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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093103
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】絵画の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20240702BHJP
   B41M 3/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C09D11/16
B41M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209262
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 沙弥佳
(72)【発明者】
【氏名】榊原 七月
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA04
2H113BB22
2H113BC01
2H113BC02
2H113CA11
2H113CA46
2H113DA07
2H113DA60
2H113EA08
2H113EA10
4J039AB08
4J039BA13
4J039BA35
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA05
4J039DA02
4J039EA43
4J039GA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】下絵を水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、当該下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画の作製方法を提供する
【解決手段】ロジン系樹脂と、ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤と、酸化チタンと、を少なくとも配合させてなる白色油性インキを用いて下絵を作製し、前記下絵の全部又は一部を水性インキで上塗りすることを特徴とする絵画の作製方法。前記ロジン系樹脂がロジン変性マレイン酸樹脂であることを特徴とする絵画の作製方法。前記下絵を捺印により作製することを特徴とする絵画の作製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系樹脂と、ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤と、酸化チタンと、を少なくとも配合させてなる白色油性インキを用いて下絵を作製し、前記下絵の全部又は一部を水性インキで上塗りすることを特徴とする絵画の作製方法。
【請求項2】
前記ロジン系樹脂がロジン変性マレイン酸樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の絵画の作製方法。
【請求項3】
前記下絵を捺印により作製することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絵画の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色油性インキを用いて作製した下絵を水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、当該下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画の作製方法に関するものである。ここで絵画とは、物体の形象、情景又は無形の物を平面に描き出したものをいう。
【背景技術】
【0002】
従来から、白色顔料を固形ワックスで練り固めたクレヨン等を用いて作製した下絵を、水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾くことにより下絵が浮かび上がるように見える絵画の作製方法(はじき絵)はよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】株式会社小学館 HoiClue はじき絵 絵の具とクレヨンで楽しむお絵描き遊び [2022年11月28日検索]インターネット <URL:https://hoiclue.jp/500122976.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下絵を水性インキで上塗りした際に水性インキが弾く場合は、下絵の色がそのまま浮かび上がるため、下絵の色彩に変化を与えることができない。下絵が白色の場合、白色がそのまま浮かび上がることとなる。
しかし、昨今のアート市場活況により、多種多彩な絵画作製方法のニーズがあり、中でも、白色の下絵を水性インキで上塗りした際に、下絵の色彩が白色以外の色に変化したように見える絵画を作製したいとする要望がある。
そこで本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、下絵を水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、当該下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画の作製方法を提供することを目的としている。ここでいうパステル調とは、原色のような明確な色彩ではなく、パステルに使われるような中間色の色彩であって、白色が混ざったような淡い色彩を指す。また塗着とは、塗り着けられた水性インキが、下絵の表面に乾燥付着することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた第1の発明の絵画の作製方法は、ロジン系樹脂と、ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤と、酸化チタンと、を少なくとも配合させてなる白色油性インキを用いて下絵を作製し、前記下絵の全部又は一部を水性インキで上塗りすることを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、前記ロジン系樹脂がロジン変性マレイン酸樹脂であることを特徴とする第1の発明に記載の絵画の作製方法である。
【0007】
第3の発明は、前記下絵を捺印により作製することを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の絵画の作製方法である。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明は、ロジン系樹脂と、ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤と、酸化チタンと、を少なくとも配合させてなる白色油性インキを用いて下絵を作製し、前記下絵の全部又は一部を水性インキで上塗りするため、下絵を水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、当該下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画を作製できる。
【0009】
第2の発明は、前記ロジン系樹脂がロジン変性マレイン酸樹脂であるため、下絵を水性インキで上塗りした際に、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、当該下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画を、より顕著に作製できる。
【0010】
