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特開2024-93071制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラム
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  • 特開-制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093071
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G05B23/02 V
G05B23/02 302V
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209208
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊樹
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223EB01
3C223FF26
(57)【要約】
【課題】良好な応答性で制御システムの制御状態を精度よく診断する。
【解決手段】制御システムは、制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える。診断装置は、このような制御システムの制御状態を診断するための装置であって、デジタル制御装置の内部値を少なくとも含む診断データに基づいて制御状態を診断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断装置であって、
前記デジタル制御装置の内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する、制御システム診断装置。
【請求項2】
前記内部値は、前記デジタル制御装置が実行するソフトウェア演算の中間演算値、又は、前記制御対象から前記デジタル制御装置に対する入力データのデジタル変換値を含む、請求項1に記載の制御システム診断装置。
【請求項3】
前記デジタル制御装置による前記制御状態を管理するための上位制御装置を更に備え、
前記内部値は、前記デジタル制御装置が前記上位制御装置に出力する演算結果の中間演算値である、請求項1に記載の制御システム診断装置。
【請求項4】
前記診断データに基づいて前記制御状態を診断するための第1診断部と、
前記制御対象のプロセス値に基づいて前記制御状態を診断するための第2診断部と、
前記制御対象の少なくとも一部の構成要素に設置されたセンサで取得されたセンサ値に基づいて前記制御状態を診断するための第3診断部と、
前記第1診断部、及び、前記第2診断部又は前記第3診断部の少なくとも一方の診断結果に基づいて、前記制御状態を総合的に診断するための総合診断部と、
を備える、請求項1又は2に記載の制御システム診断装置。
【請求項5】
前記内部値、及び、前記制御対象のプロセス値、又は、前記制御対象の構成機器に設置されたセンサで取得されたセンサ値の少なくとも一方に基づいて、前記制御状態を診断する、請求項1又は2に記載の制御システム診断装置。
【請求項6】
前記第1診断部は、前記診断データに対応する教師データと比較することにより、前記制御状態を診断する、請求項1又は2に記載の制御システム診断装置。
【請求項7】
前記教師データは、前記内部値の設定値、前記内部値の変化傾向、又は、前記内部値に含まれるパラメータ間の相関に関するデータを含む、請求項6に記載の制御システム診断装置。
【請求項8】
前記診断対象はプラントである、請求項1又は2に記載の制御システム診断装置。
【請求項9】
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断方法であって、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を備える、制御システム診断方法。
【請求項10】
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断プログラムであって、
コンピュータ装置を用いて、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を実行可能な、制御システム診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル演算処理を利用した制御信号に基づいて動作する、例えばプラント等の制御対象は、様々な技術分野で展開されている。このような制御対象は、様々な構成要素が組み合わせて所定の機能が発揮されるように構築されており、その動作状態を診断するために、AI/IoT技術を利用した自動診断に関する手法やツールの開発が進んでいる。この種の自動診断手法としては、例えば、プラントをシステムとして捉えた、中央制御室の運転員が主たる監視者であるものや、システムを構成する要素個別(例えばポンプや弁等)の状態であり、主に、保修員が監視者であるものがある。ある流体を取り扱うプラントを例に説明すると、前者は、流体の温度や圧力のように、各構成要素が組み合わされることで実現される制御対象のプロセス値に基づいて診断を行う手法であり、後者は、制御対象を構成する各要素について個別診断する手法である。
