(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093177
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ポリアミド組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20240702BHJP
C08K 13/06 20060101ALI20240702BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240702BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20240702BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240702BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240702BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20240702BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240702BHJP
C08K 7/04 20060101ALN20240702BHJP
C08K 9/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K13/06
C08K5/13
C08K5/10
C08J5/00 CFG
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/625
C08K7/04
C08K9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209378
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐欣
(72)【発明者】
【氏名】日和佐 剛
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5H031
【Fターム(参考)】
4F071AA54
4F071AA84
4F071AA88
4F071AB18
4F071AB28
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4F071AH07
4F071AH12
4F071AH17
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4F071BB05
4F071BC03
4F071BC12
4J002BB033
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4J002CP033
4J002DA016
4J002DE077
4J002DE096
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4J002FD012
4J002FD016
4J002FD078
4J002FD163
4J002FD169
4J002FD207
4J002GN00
4J002GQ00
5H031EE01
5H031EE03
5H031EE04
(57)【要約】
【課題】放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を成形可能なポリアミド組成物を提供することを目的とする。放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を提供することも目的とする。
【解決手段】ポリアミド組成物が、ポリアミドと、繊維状無機強化材と、酸化マグネシウムを含む焼結体とを含み、前記焼結体がシリカ膜で被覆されており、前記焼結体の含有量が35質量%以上である。繊維状無機強化材によって強度、具体的には曲げ強さを向上することができる。しかも、酸化マグネシウムを含む焼結体によって、焼結されていない酸化マグネシウム粒子、具体的には軽焼マグネシアを用いる場合にくらべて、放熱性や強度、耐湿性を向上することができる。そのうえ、焼結体がシリカ膜で被覆されていることによって、放熱性や強度、耐湿性をいっそう向上することができる。焼結体の含有量が35質量%以上であることによって、放熱性をいっそう向上することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと、
繊維状無機強化材と、
酸化マグネシウムを含む焼結体とを含み、
前記焼結体がシリカ膜で被覆されており、
前記焼結体の含有量が35質量%以上である、
ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記繊維状無機強化材の含有量が10質量%以上である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドが結晶性ポリアミドである、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記結晶性ポリアミドの相対粘度が2.0以上3.6以下である、請求項3に記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
離型剤をさらに含む、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項8】
