(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000931
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】描画装置、描画方法、および原版の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231226BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
H01L21/30 541J
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099937
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】香川 譲徳
【テーマコード(参考)】
5F056
【Fターム(参考)】
5F056AA07
5F056CA25
5F056CC04
(57)【要約】
【課題】描画の停止に伴う問題を抑制することが可能な描画装置、描画方法、および原版の製造方法を提供する。
【解決手段】一の実施形態によれば、描画装置は、ビームにより複数の領域にパターンを描画する描画部と、前記複数の領域へのビーム照射用のデータを転送する演算部と、前記演算部から転送された前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部による前記複数の領域への描画を制御する制御部とを備える。前記制御部は、第1領域への描画の後に第2領域への描画が行われる場合に、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正する、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームにより複数の領域にパターンを描画する描画部と、
前記複数の領域へのビーム照射用のデータを転送する演算部と、
前記演算部から転送された前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部による前記複数の領域への描画を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、第1領域への描画の後に第2領域への描画が行われる場合に、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正する、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮する、
描画装置。
【請求項2】
前記複数の領域は、描画領域を所定の方向に分割することで得られる複数のストライプである、請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記補正は、前記描画部のビームドリフト補正である、請求項1に記載の描画装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記複数の領域へのビーム照射用の前記データを、前記複数の領域へのパターン描画用のデータから生成する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項5】
前記複数の領域へのパターン描画用の前記データは、描画データであり、
前記複数の領域へのビーム照射用の前記データは、ショットデータである、
請求項4に記載の描画装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1領域への描画が完了する際に前記第2領域用の前記データの転送が未完了であるか否かを判定する判定部を含み、
前記制御部は、前記第1領域への描画が完了する際に前記第2領域用の前記データの転送が未完了であると判定された場合に、前記第2領域への描画が開始される前に前記描画部の状態を補正する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2領域用の前記データが所定の条件を満たしているか否かを判定する判定部を含み、
前記制御部は、前記第2領域用の前記データが所定の条件を満たしていると判定された場合に、前記第2領域への描画が開始される前に前記描画部の状態を補正する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第2領域用の前記データが所定の条件を満たしているか否かを判定する判定部を含み、
前記制御部は、前記第2領域用の前記データが所定の条件を満たしていると判定された場合に、前記第1領域への描画の完了を遅らせる、請求項1に記載の描画装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第2領域用の前記データが所定の条件を満たしていると判定された場合に、前記第2領域への描画が開始される前に前記描画部の状態を補正し、かつ、前記第1領域への描画の完了を遅らせる、請求項8に記載の描画装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記第2領域用の前記データのボリュームが所定の条件を満たしているか否かを判定する、請求項7に記載の描画装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記第2領域用の前記データに含まれる図形の個数が所定の条件を満たしているか否かを判定する、請求項7に記載の描画装置。
【請求項12】
前記判定部は、前記第2領域用の前記データの転送が完了する前の待ち時間が所定の条件を満たしているか否かを判定する、請求項7に記載の描画装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部の描画動作を予測し、前記描画動作の予測結果に基づいて、前記描画部の描画動作を補正する描画動作補正部を含み、
前記描画動作補正部は、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正すること、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮することを考慮に入れて、前記描画部の描画動作を予測する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項14】
