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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093139
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20240702BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240702BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240702BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 50/451 20210101ALN20240702BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240702BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALN20240702BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALN20240702BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/449
H01M10/04 W
H01M10/0566
H01M10/04 Z
H01M50/451
H01M10/052
H01M10/0585
H01M10/0587
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209324
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 祐太
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE07
5H021EE08
5H021EE22
5H021EE32
5H021HH00
5H021HH06
5H021HH10
5H028AA05
5H028BB07
5H028CC08
5H028CC10
5H028CC11
5H028CC12
5H028EE10
5H028HH00
5H028HH05
5H028HH08
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ14
5H029DJ04
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ12
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】電解液の含浸性に優れた電池セルを提供する。
【解決手段】電池セルはセパレータを含む電極体と電解液とを備える。電極体は巻回型電極体又は積層型電極体である。セパレータは、基材層と基材層上に形成された機能層とを有する。電極体が巻回型電極体である場合、セパレータの表面における電解液との接触角は、巻回軸に平行な方向において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなる。電極体が積層型電極体である場合、セパレータの表面における電解液との接触角は、電極体の平面視において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを含む電極体と電解液とを備えた電池セルであって、
前記電極体は、巻回型電極体又は積層型電極体であり、
前記セパレータは、基材層と、前記基材層上に形成された機能層とを有し、
前記電極体が前記巻回型電極体である場合、前記セパレータの表面における前記電解液との接触角は、巻回軸に平行な方向において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなり、
前記電極体が前記積層型電極体である場合、前記セパレータの表面における前記電解液との接触角は、前記電極体の平面視において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなる、電池セル。
【請求項2】
前記セパレータの表面は、前記接触角が互いに異なる2以上の領域を有し、
前記2以上の領域のうちの互いに隣接する2つの領域の間での前記接触角の差の絶対値は、温度25℃において4°以上である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記セパレータの表面は、温度25℃における前記接触角が15°以上である領域(a1)、及び、前記領域(a1)に隣接し、温度25℃における前記接触角が25°以下である領域(b1)を有する、請求項2に記載の電池セル。
【請求項4】
前記セパレータの表面は、
温度25℃における前記接触角が15°以上である領域(a2)、
温度25℃における前記接触角が25°以下である領域(b2)、及び、
前記領域(a2)及び前記領域(b2)に隣接し、温度25℃における前記接触角が15°以上25°以下である領域(c2)を有する、請求項2に記載の電池セル。
【請求項5】
前記機能層は、接着剤層又は耐熱層である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項6】
前記電極体は、活物質層を含む極板を有し、
前記電極体が前記巻回型電極体である場合、前記巻回軸に平行な方向における前記活物質層の長さが最大となる部分の長さは、200mm以上であり、
