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特開2024-93147冷凍魚介類の製造方法及び電子レンジ調理用冷凍魚介類の包装体
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  • 特開-冷凍魚介類の製造方法及び電子レンジ調理用冷凍魚介類の包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093147
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】冷凍魚介類の製造方法及び電子レンジ調理用冷凍魚介類の包装体
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20240702BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20240702BHJP
   A23B 4/07 20060101ALI20240702BHJP
   A23B 4/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A23B4/06 501C
A23L17/00 Z
A23B4/06 501E
A23B4/07 E
A23L17/00 A
A23B4/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209336
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】509006853
【氏名又は名称】GSK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】小屋敷 一雄
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC05
4B042AC06
4B042AC10
4B042AD05
4B042AE03
4B042AE10
4B042AG27
4B042AH01
4B042AH04
4B042AK01
4B042AP06
4B042AP07
4B042AP10
4B042AP17
4B042AP18
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】 電子レンジで加熱するだけで食することができる冷凍魚介類で、且つ食感、風味について、生の魚を調理したような食感を有する冷凍魚介類及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 内臓を除去した魚介類を、表層及び内部までほぼ均等に含水率を低下させて前記魚介類の干物を作製する工程と、前記干物を包装袋に収納し、包装袋内を真空引きにした後、密封して包装体を得る工程とを含み、前記包装袋として、該包装体内を加熱したときに発生する蒸気により内圧が所定値以上となったときに、当該水蒸気を排出できる排出手段を備えている包装袋を用いる。かかる製造方法により目的とする冷凍魚介類の包装体を得ることができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内臓を除去した魚介類の冷凍包装体の製造方法であって、
内臓を除去した魚介類を、表層及び内部までほぼ均等に含水率を低下させて前記魚介類の干物を作製する工程と、
前記干物を、包装袋に収納し、包装袋内を真空引きにした後、密封して包装体を得る工程とを含み、
前記包装体内を加熱したときに発生する蒸気により前記包装体内の圧力が所定値以上となったときに、当該蒸気を排出できる排出手段を備えている包装袋を、前記包装袋として用いる、冷凍包装体の製造方法。
【請求項2】
前記干物の作製工程は、魚介類の含水率を10~30%減少させた乾燥工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記干物の作製工程は、被乾燥物である魚介類を収納する乾燥庫内を、20℃±5℃で、湿度30~50%程度に維持しながら、冷風が流れている状態を維持できる冷風乾燥機を用いて行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記冷風乾燥機は、被乾燥物である魚介類を収納する乾燥庫内と冷却除湿手段とを連続的に通過することで、冷却除湿された冷風を循環できる乾燥機である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記排出手段は、破断伸度が異なる2枚の樹脂フィルムの積層フィルムの少なくとも周縁がヒートシールされた包装袋において、前記積層フィルムの一面に設けられた切り込み、切断線又は前記ヒートシールの弱シール部分である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記魚介類は、魚である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
