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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093093
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】積層型電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240702BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240702BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240702BHJP
   H01M 50/431 20210101ALI20240702BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M50/489
H01M50/451
H01M50/431
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209244
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕介
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE21
5H021EE22
5H021HH00
5H021HH10
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】平置き型電池として使用した場合であっても、積層方向の上側と下側とで生じるLi析出挙動の差を小さく抑え、セルの劣化を抑制できる積層型電池の提供。
【解決手段】電極がセパレータを介して鉛直方向に積層された積層型電池であって、積層方向下側に配置されたセパレータは、積層方向上側に配置されたセパレータと比較して、電解液に対する接触角が大きい積層型電池。当該電池は、前記積層方向上側に配置されたセパレータが無機層を有し、前記積層方向下側に配置されたセパレータが無機層を有さない構成であってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極がセパレータを介して鉛直方向に積層された積層型電池であって、
積層方向下側に配置されたセパレータは、積層方向上側に配置されたセパレータと比較して、電解液に対する接触角が大きい、
ことを特徴とする積層型電池。
【請求項2】
前記積層方向上側に配置されたセパレータが無機層を有し、前記積層方向下側に配置されたセパレータが無機層を有さない、請求項1に記載の積層型電池。
【請求項3】
1つのセル内に複数のセパレータを有し、
前記1つのセル内で、積層方向において、セパレータ構成を変化させる、請求項1または2に記載の積層型電池。
【請求項4】
複数のセルを有し、
積層方向上側に配置されたセル中のセパレータ構成と、積層方向下側に配置されたセル中のセパレータ構成とを変化させる、請求項1または2に記載の積層型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の正極および複数の負極がセパレータを介して積層された積層電極体が外装体に収容された積層型電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-202055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記積層型電池の各層の積層方向を鉛直方向(重力方向)として、平置き型電池として使用した場合、電極やセパレータから構成されるセルは、鉛直方向に積み重なることになる。このため、積層方向上側に位置する電極と積層方向下側に位置する電極とで、電極にかかる圧力が異なる。この圧力差により、Li析出挙動、より具体的には、Li析出耐性および容量維持率に差が生じて、セルが劣化してしまう可能性がある。
【0005】
本開示は、このような課題を鑑みてなされたものであり、平置き型電池として使用した場合であっても、積層方向の上側と下側とで生じるLi析出挙動の差を小さく抑え、セルの劣化を抑制できる積層型電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一態様は、電極がセパレータを介して鉛直方向に積層された積層型電池であって、積層方向下側に配置されたセパレータは、積層方向上側に配置されたセパレータと比較して、電解液に対する接触角が大きい。
