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特開2024-93065ガラス、強化用ガラス板及び強化ガラス板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093065
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ガラス、強化用ガラス板及び強化ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/083 20060101AFI20240702BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20240702BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20240702BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240702BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209199
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 智
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059HB14
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB03
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4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】化学的耐久性、イオン交換性能、成形性を高いレベルで兼ね備えたアルカリアルミノケイ酸塩ガラスを創案する。
【解決手段】本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 60~85%、Al 1~20%、B 0~5%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 60~85%、Al 1~20%、B 0~5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%、LiO+NaO+KO 1~20%を含有することを特徴とするガラス。
【請求項2】
Alの含有量が1~10モル%であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
MgOの含有量が0~1モル%、CaOの含有量が0~0.5モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
LiOの含有量が3~8モル%、NaOの含有量が3~8モル%、KOの含有量が0~1モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項5】
SnOの含有量が0.03~3モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項6】
モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項7】
モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項8】
モル比(LiO+NaO+KO)/Alが2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項9】
モル比MoO/(Fe+TiO)が0.5以下であり、厚み1mmにおける可視光の透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項10】
モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1であり、厚み1mmにおける可視光の透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項11】
モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であるであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項12】
イオン交換処理に供されることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項13】
ガラス組成として、モル%で、SiO 66~85%、Al 1~10%、B 0~5%、LiO 3~8%、NaO 3~8%、KO 0~1%、CaO 0~0.5%、SnO 0.03~3%を含有し、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であることを特徴とする強化用ガラス板。
【請求項14】
板厚が0.2mm以下であることを特徴とする請求項12に記載の強化用ガラス板。
【請求項15】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板において、
ガラス組成として、モル%で、SiO 66~85%、Al 1~10%、B 0~5%、LiO 3~8%、NaO 3~8%、KO 0~1%、CaO 0~0.5%、SnO 0.03~3%を含有し、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であることを特徴とする強化ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的耐久性及び成形性に優れたガラス、強化用ガラス板及び強化ガラス板に関する。特にフォルダブルディスプレイ等のフレキシブルカバー部材に好適な強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、優れた特性から様々な用途で使用されている。
【0003】
例えば、強化ガラス板として、イオン交換処理されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラスが用いられている(特許文献1~3、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-83045号公報
【特許文献2】国際公開第2015/031188号
【特許文献3】国際公開第2013/063275号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】泉谷徹郎等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451-498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、折り曲げ可能なフォルダブルディスプレイやローラブルディスプレイ等の製品が市場に登場している。このような製品には、樹脂と強化ガラス板を積層してなるフレキシブルカバー部材が使用される。
【0007】
フレキシブルカバー部材は、折り曲げた状態で使用されるが、曲げる際に、ガラス表面に存在する微細な欠陥によって大きな応力が発生し、割れてしまうことがある。物理的な欠陥は、イオン交換処理を施すことで影響を小さくすることができるが、化学的に浸食され易いガラスでは、製造工程や使用中に新たな欠陥が生じ易く、この欠陥により割れを防止することが困難になる。
【0008】
また、近年、化石燃料の高騰やCO排出量の削減が問題となっている。ガラス製造では、高温でガラス原料を溶融、成形する必要があるため、特に燃料の高騰の影響を受け易い。また、溶融温度、成形温度は、COの排出量を低減するために、可能な限り低温であることが好ましい。
【0009】
ガラスの成形性を改善するための手段として、従来からガラス組成にBやアルカリ金属酸化物を添加することが行われている。しかし、Bを添加し過ぎると、イオン交換性能が低下する虞がある。また、アルカリ金属酸化物を添加し過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる。そのため、化学的耐久性、イオン交換性能、成形性を高いレベルで両立させることは困難である。なお、本明細書では、耐加水分解性、耐酸性、耐アルカリ性を総称して化学的耐久性と称することとする。