電子レンジで加熱することにより食することができる冷凍魚介類の包装体であって、
前記冷凍魚介類の表層から内部の中心まで、ほぼ均質的に乾燥されて水分率が低下した魚介類の干物が、電子レンジ用包装袋で真空包装された冷凍魚介類の包装体であり、
前記電子レンジ用包装袋は、電子レンジによる加熱により生じた水蒸気で、包装体内の圧力が所定値以上となったときに、当該水蒸気を排出できる排出手段を備えている包装袋である冷凍魚介類の包装体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジで加熱するだけで食することができる冷凍魚介類の製造方法及び当該方法で製造される冷凍魚介類の包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
急速冷凍した真空パックの魚は、生鮮品として、解凍により元の生に近い状態に戻すことができるといわれている。しかしながら、魚介類の美味しさは、味、色、食感などにより決まることから、冷凍魚を用いて美味な焼き魚、煮魚として提供するためには、解凍、調理方法が重要となる。
【0003】
一般に、魚介類は、60~80%程度の水分を含んでいるため、たとえ急速冷凍により冷凍食品内に生成される氷結晶を小さくできたとしても、解凍時に氷結晶の粗大化、酵素反応による変質が進んでは、美味しさが損なわれる。
【0004】
氷結晶の粗大化防止、酵素反応の活性化防止の観点からは、急速解凍することが望ましい。
エビ、いか等の甲殻類、貝類は、比較的、細胞組織が硬くて、破損が少ないことから、生鮮品を電子レンジで解凍したり、そのまま焼く、蒸すなどの調理に利用することが可能である。
【0005】
一方、生の魚(切り身、内臓等を除去した魚の開きなど)では、細胞が柔らかく、破壊しやすいために、冷凍時に破損した細胞、組織から水分、脂分が流出する、いわゆるドリップ現象が起こりやすい。このため、半解凍、氷水中解凍など、時間をかけて解凍することで、菌の繁殖を抑制しつつ、旨味成分の流出を抑制しているのが実情である。
しかしながら、このような時間、手間のかかる解凍は、近年の調理の手間を省きたいという消費者の要望には合わない。
【0006】
一方、すでに調理した魚を、気密性容器で密封し冷凍した冷凍魚では、すでに加熱調理されているので、解凍に伴う問題(氷結晶の粗大化、酵素反応の活性化など)は実質的に起きないことがから、レトルト食品と同様に、電子レンジや湯煎等で加熱するだけで食することができる。かかる加工済みの冷凍魚は、調理の手間を省きたいという消費者のニーズにはあっている。
【0007】
しかしながら、すでに調理され、味付けされた魚を、再度、湯煎または電子レンジで加熱すると、2度の調理となるため、生鮮魚を焼いたり、蒸したり等して調理したものと比べて、味、食感が劣る。
【0008】
電子レンジで加熱するだけで食することができ、生鮮魚介類を調理した場合に近い食感等の達成を目的とする冷凍食品として、例えば、以下のような提案がなされている。
【0009】
特開2003-92981号(特許文献1)は、魚介類に過熱蒸気を直接接触させて表面を加熱処理した後、密封包装し、密封包装した魚介類に高電位電場を与えながら不凍液中に浸漬してブライン冷凍する冷凍食品の製造方法を提案している。
これにより製造された冷凍魚介類は、解凍、加熱調理後に生じる魚臭がなく、食感がよく、色調や外観にも新鮮さが残っていると説明されている。すなわち、過熱蒸気で加熱処理されることにより、生の状態でありながら、生臭さを除去できるというものである。
【0010】
特開2005-333835号(特許文献2)では、魚の内臓除去後、味付け液につけて乾燥させた魚干物を、電子レンジで加熱処理またはグリル機能を併用した電子レンジで加熱処理した後、炭火で焼き上げ、急速冷凍し、真空パックして、炭火焼き干物を製造する方法が提案されている。
【0011】
特許文献2では、電子レンジ加熱処理により、干物全体の加熱処理で、魚肉部分を固化させずに内部滅菌でき、炭火焼き工程により、炭火焼きによる焦げ目や香りつけができるとしている。なお、魚乾燥工程については、熱風乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥、除湿乾燥が挙げられていて(〔0010〕)、乾燥装置を使用することで、天日干しに比べて、天候に左右されないので、製造コストを下げることができると説明されている。