前記描画動作補正部は、前記描画部の描画動作として、前記描画部による前記ビームの照射位置を予測および補正する、請求項13に記載の描画装置。
【請求項15】
描画部のビームにより複数の領域にパターンを描画する際に、前記複数の領域へのビーム照射用のデータを演算部から転送し、
前記演算部から転送された前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部による前記複数の領域への描画を制御部により制御する、
ことを含み、
前記制御部は、第1領域への描画の後に第2領域への描画が行われる場合に、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正する、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮する、
描画方法。
【請求項16】
描画部のビームにより複数の領域にパターンを描画する際に、前記複数の領域へのビーム照射用のデータを演算部から転送し、
前記演算部から転送された前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部による前記複数の領域への描画を制御部により制御し、
前記ビームにより前記パターンが描画された基板から原版を製造する、
ことを含み、
前記制御部は、第1領域への描画の後に第2領域への描画が行われる場合に、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正する、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮する、
原版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、描画装置、描画方法、および原版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームにより基板にパターンを描画する際、描画の開始から完了までの間に描画を一時的に停止することがある。この場合、電子ビームの照射位置が所定の位置からずれるビームドリフトなどの問題が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
描画の停止に伴う問題を抑制することが可能な描画装置、描画方法、および原版の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一の実施形態によれば、描画装置は、ビームにより複数の領域にパターンを描画する描画部と、前記複数の領域へのビーム照射用のデータを転送する演算部と、前記演算部から転送された前記複数の領域用の前記データに基づいて、前記描画部による前記複数の領域への描画を制御する制御部とを備える。前記制御部は、第1領域への描画の後に第2領域への描画が行われる場合に、前記第1領域への描画の完了と前記第2領域用の前記データの転送の完了との間に前記描画部の状態を補正する、または、前記第1領域への描画の完了を遅らせることで前記第1領域への描画の完了から前記第2領域用の前記データの転送の完了までの時間を短縮する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の描画装置の構造を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態のフォトマスクの製造方法を説明するための断面図である。
【
図3】第1実施形態の描画方法を説明するためのレイアウト図およびグラフである。
【
図4】第1実施形態の描画パターンの例を説明するためのレイアウト図である。
【
図5】第1実施形態の比較例の描画装置の動作を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。
【
図7】第2実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。
【
図8】第3実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。
【
図9】第4実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1~
図9において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の描画装置の構造を示す模式図である。本実施形態の描画装置は例えば、電子ビームBにより基板Sにパターンを描画する電子ビーム(EB)描画装置である。後述するように、基板Sはレジスト膜を含んでおり、電子ビームBによりレジスト膜にパターンが描画される。
【0009】
本実施形態の描画装置は、本体1と、計算機2と、記憶装置3とを備えている。本体1は、電子銃11と、集束レンズ12と、成形アパーチャアレイ部材13と、ビームブランキング電極アレイ14と、投影レンズ15と、制限アパーチャ部材16と、対物レンズ17と、偏向器18と、ステージ21と、ビーム制御装置22と、基準マーク23とを備えている。本体1は、描画部の例である。計算機2は、演算部の例である。ビーム制御装置22は、制御部および判定部の例である。
【0010】
本体1は、電子ビームBにより基板Sにパターンを描画するための種々のハードウェアを含んでいる。
図1は、本体1の向きを示すための方向として、互いに垂直なX方向、Y方向、およびZ方向を示している。この明細書では、+Z方向を上方向として取り扱い、-Z方向を下方向として取り扱う。-Z方向は、重力方向と一致していてもよいし、重力方向と一致していなくてもよい。
図1では、基板Sの表面が、X方向およびY方向に平行となっており、かつZ方向に垂直となっている。
【0011】
計算機2は、基板Sにパターンを描画するための描画データから、基板Sに電子ビームBを照射するためのショットデータを生成し、ショットデータを本体1に転送する。ショットデータは、描画データをショットごとに分割することで生成される。本体1は、計算機2から転送されたショットデータを用いて、描画を行う。
【0012】
記憶装置3は、描画データなどの種々の情報を記憶している。計算機2は、記憶装置3から描画データを読み出し、読み出した描画データからショットデータを生成する。
【0013】
