(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093104
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】シートモールディングコンパウンドの製造方法及びシートモールディングコンパウンド
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240702BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209263
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】308031108
【氏名又は名称】内浜化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】西門 尚仁
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB27
4F072AD23
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH12
4F072AH44
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AJ40
4F072AK14
4F072AL04
(57)【要約】
【課題】可使時間経過後のトウプリプレグを有利に用いることが可能な、シートモールディングコンパウンドの製造方法を提供すること。
【解決手段】1)トウプリプレグ表面のタック性を低下させる工程Iと、2)工程Iを経て得られるトウプリプレグを、その長さ方向において切断した後に幅方向において切断して、トウプリプレグの切断物を作製する工程IIと、3)工程IIを経て得られるトウプリプレグの切断物を、トウプリプレグを構成する樹脂と同種の樹脂を含むペーストからなるシート状物上に、エアーブローを用いて切断物を散布して、切断物を含むシート状物を作製する工程III と、4)かかるシート状物に対して、加熱しながら含浸処理を実施する工程IVとを経て、シートモールディングコンパウンドを製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂aを含浸せしめてなるトウプリプレグ表面のタック性を低下させる工程Iと、
前記工程Iを経て得られるトウプリプレグを、その長さ方向において切断した後に幅方向において切断して、該トウプリプレグの切断物を作製する工程IIと、
前記熱硬化性樹脂aと同種の樹脂である熱硬化性樹脂bを含むペーストからなる第一のシート状物上に、前記工程IIを経て得られる前記トウプリプレグの切断物を、エアーブローを用いて散布せしめ、該第一のシート状物における該切断物を散布せしめた側の面に、前記ペーストからなる第二のシート状物を貼付することにより、前記トウプリプレグの切断物及び前記ペーストからなるシート状物Aを作製する工程III と、
前記シート状物Aに対して、加熱しながら含浸処理を実施する工程IVと、
を有するシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項2】
前記トウプリプレグが、可使時間経過後のものである請求項1に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項3】
i)前記強化繊維が炭素繊維であり、ii)前記熱硬化性樹脂a及び熱硬化性樹脂bがエポキシ樹脂であり、該熱硬化性樹脂bは、50~80℃における粘度が15pa・s以下であり、且つ、硬化速度が該熱硬化性樹脂aより速いものであり、iii )前記押圧含浸処理における加熱温度が50~80℃である請求項1又は請求項2に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項4】
強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂aを含浸せしめてなるトウプリプレグの切断物と、該熱硬化性樹脂aと同種の樹脂である熱硬化性樹脂bとを用いてなるシートモールディングコンパウンドであって、
前記トウプリプレグが可使時間経過後のものであることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項5】
