(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093092
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光学積層体及び物品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20240702BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20240702BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/115
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209242
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100141999
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 敬一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 嗣人
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009AA15
2K009BB11
2K009CC03
4F100AA12C
4F100AA20B
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4F100JN06
4F100JN08
4F100JN18D
(57)【要約】
【課題】耐擦傷性に優れる、光学積層体及び物品を提供することを目的とする。
【解決手段】この光学積層体は、樹脂基材とバリア層と第1層とを備え、前記バリア層は、前記樹脂基材と前記第1層とに挟まれ、前記バリア層は、酸化ケイ素を含み、前記第1層は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含み、前記バリア層の膜厚は、4nm以上であり、前記第1層の酸素含有量が40atm%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材とバリア層と第1層とを備え、
前記バリア層は、前記樹脂基材と前記第1層とに挟まれ、
前記バリア層は、酸化ケイ素を含み、
前記第1層は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含み、
前記バリア層の膜厚は、4nm以上であり、
前記第1層の酸素含有量が40atm%以下である、光学積層体。
【請求項2】
前記第1層に接する交互積層膜をさらに備え、
前記交互積層膜は、前記第1層より屈折率の低い低屈折率層と、前記低屈折率層より屈折率の高い高屈折率層と、を備える、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
ハードコート層とプライマー層とをさらに備え、
前記ハードコート層は、前記樹脂基材と前記バリア層との間にあり、
前記プライマー層は、前記ハードコート層と前記バリア層との間にある、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記バリア層及び前記第1層は、スパッタリング膜である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記交互積層膜は、スパッタリング膜である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記プライマー層は、スパッタリング膜である、請求項3に記載の光学積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の光学積層体を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)、タッチパネル、太陽電池等の表面に、反射防止フィルムを設けることがある。例えば、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された光学積層体を用いた反射防止フィルムが知られている。
【0003】
光学積層体は、異なる材料を含む層が積層されたものであり、製造時にそれぞれの層が他の層に影響を及ぼす場合がある。例えば、特許文献1には、金属膜上に誘電体膜を成膜した際に、金属膜の特性変化を抑制するために、誘電体膜を成膜する際にバリア層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ペンタッチ方式のタッチパネルの場合、光学積層体の表面をペンが摺動する。ペン摺動時に光学積層体に傷が入ると、光学積層体の光学特性が変化する。そのため、耐擦傷性の高い光学積層体が求められている。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、耐擦傷性に優れた、光学積層体及び物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)第1の態様にかかる光学積層体は、樹脂基材とバリア層と第1層とを備える。前記バリア層は、前記樹脂基材と前記第1層とに挟まれる。前記バリア層は、酸化ケイ素を含む。前記第1層は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含む。前記バリア層の膜厚は、4nm以上である。前記第1層の酸素含有量が40atm%以下である。
【0009】
(2)上記態様に係る光学積層体は、前記第1層に接する交互積層膜をさらに備えてもよい。前記交互積層膜は、前記第1層より屈折率の低い低屈折率層と、前記低屈折率層より屈折率の高い高屈折率層と、を備える。
