(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093175
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ブレード
(51)【国際特許分類】
B23B 27/04 20060101AFI20240702BHJP
B23B 27/10 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B23B27/04
B23B27/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209376
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 駿輔
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046BB07
(57)【要約】
【課題】圧力損失を抑えて切削箇所へ効率的にクーラントを供給することが可能なブレードを提供する。
【解決手段】長尺の板状に形成されたブレード本体11の長手方向の端部に設けられたインサート取付部12に切削インサート13が取り付けられるブレード100であって、ブレード本体11は、一側面で開口する供給口51と、インサート取付部12の近傍位置における端面で開口する下方吐出口53及び上方吐出口54と、供給口51と下方吐出口53とを繋ぐクーラント供給路55及び供給口51と上方吐出口54とを繋ぐ上方クーラント供給路56と、を有し、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56は、側面視において湾曲形状とされている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の板状に形成されたブレード本体の長手方向の端部に設けられたインサート取付部に切削インサートが取り付けられるブレードであって、
前記ブレード本体は、
一側面で開口する供給口と、
前記インサート取付部の近傍位置における端面で開口する複数の吐出口と、
前記供給口と前記複数の吐出口とを繋ぐ複数のクーラント供給路と、
を有し、
前記クーラント供給路は、側面視において湾曲形状とされている、
ブレード。
【請求項2】
前記クーラント供給路は、前記供給口から前記吐出口へ向かって断面積が次第に小さくされている、
請求項1に記載のブレード。
【請求項3】
前記インサート取付部は、嵌め込まれる前記切削インサートを挟持して支持する複数の支持面を有するスリットからなり、
前記クーラント供給路は、前記ブレード本体の長辺に直交する方向において、前記スリットの後端部との距離が、前記支持面との距離よりも大きくされている、
請求項1に記載のブレード。
【請求項4】
前記クーラント供給路は、前記吐出口側の断面形状が前記ブレード本体の面方向に長い楕円形状または長孔形状とされ、前記吐出口側のアスペクト比が前記供給口側よりも小さくされている、
請求項1に記載のブレード。
【請求項5】
前記ブレード本体は、前記供給口から前記複数のクーラント供給路が分岐される分岐箇所に、前記供給口に供給されるクーラントを貯留するチャンバを有する、
請求項1に記載のブレード。
【請求項6】
前記チャンバと前記クーラント供給路との接続箇所には、断面視で円弧状のフィレット部が形成されている、
請求項5に記載のブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バイト本体に切削インサートが取り付けられたバイトをツールブロックに保持させ、このツールブロックを旋盤等の工作機械の刃物台に取り付け、切削インサートの切刃によって回転する被削材の溝入れ加工や突っ切り加工を行うことが記載されている。
【0003】
ところで、切削インサートの切刃によって被削材を長突出しで加工する場合、外部からの給油方式では切削インサートの切刃を直接冷却することが困難である。
【0004】
このため、特許文献2,3には、切刃を直接冷却するために、ブレード内部にブレード流路を設け、このブレード流路にクーラントを供給し、切削部分に位置付けられたブレード出口開口から吐出させて冷却するブレードが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-104225号公報
【特許文献2】特表2015-512794号公報
【特許文献3】特開2018-30228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2,3に記載のブレードのブレード流路は、一般に、ドリルによる切削加工によって直線状に形成される。
【0007】
このため、
図13示すように、1つの供給口1から複数の直線状の流路4aをドリルで形成して吐出口2,3へクーラントを分岐させるような経路のクーラント供給路4を設ける場合、流路4a同士がクロスした分岐部5aや屈曲部5bが形成される。このようなクーラント供給路4のクロスした分岐部5aや屈曲部5bは、クーラントの流れに剥離が生じて圧力損失を引き起こしやすい形状となる。また、このような直線状の流路4aからなるクーラント供給路4では、吐出口2,3から吐出されるクーラントがミスト状に拡散され、クーラントをインサート取付部6に取り付けられた切削インサート7の切刃8による切削箇所へ効率的に供給しにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、圧力損失を抑えて切削箇所へ効率的にクーラントを供給することが可能なブレードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のブレードは、