【0010】
本発明の技術的課題は、上記事情に鑑み、化学的耐久性、イオン交換性能、成形性を高いレベルで兼ね備えたアルカリアルミノケイ酸塩ガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、各ガラス成分の含有量を厳密に規制することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、(1)本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 60~85%、Al 1~20%、B 0~5%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%を含有することを特徴とする。これにより、化学的耐久性、イオン交換性能、成形性を高いレベルで兼ね備えることが可能になる。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合計含有量を指している。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量を指している。
【0012】
(2)本発明のガラスは、上記(1)に記載のガラスにおいて、Alの含有量が1~10モル%であることが好ましい。これにより、成形性を高めることができる。
【0013】
(3)本発明のガラスは、上記(1)又は(2)に記載のガラスにおいて、MgOの含有量が0~1モル%、CaOの含有量が0~0.5モル%であることが好ましい。これにより、化学的耐久性とイオン交換性能を効果的に高めることができる。
【0014】
(4)本発明のガラスは、上記(1)~(3)の何れかに記載のガラスにおいて、LiOの含有量が3~8モル%、NaOの含有量が3~8モル%、KOの含有量が0~1モル%であることが好ましい。これにより、化学的耐久性とイオン交換性能を効果的に高めることができる。
【0015】
(5)本発明のガラスは、上記(1)~(4)の何れかに記載のガラスにおいて、SnOの含有量が0.03~3モル%であることが好ましい。これにより、ガラスの着色を抑えつつ、清澄性を高めることができる。
【0016】
(6)本発明のガラスは、上記(1)~(5)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30であることが好ましい。これにより、イオン交換性能を効果的に高めることができる。ここで、「(LiO+NaO+KO)/(1-KO)」はLiO、NaO及びKOの合計含有量を、1からKOの含有量を減じた値(例えば、KOの含有量が0.5モル%である場合、1からKOの含有量を減じた値は0.5モル%になる)で除したものを指す。
【0017】
(7)本発明のガラスは、上記(1)~(6)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3であることが好ましい。これにより、イオン交換性能を効果的に高めることができる。ここで、「(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)」は、KO及びCaOの合計含有量をLiO、NaO及びKOの合計含有量で除した値を指す。
【0018】
(8)本発明のガラスは、上記(1)~(7)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比(LiO+NaO+KO)/Alが2以上であることが好ましい。これにより、成形性を高めることができる。ここで、「(LiO+NaO+KO)/Al」は、LiO、NaO及びKOの合計含有量をAlの含有量で除した値を指す。
【0019】
(9)本発明のガラスは、上記(1)~(8)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比MoO/(Fe+TiO)が0.5以下であり、厚み1mmにおける可視光の透過率が80%以上であることが好ましい。これにより、MoOによる着色を抑制しつつ、可視光の透過率を高めることができる。ここで、「MoO/(Fe+TiO)」は、MoOの含有量をFe及びTiOの合計含有量で除した値を示す。
【0020】
(10)本発明のガラスは、上記(1)~(9)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1であり、厚み1mmにおける可視光の透過率が85%以上であることが好ましい。これにより、可視光の透過率を高めることができる。ここで、「(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)」は、SnOの含有量の10倍を、Feの含有量の10倍、TiO、SnOの含有量の10倍及びMoOの含有量の100倍の合計量で除した値を指す。
【0021】
(11)本発明のガラスは、上記(1)~(10)の何れかに記載のガラスにおいて、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であるが好ましい。
【0022】
(12)本発明のガラスは、上記(1)~(11)の何れかに記載のガラスにおいて、イオン交換処理に供されることが好ましい。
【0023】
(13)本発明の強化用ガラス板は、ガラス組成として、モル%で、SiO 66~85%、Al 1~10%、B 0~5%、LiO 3~8%、NaO 3~8%、KO 0~1%、CaO 0~0.5%、SnO 0.03~3%を含有し、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であることを特徴とする。ここで、「((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)」は、LiO、NaO及びKOの合計含有量を1からKOの含有量を減じた値で除した値と、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量を1からCaOの含有量を減じた値で除した値との合計値から、Alの含有量を引いた値に対して、SiO、Al及びBの合計含有量で除した値を指す。
【0024】
(14)本発明の強化用ガラス板は、上記(13)に記載の強化用ガラスにおいて、板厚が0.2mm以下であることが好ましい。
【0025】
(15)本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板において、ガラス組成として、モル%で、SiO 66~85%、Al 1~10%、B 0~5%、LiO 3~8%、NaO 3~8%、KO 0~1%、CaO 0~0.5%、SnO 0.03~3%を含有し、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)が5~30、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が0~0.3、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)が0.5~1、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が0.05~0.15であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 60~85%、Al 1~20%、B 0~5%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%を含有する。各成分の含有範囲を限定した理由を述べる。なお、各成分の含有量の説明では、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0027】
