ジグリシジルエーテル(特に、脂肪族ジグリシジルエーテル)(ジグルシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなど)、脂肪族グリシジルエステル(マレイン酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなど)などが挙げられる。メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルも脂肪族グリシジルエステルである。
中でも、エポキシ基に加えてエチレン性不飽和基を有する化合物が好ましく、これにより、汎用の条件で基材に結合させることができる。エポキシ基に加えてエチレン性不飽和基を有する化合物として、エポキシ基を有するアクリルモノマー(メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルなど)、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシブチルビニルエーテル、マレイン酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどが挙げられる。
【0018】
イソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物としては、2-イソシアネートエチルアクリレート、2-イソシアネートエチルメタクリレート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネートのようなイソシアネート基を有するアクリルモノマー;ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネートのようなジイソシアネートなどが挙げられる。
中でも、イソシアネート基に加えてエチレン性不飽和基を有するモノマーが好ましく、中でも、イソシアネート基を有するアクリルモノマーがより好ましく、これにより、汎用の条件で基材に結合させることができる。
【0019】
エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物の炭素数は、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上とすることができる。また、30以下、20以下、又は15以下とすることができる。
エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
また、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物を1価アミン及び/又はアンモニアと反応させた後に、さらに修飾を施すことによってカチオン性を高めることができる。例えば、アミノ基含有分子鎖のアミノ基を第4級化させた後、さらに、1価アミン及び/又はアンモニアと反応させることにより、カチオン性を向上させることができる。アミノ基を第4級化させる化合物としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、メタクリル酸グリジシル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなエポキシ基供与体、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ヨードメタン、ヨードエタンなどが挙げられる。さらに導入する1価アミン及び/又はアンモニアは、既に導入した1価アミン及び/又はアンモニアと同じものであってもよく、又はこれとは異なるものであってもよい。
カチオン性を高めるために反応させる1価アミン及び/又はアンモニアは、1種又は2種以上を使用できる。
【0021】
1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応は、例えば、約10~100℃で、約0.1~24時間行えばよい。
溶媒としては、通常、水を用いればよいが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)のようなアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒も用いることができる。溶媒は、1種又は2種以上を使用できる。
【0022】
基材
基材の材料としては、アクリレート系ポリマー(ポリメタクリル酸メチル、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンのようなビニル系ポリマー;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンのようなスルホニル基含有ポリマー;ポリカーボネート;酢酸セルロースのようなセルロース誘導体;ポリラクチド;ポリグリコリド;ポリカプロラクトン;ポリエチレンオキシド-ポリ(テレフタル酸ブチレン)共重合体;ポリエチレングリコール;エポキシ樹脂などの有機合成ポリマーが挙げられる。
また、天然ポリマーでは、グルカン(デンプン、セルロース(結晶セルロース、セルロースナノファイバーなど)、カードラン、プルラン、グリコーゲンなど)、キトサン、キチン、アガロース又は寒天、ゼラチン、コラーゲン、リグニンなどが挙げられる。
また、シリカ(シリカゲル、シリカモノシスなど)、珪藻土、パーライト、ゼオライト、バーミキュライト、カオリナイト、セピオライト、鉱物シラス、シラス多孔質ガラスなどの無機材料も挙げられる。
