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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093123
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240702BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240702BHJP
【FI】
C02F3/12 S
C02F1/44 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209296
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】矢次 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】都築 佑子
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌大
【テーマコード(参考)】
4D006
4D028
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA93
4D006KA31
4D006KB22
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006PA01
4D006PB08
4D006PC62
4D006PC67
4D028AA08
4D028BC17
4D028BD17
(57)【要約】
【課題】既設の汚水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥として利用しながらも、安価なコストで規模の大きな膜分離活性汚泥処理装置を速やかに立ち上げることができる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法を提供する。
【解決手段】生物処理槽と、沈殿槽と、沈殿槽の汚泥を生物処理槽に返送する汚泥返送ポンプと、沈殿槽の余剰汚泥を引く抜く汚泥引抜ポンプと、を備えた既存の水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥に用いる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、汚泥引抜ポンプの下流側既設配管に仮設配管を接続し、既存の水処理装置に汚水を供給しつつ、仮設配管を介して余剰汚泥の一部を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置に供給する種汚泥供給工程と、種汚泥供給工程の後に、膜分離活性汚泥処理装置に汚水の一部を供給して膜分離活性汚泥処理を立ち上げるMBR立上げ工程と、を備えている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理槽と、沈殿槽と、前記沈殿槽の汚泥を前記生物処理槽に返送する汚泥返送ポンプと、前記沈殿槽の余剰汚泥を引く抜く汚泥引抜ポンプと、を備えた既存の水処理装置からの余剰汚泥または返送汚泥を種汚泥に用いる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、
前記汚泥返送ポンプの下流側既設配管または前記汚泥引抜ポンプの下流側既設配管に仮設配管を接続し、前記既存の水処理装置に汚水を供給しつつ、前記仮設配管を介して返送汚泥または余剰汚泥の一部を種汚泥として前記膜分離活性汚泥処理装置に供給する種汚泥供給工程と、
前記種汚泥供給工程の後に、前記膜分離活性汚泥処理装置に汚水の一部を供給して膜分離活性汚泥処理を立ち上げるMBR立上げ工程と、
を備えている膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項2】
前記MBR立上げ工程の後に、停止予定の水処理装置の前記生物処理槽と前記沈殿槽の池排水管を連結するとともに、前記生物処理槽への汚水の供給を停止し、前記沈殿槽の汚泥を前記膜分離活性汚泥処理装置に供給する稼働停止工程を含む請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項3】
前記種汚泥供給工程の実行時に、前記膜分離活性汚泥処理装置に備えた分離膜に散水して湿潤状態を保持する散水工程を実行する請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項4】
前記既設配管への前記仮設配管の接続位置は、少なくとも前記既設配管に設置された汚泥濃度計及び流量計の下流側である請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項5】
