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特開2024-93086生分解性プラスチック容器およびその製造方法
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  • 特開-生分解性プラスチック容器およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093086
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】生分解性プラスチック容器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/46 20060101AFI20240702BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20240702BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240702BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20240702BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240702BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B65D65/46 BRQ
B65D65/42 C
B65D1/00 120
B65D1/00 110
C08J7/043 Z CFD
B32B27/00 H
B32B27/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209230
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山科 裕太郎
【テーマコード(参考)】
3E033
3E086
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
3E033AA08
3E033BA13
3E033BB08
3E033DD05
3E033EA10
3E033EA12
3E033FA02
3E033FA04
3E033GA01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA40
3E086BB90
4F006AA35
4F006AB02
4F006AB03
4F006BA00
4F006CA07
4F006DA04
4F100AK01B
4F100AK21B
4F100AK26B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA12B
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100GB16
4F100HB31
4F100JB09B
4F100JC00B
4F100JD04C
4F100YY00A
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】外部環境に生息している分解菌に依らず分解を進行させる。
【解決手段】基材層11と、分解菌含有層12と、保護層13と、を備えるとともに、基材層、分解菌含有層、および保護層が、容器内面iおよび容器外面oのうちのいずれか一方側からいずれか他方側に向けてこの順に配設され、基材層および保護層は生分解性樹脂により形成され、分解菌含有層は、水溶性のバインダー剤に、胞子状態の分解菌と、栄養細胞状態に移行した分解菌の増殖を促す栄養素と、が含有されて構成され、分解菌含有層に含まれる自由水の量は、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満とされ、栄養細胞状態の分解菌は、増殖に伴い基材層および保護層を分解し、JIS Z 0208-1976に基づいて、温度25℃および相対湿度90%の雰囲気下で測定した、厚さ25μmでの保護層の透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、分解菌含有層と、保護層と、を備えるとともに、前記基材層、前記分解菌含有層、および前記保護層が、容器内面および容器外面のうちのいずれか一方側からいずれか他方側に向けてこの順に配設され、
前記基材層および前記保護層は生分解性樹脂により形成され、
前記分解菌含有層は、水溶性のバインダー剤に、胞子状態の分解菌と、栄養細胞状態に移行した前記分解菌の増殖を促す栄養素と、が含有されて構成され、
前記分解菌含有層に含まれる自由水の量は、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満とされ、
栄養細胞状態の前記分解菌は、増殖に伴い前記基材層および前記保護層を分解し、
JIS Z 0208-1976に基づいて、温度25℃および相対湿度90%の雰囲気下で測定した、厚さ25μmでの前記保護層の透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされている、生分解性プラスチック容器。
【請求項2】
前記基材層および前記保護層それぞれの厚さは、250μm以上となっている、請求項1に記載の生分解性プラスチック容器。
【請求項3】
前記基材層の表面に、胞子状態の分解菌、および前記栄養素を含有するバインダー剤の水溶液を塗布する塗布工程と、
前記バインダー剤の水溶液から水分を除去し、前記分解菌含有層を形成する乾燥工程と、