中でも、ポリマー組成の均一性や耐久性の点で、有機合成ポリマーが好ましく、中でも、放射線、光、電子線などを照射してラジカルを生成する有機合成ポリマーが好ましく、ラジカル重合性官能基を有する有機合成ポリマーがより好ましい。
放射線、光、電子線などを照射してラジカルを生成する有機合成ポリマーとしては、アクリレート系ポリマー(ポリメタクリル酸メチル、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンのようなビニル系ポリマー;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンのようなスルホニル基含有ポリマー;ポリカーボネートが挙げられる。中でも、ラジカル重合性官能基を有する有機合成ポリマーとしては、アクリレート系ポリマー(ポリメタクリル酸メチル、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンのようなビニル系ポリマーが挙げられる。
基材の材料は、1種又は2種以上を使用することができる。2種以上を使用するときは、それらを混合して基材を構成してもよく、或いは、異なる材料を積層するなど、基材の部分ごとに異なる材料を用いてもよい。
【0023】
アミノ基含有分子鎖と基材との結合
アミノ基含有分子鎖は、分子鎖と基材の種類に応じて、公知の方法で基材に結合させることができる。
エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物がさらにエチレン性不飽和基を有する場合は、グラフト重合で基材に結合させることができる。グラフト重合で基材に結合させる方法は、詳細に後述する。
【0024】
ET吸着材の特性
本発明のET吸着材のアミノ基の含有量は、陰イオン交換容量(AEC)として、例えば0.05meq/dry・g以上、好ましくは0.1meq/dry・g以上、より好ましくは0.2meq/dry・g以上、より好ましくは0.3meq/dry・g以上、より好ましくは0.4meq/dry・g以上であればよい。この範囲であれば、ETを十分に吸着し除去することができる。また、例えば10meq/dry・g以下、5meq/dry・g以下、3meq/dry・g以下、又は1meq/dry・g以下であればよい。この範囲であれば、酸性高分子化合物を含むET除去対象液からでも効率よくETを除去することができる。
【0025】
本発明のET吸着材は、本発明の効果を妨げない範囲で、アミノ基以外のカチオン性基を有することができる。アミノ基以外のカチオン性基の含有量は、陰イオン交換容量(AEC)として、例えば3meq/dry・g以下、1meq/dry・g以下、又は0.5meq/dry・g以下とすればよい。アミノ基以外の陰イオン交換基は含まないことができる。
また、本発明のET吸着材がアニオン性基を含むと、このアニオン性基へのカチオンの非特異的な吸着が起きるため、本発明のET吸着材は、アニオン性基を含まないことが望ましい。アニオン性基を含む場合もその含有量は、陽イオン交換容量(CEC)として、例えば1meq/dry・g以下、又は0.5meq/dry・g以下とすればよい。
【0026】
本発明において、イオン交換容量は、pH滴定法で測定した値であり、具体的には、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0027】
本発明のET吸着材は、1価アミン及び/又はアンモニアと、エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物との反応により得られるアミノ基含有分子鎖の他に、アミノ基が導入されていない未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又は未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基が加水分解した官能基を有する、炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖を含むことができる。その場合も、それらの分子鎖の合計に占めるアミノ基含有分子鎖の比率は、90mol%以上、中でも95mol%以上、中でも97mol%以上、中でも98mol%以上、中でも99mol%以上とすることができる。エポキシ基又はイソシアネート基を有する炭素数4以上の化合物に由来する分子鎖であって、未反応のエポキシ基若しくはイソシアネート基又はこれらが加水分解した官能基を有する分子鎖は、存在しないものとすることもできる。
【0028】
基材へのアミノ基含有分子鎖の導入率は、基材重量に対するアミノ基含有分子鎖導入基材の重量比によって定義できる。例えば、下記式(I)によって、導入アミノ基含有分子鎖のモル%を算出することができる。

導入アミノ基含有分子鎖モル%=(グラフト率/導入アミノ基含有分子鎖の分子量)/(100/基材の骨格単位当たりの分子量)×100・・・・(I)

グラフト率は、グラフト重合前の基材重量に対するグラフト重合前後の基材の重量差のパーセンテージである。
【0029】
本発明のET吸着材は、多孔質であってもよい。即ち、内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有し、かつ、貫通孔の端部が、ET吸着材の外部に向かって開口していてよい。この貫通孔は、多孔構造が連通している結果、屈曲した構造を有することができる。多孔構造が連通している貫通孔を有することは、ET吸着材の断面または表面の写真により確認できる。また、貫通孔の端部が、ET吸着材の外部に向かって開口していることは、ET吸着材の表面の写真により確認できる。