【0012】
特許5303766号(特許文献3)では、下処理した魚を、直接ガスバーナを当てて直火で炙ることにより、中身はほぼ生で表面の皮だけ焦げ目を付けた後、焦げ目を付けた魚を電子レンジ調理用包装袋で真空包装し、冷凍する、電子レンジ調理用の冷凍焼き魚の製造方法が提案されている。
【0013】
特許文献3では、ある程度、完成した状態にまで表面を焼いた魚に冷凍した冷凍焼き魚で、解凍時の電子レンジの加熱による、内部の水分喪失を少なくできるとしている。
表面に焦げ目を付けるだけで、中身はほとんど生のままで真空包装されているので、電子レンジ加熱によって水分が蒸発しても中身が焼けるだけで、食するのに適した焼き魚となり、しかも、表面には、すでに焦げ目がついているので、電子レンジによる加熱調理であっても、焦げ目のついた焼き魚特有のぱりぱりした食感や風味を味わうことができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003-92981号
【特許文献2】特開2005-333835号
【特許文献3】特許5303766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1で提案されている方法で製造された魚は、電子レンジ対応包装材で包装された状態で通常提供され、購入した消費者は、包装材のまま、電子レンジで解凍し、所望に応じて焼く、煮るなどの調理をして食することができる。
消費者は電子レンジ解凍した後、通常に調理すればよいので、消費者にとっては利便性が高いといえる。しかしながら、過熱蒸気を用いる加熱処理、高電位電場を与えながらのブライン冷凍など、冷凍包装体の製造には特別な装置が必要となり、製造コストが高く、小規模生産者にとっては、実用性が低い。
【0016】
特許文献2、3で提案されている冷凍食品としての魚は、生の魚を焼いた焼き魚に近い外観、風味の実現を目的とするものであり、電子レンジで加熱するだけで食することができる。すなわち、予め表面を焼いておくことで、電子レンジのみの加熱であっても焼き魚のような外観を達成するものである。また、予め表面を焼いて硬くすることで、電子レンジ加熱による水分蒸発、大量のドリップを抑制することができる。
そして、魚の内部は、生に近い状態を維持することで、レトルト食品特有の濃い味付けを回避している。
【0017】
しかしながら、魚内部に水分が多く残っている状態は、冷凍状態において、氷結晶が生鮮品と同様に、多く生成されていることになる。このため、急速解凍による破壊細胞からの水分、旨味の流出は避けられない。しかも、解凍により生じた水分、脂分が電子レンジ加熱により蒸発することを、表面固化により抑制していることから、魚内部に残った水分で、生臭さが残ったり、組織がふにゃふにゃした、いわゆる食感が劣ったものとなる。十分に加熱することで、内部の水分を蒸発させることは可能であるが、その場合、表面は加熱されすぎて焼き魚としてのパリっとした皮ではなく、硬くなりすぎた皮で、食感も味も満足できるものではない。
【0018】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子レンジで加熱するだけで食することができる冷凍魚介類で、且つ食感、風味について、生の魚を調理したような食感を有する冷凍魚介類及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の冷凍包装体の製造方法は、内臓を除去した魚介類の冷凍包装体の製造方法であって、内臓を除去した魚介類を、表層及び内部までほぼ均等に含水率を低下させて前記魚介類の干物を作製する工程と、前記干物を、包装袋に収納し、包装袋内を真空引きにした後、密封して包装体を得る工程とを含み、前記包装袋として、前記包装体を加熱したときに発生する蒸気により前記包装体内の圧力が所定値以上となったときに、当該蒸気を排出できる排出手段を備えている包装袋を用いる、製造方法である。
【0020】
前記干物の作製工程は、魚介類の含水率を10~30%低減させる乾燥工程であることが好ましく、その一実施態様としては、被乾燥物である魚介類を収納する乾燥庫内を、20℃±5℃(好ましくは20℃±2℃)で、湿度30~50%程度に維持しながら、冷風が流れている状態を維持できる冷風乾燥機を用いて行うことができる。
【0021】
前記冷風乾燥機としては、被乾燥物である魚介類を収納する乾燥庫内と冷却除湿手段とを連続的に通過することで、冷却除湿された冷風を循環できる乾燥機が挙げられる。