前記離型剤が高級脂肪酸エステル系化合物である、請求項7に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
曲げ強さが120MPa以上であり、
熱伝導率が0.60W/m・K以上であり、
80℃、相対湿度95%RHの環境下で168時間静置する、という高湿度処理をおこなったときの引張強さの保持率が40%以上であり、引張強さの保持率が、次の式で算出される値である、
引張強さの保持率=(高湿度処理されたポリアミド組成物試験片の引張強さ/高湿度処理されなかったポリアミド組成物試験片の引張強さ)×100
請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のポリアミド組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド組成物に熱伝導性を付与するために、つまり、放熱性を付与するために高熱伝導率を有する無機物(以下、「熱伝導性無機フィラー」と言うことがある。)を配合することが知られている。
【0003】
熱伝導性無機フィラーのなかでも、酸化マグネシウム粒子は、安価であり、しかも熱伝導率に優れ、そのうえ低硬度であるといった事情から、とりわけ有用である。なお、低硬度は、ポリアミド組成物や成形品を製造する際の、押出機や成形機のスクリューの摩耗を抑える、といった利点につながる。
【0004】
しかしながら、酸化マグネシウム粒子(たとえば軽焼マグネシア)は、ポリアミド組成物の強度を低下させる。これは、酸化マグネシウム粒子のポリアミドへの分散性や、ポリアミドとの密着性が悪く、ポリアミド組成物の脆化をもたらすためである。酸化マグネシウム粒子は、ポリアミド組成物の耐湿性も低下させる。これは、酸化マグネシウム粒子を構成する酸化マグネシウムが水分と反応するためである。強度や耐湿性の低下は、とりわけ、酸化マグネシウム粒子を多量に配合する際に顕著になる。
【0005】
このような酸化マグネシウム粒子の欠点を改善する方法として、たとえば、酸化マグネシウム粒子を脂肪酸金属塩で被覆する方法や(特許文献1参照)、熱伝導性無機フィラーとともにエチレン‐オクテン共重合体の無水マレイン酸変性物を配合する方法(特許文献2参照)が提案されている。これに加えて、酸化マグネシウムや酸化カルシウム、酸化ケイ素を含む焼結体を用いる方法(特許文献3参照)や、酸化マグネシウム粒子をオリゴマー状反応性シロキサンで表面処理する方法(特許文献4参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2018/180123
【特許文献2】特許第6296197号
【特許文献3】特許第5993824号
【特許文献4】特許第5602650号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、軽量化の要請や電気自動車(EV)の普及に伴い、放熱性だけでなく、他の物性(たとえば強度や耐湿性)にも優れたポリアミド組成物が求められている。
【0008】
本発明は、放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を成形可能なポリアミド組成物を提供することを目的とする。本発明は、放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、下記[1]の構成を備える。
[1]
ポリアミドと、
繊維状無機強化材と、
酸化マグネシウムを含む焼結体とを含み、
前記焼結体がシリカ膜で被覆されており、
前記焼結体の含有量が35質量%以上である、
ポリアミド組成物。
ここで、「酸化マグネシウムを含む焼結体」は、酸化マグネシウムを含む粒子のいくつかが結合した、粒状の焼結体である。
【0010】
[1]によれば、繊維状無機強化材によって強度、具体的には曲げ強さを向上することができる。
【0011】
しかも、酸化マグネシウムを含む焼結体によって、焼結されていない酸化マグネシウム粒子、具体的には軽焼マグネシアを用いる場合にくらべて、放熱性や強度を向上することができる。これについて説明する。酸化マグネシウムは水分と反応し、水酸化マグネシウムとなる。この反応が進むほど、酸化マグネシウムの体積が膨張する。この反応が、ポリアミド組成物中で起こると、酸化マグネシウムと樹脂(たとえばポリアミド)との界面に空隙が生じる。これに対して、[1]によれば、酸化マグネシウムを含む焼結体であることによって、その反応を抑制することができ、したがって空隙の発生を抑制することや、発生し得る空隙の大きさを低減することができる。これは、焼結体が製造される際の焼結によって、酸化マグネシウムを含む粒子同士を結合する部分(すなわちネック)や、なんらかの層が粒子に形成されるためである、と考えられる。したがって、空隙により引き起こされ得る放熱性や強度の低下を抑制することができる。それ故、焼結体によって放熱性や強度を向上することができる。
【0012】
酸化マグネシウムを含む焼結体によって、焼結されていない酸化マグネシウム粒子(具体的には軽焼マグネシア)を用いる場合にくらべて耐湿性を向上することもできる。具体的には、高湿度環境下での引張強さの低下を抑制することができる。これについて説明する。酸化マグネシウムは水分と反応し、水酸化マグネシウムとなる。この反応が進むほど、酸化マグネシウムの体積が膨張する。この反応が、ポリアミド組成物中で進むと、ポリアミド組成物の引張強さが低下する。これに対して、[1]によれば、酸化マグネシウムを含む焼結体であることによって、その反応を抑制することができる。これは、焼結体が製造される際の焼結によって、酸化マグネシウムを含む粒子同士を結合する部分(すなわちネック)や、なんらかの層が粒子に形成されるためである、と考えられる。したがって、その反応(すなわち、酸化マグネシウムと水分との反応)により引き起こされ得る引張強さの低下を抑制することができる。それ故、焼結体によって、高湿度環境下での引張強さの低下を抑制する、すなわち耐湿性を向上することができる。