前記種汚泥供給工程において、前記汚泥返送ポンプまたは前記汚泥引抜ポンプの揚程が不足する場合に、既設の予備ポンプに仮設配管を接続して稼働させる請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理槽と、沈殿槽と、前記沈殿槽の汚泥を前記生物処理槽に返送する汚泥返送ポンプと、前記沈殿槽の余剰汚泥を引く抜く汚泥引抜ポンプと、を備えた既存の水処理装置からの余剰汚泥または返送汚泥を種汚泥に用いる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生活排水のような一般的な都市下水や産業廃水等(以下、「汚水」という)の浄化処理のために標準活性汚泥法を採用した汚水処理装置が構築されていた。
【0003】
図1(a),(b)には、このような標準活性汚泥法による汚水処理装置が示されている。当該汚水処理装置は、沈砂池90、最初沈殿池91、生物処理槽92、最終沈殿池93、消毒設備94がこの順に備えられ、最初沈殿池91(91a~91d)、生物処理槽92(92a~92d)、最終沈殿池93(93a~93d)が複数系列並設されて構成されている。
【0004】
汚水処理装置に流入した汚水は、沈砂池90で砂や粗大物が除去された後に、最初沈殿池91(91a~91d)に移送され、汚水中の浮遊固形物が沈降分離処理される。さらに、生物処理槽92(92a~92d)に移送されて微生物の作用によって有機成分が分解除去され、その後に最終沈殿池93(93a~93d)に移送され、最終沈殿池93で活性汚泥が沈降分離された上澄水が、消毒設備94で消毒された後に河川等に放流される。
【0005】
最終沈殿池93で沈降した活性汚泥の一部は、汚泥返送ポンプP2が配された汚泥返送配管95を介して生物処理槽92(92a~92d)に返送されて、生物処理槽92(92a~92d)のMLSS濃度が調整される。また、最終沈殿池93で沈降した活性汚泥の一部は、汚泥引抜ポンプP3が配された汚泥引抜配管96を介して汚泥濃縮設備97に送泥されて濃縮処理される。
【0006】
近年、標準活性汚泥法を採用した汚水処理装置の老朽化に伴い、既存の汚水処理装置を改築する必要性が高まっており、その際に汚水からリンや窒素等を効果的に除去する高度処理技術として、また、処理施設全体の敷地面積のコンパクト化技術として、膜分離活性汚泥法を用いた汚水処理装置への改築が行なわれている。
【0007】
膜分離活性汚泥法(MBR)を採用した汚水処理装置、すなわち膜分離活性汚泥処理装置は、例えば、汚水を嫌気処理する嫌気槽、嫌気処理された汚水から窒素を除去する無酸素槽、有機物及びアンモニア性窒素を好気処理する好気槽、好気処理された汚水から処理水をろ過する膜ろ過装置を備えた膜分離槽等を備えて構成される。
【0008】
このような膜分離活性汚泥法は、活性汚泥濃度が高い状態で固液分離を行えるため槽の容積を小さくでき、あるいは槽内での反応時間を短縮できる等の利点があり、また、膜ろ過されたろ過水にSSが混入しないため、最終沈殿池が不要となり処理施設全体の敷地面積を減らすことができる等の利点がある。
【0009】
そして、標準活性汚泥法を採用した既存の汚水処理装置を、膜分離活性汚泥処理装置に改築する場合には、改築の前後で汚水処理量の変動を来たすことがないように改築後の汚水処理装置を速やかに立ち上げる必要がある。
【0010】
特許文献1には、他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法が提案されている。当該膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法は、所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いるとともに、被処理水よりも高濃度のBOD源を被処理水とともに供給することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、膜分離活性汚泥処理装置は、規模が大きくなると好気槽の容量も大きくなり、円滑に膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げるためには、短時間で大量の種汚泥を既設の汚水処理装置から膜分離活性汚泥処理装置に供給する必要があり、撤去対象の系列で発生する余剰汚泥量のみで膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げる場合、必要な種汚泥量に対して発生する余剰汚泥量が少なすぎるため、時間が掛かり過ぎるという問題や、そのための設備コストや工事コストが嵩むという問題もあった。
