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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093063
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】機能性不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/016 20120101AFI20240702BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240702BHJP
   D04H 1/413 20120101ALI20240702BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
D04H3/016
D04H1/728
D04H1/413
D04H3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209196
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島 嗣典
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA13
4L047AA19
4L047AB03
4L047AB08
4L047AB09
(57)【要約】
【課題】 機能性粒子の脱落を抑制しながら、不織布の通気性の低下を抑制する。
【解決手段】 所定の機能を有する機能性粒子4,4が一体化された合成樹脂製の長繊維を含んで機能性不織布が構成される。長繊維は、複数の大径部2,2と小径部3,3とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化している。小径部3,3は、前記合成樹脂により形成されたモノフィラメントである。大径部2,2の少なくとも一部は、機能性粒子4,4の複数が、合成樹脂により、ひも状もしくは団子状に固められて形成されている。小径部の繊維径3,3は、大径部に含まれる前記機能性粒子4,4の直径以下である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の機能を有する機能性粒子が一体化された合成樹脂製の長繊維を含む機能性不織布であって、
前記長繊維は、複数の大径部と小径部とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化しており、
前記小径部は、前記合成樹脂により形成されたモノフィラメントであり、
前記大径部の少なくとも一部は、前記機能性粒子の複数が、前記合成樹脂により、ひも状もしくは団子状に固められて形成されており、
前記小径部の繊維径は、前記大径部に含まれる前記機能性粒子の直径以下である、
機能性不織布。
【請求項2】
前記小径部の繊維径が、前記機能性粒子の直径の1/100以上である
請求項1に記載の機能性不織布。
【請求項3】
前記小径部の繊維径が、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下であり、前記機能性粒子の直径が300ナノメートル以上200マイクロメートル以下である、
請求項2に記載の機能性不織布。
【請求項4】
前記機能性粒子が、熱膨張性を有する粒子である
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の機能性不織布。
【請求項5】
前記機能性粒子が亜リン酸アルミニウムの粒子である
請求項4に記載の機能性不織布。
【請求項6】
請求項1に記載の機能性不織布を製造する方法であって、
前記合成樹脂を加熱して溶融もしくは溶剤により溶解して液状化して、液状化した合成樹脂中に前記機能性粒子を分散させる第1の工程、
第1の工程に引き続き、前記機能性粒子が分散した液状の合成樹脂を、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法により紡糸して長繊維としながら、不織布とする第2の工程、
を含む機能性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の機能を有する機能性粒子を含む機能性不織布、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂繊維の不織布に、所定の機能を有する粒子を担持させて、不織布を機能性不織布とすることが行われている。例えば、不織布に活性炭粒子を担持させて、消臭機能やガス吸着機能を与えることが行われる。保水性や蛍光性、光吸収性など、不織布に付加したい機能に応じて、適した機能性粒子が不織布に担持される。
【0003】