また、特にモノリスであってもよい。モノリスは、マイクロメートルオーダーの孔径を有する貫通孔が、さらにナノメートルオーダーの細孔径を有する細孔を備える構造をいう。
【0030】
本発明のET吸着材が多孔質である場合の平均孔径は、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。また、2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
本発明において、平均孔径は、ガス吸着法で測定した値である。
【0031】
本発明のET吸着材が多孔質である場合の比表面積は、1m/g以上が好ましく、1.5m/g以上がより好ましく、2m/g以上がさらに好ましい。また、20m/g以下が好ましく、15m/g以下がより好ましく、11m/g以下がさらに好ましい。
本発明において、比表面積は、BET法で測定した値である。
【0032】
本発明のET吸着材が多孔質である場合の空隙率は、30~95体積%、35~90体積%、又は40~85体積%とすることができる。
本発明において、空隙率は、窒素吸着法で測定した値である。
【0033】
本発明のET吸着材は、粒子状、繊維状、膜状、中空糸、不織布、柱状などの任意の形状であってよい。これらの形状の基材にアミノ基含有分子鎖を導入すればよいが、例えば、粒子状や繊維状の基材にアミノ基含有分子鎖を導入した後、膜状や柱状などの形状に加工することもできる。
【0034】
本発明のET吸着材が粒子状である場合、平均粒子径は、1μm以上、10μm以上、又は100μm以上とすることができ、1000μm以下、500μm以下、又は300μm以下とすることができる。この範囲であれば、ET除去対象液から効率よくETを除去することができ、また、水性のET除去対象液と分離し易い。本発明において、平均粒子径は、ふるい分け法で測定した値である。
【0035】
本発明のET吸着材のET吸着率は、例えば、900EU/gETと4重量%プルランを含む水溶液をET除去対象液としバッチ法で測定した場合、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上であり得る。ET吸着率の上限は100%であり得る
また、本発明のET吸着材のAEC当たりのET吸着率は、例えば、900EU/gETと4重量%プルランを含む水溶液をET除去対象液としバッチ法で測定した場合、50%・乾燥重量/mEq以上、100%・乾燥重量/mEq以上、150%・乾燥重量/mEq以上、200%・乾燥重量/mEq以上、又は250%・乾燥重量/mEq以上であり得る。AEC当たりのET吸着率の上限は500%・乾燥重量/mEqであり得る。
【0036】
(2)ET除去方法
本発明のET吸着材と、ET除去対象液とを接触させることにより、ET除去対象液中のETがET吸着材に吸着する。これにより、ETが除去された液体が得られる。その後、ETが除去された液体とETを吸着したET吸着材とを分離することができる。
即ち、本発明のET除去方法は、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させる工程を含む方法である。また、さらに、ETが除去された液体とETを吸着したET吸着材を分離する工程、例えば、本発明のET吸着材とET除去対象液との混合物から、ETが除去された液体を回収する工程を含むことができる。本発明のET除去方法は、換言すれば、ETが除去された液体の製造方法である。
【0037】
ET除去対象液は、流動性を有していればよく、粘性を有する液体を包含する。また、加熱又は加温により流動性を有するようにした材料であってもよい。ET除去対象液は、1種の目的成分を含むものであってよく、2種以上の目的成分を含むものであってもよい。目的成分は、ET除去対象液中に含まれる必要成分であり、除去すべきでないものである。また、ET除去対象液中のET及び目的成分は、液中に溶解又は懸濁していればよい。本発明のET吸着材は、水性組成物と接触させる場合も、接触後の水性組成物と分離し易いため、ET除去対象液としては、水を含む材料が好適である。
【0038】
ET除去対象液としては、例えば、注射用蒸留水、注射用生理食塩水などの医療用水、注射液、食品製造用水、飲料などが挙げられる。
また、本発明のET吸着材は、粘度の高い材料のET除去に好適に使用できる。このようなET除去対象液として、例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリンのようなムコ多糖や、これらを含む溶液又は懸濁液が挙げられる。ムコ多糖は、医薬品、化粧品などの成分として使用されている。
また、粘度の高いET除去対象液として、ラミナラン、カードラン、セルロースのようなβ-グルカン;プルラン、アミロース、グリコーゲン、アミロペクチン、デキストランのようなα-グルカン;分解コラーゲンや、これらを含む溶液又は懸濁液なども挙げられる。これらは、医薬品、健康補助食品、化粧品などの成分や、食品添加物として使用されている。
また、粘度の高いET除去対象液として、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガムのような多糖類、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースや、これらを含む溶液又は懸濁液も挙げられる。これらは、医薬品又は食品の製造用の増粘剤、ゲル化剤、又は糊料などとして使用されている。