i)前記強化繊維が炭素繊維であり、ii)前記熱硬化性樹脂a及び熱硬化性樹脂bがエポキシ樹脂であり、該熱硬化性樹脂bは、50~80℃における粘度が15pa・s以下であり、且つ、硬化速度が該熱硬化性樹脂aより速いものである請求項4に記載のシートモールディングコンパウンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンドの製造方法及びシートモールディングコンパウンドに係り、特に、可使時間が経過したトウプリプレグを用いることが可能な、シートモールディングコンパウンドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック。以下、単に「FRP」ともいう。)は、軽量で、機械的強度、耐熱性や耐薬品性等に優れているところから、従来より、各種工業部品のみならず、スポーツ用品、レジャー用品や日用品に至るまで、様々な分野において利用されている。そのような各種のFRP製品を製造するに際しては、i)各種の添加剤が配合されたマトリックス樹脂を強化繊維に含浸せしめてなる、厚さが数mmのシート状を呈するシートモールディングコンパウンド(SMC)や、ii)強化繊維の繊維束(トウ)にマトリックス樹脂を含浸せしめてなるトウプリプレグ等が、中間材料(成形材料)として使用されている。
【0003】
ここで、SMCに関しては、その製造の際に用いられる樹脂や製造工程等について、従来より様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1(特開2020-33511号公報)においては、樹脂流れ性等の成形性、増粘性、フィルム剥離性等の生産性に優れたシートモールディングコンパウンド用エポキシ樹脂組成物として、α-グリコール基を0.1~1meq/gの範囲で有するエポキシ樹脂(A)、ポリイソシアネート(B)、及びエポキシ樹脂用硬化剤(C)を含有することを特徴とするシートモールディングコンパウンド用エポキシ樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2(特開2010-77268号公報)においては、増粘速度を速くすることにより養生のための時間を短縮し、FRP成型を速やかに行うことができると共に、シート体の放置スペースを低減させることができる生産性のよいSMCの製造方法として、不飽和ポリエステル樹脂、充填剤、低収縮剤、架橋剤及び増粘剤の材料成分を含有する樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物をシート化してシート体を作製し、このシート体を養生するSMCの製造方法であって、シート体を養生するよりも前に、前記増粘剤を含む材料に対して超音波振動処理を行うことを特徴とするSMCの製造方法が、提案されている。上記文献に開示のものを始めとする、従来のSMCの製造方法においては、原材料の一つである強化繊維は、樹脂等が未含浸のバージン材やリサイクル材が用いられることが一般的である。
【0004】
一方、トウプリプレグを用いてFRP製品を製造する際には、トウプリプレグの形態上、その端材が発生することを避けることは非常に困難である。このため、例えば特許文献3(特開平11-290822号公報)においては、FRP製品の製造の際に生ずる端材(プリプレグ廃材)を再生利用した炭素繊維の製造方法が提案されている。また、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめてなるトウプリプレグにあっては、その製造から時間が経過するに従って熱硬化性樹脂の硬化が進行するため、FRP製品の製造材料として使用可能な期間(可使時間)が定められていることが一般的であるところ、かかる可使時間が経過した後のトウプリプレグの取り扱いや処理方法について、環境面や経済面を考慮した対応策が近年、求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-33511号公報
【特許文献2】特開2010-77268号公報
【特許文献3】特開平11-290822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、FRP製品の製造の際に生ずるトウプリプレグの端材や可使時間経過後のトウプリプレグを有利に用いることが可能な、シートモールディングコンパウンドの製造方法を提供することにある。