SiOは、ガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つである。SiOの含有量が少ない程、成形性が向上するが、その含有量が少な過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる上に、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が増大して、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多い程、化学的耐久性が良化するが、その含有量が多過ぎると、ガラスの粘度が高くなり、成形性が低下し易くなる上に、液相温度が上昇し、ガラスが失透し易くなる。よって、SiOの含有量は、好ましくは60%以上、65%以上、66%以上、70%以上、72%以上、73%以上、74%以上、特に75%以上であり、好ましくは85%以下、84%以下、83%以下、82.5%以下、82%以下、81.5%以下、特に81%以下である。
【0028】
Alは、ガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つである。また化学的耐久性を高める効果があり、特に耐加水分解性を高める効果が高い。Alの含有量が少な過ぎると、耐加水分解性が低下し易くなる。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスの粘度が上昇し易くなる上に、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状成形し難くなる。特に、成形体耐火物としてアルミナ耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法で板状成形する場合、アルミナ耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出し易くなる。よって、Alの含有量は、好ましくは1%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、4.6%以上、4.7%以上、4.8%以上、4.9%以上、特に5%以上であり、好ましくは20%以下、15%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、9.5%以下、9%以下、8.5%以下、8%以下、7.5%以下、特に7%以下である。
【0029】
は、ガラスの粘度を下げて、溶融性や成形性を高めると共に、密度、ヤング率を低下させる効果がある。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換速度(特に応力深さ)が低下し易くなる。またイオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生し易くなる。また、耐酸性、耐アルカリ性が低下し易くなる。よって、Bの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0~3%、0~2%、0~1%、0~0.8%、特に0~0.5%である。
【0030】
アルカリ金属酸化物(RO)であるLiO、NaO及びKOは、ガラスのネットワーク構造を切断する成分の一つであり、ガラスの粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果がある。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは1%以上、2%以上、3以上、4%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上、特に8%以上である。なお、成形性を特に重視する場合は、LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、10.5%以上、特に11%以上である。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下したり、熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下したりする。よって、LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは20%以下、19%以下、18.5%以下、18%以下、17.5%以下、17%以下、16.5%以下、16%以下、15.5%以下、特に15%以下である。
【0031】
LiOは、既述の通り、ガラスの粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果がある。アルカリ金属酸化物の中でも、LiOは、ガラスの粘度を低下させる効果が最も高く、次いでNaO、KOの順に効果が高い。また、NaイオンやKイオンとのイオン交換によってガラス表面に圧縮応力層を形成することが可能な成分であり、特に深い応力深さを得るために有効な成分である。しかし、LiOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる上、イオン交換処理時に溶出して、イオン交換溶液を劣化させる成分である。好適なLiOの含有量は、重視するガラスの特性によって異なる。イオン交換によって、ガラス表面に大きな圧縮応力を形成することを重視する場合、LiOの含有量は、好ましくは0~10%、0~9%、0~8%、0~7%、0~6%、0~5%、0~4%、特に0~3%である。成形性、化学的耐久性を重視する場合、LiOの含有量は、好ましくは0.1~15%、1~14.9%、2~14.8%、3~14.7%、4~14.6%、5~14.5%、6~14.4%、6.5~14.3%、7~14.2%、7.5~14.1%、特に8~14%である。圧縮応力の大きさ、成形性、化学的耐久性のバランスを重視する場合、LiOの含有量は、好ましくは1~14%、1.5~13%、2~12%、2.5~11%、2.6~10%、2.7~9.5%、2.8~9%、2.9~8.5%、特に3~8%である。なお、LiOの含有量が10%以下になると、失透が生じ難くなる。
【0032】
NaOは、LiOと同様にガラスの粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果がある。また、耐失透性、成形体耐火物、特にアルミナ耐火物との反応失透性を改善する成分でもある。更に、NaOを導入すると、Kイオンとのイオン交換によってガラス表面に圧縮応力層を形成することが可能である。NaOの含有量が少な過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。一方、NaOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる。好適なNaOの含有量は、重視するガラスの特性によって異なる。イオン交換によって、ガラス表面に大きな圧縮応力を形成することを重視する場合、NaOの含有量は、好ましくは0.1~15%、1~14.9%、2~14.8%、3~14.7%、4~14.6%、5~14.5%、6~14.4%、6.5~14.3%、7~14.2%、7.5~14.1%、特に8~14%である。成形性、化学的耐久性を重視する場合、NaOの含有量は、好ましくは0~10%、0~9%、0~8%、0~7%、0~6%、0~5%、0~4%、特に0~3%である。圧縮応力の大きさ、成形性、化学的耐久性のバランスを重視する場合、NaOの含有量は、好ましくは1~14%、1.5~13%、2~12%、2.5~11%、2.6~10%、2.7~9.5%、2.8~9%、2.9~8.5%、特に3~8%である。
【0033】
Oは、LiO、NaOの効果ほどではないが、ガラスの粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果がある。KOの含有量が少な過ぎると、耐失透性が低下することがある。一方、KOの含有量が多過ぎると、耐加水分解性が低下し易くなる。またNaイオン又はKイオンとのイオン交換では、圧縮応力が形成され難くなる。よって、KOの含有量は、好ましくは0~15%、0~5%、0~4%、0~3.5%、0~3%、0~2.5%、0~2%、0~1.5%、0~1.3%、0~1%、特に0~1%未満である。
【0034】