【0013】
そのうえ、焼結体がシリカ膜で被覆されていることによって、焼結体がいっそう優れた耐湿性を有することから、ポリアミド組成物の放熱性や強度、耐湿性をいっそう向上することができる。
【0014】
さらに、焼結体の含有量が35質量%以上であることによって放熱性をいっそう向上することができる。
【0015】
本発明は、下記[2]~[9]の構成が好ましい。
【0016】
[2]
前記繊維状無機強化材の含有量が10質量%以上である、[1]に記載のポリアミド組成物。
[2]によれば、繊維状無機強化材の含有量が10質量%以上であることによって強度をいっそう向上することができる。
【0017】
[3]
前記ポリアミドが結晶性ポリアミドである、[1]または[2]に記載のポリアミド組成物。
[3]によれば、結晶性ポリアミドによって機械的性質を向上することができる。
【0018】
[4]
前記結晶性ポリアミドの相対粘度が2.0以上3.6以下である、[3]に記載のポリアミド組成物。
ここで、相対粘度は、JIS K6920-2:2009に従って98%硫酸を用いて、試料(すなわちポリアミド)1g/dL、25℃で測定される値である。
【0019】
[5]
酸化防止剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[5]によれば、酸化防止剤によって、ポリアミド組成物の酸化劣化を抑制することができる。
【0020】
[6]
ヒンダードフェノール系酸化防止剤をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【0021】
[7]
離型剤をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[7]によれば、ポリアミド組成物が離型剤を含むことによって、ポリアミド組成物を金型で成形した場合に、金型から成形品を取り出すことが容易になる。
【0022】
[8]
前記離型剤が高級脂肪酸エステル系化合物である、[7]に記載のポリアミド組成物。
【0023】
[9]
曲げ強さが120MPa以上であり、
熱伝導率が0.60W/m・K以上であり、
80℃、相対湿度95%RHの環境下で168時間静置する、という高湿度処理をおこなったときの引張強さの保持率が40%以上であり、引張強さの保持率が、次の式で算出される値である、
引張強さの保持率=(高湿度処理されたポリアミド組成物試験片の引張強さ/高湿度処理されなかったポリアミド組成物試験片の引張強さ)×100
[1]~[8]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【0024】
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド組成物を含む成形品。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を成形可能なポリアミド組成物を提供することができる。本発明によれば、放熱性や強度、耐湿性に優れた成形品を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0027】
<1.ポリアミド組成物>
<1.1.ポリアミド>
本実施形態のポリアミド組成物はポリアミドを含む。ポリアミドは、主鎖中にアミド結合(-NHCO-)を有する重合体である。
【0028】
ポリアミドとしては、ポリアミド組成物の機械的性質を向上できることから結晶性ポリアミドが好ましい。結晶性ポリアミドとして、たとえば、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリメタキシリレンアジパミド(PAMXD6)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(PA6T)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびアジピン酸重合体(PA6T/66)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびεカプロラクタム共重合体(PA6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(PATMD-T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタル酸共重合体(PAMXD6/MXDI)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸およびε-カプロラクタム共重合体(PATMDT/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタンとイソフタル酸およびラウリルラクタム共重合体を挙げることができる。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。なかでも、成形性、溶融流動性、機械的性質に優れるといった理由でポリアミド6が好ましい。
【0029】