また、本発明は、そのような製造方法によって製造されるシートモールディングコンパウンドを提供することも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、かかる課題を解決するために、i)強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂aを含浸せしめてなるトウプリプレグ表面のタック性を低下させる工程Iと、ii)前記工程Iを経て得られるトウプリプレグを、その長さ方向において切断した後に幅方向において切断して、該トウプリプレグの切断物を作製する工程IIと、iii )前記熱硬化性樹脂aと同種の樹脂である熱硬化性樹脂bを含むペーストからなる第一のシート状物上に、前記工程IIを経て得られる前記トウプリプレグの切断物を、エアーブローを用いて散布せしめ、該第一のシート状物における該切断物を散布せしめた側の面に、前記ペーストからなる第二のシート状物を貼付することにより、前記トウプリプレグの切断物及び前記ペーストからなるシート状物Aを作製する工程III と、iv)前記シート状物Aに対して、加熱しながら含浸処理を実施する工程IVと、を有するシートモールディングコンパウンドの製造方法を、その要旨とするものである。
【0008】
ここで、そのような本発明に従うシートモールディングコンパウンドの製造方法においては、前記トウプリプレグが可使時間経過後のものであることを、好ましい第一の態様とする。
【0009】
また、本発明に従うシートモールディングコンパウンドの製造方法においては、i)前記強化繊維が炭素繊維であり、ii)前記熱硬化性樹脂a及び熱硬化性樹脂bがエポキシ樹脂であり、該熱硬化性樹脂bは、50~80℃における粘度が15pa・s以下であり、且つ、硬化速度が該熱硬化性樹脂aより速いものであり、iii )前記含浸処理における加熱温度が50~80℃であることを、好ましい第二の態様とする。
【0010】
一方、本発明は、強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂aを含浸せしめてなるトウプリプレグの切断物と、該熱硬化性樹脂aと同種の樹脂である熱硬化性樹脂bとを用いてなるシートモールディングコンパウンドであって、前記トウプリプレグが可使時間経過後のものであることを特徴とするシートモールディングコンパウンドをも、その要旨とするものである。
【0011】
なお、そのような本発明に従うシートモールディングコンパウンドにおいては、好ましくは、i)前記強化繊維が炭素繊維であり、ii)前記熱硬化性樹脂a及び熱硬化性樹脂bがエポキシ樹脂であり、該熱硬化性樹脂bは、50~80℃における粘度が15pa・s以下であり、且つ、硬化速度が該熱硬化性樹脂aより速いものである。
【発明の効果】
【0012】
上記の如き構成を採用したことにより、本発明に従うシートモールディングコンパウンド(SMC)の製造方法によれば、FRP製品の製造の際に生ずるトウプリプレグの端材や可使時間経過後のトウプリプレグを有利に用いることが可能である。また、本発明に従う製造方法によって得られるSMCにあっては、バージンの強化繊維(未使用の強化繊維)を用いて得られるSMCと同程度の機械的特性を有利に発揮するものである。従って、本発明によれば、廃棄物の有効活用を図ることにより環境への負荷を有利に低減しつつ、優れた機械的特性を発揮するSMCが有利に得られることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従うシートモールディングコンパウンドの製造方法の概要を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜、参照しつつ、本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る製造方法に従ってシートモールディングコンパウンド(SMC)を製造するに際して、原材料の一つであるトウプリプレグ(TPP)としては、強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂を含浸せしめて構成されているものであれば、特に限定されることなく、本発明において使用することが可能である。具体的に、TPPを構成する強化繊維としては炭素繊維やガラス繊維等を、また、そのような強化繊維に含浸せしめられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂やシアネート樹脂等を、各々、例示することが出来る。
【0016】
本発明に従う製造方法においては、そのようなトウプリプレグ(TPP)に対して、TPP表面のタック性(粘着性)を低下させる処理(処置)が実施される。強化繊維の繊維束に熱硬化性樹脂を含浸せしめてなるトウプリプレグ(TPP)は、かかる熱硬化性樹脂が半硬化の状態で(換言すれば、表面にタック性が発現した状態で)、強化繊維樹脂製品(FRP製品)の製造メーカーに提供されることが一般的であるところ、表面にタック性のあるTPPを、そのままの状態でSMCの製造に用いると、後述するTPPの切断が非常に困難となり、また、得られる切断物同士が引っ付くことによって、後述する熱硬化性樹脂のシート状物への散布を均一にすることが困難となり、その結果、得られるSMCの機械的特性が低下したり、製品の部位によって特性にバラツキが生ずる恐れや、製品ロット間におけるバラツキも大きくなる恐れがある。このような問題点の解消を図るべく、本発明においては、原料として用いられるTPPに対して、その表面のタック性(粘着性)を低下させる処理(処置)が実施されることとなるのである。