アルカリ金属酸化物(RO)において、ガラスの粘度を低下させる効果は、LiOが最も高く、次いでNaO、KOの順に効果が高い。よって、ガラスの粘度を低下させる観点では、アルカリ金属酸化物の含有量の関係は、好ましくはLiO≧NaO≧KO、LiO≧NaO>KO又はLiO>NaO≧KOであり、特にLiO>NaO>KOである。また、アルカリ金属酸化物の中でKOの割合が高過ぎると、化学的耐久性と成形性を両立することが困難になる上、Naイオン又はKイオンとのイオン交換では圧縮応力が形成され難くなる。そのため、特にNaO>KOが好ましい。
【0035】
既述の通り、アルカリ金属酸化物は、ガラスの粘度を低下させると同時に、化学的耐久性を低下させる成分であるが、イオン交換によってガラス板に圧縮応力を形成するためには必須の成分である。ガラス板に圧縮応力を形成するためには、より大きなイオンがガラス内部に導入される必要がある。一般的には、イオン交換によってガラスに導入されるイオンとしてNaイオンやKイオンが用いられることが多いため、ガラスに含まれるKOの含有量が多いと、交換されるイオンの大きさの差が小さくなるため圧縮応力が形成され難くなる。このことから、イオン交換性能、特に圧縮応力を形成することを重視する観点では、KOの含有量がアルカリ金属酸化物の合計含有量に占める割合が小さいことが好ましい。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/(5-KO)は、好ましくは-10~150、0.2~150、0.2~100、0.2~70、0.2~50、0.2~40、0.2~35、0.2~32、0.2~30、0.2~27、特に0.2~25である。ここで、「(LiO+NaO+KO)/(5-KO)」は、はLiO、NaO及びKOの合計含有量を、5からKOの含有量を減じた値で除したものを指す。
【0036】
化学的耐久性、成形性及びイオン交換性能の両立を重視する場合、KOの含有量を厳密に規制することが好ましい。その場合、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)は、好ましくは-15~150、1~150、1.5~100、2~70、2.5~50、3~30、3.5~27、4~25、4.5~23、特に5~20である。
【0037】
アルカリ金属酸化物は、既述の通り、ガラスの粘度を低下させると同時に、化学的耐久性を低下させる成分であるが、これはアルカリ金属酸化物がガラスのネットワーク構造を切断するためである。しかし、Alは、ガラス中でアルカリ金属酸化物を伴ってガラスのネットワーク構造を形成する。よって、ガラス組成中にAlを導入すると、一部のアルカリ金属酸化物の役割を、ネットワーク構造の切断からネットワーク構造の形成に変えることができる。このことから、化学的耐久性を重視する観点では、化学量論比ですべてのAlがアルカリ金属酸化物を伴って結合を形成している状態が好ましく、その状態は、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの値が1以上の時である。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの値が1に近い程、ネットワーク構造が増加するため、化学的耐久性が良化する。一方、その状態では、ネットワーク構造の切断が少なくなるため、成形性が低下してしまう。よって、化学的耐久性と成形性を両立させる観点から、モル比(LiO+NaO+KO)/Alは、好ましくは1以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2以上、特に2超である。一方、モル比(LiO+NaO+KO)/Alが大き過ぎると、成形性が向上するが、化学的耐久性が低下し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/Alは、好ましくは5以下、4以下、3.5以下、3.4以下、3.3以下、3.2以下、3.1以下、特に3以下である。
【0038】
アルカリ土類金属酸化物(R’O)であるMgO、CaO、SrO及びBaOは、アルカリ金属酸化物と同様にガラスのネットワーク構造を切断する成分の一つであり、ガラスの粘度を低下させる効果もある。また化学的耐久性にも影響を与える成分である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなるだけでなく耐失透性も低下し易くなる。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0~3.7%、0~3%、0~2%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、特に0~0.1%である。
【0039】
MgOは、既述の通り、アルカリ金属酸化物と同様にガラスのネットワーク構造を切断し、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分の一つである。また化学的耐久性にも影響を与える成分である。MgOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる上、イオン交換性能が低下したり、またガラスが失透したりする傾向がある。特に、成形体耐火物としてアルミナ耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法で板状成形する場合、アルミナ耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出し易くなる。よって、MgOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.05%、0~0.03%、0~0.03%未満、0~0.01%、0~0.01%未満、特に0~0.001%未満である。
【0040】
CaOは、既述の通り、アルカリ金属酸化物と同様にガラスのネットワーク構造を切断し、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分の一つである。また化学的耐久性にも影響を与える成分である。CaOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下する虞がある。更にCaOはイオン交換性能の低下やイオン交換溶液の劣化が生じ易くなる成分でもある。よって、CaOの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0~3%、0~2%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%であり、0~0.05%、0~0.03%、0~0.03%未満、0~0.01%、0~0.01%未満、特に0~0.001%未満である。
【0041】
Naイオン又はKイオンとのイオン交換性能を重視する観点では、ガラス板に付与される圧縮応力が小さくなり易いKOの含有量やイオン交換性能を低下させるCaOの含有量を厳密に規制することが好ましく、特にイオン交換に寄与するアルカリ金属酸化物の合計量に占める割合との関係で厳密に規制することが好ましい。よって、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)は、好ましくは0~0.3、0~0.25、0~0.2、0~0.17、0~0.15、0~0.14、0~0.13、0~0.12、0~0.11、特に0~0.1である。
【0042】
SrOの含有量は、好ましくは0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0~0.01%未満、特に0~0.001%である。SrOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる。
【0043】
BaOの含有量は、好ましくは0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0~0.01%未満、特に0~0.001%である。BaOの含有量が多過ぎると、化学的耐久性が低下し易くなる。
【0044】