長尺の板状に形成されたブレード本体の長手方向の端部に設けられたインサート取付部に切削インサートが取り付けられるブレードであって、
前記ブレード本体は、
一側面で開口する供給口と、
前記インサート取付部の近傍位置における端面で開口する複数の吐出口と、
前記供給口と前記複数の吐出口とを繋ぐ複数のクーラント供給路と、
を有し、
前記クーラント供給路は、側面視において湾曲形状とされている、
ブレード。
【0010】
この構成のブレードによれば、供給口から供給したクーラントを、複数のクーラント供給路を通してインサート取付部の近傍位置における端面で開口する複数の吐出口から吐出させることができる。これにより、インサート取付部に取り付けられた切削インサートによる被加工物の切削箇所をクーラントによって冷却及び潤滑できる。
このクーラントを吐出口へ導くクーラント供給路は、それぞれ湾曲形状とされているので、供給口から分岐して複数の吐出口に繋がる直線状の流路からなるクーラント供給路と比較し、流れるクーラントの圧力損失を抑制できる。これにより、切削箇所へ効率的にクーラントを供給して切削箇所を効率的に冷却及び潤滑できる。
【0011】
また、本発明のブレードは、
前記クーラント供給路は、前記供給口から前記吐出口へ向かって断面積が次第に小さくされている。
【0012】
この構成のブレードによれば、クーラント供給路の断面積が、供給口から吐出口へ向かって次第に小さくされている。したがって、クーラント供給路を流れるクーラントの流速を供給口から吐出口へ向かって速めることができる。これにより、切削箇所へより効率的にクーラントを供給して切削箇所を効率的に冷却及び潤滑でき、切削インサートの摩耗抑制に寄与できる。
【0013】
また、本発明のブレードは、
前記インサート取付部は、嵌め込まれる前記切削インサートを挟持して支持する複数の支持面を有するスリットからなり、
前記クーラント供給路は、前記ブレード本体の長辺に直交する方向において、前記スリットの後端部との距離が、前記支持面との距離よりも大きくされている。
【0014】
この構成のブレードによれば、ブレード本体におけるスリットとクーラント供給路との間の断面二次モーメントを大きくできる。これにより、スリット周辺の塑性変形を抑制し、寿命延長に繋がる。
【0015】
また、本発明のブレードは、
前記クーラント供給路は、前記吐出口側の断面形状が前記ブレード本体の面方向に長い楕円形状または長孔形状とされ、前記吐出口側のアスペクト比が前記供給口側よりも小さくされている。
【0016】
この構成のブレードによれば、クーラント供給路における吐出口側の断面形状が、ブレード本体の面方向に長い楕円形状または長孔形状とされている。したがって、ブレード本体の厚さが薄くても、クーラント供給路における吐出口側の断面積を十分に確保できるとともに、吐出口からクーラントを円滑に吐出させてクーラントの飛散を抑えることができる。また、クーラント供給路は、吐出口側のアスペクト比が供給口側よりも小さくされている。これにより、吐出口から吐出されるクーラントの流速を速めることができる。
【0017】
また、本発明のブレードは、
前記ブレード本体は、前記供給口から前記複数のクーラント供給路が分岐される分岐箇所に、前記供給口に供給されるクーラントを貯留するチャンバを有する。
【0018】
この構成のブレードによれば、供給口に供給されるクーラントがチャンバに一旦貯留されることにより、クーラント供給路へ送り込まれる前にクーラントの流速が減速される。これにより、クーラント供給路へ送り込まれるクーラントの分岐損失を抑制できる。
【0019】
また、本発明のブレードは、
前記チャンバと前記クーラント供給路との接続箇所には、断面視で円弧状のフィレット部が形成されている。
【0020】
この構成のブレードによれば、チャンバからクーラント供給路へのクーラントの流入時における入口損失を抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のブレードによれば、圧力損失を抑えて切削箇所へ効率的にクーラントを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ツールブロックに装着された本実施形態に係るブレードの斜視図である。
【
図4】ブレード本体におけるインサート取付部の側面図である。
【
図6】ブレード本体の一方の端部から視た正面図である。
【
図8】ブレード本体における供給口周辺の斜視図である。
【
図10】フィレット部を備えたチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
【
図11】面取りを有するチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
【
図12】角部が直角なチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
【