【0017】
ここで、本発明における、トウプリプレグ(TPP)に対するタック性(粘着性)を低下させるための処理(処置)は、特定の手段や手法に限定されるものではなく、TPP表面におけるタック性が、後述するTPPの切断を阻害しない程度となるように、TPPの形態や状態等、具体的には、FRP製品製造の際に発生したTPPの端材であるとか、端材とされてからの経過時間(日数)や、ボビンに巻回せしめられた状態で可使時間(FRP製品の製造材料として使用可能な期間)が経過したものであること等の事情に応じて、手法や条件等が適宜に決定される。例えば、ボビンに巻回せしめられた状態で可使時間が経過したTPPにあっては、巻回された状態で常温下、数日~2週間程度、静置することにより、TPP表面のタック性を低下させることが可能である。
【0018】
そして、上述の如くして表面のタック性が低下せしめられたトウプリプレグ(TPP)を用いて、本発明に従ってシートモールディングコンパウンド(SMC)を製造するに際しては、例えば、
図1に模式的に示される製造工程に従って製造することが可能である。
【0019】
図1において、10はトウプリプレグ12が巻回せしめられているボビンであり、14はトウプリプレグ12の切断装置であり、16はエアーブロー装置である。また、18は圧着ロールであり、20は含浸ロールである。
【0020】
先ず、フィルムロール22から巻き出された第一のキャリアフィルム24は、図示しない搬送手段によって、搬送方向:D1に連続的に搬送される。また、巻き出された第一のキャリアフィルム24の搬送方向:D1における前方には、熱硬化性樹脂を含むペーストを収容したドクターボックス26が配置されている。ドクターボックス26の下面にはスリットが形成されており、ドクターボックス26内のペーストは、かかるスリットを介して第一のキャリアフィルム24上に供給される。そして、第一のキャリアフィルム24上に供給されたペーストは、ドクターブレード28により、その厚さが均一な第一のシート状物(図示せず)とされるのである。
【0021】
ここで、本発明に従うシートモールディングコンパウンド(SMC)の製造方法においては、第一のシート状物を構成するペーストに含まれる熱硬化性樹脂(以下、熱硬化性樹脂bという。)は、トウプリプレグ12を構成する熱硬化性樹脂(以下、熱硬化性樹脂aという。)と同種の樹脂が用いられる。本発明における「同種の樹脂」とは、対比する二つの樹脂が、i)同一の重合性基(例えば、エポキシ基等)によって結合されている樹脂であるか、或いは、ii)樹脂を構成する主鎖における、モノマーに由来する各構成単位同士を結合する結合構造(たとえば、エステル構造等)が同一である樹脂を、意味するものである。トウプリプレグ12を構成する熱硬化性樹脂aとの組み合わせにおいて、そのような特定の熱硬化性樹脂bを用いることにより、本発明の製造方法に従って得られるSMCは、バージンの強化繊維(未使用の強化繊維)を用いて得られるSMCと同程度の優れた機械的特性を発揮することとなるのである。
【0022】
また、本発明に係るシートモールディングコンパウンド(SMC)の製造方法においては、第一のシート状物を構成するペーストに含まれる熱硬化性樹脂bは、50~80℃における粘度が15Pa・s以下であり、且つ、その硬化速度が、トウプリプレグ12を構成する熱硬化性樹脂aより速いものであることが好ましい。このような熱硬化性樹脂bを使用することにより、後述する加熱含浸工程と相俟って、本発明の製造方法に従って得られるSMCにおいて、上述した効果をより有利に享受することが可能となる。
【0023】
なお、そのような熱硬化性樹脂bを含むペーストには、シートモールディングコンパウンド(SMC)を製造する際に従来より用いられている各種の添加剤、例えば、充填剤、低収縮化剤、離型剤、増粘剤等を適宜、配合せしめることも可能である。
【0024】