CaOは、既述の通り、イオン交換性能を低下させる成分である。イオン交換による圧縮応力層の形成を重視する場合は、アルカリ土類金属酸化物の合計量に占めるCaOの割合を厳密に規制することが好ましい。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO/(1-CaO)は、好ましくは0~10、0~5、0~4、0~3.7、0~3、0~2、0~1、0~0.9、0~0.8、0~0.7、0~0.6、0~0.5、0~0.4、0~0.3、0~0.2、特に0~0.1である。
【0045】
モル比(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO-Al)/(SiO+Al+B)は、ガラス中のネットワーク構造を切断する成分と、ガラス中にネットワーク構造を形成する成分との比を意味している。アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物は、既述の通り、ガラス中のネットワーク構造を切断する効果を有するが、Alはアルカリ金属酸化物を伴ってガラス中のネットワーク構造を形成するため、Alの含有量と同量のアルカリ金属酸化物はネットワークを切断する効果がない。またSiO、Al及びBはガラス中のネットワーク構造を形成する成分である。つまりモル比(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO-Al)/(SiO+Al+B)が小さい程、ネットワーク構造を形成する成分に対してネットワーク構造を切断する成分が少なくなるため、化学的耐久性、特に耐加水分解性が良化するが、小さ過ぎると、成形性が低下し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO-Al)/(SiO+Al+B)は、好ましくは0~0.2、0.01~0.19、0.02~0.018、0.03~0.17、0.04~0.16、0.041~0.159、0.042~0.158、0.043~0.157、0.044~0.156、0.045~0.155、0.046~0.154、0.047~0.153、0.048~0.152、0.049~0.151、特に0.05~0.15である。なお、「(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO-Al)/(SiO+Al+B)」は、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量からAlの含有量を減じた値を、SiO、Al及びBの合計含有量で除した値を指す。
【0046】
イオン交換性能と化学的耐久性の両立を重視する場合、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)は、イオン交換性能を低下させる成分を厳密に規制した上で、ガラス中のネットワーク構造を切断する成分と、ガラス中にネットワーク構造を形成する成分との比を意味している。アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物は、既述の通り、ガラス中のネットワーク構造を切断する効果を有するが、Alはアルカリ金属酸化物を伴ってガラス中のネットワーク構造を形成するため、Alの含有量と同量のアルカリ金属酸化物はネットワークを切断する効果がない。またSiO、Al及びBはガラス中のネットワーク構造を形成する成分である。つまりモル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)が小さい程、ネットワーク構造を形成する成分に対してネットワーク構造を切断する成分が少なくなるため、化学的耐久性、特に耐加水分解性が良化するが、小さ過ぎると、成形性が低下し易くなる。よって、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)は、好ましくは0~0.2、0.01~0.19、0.02~0.018、0.03~0.17、0.04~0.16、0.041~0.159、0.042~0.158、0.043~0.157、0.044~0.156、0.045~0.155、0.046~0.154、0.047~0.153、0.048~0.152、0.049~0.151、特に0.05~0.15である。
【0047】
上記成分以外にも他の成分を導入してもよい。
【0048】
Feは、ガラス原料や製造設備から不純物として混入する成分である。Feの含有量が多過ぎると、ガラスが着色して、可視光の透過率が低下する。よって、Feの含有量は、好ましくは0~0.5%、0~0.3%、0~0.1%、0~0.05%、0~0.04%、0~0.03%、0~0.02%、特に0~0.01%である。
【0049】
TiOは、Feと同様にガラス原料や製造設備から不純物として混入する成分である。TiOの含有量が多過ぎると、ガラスが黒く着色して、可視光の透過率が低下する。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~0.5%、0~0.3%、0~0.1%、0~0.05%、0~0.04%、特に0~0.03%である。
【0050】
ガラスの電気溶融では、Moが電極材料として使用されることがある。ガラスの電気溶融は、バーナー燃焼を用いた溶融よりもエネルギー原単位を低く抑えられるため、化石燃料の高騰やCOの排出量の削減という課題に対して有効な溶融方式である。一方、溶融時に、電極表面からMoOとしてガラスに混入し得る。ガラスに混入するMoOが多過ぎると、ガラスが黒く着色して、可視光の透過率が低下する。MoOは、製造設備からガラスに混入する可能性のある成分の中では最もガラスを着色し易いため、特に厳しく含有量を規制する必要がある。よって、MoOの含有量は、好ましくは0~0.1%、0.00001~0.03%、0.00002~0.01%、特に0.00003~0.0005%である。
【0051】
ガラスの透明性を重視する場合、MoOの混入量を厳密に管理する必要がある。透明性への影響の大きさは、MoO>Fe>TiOであり、MoOの混入量は、Fe及びTiOよりも少ないことが好ましい。よって、モル比MoO/(Fe+TiO)は、好ましくは1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、特に0.2以下である。
【0052】
ZrOは、耐アルカリ性を高める成分である。しかし、ZrOの含有量が多過ぎると、ガラスの粘度が上昇し、また耐失透性が低下し易くなる。よって、ZrOの含有量は、好ましくは0~3%、0~2.5%、0~2%、0~1.5%、0.1~0.8%、特に0.2~0.6%である。
【0053】
SnOは、溶融ガラスの清澄剤として作用する成分である。また、ガラスの電気溶融においてSnが電極として使用されるため、電極表面から不純物として混入し得る成分である。SnOの含有量が少な過ぎると、泡切れに必要な時間が長くなる上、泡の欠陥を含むガラスが多くなる虞がある。一方、SnOの含有量が多過ぎると、ガラスが褐色に着色して、可視光の透過率が低下する。よって、SnOの含有量は、好ましくは0~3%、0.001~2%、0.01~1%、0.02~0.8%、0.03~0.7%、0.04~0.6%、0.05~0.5%、0.06~0.45%、0.07~0.4%、0.08~0.35%、0.09~0.33%、特に0.1~0.3%である。
【0054】
ガラスの電気溶融では、ガラスを着色する成分としてFe、TiO、SnO及びMoOが混入し得る。SnOを清澄剤として加える場合、SnO以外の着色に影響する不純物はできるだけ含まないことが好ましい。これらの成分の透過率への影響は、MoO>Fe≒SnO>TiOである。よって、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)は、透過率を重視する観点から、好ましくは0.4~1、0.5~1、0.55~1、0.6~1、0.65~1、0.7~1、0.75~1、特に0.8~1である。
【0055】
SnO以外にも清澄剤として、F、Cl、Sb、SO等を1種類以上導入してもよい。これらの清澄剤の合計含有量及び個別含有量は、好ましくは5%以下、3%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.3%以下、0.1%以下、特に0~0.05%である。