【0010】
(3)上記態様に係る光学積層体は、ハードコート層とプライマー層をさらに備えてもよい。前記ハードコート層は、前記樹脂基材と前記バリア層との間にあり、前記プライマー層は、前記ハードコート層と前記バリア層との間にある。
【0011】
(4)上記態様に係る光学積層体において、前記バリア層及び前記第1層は、スパッタリング膜でもよい。
【0012】
(5)上記態様に係る光学積層体において、前記交互積層膜は、スパッタリング膜でもよい。
【0013】
(6)上記態様に係る光学積層体において、前記プライマー層は、スパッタリング膜でもよい。
【0014】
(7)第2の態様にかかる物品は、上記態様に係る光学積層体を備える。
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかる光学積層体及び物品は、擦傷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る光学積層体の一例の断面図である。
【
図2】実施例1で測定した各サンプルの組成分析結果を示す。
【
図3】実施例2で測定した各サンプルの組成分析結果を示す。
【
図4】実施例3における各サンプルのマルテンス硬度を示す。
【
図5】実施例3における各サンプルの第1層の屈折率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
「光学積層体」
図1は、第1実施形態に係る光学積層体10の一例の断面図である。光学積層体10は、例えば、樹脂基材1とハードコート層2とプライマー層3とバリア層4と第1層5と交互積層膜6と防汚層7とを備える。第1層5と交互積層膜6とは合わせて光学機能層として機能する。なお、以下の記載で厚みに係る記載はいずれも物理的な膜厚である。
【0019】
(樹脂基材)
樹脂基材1は、可視光域の光を透過可能な透明材料からなる。樹脂基材1は、例えば、樹脂を含むプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムの構成材料は、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、である。
【0020】
樹脂基材1の構成材料は、好ましくは、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。樹脂基材1は、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)基材又はトリアセチルセルロース(TAC)基材が好ましい。
【0021】
なお、本発明でいう「透明材料」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、使用波長域の光の透過率が80%以上の材料であることをいう。また、本実施形態において「(メタ)アクリル」は、メタクリル及びアクリルを意味する。
【0022】
樹脂基材1は、極性基に水分およびガスが吸着していることが多く、スパッタリングによる成膜の際にアウトガスを放出することがある。例えば、常温常圧条件下で保管されたTACフィルムを真空環境下でスパッタリングする際に放出されるガス成分を、ガス分析計(ULVAC社製qulee)を用いて分析した結果を以下の表1に示す。
【0023】
【0024】
表1における到達真空度は、最終的に到達したチャンバー内の真空度である。表1におけるデガス行程中の真空度は、フィルムからアウトガスが生じている際のチャンバー内の真空度である。表1に示すように、TACフィルムからは、様々な種類のガスが発生しており、特に水分(H2O)が多いことが分かる。樹脂基材1は、上記のようにデガス(脱気)工程を行うことで、内部に含まれている水分やガスの多くを除去することはできるが、デガス工程には基材形態にもよるが、少なくとも1時間から12時間以上を要する。
【0025】
樹脂基材1は、光学特性を著しく損なわない限りにおいて、補強材料を含んでいてもよい。補強材料は、例えば、セルロースナノファイバー、ナノシリカ等である。
【0026】
樹脂基材1は、光学的機能および/または物理的機能が付与されたフィルムであっても良い。光学的および/または物理的な機能を有するフィルムは、例えば、偏光板、位相差補償フィルム、熱線遮断フィルム、透明導電フィルム、輝度向上フィルム、バリア性向上フィルム、レンズシートなどである。またこれらのフィルムに帯電防止機能を付与してもよい。
【0027】
樹脂基材1の厚みは、特に限定されないが、例えば25μm以上であり、好ましくは40μm以上である。樹脂基材1の厚みが25μm以上であると、基材自体の剛性が確保され、光学積層体10に応力が加わっても皺が発生し難くなる。また樹脂基材1の厚みが25μm以上であると、樹脂基材1上にハードコート層2を連続的に形成しても、皺が生じにくく製造上の懸念が少ない。樹脂基材1の厚みが25μm以上であると、光学積層体10を製造途中にカールしにくく、取り扱いやすい。
【0028】
樹脂基材1の厚みは、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。樹脂基材1の厚みが1mm以下であると、樹脂基材1の実質的な光学透明性を担保しやすい。また、樹脂基材1の厚みが1mm以下であると、樹脂基材1上に、枚葉方式であってもロールトウロール方式であっても、光学機能層を成膜しやすい。特に、樹脂基材1の厚みが300μm以下であると、ロールトウロール方式で光学積層体10を製造する場合に、1回の製造処理で用いられるロールに投入可能な樹脂基材1の長さを長くできる。このため、樹脂基材1の厚みが300μm以下であると、ロールトウロール方式で光学積層体10を連続的に生産する場合に、生産性に優れる。また、樹脂基材1の厚みが300μm以下であると、品質の良好な光学積層体10となるため、好ましい。