前記電極体が前記積層型電極体であって、前記積層型電極体の平面視形状が長方形である場合、前記電極体の平面視形状の長辺に平行な方向における前記活物質層の長さは、200mm以上である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項7】
前記接触角は、前記セパレータの前記機能層表面における前記電解液との接触角である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電池セルに含まれる電極体は、正極板と負極板との間にセパレータが介在した積層体を有する。積層体にムラなく電解液を含浸させるために、特許文献1では、極板とセパレータとの間の接着層に電解液が含浸する空間を設けることが開示されている。特許文献2には、積層体に十分に電解液を含浸させて電池特性を向上するために、セパレータが有する機能性樹脂層と電解液との接触角を小さくすることにより、セパレータと電解液との親和性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-163665号公報
【特許文献2】特開2015-99801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明では、積層体をプレスしたときに空間部分とそれ以外の部分とで圧縮状態が異なり、正極板と負極板との間の距離に差が生じる。このような距離の差が生じるとリチウム等の金属が析出しやすくなる。特許文献2に開示された発明では、セパレータと電解液との親和性が良好であるため、電池セルの端部で電解液が捕捉され、電池セルの端部よりも内側にある中央部に電解液が含浸されにくい。
【0005】
本開示の目的は、電解液の含浸性に優れた電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の電池セルを提供する。
〔1〕 セパレータを含む電極体と電解液とを備えた電池セルであって、
前記電極体は、巻回型電極体又は積層型電極体であり、
前記セパレータは、基材層と、前記基材層上に形成された機能層とを有し、
前記電極体が前記巻回型電極体である場合、前記セパレータの表面における前記電解液との接触角は、巻回軸に平行な方向において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなり、
前記電極体が前記積層型電極体である場合、前記セパレータの表面における前記電解液との接触角は、前記電極体の平面視において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなる、電池セル。
〔2〕 前記セパレータの表面は、前記接触角が互いに異なる2以上の領域を有し、
前記2以上の領域のうちの互いに隣接する2つの領域の間での前記接触角の差の絶対値は、温度25℃において4°以上である、〔1〕に記載の電池セル。
〔3〕 前記セパレータの表面は、温度25℃における前記接触角が15°以上である領域(a1)、及び、前記領域(a1)に隣接し、温度25℃における前記接触角が20°以下である領域(b1)を有する、〔2〕に記載の電池セル。
〔4〕 前記セパレータの表面は、
温度25℃における前記接触角が15°以上である領域(a2)、
温度25℃における前記接触角が25°以下である領域(b2)、及び、
前記領域(a2)及び前記領域(b2)に隣接し、温度25℃における前記接触角が15°以上25°以下である領域(c2)を有する、〔2〕に記載の電池セル。
〔5〕 前記機能層は、接着剤層又は耐熱層である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の電池セル。
〔6〕 前記電極体は、活物質層を含む極板を有し、
前記電極体が前記巻回型電極体である場合、前記巻回軸に平行な方向における前記活物質層の長さが最大となる部分の長さは、200mm以上であり、
前記電極体が前記積層型電極体であって前記積層型電極体の平面視形状が長方形である場合、前記電極体の平面視形状の長辺に平行な方向における前記活物質層の長さは、200mm以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の電池セル。
〔7〕 前記接触角は、前記セパレータの前記機能層表面における前記電解液との接触角である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の電池セル。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電解液の含浸性に優れた電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】巻回型電極体に用いられるセパレータの一例を表す概略平面図である。
図2】巻回型電極体に用いられるセパレータの他の一例を表す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電池セル)
本実施形態の電池セルは、セパレータを含む電極体と電解液とを備える。電池セルは、電極体と電解液とを収容するケースをさらに含むことができる。電池セルは、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池に用いることができる。電極体は、巻回型電極体又は積層型電極体である。電極体は通常、集電体上に活物質層を形成した極板である正極板及び負極板を含む。電極体は、正極板が有する正極活物質層(後述)と負極板が有する負極活物質層(後述)との間にセパレータが挟み込まれた構造を有する。セパレータは、基材層と、基材層上に形成された機能層とを有する。