電子銃11は、電子ビームBを発生させる。集束レンズ12は、電子銃11から発生した電子ビームBを集束させる。成形アパーチャアレイ部材13は、集束レンズ12を通過した電子ビームBを成形する複数のアパーチャ(アパーチャアレイ)を含んでいる。ビームブランキング電極アレイ14は、成形アパーチャアレイ部材13を通過した電子ビームBをブランキングする複数の電極(電極アレイ)を含んでいる。投影レンズ15は、ビームブランキング電極アレイ14を通過した電子ビームBを投影する。制限アパーチャ部材16は、投影レンズ15を通過した電子ビームBの形状や寸法を変化させるアパーチャを含んでいる。対物レンズ17は、制限アパーチャ部材16を通過した電子ビームBの焦点を合わせる。偏向器18は、対物レンズ17を通過した電子ビームBを偏向させて、電子ビームBの通過位置や軌道を制御する。偏向器18により偏向された電子ビームBは、基板Sに照射される。
【0014】
ステージ21は、電子銃11の下方で基板Sを支持する。電子銃11から発生した電子ビームBは、ステージ21上に載置された基板Sに照射される。ステージ21はさらに、X方向およびY方向に移動することで、基板SのX方向およびY方向の位置を制御することができる。これにより、基板Sに対する電子ビームBの照射位置を制御することが可能となる。基板Sに対する電子ビームBの照射位置は、偏向器18によっても制御することが可能である。
【0015】
ビーム制御装置22は、電子ビームBに対する種々の制御を行う。例えば、ビーム制御装置22は、電子ビームBの発生タイミング、形状、寸法、通過位置、軌道、照射位置などを制御する。このような制御は、電子銃11、成形アパーチャアレイ部材13、ビームブランキング電極アレイ14、制限アパーチャ部材16、偏向器18、ステージ21などの位置や動作を制御することで行われる。ビーム制御装置22は、計算機2から転送されたショットデータに基づいて、このような制御を行う。これにより、ショットデータに基づいて基板Sに電子ビームBが照射され、基板Sに所望のパターンが描画される。ビーム制御装置22のさらなる詳細については、後述する。
【0016】
基準マーク23は、電子ビームBのビームドリフトを検出するために用いられるマークである。ビームドリフトは、電子ビームBの照射位置が、所望の位置からずれてしまう現象である。本実施形態の基板マーク23は、ステージ21上に配置されており、平面視で十字型の形状を有している。ビームドリフトは例えば、描画装置や基板Sが帯電することで生じる。ビームドリフトが生じると、電子ビームBの照射位置の精度が劣化するおそれがある。
【0017】
本実施形態の描画装置は、基準マーク23を電子ビームBでスキャンして、基準マーク23と電子ビームBとの位置ずれ量を算出することで、ビームドリフトによる位置ずれを検出する。そして、本実施形態の描画装置は、この位置ずれ量を適正値に補正するビームドリフト補正を行う。これにより、電子ビームBの照射位置の精度を高く保つことが可能となる。本実施形態の描画装置は、電子ビームBの時間的変化による精度劣化を抑制するために、描画中に定期的にビームドリフト補正を行う。ビームドリフト補正に関する制御は、ビーム制御装置22により行われる。
【0018】
本実施形態では例えば、半導体装置の製造時にリソグラフィで用いられるフォトマスクを、基板Sから製造する。代わりに、ナノインプリント用のテンプレートを、基板Sから製造してもよい。これらフォトマスクおよびテンプレートは、原版の例である。さらに、本実施形態の描画装置は、電子ビームB以外のビーム、例えば、電子以外の荷電粒子を利用した荷電粒子ビームで描画を行ってもよい。
【0019】
図2は、第1実施形態のフォトマスクの製造方法を説明するための断面図である。
【0020】
まず、透光基板31と、遮光層32と、レジスト膜33とを含む基板Sを用意する(
図2(a))。
図2(a)では、透光基板31上に遮光層32が設けられ、遮光層32上にレジスト膜33が設けられている。透光基板31は例えば、ガラス基板や石英基板等である。遮光層32は例えば、Cr(クロム)層である。
【0021】
次に、本実施形態の描画装置によりレジスト膜33にパターンを描画し、その後にレジスト膜33を現像する(
図2(b))。その結果、レジスト膜33に描画されたパターンに基づいて、レジスト膜33からレジストパターン33aが形成される。
図2(b)では、透光基板31をステージ21上に載置し、電子ビームBをレジスト膜33に照射することで、描画が行われる。
【0022】
次に、レジスト膜33をエッチングマスクとして用いて、遮光層32を加工する(
図2(c))。その結果、レジストパターン33aが遮光層32に転写され、遮光層32から遮光パターン32aが形成される。遮光層32は例えば、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング、または薬液を用いたウェットエッチングにより加工される。
【0023】
次に、レジスト膜33を除去する(
図2(d))。このようにして、基板Sからフォトマスクが製造される。
【0024】
図3は、第1実施形態の描画方法を説明するためのレイアウト図およびグラフである。
【0025】
図3(a)は、記憶装置3内の描画データが示しているレイアウトの例を示している。本実施形態の描画装置は、電子ビームBにより基板Sの描画領域にパターンを描画する。
図3(a)に示す領域41は、描画データ内に含まれるデータ上の領域であり、基板Sの描画領域に対応している。よって、領域41内に示されている図形が、基板Sの描画領域内にパターンとして描画されることになる。以下、説明を分かりやすくするために、領域41を「描画領域41」と表記することにする。上記のように、描画領域41は、基板Sの実際の描画領域ではなく、描画データ内に含まれるデータ上の描画領域である。
図3(a)に示すx方向およびy方向はそれぞれ、
図1に示すX方向およびY方向に対応している。また、基板Sの描画領域内に電子ビームBにより描画されるパターンを「描画パターン」と呼ぶことにする。
【0026】
図3(a)では、描画領域41が、2つの領域R1と、6つの領域R2と、これらの領域R1、R2間に挟まれた1つの領域R3とを含んでいる。これらの領域R1、R2、R3の各々は、描画パターンとなる複数の図形を含んでいる。ただし、これらの図形の、単位面積あたりの個数が、各領域R1では多くなっており(高図形数領域)、各領域R2では中程度となっており(中図形数領域)、領域R3では少なくなっている(低図形数領域)。これらの領域R1、R2、R3の例は、後述する
図4に示されている。