【0056】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、耐加水分解性が低下したり、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、応力深さが小さくなったりする傾向がある。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~4%、0~1%、特に0~0.01%である。
【0057】
は、圧縮応力値を維持した上で、イオン交換性能を高める成分である。また、ヤング率を小さくする成分でもある。更に高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスに分相による白濁や耐酸性の低下が発生し易くなる。よって、Pの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0~3.5%、特に0~3%である。
【0058】
化学的耐久性、高温粘度等の改良のために、Cr、PbO、La、WO、Nb、Y等をそれぞれ3%以下、2%以下、1%以下、1%未満、特に0.5%以下の範囲で導入してもよい。
【0059】
不純物として、H、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の成分をそれぞれ0.1%まで導入してもよい。またPt、Rh、Au等の貴金属元素の混入量はそれぞれ0.05%以下、更には0.03%以下であることが好ましい。
【0060】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0061】
ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスは、少なくともHGA2であることが好ましく、特にHGA1であることが好ましい。ここで、「ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)」とは以下の試験を指す。
(1)ガラス試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、篩で300~425μmに分級する。
(2)得られた粉末試料をアセトンで洗浄し、140℃のオーブンで乾燥する。
(3)乾燥後の粉末試料10gを石英フラスコに入れ、更に50mLの精製水を加えて蓋をして、オートクレーブ内で処理する。処理は、100℃から121℃まで1℃/分で昇温した後、121℃で30分間保持し、100℃まで0.5℃/分で降温する、という処理条件によって行う。
(4)オートクレーブ処理後、石英フラスコ内の溶液を別のビーカーに移し、更に石英フラスコ内を15mLの精製水で3回洗浄し、その洗浄液もビーカーに加える。
(5)ビーカーにメチルレッド指示薬を加え、0.02mol/L塩酸水溶液で滴定する。
(6)0.02mol/L塩酸水溶液1mLをNaO 620μgに相当するとしてガラス1gあたりのアルカリ溶出量に換算する。
【0062】
なお、「ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスが、少なくともHGA2である」とは、上記試験により求めたNaO換算したガラス1g当たりのアルカリ溶出量が527μg/g以下であることを意味する。
【0063】
ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)によるNaO換算のアルカリ溶出量は、好ましくは527μg/g未満、200μg/g以下、100μg/g以下、90μg/g以下、80μg/g以下、70μg/g以下、62μg/g未満、60μg/g以下、57μg/g以下、55μg/g以下、53μg/g以下、特に50μg/g以下である。アルカリ溶出量が多過ぎると、ガラスをフレキシブルカバー部材に加工する際に、ガラスからアルカリ成分が溶出することで表面に微細な欠陥を生じ、折り曲げたり、物が衝突したりした際にガラスが割れ易くなる。
【0064】
ISO695に準じた試験による耐アルカリ性は、少なくともクラス2であることが好ましい。ここで、「ISO695に準じた耐アルカリ性試験」とは、以下の試験を指す。
(1)表面を全て鏡面仕上げとした表面積Acm(但し、Aは10~15cmとする)の試料を準備する。始めに前処理として、フッ酸(40質量%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液を調製する。これに試料を浸し、10分間マグネチックスターラーで攪拌する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。
(2)その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(3)試料の質量m1を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(4)水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L)と炭酸ナトリウム水溶液(0.5mol/L)を体積比で1:1になるように混合した溶液800mLを調製する。この溶液をステンレス製の容器に入れてマントルヒーターにて沸騰させる。次に、白金線で吊るした試料を投入して3時間保持した後、試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(5)試料の質量m2を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(6)沸騰アルカリ溶液に投入する前後の質量m1、m2(mg)と試料の表面積A(cm)から、以下の算出式によって単位面積あたりの質量減少量を算出し、耐アルカリ性試験の測定値とする。
(単位面積あたりの質量減少量)=100×(m1-m2)/A
【0065】
なお、「ISO695に準じた試験による耐アルカリ性がクラス2」とは、上記により求めた単位面積あたりの質量減少量が175mg/dm以下であることを意味する。なお、上記により求めた単位面積あたりの質量減少量が75mg/dm以下であれば、「ISO695に準じた試験による耐アルカリ性がクラス1」となる。本発明のガラスは、単位面積あたりの質量減少量が、好ましくは130mg/dm以下、特に75mg/dm以下である。この質量減少量が多くなると、ガラスをフレキシブルカバー部材に加工する際に、ガラスからアルカリ成分が溶出することで表面に微細な欠陥を生じ、折り曲げたり、物が衝突したりした際にガラスが割れ易くなる。
【0066】
YBB00342004に準じた耐酸性試験において、単位面積あたりの質量減少量は、好ましくは1.5mg/dm以下、特に0.7mg/dm以下である。この質量減少量が多くなると、ガラスをフレキシブルカバー部材に加工する際に、ガラスからアルカリ成分が溶出することで表面に微細な欠陥を生じ、折り曲げたり、物が衝突したりした際にガラスが割れ易くなる。
【0067】
「YBB00342004に準じた耐酸性試験」とは、以下の試験を指す。
(1)表面を全て鏡面仕上げとした表面積Acm(但し、Aは100±5cmとする)の試料を準備する。始めに前処理として、試料をフッ酸(40質量%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液を調製する。この溶液に試料を浸し、10分間マグネチックスターラーで攪拌する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。
(2)その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(3)試料の質量m1を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(4)塩酸溶液(6mol/L)を800mL用意する。この塩酸溶液をシリカガラス製の容器に入れて、電熱器にて沸騰させる。白金線で吊るした試料を投入して6時間保持する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(5)試料の質量m2を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(6)沸騰酸溶液に投入する前後の質量m1、m2(mg)と試料の表面積A(cm)から、以下の算出式によって単位面積あたりの質量減少量の半分を算出し、耐酸性試験の測定値とする。