【0022】
前記排出手段は、破断伸度が異なる2枚の樹脂フィルムの積層フィルムの少なくとも周縁がヒートシールされた包装袋において、前記積層フィルムの一面に設けられた切り込み、切断線又は前記ヒートシールの弱シール部分であることが好ましい。
【0023】
本発明の冷凍包装体の製造方法は、特に、魚の冷凍包装体の製造方法として好ましく用いられる。
【0024】
また、本発明は、電子レンジで加熱することにより食することができる冷凍魚介類の包装体であって、前記冷凍魚介類の表層から内部の中心まで、ほぼ均質的に乾燥されて水分率が低下した魚介類の干物が、電子レンジ用包装袋で真空包装された冷凍魚介類の包装体であり、前記電子レンジ用包装袋は、電子レンジによる加熱により生じた水蒸気で、包装体内の圧力が所定値以上となったときに、当該水蒸気を排出できる排出手段を備えている包装袋である、冷凍魚介類の包装体も包含する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の魚介類の包装体は、本発明の冷凍包装体の製造方法により製造することができる。本発明の製造方法によれば、内容物である魚介類の表面の固化を抑制した状態で、且つ内部の水分が低減したソフトな干物を、電子レンジ加熱の際に蒸し効果を発揮できる包装袋で密封包装しているので、電子レンジ加熱をしても、水蒸気を包装体内にとどめて、蒸し効果を発揮させることが可能となる。
【0026】
本発明の魚介類の包装体は、本発明の冷凍包装体の製造方法により得ることができ、電子レンジで加熱しても、表面が硬くなるまで加熱固化させることなく内部を加熱し、しかもドリップを抑制できる。したがって、電子レンジ加熱だけで、生鮮魚の焼き魚や煮魚のような食感を味わうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の製造方法の工程フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔魚介類の真空パック冷凍包装体の製造方法〕
本発明の魚介類の冷凍包装体の製造方法について、図1の工程フローに基づき、説明する。
【0029】
1.準備工程
対象とする魚介類の内臓を除去し、開き、切り身など、所望の状態に加工する。
適用対象となる魚介類は、特に限定しないが、アンコウ、ウナギ、アナゴ、ハモ、キンメダイ、鮭、フグ、ボラ、サヨリ、タイ、ヒラメ、カレイ等の白身魚;マグロ、カツオ、サバ等の赤身魚;サンマ、サバ、アジ、太刀魚、ニシン、サヨリ等の青魚;イカ、タコ、アサリ、ハマグリ等の貝類;エビ、カニ等の甲殻類などが挙げられる。これらのうち、本発明の製造方法は、特に魚類に適していて、さらに組織が柔らかく、含水率が高いために、解凍が難しい白身魚に好適に適用される。
【0030】
上記魚介類は、さらに、所望により、加工した魚を塩水につけこんだり、みそ漬け、みりん漬け、醤油漬けにしてもよい。塩水につけることで、浸透圧により魚内部の水分率を予め低減しておくことができ、また味噌、みりん、しょうゆ漬けとすることにより電子レンジ加熱だけでも味付け調理された魚を提供できるからである。
【0031】
2.乾燥工程(干物の作製)
工程1で準備した生魚の水分をふき取った後、表皮部、身の内部まで、ほぼ均質に水分が除去されるように、乾燥する。
かかる乾燥は、乾燥庫内を、20℃±5℃、好ましくは20℃±2℃で、湿度30~50%程度に維持しながら、冷風が流れている状態を維持することにより達成できる。
具体的には、乾燥庫内を、冷却運転(例えば22℃→18℃での温度低下)と再熱運転(例えば、18~22℃の温度上昇)とを例えば3分~10分間隔で繰り返すことにより、魚全体から除湿することができ、これにより魚の表層部と内部とがほぼ均質に水分除去された干物を得ることができる。
【0032】
このような乾燥は、例えば、特許7037202号で提案されているような冷風乾燥機を用いることで可能となる。
すなわち、乾燥庫が、前方に扉を備えた外側箱体と、被乾燥物を収納することができる収納用中箱との間に、冷風が通過する通風路を設けられた二重構造となっている。圧縮機及び凝縮器を備えた機械室で冷却除湿された冷風を、直進性の高いファン(例えば毎秒2m程度の風を吹き出すことができる軸流ファン)で収納用中箱に吹き入れることで、収納用中箱を通過した後、当該中箱の周囲の通風路を通って機械室に入り、冷却除湿される。このようにして、冷却除湿された冷風を循環させることができる。
【0033】
冷却運転と再熱運転との繰り返しサイクルは、被乾燥物である魚介類の種類、乾燥庫に収納される被乾燥物の量などに応じて適宜設定される。具体的には、30~90分ほどに設定することが好ましい。短すぎると、魚内部の乾燥が不十分となる傾向がある。