図13】直線状のブレード流路を備えるブレードの一部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、ツールブロックに装着された本実施形態に係るブレードの斜視図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係るブレード100は、長尺の板状に形成されたブレード本体11を有している。このブレード本体11は、長手方向の両端部にインサート取付部12を有しており、このインサート取付部12に、切削インサート13が取り付けられる。
【0025】
このブレード100は、ツールブロック21に固定されて用いられる。ツールブロック21は、下部拘束面22と、当接面23とを有している。このツールブロック21の上部には、上部拘束面24を有するクランプ部材25が、複数のボルト26によって固定される。
【0026】
ブレード100は、ツールブロック21の下部拘束面22に載置されて当接面23に沿わされた状態でツールブロック21に配置される。この状態で、ブレード100は、ボルト26によってツールブロック21に締結されるクランプ部材25によって押圧される。これにより、ブレード100は、下部拘束面22とクランプ部材25の上部拘束面24とで挟持された状態でツールブロック21に固定される。
【0027】
ブレード100が固定されたツールブロック21は、旋盤などの工作機械の刃物台に装着される。そして、ブレード100のブレード本体11に取り付けられた切削インサート13の刃先14によって、例えば、回転する被削材に対する溝入れ加工や突っ切り加工が行われる。
【0028】
次に、ブレード100について説明する。
図2は、本実施形態に係るブレードの斜視図である。
図3は、本実施形態に係るブレードの側面図である。
【0029】
図2及び
図3に示すように、ブレード100を構成するブレード本体11は、一対の長辺31と、一対の短辺33とを有する長方形状の板状に形成されている。このブレード本体11は、鋼材等の金属材料から形成されている。このブレード本体11の材質としては、例えば、弾性を有しかつ塑性変形しづらい合金工具鋼鋼材(SKS5)が好ましい。
【0030】
このブレード100は、例えば、金属粉末を用いて造形物を3次元造形する金属粉末焼結3Dプリンターによって造形される。金属粉末焼結3Dプリンターによる造形方法としは、例えば、粉末床溶融結合(Powder bed fusion)、電子ビームを用いて粉末を溶融させる電子ビーム溶融法(EBM:Electron Beam Melting)、あるいはレーザ光を用いて粉末を溶融させるレーザ溶融法(SLM:Selective Laser Melting)などが挙げられる。
【0031】
ブレード本体11には、両端における対角の角部に、切削インサート13が取り付けられるインサート取付部12が形成されている。このように、ブレード本体11は、両端側がインサート取付部12を有するインサート保持部35とされている。つまり、ブレード100は、ブレード本体11の向きを反転させてツールブロック21に固定することにより、いずれか一方のインサート保持部35のインサート取付部12に取り付けた切削インサート13によって切削が可能な両保持タイプのブレードである。
【0032】
図4は、ブレード本体におけるインサート取付部の側面図である。
図4に示すように、ブレード本体11の角部に形成されたインサート取付部12は、短辺33で開口するスリット41からなるもので、このスリット41に切削インサート13が嵌め込まれて保持される。
【0033】
このスリット41は、その開口側がインサートポケット42とされており、このインサートポケット42に切削インサート13が嵌め込まれる。インサート取付部12を上方に配置させた状態で、ブレード本体11は、スリット41の下方側がブレード下方部43とされ、スリット41の上方側がブレード上方部44とされる。
【0034】
スリット41のインサートポケット42は、ブレード下方部43にインサート下方支持面(支持面)45,46を有し、ブレード上方部44にインサート上方支持面(支持面)47を有している。また、インサートポケット42は、インサート下方支持面45,46の間に、インサート長手方向支持面(支持面)48を有している。
【0035】
このインサートポケット42に嵌め込まれる切削インサート13は、下方支持面45,46と上方支持面47とによって挟まれて保持される。また、インサートポケット42に嵌め込まれる切削インサート13は、インサート長手方向支持面48に当接することによりスリット41の奥行方向へ位置決めされる。
【0036】
図5は、ブレード本体の一部の側面図である。
図6は、ブレード本体の一方の端部から視た正面図である。
【0037】
図5に示すように、ブレード本体11のそれぞれのインサート保持部35は、クーラント供給部50を有している。クーラント供給部50は、供給口51と、下方吐出口(吐出口)53と、上方吐出口(吐出口)54と、下方クーラント供給路(クーラント供給路)55と、上方クーラント供給路(クーラント供給路)56とから構成されている。供給口51は、ブレード本体11の一方の側面で開口しており、この供給口51からクーラントが供給される。クーラントは、主に冷却及び潤滑を目的として切削インサート13による被切削物の切削箇所に供給される潤滑材であり、水溶性クーラントや油性クーラントなどが使用される。
【0038】
図6に示すように、下方吐出口53及び上方吐出口54は、それぞれブレード本体11のインサート取付部12の近傍位置における端面で開口している。下方吐出口53は、インサート取付部12のブレード下方部43の端面に形成され、上方吐出口54は、インサート取付部12のブレード上方部44の端面に形成されている。
