(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093124
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ピストン構造
(51)【国際特許分類】
F15B 15/14 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F15B15/14 335Z
F15B15/14 345Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209299
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】591069824
【氏名又は名称】旭精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【弁理士】
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】平尾 善道
【テーマコード(参考)】
3H081
【Fターム(参考)】
3H081AA01
3H081BB01
3H081CC23
3H081DD32
3H081DD39
3H081HH08
(57)【要約】
【課題】 ピストンの戻しバネを備えるピストン構造でありながら、戻しバネの保持金具の省略を可能とし、これによりピストンストロークの増大、及び部品点数の低減を可能とする。
【解決手段】 シリンダー10と、当該シリンダー10内に両方向に移動可能に配置され、一方の方向に強制駆動されるピストン20と、当該ピストン20の駆動方向側のシリンダー10内に配置されて、当該ピストン20を反駆動方向へ復帰させる戻しバネ30とを備える。前記戻しバネ30として、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが、その小径側を前記ピストン20に向けて配置される。当該円錐バネの最大径側の1巻31が外力を受けない状態で、当該1巻31が前記シリンダー10の内周面に形成された周溝11に嵌合することにより、当該戻しバネ30が前記シリンダー10内に保持される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーと、当該シリンダー内に両方向に移動可能に配置され、一方の方向に強制駆動されるピストンと、当該ピストンの駆動方向側のシリンダー内に配置されて、当該ピストンを反駆動方向へ復帰させる戻しバネとを備えたピストン構造において、
前記戻しバネとして、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが、その小径側を前記ピストンに向けて配置され、
当該円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記シリンダーの内径より大とされて、当該1巻が前記シリンダーの内周面に形成された周溝に嵌合することにより、当該戻しバネが前記シリンダー内に保持されることを特徴とするピストン構造。
【請求項2】
請求項1に記載のピストン構造において、
前記円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記周溝の内径より大であることにより、当該戻しバネが前記シリンダー内に弾性的に保持されるピストン構造。
【請求項3】
第1シリンダーと、当該第1シリンダー内に両方向に移動可能に配置され、一方の方向に強制駆動される第1ピストンと、当該第1ピストンの駆動方向側に配置されて、当該第1ピストンを反駆動方向へ復帰させる戻しバネと、当該戻しバネの前記駆動方向側の第1シリンダー内に配置された第2シリンダーと、当該第2シリンダー内に移動可能に配置され、前記第1ピストンと同じ方向に強制駆動される第2ピストンとを備えた2段構造のピストン構造であって、
前記戻しバネとして、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが、その小径側を前記第1ピストンに向けて配置され、
当該円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記第1シリンダーの内径より大とされて、当該1巻が前記第1シリンダーの内周面に形成された周溝に嵌合することにより、当該戻しバネが前記第1シリンダー内に保持されることを特徴とするピストン構造。
【請求項4】
請求項3に記載のピストン構造において、
前記円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記周溝の内径より大であることにより、当該戻しバネが前記第1シリンダー内に弾性的に保持されるピストン構造。
【請求項5】
請求項3に記載のピストン構造において、