【0034】
なお、圧縮機と凝縮器とは、気化した冷媒の圧縮、凝縮器による液化を繰り返す冷却サイクルを形成している。冷媒の切り替え手段を通じて、冷却器の蒸発温度を下げて、除湿を行うことができる。圧縮機と凝縮器とを備えた機械室と乾燥室との接続方式は、冷却サイクルと除湿サイクルを切り替えることができる構成であればよい。
【0035】
このような冷風乾燥機では、被乾燥物である魚の周囲を、20℃±5℃(好ましくは20℃±2℃)の冷風が、常時流れた状態であることから、加熱や温風による乾燥とは異なり、表皮部分を過度に乾燥することなく、内部の水分も除去することができる。これにより、魚の表面だけでなく、内部の含水率も同様に低減した干物を得ることができる。
【0036】
かかる乾燥により、魚の含水率を、初期(生の状態)と比べて、10~30%程度低減することができる。この程度の含水率の低減は、一般に、元の魚介類と比べて、ソフトな干物と認識される。乾燥の程度は魚介類の種類により異なるが、一般に、生の魚介類の含水率は60~80%であることから、乾燥後の含水率は、魚介類の種類、乾燥程度にもよるが、40~65%程度である。かかる程度にまで含水率を低減しておくことで、冷凍による氷結晶生成による魚身部分の組織破壊を抑制することができる。
【0037】
3.真空パック
工程2で得られた干物(乾燥した魚)を、電子レンジ用包装袋にいれて、真空パックする。
ここで使用する電子レンジ用包装袋とは、電子レンジ加熱により発生した蒸気によって、密閉された包装体が膨張し、膨張した包装体内に水蒸気が充満した状態とすることができるが、蒸気により内圧が所定値以上に上昇した場合に、発生した蒸気を逃がすことができる排出手段を備えた包装袋である。
【0038】
前記排出手段としては、例えば、包装袋を構成するフィルムが破断しやすいように切り込みをいれたり、フィルム表面に切断線を刻設したり、積層フィルムのシール部分に剥離しやすい弱シール部を設けたりする手段が挙げられる。
弱シール部は、シール部分に、低融点シール剤を塗布したり、剥離剤を塗布することにより形成することができる。あるいはシール部分において、弱シール部とする箇所だけ、低温でシールして剥離強度を低下させることにより形成してもよい。
【0039】
上記のような排出手段を備えた包装袋で密封包装された包装体を電子レンジで加熱すると、蒸気により包装体内の圧力が所定値以上に上昇すると、破断可能な切り込み部分又は切断線部分が広がって蒸気排出口となる開口部を形成する。あるいは、弱シール部が剥離して、蒸気排出口となる開口部を形成する。
【0040】
かかる包装袋としては、例えば、伸長率(破断伸度)が異なる2種類の樹脂フィルムを積層又は少なくとも周縁部をシールした包装袋が挙げられる。外層が耐熱性のある熱可塑性樹脂フィルム、内層がシーラントフィルムからなり、中間層に、剥離剤層を部分的に設けてなる積層プラスチックフィルムを用いた包装袋であってもよい。
伸長率が小さい方のフィルムに切り込み、切断線を刻設しておくことで、膨張に追随できず、当該部分が開口する。また、膨張による内圧上昇で、弱シール部分が剥離しやすくなる。
【0041】
なお、切り込み、切断線を覆うように、低融点シール剤などを塗布したテープが貼付されていてもよい。
また、表フィルムと多数の小穴を穿設した裏フィルムとを張り合わせた二重フィルムで包装袋を製作しておいて、包装袋の加熱により内部圧力が高くなると、内部の蒸気が裏フィルムの小穴を通って表フィルムと裏フィルムとの間に入り、表フィルムを裏フィルムから剥離しつつ、蒸気を排出できる構成であってもよい。
【0042】
以上のような包装袋において、外層を構成する熱可塑性樹脂フィルム又は伸長率が小さい方の熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、シリカ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム、アルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムまたは二軸延伸ナイロンフィルムが挙げられる。内層を構成するシーラントフィルム又は伸長率が大きい方のフィルムは、食品と接触する面に配され、低密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、超低密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン・アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・メタクリル酸共重合体フィルム、エチレン・メチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン・エチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン・メチルメタクリレート共重合体フィルムまたはアイオノマーフィルムなどを用いることができる。同種類のフィルムで厚みを変えることにより、伸長率を変えてもよい。