ポリアミド6は、ε-カプロラクタムを主たる原料とするポリアミドであることが好ましい。ε-カプロラクタムを主たる原料とするポリアミドは重縮合によって得ることができる。ポリアミド6には他の単量体が共重合されていてもよい。そのような単量体として、たとえば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ω-ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。これらを2種以上共重合してもよい。
【0030】
ポリアミド6を構成する単量体単位の合計100モル%中、ε-カプロラクタム由来の単位は、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。これは100モル%であってもよい。
【0031】
結晶性ポリアミドの相対粘度は1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。1.5以上であると、強度をいっそう向上することができる。結晶性ポリアミドの相対粘度は4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.6以下がさらに好ましい。4.5以下であると、ポリアミド組成物を溶融して流動させたときの、過度な流動性の低下を抑制できるとともに、焼結体の分散性を高められる。相対粘度は、JIS K6920-2:2009に従って98%硫酸を用いて、試料(すなわちポリアミド)1g/dL、25℃で測定される値である。
【0032】
本実施形態のポリアミド組成物に含まれるポリアミド100質量%中、結晶性ポリアミドの含有量は80質量%以上が好ましい。結晶性ポリアミドの含有量は90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0033】
本実施形態のポリアミド組成物は非晶性ポリアミドをさらに含んでいてもよい。ポリアミド組成物が非晶性ポリアミドを含むと、ポリアミド組成物を用いて射出成形する場合、成形品への転写(すなわち金型転写)が容易になる。非晶性ポリアミドは、示差走査熱量測定(DSC)測定時のサーモグラムに、結晶の融解ピークが認められないポリアミドであることができる。非晶性ポリアミドとして、たとえば、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタン(CA)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、メタキシリレンジアミン(MXD)、トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD)、イソフォロンジアミン(IA)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン(PACP)、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などのジカルボン酸と、必要に応じて、カプロラクタム、ラウリルラクタムなどのラクタム類とを重縮合して得られる重合体を挙げることができる。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。もちろん、非晶性ポリアミドには他の単量体が共重合されていてもよい。
【0034】
とりわけ、結晶化を抑制しやすい点で、非晶性ポリアミドは芳香族成分を含むことが好ましい。芳香族成分を含む非晶性ポリアミドとして、テレフタル酸、イソフタル酸、およびアジピン酸を原料とするポリアミド6T/6I、テレフタル酸、アジピン酸、およびヘキサメチレンジアミンを原料とするポリアミド6T/66が好ましい。なかでも、成形性の点で、ポリアミド6T/6Iがより好ましい。
【0035】
本実施形態のポリアミド組成物において、ポリアミドの含有量は25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、38質量%以上がさらに好ましい。ポリアミドの含有量は50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、42質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
<1.2.繊維状無機強化材>
本実施形態のポリアミド組成物は繊維状無機強化材を含む。繊維状無機強化材によって強度、具体的には曲げ強さを向上することができる。これに加えて、剛性や耐熱性なども向上することができる。
【0037】
繊維状無機強化材として、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニヤ繊維を挙げることができる。繊維状無機強化材として、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウムなどのウイスカー類や、針状ワラストナイト、ミルドフファイバーなどを挙げることもできる。なかでも、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0038】
ガラス繊維として、たとえばチョップドストランド状のガラス繊維を挙げることができる。ガラス繊維の繊維長は1mm~20mmが好ましい。ガラス繊維の断面形状は、円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。ここで、「断面形状」は、ガラス繊維の長さ方向に対して垂直な断面の形状である。非円形断面として、略楕円形断面、略長円形断面、略繭形断面を挙げることができる。非円形断面のガラス繊維の偏平度は1.5~8が好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長さ方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定したうえで、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径の短径に対する比(すなわち、長径/短径)である。ガラス繊維の短径は1μm~20μmが好ましい。ガラス繊維の長径は2μm~100μmが好ましい。