【0029】
樹脂基材1は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理および/または下塗り処理が施されていてもよい。これらの処理が予め施されていることで、樹脂基材1の上に形成されるハードコート層2の密着性が向上する。また樹脂基材1上にハードコート層2を形成する前に、必要に応じて、樹脂基材1の表面に対して溶剤洗浄、超音波洗浄等を行うことにより、樹脂基材1の表面を除塵、清浄化させてもよい。
【0030】
(ハードコート層)
ハードコート層2は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。ハードコート層2は、樹脂基材1の耐擦傷性を向上させる。ハードコート層2は、例えば、バインダー樹脂とフィラーとを含んでもよい。ハードコート層2は、この他、レベリング剤を含んでもよい。
【0031】
バインダー樹脂は、好ましくは透明性を有するものであり、例えば、紫外線、電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などである。
【0032】
バインダー樹脂である電離放射線硬化型樹脂の一例は、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等である。また電離放射線硬化型樹脂は、2以上の不飽和結合を有する化合物でもよい。2以上の不飽和結合を有する電離放射線硬化型樹脂は、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能化合物等である。これらのなかでも、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)が、バインダー樹脂に好適に用いられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。また、電離放射線硬化型樹脂として、上述した化合物をPO(プロピレンオキサイド)、EO(エチレンオキサイド)、CL(カプロラクトン)等で変性したものでもよい。電離放射線硬化型樹脂は、アクリル系の紫外線硬化型樹脂組成物が好ましい。
【0033】
またバインダー樹脂である熱可塑性樹脂の一例は、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、及びゴム又はエラストマー等である。上記熱可塑性樹脂は、非結晶性で、かつ有機溶媒(特に複数のポリマー、硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶である。特に、透明性および耐候性という観点から、バインダー樹脂は、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)等であることが好ましい。
【0034】
バインダー樹脂である熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂(かご状、ラダー状などのいわゆるシルセスキオキサン等を含む)等でもよい。
【0035】
ハードコート層2は、有機樹脂と無機材料を含んでいても良く、有機無機ハイブリッド材料でもよい。有機無機ハイブリッド材料の一例としては、ゾルゲル法で形成されたものが挙げられる。無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアが挙げられる。有機材料としては、例えば、アクリル樹脂が挙げられる。
【0036】
フィラーは、有機物からなるものでもよいし、無機物からなるものでもよいし、有機物および無機物からなるものでもよい。ハードコート層2に含まれるフィラーは、防眩性、光学機能層との密着性、アンチブロッキング性の観点等から、光学積層体10の用途に応じて種々のものを選択できる。具体的にはフィラーとして、例えば、シリカ(Siの酸化物)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、有機微粒子など公知のものを用いることができる。
【0037】
フィラーがシリカ粒子および/またはアルミナ粒子の場合、フィラーの平均粒子径は、例えば800nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは40nm以上70nm以下である。フィラーが有機微粒子の場合、有機微粒子の平均粒子径は、例えば10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。
【0038】
ハードコート層2の厚みは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層2の厚みは、100μm以下であることが好ましい。ハードコート層2の厚みは、物理膜厚である。ハードコート層2は、単一の層からなるものであってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。
【0039】
(プライマー層)
プライマー層3は、ハードコート層2と第1層5との間にある。プライマー層3は、ハードコート層2と第1層5との密着を良好にする。
【0040】
プライマー層3は、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム、インジウム等の金属、これらの金属の合金、これらの金属の酸化物、フッ化物、硫化物または窒化物、から選ばれるいずれか1種または2種以上からなるものである。
【0041】