前記円錐バネの最大径側の1巻が前記周溝に嵌合した状態で、当該1巻の内径が前記第1シリンダーの内径より小とされることにより、前記1巻が前記第2シリンダーのストッパーを兼ねるピストン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダー内にピストンが両方向に移動可能に配置され、当該ピストンが一方の方向に強制駆動される一方、前記ピストンの駆動方向側のシリンダー内に保持された戻しバネにより前記ピストンが他方の方向に自動復帰する戻しバネ付きのピストン構造に関し、特にその戻しバネが縮小したときのバネ長を小さく抑制でき、且つその戻しバネの固定構造を簡素化できるピストン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
戻しバネを備えた自動復帰式のピストン構造は、各種産業機器用エアシリンダー、ソレノイド等のアクチュエータに広く使用されている(特許文献1)。その構造の一つを
図2に示す。
【0003】
図2のピストン構造においては、一端が閉止され、他端が開放されたシリンダー10内にピストン20及び戻しバネ30が重ねて配置されている。そして、ピストン20とシリンダー10の閉止端との間に加圧流体を注入することにより、ピストン20が戻しバネ30の弾性力に抗してシリンダー10の開放端側へ強制駆動される。加圧流体を排出すると、ピストン10が戻しバネ30の弾性力により元の位置に自動復帰する。
【0004】
ここで、戻しバネ30としては、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが使用されており、その円錐バネは、シリンダー10内のピストン20と、保持金具90(止め輪91及びリングスペーサ90)との間に、小径側をピストン10に向けて保持されている。
【0005】
このような戻しバネ付きのピストン構造においては、戻しバネ30として円錐バネが使用されているため、戻しバネ30が縮小したとき、特にピストン10がストロークエンドまで移動したときに、そのバネ30の各巻き輪が同一平面上に重なり合う。このため、最大縮小時のバネ長(最小バネ長)が小さく抑制され、その分、ピストンストロークを大きくできる。
【0006】
しかし、そのバネ30をシリンダー10内に保持するための保持用金具90として、止め輪91及びスペーサーリング92が使用されているために、これらの厚み分はピストンストロークが制限されるのを避けることができない。また、止め輪91及びスペーサーリング92の使用による部品点数の増加を避けることもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ピストンの駆動方向側のシリンダー内に戻しバネを備える自動復帰構造でありながら、戻しバネの保持金具を省略でき、これによりピストンストロークの増大、及び部品点数の低減を可能とするピストン構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のピストン構造は、シリンダーと、当該シリンダー内に両方向に移動可能に配置され、一方の方向に強制駆動されるピストンと、当該ピストンの駆動方向側のシリンダー内に配置されて、当該ピストンを反駆動方向へ復帰させる戻しバネとを備えたピストン構造において、
前記戻しバネとして、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが、その小径側を前記ピストンに向けて配置され、
当該円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記シリンダーの内径より大とされて、当該1巻が前記シリンダーの内周面に形成された周溝に嵌合することにより、当該戻しバネが前記シリンダー内に保持されることを構造上の特徴点とする。
【0010】
かかる構造によると、止め輪やスペーサーリングといった保持金具を使用することなく、当該戻しバネが小径側をピストンに向けてシリンダー内に保持固定される。ピストンは当該戻しバネの弾性力に抗して強制駆動され、復帰時には当該戻しバネの弾性力により元の位置に自動復帰する。戻しバネが縮小するときには、最大径の巻き輪の内側に各巻き輪が順番に嵌まり込み、最終的に同一平面上に重なり合う。その結果、保持金具の厚みに相当する分、ピストンストロークを増大させることができ、ピストンストロークを一定とすれば、その分、シリンダー長を縮小することができる。
【0011】
本発明のピストン構造においては、前記円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径D1を前記周溝の内径d2より大とするのが好ましい。こうすることにより、前記戻しバネが前記シリンダー内に弾性的に保持され、そのガタツキ等が防止される。
【0012】
前述したとおり、本発明のピストン構造は、シリンダー長を縮小することができる。このため、シリンダー長の増大を余儀なくされる2段構造のピストン構造に特に有効である。これが、本発明の第2のピストン構造である。