【0007】
本開示に係る積層型電池では、電解液に対する接触角が相対的に小さいセパレータを積層方向上側に使用し、前記接触角が相対的に大きいセパレータを積層方向下側に使用する。このように、本開示に係る積層型電池では、セパレータの性質を積層方向の位置において変化させることで、Li析出挙動を積層方向において均一化でき、さらに、安全性や電池性能を損なうことなく、セル劣化の抑制を実現できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、平置き型電池として使用した場合であっても、積層方向の上側と下側とで生じるLi析出挙動の差を小さく抑え、セルの劣化を抑制できる積層型電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る積層型電池の構成を説明するための概略断面図である。
図2】Li金属の核発生過電圧の算出方法を説明するための図である。
図3】実施例2における放電容量維持率の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述したように、積層型電池を平置き(例えば、平置き車載用二次電池)として使用する場合、電極(正極および負極)がセパレータを介して積層された電極体が鉛直方向(重力方向)に積み重なる。このため、積層型電池内の各電極にかかる圧力が、セル内の上層と下層や、積層方向上側のセルや下側のセルなどの、配置された積層方向の位置によって異なる。この圧力差に起因し、Li析出挙動が、配置された積層方向の位置によって変化することによって、セルの劣化が加速すると考えられる。
【0011】
ここで、電極間距離とイオン拡散抵抗との間には、正の相関関係があると考えられる。したがって、電極間距離が短い部分(積層方向下側で積層による圧力(拘束圧)が大きい部分)は、電極間距離が長い部分(積層方向上側で積層による圧力が小さい部分)と比較して、イオン拡散抵抗が低くなると考えられる。そして、イオン拡散抵抗の低い部分に電極反応が集中することにより、電極板の劣化が促進され、その劣化がLiの析出などによって現われる。このことから、積層方向上側に位置し圧力が小さい部分は、Li析出が起こりにくく、積層方向下側に位置し圧力が大きい部分は、Li析出が起こりやすいと考えられる。
【0012】
これを受け、本発明者らが鋭意検討した結果、積層型電池のLi析出挙動に影響を与え得る他の因子として、セパレータの電解液に対する接触角(濡れ性)を見出した。本開示にかかる積層型電池では、このセパレータの濡れ性を積層方向において変化させることで、上述した圧力差によるLi析出挙動の差異を均一化させ、セル劣化の抑制を実現することができる。
【0013】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本開示が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0014】
本開示に係る積層型電池(以降、本電池とも記す)は、図1に示すように、電極1がセパレータ(例えば、図1に示す符号2A~2C)を介して鉛直方向に積層されている。電極1としては、従来公知の正極および負極を使用できる。なお、本電池では、平置きを想定しているため、当該鉛直方向は重力方向を意味するが、本開示の効果が得られる範囲で積層方向は重力方向に対して傾斜していてもよい。そして、本電池(蓄電デバイス)では、積層方向下側に配置されたセパレータ(例えば、符号2C)は、積層方向上側に配置されたセパレータ(例えば、符号2A)と比較して、電解液に対する接触角が大きくなる。
【0015】
ここで、電解液に対する接触角が相対的に大きい(濡れにくい)と、電極上の電解液量分布が不均一になる傾向がある。それに伴い、電極上のイオン供給能にムラが生じる。その結果、Li核形成反応がイオン供給能の高い箇所で局所的に進行する。一方、電解液に対する接触角が相対的に小さい(濡れやすい)と、Li核形成反応が電極上で均一に進行する。すなわち、Li核生成量は、電解液に対する接触角が小さい部分が、電解液に対する接触角が大きい部分よりも多くなる。これが原因となり、接触角の大小でLi核生成量に差が生じる。そして、Li核生成量が多いと、その分有効反応面積が増加するため、過電圧が小さくなり、Li析出反応が進行しやすくなる。一方、Li核生成量が少ないと、その分有効反応面積が減少するため、過電圧が大きくなり、Li析出反応が進行しづらくなる。
以上より、電解液に対する接触角が小さい部分は、Li析出が起こりやすく、電解液に対する接触角が大きい部分は、Li析出が起こりにくくなると考えられる。