【0013】
また、膜分離活性汚泥処理装置に移送された種子汚泥の自己解体を回避するために、無曝気状態で原水の受け入れ開始まで種子汚泥を待機させることが必要となる。そのため、汚泥の腐敗が始まる前、具体的には1~2日程度の間に膜分離活性汚泥処理装置への種汚泥の供給を完了させる必要がある。
【0014】
しかし、既設の汚水処理装置からの余剰汚泥の引抜き量をむやみに増加させると、移送された種子汚泥の汚泥濃度が低下するため、膜濃縮工程を経て適切な汚泥濃度に上昇させる必要が生じ、膜分離活性汚泥処理装置の立上げが遅延するという問題もある。
【0015】
さらに、余剰汚泥の引抜き量が多くなると、既設の汚水処理装置におけるBOD-SS負荷が大きくなるため、既設の汚水処理装置から引き抜いた固形物量に対応する汚水量の汚水を速やかに膜分離活性汚泥処理装置で処理する必要がある。
【0016】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、既設の汚水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥として利用しながらも、安価なコストで規模の大きな膜分離活性汚泥処理装置を速やかに立ち上げることができる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の第一特徴構成は、生物処理槽と、沈殿槽と、前記沈殿槽の汚泥を前記生物処理槽に返送する汚泥返送ポンプと、前記沈殿槽の余剰汚泥を引く抜く汚泥引抜ポンプと、を備えた既存の水処理装置からの余剰汚泥または返送汚泥を種汚泥に用いる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、前記汚泥返送ポンプの下流側既設配管または前記汚泥引抜ポンプの下流側既設配管に仮設配管を接続し、前記既存の水処理装置に汚水を供給しつつ、前記仮設配管を介して返送汚泥または余剰汚泥の一部を種汚泥として前記膜分離活性汚泥処理装置に供給する種汚泥供給工程と、前記種汚泥供給工程の後に、前記膜分離活性汚泥処理装置に汚水の一部を供給して膜分離活性汚泥処理を立ち上げるMBR立上げ工程と、を備えている点にある。
【0018】
既存の水処理装置を稼働させながら、仮設配管を介して返送汚泥または余剰汚泥の一部を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置に供給する種汚泥供給工程を実行することにより、速やかに大量の汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置に供給することができる。しかも、仮設配管を汚泥返送ポンプの下流側の既設配管または汚泥引抜ポンプの下流側の既設配管に接続することで、別途の送泥用のポンプを準備する必要が無く、安価に実行できる。そして、種汚泥供給工程により種汚泥が膜分離活性汚泥処理装置に供給された後に、汚水の一部を膜分離活性汚泥処理に供給することで、膜分離活性汚泥処理を速やかに立ち上げることができる。
【0019】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記MBR立上げ工程の後に、停止予定の水処理装置の前記生物処理槽と前記沈殿槽の池排水管を連結するとともに、前記生物処理槽への汚水の供給を停止し、前記沈殿槽の汚泥を前記膜分離活性汚泥処理装置に供給する稼働停止工程を含む点にある。
【0020】
膜分離活性汚泥処理を立ち上げた後に、停止予定の水処理装置の生物処理槽と沈殿槽の池排水管を連結することで、停止予定の水処理装置の生物処理槽から汚泥を速やかに沈殿槽に送ることができ、沈殿槽の汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置に円滑に供給することができる。
【0021】
同第三の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記種汚泥供給工程の実行時に、前記膜分離活性汚泥処理装置に備えた分離膜に散水して湿潤状態を保持する散水工程を実行する点にある。
【0022】
規模の大きな膜分離活性汚泥処理装置では、種汚泥の供給に要する時間が長くなり、分離膜が水没していない状況が長時間継続することにより、分離膜が乾燥する虞がある。分離膜が乾燥すると膜分離機能が損なわれるのであるが、種汚泥供給工程の実行時に散水工程を実行することにより分離膜の湿潤状態が維持されるので、その後速やかに膜分離活性汚泥処理装置を稼働させることができる。
【0023】
同第四の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記既設配管への前記仮設配管の接続位置は、少なくとも前記既設配管に設置された汚泥濃度計及び流量計の下流側である点にある。