【0010】
巻回型電極体は、長尺のシート状の極板と長尺のシート状のセパレータとを積層した積層体を巻回したものである。積層体は、例えば正極板の正極活物質層と負極板の負極活物質層との間にセパレータが挟み込まれるように積層したものである。巻回型電極体は、円筒状の電極体であってもよく、偏平状の電極体であってもよい。巻回型電極体において、巻回軸に平行な方向x(以下「巻回軸方向x」ともいう。)に直交する方向のうち、活物質層の長さが最大となる部分の長さは、好ましくは120mm以下であり、より好ましくは60mm以上120mm以下であり、さらに好ましくは80mm以上110mm以下であり、特に好ましくは90mm以上100mm以下である。巻回型電極体において、巻回軸方向における活物質層の長さは、好ましくは150mm以上であり、より好ましくは200mm以上であり、さらに好ましくは200mm以上350mm以下である。上記した活物質層の長さは、負極活物質層の長さであってもよく、正極活物質層の長さであってもよい。
【0011】
積層型電極体は、枚葉のシート状の極板と枚葉のシート状のセパレータとを交互に積層したものであり、例えば正極活物質層と負極活物質層との間にセパレータが挟み込まれるように、正極板、負極板、及びセパレータをそれぞれ複数積層することによって得ることができる。積層型電極体の平面視形状は、好ましくは四角形であり、より好ましくは長方形又は正方形である。積層型電極体において、積層型電極体の平面視形状が長方形である場合、平面視形状の短辺に平行な方向における活物質層の長さは、好ましくは120mm以下であり、より好ましくは60mm以上120mm以下であり、さらに好ましくは80mm以上110mm以下であり、特に好ましくは90mm以上100mm以下である。積層型電極体の平面視形状が長方形である場合、平面視形状の長辺に平行な方向における活物質層の長さは、好ましくは150mm以上であり、より好ましくは200mm以上であり、さらに好ましくは200mm以上350mm以下である。上記した活物質層の長さは、負極活物質層の長さであってもよく、正極活物質層の長さであってもよい。
【0012】
上記したサイズの電極体を備える大型の電池セルでは、電解液の含浸に時間を要する。大型の電池セルにおいて、後述するように電極体への電解液の含浸性を向上することにより、電池セルの製造効率がより一層向上される。
【0013】
(セパレータ)
図1及び図2は、巻回型電極体に用いられるセパレータの一例を表す概略平面図である。図1及び図2に示す両矢印は巻回軸方向xを示す。セパレータ1は、基材層と、基材層上に形成された機能層11とを有する。機能層11は、基材層の片面又は両面に形成することができる。機能層11は、基材層の片面又は両面の全面に形成されていてもよく、片面又は両面の一部に形成されていてもよく離散的に形成されていてもよい。図1及び図2に示すセパレータは、基材層の一方の面の全面に機能層11を設けた場合を示している。
【0014】
基材層は、多孔質シートを用いることができ、多孔質樹脂シートであることが好ましい。多孔質樹脂シートを構成する樹脂材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;セルロース;ポリアミド等が挙げられる。基材層は、単層構造を有していてもよく、2層以上の多層構造を有していてもよい。
【0015】
機能層11は、接着剤層であってもよく、耐熱層であってもよい。機能層11は、例えば、基材層上に機能層11を形成する材料を含む塗工液を塗布し、乾燥することによって形成することができる。
【0016】
接着剤層を形成するための接着剤としては、ホットメルト接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等が挙げられる。接着剤のベース樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が挙げられる。接着剤層は、圧力を付与することにより接着させることができる圧着型接着剤によって形成されていてもよい。機能層11が接着剤層であることにより、電極体の製造時のプレス加工によって、接着剤が、基材層、活物質層、及び正極活物質層のうちの少なくとも1つに入り込み(アンカー効果)、電極体を構成する各層の層間を圧着できる。
【0017】
耐熱層は、フィラーを含み、さらにバインダー等を含んでいてもよい。フィラーとしては例えば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、シリカ、マグネシア、チタニア、窒化ケイ素、及び窒化チタンからなる群より選ばれる1種以上であるセラミック粒子が挙げられる。バインダーとしては例えば、アクリル樹脂等のアクリル系バインダー、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素ポリマー系バインダー、及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0018】