プライマー層3は、非化学量論組成の無機酸化物を含んでもよい。プライマー層3は、例えば、酸素欠乏状態にある金属酸化物でもよく、例えばSiOx(Si酸化物)を主成分とするものでもよい。プライマー層3がSi酸化物の場合、他の層と同じターゲットを用いて作製することが可能であり、光学積層体10の作製プロセスの複雑化を防ぐことができる。プライマー層3は、Si酸化物のみからなるものであってもよいし、Si酸化物とは別に、50質量%以下の範囲、好ましくは10質量%以下の範囲で、別の元素を含んでいてもよい。別の元素としては、プライマー層3の耐久性を向上させるためにNaを含んでいてもよいし、プライマー層3の硬度を向上させるためにZr、Al、Nから選ばれる1種または2種以上の元素を含んでいてもよい。
【0042】
プライマー層3の厚みは、例えば、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。プライマー層3の厚みが上記範囲内であると、バリア層4とハードコート層2との密着性が高まる。
【0043】
(バリア層)
バリア層4は、樹脂基材1と第1層5とに挟まれる。バリア層4は、例えば、プライマー層3の第1層5側の一面に積層される。バリア層4は、例えば、樹脂基材1又はハードコート層2の一面に積層されてもよい。バリア層4は、樹脂基材1からのアウトガスを抑制する層である。樹脂基材1と第1層5との間にバリア層4は、第1層5の成膜時に、樹脂基材1からのアウトガスが第1層5に影響を及ぼすことを抑制する。
【0044】
バリア層4は、酸化ケイ素(SiO2)を含む。バリア層4は、酸化ケイ素からなっていてもよい。バリア層4が酸化ケイ素の場合、他の層と同じターゲットを用いて作製することが可能であり、光学積層体10の作製プロセスの複雑化を防ぐことができる。またバリア層4が酸化ケイ素を含むと、他の層との組成が近くなり、光学積層体10の反射防止性能を向上させることができる。
【0045】
バリア層4の厚みは、4nm以上である。バリア層4の厚みが十分厚いと、第1層5の成膜時に、アウトガスが第1層5に与える影響を小さくできる。バリア層4は、成膜時に第1層5に基材からのアウトガスが取り込まれることを防ぐ。バリア層4の厚みは、例えば、20nm以下であり、好ましくは10nm以下である。バリア層4の厚みが厚すぎないことで、バリア層4を成膜するのに要する時間を短縮できる。
【0046】
(第1層)
第1層5は、例えば、バリア層4の一面に積層されている。第1層5は、光学機能層の一部である。第1層5と交互積層膜6とで光学機能層となる。光学機能層は、光学機能を発現させる層である。光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能、防眩機能、レンズ機能などが挙げられる。
【0047】
第1層5は、酸素含有量が40atm%以下である。第1層5は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含む。第1層5は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素からなってもよい。
【0048】
窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は、光学機能層の高屈折率層として機能する。高屈折率層としてNb2O5も一般に用いられることも多いが、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は、Nb2O5よりも硬度が高い。第1層5の硬度が高いと、光学積層体10の耐擦傷性が向上する。ここで、硬度は、例えばマルテンス硬度で示すことができる。
【0049】
窒化ケイ素は、例えば、SixNyで表される。窒化ケイ素は、例えば、Si3N4である。第1層5が窒化ケイ素からなる場合、第1層5の酸素含有量は0atm%である。
【0050】
酸窒化ケイ素は、例えば、SixNyOzで表される。第1層5が酸窒化ケイ素からなり、x+y+z=1とした場合に、zは0.4以下である。第1層5の酸素含有量が少ないと、第1層5は高硬度な窒化ケイ素からなる膜と同等の性能を示すため、光学積層体10の耐擦傷性が高まる。
【0051】
第1層5の膜厚は、例えば、20nm以上60nm以下である。第1層5の膜厚がこの範囲であると、光学積層体10の耐擦傷性を高めると共に、光学機能層の高屈折率層の一つとして適切に機能する。
【0052】
第1層5の屈折率は、例えば、2.00以上2.60以下であり、好ましくは2.10以上2.45以下である。
【0053】
(交互積層膜)
交互積層膜6は、第1層5に接する。交互積層膜6は、第1層5の一面に積層されている。交互積層膜6は、光学機能層の一部である。
【0054】
交互積層膜6は、例えば、第1層5に近い側から順に、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層膜である。低屈折率層は、第1層5より屈折率が低い。高屈折率層は、低屈折率層より屈折率が高い。それぞれの高屈折率層の屈折率は、同じでも異なっていてもよい。それぞれの低屈折率層の屈折率は、同じでも異なっていてもよい。
【0055】
交互積層膜6は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体の界面のそれぞれで反射した反射光が干渉すること、及び、防汚層7側から入射した光を拡散することで、反射防止機能を示す。
【0056】
交互積層膜6における低屈折率層と高屈折率層の積層数の合計は、特に問わない。例えば、
図1に示すように、各層の積層数は3層でもよく、2層以下でもよく、4層以上でもよい。交互積層膜6における低屈折率層と高屈折率層の積層数の合計は、3層以上9層以下であることが好ましく、3層以上5層以下であることがより好ましく、3層であることが最も好ましい。交互積層膜6の積層数が3層の場合、積層数が少なく、厚みが薄いため、積層数が4層以上である場合と比較して、生産性に優れる。また、交互積層膜6の積層数が3層の場合、積層数が2層以下である場合と比較して、反射防止性が高く、反射光の色相をより一層ニュートラル(無彩色)に近づけることができる。