【0027】
図3(b)は、描画領域41内の個々の箇所の、単位面積当たりのデータボリューム(データ容量)を、
図3(a)に示すA-A’線に沿って示している。一般に、描画データのデータボリュームは、単位面積あたりの図形の個数が多い箇所で大きくなる。よって、
図3(b)では、領域R1のデータボリュームが大きくなっており、領域R2のデータボリュームが中程度となっており、領域R3のデータボリュームが小さくなっている。
【0028】
後述するように、描画データのデータボリュームが大きくなると、ショットデータの生成および転送に長い時間がかかるおそれがある。その結果、ショットデータが計算機2から本体1(ビーム制御装置22)に所望のタイミングに届かずに、描画中に計算機2からビーム制御装置22へのデータパス待ち(転送待ち)が生じるおそれがある。データパス待ちのさらなる詳細については、後述する。
【0029】
図4は、第1実施形態の描画パターンの例を説明するためのレイアウト図である。
【0030】
図4(a)、
図4(b)、および
図4(c)はそれぞれ、領域R3、領域R2、および領域R1のレイアウトの例を示している。これらの領域R1、R2、R3の各々は、複数の大きい図形42を含んでいる。一方、領域R3は、小さい図形43を含んではおらず、領域R2は、小さい図形43を少しだけ含んでおり、領域R1は、小さい図形43を多く含んでいる。その結果、これらの図形42、43の、単位面積あたりの個数が、領域R1では多くなっており、領域R2では中程度となっており、領域R3では少なくなっている。なお、図形43は、いわゆるSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)パターンとなる図形でもよい。
【0031】
次に、第1実施形態の比較例の描画装置の動作について説明し、その後、第1実施形態の描画装置の動作について説明する。なお、第1実施形態の描画装置について説明する際だけでなく、比較例の描画装置について説明する際にも、
図1に示す符号を使用する。
【0032】
図5は、第1実施形態の比較例の描画装置の動作を説明するための図である。
【0033】
図5(a)は、本比較例の描画データが示しているレイアウトの例を示している。
図5(a)に示すレイアウトは、
図3(a)に示すレイアウトと同じである。そのため、
図5(a)に示す描画領域41は、2つの領域R1(高図形数領域)と、6つの領域R2(中図形数領域)と、1つの領域R3(低図形数領域)とを含んでいる。
【0034】
本比較例の描画装置は、基板Sの描画領域を複数のストライプに分割し、基板Sの描画領域にストライプごとにパターンを描画する。これらのストライプは、基板Sの描画領域をY方向に分割することで得られる。そのため、各ストライプは、X方向に延びる領域となる。Y方向は、所定の方向の例である。本比較例の描画装置は、これらのストライプにパターンを順番に描画する。
【0035】
図5(a)に示す領域S(N-2)、S(N-1)、S(N)は、描画データ内に含まれるデータ上の領域であり、描画領域を分割して得られる複数のストライプに対応している(Nは正の整数)。符号Nは、各ストライプにパターンが描画される順番を表す。よって、これらのストライプは、S(N-2)、S(N-1)、S(N)の順番で描画されることとなる。以下、説明を分かりやすくするために、これらの領域S(N-2)、S(N-1)、S(N)を「ストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)」と表記することにする。上記のように、これらのストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)は、基板Sの実際のストライプではなく、描画データ内に含まれるデータ上のストライプである。本比較例のストライプはさらに、ストライプS(N-2)よりも前に描画されるストライプや、ストライプS(N)よりも後に描画されるストライプを含んでいる。これらのストライプは、ビームによりパターンが描画される複数の領域の例である。
【0036】
上述のように、ショットデータは、描画データをショットごとに分割することで生成される。ショットデータは、各ストライプ用に生成される。例えば、ストライプS(N-2)の描画パターンは、ストライプS(N-2)用のショットデータを用いて描画され、ストライプS(N-1)の描画パターンは、ストライプS(N-1)用のショットデータを用いて描画され、ストライプS(N)の描画パターンは、ストライプS(N)用のショットデータを用いて描画される。
【0037】
図5(a)はさらに、矢印Tで示すように、本比較例の描画装置のビームドリフト補正を行うタイミングを、黒丸で示している。本比較例では、描画装置が描画を開始すると、描画開始から1分後に1回目のビームドリフト補正が行われ、1回目のビームドリフト補正から2分後に2回目のビームドリフト補正が行われ、2回目のビームドリフト補正から3分後に3回目のビームドリフト補正が行われる。Ka回目のビームドリフト補正(Kaは2~12の整数)は、Ka-1回目のビームドリフト補正からKa分後に行われる。その後、Kb回目のビームドリフト補正(Kbは13以上の整数)は、Kb-1回目のビームドリフト補正から12分後に行われる。すなわち、本比較例のビームドリフト補正のインターバルは、1分、2分、3分、・・・10分、11分、12分、12分、12分、・・・と変化していく。
【0038】
なお、
図5(a)を参照して説明した内容は、第1実施形態や、後述する第2~第4実施形態にも同様に適用される。
【0039】
図5(b)は、計算機2がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)用のショットデータを生成および転送するタイミングと、本体1がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)についての描画を行うタイミングとを示している。
図5(b)では、時間が進む方向が、下向きの矢印で示されている。
【0040】