機能性粒子を不織布に担持させる方法としては、例えば、スラリー化した機能性粒子に不織布をディッピングして、不織布を構成する合成繊維の表面に機能性粒子を付着させる方法が例示される。この際、機能性粒子が脱落しにくいよう、バインダが併用されることもある。
例えば、特許文献1には、積層構造の脱臭フィルターにおいて、空気流れの上流側に位置する除塵用不織布に固体超強酸粒子を含ませる除塵脱臭フィルター技術が開示されており、当該固体超強酸粒子をシランカップリング剤とともに水に分散させてスラリー状態とし、このスラリーに上流側に位置させる除塵用不織布を浸漬し、当該固体超強酸粒子を担持させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-331212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような従来の機能性不織布においては、以下のような問題を生じやすかった。
機能性粒子が脱落しにくいようにしたい場合は、バインダ等を併用することとなるが、バインダを用いて機能性粒子を担持させると、不織布が目詰まりして不織布の通気性が損なわれやすくなってしまう。特に、機能性粒子の径が、不織布の繊維径やポアサイズに比べて大きくなると、目詰まり傾向が顕著になりやすい。
【0006】
また、従来技術では、不織布に大量の機能性粒子を担持させると、機能性粒子が不織布繊維の間に堆積しやすく、不織布の通気性を保つことが難しくなりやすかった。また、従来技術では、大量の機能性粒子を担持させようとすると、スラリーを供給する側の不織布表面に機能性粒子が堆積しがちであり、不織布内に機能性粒子を均一に分散させることは難しかった。
【0007】
本発明の目的は、機能性粒子の脱落を抑制しながら、不織布の通気性の低下を抑制できるような機能性不織布を提供することにある。また、本発明の他の目的は、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布の通気性低下が抑制可能な機能性不織布を提供することにある。また、本発明のさらに他の目的は、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布内に均一に機能性粒子が分散されるような機能性不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討の結果、長繊維を含むように不織布を構成し、長繊維において、複数の機能性粒子を固めてひも状もしくは団子状にして大径部としつつ、大径部の機能性粒子の径以下の繊維径を有する小径部とし、大径部と小径部を交互に設けると、上記課題の少なくとも一つが解決することを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、所定の機能を有する機能性粒子が一体化された合成樹脂製の長繊維を含む機能性不織布であって、前記長繊維は、複数の大径部と小径部とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化しており、前記小径部は、前記合成樹脂により形成されたモノフィラメントであり、前記大径部の少なくとも一部は、前記機能性粒子の複数が、前記合成樹脂により、ひも状もしくは団子状に固められて形成されており、前記小径部の繊維径は、前記大径部に含まれる前記機能性粒子の直径以下である、機能性不織布である(第1発明)。
【0010】
第1発明において、好ましくは、前記小径部の繊維径が、前記機能性粒子の直径の1/100以上である。(第2発明)。さらに、第2発明において、好ましくは、前記小径部の繊維径が、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下であり、前記機能性粒子の直径が300ナノメートル以上200マイクロメートル以下である(第3発明)。また、第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、好ましくは、前記機能性粒子が、熱膨張性を有する粒子である(第4発明)。さらに、第4発明において、好ましくは、前記機能性粒子が亜リン酸アルミニウムの粒子である(第5発明)。
【0011】
また、本発明は、第1発明の機能性不織布を製造する方法であって、前記合成樹脂を加熱して溶融もしくは溶剤により溶解して液状化して、液状化した合成樹脂中に前記機能性粒子を分散させる第1の工程、第1の工程に引き続き、前記機能性粒子が分散した液状の合成樹脂を、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法により紡糸して長繊維としながら、不織布とする第2の工程、を含む機能性不織布の製造方法である(第6発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の機能性不織布(第1発明)によれば、機能性粒子の脱落を抑制しながら、不織布の通気性の低下を抑制できるような機能性不織布を提供できる。また、第1発明の機能性不織布によれば、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布の通気性低下が抑制可能である。第1発明の機能性不織布によれば、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布内に均一に機能性粒子を分散させることができる。