電池セルが巻回型電極体を備える場合、セパレータ1表面における電解液との接触角(以下「セパレータ1表面の接触角A」ともいう。)は、巻回軸方向xにおいて、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなっている。具体的には、セパレータ1表面を同一表面内で、巻回軸方向xの辺を分割するように2以上に区分し、区分された各領域内のセパレータ1表面の接触角Aを一定(同じ)とした上で、少なくとも互いに隣接する2つの異なる領域の間でのセパレータ1表面の接触角Aを、端部側の領域で相対的に大きく、中央部側の領域で相対的に小さくしている。このように、セパレータ1表面の接触角Aは、巻回軸方向xにおいて端部側から中央部側に向かって、2以上に区分する領域の幅を十分に大きくすることにより階段状に小さくしてもよく、2以上に区分する領域の幅を限りなく小さくすることにより連続的に小さくしてもよい。巻回軸方向xにおける端部は通常、電池セルの製造時に電解液の含浸を開始する位置となる。
【0019】
電池セルが積層型電極体を備える場合、セパレータ1表面の接触角Aは、電極体の平面視において、端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくなっている。積層型電極体では、セパレータ1表面を同一表面内で、積層型電極体の平面視におけるいずれかの端部から中央部側に向かって複数に区分し、区分された各領域内のセパレータ1表面の接触角Aを一定(同じ)とした上で、少なくとも互いに隣接する2つの異なる領域の間でのセパレータ1表面の接触角Aを、端部側の領域で相対的に大きく、中央部側の領域で相対的に小さくしている。巻回型電極体のセパレータで説明したように、セパレータ1表面の接触角Aは、端部側から中央部側に向かって、階段状に小さくしてもよく、連続的に小さくしてもよい。積層型電極体において、セパレータ1表面の接触角Aを中央部側よりも大きくする端部は、電池セルの製造時に、電解液の含浸を開始する位置にある端部であることが好ましい。
【0020】
上記した各領域におけるセパレータ1表面の接触角Aは、同じ温度での値であり、例えば温度25℃で測定した値であってもよい。
【0021】
セパレータ1表面の接触角Aが小さいほど、セパレータ1表面と電解液との親和性に優れているといえる。したがって、上記した電池セルでは、端部においてセパレータ1と電解液との親和性が相対的に小さく、中央部においてセパレータ1と電解液との親和性が相対的に大きいといえる。電池セルでは、電極体を収容したケースに電解液を注入することにより、電極体の端部から電解液を含浸させる。セパレータ1表面の接触角Aを端部側の領域から中央部側の領域に向かって小さくすることにより、端部から入り込んだ電解液が中央部側に浸透しやすくなる。これにより、電解液に含まれる支持塩や添加剤が電極体内部に浸入することを促進して電解液の含浸性に優れた電池セルを提供することができ、電池セルの製造効率を向上することができる。
【0022】
セパレータ1表面の接触角Aは、セパレータ1の機能層11表面の電解液との接触角であってもよい。例えば、基材層の表面全体に機能層11が形成されているセパレータでは、セパレータ1表面の接触角Aは、機能層11表面の電解液との接触角となる。基材層に機能層11が部分的に設けられているセパレータでは、セパレータ1表面の接触角Aは、基材層表面又は機能層11表面における電解液との接触角となる。
【0023】
セパレータ1表面は、接触角Aが互いに異なる2以上の領域を有することが好ましい。この2以上の領域のうちの互いに隣接する2つの領域の間でのセパレータ1表面の接触角Aの差の絶対値は、温度25℃において、好ましくは4°以上であり、より好ましくは5°以上であり、6°以上であってもよく、通常20°以下である。セパレータ1表面の接触角Aの差が絶対値で4°以上であることにより、接触角Aが相対的に大きい領域から接触角Aが相対的に小さい領域に向けて、電解液を効率よく浸透させることができる。セパレータ1は、同一表面内に接触角Aの差が上記の範囲内である隣接する2つの領域を1つ以上含んでいればよく、2つ以上含んでいてもよい。セパレータ1表面の接触角Aは、セパレータ1表面に電解液の液滴を落としてから1秒後に、セパレータ1上の液滴とセパレータ1表面との角度を、自動接触角計を用いてθ/2法により算出する。
【0024】
セパレータ1表面は、互いに隣接する2つの領域の間の接触角Aの差の絶対値が温度25℃において4°以上であって、且つ、温度25℃におけるセパレータ1表面の接触角A(以下「接触角A(25)」ともいう。)が15°以上である領域(a1)、及び、領域(a1)に隣接し、接触角A(25)が25°以下である領域(b1)を有していてもよい。領域(a1)の接触角A(25)は、16°以上であってもよく、18°以上であってもよく、20°以上であってもよい。領域(b1)の接触角A(25)は、22°以下であってもよく、20°以下であってもよく、18°以下であってもよい。この場合、領域(a1)は、領域(b1)よりも電極体の端部側の領域となる。領域(a1)と領域(b1)との接触角A(25)の差の絶対値が4°以上であるため、領域(a1)から領域(b1)に向けて電解液を効率よく浸透させることができる。セパレータ1表面が領域(a1)及び領域(b1)の組み合わせを有する場合、当該組み合わせを1組有していてもよく、2組以上有していてもよい。当該組み合わせを2組以上有する場合、各組の接触角A(25)の組み合わせは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0025】