【0016】
したがって、本電池では、積層圧力によりLi析出が起きやすい積層方向下側に配置されたセパレータの電解液に対する接触角を、積層圧力によりLi析出が起きにくい積層方向上側に配置されたセパレータの電解液に対する接触角よりも大きくする。それにより、積層圧力によるLi析出挙動の差異を、セパレータの電解液に対する接触角によるLi析出挙動の差異により相殺し、Li析出挙動を積層方向において均一化できる。さらに、セパレータの電解液に対する接触角の変更は、セパレータの表面構成を、例えば無機層を塗工するなど、一部変更することで達成できるため、安全性や電池性能を損なうことなく、セル劣化の抑制を実現できる。このように、Li析出挙動に影響を与える因子として、電極にかかる圧力とセパレータ濡れ性の2点が挙げられ、濡れ性はセパレータ表面の無機層の有無やその種類等により容易に調整できる。ここでは、セパレータ表面に無機層を形成する方法を記載しているが、セパレータ表面の濡れ性を調整できる方法であれば、従来公知の方法を適宜使用できる。
【0017】
また、積層方向上側と下側におけるセパレータの電解液に対する接触角の差は、積層方向下側のセパレータの接触角が積層方向上側のセパレータの接触角よりも大きければ本開示の効果が得られるため、当該差自体は適宜調整でき、特に限定されない。
【0018】
本電池において、セパレータ、無機層および電解液等の構成要素は、上述した条件を満たし、本開示の効果が得られる範囲で従来公知のものを適宜使用でき、特に限定されない。また、本電池の構成も、上述した条件を満たし、本開示の効果が得られる範囲で従来公知のものを適宜使用できる。
例えば、正極は、正極集電体(例えば、Al箔)およびリチウムイオンを放出・吸蔵する正極活物質を含むことができ、さらに、導電材(例えば、カーボンブラック)およびバインダ(例えば、ポリフッ化ビニリデン)などを含んでいてもよい。正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O、Li(NiCoAl)O、およびLiFePOなどのLi含有化合物を用いることができる。
また、負極は、負極集電体(例えば、Cu箔、Ni箔、ステンレス箔、Al箔)およびリチウムイオンを吸蔵する負極活物質を含むことができ、さらに、導電材およびバインダ(例えば、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース)などを含んでいてもよい。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiO、Si基合金、Sn、SnO、Sn基合金、LiNなどのリチウム窒化物、リチウム金属、およびLiTi12などを用いることができる。
セパレータは、例えば、電気絶縁性の多孔質フィルム(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))を含むことができ、多孔質フィルムの表面に絶縁粒子およびバインダを含む絶縁層や無機層などを配置できる。セパレータ表面は濡れ性を調整するため、様々な表面処理を行うことができる。また、セパレータは、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。
電解液は、溶媒および電解質を含むことができる。溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレングリコールジメチルエーテル(G1)およびジエチレングリコールジメチルエーテル(G2)などを用いることができる。電解質は、例えば、LiPF、LiBF、およびLiN(FSOを用いることができる。これらの配合も適宜調整できる。
無機層は、例えば、金属、半導体、またはこれらの酸化物、窒化物を用いることができ、より具体的には、アルミナ(Al)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、二酸化チタン(TiO)、二酸化ケイ素(SiO)、ベーマイト(AlOOH)などを用いることができる。
また、本電池を構成する各要素の積層方向における厚さなども適宜調整でき、特に限定されない。
【0019】
ここで、図1は、本実施形態に係る積層型電池の構成を説明するための概略断面図を示す。また、図1中、符号2A、2Bおよび2Cは、それぞれ、第1のセパレータ、第2のセパレータおよび第3のセパレータを表す。
【0020】