【0057】
交互積層膜6は、例えば、低屈折率層61と高屈折率層62と低屈折率層63とを備える。低屈折率層61と低屈折率層63のそれぞれは、第1層5及び高屈折率層62より屈折率が低い。高屈折率層62は、低屈折率層61及び低屈折率層63より屈折率が高い。
【0058】
低屈折率層61及び低屈折率層63の屈折率は、例えば1.20以上1.60以下であり、好ましくは1.30以上1.50以下である。低屈折率層61と低屈折率層63の屈折率は、同じでも、異なっていてもよい。
【0059】
低屈折率層61及び低屈折率層63は、例えば、Siの酸化物を含む。低屈折率層61b及び低屈折率層63は、例えば、SiO2(Siの酸化物)を主成分とした層である。低屈折率層61及び低屈折率層63は、入手の容易さとコストの点からSiの酸化物を含むことが好ましく、SiO2(Siの二酸化物)等を主成分とした層であることが好ましく、SiO2で構成されていることが好ましい。SiO2単層膜は、無色透明である。本実施形態において、主成分とは、層に含まれる成分のうち50質量%以上を占める成分である。
【0060】
低屈折率層61及び低屈折率層63は、Siの酸化物が主成分の場合に、50質量%未満の別の元素を含んでも良い。Siの酸化物とは別の元素の含有量は、好ましくは10%以下である。別の元素は、例えば、Na、Zr、Al、Nである。Naは、低屈折率層61及び低屈折率層63の耐久性を高める。Zr、Al、Nは、低屈折率層61及び低屈折率層63の硬度を高め、耐アルカリ性を高める。
【0061】
高屈折率層62の屈折率は、例えば、2.00以上2.60以下であり、好ましくは2.10以上2.45以下である。高屈折率層62の屈折率は、第1層5の屈折率と同じでも、異なっていてもよい。
【0062】
高屈折率層62は、例えば、窒化シリコン(SiN、屈折率2.0)、五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO2、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO3、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO2、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta2O5、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)、酸化ジルコニウム(ZrO2、屈折率2.2)などが挙げられる。高屈折率層62は、例えば、五酸化ニオブである。
【0063】
低屈折率層61の膜厚は、例えば、10nm以上80nm以下である。高屈折率層62の膜厚は、例えば、20nm以上200nm以下である。低屈折率層63の膜厚は、例えば、50nm以上200nm以下である。
【0064】
交互積層膜6を形成している層のうち防汚層7側には、例えば、低屈折率層63が配置される。交互積層膜6の低屈折率層63が防汚層7と接している場合、光学機能層の反射防止性能が良好となる。
【0065】
光学機能層の全体の総厚は、例えば80nm以上480nm以下であり、好ましくは160nm以上240nm以下であり、より好ましくは165nm以上225nm以下である。光学機能層の総厚が所定の範囲内であることで、反射光の色相をニュートラルに近づけることができると共に、効率的に生産できる。
【0066】
(防汚層)
防汚層7は、交互積層膜6の第1層5と接する面と反対側の面上にある。防汚層7は、交互積層膜6の最外面上にある。防汚層7は、交互積層膜6の汚損を防止する。また、防汚層7は、タッチパネル等に適用する際のペン摺動によって交互積層膜6が損耗することを抑制する。
【0067】
防汚層7は、例えば、防汚性材料を蒸着させた蒸着膜である。防汚層7は、例えば、低屈折率層63の一面に、防汚性材料としてフッ素系化合物を真空蒸着することによって形成される。防汚層7がフッ素系化合物を含むと、ペンによる入力時に摺動を滑らかにすると同時に光学積層体10のペン摺動耐性がより向上する。
【0068】
防汚層7に含まれるフッ素系化合物は、例えばフッ素系有機化合物である。フッ素系有機化合物は、例えば、フッ素変性有機基と反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物である。防汚層7に用いることができる市販品としては、オプツールDSX(ダイキン株式会社製)、KY-100シリーズ(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0069】
防汚層7にフッ素変性有機基と反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物を用い、低屈折率層63にSiO2を用いた場合、フッ素系有機化合物の反応性シリル基から生じるシラノール基とSiO2と間でシロキサン結合が形成される。シロキサン結合は、交互積層膜6と防汚層7との密着性を高める。
【0070】
防汚層7の厚みは、例えば、1nm以上20nm以下であり、好ましくは3nm以上10nm以下である。防汚層7の厚みが1nm以上であると、光学積層体10をタッチパネル用途などに適用した際に、耐摩耗性を十分に確保できる。また防汚層7の厚みが20nm以下であると、蒸着に要する時間が短時間で済み、効率よく製造できる。
【0071】
防汚層7は、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0072】
蒸着によって形成された防汚層7は、交互積層膜6と強固に結合し、空隙が少なく緻密である。そのため蒸着によって形成された防汚層7は、防汚性材料の塗布などの他の方法によって形成された防汚層7とは異なる特性を示す。蒸着によって形成された防汚層7は、摩耗しにくい。