セパレータ1表面は、互いに隣接する2つの領域の間の接触角A(25)の差の絶対値が4°以上であって、且つ、接触角A(25)が15°以上である領域(a2)、接触角A(25)が25°以下である領域(b2)、並びに、領域(a2)及び領域(b2)に隣接し、接触角A(25)が15°以上25°以下である領域(c2)を有していてもよい。領域(a2)の接触角A(25)は、18°以上であってもよく、20°以上であってもよく、25°以上であってもよい。領域(b2)の接触角A(25)は、20°以下であってもよく、16°以下であってもよく、14°以下であってもよい。領域(c2)の接触角A(25)は、16°以上23°以下であってもよく、17°以上22°以下であってもよく、18°以上21°以下であってもよい。この場合、電極体の端部側から中央部側に、領域(a2)、領域(c2)、及び領域(b2)がこの順に配置される。各領域の間の接触角A(25)の差の絶対値が4°以上であるため、領域(a2)から領域(c2)を経て領域(b2)に向けて電解液を効率よく浸透させることができる。セパレータ1表面は、領域(a2)、領域(c2)、及び領域(b2)の組み合わせを有する場合、当該組み合わせを1組有していてもよく、2組以上有していてもよい。当該組み合わせを2組以上有する場合、各組の接触角A(25)の組み合わせは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0026】
例えば、巻回型電極体では、巻回軸の両端それぞれの端部の領域において、セパレータ1表面の接触角Aを相対的に大きくし、これらの端部の領域の間にある中央部側の領域に向かって、セパレータ1表面の接触角Aを相対的に小さくすることが好ましい。具体的には、図1及び図2に示すように、セパレータ1表面を、巻回軸方向xに沿って4分割(図1)又は5分割(図2)し、巻回軸方向xに沿って両端側の領域から中央部側の領域に向かって、セパレータ1表面の接触角Aを小さくすることが好ましい。各領域は、巻回軸方向xに沿って等分割された領域であってもよく、不等分割された領域であってもよい。
【0027】
図1に示すように、例えば、基材層の全面に形成した機能層11表面において、巻回軸の両端に位置する2つの領域を領域(a1)とし、各領域(a1)に隣接する2つの中央側の領域を領域(b1)としてもよい。2つの領域(a1)のセパレータ1表面の接触角A、及び、2つの領域(b1)のセパレータ1表面の接触角Aは、それぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。2つの領域(b1)のセパレータ1表面の接触角Aが同じである場合、隣り合う2つの領域(b1)の間にはセパレータ1表面の接触角Aの違いによって区別されないため、機能層11表面は3つの領域(2つの領域(a1)及び1つの領域(b1))に区分されることになる。
【0028】
あるいは、図2に示すように、例えば、基材層の全面に形成した機能層11表面において、巻回軸の両端に位置する2つの領域を領域(a2)とし、巻回軸方向xの中央に位置する1つの領域を領域(b2)とし、領域(a2)と領域(b2)との間にある領域(2つ)をそれぞれ領域(c2)としてもよい。2つの領域(a2)のセパレータ1表面の接触角A、及び、2つの領域(c2)のセパレータ1表面の接触角Aは、それぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。
【0029】
上記では、巻回型電極体が備えるセパレータについて説明したが、積層型電極体が備えるセパレータについても、電極体の平面視において互いに対向する一対の辺をそれぞれ含む端部側の領域から中央部側の領域に向かって、セパレータ1表面を2以上の領域に区分すればよい。各領域は、等分割された領域であってもよく、不等分割された領域であってもよい。セパレータ1表面において、互いに隣接する領域の間でセパレータ1表面の接触角Aが異なるように形成された領域の数は、2以上であればよく、図1及び図2に基づいて説明したように3、4、又は5であってもよく、6以上であってもよい。
【0030】
セパレータ1表面の接触角Aは、例えば、基材層の種類、基材層のコロナ放電処理等による表面改質、機能層11に含まれる接着剤又はバインダー等の樹脂の種類及び重合度、フィラーの径及び充填密度、機能層11のコロナ放電処理等による表面改質、並びに電解液の種類のうちの1以上により調整することができる。電極体へ電解液を含浸する際には、セパレータを加熱してもよい。これにより、セパレータと接触する電解液の粘度を小さくし、機能層11表面と電解液との接触角を小さくできるため、電極体への電解液の含浸性を向上することができる。
【0031】
(電解液)
電解液としては、非水電解液が挙げられ、例えば、有機溶媒等の非水溶媒中に支持塩を含有させたものが挙げられる。電解液は、さらに負極活物質層及び/又は正極活物質層の表面に良好な皮膜を形成したり、過充電時の安定性を確保したりするために、ビニレンカーボネート(VC)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及び、CHBの変性体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
非水溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、スルホラン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0033】
支持塩としては例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]からなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0034】
(正極板)