一方、ボビン10より巻き出されたトウプリプレグ12は、ガイド30を介して切断装置14に搬送される。かかる切断装置14は、トウプリプレグ12をその長さ方向において切断した後、幅方向においても切断する機構を有するものである。なお、本発明において、トウプリプレグを切断する為に用いられる切断装置としては、上記した機構を有するものであれば、特に限定されることなく使用することが可能であり、例えば、本願出願人が特開2022-117652号公報において先に提案した分繊装置と、かかる分繊装置によって分繊されたトウプリプレグを切断する為の一又は複数のカットロールとを備えた構成の切断装置を、使用することが可能である。
【0025】
切断装置14より発生するトウプリプレグ12の切断物は、エアーブロー装置16によって第一のシート状物(図示せず)上に散布せしめられる。トウプリプレグ12の切断物は、エアーブロー装置16の作用によって分散性が向上せしめられ、そのように分散性が向上せしめられた状態で、第一のシート状物上に散布され、配置(付着)せしめられるところから、最終的に得られるシートモールディングコンパウンド(SMC)にあっては、バージンの強化繊維(未使用の強化繊維)を用いて得られるシートモールディングコンパウンド(SMC)と同程度の優れた機械的特性を発揮するものとなるのである。なお、本発明において用いられるエアーブロー装置16については、トウプリプレグ12の切断物を、第一のシート状物上に良好な分散状態となるように散布することが可能なものであれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0026】
これに対して、フィルムロール(図示せず)から巻き出された第二のキャリアフィルム32は、図示しない搬送手段によって、搬送方向:D2に連続的に搬送される。巻き出された第二のキャリアフィルム32の搬送方向:D2における前方には、ドクターボックス26内のペーストと同一のペーストを収容する、ドクターボックス34が配置されている。なお、かかるドクターボックス34にあっても、先述したドクターボックス26と同様に、その下面にはスリットが形成されており、ドクターボックス34内のペーストは、かかるスリットを介して第二のキャリアフィルム32上に供給され、第二のキャリアフィルム32上に第二のシート状物(図示せず)が形成される。
【0027】
以上の如くして表面(上面)に第二のシート状物(図示せず)が形成された第二のキャリアフィルム32は、ガイドロール36によってその搬送方向が転換された後、トウプリプレグ12の切断物が配置(付着)せしめられた第一のシート状物(図示せず)を表面(上面)に有する第一のキャリアフィルム24と、それらシート状物が対向するよう圧着ロール18により貼り合わせられることにより、トウプリプレグ12の切断物と、熱可塑性樹脂bを含むペーストとからなるシート状物A(図示せず)が、第一のキャリアフィルム24と第二のキャリアフィルム32に挟まれた形態で形成される。
【0028】
そして、そのようにして形成されたシート状物A(図示せず)は、第一のキャリアフィルム24と第二のキャリアフィルム32との間に挟持された状態で、加熱含浸装置20に供される。そこにおいて、第一のキャリアフィルム24と第二のキャリアフィルム32との間に挟持されたシート状物Aは、下側含浸ロール21a及び上側含浸ロールによって、図示しない加熱手段によって加熱されながら加圧されるのであり(加熱含浸工程)、これにより、シーツ状物Aにおける熱硬化性樹脂bを含むペーストは、トウプリプレグ12の切断物同士の間に効果的に含浸せしめられ、以て、目的とするシート状のシートモールディングコンパウンド(SMC:図示せず)が、第一のキャリアフィルム24と第二のキャリアフィルム32との間に挟持された状態で製造されることとなるのである。このようにして製造されたSMCは、収容箱38に折り畳まれた状態で収容される。
【0029】
ここで、本発明に従うシートモールディングコンパウンド(SMC)の製造方法においては、シート状物A(トウプリプレグ12の切断物と、熱可塑性樹脂bを含むペーストとからなるシート状物)は、上述した加熱含浸工程に供されるところ、この加熱含浸工程における加熱温度は、熱硬化性樹脂bの種類や含浸工程に供する時間等に応じて、適宜に決定される。例えば、熱硬化性樹脂bがエポキシ樹脂であって、50~80℃における粘度が15Pa・s以下であり、更にその硬化速度が、トウプリプレグ12を構成する熱硬化性樹脂aより速いものである場合には、好ましくは50~80℃に加熱下において、上述の如き加熱含浸工程が実施される。
【0030】
なお、本発明に従ってシートモールディングコンパウンド(SMC)を製造する際の、上述していないその他の条件や手法等については、従来のSMCの製造方法と同様の条件等を適宜、採用することが可能である。
【0031】