また、これらの材料を、酸、アルカリ、又は酵素で分解した材料も使用できる。
また、粘度の高いET除去対象液として、人工臓器や人工骨の原料となるモノマーや、このようなモノマーを含む溶液又は懸濁液なども挙げられる。
その他、ET除去対象液としては、タンパク質、ペプチド、ビタミン類などの溶液又は懸濁液も挙げられる。
【0039】
本発明のET吸着材と接触させる際のET除去対象液のpHは、アミノ基の種類や、ET含有液のpH安定性などにより異なるが、例えば、1~14、特に、3以上、4以上、5以上、又は6以上とすることができ、また、10以下、9以下、又は8以下とすることができる。また、7以下であってもよい。
また、本発明のET吸着材と接触させる際のET除去対象液のイオン強度は、カチオン性基の種類や、ET除去対象液のイオン強度安定性などにより異なるが、例えば、0.8以下、0.6以下、又は0.4以下とすることができる。イオン強度は、ゼロ又は実質的にゼロとすることもできるが、0.001以上、0.003以上、又は0.005以上とすることもできる。
【0040】
本発明のET吸着材とET除去対象液との接触は、例えば、バッチ法により行うことができる。「バッチ法」は、適当な容器内で本発明のET吸着材とET除去対象液とを混合することにより接触させる手法である。バッチ法は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。接触時間は、ET除去対象液の種類などにより異なるが、例えば、5分間~120時間、30分間~24時間、1~12時間、又は2~4時間とすることができる。また、接触時の温度は、ET除去対象液の種類などにより異なるが、例えば、5~80℃、15~65℃、又は25~50℃とすることができる。本発明のET吸着材にETを吸着させた後に混合物から本発明のET吸着材を、ろ過又は遠心分離などにより分離することができる。
【0041】
また、本発明のET吸着材とET除去対象液との接触は、例えば、流動的分離法により行うことができる。「流動的分離法」とは、本発明のET吸着材にET除去対象液を通液することにより、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させる手法である。具体的には、例えば、本発明のET吸着材をカラムに充填し、このカラムにET除去対象液を通液することにより、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させることができる。また、例えば、本発明のET吸着材がフィルター状に成形されている場合は、このフィルターにET除去対象液を通液することにより、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させることができる。膜としては、メンブランフィルター、中空糸膜、チューブラー膜などの形態が挙げられる。また、本発明のET吸着材が柱状などに成形されている場合は、この柱状物などにET除去対象液を通液することにより、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させることができる。また、ろ紙上に本発明のET吸着材を載せ、そこにET除去対象液を通液することにより、本発明のET吸着材とET除去対象液とを接触させることができる。
【0042】
本発明のET除去方法によって、ET除去対象液中のETが除去される。ETの除去の程度は、処理後(本発明のET吸着材との接触後)のET除去対象液中のET濃度又は含有量が、処理前(本発明のET吸着材との接触前)と比較して低下していればよい。
「ETが除去される」とは、例えば、ET除去対象液をET吸着材で処理して得られる液体中のET濃度又は含有量が、処理前と比較して、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下に低下することであってよい。即ち、ET除去率は、50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上であり得る。
また、「ETが除去される」とは、例えば、処理後の液体中のET濃度が、100EU/g以下、60EU/g以下、10EU/g以下、5EU/g以下、又は1EU/g以下になることであってもよい。
【0043】
ET除去対象液が、ETと分離されるべき目的成分を含む溶液又は懸濁液である場合、処理後に、その目的成分は除去されない。「ET除去対象液中の目的成分が除去されない」とは、ET除去対象液を処理後の液体中の目的成分の含有量が、処理前と比較して、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上維持されることであってよい。
【0044】
ETが除去されたことは、ET除去対象液を処理後の液体中のETを定量することにより確認できる。ETの定量法としては、リムルス試薬を用いたリムルス試験が挙げられる。リムルス試験は、常法により行うことができる。リムルス試験は、例えば、比色法、比濁法、又はゲル化法により行うことができる。
【0045】
(3)ET吸着材の製造方法