【0024】
既設配管に設置された汚泥濃度計及び流量計の下流側に仮設配管を接続することで、汚泥濃度や汚泥流量を検出するための別途のセンサを準備する必要がない。
【0025】
同第五の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記種汚泥供給工程において、前記汚泥返送ポンプまたは前記汚泥引抜ポンプの揚程が不足する場合に、既設の予備ポンプに仮設配管を接続して稼働させる点にある。
【0026】
仮設配管を介して汚泥を膜分離活性汚泥処理装置に供給する際に、仮設配管の口径が小さいために管路抵抗が増加し、既設の汚泥返送ポンプまたは汚泥引抜ポンプの揚程が不足することで十分な汚泥供給能力が得られない場合もある。そのような場合に、既設の予備ポンプを同時運転できるように設備を改造することにより、汚泥供給能力を増強することができる。或いは、既設の汚泥返送ポンプまたは汚泥引抜ポンプの揚程が純粋に不足する場合には予備ポンプを中継地点へと移設して中継ポンプとして稼働させることにより、揚程不足の問題を解消できる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した通り、本発明によれば、既設の汚水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥として利用しながらも、安価なコストで規模の大きな膜分離活性汚泥処理装置を速やかに立ち上げることができる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(a)は従来の汚水処理装置の平面視の概略図、(b)は従来の汚水処理装置の断面視の概略図
図2】(a)は本発明が適用される汚水処理装置の平面視の概略図、(b)は本発明による膜分離活性汚泥処理装置の断面視の概略図
図3】膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の説明図
図4】膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の説明図
図5】膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の手順を示すフローチャート
図6】膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の実施形態を説明する。
【0030】
図1(a)、(b)に示すように、下水処理場などの大規模な既設の汚水処理装置には、沈砂池90、最初沈殿池91、生物処理槽92、最終沈殿池93、消毒設備94がこの順に備えられ、標準活性汚泥法によって汚水が浄化処理される。尚、最初沈殿池91(91a~91d)、生物処理槽92(92a~92d)、最終沈殿池93(93a~93d)は複数列並設されている。
【0031】
生活排水等の有機性汚濁物質を含む被処理水である汚水は、沈砂池90で砂や粗大物が除去された後に、揚水用のポンプP1によって最初沈殿池91(91a~91d)に移送され、汚水中の浮遊固形物が沈降分離される。さらに、上澄水は生物処理槽92(92a~92d)に移送されて、微生物の作用によって有機成分が分解除去された後に、本発明の沈殿池となる最終沈殿池93(93a~93d)に移送され、最終沈殿池93で活性汚泥が沈降分離された上澄水が処理水として取り出され、消毒設備94で消毒された後に河川等に放流される。
【0032】
最終沈殿池93で沈降した活性汚泥の一部は、汚泥返送ポンプP2が配された汚泥返送配管95を介して生物処理槽92(92a~92d)に返送されて、生物処理槽92(92a~92d)のMLSS濃度が調整される。また、最終沈殿池93で沈降した活性汚泥の一部は、汚泥引抜ポンプP3が配された汚泥引抜配管96を介して汚泥濃縮設備97に送泥されて濃縮処理される。
【0033】
汚泥返送配管95及び汚泥引抜配管96には汚泥濃度計や汚泥流量計が設置されている。汚泥濃度計による検出汚泥濃度及び汚泥流量計による検出汚泥流量に基づいて、生物処理槽92(92a~92d)のMLSS濃度が調整され、汚泥引抜配管96に設置された汚泥流量計による検出汚泥流量に基づいて引抜き汚泥量が調整される。
【0034】
汚水処理装置の老朽化に伴い、既設の生物処理槽92、最終沈殿池93が、膜分離活性汚泥法を用いた本発明による汚水処理装置となる膜分離活性汚泥処理装置へ改築される。
【0035】