【0043】
上記の他、包装体が、内容物がはいる収納部と、内容物がはいっていない蒸気排出部とに分離されていて、収納部内の内圧が所定圧にまで膨張したら、蒸気排出部に蒸気を排出できるような構成としてもよい。例えば、包装用袋として、内容物が包装される収納部と、該収納部よりも小さな蒸気排出部とを有し、収納部と蒸気排出部とが弱シールされたものを使用し、内容物を包装した包装体とする際に、蒸気排出部を折り曲げてフランジを形成する構成が挙げられる。
このような包装体では、電子レンジ加熱により内容物から発生された蒸気により前記収容部の内圧が上昇して、収納部のフィルムが膨張するが、所定圧にまで膨張(変形量最大点に到達)すると、前記弱シール部分又はフランジ部分の間に形成された屈曲角度が、前記変形量最大点以外の周壁部における屈曲角度より大きくなり、変形した収納部のトップシールと前記フランジ部分が互いに離れる方向に引っ張られて、フランジ部分から前記トップシールが剥離して前記収容部内の蒸気が排出部に排出され、収容部内の圧力を下げる。
【0044】
いずれの包装袋も、電子レンジ加熱により魚から発生する蒸気による内圧上昇で、包装体内部が膨張しても、包装袋は破断せずに済み、所定以上に内圧が上昇した場合に、弱シール部分が剥離、あるいは切り込み部分や刻設された切断線が開孔することで、過剰に発生した水蒸気を逃すことができる。これにより、電子レンジ加熱の間、包装体の破裂を防止するとともに、水蒸気が包装体内に充満した状態となり、蒸し効果を得ることができる。
【0045】
以上のような電子レンジ用包装袋に、内容物となる魚介類の干物を収納し、真空引きした後、ヒートシールにより密閉する。
【0046】
真空引きの方法、ヒートシールの方法は、従来より公知の方法を利用でき、使用する包装袋の種類に応じて、適宜選択すればよい。
【0047】
4.急速冷凍
真空パック工程で得られた真空パックの包装体を急速冷凍する。
急速冷凍することで、冷凍による生成される氷結晶が粗大になることを防止できる。
冷凍された真空パック包装体は、魚介類の冷凍食品として、冷凍保存、流通することができる。
【0048】
〔魚介類の冷凍包装体〕
本発明の魚介類の冷凍包装体は、魚介類が真空パックで包装された包装体で、冷凍保存されたもの、いわゆる冷凍食品である。被包装物(内容物)の魚介類は特に限定しないが、特に魚が好適に用いられる。
本発明の冷凍魚介類の真空包装体は、上記本発明の製造方法により製造することができる。
【0049】
本発明の冷凍包装体(冷凍魚)は、調理済み冷凍加工食品と同様に、包装体の状態で、電子レンジで温め加熱することができる。
【0050】
電子レンジによる加熱とは、包装体内部の魚介類に含まれる水分にマイクロ波を与えることで、水分子が振動し、これによる発熱を利用して、加熱することである。
内容物である魚介類の冷凍包装体は、表面が固化していないため、マイクロ波が内部まで到達して、内部も十分に加熱される。
【0051】
加熱により、魚に含まれていた水分が蒸発する。魚表面の水分が蒸発するだけでなく、内部からも水分が蒸発することになる。しかしながら、密封状態にあるため、ここで生じた蒸気は、包装体内部の圧力が所定値に達するまで、包装体内で充満することになる。したがって、かかる状態での加熱は、内容物である魚介類から発生した水蒸気による蒸す調理工程に類似する。
【0052】
このように、電子レンジによる加熱初期は、密閉状態を確保しつつ、魚が適度な蒸気に曝されている状態となるため、魚は、単に加熱されるだけでなく、加熱により生じた蒸気により、蒸したような状態で内部まで加熱される。
従って、従来の電子レンジ加熱のように、表層部の過度の蒸発、内部の加熱不足といった状況を回避できる。換言すると、表層部が過度に加熱乾燥状態となることを防止しつつ、内部にある程度の水分を保持した状態で、十分な加熱状態を達成できる。
【0053】
なお、加熱の進行による気による内圧上昇が所定値に達すると、開口手段が機能する。