本発明のET吸着材の製造方法は、窒素原子含有カチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを基材にグラフト重合させる工程を含む方法である。本発明方法は、窒素原子含有カチオン性基の供与体と、窒素原子含有カチオン性基と反応して結合を形成できる官能基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとを反応させて窒素原子含有カチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを得る工程をさらに含むことができる。窒素原子含有カチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを得る工程は、グラフト重合の前に行う。
【0046】
窒素原子を含むカチオン性基
窒素原子を含むカチオン性基としては、例えば、アミノ基(1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、4級アンモニウム基、イミノ基、アミジン基、グアニジノ基、イミダゾール基、4級イミダゾリウム基、ピリジル基、4級ピリジニウム基などが挙げられる。アミノ基は、アンモニアから水素原子1つを除去した官能基(-NH)、第1級アミンから水素原子1つを除去した官能基(-NHR)、第2級アミンから水素原子1つを除去した官能基(-NRR´)の何れであってもよい。
窒素原子を含むカチオン性基は非環状であってもよく、環状であってもよい。
【0047】
窒素原子を含むカチオン性基の供与体である、窒素原子を含むカチオン性化合物としては、アンモニア、アミジン、1価アミン、多価アミン、4級アンモニウム塩、4級イミダゾリウム塩、4級ピリジニウム塩などが挙げられる。
1価アミン及び多価アミンが有するカチオン性基としては、アミノ基(1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、4級アンモニウム基、イミノ基、アミジン基、グアニジノ基、イミダゾール基、4級イミダゾリウム基、ピリジル基、4級ピリジニウム基などが挙げられる。また、窒素原子を含むカチオン性化合物は、ポリマー又は非ポリマーの何れであってもよい。
1価アミンとしては、脂肪族アミン類、特にアルキルアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミンのような第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミンのような第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルペンチルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルヘプチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルノニルアミン、ジメチルデシルアミンのような第3級アミン);芳香族アミン類(アニリン、トルイジンのような第1級アミンなど);複素環式アミン類(ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾールのような第2級アミン;ピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン(コリジン)、2,6-ルチジン、キノリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンのような第3級アミンなど);アルカノールアミン又はアミノアルコール(モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタンのような第1級アミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミンのような第2級アミン;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-ジメチルアミノエタノール、N-ジエチルアミノエタノールのような第3級アミン)などが挙げられる。
中でも脂肪族アミン類が好ましく、アルキルアミンがより好ましい。
【0048】
1価アミンが脂肪族アミンである場合の窒素原子に結合している炭化水素鎖の炭素数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上とすることができる。また、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、又は15以下とすることができる。中でも炭素数4以上の炭化水素鎖を有することが好ましい。これにより、ET吸着率が高いET吸着材が得られる。
【0049】
多価アミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミンのような脂肪族ジアミン;4,4′-ジアミノ-3,3′ジメチルジシクロヘキシルメタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、ジアミンシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンのような脂環族ジアミン;フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン;ピペラジンのような複素環式ジアミン;ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンペンタミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン、グアニジンのような3価以上の脂肪族アミン;メラミンのような3価以上の芳香族アミンなどが挙げられる。