上述したように、セパレータの電解液に対する接触角を変化させる方法としては、従来公知の方法を適宜採用できるが、例えば、セパレータ表面に無機層を付与したり、当該無機層の種類を変化させたりすることで、当該接触角を変化させることができる。したがって、本電池は、例えば、積層方向上側に配置されたセパレータに無機層を有し、鉛直下側に配置されたセパレータに無機層を有さない構成とすることができる。
【0021】
なお、本電池では、上述したように、平置き特有の積層方向における圧力差によるLi析出挙動変化を、セパレータの特性(濡れ性)を積層方向において変化させることで均一化し、安全性や電池性能を損なうことなく、セル劣化の抑制を実現するものである。したがって、本電池では、1つのセル内に複数のセパレータを有し、前記1つのセル内で、積層方向おいて、セパレータ構成(セパレータ種)を変化させてもよい。あるいは、複数のセルを有し、積層方向上側に配置されたセル中のセパレータ構成と、積層方向下側に配置されたセル中のセパレータ構成とを変化させてもよい。
【0022】
このように、本電池では、鉛直方向(積層方向)にセパレータ構成を変化させることが重要であり、セパレータ構成は多積層された1セル内で変化させてもよいし、鉛直方向に積み重ねられたセルごとに、あるいは複数のセルにまたがって変化させてもよい。なお、本電池は、正極および負極がセパレータを介して重ね合わせてなる単板セル(1セル)を複数積層した構成を有することができる。
【0023】
図1に示す実施形態では、上方セル(積層方向上側セル):第1のセパレータ2A、中間セル(積層方向中間部セル):第2のセパレータ2B、下方セル(積層方向下側セル):第3のセパレータ2Cという構成になっている。より具体的には、図1では、各セル内では同一のセパレータを使用しており、鉛直方向に積み重ねられたセルごとにそのセパレータ構成を変化させている。すなわち、この実施形態では、第1~第3のセパレータ2A~2Cの電解液に対する接触角が、第1のセパレータ2Aの接触角<第2のセパレータ2Bの接触角<第3のセパレータ2Cの接触角の関係となっている。
【0024】
また、各セル内において、セパレータ構成を変化させて、セル内上層セパレータ:セパレータA、セル内中間セパレータ:セパレータB、セル内下層セパレータ:セパレータCという構成にしてもよい。その際、セパレータA~Cの電解液に対する接触角は、セパレータAの接触角<セパレータBの接触角<セパレータCの接触角の関係となる。
【0025】
上述した第1~第3のセパレータ2A~2Cと、セパレータA~Cは、無機層の塗工の有無、もしくは無機層の種類を変化させることで濡れ性(電解液に対する接触角)を変化させ、Li析出挙動を調整できる。このように、本電池では、セパレータ種を2種類以上または3種類以上用いることができる。
【0026】
なお、Li析出挙動の変化がセル劣化挙動に及ぼす影響は、セルの構成により異なると考えられる。しかし、本電池は下記のいずれの構成の電池においても適用が可能である。
a)通常セル(正極:Li含有化合物、負極:黒鉛)、
b)Li金属負極セル(正極:Li含有化合物、負極:Li金属)
【0027】
a)の通常セルの場合、圧力差によりLi析出耐性が低くなっている部位からLi析出が生じ、それが原因となりセルの劣化が加速する。一方、b)のLi金属負極セルの場合、圧力差によりLi析出形態が上層(積層方向上側)と下層(積層方向下側)で異なり、結果として、上層と下層で容量維持率に差が生じる。この容量ずれにより、セル劣化が加速する。なお、セル内の電極反応が均一でない場合に、容量の劣化が速くなることが知られている。
【0028】
本電池では、積層方向の上側と下側とで、セパレータの濡れ性を特定の関係とし、Li析出挙動の差を小さくすることで、セルの劣化を抑制できるため、上述したいずれのセルに対しても適用できる。
【実施例0029】
[実施例1]
積層型電池として、Li金属負極セル(正極:Li含有化合物、負極:Li金属)を想定し、上層(積層方向上側に配置されるセパレータ)と下層(積層方向下側に配置されるセパレータ)の容量維持率に対する以下の構成を有する本電池の効果を検証した。
・セル種:小型1対向ラミネートセル
・対向部面積:20cm
・対極:金属Li
・作用極:銅箔
・セパレータ:無機層塗工なしセパレータ・・・ポリプロピレン(PP)
無機層塗工ありセパレータ・・PP上にアルミナ(Al)を塗布
・電解液:1.1M LiPF/エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)(3:4:3 v/v)
・電流密度:3mA/cm
・充填時間:1h
