(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093116
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】杭設置・抜き機および杭設置・抜き機を用いた杭設置工法
(51)【国際特許分類】
E02D 11/00 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
E02D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209287
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】322012893
【氏名又は名称】勝谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 三男
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050CA01
2D050CA04
2D050DA01
(57)【要約】
【課題】従来は、小型の杭に係る作業は人力に頼っており、杭を手で掴んで引き抜いたり、また、孔を掘って杭を立て込んで土砂等を詰めたり、杭を打ち込んだりする際には片方の手で杭を支えながらの不安定な作業になっていた。
【解決手段】杭設置・抜き機1は、シャフト9の両端部に枠体3と枠体7が連結されている。枠体3を杭Aに被せ、シャフト9を握って、枠体3側を前後方向に押したり引いたり、更には左右方向に振り回す。これにより軸部a2も動かされて、軸部a2とその周囲の土砂との摩擦が容易に解かれる。その後は、シャフト9の枠体7側を軽く持ち上げるだけで、杭Aを地面(G)から容易に引き抜くことができる。また、杭の設置の際には、前後方向に押したり引いたり、更には左右方向に振り回すことで、微調整できる。更に、杭をハンマーで叩いて打ち込んだりする際に傾倒しないように一方の枠体を仮止め杭にクランプさせる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短尺筒状の枠体と、前記枠体の外面に一端部が連結されて外方に向かって延びるシャフトとからなる杭設置・抜き機であって、
前記枠体を杭のヘッド部に被せてクランプさせ、前記シャフトの他端側をグリップにして、前記杭に前記杭設置・抜き機を介して人力を伝達することで、前記杭を引き抜いたり、前記杭を前後左右方向に動かしたりすることを特徴とする杭設置・抜き機。
【請求項2】
請求項1に記載した杭設置・抜き機において、
枠体は、前記枠体だけでまたは補助部材との併用で被せられた杭のヘッド部に対して軸周りには移動不能になっていることを特徴とする杭設置・抜き機。
【請求項3】
請求項2に記載した杭設置・抜き機において、
補助部材は、枠体に設けられた釘挿通穴と、前記釘挿通穴に前記枠体の外面から挿通させる釘とで構成されていることを特徴とする杭設置・抜き機。
【請求項4】
請求項1に記載した杭設置・抜き機において、
シャフトの両端部にそれぞれ枠体が連結されていることを特徴とする杭設置・抜き機。
【請求項5】
請求項4に記載した杭設置・抜き機を傾倒防止用具として利用した杭設置工法において、
孔に立て込まれた設置予定の杭と、仮止め用に地中に打ち込まれた杭にそれぞれ枠体を被せた状態で、前記設置予定の杭と前記孔との隙間に土砂や生コンクリートを詰めることで、詰める際の杭の傾倒の防止用に用いることを特徴とする杭設置工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は杭設置・抜き機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測量を行って基準点や境界点等として設置した杭は、長い年月が経つと動いてしまっている場合がある。また、打ち損じたりする場合がある。更に、田圃を埋めた後にその上を宅地化するときに、その区割り用に、地中に埋もれてしまった杭を測量標として復元したい場合が出てくる。
このような場合には、既に打ち込まれた杭を引き抜いて撤去することになる。
而して、従来は、人力に頼って杭を直接手で掴んで引き抜いていたため、時間と労力の負担が大きかった。特に、杭が粘土質の箇所に埋設されている場合は杭と土が粘着して強く摩擦が作用しているため、負担が非常に大きかった。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1では、既設杭引き抜き装置が提案されているが、この装置は大型で且つ高価であることから、当該装置を現場で実際に活用することは現実的ではない。
また、特許文献2では、引き抜き容易な杭と、その杭の引き抜き方法が提案されているが、杭に棒状の杭引き抜き部材を挿入する嵌合穴を形成する必要があり、この加工は杭自体のコストをアップさせてしまう。更に、杭を引き抜く際には嵌合穴に棒状の杭引き抜き部材をいちいち挿入する必要があり、引き抜き自体は容易になっても、工程が増えることで、作業効率は落ちてしまう。
【0004】
更に、杭を設置する際には、孔を掘って立て込んで土砂や生コンクリートを詰めたり、ヘッド部の天面をハンマーで叩いて打ち込んだりしていたが、傾倒しないように片方の手で杭を支えながらの不安定な作業になり、特に、測量用に杭を設置する場合には設置位置と設置方向に正確さが要求されていることから、かなり面倒な作業であった。
【0005】