【0073】
光学積層体10の各層は、例えば、スパッタリング膜である。例えば、プライマー層3、バリア層4、第1層5、交互積層膜6のそれぞれは、例えば、スパッタリング膜である。スパッタリング膜は、一般的な真空蒸着法または塗布法を用いて形成された膜と比較して、緻密である。例えば、光学機能層の水蒸気透過性は、1.0g/m2/day以下となる。緻密なスパッタリング膜は、水蒸気透過率が低い。スパッタリング膜は、緻密であり、摺動跡が残りにくい。例えば、ペン摺動により防汚層7の一部が剥離した場合でも、光学機能層が緻密であることでペン摺動の跡が付きにくくなる。
【0074】
次いで、本実施形態に係る光学積層体の製造方法について説明する。まず樹脂基材1を準備する。樹脂基材1は、例えば、市販品を購入することで入手できる。樹脂基材1は、デガス工程を行わなくてもよい。
【0075】
次いで、樹脂基材1の一面にハードコート層2を形成する。樹脂基材1上にハードコート層2となる材料を含むスラリーを塗布し、ハードコート層2となる材料を公知の方法により硬化させることで、ハードコート層2が得られる。樹脂基材1上にハードコート層2を形成する前に、必要に応じて表面を洗浄してもよい。樹脂基材1の表面の洗浄方法としては、例えば、溶剤洗浄、超音波洗浄などが挙げられる。樹脂基材1の洗浄を行うことにより、樹脂基材1の表面を除塵でき、表面が清浄化されるため、好ましい。また市販されているハードコート層2が形成された樹脂基材1を購入してもよい。
【0076】
次いで、ハードコート層2上に、プライマー層3を形成する。プライマー層3の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造できる。プライマー層3は、例えば、スパッタリング法により形成できる。例えば、シリコンターゲットを用いて、アルゴンと酸素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングを行うことでプライマー層3が作製される。
【0077】
次いで、プライマー層3上に、バリア層4を形成する。バリア層4の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造できる。バリア層4は、例えば、スパッタリング法により形成できる。例えば、シリコンターゲットを用いて、アルゴンと酸素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングを行うことでバリア層4が作製される。
【0078】
次いで、バリア層4上に、第1層5を形成する。第1層5の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造できる。第1層5は、例えば、スパッタリング法により形成できる。例えば、シリコンターゲットを用いて、アルゴンと窒素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングを行うことで第1層5が作製される。
【0079】
次いで、第1層5上に、交互積層膜6を形成する。交互積層膜6は、例えば、低屈折率層61、高屈折率層62、低屈折率層63の順に成膜される。これらの層は、例えば、スパッタリング法を用いて作製される。スパッタリング法の電源方法としてはDC(直流)、RF(高周波)、MF(中周波)が挙げられる。交互積層膜6が酸化物膜を含む場合、DCではスパッタリングできず、RFでは生産性に劣る。このため、酸化物膜をスパッタリングする場合、スパッタリング装置としてはMF電源を使用したデュアルマグネトロンスパッタ装置が好ましい。スパッタリング時の周波数として、20KHzから60KHzが好ましい。スパッタリング時の真空度は、例えば1.0Pa以下である。またロールトゥロール方式で交互積層膜6を形成する場合は、搬送速度(ラインスピード)を例えば、0.5m/min以上20m/min以下とする。このような条件で交互積層膜6を形成すると、交互積層膜6の各層が緻密になる。
【0080】
次いで、交互積層膜6上に、防汚層7を形成する。防汚層7の形成前に、交互積層膜6の表面に対してプラズマ処理を行うことが好ましい。プラズマ処理によって低屈折率層63の表面を改質すると、交互積層膜6と防汚層7との密着性が高まる。
【0081】
防汚層7は、例えば、蒸着によって形成する。蒸着は、防汚層7となる材料を蒸気圧温度に加熱することで行う。蒸着時の真空度は、例えば1.0Pa以下である。このような条件で防汚層7を形成すると、防汚層7が緻密になり、摩耗しにくくなる。
【0082】
プライマー層3、バリア層4、第1層5、交互積層膜6、防汚層7の成膜は、ロールトゥロールで減圧環境下で行うことが好ましい。上記手順を経ることで、光学積層体10を作製できる。
【0083】
本実施形態に係る光学積層体10は、バリア層4を有するため、樹脂基材1からのアウトガスが第1層5に悪影響を及ぼすことを抑制できる。バリア層4は、第1層5に酸素が取り込まれることを防ぐことができる。第1層5に酸素が取り込まれると、第1層5の屈折率が低下すると共に、硬度が低下する。第1層5の屈折率が低下すると、光学積層体10の光学特性が低下する。第1層5の硬度が低下すると、光学積層体10の耐擦傷性が低下する。
【0084】
以上、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0085】
光学積層体10は、樹脂基材1、ハードコート層2、プライマー層3、バリア層4、第1層5、交互積層膜6及び防汚層7以外の層を有してもよい。また光学積層体10は、樹脂基材1のバリア層4などが形成された面と対向する面に、必要に応じて各種の特性を有する層を有してもよい。例えば、他の部材との接着に用いられる粘着剤層が設けられていても良い。また、この粘着剤層を介して他の光学フィルムが設けられていても良い。他の光学フィルムは、例えば偏光フィルム、位相差補償フィルム、1/2波長板、1/4波長板として機能するフィルムなどがある。