図5(b)にて、ボックスA(N-2)、A(N-1)、A(N)はそれぞれ、計算機2がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)用のショットデータを生成および転送するタイミングを示している。ボックスA(N-2)から出ている矢印の始点は、計算機2からビーム制御装置22に、ストライプS(N-2)用のショットデータの転送が開始されるタイミングを示し、ボックスA(N-2)から出ている矢印の終点は、計算機2からビーム制御装置22に、ストライプS(N-2)用のショットデータの転送が完了するタイミングを示している。これは、ボックスA(N-1)から出ている矢印や、ボックスA(N)から出ている矢印についても同様である。
【0041】
図5(b)にて、ボックスB(N-2)、B(N-1)、B(N)はそれぞれ、本体1がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)についての描画を行うタイミングを示している。ボックスB(N-2)の上辺は、ストライプS(N-2)についての描画が開始されるタイミングを示し、ボックスB(N-2)の下辺は、ストライプS(N-2)についての描画が完了するタイミングを示している。これは、ボックスB(N-1)の上辺および下辺や、ボックスB(N)の上辺および下辺についても同様である。ストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)についての描画はそれぞれ、ストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)用のショットデータの転送が完了したタイミングで開始されており、その後に完了している。ボックスCは、ストライプS(N-1)についての描画の完了から、ストライプS(N)についての描画の開始までの間に、データパス待ちが生じていることを示している。
【0042】
ここで、本比較例の問題点について説明する。
【0043】
図5(a)に示すように、ストライプS(N-2)の大部分は、領域R2内に位置し、ストライプS(N-1)は、領域R3内に位置し、ストライプS(N)の大部分は、領域R1内に位置している。そのため、ストライプS(N)用のショットデータは、単位面積あたりに多くの図形を含んでおり、データボリュームが大きくなっている。
【0044】
図5(b)では、ボックスA(N)の縦幅(すなわち、時間)が、ボックスA(N-2)の縦幅や、ボックスA(N-1)の縦幅よりも長くなっている。これは、ストライプS(N)用のショットデータのボリュームが大きく、このショットデータの生成および転送に長い時間がかかっていることを示している。その結果、このショットデータが、ストライプS(N-1)についての描画の完了までに計算機2からビーム制御装置22に届かずに、ストライプS(N)についての描画の開始前にデータパス待ちが生じている。
図5(b)では、ストライプS(N-1)についての描画が完了するタイミングが、ストライプS(N)用のショットデータの転送が完了するタイミングよりも前となっている。すなわち、ボックスB(N-1)の下辺で示されるタイミングが、ボックスA(N)からの矢印の終点(ボックスB(N)の上辺)で示されるタイミングよりも前となっている。
【0045】
本比較例の描画装置は、このデータパス待ちの間、電子ビームBが基板Sに到達しないように、電子ビームBをビームブランキング電極アレイ14によりブランキングして、描画を一時的に停止する。すなわち、ブランキングにより描画の待ち時間が発生する。これは、電子ビームBのビームドリフトが生じる原因となる。例えば、描画装置や基板Sが、ブランキングされた電子ビームBが原因で帯電することで、電子ビームBのビームドリフトが生じるおそれがある。その結果、その後にストライプS(N)についての描画を行う際に、電子ビームBの照射位置が、所望の位置からずれてしまう。
【0046】
図6は、第1実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。
【0047】
図6(a)は、
図3(a)や
図5(a)と同様に、本実施形態の描画データが示しているレイアウトの例を示している。
図6(a)に示すレイアウトは、
図3(a)や
図5(a)に示すレイアウトと同じである。
【0048】
図6(b)は、
図5(b)と同様に、計算機2がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)用のショットデータを生成および転送するタイミングと、本体1がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)についての描画を行うタイミングとを示している。ただし、本実施形態の描画装置は、
図6(b)に示す左の描画タイミングが発生すると予想される場合、代わりに
図6(b)に示す右の描画タイミングを採用する。
図6(b)に示す白抜きの矢印は、
図6(b)に示す左の描画タイミングから右の描画タイミングへの置き換えを示している。ボックスDは、ストライプS(N-1)についての描画の完了から、ストライプS(N)についての描画の開始までの間に、ビームドリフト補正が行われることを示している。これらのストライプS(N-1)、S(N)(より正確には、データ上のストライプS(N-1)、S(N)に対応する、基板Sの実際のストライプ)はそれぞれ、第1および第2領域の例である。以下、
図6(b)に示す左および右の描画タイミングのさらなる詳細を説明する。
【0049】
図6(b)に示す左の描画タイミングは、ボックスA(N)およびボックスCの大きさ以外、
図5(b)に示す描画タイミングと同じである。
図6(b)に示すボックスCは、この描画タイミングを採用した場合に、ストライプS(N-1)についての描画の完了から、ストライプS(N)についての描画の開始までの間に、データパス待ちが生じることを示している。このデータパス待ちは、ストライプS(N)用のショットデータの生成および転送に長い時間がかかることで生じる。
【0050】
そこで、本実施形態のビーム制御装置22(
図1)は、ストライプS(N-1)についての描画が完了する際にストライプS(N)用のショットデータの転送が未完了であるか否かを判定する。すなわち、ボックスA(N)からの矢印の終点(ボックスB(N)の上辺)で示されるタイミングが、ボックスB(N-1)の下辺で示されるタイミングの後であるか否かが判定される。ビーム制御装置22は例えば、ビーム制御装置22がストライプS(N)用の全ショットデータをまだ受信していないことを検出することで、ストライプS(N)用のショットデータの転送が完了していないことを検出できる。さらに、ビーム制御装置22は例えば、ビーム制御装置22がストライプS(N-1)についての全描画をすでに行ったことを検出することで、ストライプS(N-1)についての描画が完了したことを検出することができる。