上記は、特に測量に伴う杭の引き抜きや設置の作業に着目されて記載されているが、測量用に限定されず、土木・建築工事、農作業の仮土留め、物の固定でも、このような人力に頼った作業が長年にわたって実施されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-99883号公報
【特許文献2】特開2007-107253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、単純な構成で、コストを抑えて製作できる用具でありながら、形状的工夫が上手く組み込まれており、人力により杭を引き抜いて撤去したり設置したりする際に用いると、作業の単純化と省力化を達成でき、しかも、杭を設置する際には、測量用に相応しい設置精度を容易に実現できる、新規且つ有用な杭設置・抜き機を提供することを、その目的とする。
また、本発明は、上記杭設置・抜き機を上手く利用して、測量用に相応しい設置精度を実現できる杭設置工法を提案することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、短尺筒状の枠体と、前記枠体の外面に一端部が連結されて外方に向かって延びるシャフトとからなる杭設置・抜き機であって、前記枠体を杭のヘッド部に被せてクランプさせ、前記シャフトの他端側をグリップにして、前記杭に前記杭設置・抜き機を介して人力を伝達することで、前記杭を引き抜いたり、前記杭を前後左右方向に動かしたりすることを特徴とする杭設置・抜き機である。
好ましくは、枠体は、前記枠体だけでまたは補助部材との併用で被せられた杭のヘッド部に対して軸周りには移動不能になっている。補助部材は、枠体に挟み込むスペーサやキャンバ(図示省枠体の他にも、木杭の場合には枠体に設けられた釘挿通穴と、前記釘挿通穴に前記枠体の外面から挿通させる釘とで構成することも可能である。
好ましくは、シャフトの両端部にそれぞれ枠体が連結されている。
【0009】
シャフトの両端部にそれぞれ枠体が連結した杭設置・抜き機は、杭設置工法において、傾倒防止用具として利用できる。例えば、孔に立て込まれた設置予定の杭と、仮止め用に地中に打ち込まれた杭にそれぞれ枠体を被せた状態で、前記設置予定の杭と前記孔との隙間に土砂や生コンクリートを詰めることで、詰める際の杭の傾倒の防止用に用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の杭設置・抜き機は、単純な構成で、コストを抑えて製作できる用具になっており、形状的工夫が上手く組み込まれているので、人力により杭を引き抜いて撤去したり設置したりする際に用いると、作業の単純化と省力化を達成できる。しかも、本発明の杭設置・抜き機は、杭を設置する際には、測量用に相応しい設置精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る杭設置・抜き機の平面図である。
【
図3】
図1の杭設置・抜き機を用いた、杭の引き抜き作業の説明図である。
【
図4】
図3に続く、杭の引き抜き作業の説明図である。
【
図6】
図3に続く、杭の引き抜き作業の説明図である。
【
図7】
図1の杭設置・抜き機を用いた、杭の設置作業の説明図である。
【
図10】
図1の杭設置・抜き機の固定補助機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る杭設置・抜き機1を図面にしたがって説明する。
図1~
図3に示すように、杭設置・抜き機1は鋼製で枠体3、7とシャフト9が一体になっており、測量杭の引き抜き及び設置に適した仕様になっている。但し、測量杭は境界の標識用等、用途に応じて形状・寸法・材質・色等の仕様が細かく定められており、特に、枠体3がこれはその一部の杭Aやそれに近いサイズの杭に適した仕様になっている。
【0013】
図3、
図4に示すように、杭Aはコンクリート製で、軸方向に直交する断面がほぼ正方形で軸方向に同形になっており、天面には標が付けられている。
これに対して、枠体3は軸方向に垂直な断面がほぼ正四角形の直状の四角筒のコラムで短尺状に構成されており、4つの平板状の側面部3a、3a、3a、3aが環状に連なっている。
【0014】
枠体3の4つの側面部3a、3a、3a、3aで囲まれた空間の軸方向に直交する断面は杭Aとほぼ相似するが僅かに大きくなっている。
従って、枠体3は杭Aに対して軸方向に摺動可能であるが、杭Aの天面側を内嵌するように被せると、共に角形なので、比較的隙間があっても軸周りには移動不能にできる。但し、被せたときに枠体3とヘッド部a1との間に隙間が必要以上に大きくなる場合にはその隙間に補助部材としてスペーサやキャンバ(図示省略)を挟み込んで、隙間を調整することも可能である。
【0015】
枠体3の三方向の側面部3a、3a、3aの中心にはそれぞれ釘穴5、5、5が形成されている。
【0016】
枠体7は、杭Aの設置作業の際の仮止めに用いる木杭Cを、杭Aと同様に被せた状態にするために設けられたものであり、枠体3よりも一回り小さくなっている。枠体7は軸方向に垂直な断面がほぼ正四角形の直状の四角筒のコラムで短尺状に構成されており、4つの平板状の側面部7a、7a、7a、7aが環状に連なっている。
枠体7についても枠体3と同様の指針で寸法設計されている。
【0017】
シャフト9は、断面円形の直状の棒で構成されている。シャフト9の軸方向両端部がそれぞれ接合部11、11を介して、枠体3の釘穴5の無い側面部3aの外面と枠体7の一つの側面部7aの外面に溶接固定されている。