正極板は通常、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層(活物質層)とを有する。正極集電体は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて構成された金属箔である。正極活物質層は、正極活物質を含み、さらに結着材及び導電助剤を含んでいてもよい。
【0035】
正極活物質としては公知の材料を用いることができ、層状系又はスピネル系等のリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNiCoMnO、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54、LiCrMnO4、LiFePO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が挙げられる。
【0036】
結着材としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0037】
(負極板)
負極板は通常、負極集電体の片面又は両面に負極活物質層(活物質層)を有する。負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、負極活物質を含み、さらに結着材及び導電助剤等を含んでいてもよい。
【0038】
負極活物質としては公知の材料を用いることができ、人工黒鉛又は天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、当該黒鉛を非晶質炭素で被覆した非晶質コート黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。ケイ素元素を含むSi系活物質としては、ケイ素単体、SiOx、LixSiyOz等が挙げられる。
【0039】
結着材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系結着材;スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。CMC及びPAAは、酸の形態であってもよく、塩の形態であってもよい。
【0040】
導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
〔比較例1~4、実施例1~7〕
(セパレータの準備)
いずれのセパレータも縦10cm及び横20cmのサイズを有し、基材層の全面に機能層を形成した。
【0042】
比較例1~3では、基材層の全面に、セパレータ表面における電解液との接触角が表1の区分(1)に示す値となるように機能層を形成して、セパレータを準備した。
【0043】
比較例4及び実施例1~4では、基材層の同一表面に、セパレータ表面における電解液との接触角が表1の区分(1)及び(2)に示す値となるように機能層を形成してセパレータを準備した。比較例4及び実施例1~4のセパレータは、その横方向の長さを二等分するように区分(1)及び(2)を有し、この順に接触角の大きさが階段状に変化するものであった。
【0044】
実施例5~7では、基材層の同一表面上に、セパレータ表面における電解液との接触角が表1の区分(1)~(3)に示す値となるように機能層を形成してセパレータを準備した。実施例5のセパレータは、その横方向の長さを三等分するように区分(1)~(3)を有するが、区分(2)及び(3)の接触角が同じであるため区分(2)と区分(3)との間で接触角は変化せず、区分(1)と区分(2)との間で接触角の大きさが階段状に変化した。実施例6及び7のセパレータは、その横方向の長さを三等分するように区分(1)~(3)を有し、この順に接触角の大きさが階段状に変化するものであった。
【0045】
(電極体の準備)
縦10cm及び横20cmのサイズを有する正極板及び負極板と、上記で準備したセパレータとを用いて、セパレータ/正極板/セパレータ/負極板/セパレータ/正極板/セパレータ/負極板/セパレータをこの順に積層した積層体を得た。積層体を圧力100kNでプレスして、電極体のサンプルとした。
【0046】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジメチルカーボネート(DMC)=3:3:4(体積比)で混合した非水溶媒に、支持塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.1mol/kg添加して電解液を調製した。
【0047】
[接触角の測定]
セパレータ表面(機能層表面)に上記で調製した電解液の液滴を落としてから1秒後に、セパレータ表面上の液滴とセパレータ表面との角度を、自動接触角計(協和界面科学社製)を用いてθ/2法により算出し、これを接触角とした。結果を表1に示す。
【0048】
[電解液の含浸時間の測定]
電極体のサンプルの両面(セパレータの面)をアクリル板で挟み積層構造体を得た。平面上においたケースに、セパレータの面が平面に直交し、且つサンプルの平面視における長辺が平面と平行となるように、積層構造体を入れた。ケースの側面のうち、セパレータ(機能層)表面の表1に示す区分(1)側が位置する積層構造体の端部(サンプルの平面視における短辺)にある側面に沿わせて、上記で調製した電解液を5cc/秒の滴下速度で10秒間滴下した。電解液がサンプルに接触した瞬間を含浸開始時間(0秒)とし、上記端部からサンプルの横方向に20cmの位置に電解液が到達するまでの時間を測定し、これを電解液の含浸時間[秒]とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【符号の説明】
【0050】
1 セパレータ、11 機能層。
図1
図2