また、多価アミンとしては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ酸(中でも、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、トリプトファンのような塩基性アミノ酸)、アミノ酸の重合体(中でも、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリトリプトファンのような塩基性アミノ酸の重合体)、ポリクレアチニンなどのアミノ基を有するポリマーも挙げられる。ポリマーは、直鎖状、分岐状の何れであってもよい。ポリマーの数平均分子量は、例えば、50以上、100以上、又は150以上であってよく、1,000,000以下、100,000以下、10,000以下、5,000以下、2,000以下、又は1,000以下であってよい。ポリマーの数平均分子量としては、例えば、50~1,000,000、50~100,000、50~10,000、50~5,000、50~2,000、50~1,000、100~1,000,000、100~100,000、100~10,000、100~5,000、100~2,000、100~1,000、150~1,000,000、150~100,000、150~10,000、150~5,000、150~2,000、150~1,000が挙げられる。
【0050】
4級アンモニウム塩としては、グリシジルトリメチルアンモニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。また、例えば、上記例示した3級アミンのアルキル化により4級化した四級アミンも使用できる。
4級イミダゾリウム塩としては、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム塩、1-メチル-ベンゾイミダゾリウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
4級ピリジニウム塩としては、ブチルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
窒素原子を含むカチオン性化合物は、1種又は2種以上を使用できる。
【0051】
エチレン性不飽和基を有するモノマー
本発明の製造方法では、窒素原子を含むカチオン性基の供与体である、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応して結合を形成できる官能基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを用いる。このような官能基として、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基などが挙げられる。
エポキシ基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、アクリルモノマー(メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルなど)、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシブチルビニルエーテル、マレイン酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどが挙げられる。イソシアネート基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、2-イソシアネートエチルアクリレート、2-イソシアネートエチルメタクリレート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネートなどが挙げられる。
カルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0052】
窒素原子を含むカチオン性化合物とエチレン性不飽和基を有するモノマーとの反応
窒素原子を含むカチオン性化合物と、エチレン性不飽和基を有するモノマーとの反応は、例えば、約10~100℃で、約0.1~24時間行えばよい。
溶媒としては、通常、水を用いればよいが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)のようなアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒も用いることができる。溶媒は、1種又は2種以上を使用できる。
【0053】
また、窒素原子を含むカチオン性化合物と、エチレン性不飽和基を有するモノマーを反応させた後に、さらに修飾を施すことによってカチオン性を高めることができる。
カチオン性を高めるために窒素原子を含むカチオン性基を追加して導入する方法としては、導入したカチオン性基を活性化剤で活性化し、次いで、既に導入したカチオン性基と同じ又はこれとは異なる、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させる方法が挙げられる。
活性化剤としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、メタクリル酸グリジシル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなエポキシ基供与体、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ヨードメタン、ヨードエタンなどが挙げられる。