前記分解菌含有層の表面に前記保護層を設ける保護層形成工程と、を有する、請求項1または2に記載の生分解性プラスチック容器を製造する生分解性プラスチック容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチック容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックが自然に分解しにくいことに起因して、近年では、特に海洋ゴミやマイクロプラスチック等が大きな環境問題として注目されている。この問題を解決するために、例えば下記特許文献1に示されるように、生分解性プラスチックの適用が検討されている。生分解性プラスチックは、外部環境に生息している分解菌(微生物)の増殖に伴って分解され、最終的には水と二酸化炭素とに分解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-537740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、生分解性プラスチックの分解は、外部環境に生息している分解菌に大きく依存するため、外部環境によっては、生分解性プラスチックが分解しないおそれが想定される。
【0005】
本発明は、外部環境に生息している分解菌に依らず分解を進行させることができる生分解性プラスチック容器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る生分解性プラスチック容器は、基材層と、分解菌含有層と、保護層と、を備えるとともに、前記基材層、前記分解菌含有層、および前記保護層が、容器内面および容器外面のうちのいずれか一方側からいずれか他方側に向けてこの順に配設され、前記基材層および前記保護層は生分解性樹脂により形成され、前記分解菌含有層は、水溶性のバインダー剤に、胞子状態の分解菌と、栄養細胞状態に移行した前記分解菌の増殖を促す栄養素と、が含有されて構成され、前記分解菌含有層に含まれる自由水の量は、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満とされ、栄養細胞状態の前記分解菌は、増殖に伴い前記基材層および前記保護層を分解し、JIS Z 0208-1976に基づいて、温度25℃および相対湿度90%の雰囲気下で測定した、厚さ25μmでの前記保護層の透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされている。
【0007】
分解菌含有層を備えているので、水が外部から分解菌含有層に到達し、胞子状態の分解菌に接すると、分解菌が発芽して栄養細胞状態に移行し、その後、栄養細胞状態の分解菌が栄養素に促されて増殖し、この増殖に伴い基材層および保護層が分解され、最終的には水と二酸化炭素とに分解される。これにより、外部環境に生息している分解菌(微生物)に依存せず、基材層および保護層の分解を進行させることができる。
水が外部から分解菌含有層に到達する態様としては、例えば、生分解性プラスチック容器が、水中に浸漬された場合、および生分解性プラスチック容器に生じた外傷が、分解菌含有層に達した場合等が考えられる。
分解菌含有層が、水溶性のバインダー剤に、分解菌と栄養素とが含有されて構成されているので、分解菌を死滅させずに胞子状態に維持し、かつ分解菌および栄養素を容易にバインダー剤中に偏り少なく均等に分散させることができる。
保護層の前述した透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされているので、生分解性プラスチック容器が、多湿雰囲気下に置かれたとしても、生分解性プラスチック容器内に内容物が残っている通常の使用時に、水が保護層を厚さ方向に透過して分解菌含有層に到達するのを確実に抑制することができる。
【0008】
前記基材層および前記保護層それぞれの厚さは、250μm以上となってもよい。
【0009】
基材層および保護層それぞれの厚さが、250μm以上となっているので、基材層および保護層それぞれの強度を確保しやすくなり、生分解性プラスチック容器内に内容物が残っている通常の使用時に、基材層および保護層に割れが生ずるのを抑制することが可能になり、水が不意に分解菌含有層に到達するのを確実に抑制することができる。
【0010】
本発明の一態様に係る生分解性プラスチック容器の製造方法は、前記基材層の表面に、胞子状態の分解菌、および前記栄養素を含有するバインダー剤の水溶液を塗布する塗布工程と、前記バインダー剤の水溶液から水分を除去し、前記分解菌含有層を形成する乾燥工程と、前記分解菌含有層の表面に前記保護層を設ける保護層形成工程と、を有する。
【0011】
塗布工程時に、基材層の表面に、胞子状態の分解菌および栄養素を含有するバインダー剤の水溶液を塗布するので、分解菌が、基材層を形成する際の熱を受けることがなく、分解菌に加えられる加熱時間および加熱温度をそれぞれ抑制することが可能になり、分解菌含有層に含まれる分解菌が死滅するのを防ぐことができる。
乾燥工程を有するので、分解菌含有層に含まれる自由水の量を、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満となるように容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、外部環境に生息している分解菌に依らず基材層および保護層の分解を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る一実施形態として示した生分解性プラスチック容器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態の生分解性プラスチック容器1は、図1に示されるように、基材層11と、分解菌含有層12と、保護層13と、を備え、有底筒状に形成されている。基材層11、分解菌含有層12、および保護層13は、容器内面i側から容器外面o側に向けてこの順に配設されている。基材層11は容器内面iを有し、保護層13は容器外面oを有している。
【0015】
生分解性プラスチック容器1内に収容される内容物としては、例えば粒状体、および粉体等の固形物が挙げられる。
なお、基材層11、分解菌含有層12、および保護層13は、容器外面o側から容器内面i側に向けてこの順に配設されてもよい。保護層13が容器内面iを有し、基材層11が容器外面oを有してもよい。
【0016】
基材層11および保護層13は生分解性樹脂により形成されている。