例えば、切り込みが設けられている場合には、切り込みが設けられた開口部が開口して、余分な蒸気を排出することができ、包装体が、加熱中に破裂することを防止できる。また、弱シール部である剥離部が設けられている包装体の場合には、内圧が上昇して所定圧力を超えると、弱シール部が剥離して開口し、蒸気を排出する。あるいは、弱シール部を介して蒸気排出孔(貫通孔)を覆っている場合には、トップシールが自動的に剥離し、蒸気排出孔から蒸気が排出される。
このように、内圧が所定値以上に達すると、排出手段が機能して、水蒸気を排出することができるので、包装体が破裂したり、魚介類からドリップした成分や水分が電子レンジの庫内に飛散するといったことはない。
【0054】
以上のようにして加熱された魚は、表層部、内部が均質的に加熱された状態となり、しかも蒸し効果により、適度な含水状態を保持している。このため、電子レンジ加熱をしたにもかかわらず、表層部が過度に硬くならずに済み、しかも内部はふっくらした状態となっている。また、内容物の魚の含水率が初期と比べて10~30%減少したソフトな干物状態であることから、加熱解凍に伴うドリップが少なくて済む。したがって、解凍に伴う旨味の過度の流出を防止できる。
以上のことから、本発明の魚の冷凍包装体は、電子レンジによる加熱調理しただけの魚であるにもかかわらず、生鮮魚を焼いたような食感を有している。
【実施例0055】
1.実施例
魚として鰆の切り身を、10分間の塩水(10%)に浸漬した後、ペーパータオルで水きりを行った。その後、GSK株式会社の冷風乾燥機(Taste Modifier KFR-5000W)を用いて、20℃で冷蔵除湿60分間乾燥(19℃→23℃の再熱運転2分、23℃→19℃の冷却運転3分、計5分を冷却再熱の繰り返しサイクル)し、干物を得た。
【0056】
得られた干物を、電子レンジ用包装袋(株式会社彫刻プラストの「せいろパック(登録商標)」)を用いて、真空パックした後、急速冷凍して、魚の冷凍真空パック包装体とした。
【0057】
以上のようにして製造した魚の真空パック包装体を、3日間、冷凍保管した後、電子レンジ600Wで3分間加熱した。
加熱の間、包装体が膨張していることが確認できたが、袋の破断は起こらなかった。
加熱後、包装体を開封したところ、袋内のドリップは、それほど多くなかった。また、食味したところ、表皮は柔らかさを少し残した程度で、ぱさつきはなかった。さらに、内部は、生鮮魚を焼き魚、蒸し焼きにしたときのように、ジューシーな柔らかさで、生臭くなく、加熱されていた。
【0058】
2.比較例1
実施例と同様にして下準備した魚の切り身を、50℃にセットした温風乾燥機で、60分間乾燥し、干物を得た。
温風乾燥機で得られた干物は、表層部分が半焼けのように固化した表皮となっていた。
【0059】
かかる干物を、実施例で用いた電子レンジ用包装袋に収納し、真空パックした後、急速冷凍して、魚の冷凍真空パック包装体を作製した。冷凍保管3日後、包装体のままで電子レンジ加熱(加熱時間:600Wで3分間)した。
【0060】
加熱が進むと包装体は蒸気により膨らんだが、加熱停止により、袋の膨張は収縮して元の密閉パック状態に戻った。包装体内には、水分、脂分が残っていて、その量は、実施例よりも多く、ドリップが起こったことが確認できた。
【0061】
開封して食味したところ、表層はぱりぱりになっていたのに、内部は、柔らかく、生焼けな感じがあった。焼き魚や煮魚のような食感とは異なり、水っぽい、腰のない食感であった。
【0062】
3.比較例2
実施例と同様にして下準備した魚の切り身を、塩水(10%)に10分間浸漬した後、ペーパータオルで水きりを行った。その後、実施例と同様の包装袋に収納し、真空パックした後、急速冷凍して、魚の冷凍真空パック包装体を作製した。
冷凍保管3日後、包装体のままで電子レンジ加熱した(加熱時間:600Wで3分間)。
【0063】
加熱が進むと包装袋は蒸気により膨らみ、さらに包装袋の蒸気孔が開口され、袋の膨張は収まった。
【0064】
加熱後、取り出して、開封したところ、包装袋内に残留していた水分は、比較例1よりも少なかった。蒸気孔の開口により、加熱により生じた水蒸気は包装体外に蒸発したためと考えられる。
また、食味したところ、表層はぱりぱりになっていたのに、内部は、柔らかく、生焼けな感じがあった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の冷凍魚介類の包装体は、電子レンジで加熱するだけで食することができるので、調理の手間をかけずに、本物志向の味を望む消費者の趣向に応えることができる。このような冷凍魚介類は、本発明の冷凍魚介類の製造方法により製造することができ、しかも均質乾燥が可能な冷風除湿乾燥装置を使用して作製した干物を真空パック、急速冷凍するだけでよいので、生産性にも優れている。
図1