設備全体として現状の処理量と同等の処理量で汚水処理を継続しながら改築する必要があるため、例えば一部の列の汚水の処理経路で既存の標準活性汚泥法による汚水の処理を継続しつつ、一部の列の汚水の処理経路に膜分離活性汚泥法を用いた装置が構築され、或いは、既設の全ての列の汚水の処理経路で既存の標準活性汚泥法による汚水の処理を継続しつつ、新設列の汚水の処理経路に膜分離活性汚泥法を用いた装置が構築されつつ、既設の一列の汚水処理装置が停止される。
【0036】
そして、新設または一部の列の汚水の処理経路の膜分離活性汚泥法を用いた装置への改築後に、残りの列の汚水の処理経路が順次膜分離活性汚泥法を用いた装置に改築される。このため、ある期間は、改築済の処理経路と未改築の処理経路が並列して共存する状態が存在する。
【0037】
図2(a)、(b)には、従来の標準活性汚泥法による生物処理槽の一列の生物処理槽92dが、膜分離活性汚泥法を採用した膜分離活性汚泥処理装置20に改築された状態が示されている。
【0038】
このように、標準活性汚泥法の生物処理槽92を膜分離活性汚泥法の膜分離活性汚泥処理装置20に改築することで、従来必要であった最終沈殿池93や消毒設備94等が不要となる。尚、図1(a)、(b)に示すような従来の汚水処理装置と同様の構成については同じ符号を付している。
【0039】
膜分離活性汚泥処理装置20は、無酸素槽21と好気槽22を備えている。好気槽22には分離膜を備えた膜分離装置23が浸漬して配置され、その下部には散気装置24が配設されている。膜分離装置23に備えられた分離膜としては、限外濾過膜、精密濾過膜等が採用される。分離膜の形態は、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが採用される。
【0040】
散気装置24から供給される空気により好気性条件に制御される好気槽22では、活性汚泥により被処理水に含まれるアンモニア成分が硝化処理されるとともにリンが摂取され、硝化液循環ポンプP5を介して活性汚泥の一部が硝化処理された被処理水とともに無酸素槽21に返送され、汚泥引抜ポンプP6を介して余剰汚泥が引き抜かれる。好気槽22は膜分離槽でもあり、散気装置24から供給される気泡により分離膜の表面が洗浄される。
【0041】
無酸素槽21では、最初沈殿池91からの越流水が被処理水として流入し、嫌気性処理される。好気槽22から返送された被処理水から窒素が分離除去されるとともに、活性汚泥からリンが放出される。
【0042】
無酸素槽21と好気槽22は区画壁により区画され、無酸素槽21内の被処理水が区画壁をオーバーフローすることで下流側の好気槽22へ移送される。図示しない吸引ポンプにより分離膜でろ過された処理水は河川や海に放流される。
【0043】
以下に、既設の一列の生物処理槽92dを停止して新設の膜分離活性汚泥処理装置20を稼働させる場合を例に、本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法を詳述する。
図5には、膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の手順を示すフローが示されている。ステップS1~S3は準備工程を示し、ステップS4~S6は種汚泥供給工程を示し、ステップS7はMBR立上げ工程を示し、ステップS8~S10は停止予定の水処理装置の稼働停止工程を示す。
【0044】
先ず、立上げ対象の膜分離活性汚泥処理装置20に清水が供給されて、清水運転が実施される(S1)。次に、図3に示すように、既設の汚水処理装置を構築する配管などが設置される管廊に、改築される膜分離活性汚泥処理装置20に種汚泥を供給するための仮設配管である汚泥供給経路25と、被処理水よりも高濃度のBOD源を供給するBOD源供給経路26が設置される(S2)。その後、膜分離活性汚泥処理装置20の無酸素槽21及び好気槽22に充填された清水が排水される(S3)。
【0045】
次に、沈殿槽である最終沈殿池93(93a~93d)に備えた汚泥引抜配管96に設置された汚泥引抜ポンプP3の下流側の既設配管に仮設配管25を接続し、既存の複数系列の水処理装置に汚水を供給して稼働させつつ、仮設配管25を介して余剰汚泥の一部を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に供給する種汚泥供給工程(S4~S6)が実行される。
【0046】
種汚泥供給工程では、既設の最終沈殿池93(93a~93d)から高濃度の大量のSSが短期間に膜分離活性汚泥処理装置20に供給される。本実施形態では、種汚泥の供給から汚水の受け入れ開始までの間、種汚泥の自己解体を回避するべく無曝気状態で待機する。短期間とは、その際に汚泥の腐食が始まるまでの期間をいい、本実施形態では夏季で1日程度、冬季で2日程度に設定される。
【0047】