第3の発明は、前記下絵を捺印により作製する。予め下絵の絵柄を印面として作製したゴム印や浸透印を使用し、捺印により当該下絵を作製すると、使用者所望の下絵を何度でも容易に作製することができ有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の油性インキは白色とし、下絵の色は白色となる。これは、絵画の作製に適した紙が一般的に白色紙であるため、当該白色紙に白色で下絵を作製すると、ぱっと見た感じでは下絵が分かり難く、水性インキで上塗りした際に、下絵が浮かび上がるように見える驚きを使用者に与えることができるためであり、また白色は、上塗りする水性インキの色彩に与える影響が弱いため、上塗りした水性インキの色彩を生かすことが出来るためである。例えば、下絵の色に黒色や緑色等を用いると、上塗りする水性インキの色彩に与える影響が強いため、上塗りする水性インキの色を生かすことが出来ず、ほぼ下絵の色(黒色や緑色)のままとなり、使用者に何の驚きも利便性も与えることが出来ない。よって本発明は白色油性インキを必須とする。
【0012】
本発明白色油性インキに用いられるロジン系樹脂は、ロジン変性マレイン酸樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、ロジン変性エステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂などが用いられる。その中でも特にロジン変性マレイン酸樹脂が好ましい。ロジン変性マレイン酸樹脂としては、例えばマルキードNo.8、No.32、No.33(何れも荒川化学工業株式会社製)、テスポールNo.1107、No.1154(何れも日立化成ポリマー株式会社製)を用いることができる。
本発明では、前記ロジン系樹脂を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し5~70重量%、好ましくは15~20重量%である。
【0013】
ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル系溶剤を使用することができる。これらの有機溶剤は、単独で使用しても良いし2以上を混合して使用しても良い。
また、前記有機溶剤以外に他の揮発性有機溶剤を少量混合することができ、酢酸メチル・酢酸エチル・酢酸プロピル・酢酸ブチル・乳酸メチル・乳酸エチル・乳酸プロピル・乳酸ブチル・メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・イソブチルグリコールなどを混合することもできる。
本発明では、上記の溶剤を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し10~95重量%、好ましくは20~30重量%である。
【0014】
本発明白色油性インキに着色剤として用いられる酸化チタンは、平均粒子径が0.001μm以上の酸化チタンであって、ルチル型、アナターゼ型のいずれも使用することができ、例えばBayertitan R-FD-1・R-KB-3・R-CK-20(以上、バイエル社製)、TIPAQUE R-630・R-615・R-830(以上、石原産業(株)社製)、Unitane OR-342(A.C.C.社製)、Ti-pure R-900・R-901(E.I.Dupont社製)などや、MICROLITH White R-A・R-AB(以上、チバガイギー社製)、ENCE PRINT White 0027(BASF社製)等の市販の加工顔料など公知の酸化チタンを用いることができる。
酸化チタンの配合量は、インキ全量に対し0.1~80重量%、好ましくは50~60重量%である。
【0015】
本発明では、必要に応じて、上記酸化チタンの分散剤を用いることができる。前記分散剤としては、シリカ、アルミナ、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、エチルセルロース等を使用することができる。その中でも特にシリカ、ケイ酸アルミニウム、エチルセルロースが好ましい。これらの分散剤は、単独で使用しても良いし2以上を混合して使用しても良い。
本発明では、上記の分散剤を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%である。
【0016】
また本発明では、通常、インキに用いられる、ph調整剤、浸透剤、水酸化アンモニウム・水酸化ナトリウム・尿素・ポリビニルアルコールなどの粘度調整剤等を適宜配合してもよい。
【0017】
また、本発明における下絵とは下書きの絵を指し、絵画と同様、物体の形象、情景又は無形の物を平面に描き出したものである。本発明の白色油性インキを用いて下絵を作製するには、当該白色油性インキを内蔵したスタンプ台、浸透印、マーキングペン等既存のマーキング用品を使用可能であるが、予め下絵の絵柄を印面として作製したゴム印や浸透印を使用し、捺印により当該下絵を作製すると、使用者所望の下絵を何度でも容易に作製することができ有用である。
【実施例0018】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。
【0019】
本発明のマーキング用インキは、ロジン系樹脂と、ロジン系樹脂を可溶する有機溶剤と、酸化チタンと、必要に応じて各種添加剤を投入、1時間撹拌分散して調整する。
【0020】
実施例1~3及び比較例1~4の浸透印用インキ配合を表1に示す。
【0021】
また、実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行なった際の結果を表1に示す。
水性インキ上塗り試験
(試験方法)
実施例及び比較例の白色油性インキを含浸したスタンプ台(おなまえスタンプスタンプ台(シヤチハタ株式会社製))を用い、下絵として直径2cmの丸印面を備えたゴム印で白色紙(OKACカードましろ(株式会社竹尾製))に捺印後10分経過した後、下絵を水性ペン(BLOX水性サインペンKTX-200ピンク、イエローグリーン(シヤチハタ株式会社製))で上塗りした。
(結果確認方法)
○:水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える。
×:水性インキが弾き下絵がそのまま浮かび上がる。
【0022】
表1から明らかなように、ロジン系樹脂を配合した白色油性インキを用いて下絵を作製した場合、水性インキが弾かず下絵上に塗着するとともに、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える。
他方、アルキルフェノール樹脂やスチレンマレイン酸樹脂を配合した白色油性インキを用いて下絵を作製した場合、水性インキが弾き下絵がそのまま浮かび上がった。
これら結果から、実施例1~3は、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画の作製を可能とすることが分かった。
なお、本実施例ではスタンプ台のみを示したが、実施例1~3のインキ組成物を浸透印やサインペンに内蔵し、同様の下絵を作製すれば、上記試験と同じ結果が得られるものである。
また、上塗り用の水性インキとして水性サインペンを使用したが、万年筆、万年筆の補充インキ、スタンプ台、スタンプ台の補充インキ、マーキングペン、マーキングペンの補充イン等の水性インキも使用できる。
なお、上塗りする水性インキとしては、水性染料系インキ、水性顔料系インキ共に使用可能であるが、下絵の白色がベースとなり、下絵の色彩がパステル調に変化したように見える絵画を作製するためには、隠蔽性が生じる水性顔料系インキよりも隠蔽力の弱い水性染料系インキの方が、上塗りする水性インキとして好ましい。
【0023】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う絵画の作製方法もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。