(単位面積あたりの質量減少量)=1/2×100×(m1-m2)/A
【0068】
厚み1mmにおける可視光(波長380~760nm)の透過率は、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、特に90%以上である。厚み1mmにおける可視光の透過率が高くなると、ディスプレイのカバーガラスとして用いる際に、ディスプレイの表示の視認性が向上し易くなる。
【0069】
作業点(104.0dPa・sにおける温度)は、好ましくは1350℃以下、1300℃以下、1260℃以下、特に1250℃以下である。作業点が高くなると、溶融ガラスの成形温度が高くなるため成形設備の寿命が短くなり易い。
【0070】
102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1700℃以下、1650℃以下、1640℃以下、1630℃以下、1620℃以下、1610℃以下、特に1600℃以下である。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。よって、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラス板及び強化用ガラス板の製造コストを低廉化し易くなる。一方、102.5dPa・sにおける温度が高くなると、異質生地の混入や電極から混入したMoO又はSnOによってガラスが着色する虞がある。
【0071】
液相粘度は、Logρで好ましくは4.0dPa・s以上、4.3dPa・s以上、4.5dPa・s以上、4.8dPa・s以上、5.1dPa・s以上、5.3dPa・s以上、特に5.5dPa・s以上である。液相粘度が低過ぎると、耐失透性が低下して、オーバーフローダウンドロー法等で板状ガラスを成形し難くなる。
【0072】
本発明のガラスは、板状(フィルム状を含む)であることが好ましい。これにより、カバー部材、特にフレキシブルカバー部材に適用し易くなる。その場合、板厚は、好ましくは0.2mm以下、つまり200μm以下、150μm以下、100μm以下、100μm未満、80μm以下、60μm以下、1~50μm、5~40μm、特に10~30μmである。板厚が小さい程、可撓性が向上して、フォルダブルカバー部材に適用し易くなる。また、板厚が小さい程、ガラス板を曲げた際の許容曲率半径が小さくなり、ロール状に巻き取り易くなる。
【0073】
ガラス板の寸法は、好ましくは□50mm以上、□60mm以上、□70mm以上、□80mm以上、□90mm以上、□100mm以上、□120mm以上、□150mm以上、特に□200~2000mmである。寸法が大きくなると、大型のフレキシブルディスプレイに適用し易くなる。
【0074】
本発明の強化ガラス板は、強化用ガラス板をイオン交換処理したものであり、表面に圧縮応力層を有している。最表面の圧縮応力値は、好ましくは100MPa以上、200MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に700MPa以上である。最表面の圧縮応力値が大きい程、フォルダブルディスプレイを曲げた際に、強化ガラス板の曲げ部に発生する引っ張り応力に起因する破損を防止し易くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、強化ガラス板に内在する引っ張り応力が極端に高くなり、イオン交換処理前後の寸法変化が大きくなる虞がある。よって、最表面の圧縮応力値は1300MPa以下、1100MPa以下、900MPa以下、特に800MPa以下が好ましい。
【0075】
圧縮応力深さは、好ましくは1μm以上、3μm以上、5μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、特に10μm以上であり、また板厚の5~30%、6~25%、7~20%、8~17%、10~15%、11~14%、特に12~13%である。応力深さが大きい程、強化ガラス板に深い傷が付いても、強化ガラス板が割れ難くなると共に、機械的強度のバラツキが小さくなる。一方、応力深さが大きい程、イオン交換処理前後で寸法変化が大きくなり易い。よって、応力深さは、好ましくは20μm以下、15μm以下、特に10μm以下である。
【0076】
強化ガラス板の内部の引っ張り応力値は、好ましくは400MPa以下、350MPa以下、300MPa以下、250MPa以下、220MPa以下、200MPa以下、180MPa以下、特に170PMa以下である。内部の引っ張り応力値が高過ぎると、物理的衝突等により、強化ガラス板が自己破壊し易くなる。一方、内部の引っ張り応力値が低過ぎると、強化ガラス板の機械的強度を確保し難くなる。内部の引っ張り応力値は、好ましくは60MPa以上、80MPa以上、100MPa以上、125MPa以上、140MPa以上、特に150MPa以上である。なお、内部の引っ張り応力値は下記の式2で計算可能である。
【0077】
内部の引っ張り応力値=(最表面の圧縮応力値×応力深さ)/(板厚-2×応力深さ) ・・・式2
【0078】
本発明の強化ガラス板において、ペンドロップ強度は、好ましくは5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上、10mm以上、11mm以上、12mm以上、13mm以上、14mm以上、15mm以上、特に16mm以上である。ペンドロップ強度が高い程、外力によって強化ガラス板が破損し難くなり、フォルダブルディスプレイの耐久性が向上する。なお、「ペンドロップ強度」は、後述に示す方法で測定することができる。
【0079】
本発明のガラス、強化用ガラス板、強化ガラス板は、以下のようにして作製することができる。まず所望のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500~1700℃で加熱溶融し、清澄した後、溶融ガラスを成形装置に供給した上で板状に成形し、冷却する。板状に成形した後に、所定寸法に切断加工する方法は、周知の方法を採用することができるが、端面が平滑になるため、レーザー溶断により切断加工することが好ましい。
【0080】
溶融ガラスの成形時に、溶融ガラスの徐冷点から歪点の間の温度域を2℃/分以上、且つ2500℃/分未満の冷却速度で冷却することが好ましく、その冷却速度は、好ましくは5℃/分以上、10℃/分以上、40℃/分以上、60℃/分以上、特に100℃/分以上であり、好ましくは2500℃/分未満、2000℃/分未満、1800℃/分未満、1500℃/分未満、1300℃/分未満、1000℃/分未満、800℃/分未満、特に500℃/分未満である。冷却速度が遅過ぎると、板厚を小さくすることが困難になる。一方、冷却速度が速過ぎると、ガラス構造が粗になり、強化用ガラス板の硬度が低下し易くなる。
【0081】
溶融ガラスを成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、高品位なガラス板を大量に作製し得ると共に、薄いガラス板も容易に作製し得る方法である。更に、オーバーフローダウンドロー法では、成形体耐火物として、アルミナやジルコニアが使用されるが、本発明のガラスは、特にアルミナとの適合性が良好であるため、成形時に泡やブツ等を発生させ難い。
【0082】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウンドロー法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0083】
本発明の強化ガラス板は、強化用ガラス板をイオン交換処理することにより作製される。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、板厚、内部の引っ張り応力、寸法変化等を考慮して最適な条件を選択すればよい。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、表面の圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【0084】