【0086】
また樹脂基材1の一面に、反射防止、選択反射、防眩、偏光、位相差補償、視野角補償又は拡大、導光、拡散、輝度向上、色相調整、導電などの機能を有する層が形成されていても良い。光学積層体10の表面には、モスアイ、防眩機能を発現するナノオーダーの凹凸構造を形成してもよい。光学積層体10の表面には、レンズ、プリズムなどのマイクロからミリオーダーの幾何学形状が形成されていてもよい。
【0087】
また光学積層体10は、様々な物品に適用できる。例えば、液晶表示パネル、有機EL表示パネルなど、画像表示部の画面に光学積層体10を設けてもよい。これにより、例えば、スマートフォンや操作機器のタッチパネル表示部が高い耐擦傷性を示し、実使用に好適な画像表示装置が得られる。
【0088】
また物品は画像表示装置に限定されず、窓ガラス、ゴーグル、太陽電池の受光面、スマートフォンの画面やパーソナルコンピューターのディスプレイ、情報入力端末、タブレット端末、AR(拡張現実)デバイス、VR(仮想現実)デバイス、電光表示板、ガラステーブル表面、遊技機、航空機や電車などの運行支援装置、ナビゲーションシステム、計器盤、光学センサーの表面などに光学積層体10を適用できる。
【実施例0089】
「実施例1」
実施例1では、バリア層4の膜厚を変更した際の第1層5の組成変化を測定した。
【0090】
樹脂基材1として、厚さ80μmのTACフィルムを用意した。そして、樹脂基材1上に、膜厚5μmのハードコート層2を形成した。ハードコート層2は、表2に示す組成を有する塗布液を、バーコーターを用いて、樹脂基材1上に塗布し、紫外線を照射して光重合させて、硬化させる方法により形成した。
【0091】
【0092】
続いて、ハードコート層2上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用い、ArガスとO2ガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、SiOx(0<x<2)で表されるプライマー層3を膜厚4nmで作製した。
【0093】
続いて、プライマー層3上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用い、ArガスとO2ガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、SiO2で表されるバリア層4を作製した。成膜圧力は0.3Paとし、成膜時のAr流量は3.2sccm、O2流量は1.8sccmとし成膜時間を変更させて、バリア層4の膜厚が異なるサンプルをいくつか準備した。各サンプルのバリア層4の構成を示す。
サンプル1:0nm(バリア層4を形成しなかった)
サンプル2:1nm
サンプル3:2nm
サンプル4:4nm
サンプル5:6nm
サンプル6:8nm
サンプル7:10nm
【0094】
続いて、バリア層4上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用い、ArガスとN2ガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、第1層5を作製した。成膜圧力は0.3Paとし、第1層5の膜厚は、50nmとした。
【0095】
次いで、X線光電子分光装置(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis。ESCA。アルバック・ファイ株式会社製VersaprobeIII)を用い、作製したサンプル1~7のそれぞれの第1層5の組成分析を行った。また18時間脱気した樹脂基材1を用いて、サンプル1と同じ条件で第1層5を作製した比較サンプル(サンプル8)も準備した。サンプル8の第1層5の組成もESCAを用いて測定した。
【0096】
図2は、実施例1で測定した各サンプルの組成分析結果を示す。
図2の縦軸は、ESCAで測定したSiの2p電子のエネルギーを示す。第1層5の組成が変化するとSi2pのピーク位置が化学シフトする。窒化シリコンは、Siの2p電子のエネルギーが101.4eV以上102.3eV以下の範囲であり、酸化シリコンは、Siの2p電子のエネルギーが103.2eV以上104.0eV以下の範囲である。
図2の横軸は、バリア層4の厚みと脱気工程の有無を示す。
【0097】
脱気工程を行ったサンプル8は、樹脂基材1からのアウトガスが少ないため、第1層5は窒化シリコン膜となっている。これに対し、脱気工程を行っていないサンプル1~7でも、バリア層4の膜厚が4nm以上であれば、概ね窒化シリコンとみなせる組成の膜となっていることが確認できた。
【0098】
「実施例2」
実施例2では、第1層5の酸素含有量の違いに伴う、第1層5の特性変化を測定した。
【0099】
まず、ハードコート層2を形成した樹脂基材1に対し、1.0E-4Pa以下まで減圧し、18時間脱気工程を行った。樹脂基材1及びハードコート層2の構成は、実施例1と同じとした。次いで、ハードコート層2上に、プライマー層3、バリア層4を作製した。プライマー層3及びバリア層4の構成は、実施例1と同じとした。
【0100】
続いて、バリア層4上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用い、ArガスとN2ガスとO2ガスの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、SixNyOzで表される第1層5を作製した。成膜圧力は0.3Paとし、成膜時間1818秒かけて第1層5を作製した。第1層5の膜厚は、約200nmであった。成膜時のAr流量は3sccm、N2流量は2sccmとし、O2流量を変化させて、酸素含有量の異なるサンプルをいくつか準備した。各サンプルを作製する際のO2流量と作製後の第1層5の組成比を以下の表3に示す。