【0039】
下方クーラント供給路55は、供給口51と下方吐出口53とを繋ぐように、ブレード本体11に形成されている。下方クーラント供給路55は、ブレード本体11の側面視において、インサート取付部12のスリット41の下方側を通り、スリット41から離れる方向へ膨出する湾曲形状の経路を有している。
【0040】
上方クーラント供給路56は、供給口51と上方吐出口54とを繋ぐように、ブレード本体11に形成されている。上方クーラント供給路56は、ブレード本体11の側面視において、インサート取付部12のスリット41の上方側を通り、スリット41から離れる方向へ膨出する湾曲形状の経路を有している。
【0041】
クーラント供給部50では、供給口51に供給されたクーラントが下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56を通してインサート取付部12の近傍位置における端面で開口する下方吐出口53及び上方吐出口54から吐出される。これにより、インサート取付部12に取り付けられた切削インサート13による被切削物の切削箇所がクーラントによって冷却及び潤滑される。
【0042】
図7A~
図7Cは、下方クーラント供給路55の断面積の変化を示す図である。
図7Aに示すように、下方クーラント供給路55は、供給口51側の断面積S1と比べ、
図7Bに示すように、供給口51と下方吐出口53との中間位置の断面積S2が小さくされ、さらに、
図7Cに示すように、下方吐出口53側の断面積S3がより小さくされている。
【0043】
このように、下方クーラント供給路55は、供給口51から下方吐出口53へ向かって断面積が次第に小さくされている。同様に、上方クーラント供給路56は、供給口51から上方吐出口54へ向かって断面積が次第に小さくされている。
【0044】
下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56の断面積を、供給口51から下方吐出口53及び上方吐出口54へ向かって次第に小さくすることにより、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56を流れるクーラントの流速を供給口51から下方吐出口53及び上方吐出口54へ向かって速めることができる。これにより、切削箇所へより効率的にクーラントを供給して切削箇所を効率的に冷却及び潤滑でき、切削インサート13の刃先14の摩耗抑制に寄与できる。
【0045】
下方クーラント供給路55は、ブレード本体11の長辺に直交する方向(ブレード本体11の短辺と平行な方向と言い換えることもできる。以下、同じ。)において、スリット41の後端部との距離がDa1、インサート下方支持面45との距離がDa2、インサート長手方向支持面48との距離がDa3、インサート下方支持面46との距離がDa4とされている。そして、下方クーラント供給路55は、スリット41の後端部との距離Da1が、インサート下方支持面45との距離Da2、インサート長手方向支持面48との距離Da3、インサート下方支持面46との距離Da4よりも大きくされている。
【0046】
また、上方クーラント供給路56は、ブレード本体11の長辺に直交する方向において、スリット41の後端部との距離がDb1、インサート上方支持面47との距離がDb2とされている。そして、上方クーラント供給路56は、スリット41の後端部との距離Db1が、インサート上方支持面47との距離Db2よりも大きくされている。
【0047】
これにより、ブレード本体11におけるスリット41と下方クーラント供給路55及び上方クーラント56との間の断面二次モーメントを大きくできる。したがって、スリット41の周辺の塑性変形を抑制し、寿命延長に繋がる。
【0048】
また、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56は、下方吐出口53及び上方吐出口54側の断面形状がブレード本体11の面方向に長い楕円形状とされている(
図6参照)。これにより、下方クーラント供給路55は、下方吐出口53側において、幅寸法W1よりも大きな長さ寸法L1を有しており、上方クーラント供給路56は、上方吐出口54において、幅寸法W2よりも大きな長さ寸法L2を有している。
【0049】
したがって、ブレード本体11の厚さが薄くても、下方クーラント供給路55における下方吐出口53側の断面積及び上方クーラント供給路56における上方吐出口54側の断面積を十分に確保できるとともに、下方吐出口53及び上方吐出口54からクーラントを円滑に吐出させてクーラントの飛散を抑えることができる。なお、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56の下方吐出口53及び上方吐出口54側の断面形状は、楕円形状に限らず、長孔形状でもよい。
【0050】
また、下方クーラント供給路55は、下方吐出口53側におけるアスペクト比(L1/W1)が、供給口51側よりも小さくされている。同様に、上方クーラント供給路56は、上方吐出口54側におけるアスペクト比(L2/W2)が、供給口51側よりも小さくされている。これにより、下方吐出口53及び上方吐出口54から吐出されるクーラントの流速を速めることができる。
【0051】