【0013】
さらに、第2発明の機能性不織布のようにすれば、機能性粒子の脱落防止がより効果的となる。また、さらに、第3発明の機能性不織布のようにすれば、機能性粒子の配合量を増加させても、より効果的に不織布の通気性低下が抑制可能である。
また、さらに、第4発明や第5発明の機能性不織布のようにすれば、熱を加えることにより、機能性不織布の通気性が小さくなるよう変化させることができる。特に、第4発明や第5発明の機能性不織布は気流により機能性不織布を加熱して機能性粒子をすばやく膨張させ、通気性を素早く変化させることができる。
【0014】
また、第6発明の機能性不織布の製造方法によれば、第1発明の機能性不織布を効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の機能性不織布の構造を示す模式図である。
図2】大径部及び小径部の構造を示す模式図である。
図3】第1実施形態の機能性不織布の実施例の構造を示す顕微鏡写真である。
図4】機能性不織布の実施例2の構造を示す顕微鏡写真である。
図5】機能性不織布の実施例3の構造を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照しながら、熱膨張性を有する粒子を機能性粒子として用いた場合を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0017】
第1実施形態の機能性不織布1は、所定の機能を有する機能性粒子4,4が一体化された合成樹脂製の長繊維を含む機能性不織布である。ここで長繊維とは、不織布を構成する繊維における短繊維と対比される長い繊維のことである。長繊維はフィラメント・ヤーンとも呼ばれる。短繊維がステープル・ファイバーなどと呼ばれ、その長さがおおむね数mmから数十cmであるのに対し、長繊維は、短くカットされていない繊維である。長繊維は、典型的にはメルトブロー法やエレクトロスピニング法やスパンボンド法により紡糸されて、そのまま積み重ねられて不織布化される。なお、機能性不織布1は、長繊維のみで構成される必要はなく、短繊維を含んでいてもよく、長繊維と短繊維とが絡み合うように混紡されていてもよい。
【0018】
必須ではないが、好ましくは、機能性不織布1に対する機能性粒子4,4の配合量は、10~500g/平方メートル程度である。
【0019】
また、機能性不織布は、単層であってもよいが、複数の不織布層やフィルム、シート、織布等が積層された積層不織布であってもよい。また、機能性不織布は、織布やメッシュ素材の上に長繊維が不織布化された層が積層された複合不織布であってもよい。機能性粒子が一体化された合成樹脂製の長繊維は、いずれかの不織布層のみに含まれていてもよい。
【0020】
また、機能性不織布1に含まれる長繊維のすべてが、機能性粒子が一体化された合成樹脂製の長繊維であってもよいが、機能性不織布1は、他の長繊維、例えば、機能性粒子が一体化されていない長繊維を含んでいてもよい。
必須ではないが、本実施形態の機能性不織布1は、機能性粒子が一体化された合成樹脂製の長繊維をエレクトロスピニング法により紡糸して不織布化した、単層の機能性不織布である。
【0021】
図1に、第1実施形態の機能性不織布1を模式的に示す。また、図3は第1実施形態の機能性不織布の実施例の顕微鏡写真である。なお、図1では、小径部3,3を一本の実線で表現している。
機能性不織布1に含まれる長繊維は、複数の大径部2,2と小径部3,3とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化している。いわば、長繊維は大径部2,2と小径部3,3とが数珠つなぎになったような構成をした繊維である。
【0022】
長繊維の小径部3,3は、前記合成樹脂により形成されたモノフィラメントである。合成樹脂は繊維化できるものであれば特に限定されないが、メルトブロー法やエレクトロスピニング法による長繊維の製造に適した合成樹脂であることが好ましい。また、合成樹脂は、後述する機能性粒子に接着するような樹脂であることが好ましい。好ましくは、長繊維の原料となる合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂などが使用できる。
【0023】