種汚泥供給工程では、仮設配管25(図3中、一点鎖線の太線)に代えて、或いは、仮設配管25とともに、最終沈殿池93(93a~93d)に備えた汚泥返送配管95に備えた汚泥返送ポンプP2の下流側の既設配管に仮設配管27(図3中、一点鎖線の細線)を接続して膜分離活性汚泥処理装置20に種汚泥を供給してもよい。
【0048】
既存の複数系列の水処理装置を稼働させながら、仮設配管25,27を介して返送汚泥または余剰汚泥の一部を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に供給する種汚泥供給工程を実行することにより、速やかに大量の汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に供給することができる。しかも、仮設配管25,27を汚泥返送ポンプの下流側の既設配管または汚泥引抜ポンプの下流側の既設配管に接続することで、別途の送泥用のポンプを準備する必要が無く、安価に実行できる。
【0049】
このとき、既設配管である汚泥引抜配管96や汚泥返送管95への仮設配管25,27の接続位置は、少なくとも汚泥引抜配管96や汚泥返送管95に設置された汚泥濃度計及び流量計の下流側に設定されることが好ましく、膜分離活性汚泥処理装置20に供給する種汚泥の汚泥濃度や汚泥流量を検出するための別途の汚泥濃度計及び流量計を準備する必要がなくなる。つまり、既設の汚泥濃度計及び流量計の検出値に基づいて、膜分離活性汚泥処理装置20に供給する種汚泥の汚泥濃度及び汚泥量を把握することができる。
【0050】
仮設配管25と汚泥引抜配管96の接続位置は、既設配管が比較的少ない生物処理槽92と最初沈殿池91の間の管廊に布設することが好ましく、また各沈殿槽である最終沈殿池93の池排水管98から引き抜かれた余剰汚泥が合流して汚泥濃縮設備97へ搬送する搬送配管に接続することが好ましい。そして、仮設配管25,27の下流側に、2mmメッシュ程度の編目を備えたスクリーン機構を設けて、スクリーン機構により異物を除去した後に膜分離活性汚泥処理装置20に供給することが好ましい。
【0051】
上述した種汚泥供給工程において、仮設配管25,27の口径が小さく管路抵抗が増加して汚泥返送ポンプP2または汚泥引抜ポンプP3の揚程が不足することで十分な汚泥供給能力が得られない場合もある。そのような場合には、既設の予備ポンプに仮設配管を接続して稼働させる。例えば、既設の予備ポンプを同時運転できるように設備を改造することにより、汚泥供給能力を増強することができる。或いは、既設の汚泥返送ポンプまたは汚泥引抜ポンプの揚程が純粋に不足する場合には予備ポンプを中継地点へと移設して中継ポンプとして稼働させることにより、揚程不足の問題を解消できる。
【0052】
上述した種汚泥供給工程の後に、膜分離活性汚泥処理装置20に汚水の一部を供給して膜分離活性汚泥処理装置20を立ち上げるMBR立上げ工程(S7)が実行される。
【0053】
一例として、膜分離活性汚泥処理装置20の活性汚泥では、MLSSが8000~12000mg/Lに維持され、BOD/SS負荷が0.03~0.1gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理されている。一方、種汚泥となる標準活性汚泥法による活性汚泥では、MLSSが生物処理槽で1000~2000mg/L、最終沈殿池93で3000~6000mg/Lに維持され、BOD/SS負荷が0.1~0.4gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理される。
【0054】
このように高いBOD/SS負荷で運転管理される標準活性汚泥法による余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いて、低いBOD/SS負荷で装置を立ち上げる場合には、BOD/SS負荷の急激な低下により汚泥中の微生物が自己消化を起こし、その結果として分離膜のファウリングを引き起こすファウリング物質が生成されて膜の目詰まりが発生し、早期に所定の汚水処理量まで立ち上げることが困難となる。
そこで、ポンプP4により引き抜かれた生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水がBOD源供給経路26を介して、被処理水とともに無酸素槽21に供給されるように構成されている。
【0055】
被処理水よりも高濃度のBOD源を被処理水とともに無酸素槽21に供給すれば、分離膜の膜透過流束を増加させなくとも、被処理水のみよりもBOD濃度を上昇させることができ、その結果、種汚泥に適したBOD/SS負荷に近い状態で、早期に膜分離活性汚泥法に適したMLSSまで活性汚泥を馴養することができるようになる。その結果、早期に膜分離装置の膜透過流束を所定の目標値まで上昇させることができるようになる。
【0056】