例えば特許文献1には、デジタル制御装置であるデジタル制御盤の制御特性を検証するための試験装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-228314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のプロセス値やセンサ値に基づく自動診断手法は、DX技術の進展によって様々な制御対象に対して適用が進んでいくと想定される。特に、制御対象の安全性を確保しつつ、CBM(状態基準管理)への移行によるコスト効率化が求められている。また制御対象に対する制御信号は、デジタル制御装置によってデジタル演算処理で求められるが、比較的規模の大きな制御対象では、デジタル制御装置を上位的に制御・監視するための上位制御装置を備えることもあり、上位制御装置を含めた包括的な視点での診断が求められることもある。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、良好な応答性で制御システムの制御状態を精度よく診断可能な制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係る制御システム診断装置は、上記課題を解決するために、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断装置であって、
前記デジタル制御装置の内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る制御システム診断方法は、上記課題を解決するために、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断方法であって、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る制御システム診断プログラムは、上記課題を解決するために、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断プログラムであって、
コンピュータ装置を用いて、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を実行可能である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、良好な応答性で制御システムの制御状態を精度よく診断可能な制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る診断装置を診断対象である制御システムとともに示す全体構成図である。
図2図1の診断装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図3図1の診断装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図4図1の診断装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
図1は一実施形態に係る診断装置50を診断対象である制御システム1とともに示す全体構成図である。制御システム1は、制御対象2を制御するためのシステムであって、デジタル制御装置4と、上位制御装置6と、記録装置8とを備える。
【0013】
制御対象2は、制御システム1からの制御信号に基づいて制御可能な少なくとも1つの構成要素を含んで構成される。制御対象2は、例えばプラントであり、この場合、ポンプや弁のような構成要素が含まれる。
【0014】
デジタル制御装置4は、デジタル演算処理により得られた制御信号を用いて制御対象2を制御するための構成である。図1にはデジタル制御装置4のハードウェア構成が示されており、デジタル制御装置4は、入力部10、演算部12、出力部14、送信部16a及び受信部16bを備える。
【0015】
入力部10は、制御対象2からの入力信号が入力されるインターフェースであり、例えば入力カードとして構成される。本実施形態では、制御対象2を構成する少なくとも一部の構成要素にセンサ類が設置されており、入力部10には、センサ類の検出値に対応する電気的信号(電流信号、又は、電圧信号)が入力信号として入力される。
【0016】
演算部12は、例えば中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラム形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。
【0017】
出力部14は、演算部12によって得られた制御信号を制御対象2に向けて出力するための出力インターフェースであり、例えば出力カードとして構成される。本実施形態では、出力部14からは、演算部12によって得られた制御信号が電気的信号(電流信号、又は、電圧信号)として出力される。
【0018】