小径部3,3となるモノフィラメントは、前記した合成樹脂のみで構成されていてもよいが、他の配合材料、例えば、強化材や増量材などの小径部の直径よりも径が小さい粒子や、合成樹脂の特性を改善する薬剤等を含んでいてもよい。
【0024】
必須ではないが、小径部3,3の繊維径は、好ましくは、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下である。小径部3,3の繊維径は、特に好ましくは、500ナノメートル以上3マイクロメートル以下である。ここで、繊維径とは、繊維の延在方向に直交する方向に測った繊維の直径のことであり、例えば、機能性不織布1の顕微鏡写真を撮影し、写真上で小径部の繊維径を測定して求める。好ましくは、10か所ないし20か所の小径部で繊維径を測定し、それらを平均したものを小径部の繊維径として扱う。
【0025】
大径部2,2の少なくとも一部は、機能性粒子4,4の複数が、前記合成樹脂により、ひも状もしくは団子状に固められて形成されている。ここで、ひも状とは、大径部の形状に関し、繊維の延在方向の長さが繊維の延在方向に直交する方向の長さよりも大きい、好ましくは3倍以上であることを意味する。また、団子状とは、大径部の形状に関し、繊維の延在方向の長さが繊維の延在方向に直交する方向の長さと同程度、好ましくは1/2以上2倍以下であることを意味する。なお、長繊維には、機能性粒子を含まない大径部や機能性粒子1つのみを含む大径部が存在していてもよい。
【0026】
大径部2,2の径は、小径部3,3の繊維径よりも大きい。大径部の径とは、繊維の延在方向に直交する方向で測った直径のことである。好ましくは、10か所ないし20か所の大径部で直径を測定し、それらを平均したものを大径部の径として扱う。必須ではないが、好ましくは、大径部2,2の径は150ナノメートル以上300マイクロメートル以下である。特に好ましくは、大径部2,2の径は1マイクロメートル以上50マイクロメートル以下である。また、好ましくは、大径部2,2の径は、小径部3,3の繊維径の3倍~20倍であり、特に好ましくは、4倍から10倍である。
【0027】
図2に大径部2,2及び小径部3,3の構造を模式的に示す。大径部2には、複数の機能性粒子4,4が含まれている。これら機能性粒子4,4は、小径部を構成する合成樹脂と同じ合成樹脂により包まれて、あるいは接着されて、ひも状もしくは団子状に固められている。大径部2,2では、合成樹脂によって機能性粒子4,4が互いに接着されていてもよいし、あるいは、フィルム状もしくは網状となった合成樹脂によって機能性粒子4,4が包まれていてもよい。大径部2,2では、繊維の径方向に機能性粒子が1つだけ存在していてもよいが、繊維の径方向に機能性粒子が複数存在していてもよい。大径部2,2の端部では、大径部に含まれる合成樹脂がそのまま小径部3,3のモノフィラメントになっていくよう、大径部2と小径部3とが連続している。
【0028】
大径部2,2に含まれる機能性粒子は、所定の機能を有する。必須ではないが、本実施形態の機能性不織布1では、熱膨張性を有する粒子が機能性粒子として使用されている。熱膨張性を有する粒子としては、例えば、熱膨張性マイクロカプセルや熱膨張性黒鉛や亜リン酸アルミニウムなどが例示される。熱膨張性を有する亜リン酸アルミニウムの粒子として、例えば、太平化学産業株式会社の「APA-100」等が例示される。亜リン酸アルミニウム粒子の中でも、特に、亜リン酸水素アルミニウム(太平化学産業株式会社の「NSF」等)が好ましく使用できる。これら粒子は、所定の温度に熱せられると膨張する性質を有している。大径部2,2に熱膨張性を有する粒子を含ませると、機能性不織布が熱せられた際に、大径部2,2が膨張して不織布の空隙部を小さく、狭くするよう変化し、不織布の通気性が小さくなる変化が生じる。
【0029】
小径部3,3の繊維径Dsは、大径部2,2に含まれる前記機能性粒子4,4の直径Dp以下である。小径部3,3の繊維径Dsと前記機能性粒子4,4の直径Dpが、実質的に同じであってもよい。なお、本発明における前記機能性粒子4,4の直径Dpとは、体積平均径のことである。大径部に含まれる前記機能性粒子4,4の直径Dpは、典型的には、300ナノメートル以上200マイクロメートル以下である。また、必須ではないが、好ましくは、小径部3,3の繊維径Dsが、前記機能性粒子4,4の直径Dpの1/100以上である。
【0030】
上記第1実施形態の機能性不織布1の製造方法について説明する。上記機能性不織布1は、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法を応用して製造することができる。
【0031】