【0101】
【0102】
作製した各サンプルのそれぞれの第1層5の組成分析をESCAで行った。
図3は、実施例2で測定した各サンプルの組成分析結果を示す。
図3の縦軸は、ESCAで測定したSiの2p電子のエネルギーを示す。
図3の横軸は、第1層5の酸素含有量を示す。
【0103】
図3に示すように、第1層5に含まれる酸素含有量が少ないと第1層5は窒化膜とみなすことができ、第1層5に含まれる酸素含有量が多いと第1層5は酸化膜となる。第1層5に含まれる酸素含有量が40atm%以下であれば、第1層5は、概ね窒化シリコンとみなせる組成の膜と言える。
【0104】
「実施例3」
実施例3では、実施例2で作製した第1層5の各サンプルと同条件で、スライドガラス上にSi
xN
yO
zで表される第1層5を形成し、スライドガラス板上に形成した第1層5のマルテンス硬度を測定した。
図4は、実施例3における各サンプルのマルテンス硬度を示す。マルテンス硬度は、ISO14577-1に準拠して、微小圧縮試験機(株式会社エリオニクス製ENT-NEXUS、測定圧子:バーコビッチ圧子)を用いて荷重0.05mNにて測定した。
図4に示すように、第1層5に含まれる酸素含有量が増える程、マルテンス硬度が低下している。第1層5の酸素含有量が40atm%以下であれば、第1層5は5000N/cm
2以上の硬度を示す。
【0105】
次いで、作製した各サンプルのそれぞれの第1層5の屈折率を測定した。第1層5の屈折率は、J.A.Woollam社製 M-2000 分光エリプソメーターで測定した。
図5は、実施例3における各サンプルの第1層5の屈折率を示す。
図5に示すように、第1層5に含まれる酸素含有量が増える程、第1層5の屈折率が低下している。
【0106】
「実施例4」
実施例4では、バリア層4の膜厚の異なる光学積層体10を作製し、それぞれの光学積層体10の耐擦傷性試験を行った。
【0107】
まず、樹脂基材1上にハードコート層2を形成した。樹脂基材1及びハードコート層2の構成は、実施例1と同じとした。次いで、脱気工程を行なうことなく、ハードコート層2上に、プライマー層3、バリア層4を作製した。プライマー層3は膜厚3nmのSiOx膜とした。バリア層4は、SiO2膜とし、膜厚の異なるサンプルを準備した。各サンプルのバリア層4の膜厚を下記に示す。
サンプル16:4nm
サンプル17:8nm
サンプル18:20nm
サンプル19:2nm
サンプル20:0nm(バリア層4を成膜しなかった)
【0108】
そして、バリア層4上に、第1層5、低屈折率層61、高屈折率層62、低屈折率層63を順に積層した。第1層5の膜厚は23nmとし、低屈折率層61の膜厚は33nmとし、高屈折率層62の膜厚は103nmとし、低屈折率層63の膜厚は80nmとした。
【0109】
低屈折率層61と低屈折率層63は、SiO2膜とし、高屈折率層62は、Nb2O5膜とした。SixNyOzで表される第1層5は、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用い、ArガスとN2ガスとO2ガスの混合ガスを用いて作製した。反応性スパッタ法の条件は、成膜圧力は0.3Pa、成膜時間は150秒とした。第1層5の膜厚は、23nmであった。成膜時のAr流量は3sccm、N2流量は2sccmとし、O2流量を変化させて、実施例2と同様に酸素含有量の異なるサンプルをいくつか準備した。
【0110】
低屈折率層(SiO2膜)は、Siをスパッタリングターゲットとして成膜した。成膜条件は、成膜圧力を0.3Paとし、成膜時のAr流量は3.2sccm、O2流量は1.8sccmとし、膜厚に合わせて成膜時間を変更した。高屈折率層(Nb2O5膜)は、酸素欠損を有するNb2Ox(4.8≦x<5)をスパッタリングターゲットして成膜した。成膜条件は、成膜圧力を0.3Paとし、成膜時のAr流量は3.5sccm、O2流量は1.5sccmとし、膜厚に合わせて成膜時間を変更した。
【0111】
そして作製したそれぞれの光学積層体10の耐擦傷性試験を行った。耐擦傷性試験は、以下の手順で行った。まず、光学積層体10の低屈折率層63が表面にくるように、透明粘着剤シート(リンテック株式会社製)を用いて、1mm厚のガラスに貼合した。そして、スタイラスペン用ペン先(Bamboo Sketch/Bamboo Tip用替え芯(ミディアムタイプ)株式会社ワコム製)を用いて、直線的に摺動試験を行った。荷重は250gf、摺動回数は20000回(10000回往復)、往復距離は50mm、往復の速さは1秒間に2回(1往復)摺動した。耐擦傷試験では、摺動回数500回ごとに、摺動痕及び傷の有無を確認した。摺動痕は、交互積層膜6の最表層が削り取られた状態であり、傷とは、交互積層膜6ならびにプライマー層3までがハードコート層2から剥離した状態をいう。以下の表4に実施例4の耐擦傷性試験結果をまとめた。
【0112】
【0113】
バリア層4の膜厚が4nm以上であるサンプル16~18は、耐擦傷性試験を行っても傷は確認されなかった。サンプル16~18は、試験途中で摺動痕が確認されたが、いずれも4000回までは摺動痕も確認されなかった。これに対し、バリア層4の膜厚がが4nm未満であるサンプル19及びサンプル20は、耐擦傷試験で傷が確認された。
【0114】
実施例1~4で示すように、バリア層4の膜厚が4nm以上であれば、第1層5は概ね窒化シリコンとみなせる組成の膜となり、光学積層体10の耐擦傷性が向上する。
1…樹脂基材、2…ハードコート層、3…プライマー層、4…バリア層、5…第1層、6…交互積層膜、61…低屈折率層、62…高屈折率層、63…低屈折率層、7…防汚層、10…光学積層体