【0051】
ストライプS(N-1)についての描画が完了する際にストライプS(N)用のショットデータの転送が未完了であると判定された場合には、ビーム制御装置22は、
図6(b)に示す右の描画タイミングを採用する。すなわち、本実施形態の描画装置は、ビーム制御装置22による制御のもと、ストライプS(N)についての描画が開始される前にビームドリフト補正を行う。このビームドリフト補正は、ボックスDで示されており、
図6(a)に黒丸で示すビームドリフト補正とは別に行われる。この場合、ストライプS(N)についての描画は、ボックスDで示すビームドリフト補正が完了した後に行われる。このビームドリフト補正は、描画部の状態の補正の例である。
【0052】
なお、以上のような判定は、その他のストライプについても同様に行われる。例えば、ストライプS(N-2)についての描画が完了する際にストライプS(N-1)用のショットデータの転送が未完了であると判定された場合には、ストライプS(N-1)についての描画が開始される前にビームドリフト補正が行われる。
【0053】
以上のように、本実施形態の描画装置は、
図6(b)に示す左の描画タイミングの代わりに、
図6(b)に示す右の描画タイミングを採用する。よって、本実施形態によれば、描画の停止に伴う問題を抑制することが可能となる。例えば、データパス待ち中に電子ビームBをブランキングして描画を一時的に停止すると、電子ビームBのビームドリフトが生じるおそれがある。本実施形態によれば、このような描画停止中に代わりにビームドリフト補正を行うことで、描画停止がビームドリフトの原因になることを抑制することが可能となる。
【0054】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。本実施形態の描画装置の構造は、第1実施形態の描画装置と同様に、
図1に示す通りである。
【0055】
図7(a)は、
図6(a)等と同様に、本実施形態の描画データが示しているレイアウトの例を示している。
図7(a)に示すレイアウトは、
図6(a)等に示すレイアウトと同じである。ただし、
図7(a)は、ストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)に加えて、ストライプ(N+1)を示している。ストライプS(N+1)の大部分は、ストライプS(N)と同様に、領域R1内に位置している。そのため、ストライプS(N+1)用のショットデータは、単位面積あたりに多くの図形を含んでおり、データボリュームが大きくなっている。
【0056】
図7(b)は、
図6(b)等と同様に、計算機2がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)、S(N+1)用のショットデータを生成および転送するタイミングと、本体1がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N) 、S(N+1)についての描画を行うタイミングとを示している。ただし、本実施形態の描画装置は、
図7(b)に示す左の描画タイミングが発生すると予想される場合、代わりに
図7(b)に示す右の描画タイミングを採用する。
図7(b)に示すボックスDは、ストライプS(N)についての描画の完了から、ストライプS(N+1)についての描画の開始までの間に、ビームドリフト補正が行われることを示している。
図7(b)において、これらのストライプS(N)、S(N+1)(より正確には、データ上のストライプS(N)、S(N+1)に対応する、基板Sの実際のストライプ)はそれぞれ、第1および第2領域の例である。
図7(b)はさらに、ストライプS(N+1)に対応するボックスA(X+1)、B(X+1)を示している。以下、
図7(b)に示す左および右の描画タイミングのさらなる詳細を説明する。
【0057】
図7(b)に示す左の描画タイミングは、ストライプS(N-1)とストライプS(N)との間の小さいボックスCと、ストライプS(N)とストライプS(N+1)との間の大きいボックスCとを含んでいる。小さいボックスCは、この描画タイミングを採用した場合に、ストライプS(N-1)についての描画の完了から、ストライプS(N)についての描画の開始までの間に、短いデータパス待ちが生じることを示している。大きいボックスCは、この描画タイミングを採用した場合に、ストライプS(N)についての描画の完了から、ストライプS(N+1)についての描画の開始までの間に、長いデータパス待ちが生じることを示している。これは、ストライプS(N+1)用のショットデータのデータボリュームが、ストライプS(N)用のショットデータのデータボリュームよりも大きく、ストライプS(N+1)用のショットデータの生成および転送に、より長い時間がかかることに起因している。この場合、大きいボックスCで示す長いデータパス待ちが、大きなビームドリフトを生じさせるおそれがある。
【0058】
そこで、本実施形態のビーム制御装置22(
図1)は、描画データが、大きいボックスCで示す長いデータパス待ちを生じさせるような、データボリュームの大きいショットデータを含んでいるか否かを判定する。例えば、各ストライプのショットデータのデータボリュームが、閾値より大きいか否かが判定される。代わりに、各ストライプのショットデータに含まれる図形の個数が、閾値より多いか否かを判定してもよい。このような判定を行うために、本実施形態の描画装置は、描画を開始する前に、記憶装置3または計算機2からビーム制御装置22内に描画データを事前に登録する。これにより、ビーム制御装置22内で当該判定を行うことが可能となる。当該判定における条件は、所定の条件の例である。
【0059】
図7(b)に示す左の描画タイミングは、ストライプS(N)とストライプS(N+1)との間に大きいボックスCを含んでいる。これは、ストライプS(N+1)用のショットデータのデータボリュームが大きいことに起因している。そのため、ビーム制御装置22は、ストライプS(N+1)用のショットデータのデータボリュームが上記の条件を満たしている、すなわち、閾値より大きいと判定し、
図7(b)に示す右の描画タイミングを採用する。この場合、本実施形態の描画装置は、ビーム制御装置22による制御のもと、ストライプS(N+1)についての描画が開始される前に、短いデータパス待ちと、その後のビームドリフト補正とを行う。一方、ストライプS(N-1)とストライプS(N)との間の小さいボックスCは、