まず、第1の工程として、液状化させた合成樹脂と機能性粒子が混合される。合成樹脂は、加熱して溶融させることにより、もしくは溶剤により溶解することにより、液状化される。液状化した合成樹脂中に機能性粒子が混合され、分散させられる。機能性粒子をあらかじめ合成樹脂に練りこんでおいて、それを加熱し溶融させて、機能性粒子が分散した液状の合成樹脂を得てもよいし、合成樹脂を溶剤等によって溶解させて液状化してから機能性粒子を混合し分散させてもよい。
【0032】
本実施形態においては、ポリウレタン樹脂を溶剤によって溶解して液状化し、そこに機能性粒子4,4として亜リン酸アルミニウムの粉末(太平化学産業株式会社製、NSF、体積平均径5マイクロメートル)を混合し、攪拌して分散させた。
【0033】
次に、第2の工程として、第1の工程に引き続き、前記機能性粒子4,4が分散した液状の合成樹脂を、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法により紡糸して長繊維としながら、堆積させて不織布とする。
【0034】
紡糸ノズルから送り出された液状の合成樹脂は、遠心力や重力、静電気力等によって引き延ばされて細い繊維状になる。この細い繊維が、上記長繊維の小径部3,3となる。この時、機能性粒子4,4が液状の合成樹脂とともにノズルから送り出されると、機能性粒子4,4が集まった部分は、ひも状もしくは団子状に固まって大径部2,2となりつつ、余剰の合成樹脂が引き延ばされて小径部3,3ができていき、大径部2,2と小径部3,3が交互に数珠つなぎとなった長繊維が連続してできる。できた長繊維は、溶剤が揮発したり温度が下がったりして固化しながら、紡糸装置(不織布製造装置)の基台上に堆積して、機能性不織布1が製造される。
【0035】
実施例では、亜リン酸水素アルミニウムである「NSF」(平均粒子径5マイクロメートル)を機能性粒子として用いて、大径部2,2の直径がおよそ2~10マイクロメートル(平均径6マイクロメートル)で、小径部3,3の直径がおよそ0.5~1.5マイクロメートル(平均径0.9マイクロメートル)であるような機能性不織布1が得られた。図3にその顕微鏡写真を示す。
【0036】
機能性粒子の配合量や、液状の合成樹脂の粘度や送り出し速度、ノズル径、静電気の印加電圧、ノズルから基台までの距離、雰囲気温度等を調整することにより、大径部2,2と小径部3,3の大きさや長さ、直径、両者の比率等を調整することができる。
【0037】
メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法を利用して上記機能性不織布1を製造すると、紡糸される際に、大径部となる部分から小径部となる部分へと合成樹脂が吸い出されるので、大径部に残る合成樹脂が少なくなる。これにより、大径部において機能性樹脂を覆う合成樹脂の被膜が薄くなったり網状になったりする。機能性粒子が粒子表面での物質交換や吸着、反応等を行うものである場合には、合成樹脂の被膜が薄くなったり網状になることにより、機能性粒子の機能がより効果的に発揮されるようになり、好ましい。
【0038】
上記実施形態の機能性不織布1の作用および効果について説明する。
特許文献1のような従来の機能性不織布においては、不織布化された繊維に対し、事後的に機能性粒子を付着させることにより機能性不織布が製造されていた。従来技術では、機能性粒子を確実に付着させるためにバインダなどが併用されるが、バインダを用いると、機能性粒子の脱落を抑制できるものの、バインダ成分によって不織布の空隙部が目詰まりしたようになりやすく、通気性が低下しやすかった。特に機能性粒子の配合量を高めようとすると、バインダと機能性粒子が、繊維の間に板状や膜状にくっついて目詰まりし、通気性の低下がより顕著になりやすかった。また、従来技術では、機能性粒子が不織布に濾しとられるように付着するため、機能性粒子の配合量を高めようとすると、機能性粒子が不織布表面に集中しやすく、通気性が低下しやすくなるという問題もあった。
【0039】
上記実施形態の機能性不織布1においては、機能性粒子4,4は合成樹脂によりひも状もしくは団子状に固められて大径部2,2となり、大径部2,2と小径部3,3が交互にならんだ長繊維が形成されて、機能性不織布1がそのような長繊維を含むように構成されている。そのため、機能性粒子4,4は長繊維にしっかりと一体化されていて、機能性粒子4,4が機能性不織布1から脱落することが抑制される。
【0040】
また、機能性不織布1に含まれる長繊維が、複数の大径部2,2と小径部3,3とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化しているため、繊維同士が重なり合う際には、大径部2,2同士が接触する部分や、大径部2と小径部3が接触する部分ができる。このような部分ができると長繊維が積み重ねられて不織布化される際に、厚み方向に隙間を生じさせることになる。そのため、上記機能性不織布1では、小径部3の繊維径を細くしても、長繊維の重なりが平面状につぶれてしまい不織布が薄板状になって通気性が低下してしまうことが抑制される。すなわち、機能性不織布1に含まれる長繊維が、複数の大径部と小径部とが交互に並ぶよう、繊維の長手方向に径が変化していることにより、長繊維の重なり合いが3次元的な厚みを有する立体的な構造となり、通気性の低下を抑制できる。そして、機能性不織布1では、小径部3,3の繊維径は、大径部に含まれる前記機能性粒子4,4の直径以下であるため、小径部の繊維が、不織布の繊維間の隙間を小さくしてしまうことが抑制され、通気性の低下を抑制できる。