図8は、ブレード本体における供給口周辺の斜視図である。
図8に示すように、ブレード本体11は、供給口51から下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56が分岐される分岐箇所にチャンバ60を有している。このチャンバ60は、供給口51に供給されるクーラントを貯留する。
【0052】
このように、供給口51から下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56が分岐される分岐箇所にチャンバ60を設けることにより、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56へ送り込まれる前にクーラントの流速が減速される。
【0053】
図9は、分岐損失を説明する流路の模式図である。
図10は、フィレット部を備えたチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
図11は、面取りを有するチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
図12は、角部が直角なチャンバと下方クーラント供給路との接続箇所の概略断面図である。
【0054】
図9に示すように、流体が流速V1で流路F1からそれぞれ流速V2,V3で流路F2,F3に分岐されて送り込まれる場合、流路F1から流路F2に流体が流れる際の分岐損失ΔPsb2及び流路F1から流路F3に流体が流れる際の分岐損失ΔPsb3は、次式(1),(2)で表される。
【0055】
ΔPsb2=ζb2(ρ・V12/2) …(1)
ΔPsb3=ζb3(ρ・V12/2) …(2)
ただし、
ζb2:損失係数
ζb3:損失係数
ρ:密度
【0056】
上式(1),(2)のように、流体が流路F1から流路F2,F3へ分岐される場合の分岐損失は、分岐前の流体の流速V1が大きな影響を与える。
【0057】
本実施形態に係るブレード100では、前述のように、供給口51から下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56が分岐される分岐箇所にチャンバ60を設けることにより、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56へ送り込まれる前にクーラントの流速が減速される。これにより、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56へ送り込まれるクーラントの分岐損失を抑制できる。
【0058】
また、
図8に示すように、チャンバ60と下方クーラント供給路55との接続箇所には、フィレット部61が形成されている。
図10に示すように、フィレット部61は、下方クーラント供給路55におけるチャンバ60との接続端の縁部に形成されており、断面視で円弧状に形成されている。これにより、
図11に示すように、下方クーラント供給路55におけるチャンバ60との接続端の縁部に、断面視で直線状の面取り71を形成した場合や、
図12に示すように、下方クーラント供給路55におけるチャンバ60との接続端の縁部が断面視で直角とされた場合と比べ、チャンバ60から下方クーラント供給路55へのクーラントの流入時における入口損失を抑えることができる。
【0059】
同様に、チャンバ60と上方クーラント供給路56との接続箇所には、断面視で円弧状のフィレット部62が形成されている(
図8参照)。これにより、チャンバ60から上方クーラント供給路56へのクーラントの流入時における入口損失を抑えることができる。
【0060】
さらに、供給口51とチャンバ60との接続箇所には、断面視で円弧状のフィレット部63が形成されている(
図8参照)。これにより、供給口51からチャンバ60へのクーラントの流入時における入口損失を抑えることができる。
【0061】
以上、説明したように、本実施形態に係るブレード100によれば、供給口51から供給したクーラントを、下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56を通してインサート取付部12の近傍位置における端面で開口する下方吐出口53及び上方吐出口54から吐出させることができる。これにより、インサート取付部12に取り付けられた切削インサート13による被切削物の切削箇所をクーラントによって冷却及び潤滑できる。
【0062】
しかも、クーラントを下方吐出口53及び上方吐出口54へ導く下方クーラント供給路55及び上方クーラント供給路56は、それぞれ湾曲形状とされているので、
図13に示すように、供給口1から分岐して複数の吐出口2,3に繋がる直線状の流路4aからなるクーラント供給路4と比較し、流れるクーラントの圧力損失を抑制できる。これにより、切削箇所へ効率的にクーラントを供給し、切削箇所を効率的に冷却及び潤滑できる。
【符号の説明】
【0063】
11 ブレード本体
12 インサート取付部
13 切削インサート
41 スリット
45,46 インサート下方支持面(支持面)
47 インサート上方支持面(支持面)
48 インサート長手方向支持面(支持面)
51 供給口
53 下方吐出口(吐出口)
54 上方吐出口(吐出口)
55 下方クーラント供給路(クーラント供給路)
56 上方クーラント供給路(クーラント供給路)
60 チャンバ
61,62,63 フィレット部
100 ブレード