送信部16a及び受信部16bは、上位制御装置6との間で各種データを通信(送受信)するための通信インターフェースであり、例えば通信カードとして構成される。本実施形態では、演算部12による演算結果の少なくとも一部が送信部16aを介して上位制御装置6に送信されるとともに、上位制御装置6からの指令(プロセス値を含む)が受信部16bを介して受信されることにより、上位制御装置6によるデジタル制御装置4の管理が行われる。
【0019】
図1では、演算部12においてプログラムが実行されることで実現される演算部12の機能的構成が、機能ブロックとして示されている。本実施形態では、演算部12は、第1入力データ取得部12aと、第2入力データ取得部12bと、演算処理部12cと、記憶部12dとを備える。
【0020】
第1入力データ取得部12aは、制御対象2の各構成要素に設置されたセンサ類から入力部10に入力された入力データ(センサ類で検出されたセンサ値を含む)を取得するための構成である。本実施形態では、第1入力データ取得部12aは、入力部10にアナログデータとして入力された入力データを、デジタル制御装置4で取り扱い可能なデジタルデータに変換するためのアナログ/デジタル変換を実施する機能を兼ねる。
【0021】
第2入力データ取得部12bは、上位制御装置6から受信部16bで受信された入力データ(上位制御装置6からのプロセス値を含む指令)を取得するための構成である。本実施形態では、上位制御装置6からの入力データはデジタルデータであるため、第2入力データ取得部12bは、上位制御装置6からの入力データを直接取得するが、入力データがアナログデータである場合には、前述の第1入力データ取得部12aと同様にアナログ/デジタル変換を実施する機能を兼ねてもよい。
【0022】
演算処理部12cは、第1入力データ取得部12a又は第2入力データ取得部12bの少なくとも一方で取得された入力データを用いて、所定の演算処理を実施するための構成である。演算処理部12cで実施される演算処理の内容は限定されないが、送信部16aから上位制御装置6に送信される演算部12の出力データを求めるための演算が行われる。
尚、演算処理部12cの演算結果は記憶部12dに記憶され、当該記憶部12dから出力部14に送られてもよいし、記憶部12dを介さずに出力部14に直接送られてもよい。
【0023】
記憶部12dは、演算部12で取り扱われる各種データを記憶するための構成である。記憶部12dに対する各種データの記憶は、演算部12における演算処理の実施サイクルごとに行われる。具体的には、記憶部12dには、第1入力データ取得部12aで取得された入力データ(制御対象2の各構成要素のセンサ値を含む)、第2入力データ取得部12bで取得された入力データ(制御対象2のプロセス値を含む)、演算処理部12cの中間演算値や演算結果のような各種デジタルデータが記憶可能である。
【0024】
上位制御装置6は、デジタル制御装置4の制御状態を管理するための構成であり、例えばプラントを制御対象2とする場合、プラントの各構成要素を制御するデジタル制御装置4の制御状態を上位的に管理(又は監視)するための中央制御装置である。上位制御装置6もまた、例えば中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラム形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。具体的には、上位制御装置6は、通信部18、演算部20、及び、表示部22を備える。
【0025】
通信部18は、デジタル制御装置4の送信部16a及び受信部16bとの間で各種データを通信(送受信)するための構成であり、例えば通信カードとして構成される。通信部18は、例えば、通信部18は、デジタル制御装置4の送信部16aから送信されたデジタル制御装置4の演算結果を受信するとともに、上位制御装置6における演算結果をデジタル制御装置4の受信部16bに対して送信する。
尚、デジタル制御装置4及び上位制御装置6間は通信ネットワークを介して接続されるが、通信ネットワークは限定されない。
【0026】
演算部20は、所定のプログラムが実行されることにより、上位制御装置6における各種機能に対応する演算処理が実施される。本実施形態では特に、演算部20では、デジタル制御装置4を管理するための各種演算処理が実施される。
【0027】
表示部22は、上位制御装置6のオペレータが認識可能な態様で各種データを表示するための構成であり、例えば、ディスプレイやタッチパネル等である。本実施形態では特に、上位制御装置6は、デジタル制御装置4を管理するための機能を実施しており、表示部22では、デジタル制御装置4の制御状態を監視するための各種データが表示可能である。表示部22に表示される各種データは、前述の演算部20によって表示に適した形式に変換される。また表示部22では、記録装置8に記録される各種データが表示可能であってもよい。
【0028】
記録装置8は、上位制御装置6の演算結果である制御対象2のプロセス値を含む各種データを記録するための構成である。記録装置8に対する各種データの記録は、上位制御装置6における演算処理の実施サイクルごとに行われる。具体的には、記録装置8には、上位制御装置6のうち通信部18で通信(送受信)される各種データや、演算部20で取り扱われる各種データ(プロセス値を含む)が記録可能である。
【0029】