【0041】
また、上記実施形態の機能性不織布1では、機能性粒子4,4は合成樹脂によりひも状もしくは団子状に固められて大径部2,2となって長繊維と一体化されているため、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布の通気性低下が抑制可能である。機能性粒子の配合量が増えると、機能性不織布1の中の空間における大径部2,2の占める割合が増えることになるが、大径部2,2がひも状もしくは団子状であるため、大径部同士が接触してもその周囲に空間が残され、従来技術のように機能性粒子やバインダが板状や膜状になって繊維間の隙間をふさいでしまうことがない。したがって、機能性不織布1では、機能性粒子の配合量を増加させても、不織布の通気性低下が抑制可能である。小径部の繊維径に対する大径部の繊維径の倍率を大きくすると、かかる効果がより大きくなりやすい。
【0042】
また、上記実施形態の機能性不織布1では、長繊維の大径部2,2に機能性粒子4,4が含まれているので、長繊維を積み重ねていくだけで、ほぼ均一に機能性粒子4,4を分散させることができる。すなわち、不織布の厚み方向全体にわたって機能性粒子4,4を均一に分散させて含ませることができる。したがって、従来技術のような、機能性粒子の配合量を高めようとすると、機能性粒子が不織布表面に集中してしまうという問題を生じない。
【0043】
また、必須ではないが、上記実施形態の機能性不織布1のように、小径部3,3の繊維径を、前記機能性粒子直径の1/100以上とした場合には、大径部2,2によるかさ上げ効果が得られつつ、小径部3,3によって大径部2,2の間をしっかりとつなぐことができるので、大径部2,2や機能性粒子4,4の脱落がより効果的に抑制できる。
【0044】
また、必須ではないが、上記実施形態の機能性不織布1のように、さらに、小径部3,3の繊維径が、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下であり、機能性粒子4,4の直径が300ナノメートル以上200マイクロメートル以下であるようにした場合には、上記効果がより効果的に発揮され、機能性粒子の配合量を増加させても、特に効果的に不織布の通気性低下が抑制可能となる。
【0045】
また、必須ではないが、上記実施形態の機能性不織布1のように、機能性粒子4,4が、熱膨張性を有する粒子である場合には、使用時に熱を加えることにより、機能性不織布の通気性が小さくなるよう、不織布の通気性を変化させることができる。特に、上記機能性不織布1は、不織布が通気性を有し、かつ、不織布全体に熱膨張性の機能性粒子が分散して配置されているので、気流により機能性不織布を加熱して機能性粒子をすばやく膨張させ、通気性を素早く変化させることができる。このような機能性不織布は、例えば送風系の通気通路などに使用して、通常時(空気の温度が低い時)は機能性不織布1の通気性を利用して通気状態として使用しながら、火災発生などで高温の空気が通気経路に流れてきた際には、機能性不織布1の通気性を小さくして、高温の空気の通流を抑制するような用途に使用できる。
【0046】
また、必須ではないが、上記実施形態の機能性不織布1のように、さらに、機能性粒子4,4が亜リン酸アルミニウムの粒子である場合には、使用時に熱を加えることにより、機能性不織布の通気性が小さくなるよう変化させることを効率的に行える。
【0047】
また、上記したような、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法を利用した機能性不織布1の製造方法によれば、上記したような大径部と小径部を有する機能性不織布1を安定して、効率的に製造することができる。また、メルトブロー法もしくはエレクトロスピニング法を利用して機能性不織布1を製造すると、紡糸の際に、大径部2,2となるべき部分から合成樹脂が吸い出されるように小径部3,3が形成されていくので、大径部2,2に残る合成樹脂が少なくなり、大径部2,2において機能性粒子4,4を覆う合成樹脂の膜が薄くなったり、網状になったりする。このことは、機能性粒子4,4の機能をより発揮しやすくする。例えば、機能性粒子4,4が熱膨張性を有する粒子である場合、機能性粒子4,4を覆う合成樹脂の膜が薄くなれば、高温の気流に接した際に、より素早く機能性粒子が膨張することになる。