図7(b)に示す左の描画タイミングから右の描画タイミングへの置き換えで変更されていない。理由は、ストライプS(N)用のショットデータのデータボリュームが上記の条件を満たしていない、すなわち、閾値より小さいからである。
【0060】
なお、ビーム制御装置22は、各ストライプのショットデータの転送が完了する前の待ち時間(データパス待ち)が、閾値より長いか否かを判定してもよい。
図7(b)に示す左の描画タイミングは、ストライプS(N)とストライプS(N+1)との間に、待ち時間の長いボックスCを含んでいる。そのため、ビーム制御装置22は、この場合にも
図7(b)に示す右の描画タイミングを採用する。
【0061】
図7(a)は、矢印Tで示す黒丸に加え、矢印T’で示す黒丸を示している。矢印T’で示す黒丸は、ビーム制御装置22による判定の結果として上記のビームドリフト補正を行うタイミングの例を示している。
図7(a)では、領域R1内のストライプ用のショットデータが大きなデータボリュームを有するため、矢印T’で示す黒丸が、領域R1に沿って存在している。
【0062】
以上のように、本実施形態の描画装置は、
図7(b)に示す左の描画タイミングの代わりに、
図7(b)に示す右の描画タイミングを採用する。よって、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、描画の停止に伴う問題を抑制することが可能となる。さらに、本実施形態によれば、複数のデータパス待ちのうち、長いデータパス待ちを選択的にビームドリフト補正に置き換えることで、ビームドリフト補正を追加しても描画を効率的に行うことが可能となる。例えば、描画に要する時間は、
図7(b)に示す左の描画タイミングでも、
図7(b)に示す右の描画タイミングでも同じになっている。
【0063】
なお、
図7(b)に示す右の描画タイミングでは、ボックスCの後にボックスDを配置する代わりに、ボックスCの前にボックスDを配置してもよい。すなわち、ストライプS(N)についての描画の完了から、ストライプS(N+1)についての描画の開始までの間に、まずビームドリフト補正(ボックスD)を行い、次に短いデータパス待ち(ボックスC)を行ってもよい。ただし、ビームドリフト補正は描画の直前に行うことが望ましいため、
図7(b)に示すように、まず短いデータパス待ち(ボックスC)を行い、次にビームドリフト補正(ボックスD)を行う方が望ましい。
【0064】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。本実施形態の描画装置の構造は、第1実施形態の描画装置と同様に、
図1に示す通りである。
【0065】
図8(a)は、
図7(a)と同様に、本実施形態の描画データが示しているレイアウトの例を示している。
図8(a)に示すレイアウトは、
図8(a)に示すレイアウトと同じである。よって、
図8(a)は、ストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)に加えて、ストライプ(N+1)を示している。
【0066】
図8(b)は、
図7(b)と同様に、計算機2がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N)、S(N+1)用のショットデータを生成および転送するタイミングと、本体1がストライプS(N-2)、S(N-1)、S(N) 、S(N+1)についての描画を行うタイミングとを示している。ただし、本実施形態の描画装置は、
図8(b)に示す左の描画タイミングが発生すると予想される場合、代わりに
図8(b)に示す右の描画タイミングを採用する。
図8(b)に示す左の描画タイミングは、ボックスCで示されるデータ待ちパスを含んでいるが、
図8(b)に示す右の描画タイミングは、ボックスCで示されるデータ待ちパスを含んでいない。
図8(b)において、ストライプS(N-1)、S(N)はそれぞれ、第1および第2領域の例であり、ストライプS(N)、S(N+1)もそれぞれ、第1および第2領域の例である。以下、
図8(b)に示す左および右の描画タイミングのさらなる詳細を説明する。
【0067】
図8(b)に示す左の描画タイミングは、ストライプS(N-1)とストライプS(N)との間の小さいボックスCと、ストライプS(N)とストライプS(N+1)との間の大きいボックスCとを含んでいる。
図8(b)に示す左の描画タイミングは、
図7(b)に示す左の描画タイミングと同じである。
【0068】
本実施形態のビーム制御装置22(
図1)は、描画データが、ボックスCで示すデータパス待ちを生じさせるような、データボリュームの大きいショットデータを含んでいるか否かを判定する。この判定のやり方は、第2実施形態の判定と同じである。ただし、第2実施形態の判定は、大きいボックスCがあるか否かを判定するのに対し、本実施形態の判定は、ボックスCの大きさは問わず、ボックスCがあるか否かを判定する。本実施形態の判定は、第2実施形態の判定と同様に、データボリューム、図形の個数、または待ち時間を用いて行うことが可能である。例えば、各ストライプのショットデータのデータボリュームが、閾値より大きいか否かが判定される。
【0069】
図8(b)に示す左の描画タイミングは、ストライプS(N-1)とストライプS(N)との間と、ストライプS(N)とストライプS(N+1)との間に、ボックスCを含んでいる。そのため、ビーム制御装置22は、ストライプS(N)やストライプS(N+1)用のショットデータのデータボリュームが上記の条件を満たしている、すなわち、閾値より大きいと判定し、
図8(b)に示す右の描画タイミングを採用する。
【0070】
図8(b)に示す右の描画タイミングでは、ストライプS(N-1)についての描画が完了するタイミングを、ストライプS(N)についての描画が開始されるタイミングまで遅らせており、ストライプS(N)についての描画が完了するタイミングを、ストライプS(N+1)についての描画が開始されるタイミングまで遅らせている。その結果、2つのボックスC(データパス待ち)が消滅している。これにより、データパス待ちに起因してビームドリフトが生じることを抑制することが可能となる。このような動作は、ビーム制御装置22により制御される。
【0071】