診断装置50は、上記構成を有する制御システム1の制御状態を診断するための構成である。本実施形態では特に、診断装置50は、デジタル制御装置4の内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、制御システム1の制御状態を診断するための構成である。ここで内部値は、デジタル制御装置4で実施されるデジタル演算処理で用いられる中間値であり、例えば、デジタル制御装置4が実行するソフトウェア演算(デジタル演算)の中間演算値(各種パラメータの設定値(予め設定された値、又は、人手によって外部から強制的に設定される値を含む)、デジタル演算子(AND演算子やOR演算子など)の状態、又は、それらのメモリ上のアドレス等を含む)、又は、制御対象2からデジタル制御装置4に対する入力データのデジタル変換値を含む。図1では、デジタル演算装置の記憶部12dに記憶されたデータから内部値を含む診断データが診断装置50に入力される態様が例示されているが、内部値を含む診断データは、記憶部12dを介さず入力されてもよい。
【0030】
続いて診断装置50の具体的な実施形態について、図2図4を参照して説明する。図2図4はそれぞれ図1の診断装置50の一実施形態を示す概略構成図である。尚、図2図4では、診断対象である制御システム1の構成を図1と共通の符号を用いて簡易的に示している。
【0031】
図2に示す実施形態に係る診断装置50は、デジタル制御装置4から取得した内部値を含む診断データに基づいて、制御システム1の制御状態を診断する第1診断部50aを備える。このように、第1診断部50aでは、上位制御装置6を介することなくデジタル制御装置4から取得される内部値に基づいて診断を行うことで、上位制御装置6、送信部16a、受信部16b、及び、制御システム1の各構成要素間を接続するネットワークに関する処理による演算遅れが含まれず、また上位制御装置6による演算で欠落する詳細情報を含むため、良好な応答性で精度のよい診断が可能である。
【0032】
第1診断部50aによる制御状態の診断は、診断データを、対応する教師データと比較することにより行われてもよい。この場合、教師データは、内部値の設定値、診断データに含まれる内部値の変化傾向、又は、内部値に含まれるパラメータ間の相関に関するデータを含むことができる。従来、制御状態の診断に用いられるパラメータの組み合わせや変化傾向は、ベテラン技術者のノウハウ等に頼っていた。近年、ベテラン技術者の勇退による技術伝承も課題になっており、ノウハウとの照合などにも時間や労力を要していた。それに対して本実施形態によれば、診断データに含まれる内部値の変化傾向や選定されたパラメータ間の相関を教師データとして用意することで、教師データとの比較による機械学習によって、制御状態を精度よく診断できる。
尚、本実施形態では制御状態の診断を教師データに基づく学習により行う場合を例示しているが、教師データを用いない学習により行ってもよい。
【0033】
続いて図3に示す実施形態に係る診断装置50は、デジタル制御装置4からの内部値に加えて、センサ値又はプロセス値の少なくとも一方を含む診断データに基づいて、制御システム1の制御状態を診断する。ここでセンサ値は、制御対象2の各構成要素に設けられたセンサ類から取得されるため、制御対象2を構成する構成要素ごとの制御状態の診断に適する。プロセス値は、上位制御装置6による演算結果(記録装置8に記録されたデータ)であり、例えばプラント等の制御対象2の場合には温度や圧力のように複数の構成要素に関連する制御状態の診断に適する。
尚、プロセス値もまたセンサによって取得されたパラメータであってもよい。
【0034】
このように診断装置50は、前述の実施形態と同様に、診断データにデジタル制御装置4の内部値を含むことで、上位制御装置6による演算遅れが含まれず、また上位制御装置6による演算で欠落する詳細情報を含むため、良好な応答性で精度のよい診断が可能である。更に、診断データに内部値に加えてセンサ値が含まれる場合には、制御対象2を構成する少なくとも一部の構成要素について個別の制御状態を考慮した診断が可能である。また診断データに内部値に加えてプロセス値が含まれる場合には、制御対象2を構成する少なくとも一部の構成要素について、複数の構成要素に関連する制御状態を考慮した診断が可能である。また診断データに内部値に加えてセンサ値及びプロセス値の両方が含まれる場合には、これらを総合的に考慮した制御状態の診断が可能である。
【0035】
尚、図3では、上位制御装置6で得られたプロセス値は記録装置8に記録され、診断装置50は、記録装置8にアクセスすることによりプロセス値を取得するように構成されている。これに代えて、診断装置50は、記録装置8を介さずに、上位制御装置6からプロセス値を直接取得するように構成してもよい。
【0036】
続いて図4に示す実施形態に係る診断装置50は、前述の第1診断部50aに加えて、第2診断部50b、第3診断部50c及び総合診断部50dを備える。第1診断部50aは、上記のように、デジタル制御装置4から取得した内部値を少なくとも含む診断データに基づいて診断を行うことにより、第1診断結果を出力する。
【0037】