生分解性樹脂としては、例えば、PLA(ポリ乳酸)、PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PBSA(ポリブチレンサクシネート・アジペート)、PGA(ポリグリコール酸)、PETS(ポリエチレンテフタレートサクシネート)、およびPBSu(ポリブチレンサクシネート)等の、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。なお、生分解性樹脂としては、エステル結合を含み加水分解により低分子化合物となるものが好ましい。
【0017】
基材層11および保護層13それぞれの厚さは、互いに同等とされ、250μm以上とされている。JIS Z 0208-1976に基づいて、温度25℃および相対湿度90%の雰囲気下で測定した、厚さ25μmでの保護層13の透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされている。
【0018】
例えば、基材層11が保護層13と同様に外部環境に露出する場合や、生分解性プラスチック容器1内に収容される内容物の含水率が高い場合には、基材層11の前記透湿度を保護層13の前記透湿度と同じにしてもよい。収容される内容物の含水率が高い場合、容器内面iに、ポリエチレンフィルム等の防水フィルムを貼り付けてもよい。
基材層11と分解菌含有層12との間、並びに、保護層13と分解菌含有層12との間にそれぞれ、接着層を設けてもよい。接着層としては、例えば、生分解性を有するウレタン樹脂ベースの粘着剤(サイアバイン(R)シリーズ/トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0019】
分解菌含有層12は、基材層11および保護層13により全域にわたって覆われている。分解菌含有層12は、生分解性プラスチック容器1における肉厚方向の中央部に設けられている。これにより、分解菌含有層12が、意図せず外部に露出することが防止されている。分解菌含有層12の厚さは、基材層11および保護層13それぞれの厚さより薄くなっている。
【0020】
分解菌含有層12は、水溶性のバインダー剤に、胞子状態の分解菌と、栄養細胞状態に移行した前記分解菌の増殖を促す栄養素と、が含有されて構成されている。なお、分解菌の含有率を高めるために、例えば、ゼオライト、活性炭、およびPVAゲル等の微生物固定化担体を用いてもよい。
【0021】
分解菌含有層12に含まれる水分量は、例えば2wt%以下となっている。分解菌含有層12に含まれる水分は、分解菌が反応に利用可能な自由水と、栄養素に結合している結合水と、を有している。分解菌含有層12に含まれる自由水の量は、栄養素の含有量を調整することで調整することができる。
分解菌含有層12に含まれる自由水の量は、胞子状態の分解菌が、栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満とされている。これにより、分解菌含有層12に含まれる分解菌は、胞子状態に保たれる。栄養細胞状態の分解菌は、増殖に伴い基材層11および保護層13を分解する。
分解菌含有層12に含まれる自由水の量は、例えば0.6wt%以下となっている。これにより、仮に分解菌が、後述する真菌であっても、生分解性プラスチック容器1が多湿雰囲気下に置かれたときに、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのを防ぐことができる。
【0022】
栄養素としては、例えば、酵母エキス、麦芽エキス、およびブイヨン成分等が挙げられる。
分解菌としては、例えば、放線菌、芽胞菌、および真菌等が挙げられる。
【0023】
放線菌としては、例えば、Actinoplanes属、Actinopolyspora属、Actinosynnema属、Amycolatopsis属、Catenulispora属、Cellulomonas属、Geodermatophilus属、Gordonia属、Kineosphaera属、Kitasatospora属、Micromonospora属、Nakamurella属、Nocardiopsis属、Phaeobacter属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Saccharomonospora属、Saccharopolyspora属、Streptomyces属、Thermobispora属、およびTsukamurella属等が挙げられる。
芽胞菌としては、例えば、Bacillus属、Paenibacillus属、Brevibacillus属、およびClostridium属等が挙げられる。
真菌としては、例えば、Paraphoma属、およびPseudozyma属等が挙げられる。
【0024】
バインダー剤としては、例えば、寒天、ペクチン、カラギナン、およびグァ-ガム等の天然多糖類、並びに、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキシド)、PAM(ポリアクリルアミド)、およびCMC(カルボキシメチルセルロース)等の水溶性の生分解性樹脂等が挙げられ、胞子状態の分解菌が死滅せず、かつ栄養細胞状態に移行した分解菌の増殖を阻害しない限り、これらのうちの2種以上を組み合わせてもよい。バインダー剤は吸湿性を有している。
【0025】
例えば、生分解性樹脂がエステル結合を有する場合、栄養細胞状態の分解菌の増殖に伴い、エステル結合が分解され、低分子化合物(酢酸、ギ酸塩、酪酸、プロピオン酸等)になり、さらに分解酵素によって、最終的に水と二酸化炭素とに分解される。
また、生分解性樹脂がPVA(ポリビニルアルコール)の場合には、ヒドロキシ基を含有していることから、脱水素酵素、若しくは酸化酵素によりカルボニル基を含む化合物になった後に、加水分解酵素により低分子化合物になり、さらに分解酵素によって、最終的に水と二酸化炭素とに分解される。
【0026】
次に、生分解性プラスチック容器1の製造方法について説明する。
この製造方法は、塗布工程と、乾燥工程と、保護層形成工程と、を有している。
【0027】