活性化剤、追加して導入する窒素原子を含むカチオン性化合物は、1種又は2種以上を使用できる。
【0054】
基材
基材は、本発明のET吸着材の基材の材料として例示した合成有機ポリマー、天然ポリマー、無機材料が挙げられる。中でも、ポリマー組成の均一性や耐久性の点で合成有機ポリマーが好ましく、ラジカル発生し易い点で、ラジカル重合性官能基を有する合成有機ポリマーがより好ましい。基材の材料は1種又は2種以上を使用できる。
【0055】
グラフト重合
上記のようにして得られる、窒素原子を含むカチオン性基とエチレン性不飽和基を有するモノマーを、基材とグラフト重合させる。
グラフト重合は、γ線、X線のような放射線、紫外線のような光、電子線を照射することにより行える。基材に照射を行った後モノマーを接触させてもよく、或いは基材とモノマーが共存する状態で照射を行ってもよい。本発明の製造方法は、窒素原子を含むカチオン性基が導入されたモノマーを用いるため、共存照射法を行っても、窒素原子を含むカチオン性基の導入率が下がることはなく、従って、窒素原子を含むカチオン性基を多数導入したET吸着材を簡便に製造することができる。
【0056】
また、グラフト重合は、ラジカル重合開始剤を用いて行うこともできる。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイルなどの有機過酸化物;アゾ炭化水素、アゾニトリル、N-ニトロソ化合物、ジアゾチオエーテル、ジアゾアミノ化合物、亜硝酸エステル、硝酸エステルなどの窒素含有化合物;ジスルフィド、モノスルフィド、スルフィン酸などの硫黄含有化合物などを使用できる。また、セリウム塩とアルコールやアミンなどの有機還元剤とを反応させることにより生じるラジカルもラジカル重合開始剤として使用することができる。
ラジカル重合開始剤を用いる場合、基材とラジカル重合開始剤を混合してγ線、X線のような放射線、紫外線のような光、電子線を照射することでラジカルとした後、アクリルモノマーを接触させても良く、或いは基材とアクリルモノマー、ラジカル重合開始剤とが共存する状態で照射することもできる。
【0057】
重合反応後、水、有機溶媒、又はそれらの混液を用いて、基材に固定されなかった窒素原子含有カチオン性基含有アクリルモノマーなどの不純物を除去すればよい。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)エンドトキシン吸着材の製造
(1-1)アミノ基含有分子鎖を基材に導入する方法
<アミノ基含有分子鎖の製造>
アミノ基含有分子鎖を以下の手順で合成した。
【0059】
合成例1
セパラブルフラスコに、2級アミンとしてジエチルアミン(炭素数2の分子鎖を有する)を2.3gと、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノール50mlを入れ、45℃で5時間攪拌することで、アミノ基含有分子鎖(以下、「AGE―DEA」ともいう)を得た。
【0060】
合成例2
セパラブルフラスコに、3級アミンとしてN-ブチルジメチルアミン(炭素数4の分子鎖を有する)を2.3gと、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノール50mlを入れ、45℃で5時間攪拌することで、アミノ基含有分子鎖(以下、「AGE―DBDMA」ともいう)を得た。
【0061】
合成例3
セパラブルフラスコに、1級アミンとしてペンチルアミン(炭素数5の分子鎖を有する)を2.8gと、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノールを50ml入れ、45℃で5時間攪拌することで、アミノ基含有分子鎖(以下、「AGE―PA」ともいう)を得た。
【0062】
合成例4
セパラブルフラスコに、3級アミンとしてN,N-ジメチルオクチルアミン(炭素数8の分子鎖を有する)を5.0gと、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノールを入れ、45℃で5時間攪拌することで、アミノ基含有分子鎖(以下、「AGE―DMOA」ともいう)を得た。
【0063】
合成例5
セパラブルフラスコに、3級アミンとしてN,N-ジメチルデシルアミン(炭素数10の分子鎖を有する)を5.5gと、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノールを入れ、45℃で5時間攪拌することで、アミノ基含有分子鎖(以下、「AGE―DMDA」ともいう)を得た。
【0064】
<グラフト重合>
基材へのアミノ基含有分子鎖のグラフト化は以下の手順で行った。
実施例1
合成例1で得られたAGE―DEA溶液にポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DEA」ともいう)を得た。
【0065】
実施例2
合成例2で得られたAGE―DBDMA溶液にポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DBDMA」ともいう)を得た。
【0066】
実施例3
合成例3で得られたAGE―PA溶液にポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―PA」ともいう)を得た。
【0067】
実施例4