【0013】
すなわち、本発明の第2のピストン構造は、第1シリンダーと、当該第1シリンダー内に両方向に移動可能に配置され、一方の方向に強制駆動される第1ピストンと、当該第1ピストンの駆動方向側に配置されて、当該第1ピストンを反駆動方向へ復帰させる戻しバネと、当該戻しバネの前記駆動方向側の第1シリンダー内に配置された第2シリンダーと、当該第2シリンダー内に移動可能に配置され、前記第1ピストンと同じ方向に強制駆動される第2ピストンとを備えた2段構造のピストン構造であって、
前記戻しバネとして、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが、その小径側を前記第1ピストンに向けて配置され、
当該円錐バネの最大径側の1巻が外力を受けない状態で、当該1巻の外径が前記第1シリンダーの内径より大とされて、当該1巻が前記第1シリンダーの内周面に形成された周溝に嵌合することにより、当該戻しバネが前記第1シリンダー内に保持されることを構成上の特徴点とする。
【0014】
本発明の第2のピストン構造においても、前記円錐バネが外力を受けない状態で、その最大径側の1巻の外径D1を前記周溝の内径d2より大とするのが好ましい。こうすることにより、当該戻しバネが前記第1シリンダー内に弾性的に保持される。
【0015】
また、本発明の第2のピストン構造においては、前記円錐バネの最大径側の1巻が前記周溝に嵌合した状態で、当該1巻の内径D2を前記第1シリンダーの内径d1より小とするのが好ましい。こうすることにより、前記1巻の内周部が第1シリンダーの内周面より内側に突出し、当該1巻が前記第2シリンダーのストッパーを兼ねることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のピストン構造によると、止め輪やスペーサーリングといった保持金具を使用することなく、当該戻しバネがシリンダー内に保持固定されるので、保持金具が不要となり、部品点数が削減される。保持金具の省略に伴って、ピストンストロークの増大が可能となり、ピストンストロークを一定とすれば、その分、シリンダー長を縮小することができるので、使用する機器の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態を示すピストン構造の縦断面図である。
【
図3】本発明のピストン構造の適用例を示すキャリパーブレーキの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態を
図1により説明する。本実施形態のピストン構造は、各種産業機器用エアシリンダー、ソレノイド等のアクチュエータに広く使用される。
【0019】
このピストン構造は、一端が閉止され、他端が開放されたシリンダー10内にピストン20及び戻しバネ30が重ねて配置される点、ピストン20とシリンダー10の閉止端との間に加圧流体を注入することにより、ピストン20が戻しバネ30の弾性力に抗してシリンダー10の開放端側へ強制駆動される点、加圧流体を排出すると、ピストン20が戻しバネ30の弾性力により元の位置に自動復帰する点、前記戻しバネ30として、線材が巻き径を徐々に縮小させながら巻回された円錐バネが使用される点、及び当該戻しバネ30が小径側をピストン20に向けて、ピストン20の駆動方向側に保持固定される点において、
図2に示す従来のピストン構造と同じである。
【0020】
図2に示す従来のピストン構造と異なるのは、円錐バネからなる戻しバネ30のシリンダー10内における保持構造である。具体的には、当該戻しバネ30の最大径側の1巻31が、前記シリンダー10の内周面に形成された周溝11に嵌合することにより、当該戻しバネ30が止め輪やスペーサーリング等の保持金具を使用することなく、前記シリンダー10内に保持されることである。
【0021】
当該戻しバネ30においては、最大径側の1巻31を周溝11に嵌合させるために、当該1巻の外径D1は、外力を受けない状態でシリンダーの内径d1より大であることが必要であり、周溝11の内径d2より大きいことが望まれる。当該1巻31の外径D1を周溝11の内径d2より大きくすることにより、当該1巻31が前記周溝11内に弾性的に嵌合し、シリンダー10内に確実に保持される。
【0022】
なお、円錐バネを構成する線材の特性、太さφ、巻き数などのバネ仕様は、必要とする復元力に基づいて適宜設定される。
【0023】
本実施形態のピストン構造によると、止め輪やスペーサーリングといった保持金具が不要となり、部品点数が削減される。また、保持金具の省略に伴って、ピストンストロークの増大が可能となり、ピストンストロークを一定とすれば、その分、シリンダー長を縮小することができるので、適用する機器の小型化が可能となる。
【0024】
次に、本実施形態のピストン構造の適用例を
図3~