【0048】
また、上記したような、エレクトロスピニング法を利用した機能性不織布1の製造方法によれば、紡糸時に高温とならないようにすることもでき、その場合、熱に弱い機能性粒子を機能性不織布に一体化するうえで好ましい。熱に弱い機能性粒子の例としては、香料を含む芳香性の機能性粒子などが例示される。
【0049】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
例えば、上記実施形態の説明では、機能性不織布1に含まれる長繊維が交絡する部分で、長繊維同士が単に接触しているものとして説明したが、交絡する部分で長繊維同士が結合していてもよい。例えば、長繊維が交絡する部位で、大径部2,2同士ががくっついていてもよいし、見かけ上、一つの大径部に3つ以上(好ましくは4つ以上)の小径部3,3がつながっていてもよい。このような構造となると、大径部2,2の間を小径部3,3がネットワーク状に接続するようになって、機能性不織布1の立体的な構造が維持されやすくなり、通気性もよい。
【0050】
以下に製造条件等を変えて製造した機能性不織布1の他の実施例を示す。
図4は、製造条件等を変えて製造した、実施例2の機能性不織布の構造を示す顕微鏡写真である。上記した実施例と比べ、長繊維が全体に太くなるように、製造条件を調整した。合成樹脂が熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である点や、機能性粒子が亜リン酸水素アルミニウム(平均粒子径5マイクロメートル)である点、およびエレクトロスピニング法により製造する点は、上記した実施例と同じである。
【0051】
実施例2の機能性不織布では、大径部2,2の直径がおよそ2~15マイクロメートル(平均径8マイクロメートル)で、小径部3,3の直径がおよそ0.5~1.8マイクロメートル(平均径1.0マイクロメートル)であった。また、実施例2の不織布では、大径部から3つ以上の小径部が分岐するように伸びている部分も見られる。
【0052】
図5は、製造条件等を変えて製造した、実施例3の機能性不織布の構造を示す顕微鏡写真である。上記した実施例と比べ、機能性粒子の配合量を少なくしたうえで、製造条件を調整した。合成樹脂が熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である点や、機能性粒子が「NSF」(平均粒子径5マイクロメートル)である点、およびエレクトロスピニング法により製造する点は、上記した実施例と同じである。
【0053】
実施例3の機能性不織布では、大径部2,2の直径がおよそ3~8マイクロメートル(平均径5マイクロメートル)で、小径部3,3の直径がおよそ0.3~1.0マイクロメートル(平均径0.6マイクロメートル)であった。また、実施例3の不織布でも、大径部から3つ以上の小径部が分岐するように伸びている部分が見られる。
【0054】
実施例、実施例2,実施例3の機能性不織布は、いずれも適度な通気性を有するとともに、熱風にさらされた際に、機能性粒子が膨張した。
【0055】
上記実施形態の説明においては、機能性粒子が、熱膨張性を有する粒子である場合について説明したが、機能性粒子が有する機能は熱膨張性に限定されない。例えば、機能性粒子は、保水性、吸水性を有する粒子であってもよい。この場合は、不織布の吸水性を高めたり、吸収した水分を気化させることにより冷却効果を生じさせたりすることもできる。
【0056】
また、機能性粒子は、アルデヒド吸着剤等を含む粒子や活性炭粒子など、消臭、脱臭機能を有する粒子であってもよい。このような機能性粒子を含む機能性不織布は消臭、脱臭用途に使用できる。また、機能性粒子として、香料を含ませた粒子を用いると、機能性不織布に芳香機能を持たせることができる。
【0057】
また、機能性粒子は、発熱性、吸熱性を有する粒子であってもよい。また、機能性粒子は伝熱性や導電性を有する粒子であってもよい。また、機能性粒子は、機能性不織布が使用される環境に存在する化学物質と反応する機能や、反応を促進する触媒機能を有する粒子であってもよい。
また、機能性粒子は、光吸収、低反射、蛍光性、反射性、屈折性などの光学的機能を有する粒子であってもよい。
【0058】
また、上記機能性不織布は、上記実施形態で例示した以外の他の技術分野にも応用できる。例えば、消臭性を有する機能性粒子を一体化させた機能性不織布は、居室内の消臭用途等に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
機能性不織布は、例えば、消臭用途等に使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0060】
1 機能性不織布
2 大径部
3 小径部
4 機能性粒子
図1
図2
図3
図4
図5