合成例4で得られたAGE―DMOA溶液にポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DMOA」ともいう)を得た。
【0068】
実施例5
合成例5で得られたAGE―DMDA溶液にポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DMDA」ともいう)を得た。
【0069】
(1-2)アクリルモノマーを基材にグラフト重合させた後にアミノ基を導入する方法
<グラフト重合>
比較合成例1(アミノ基を有さない分子鎖の基材への導入)
セパラブルフラスコに、アリルグリシジルエーテルを3.6gと、エタノール50mlと、ポリエーテルスルホン多孔質膜 0.3gを加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE」ともいう)を得た。
【0070】
<アミノ基の導入>
比較例1
セパラブルフラスコに、比較合成例1で得られたPES―AGEを0.3gと、エタノールを50mlと、2級アミンとしてジエチルアミン(炭素数2の分子鎖を有する)を2.3g加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DEA」ともいう)を得た。
【0071】
比較例2
セパラブルフラスコに、比較合成例1で得られたPES―AGEを0.3gと、エタノールを50mlと、3級アミンとしてN,N-ジメチルオクチルアミン(炭素数8の分子鎖を有する)を5.5g加え、系中をアルゴン置換した。50mW/cmのUVを照射した。反応物を濾布上で吸引ろ過し、大量の変性アルコールでリンスした後、大量の水でリンスし、グラフト化ポリエーテルスルホン膜(以下、「PES―AGE―DMOA」ともいう)を得た。
【0072】
(2)物性評価
(2-1)陰イオン交換容量(AEC)の測定
各ET吸着材を24時間以上室温で減圧乾燥し、約0.5gをスクリュー管に精密秤量した。ファクター既知の0.1mol/l塩酸20mlを加え、ローラー上で2時間撹拌した。ろ紙を用いて濾過し、ろ液を10ml別のスクリュー管に取った。ファクター既知の0.05mol/l水酸化ナトリウム水溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定を行った。

以下の式によりAECを算出した。
AEC(mEq/dry・g)
=(0.1×fHCl×20-0.05×fNaOH×V×20/10)÷W
HCl : 使用した塩酸のファクター
NaOH : 使用した水酸化ナトリウムのファクター
V : 滴定量(ml)
W : 粒子の乾燥重量(dry・g)
【0073】
(2-2)ET吸着能評価
ET吸着能の評価はバッチ法により行った。
乾熱滅菌可能な使用器具(コニカルビーカー、ホールピペット、ピペット、ガラスフィルター、薬さじ、リムルス用チューブ、チューブ用キャップ)はよく洗浄した後に250℃で4時間滅菌した。また、シリンジ、メンブランフィルター、チップはあらかじめγ線照射滅菌してあるものを用いた。また、純水としては大塚蒸留水(株式会社大塚製薬工場)を用いた。
ET濃度の測定は、市販のリムルス試薬であるエンドスペシーES-24M(生化学工業株式会社)を用いて行った。
【0074】
各ET吸着材を、ガラスフィルター上で0.2M NaOH/95% EtOH 25mlで5回洗浄した。次いで、滅菌済みの純水でろ液が中性になるまで洗浄を繰り返した。
【0075】
50mlコニカルビーカーに洗浄済みの吸着材を秤量し、それに対し、ET除去対象液として、4重量%プルランと平均で899EU/gのETを含む水溶液(pH6.0)を10ml加え(n=2)、バイオシェイカー内で20℃で、200rpmで2時間振とうした。pHは、各ET除去対象液と各吸着材とを混合した後も、ほぼ同じである。
次いで、吸着材を含む水溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を大塚水で10~1000倍希釈した。希釈液を上記リムルス試薬の入った試験管に0.2mlずつ加え、ボルテックスでよく混合した。試験管をEGリーダー-SV-12(生化学工業株式会社)に設置し、比色時間法によりET残存濃度を決定した。
【0076】
吸着材と接触させる前の各ET除去対象液に含まれるET濃度は、上記と同様にして、ET除去対象液を0.8μmメンブランフィルターでろ過し、大塚水で10~1000倍希釈し、上記リムルス試薬を用いて、比色時間法により決定した。
ET除去率を下記式に従い算出した。

ET除去率(%)=〔(吸着材と接触させる前のET除去対象液のET濃度-吸着材と混合後のET濃度)/吸着材と接触させる前のET除去対象液のET濃度〕×100
【0077】
結果を表1に示す。
【表1】
全ての例で、ET吸着能を有することが認められたが、アミンを導入した後に分子鎖を基材に結合させることにより、ET吸着率がより高い吸着材が得られた。
なお、アミンを導入後にグラフト重合させた実施例1~5のうち、アミンとしてジエチルアミンを使用した実施例1のET吸着率は、他のアミンを使用した場合に比べて低いが、AEC当たりのET吸着率を比較すると、他のアミンを使用した場合と同等である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のET吸着材は、ET吸着率が非常に高いため、ETの残存が厳しく制限される医薬品、食品、化粧品の分野で実用性の高いものである。また、本発明の製造方法は、ET吸着率が非常に高いET吸着材を簡便に製造することができ、実用性の高い方法である。