第2診断部50bは、制御対象2が備える少なくとも一部の構成要素に設置されたセンサ類から取得されるセンサ値に基づいて診断を行うことにより、第2診断結果を出力する。この第2診断結果は、制御対象2の構成要素ごとに設置されたセンサ類から取得されたセンサ値に基づくものであるため、これらの構成要素について個別の診断結果である。
【0038】
第3診断部50cは、上位制御装置6から取得したプロセス値に基づいて診断を行うことにより、第3診断結果を出力する。この第3診断結果は、上位制御装置6による演算結果であるプロセス値に基づくものであるため、制御対象2が備える複数の構成要素に関連する診断結果である。
【0039】
総合診断部50dは、第1診断部50aで得られる第1診断結果に加えて、第2診断部50bで得られる第2診断結果、又は、第3診断部50cで得られる第3診断結果の少なくとも一方に基づいて、制御システム1の制御状態を総合的に診断する。総合診断部50dでは、診断対象に第1診断結果が少なくとも含まれる。そのため、前述の実施形態と同様に、デジタル制御装置4から取得した内部値を考慮した診断が行われることで、良好な応答性で精度のよい診断が可能である。そして、総合診断部50dでは、このような内部値に加えて、第2診断結果に含まれるセンサ値又は第3診断結果に含まれるプロセス値の少なくとも一方が含まれることにより、総合的な診断を行うことで、より精度のよい診断が可能である。
【0040】
以上説明したように上記各実施形態によれば、良好な応答性で制御システムの制御状態を精度よく診断可能な制御システム診断装置、制御システム診断方法、及び、制御システム診断プログラムを提供できる。
【0041】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0042】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0043】
(1)一態様に制御システム診断装置は、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断装置であって、
前記デジタル制御装置の内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する。
【0044】
上記(1)の態様によれば、制御対象を制御するためのデジタル演算処理を行うデジタル制御装置から取得される内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、制御システムの制御状態が診断される。診断データに含まれる内部値は、デジタル制御装置で取り扱われる内部データであり、演算遅れが少ないため、制御システムの制御状態を良好な応答性で診断できる。
【0045】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記内部値は、前記デジタル制御装置が実行するソフトウェア演算の中間演算値、又は、前記制御対象から前記デジタル制御装置に対する入力データのデジタル変換値を含む。
【0046】
上記(2)の態様によれば、診断データに含まれる内部値として、デジタル制御装置で実行されるソフトウェア演算(デジタル演算)の中間演算値、又は、入力データのデジタル変換値が含まれる。これらの内部値は、上位制御装置を介することなくデジタル制御装置から取得されることで、上位制御装置による演算遅れが含まれず、上位制御装置による演算で欠落する詳細情報を含むため、良好な応答性で精度のよい診断が可能である。
【0047】
(3)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記デジタル制御装置による前記制御状態を管理するための上位制御装置を更に備え、
前記内部値は、前記デジタル制御装置が前記上位制御装置に出力する演算結果の中間演算値である。
【0048】
上位制御装置を備える制御システムでは、デジタル制御装置を管理するために、更なる演算処理が行われることがある。そのため上位制御装置の演算処理で得られるプロセス値等に基づく診断では、上位制御装置による演算遅れが含まれ、応答性が低下してしまうおそれがある。また上位制御装置では、監視員のような人手によるデジタル制御装置の管理を目的にする場合もあり、この場合、制御ロジックによる演算周期や装置誤差、それらの積上げ等によって、本来含まれる詳細情報が欠落することで、診断に要求される精度を達成できなくなるおそれがある。
上記(3)の態様によれば、デジタル制御装置に加えて上位制御装置を備える正gyおシステムを診断対象とする場合、診断データに含まれる内部値は、このようなデジタル制御装置の演算結果の中間演算値を含み、デジタル制御装置を管理する上位制御装置を介さず取得される。そのため、上位制御装置による演算遅れが含まれないため、当該内部値を含む診断データを用いることで、制御システムの制御状態を良好な応答性で診断できる。
また上位制御装置では、デジタル制御装置から取得したデータ類を人手による監視に適した態様に変換されることで本来含まれる詳細情報が欠落することがあるが、デジタル制御装置から取得される内部値を含む診断データを診断に用いることで、このような詳細情報を含んだ診断データに基づいて精度のよい診断を行うことができる。
【0049】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記診断データに基づいて前記制御状態を診断するための第1診断部と、