ストライプS(N)についての描画の完了を遅らせると、ストライプS(N)についての描画の完了から、ストライプS(N+1)についての描画の開始までの時間が短縮される。
図8(b)では、ストライプS(N)についての描画の完了を、ストライプS(N+1)についての描画の開始まで遅らせているため、上記の時間がゼロまで短縮されている。なお、本実施形態では、上記の時間がゼロまで短縮されないように、ストライプS(N)についての描画の完了を遅らせてもよい。この場合、第2実施形態と同様のビームドリフト補正を、ストライプS(N)についての描画の完了から、ストライプS(N+1)についての描画の開始までの間に行ってもよい。すなわち、第2実施形態における「ボックスDの追加」と、第3実施形態における「ボックスCの削除」は、組み合わせて実施してもよい。これは、ストライプS(N-1)についての描画の完了を遅らせる場合にも同様である。
【0072】
以上のように、本実施形態の描画装置は、
図8(b)に示す左の描画タイミングの代わりに、
図8(b)に示す右の描画タイミングを採用する。よって、本実施形態によれば、第1および第2実施形態と同様に、描画の停止に伴う問題を抑制することが可能となる。さらに、本実施形態によれば、所定のストライプについての描画の完了を遅らせて、データパス待ちを消滅させることで、ビームドリフト補正を追加せずに第2実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。例えば、描画に要する時間は、
図8(b)に示す左の描画タイミングでも、
図8(b)に示す右の描画タイミングでも同じになっており、第2実施形態と同様に描画が効率的に行われている。
【0073】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態の描画装置の動作を説明するための図である。本実施形態の描画装置の構造は、第1実施形態の描画装置と同様に、
図1に示す通りである。また、本実施形態の描画装置は、第1実施形態の
図6(b)、第2実施形態の
図7(b)、または第3実施形態の
図8(b)に示す制御を行う。
【0074】
図9(a)は、電子ビームBの照射位置の予測結果を示す。本実施形態のビーム制御装置22(
図1)は、描画を開始する前に、電子ビームBにより各ストライプにパターンを描画する際の電子ビームBの照射位置を予測する。
図9(a)は、基板S(レジスト膜)の表面が帯電している様子を示している。電子ビームBの照射位置は、このような帯電などにより影響を受ける。
図9(a)は、電子ビームBの理想的な照射位置と、ビーム制御装置22により予測される電子ビームBの照射位置とを示している。両者を区別するために、
図9(a)は、理想的な照射位置に関する電子ビームBを「符号B’」で示している。
【0075】
ビーム制御装置22は、電子ビームBにより各ストライプにパターンを描画する際の電子ビームBの照射位置を、例えばショットデータに基づいて予測する。このような予測を行うために、本実施形態の描画装置は、描画を開始する前に、記憶装置3または計算機2からビーム制御装置22内に描画データを事前に登録する。この描画データは、第2または第3実施形態で説明した「判定」を行う際にも利用される。ビーム制御装置22は例えば、基板Sの帯電量などをショットデータに基づいて予測し、基板Sの帯電量などの予測結果に基づいて電子ビームBの照射位置を予測する。また、各ストライプの被覆率(各ストライプの全面積に占める図形の面積の比率)をショットデータに基づいて算出し、各ストライプの被覆率に基づいて電子ビームBの照射位置を予測してもよい。
【0076】
ビーム制御装置22はさらに、描画時に、電子ビームBの照射位置の予測結果に基づいて、電子ビームBの照射位置を補正する(
図9(b))。
図9(b)は、電子ビームBの理想的な照射位置と、ビーム制御装置22により補正された電子ビームBの照射位置とを示している。両者を区別するために、
図9(b)は、理想的な照射位置に関する電子ビームBを「符号B”」で示している。本実施形態によれば、電子ビームBの照射位置を、理想的な照射位置に近付ける補正を行うことが可能となる。本実施形態のビーム制御装置22は、描画を開始する前に、電子ビームBの照射位置の補正内容を事前に決定しておく。本実施形態のビーム制御装置22は、制御部、判定部、および描画動作補正部の例である。なお、本実施形態のビーム制御装置22は、電子ビームBの照射位置の以外の描画動作を予測および補正してもよい。
【0077】
ビーム制御装置22はさらに、電子ビームBの照射位置を予測する際に、第1実施形態の
図6(b)、第2実施形態の
図7(b)、または第3実施形態の
図8(b)に示す制御を考慮に入れる。例えば、第1実施形態のようにデータパス待ちがビームドリフト補正に置き換えられる場合は、データパス待ちの代わりにビームドリフト補正を考慮に入れて、電子ビームBの照射位置が予測される。基板Sの帯電量は、この置き換えにより減少することとなる。これにより、電子ビームBの照射位置の予測および補正の精度を向上させることが可能となる。
【0078】
図9(c)は、基板Sの帯電量の時間変化の例を示している。時刻t1の帯電量は、データパス待ちからビームドリフト補正への置き換えを考慮に入れない場合の、電子ビームBの照射時における帯電量の計算値を示している。一方、時刻t2の帯電量は、データパス待ちからビームドリフト補正への置き換えを考慮に入れた場合の、電子ビームBの照射時における帯電量の計算値を示している。本実施形態によれば、基板S(レジスト膜)の帯電量の時間減衰を考慮に入れて、電子ビームBの照射位置を予測および補正することが可能となる。
【0079】
以上のように、本実施形態によれば、第1~第3実施形態の制御を、描画装置の描画動作の予測および補正に適用することで、描画装置の描画動作の予測および補正の精度を向上させることが可能となる。
【0080】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0081】
1:本体、2:計算機、3:記憶装置、
11:電子銃、12:集束レンズ、13:成形アパーチャアレイ部材、
14:ビームブランキング電極アレイ、15:投影レンズ、
16:制限アパーチャ部材、17:対物レンズ、18:偏向器、
21:ステージ、22:ビーム制御装置、23:基準マーク、
31:透光基板、32:遮光層、32a:遮光パターン、
33:レジスト膜、33a:レジストパターン、
41:描画領域、42:図形、43:図形