塗布工程では、例えば射出成形、若しくは熱成形等により予め形成した基材層11の表面に、胞子状態の分解菌、および栄養素を含有するバインダー剤の水溶液を塗布する。
この水溶液は、粉状のバインダー剤を水に溶かした後に、栄養素を添加しておき、その後、基材層11の表面に塗布する直前に、胞子状態の分解菌を添加することで得られる。この際、水溶液を攪拌し、分解菌および栄養素を偏り少なく均等に分散させる。
基材層11の表面に水溶液を塗布する方法は、例えばオフセット印刷、スクリーン印刷、ロールコータを用いた印刷、吹付け、ディップコーティング等が挙げられる。
なお、基材層11の表面に、水溶液を塗布する前に、例えば生分解性を有するウレタン樹脂ベースの粘着剤等を塗布してもよい。
【0028】
乾燥工程では、バインダー剤の水溶液から水分を除去し、分解菌含有層12を形成する。乾燥工程では、水溶液を、分解菌が死滅しない程度の温度(例えば約40℃)および時間(例えば2時間以内)で加熱する。乾燥工程によって、含有する水分量が2wt%以下で、かつ基材層11の表面に接着された分解菌含有層12が得られる。
【0029】
保護層形成工程では、保護層13を、例えば射出成形、若しくは熱成形等により形成するとともに、分解菌含有層12の表面に設ける。
保護層形成工程時に、保護層13を有しない生分解性プラスチック容器1をインサート品として、保護層13を射出成形する場合、分解菌含有層12の分解菌を死滅させないために、例えば保護層13の溶融温度を200℃以下で、かつ成形時間を10秒以内とし、また、保護層13を有しない生分解性プラスチック容器1をインサート品として、保護層13を熱成形する場合、分解菌含有層12の分解菌を死滅させないために、例えばシート状の保護層13の形成材の加熱温度を150℃以下で、かつ成形時間を30秒以内にする。
なお、分解菌含有層12の表面に、保護層13を設ける前に、例えば生分解性を有するウレタン樹脂ベースの粘着剤等を塗布してもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態による生分解性プラスチック容器1によれば、分解菌含有層12を備えているので、水が外部から分解菌含有層12に到達し、胞子状態の分解菌に接すると、分解菌が発芽して栄養細胞状態に移行し、その後、栄養細胞状態の分解菌が栄養素に促されて増殖し、この増殖に伴い基材層11および保護層13が分解され、最終的には水と二酸化炭素とに分解される。
これにより、外部環境に生息している分解菌(微生物)に依存せず、基材層11および保護層13の分解を進行させることができる。
水が外部から分解菌含有層12に到達する態様としては、例えば、生分解性プラスチック容器1が、水中に浸漬された場合、および生分解性プラスチック容器1に生じた外傷が、分解菌含有層12に達した場合等が考えられる。
【0031】
分解菌含有層12が、水溶性のバインダー剤に、分解菌と栄養素とが含有されて構成されているので、分解菌を死滅させずに胞子状態に維持し、かつ分解菌および栄養素を容易にバインダー剤中に偏り少なく均等に分散させることができる。
保護層13の前述した透湿度が、400(g/(m・24h))以下とされているので、生分解性プラスチック容器1が、多湿雰囲気下に置かれたとしても、生分解性プラスチック容器1内に内容物が残っている通常の使用時に、水が保護層13を厚さ方向に透過して分解菌含有層12に到達するのを確実に抑制することができる。
【0032】
基材層11および保護層13それぞれの厚さが、250μm以上となっているので、基材層11および保護層13それぞれの強度を確保しやすくなり、生分解性プラスチック容器1内に内容物が残っている通常の使用時に、基材層11および保護層13に割れが生ずるのを抑制することが可能になり、水が不意に分解菌含有層12に到達するのを確実に抑制することができる。
【0033】
本実施形態による生分解性プラスチック容器1の製造方法によれば、塗布工程時に、基材層11の表面に、胞子状態の分解菌および栄養素を含有するバインダー剤の水溶液を塗布するので、分解菌が、基材層11を形成する際の熱を受けることがなく、分解菌に加えられる加熱時間および加熱温度をそれぞれ抑制することが可能になり、分解菌含有層12に含まれる分解菌が死滅するのを防ぐことができる。
乾燥工程を有するので、分解菌含有層12に含まれる自由水の量を、胞子状態の分解菌が、発芽して栄養細胞状態に移行するのに要する水分量未満となるように容易に調整することができる。
【0034】
なお、本発明の技術範囲は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0035】
生分解性プラスチック容器1は、基材層11、分解菌含有層12、および保護層13がそれぞれ得られる基材シート、分解菌含有シート、および保護シートを積層した積層シートを形成しておき、この積層シートを熱成形することによって形成してもよい。
【0036】
分解菌含有層12と保護層13との間に、生分解性樹脂により形成された多孔質層を設けてもよい。この場合、水が外部から分解菌含有層12に到達するときに、多孔質層に大量に貯留されることとなり、栄養細胞状態の分解菌の増殖を確実に促進させることができる。
前記多孔質層は、分解菌含有層12と基材層11との間に設けてもよい。
前記多孔質層は、例えばPVA(ポリビニルアルコール)で形成してもよい。
【0037】
分解菌含有層12が、基材層11および保護層13により厚さ方向に挟まれていれば、分解菌含有層12を2層以上有し、かつ基材層11および保護層13を含めた合計で5層以上有する生分解性プラスチック容器であってもよい。
バインダー剤は、内包する分解菌による分解に限らず、保護層13または基材層11の破損、分解によって接触することになる、外部環境に生息している分解菌により分解してもよい。
【0038】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記実施形態および前記変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 生分解性プラスチック容器
11 基材層
12 分解菌含有層
13 保護層
i 容器内面
o 容器外面
図1