イオン交換処理の回数は特に限定されず、1回だけ行ってもよく、複数回行ってもよい。イオン交換処理の回数を1回にすれば、強化ガラス板のコストを低廉化することができる。イオン交換処理を複数回行う場合、イオン交換処理の回数は2回が好ましい。このようにすれば、応力深さを増加させつつ、ガラス内部に蓄積する引っ張り応力の総量を低減することができる。
【0085】
本発明の強化用ガラス板、強化ガラス板は、フッ酸等の酸性溶液、水酸化ナトリウム等の塩基性溶液によってエッチング処理されていてもよく、特に端面がエッチング処理されていてもよい。イオン交換処理前にエッチング処理すると、板厚を薄くしたり、傷による強度低下を抑制したりすることができる。イオン交換処理後にエッチング処理すると、イオン交換処理の際に生じた傷や表面粗さ等の影響を低減することができる。
【実施例0086】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0087】
表1~4は、本発明の実施例(試料No.1~48)を示している。表中において、RO/Alは、(LiO+NaO+KO)/Alを意味している。RO/(5-KO)は、モル比(LiO+NaO+KO)/(5-KO)を意味している。RO/(1-KO)は、モル比(LiO+NaO+KO)/(1-KO)を意味している。R’O/(1-CaO)は、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO/(1-CaO)を意味している。(KO+CaO)/ROは、モル比(KO+CaO)/(LiO+NaO+KO)を意味している。10SnO/(10Fe+TiO+10SnO+100MoO)は、モル比(10×SnO)/(10×Fe+TiO+10×SnO+100×MoO)を意味している。(RO+R’O-Al)/(SiO+Al+B)は、モル比(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO-Al)/(SiO+Al+B)を意味している。((RO/(1-KO))+(R’O/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)は、モル比((LiO+NaO+KO/(1-KO))+((MgO+CaO+SrO+BaO)/(1-CaO))-Al)/(SiO+Al+B)を意味している。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中に示すガラス組成となるように550gのバッチを調合し、白金坩堝を用いて1600℃で18時間溶融した。なお、溶融ガラスの均質性を高めるため、溶融過程で2回の攪拌を行った。更に、ガラス中の泡を減らすため、1650℃で2時間溶融した。次に、金属製のローラーを用いてガラスを急冷し、厚みが約5mmの板を作製し、測定に必要な形状に加工して各種評価に供した。その結果を表中に示す。
【0093】
透明性は、板厚が約5mmの板状試料について、目視で透明、着色の2つの水準から判定した。具体的には、試料を通して文字を見た際に、文字が明瞭に見える場合を透明、文字が明瞭に見えない場合を着色とした。
【0094】
透過率は、30×30×1mmの板状に加工し、表面を鏡面に仕上げたものを測定試料とした。分光光度計(日本分光製V―670)を用いて測定し、測定波長域を380~760nm、バンド幅を5nm、レスポンスをMedium、走査速度を200nm、データ取り込み間隔を1nmとした。表中では、波長380~760nmの範囲で最も低かった透過率の値を示した。
【0095】
歪点Psは、ASTM C336に準拠したファイバー延伸法で求めたものである。徐冷点Ta及び軟化点Tsは、ASTM C388に準拠したファイバー延伸法で求めたものである。
【0096】
作業点(ガラスの粘度が104.0dPa・sになる温度)及びガラスの粘度が102.5dPa・sになる温度は、白金球引き上げ法で求めたものである。
【0097】
耐酸性試験はYBB00342004に準じた耐酸性試験で行い、耐アルカリ性試験はISO695に準じた試験で行った。
【0098】
耐加水分解性試験はISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)、ISO695に準じた試験による耐アルカリ性試験で行ったものである。なお、詳細な試験手順は上記の通りである。
【0099】
液相温度は、約120×20×10mmの白金ボートに粉砕したガラスを充填し、線形の温度勾配を有する電気炉に24時間投入した後、顕微鏡観察にて結晶析出箇所を特定し、結晶析出箇所に対応する温度を電気炉の温度勾配グラフから特定したものである。
【0100】
液相粘度logη at TLは、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、作業点とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から液相温度におけるガラスの粘度を算出したものである。
【0101】
線熱膨張係数は、約5mmφ×20mmのロッド状に成形したガラスを測定試料とし、ディラートメーターにより、20~300℃の温度範囲で測定したものである。
【0102】
ヤング率は、周知の共振法で測定した値である。なお、イオン交換処理の前後で、ガラスの表層におけるヤング率が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、共振法によって平均値で測定されるため、実質的に相違しない。
【0103】
更に、得られた板状試料について、両表面に光学研磨を施し、板厚0.7mmとした後、430℃のKNO溶融塩中に4時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(折原製作所社製FSM-6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から最表面の圧縮応力値CSと応力深さDOLを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.50、光学弾性定数を29.5[(nm/cm)/MPa]とした。なお、イオン交換処理前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
【0104】
ペンドロップ強度は、以下の手順で測定した。研磨によって0.5mmの板状試料を得た後、板厚が53μmになるようフッ酸によるエッチングを行い、強化用ガラス板を得た。フッ酸の濃度は特に限定されないが、今回の実験では濃度0.25mol/Lのフッ酸溶液を用いた。次に、得られた強化用ガラス板を約50×50mmの大きさに切断し、380℃のKNO溶融塩中に浸漬させ、イオン交換処理を行った。圧縮応力の深さが約10μmになるように、適宜浸漬時間を調整し、強化ガラス板を得た。次に、エッチングと同じ濃度のフッ酸溶液を用いて強化ガラス板のエッチングを行い、板厚50μmの強化ガラス板を得た。得られた強化ガラス板(50μm厚)の底面に粘着層(5μm厚)を有するポリエチレンシート(245μm厚)を貼り積層体とした。次にその積層体を、ポリエチレンシート側を下にして定盤(花崗岩)の上に置き、ボールペンを積層体のガラス試料面に垂直に落下させて試験を行った。なお、ボールペンとして、ボール径0.7mm、質量1.1gのボールペン(BIC社製、オレンジEG0.7)を使用した。落下前のペン先端の高さを落下高さとし、その初期値を5mmに設定して落下させた。落下によりガラスが破損しなかった場合は5mm高さを上昇させて、再度落下させた。このようにして、ガラスが破損するまで落下高さの上昇及び落下の試行を繰り返し、ガラス試料が破壊した際の落下高さをペンドロップ破壊高さとして求めた。この測定を5回行い、5回の試験結果の平均値をその試料のペンドロップ強度とした。なお、ペンを落下させる場所は毎回変更し、1度ペンが落下した場所へは落下させなかった。
【0105】
表から分かるように、試料No.1~48は、ガラス組成が所定範囲に規制されているため、化学的耐久性、イオン交換性能、成形性を高いレベルで兼ね備えているものと考えられる。