シャフト9は側面部3aと側面部7aのそれぞれの中心部分に固定されており、シャフト9の軸方向を挟んで左右両側が対称になっている。また、シャフト9を横に寝かせたときに、枠体3と枠体7は共に上下方向で開口するようになっている。
【0018】
この実施の形態では、枠体3は75コラム、枠体7は45コラムを利用して構成されており、シャフト9が13mmで長さは450mmで構成されており、「テコの原理」が上手く発現されるように寸法設計されている。
シャフト9はグリップ(握り部)として用いられ、枠体7側も手で掴むことが可能なサイズのため、必要に応じて掴み部として用いられるので、人力を加える位置、すなわち「力点」の位置を適宜変更可能になっている。
【0019】
杭設置・抜き機1は上記のように構成されており、この杭設置・抜き機1を用いたときの測量に係る作業を以下で説明する。
先ず、杭の引き抜き作業について、
図3~
図6にしたがって説明する。
杭Aは天面が露出しているが、その天面側の外側面が枠体3を被せる程度に露出していればそのまま、露出していなければその周囲の土砂を浅く掘って露出させ、
図3に示すように、その露出した部分をヘッド部a1として枠体3を被せてクランプさせる。
【0020】
その状態で、
図4、
図5に示すように、シャフト9を握って、枠体3側を前後方向に押したり引いたり、更には左右方向に振り回す。この「フラメンコ」動作により、大きな力を加えなくとも、杭Aの地中に埋設された部分である軸部a2も動かされて、軸部a2とその周囲の土砂との摩擦が容易に解かれる。
【0021】
その後に、
図6に示すように、枠体7側を持ち上げる。杭設置・抜き機1は枠体3を中心として矢印に示すように回動する。杭Aのヘッド部a1の軸方向に対して枠体3が僅かに傾斜して○で囲んだ二箇所で当たるので、持ち上げ方向に杭Aと杭設置・抜き機1は一体化する。そのため、シャフト9の枠体7側を軽く持ち上げるだけで、杭Aを地中(G)から容易に引き抜くことができる。
【0022】
次に、杭の設置作業について、
図7~
図9にしたがって説明する。
孔掘機で所定の位置に大きめの孔(H)を掘り、杭頭用水平器を用いて、杭Bを軸方向が鉛直方向になる正位置で立て込む。なお、杭Bは杭Aと同じタイプになっている。
その後に、杭設置・抜き機1の枠体3をヘッド部b1に被せる。その状態で、
図7に示すように、シャフト9の枠体7側を掴んで、前後方向に押したり引いたり、更には左右方向に振って、微動させる。杭の引き抜きの際にも杭Aと土砂との間に作用している摩擦を解くために同様な作業を実施するが、設置の場合には、設置位置が正位置にくるように微調整するために実施しており、枠体7そのものを掴むことで枠体3側との距離を確保して、微動を可能にしている。
【0023】
続いて、
図8に示すように、地中(G)に仮止め用の木杭Cを所定の位置に打込み、杭Bと木杭Cとに架け渡された状態になるように、杭設置・抜き機1を改めて取り付ける。具体的には、枠体3を杭Bのヘッド部b1に被せ、枠体7を木杭Cの地面から突出したヘッド部c1に被せる。
この状態で、杭Bと孔(H)との隙間に、土砂や生コンクリートを詰める。
図8では土砂(S)を詰める例が示されている。杭Bは上記のように杭設置・抜き機1と木杭Cとによって支持されて正立姿勢が保持されているので、土砂等が詰め込まれて当たっても傾倒するのが阻止される。
【0024】
続いて、土砂を固めたり、生コンクリートが硬化する前に、再度、
図9に示すように、シャフト9の枠体7側を握ったり枠体7を掴んで、前後方向に押したり引いたり、更には左右方向に振って、微動させる。
これにより、杭Bの設置位置だけでなく、ヘッド部b1の天面に示された標の方向を再度微調整して、設置精度を高めることができる。
上記の一連の作業により、杭Bを所定の位置、所定の向きで正確に設置できる。
【0025】
なお、上記したように、杭の引き抜きや設置に係る作業は、測量用に限定されず、建設工事では、丁張(遣り方)、仮設土留め用に、丸い木杭を使用する。
この場合には、
図10に示すように、木杭Wに枠体3を被せた後に、釘穴5、5、5にそれぞれ釘13、13、13を通して、木杭Wに三方向から釘13を打って、枠体3に対して固定する。
【0026】
また、木杭、プラスチック杭、鋼管杭は、通常は、かけ矢(大型木槌)や大ハンマーで打ち込んだり、小型重機で押さえ込んだりするが、その際も杭が傾倒しないように、この杭設置・抜き機1を支えるために利用することもできる。従来は手で添えており、不安定な姿勢での作業が強いられていたが、このような使い方であれば、安定した姿勢で杭を打ち込むことができる。
このように、「杭」に係るストレスを持っていた作業者にとって、この杭設置・抜き機1は、「簡易」で「安価」な「杭作業の万能補助機」になっている。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、杭設置・抜き機の枠体やシャフトの形状・サイズは、用途に応じて適宜設計され、図面には限定されない。
また、枠体に二つの枠体を設けたときに、一方は仮止め用に限定されない。
【符号の説明】
【0028】
1…杭設置・抜き機 3…枠体 3a…側面部
5…釘穴 7…枠体 7a…側面部
9…シャフト 11…接合部 13…釘
A…杭 a1…ヘッド部 a2…軸部
B…杭 b1…ヘッド部 b2…軸部
C…木杭 c1…ヘッド部 G…地中
H…孔 S…土砂 W…木杭