このように、本発明に従うシートモールディングコンパウンド(SMC)の製造方法においては、FRP製品の製造の際に生ずるトウプリプレグの端材や可使時間経過後のトウプリプレグ等の、従来は廃棄物として扱われていたものを原料として有効利用することが可能であり、また、それにより得られるSMCも、バージンの強化繊維(未使用の強化繊維)を用いて得られるSMCと同程度の機械的特性を有利に発揮するものである。従って、本発明によれば、廃棄物の有効活用を図ることにより環境への負荷を有利に低減しつつ、優れた機械的特性を発揮するSMCが有利に得られることとなるのである。
【実施例0032】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づき種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0033】
図1に模式的に示される製造工程に従い、四種類のシートモールディングコンパウンド(SMC)を製造した。なお、SMCの製造に際しては、特に以下に示すものを除き、条件や手法等は全て同一とした。
【0034】
-実施例1-
炭素繊維トウプリプレグとして、東レ株式会社製のトウプリプレグ用炭素繊維(CF):T720SC 36をエポキシ樹脂に含浸せしめてなるもの(以下、単にCF-TPPという。)を用いた。所定のボビンに巻回されたCF-TPPを常温下で1週間、放置することにより、CF-TPP表面のタック性を低下させた。SMC製造に用いる、熱硬化性樹脂を含むペーストとして、50~80℃における粘度が15Pa・s以下であり、且つ、その硬化速度が、CF-TPPを構成するエポキシ樹脂より速いエポキシ樹脂(以下、樹脂Iという。)を使用し、CF-TPPのカット長さを0.5inchとした。また、ペースト及びCF-TPPの合計量に対するCF-TPPの割合が39.5重量%となるような割合において、CF-TPPの切断物を、ペーストからなる第一のキャリアフィルム(下側キャリアフィルム)上にエアーブロー装置を介して散布し、更には含浸ロールを60℃に加熱して含浸処理を実施することにより、SMCを製造した(実施例1)。
【0035】
-実施例2-
CF-TPPと共に、東レ株式会社製のトウプリプレグ用炭素繊維(CF):T720SC 36(新品。以下、バージンCFという。)を、バージンCF:CF-TPP=60.1:39.9(重量比)の割合において使用し、また、ペースト、バージンCF及びCF-TPPの合計量に対する炭素繊維の総量(バージンCFとCF-TPPの合計量)の割合が41.0重量%となるような割合において、バージンCF及びCF-TPPを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件及び手法に従い、SMCを製造した(実施例2)。
【0036】
-比較例1-
バージンCFと共に、50~80℃における粘度が15Pa・sを超えるエポキシ樹脂(以下、樹脂IIという。)をペーストとして使用し、バージンCFを0.5inchにカットした切断物を、ペーストからなる第一のキャリアフィルム(下側キャリアフィルム)上にエアーブロー装置を使用することなく直接、散布し、常温下で(加熱することなく)含浸処理を実施したこと以外は、実施例2と同様の条件及び手法に従い、SMCを製造した(比較例1)。
【0037】
-比較例2-
ペーストたる熱硬化性樹脂として、樹脂Iに代えて樹脂II(50~80℃における粘度が15Pa・sを超えるエポキシ樹脂)を使用し、また、ペースト及びCF-TPPの合計量に対するCF-TPPの割合が37.5重量%となるような割合において、CF-TPPの切断物を、ペーストからなる第一のキャリアフィルム(下側キャリアフィルム)上にエアーブロー装置を使用することなく直接、散布し、常温下で(加熱することなく)含浸処理を実施したこと以外は、実施例1と同様の条件及び手法に従い、SMCを製造した(比較例2)。
【0038】
以上の如くして得られた4種類のSMCについて、JIS-K-7074-1988「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に従い、曲げ強さ(強度)及び曲げ弾性率(弾性率)を測定した。なお、それらの測定に際しては、得られた各SMCの任意の箇所より試験片を10個、作製し、10個の試験片についての測定値の平均値を当該SMCの測定結果として、下記表1に示した。
【0039】
【0040】
かかる表1の結果からも明らかなように、本発明に従う製造方法によって得られたシートモールディングコンパウンド(SMC)にあっては、バージンの炭素繊維(未使用の炭素繊維)を用いて得られるSMCと同程度の機械的特性を発揮するものであることが、確認されるのである。