Li析出の起こりやすさを表す指標として、作用極上にLi金属を析出させた際のLi金属核発生過電圧(核発生過電圧が小さいほど、Li金属析出が起こりやすいことを意味する)を用い、下記表1の4種類の組み合わせにて測定を行った。なお、図2に示すように、核発生過電圧Voは、初回充電時の負極電位カーブにおける、初回充電時の負極電位(vs.Li/Li)の最小値の絶対値とした。図2は、Li金属の核発生過電圧の算出方法を説明するための図であり、図2に示す、無機層塗工なしセパレータのVoは406mVであった。表1に、拘束圧(積層方向における圧力)・セパレータ種の組み合わせによるLi金属核発生過電圧値を示す。
ここで、上記無機層塗工ありセパレータは、上記電解液に対する接触角が16.2°であり、相対的に接触角が小さく、Li析出が起こりやすいものであった。また、上記無機層塗工なしセパレータは、上記電解液に対する接触角が37.2°であり、相対的に接触角が大きく、Li析出が起こりにくいものであった。
なお、電解液のセパレータに対する接触角は、JIS R3257:1999に記載の静滴法に準拠し、測定する。具体的には、室温(25℃±5℃)の環境下で、1μl以上、4μl以下の電解液をセパレータ上に液滴として静置し、1分以内に接触角を計測した。
【表1】
【0030】
表1に示すように、電極にかかる圧力の小さい上層に無機層塗工ありセパレータを用いて、電極にかかる圧力の大きい下層に無機層塗工なしセパレータを用いることで、積層方向における圧力差に起因するLi析出耐性差(Li金属核発生過電圧の差異)を解消できる。したがって、これらのセパレータを、積層型電池の積層方向上側と下側とに用いることにより、セル劣化の抑制を実現可能である。
【0031】
[実施例2]
積層型電池として、通常セル(正極:Li含有化合物、負極:黒鉛)を想定し、上層と下層のLi析出耐性差に対する以下の構成を有する本電池の効果を検証した。
・セル種:小型1対向ラミネートセル
・対向部面積:20cm
・対極:金属Li
・作用極:銅箔
・セパレータ:無機層塗工なしセパレータ・・・PP
無機層塗工ありセパレータ・・PP上にAlを塗布
・電解液:1.1M LiPF/EC:DMC:EMC(3:4:3 v/v)
・電流密度:3mA/cm
・充填時間:1h
図3は、実施例2において、作用極上へのLi金属析出/溶解反応を、10サイクル行った際の放電容量維持率の推移を示すグラフである。放電容量維持率は、充放電の各サイクルを行った後の容量を、充放電を行う前の容量で除した値(×100%)である。なお、図3中のi~ivは以下のものを示す。
i)拘束圧小(上層相当、8kPa)であって無機層塗工なしセパレータ(接触角:37.2°)を用いたもの。
ii)拘束圧小(上層相当、8kPa)であって無機層塗工ありセパレータ(接触角:16.2°)を用いたもの。
iii)拘束圧大(下層相当、38kPa)であって無機層塗工なしセパレータ(接触角:37.2°)を用いたもの。
iv)拘束圧大(下層相当、38kPa)であって無機層塗工ありセパレータ(接触角:16.2°)を用いたもの。
【0032】
図3に示すように、電極にかかる圧力の小さい上層に無機層塗工ありセパレータ(上記ii)を用いて、電極にかかる圧力の大きい下層に無機層塗工なしセパレータ(上記iii)を用いることで、積層方向における圧力差に起因する容量維持率差を解消できる。したがって、これらのセパレータを、積層型電池の積層方向上側と下側とに用いることにより、セル劣化の抑制を実現可能である。
このように、本電池では、1つのセル内または積層方向におけるセルごとあるいは複数のセルにわたって、積層方向上側および下側にて接触角(濡れ性)が異なるセパレータを用いる。それにより、Li析出耐性ムラ、容量維持率ムラを低減して、Li析出挙動を均一化し、平置き型セルの劣化を抑制できる。
【0033】
以上で説明した本実施形態に係る発明により、平置き型電池として使用した場合であっても、積層方向の上側と下側とで生じるLi析出挙動の差を小さく抑え、セル劣化を抑制可能な積層型電池を提供できる。
【0034】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本電池を単電池として用いてもよいし、当該単電池を複数積層し、定置用や車載用の組電池として用いてもよい。また、本電池は、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池などの多種多様な電池に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 電極
2A 第1のセパレータ
2B 第2のセパレータ
2C 第3のセパレータ
Vo 核発生過電圧
図1
図2
図3