図5により説明する。この適用例は、エア式キャリパーブレーキと呼ばれるディスクブレーキの一種であり、中間部でヒンジ41により回動可能に結合された第1ハウジング40A及び第2ハウジング40Bを備えている。第1ハウジング40A及び第2ハウジング40Bのヒンジ41より一端側は、一対の摩擦板42,42を備えた作用点側であり、大型の戻しバネ43により開放方向へ付勢されている。
【0025】
一方、力点側においては、第1ハウジング40Aに、第1シリンダーとして、対向側へ開放された円形凹部44が設けられている。この第1シリンダー44内には、第1ピストン50、円錐バネからなる戻しバネ60、及びカップ状の第2シリンダー70が重ねて配置されており、第2シリンダー70内には円板状の第2ピストン80が配置されている。第1ピストン50の中心部には、対向側へ突出する軸部51が設けられている。軸部51は、第2シリンダー70の底部及び第2ピストン80の各中心部を貫通しており、止め輪53により第2ピストン80の対向側への移動を阻止している。
【0026】
円錐バネからなる戻しバネ60は、第1ピストン50と第2シリンダー70との間に、小径側を第1ピストン50の側(反対向側)に向けた状態で配置されると共に、第1シリンダー44の内径より大径である大径側の1巻61が、第1シリンダー44の内面に設けた環状の凹溝45に嵌合することにより、第1シリンダー44内に保持固定されている。
【0027】
戻しバネ60の大径側の1巻61は、外力を受けない状態で、その外径D1が周溝45の内径d2より大とされることにより、周溝45内に弾性的に嵌合している。また、当該1巻61が周溝45に嵌合した状態で、当該1巻61の内径D2が第1シリンダー44の内径d1より小とされることにより、当該1巻61の内周部が周溝45よりはみ出して、当該1巻61が第2シリンダー70の反対向側への動きを制止するストッパーを兼ねている。
【0028】
加圧流体である高圧空気は、第1シリンダー44である円形凹部の底部に設けたエア配管口46から第1ピストン50の反対向側に注入されると同時に、第1ピストン50の軸部51の底部中心から先端部の周囲にかけて設けられた貫通孔52を通じて、第2シリンダー70内の第2ピストン80の反対向側に注入される。
【0029】
これにより、第1ピストン50及び第2ピストン80が戻しバネ60による付勢力に抗して対向側へ移動して、第1ピストン50の軸部51で第2ハウジング40Bの軸部47を押圧することにより、第1ハウジング40Aと第2ハウジング40Bの間に設けた大型の戻しバネ43による付勢力に抗して、第1ハウジング40A及び第2ハウジング40Bの力点側を押し広げ、作用点側に設けた一対の摩擦板42,42を閉止方向へ強制駆動する。
【0030】
高圧空気の注入が停止され、エア配管口46が大気開放されると、第1ハウジング40Aと第2ハウジング40Bとの間の大型の戻しバネ43の弾性力により、第1ハウジング40A及び第2ハウジング40Bの力点側が閉じ、作用点側に設けた一対の摩擦板42,42が開く。また、第1シリンダー44内の戻しバネ60の弾性力により、第1ピストン50及び第2ピストン80が元の位置に復帰する。
【0031】
このような構造のキャリパーブレーキにおいては、ピストンが第1ピストン50と第2ピストン80の縦列2段構造になっているので、強い押圧力が得られ、一対の摩擦板42,42の閉止力が増強されるが、その一方でピストン構造が複雑化し、特にピストン駆動方向(ハウジング40Aの厚み方向)においてスペース上の制約が大となり、ピストンストロークの確保が困難となる。
【0032】
しかしながら、第1シリンダー44内の戻しバネ60が止め輪もスペーサーリングも使用することなく第1シリンダー44内に保持固定されているので、ピストンストロークの確保が容易となる。具体的には、第1ハウジング40Aの基本構造を変えることなく、第1ピストン50のストロークを大きくでき、結果的に第2ピストン80のストロークも大きくできる。また、戻しバネ60の最大径側の1巻61が第2シリンダー70のストッパーを兼ねているので、これも第1ピストン50及び第2ピストン80のストローク増大に寄与する。
【0033】
以上に説明したとおり、本発明のピストン構造は、厚みの増大、ピストンストロークの制限を余儀なくされる2段構造のピストン構造の薄肉化、ピストンストロークの増大、部品点数の低減に特に有効である。
【符号の説明】
【0034】
10 シリンダー
11 周溝
20 ピストン
30 戻しバネ
31 大径側の1巻
40A 第1ハウジング
40B 第2ハウジング
41 ヒンジ
42 摩擦板
43 戻しバネ
44 第1シリンダー(円形凹部)
45 周溝
46 エア配管口
47 軸部
50 第1ピストン
51 軸部
52 貫通孔
53 止め輪
60 戻しバネ
61 大径側の1巻
70 第2シリンダー
80 第2ピストン
90 保持金具
91 止め輪
92 スペーサーリング