BOD源供給経路26を介したBOD源の供給量は、膜分離活性汚泥処理装置20のMLSSが所定値になった後に漸次減少させればよい。膜分離活性汚泥処理装置20に適した活性汚泥のMLSSが所定値(上述の例では、8000~12000mg/L)になる時点を、膜分離活性汚泥処理法による汚水処理槽値の運転立上がり時期の指標として、その後、高濃度のBOD源の添加量を漸次減少させて、目標のBOD/SS負荷に収束させることで、膜の目詰まりを起こすことなく良好に立上げ運転を終了して定常運転状態に移行することができる。
【0057】
図4に示すように、MBR立上げ工程(S7)の後に、停止予定の水処理装置の生物処理槽92dと最終沈殿池93dの池排水管98を連結する(S8)とともに、生物処理槽92dへの汚水の供給を停止し(S9)、最終沈殿池93dの汚泥を膜分離活性汚泥処理装置20に供給する稼働停止工程(S8~S10)を実行する。
【0058】
停止予定の水処理装置の生物処理槽92dと最終沈殿池93dの池排水管98を連結することで、生物処理槽92dから汚泥を速やかに最終沈殿池93dに送ることができ、最終沈殿池93dの汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に円滑に供給することができる。
【0059】
さらに、上述した種汚泥供給工程の実行時に、膜分離活性汚泥処理装置20の好気槽22に設置された膜分離装置23に、散水ノズル等の散水手段を介して散水して分離膜を湿潤状態に保持する散水工程が実行される(S5)。
【0060】
規模の大きな膜分離活性汚泥処理装置20では、清水試運転のために無酸素槽および好気槽内に貯留した清水を排水してから種汚泥の供給を完了するまでに要する時間が1~3日と長くなり、その間に分離膜が乾燥する虞がある。分離膜が乾燥すると膜分離機能が損なわれるため、種汚泥供給工程の実行時に散水工程を実行することにより、分離膜の湿潤状態を維持するのである。
【0061】
図6には、本発明の別実施形態が示されている。予め、停止予定の水処理装置の汚泥返送配管96に返送汚泥を最終沈殿池93に戻す仮設配管29Aと、生物処理槽92の活性汚泥を汚泥返送配管96に引き抜く仮設配管29Bを設置するとともに、汚泥返送配管96の最上流側と最下流側及び仮設配管29BにバルブV1,V2,V3を設置しておく。
【0062】
仮設配管25を介して最終沈殿池93の汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に移送する過程で、例えば汚泥引抜配管96に設置した汚泥濃度計の値に基づいて種汚泥の不足を検知すると、バルブV1,V2を閉じた状態でバルブV3を開放することで、生物処理槽92の活性汚泥を最終沈殿池93に強制的に移送して、最終沈殿池93で沈降させた濃縮汚泥を種汚泥として供給するように構成してもよい。
【0063】
通常、ポンプP2の吐出し量はポンプP3の吐出し量より多いため、最終沈殿池93では上澄み水が多くなる。このような場合には、最終沈殿池93に水位計を設置して、水位計の値に基づいてポンプP2の吐出し量を制御することで、処理水の膜分離活性汚泥処理装置20への流出を回避することができる。また最終沈殿池93にポンプを仮設して、最終沈殿池93の上澄み水を、既設の汚水処理装置の他系列の生物処理槽92の流入部に送水してもよい。
【0064】
また、仮設配管25を介して最終沈殿池93の汚泥を種汚泥として膜分離活性汚泥処理装置20に移送する過程で、例えば汚泥引抜配管96に設置した汚泥濃度計の値に基づいて種汚泥の不足を検知した場合に、生物処理槽92内の活性汚泥を直接または濃縮して膜分離活性汚泥処理装置20に供給してもよい。
【0065】
上述した実施形態では、改築対象の汚水処理装置における生物処理方式が標準活性汚泥法のものについて説明したが、本発明は、回分式活性汚泥法、循環式硝化脱窒法、ステップ流入式硝化脱窒法、嫌気無酸素好気法、担体投入型活性汚泥法等の公知の処理方式の汚水処理装置に採用することができる。
【0066】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
20:膜分離活性汚泥処理装置
21:無酸素槽
22:好気槽
23:膜分離装置
24:散気装置
25,27:仮設配管
26:BOD源供給経路
90:沈砂池
91(91a~91d):最初沈殿池
92(92a~92d):生物処理槽
93(93a~93d):最終沈殿池
95:汚泥返送配管(既設管路)
96:汚泥引抜配管(既設管路)
94:消毒設備
97:汚泥濃縮設備
98:池排水管
P2:汚泥返送ポンプ
P3:汚泥引抜ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6