前記制御対象のプロセス値に基づいて前記制御状態を診断するための第2診断部と、
前記制御対象の少なくとも一部の構成要素に設置されたセンサで取得されたセンサ値に基づいて前記制御状態を診断するための第3診断部と、
前記第1診断部、及び、前記第2診断部又は前記第3診断部の少なくとも一方の診断結果に基づいて、前記制御状態を総合的に診断するための総合診断部と、
を備える。
【0050】
上記(4)の態様によれば、第1診断部では、前述のように内部値を少なくとも含む診断データに基づく診断結果が得られる。第2診断部では、制御対象のプロセス値に基づく診断結果が得られる。第3診断部では、制御対象の構成機器に設置されたセンサ値に基づく構成機器ごとの個別の診断結果が得られる。これらの診断結果を、総合的に考慮することで、制御システムの制御状態を精度よく診断できる。
【0051】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記内部値、及び、前記制御対象のプロセス値、又は、前記制御対象の構成機器に設置されたセンサで取得されたセンサ値の少なくとも一方に基づいて、前記制御状態を診断する。
【0052】
上記(5)の態様によれば、デジタル制御装置から取得した内部値を含む診断データに加えて、制御対象のプロセス値に基づく診断結果、又は、制御対象の構成機器に設置されたセンサ値に基づく構成機器ごとの個別の診断結果の少なくとも一方を総合的に考慮することで、制御システムの制御状態を精度よく診断できる。
【0053】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記第1診断部は、前記診断データに対応する教師データと比較することにより、前記制御状態を診断する。
【0054】
上記(6)の態様によれば、内部値を含む診断データを教師データと比較することにより、制御状態を精度よく診断できる。
【0055】
(7)他の態様では、上記(6)の態様において、
前記教師データは、前記内部値の設定値、前記内部値の変化傾向、又は、前記内部値に含まれるパラメータ間の相関に関するデータを含む。
【0056】
従来、制御状態の診断に用いられるパラメータの組み合わせや変化傾向は、ベテラン技術者のノウハウ等に頼っていた。近年、ベテラン技術者の勇退による技術伝承も課題になっており、ノウハウとの照合などにも時間や労力を要していた。上記(7)の態様によれば、前記内部値の設定値、診断データに含まれる内部値の変化傾向や選定されたパラメータ間の相関を教師データとして用意することで、教師データとの比較による機械学習によって、制御状態を精度よく診断できる。
【0057】
(8)他の態様では、上記(1)又は(7)のいずれか一態様において、
前記診断対象はプラントである。
【0058】
上記(8)の態様によれば、複数の構成機器を備えて構築されるプラントのような制御対象における制御状態を、良好な応答性で精度よく診断できる。
【0059】
(9)一態様に係る制御システム診断方法は、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断方法であって、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を備える。
【0060】
上記(9)の態様によれば、制御対象を制御するためのデジタル演算処理を行うデジタル制御装置から取得される内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、制御システムの制御状態が診断される。診断データに含まれる内部値は、デジタル制御装置で取り扱われる内部データであり、演算遅れが少ないため、制御システムの制御状態を良好な応答性で診断できる。
【0061】
(10)一態様に係る制御システム診断プログラムは、
制御対象を制御するためのデジタル制御装置を備える制御システムの制御状態を診断するための制御システム診断プログラムであって、
コンピュータ装置を用いて、
前記デジタル制御装置の内部値を取得する工程と、
前記内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、前記制御状態を診断する工程と、
を実行可能である。
【0062】
上記(10)の態様によれば、制御対象を制御するためのデジタル演算処理を行うデジタル制御装置から取得される内部値を少なくとも含む診断データに基づいて、制御システムの制御状態が診断される。診断データに含まれる内部値は、デジタル制御装置で取り扱われる内部データであり、演算遅れが少ないため、制御システムの制御状態を良好な応答性で診断できる。
【符号の説明】
【0063】
1 制御システム
2 制御対象
4 デジタル制御装置
6 上位制御装置
8 記録装置
10 入力部
12 演算部
12a 第1入力データ取得部
12b 第2入力データ取得部
12c 演算処理部
12d 記憶部
14 出力部
16a 送信部
16b 受信部
18 通信部
20 演算部
22 表示部
50 診断装置
50a 第1診断部
50b 第2診断部
50c 第3診断部
50d 総合診断部
図1
図2
図3
図4