【0039】
繊維状無機強化材について、平均繊維長の平均繊維径に対する比は100以上が好ましく、200以上がより好ましい。この比は、1000以下が好ましく、800以下がより好ましい。この比は500以下であってもよい。
【0040】
繊維状無機強化材はカップリング剤で処理されていることが好ましい。これにより、ポリアミドとの親和性を向上することができ、機械的性質を向上することができる。また外観特性を向上することもできる。カップリング剤として、たとえば、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ系化合物を挙げることができる。なお、カップリング剤としては、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基と反応しやすいカップリング剤が好ましい。いくらか切り口を変えてカップリング剤を例示すると、たとえば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤を挙げることができる。なかでも、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤などのシラン系カップリング剤が好ましい。なお、カップリング剤による処理は、予め行うことが好ましいものの、カップリング剤を後添加してもよい。
【0041】
本実施形態のポリアミド組成物において、繊維状無機強化材の含有量は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。5質量%以上であると、曲げ強さ、すなわち強度をいっそう向上することができる。いっぽう、繊維状無機強化材の含有量は40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。40質量%以下であると、ポリアミド組成物を用いた成形品の作製が困難になることを回避できる。
【0042】
<1.3.焼結体>
本実施形態のポリアミド組成物は、酸化マグネシウムを含む焼結体を含む。ここで、「酸化マグネシウムを含む焼結体」は、酸化マグネシウムを含む粒子のいくつかが結合した、粒状の焼結体である。焼結体は酸化マグネシウムを含むことから、高い熱伝導率を有する。
【0043】
酸化マグネシウムを含む焼結体によって、焼結されていない酸化マグネシウム粒子、具体的には軽焼マグネシアを用いる場合にくらべて、放熱性や強度を向上することができる。これについて説明する。酸化マグネシウムは水分と反応し、水酸化マグネシウムとなる。この反応が進むほど、酸化マグネシウムの体積が膨張する。この反応が、ポリアミド組成物中で起こると、酸化マグネシウムと樹脂(たとえばポリアミド)との界面に空隙が生じる。これに対して、[1]によれば、酸化マグネシウムを含む焼結体であることによって、その反応を抑制することができ、したがって空隙の発生を抑制することや、発生し得る空隙の大きさを低減することができる。これは、焼結体が製造される際の焼結によって、酸化マグネシウムを含む粒子同士を結合する部分(すなわちネック)や、なんらかの層が粒子に形成されるためである、と考えられる。したがって、空隙により引き起こされ得る放熱性や強度の低下を抑制することができる。それ故、焼結体によって放熱性や強度を向上することができる。
【0044】
酸化マグネシウムを含む焼結体によって、焼結されていない酸化マグネシウム粒子(具体的には軽焼マグネシア)を用いる場合にくらべて耐湿性を向上することもできる。具体的には、高湿度環境下での引張強さの低下を抑制することができる。これについて説明する。酸化マグネシウムは水分と反応し、水酸化マグネシウムとなる。この反応が進むほど、酸化マグネシウムの体積が膨張する。この反応が、ポリアミド組成物中で進むと、ポリアミド組成物の引張強さが低下する。これに対して、[1]によれば、酸化マグネシウムを含む焼結体であることによって、その反応を抑制することができる。これは、焼結体が製造される際の焼結によって、酸化マグネシウムを含む粒子同士を結合する部分(すなわちネック)や、なんらかの層が粒子に形成されるためである、と考えられる。したがって、その反応(すなわち、酸化マグネシウムと水分との反応)により引き起こされ得る引張強さの低下を抑制することができる。それ故、焼結体によって、高湿度環境下での引張強さの低下を抑制する、すなわち耐湿性を向上することができる。
【0045】
焼結体は、たとえば、精製された水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)や酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)を混合し、混合物を高温で加熱することによって製造することができる。酸化ケイ素、酸化カルシウムによって焼結を促進することができる。加熱は、たとえば、ロータリーキルンを用いて、1800℃程度、30分程度でおこなうことができる。加熱によって得られた焼結体を、必要に応じて篩にかけ、必要に応じて分級してもよい。必要に応じて焼結体に表面処理をおこなってもよい。
【0046】
焼結体は、酸化ケイ素(SiO2)を含むことが好ましく、酸化ケイ素(SiO2)および酸化カルシウム(CaO)を含むことがより好ましい。なぜなら、酸化カルシウムの酸化ケイ素に対するモル比(以下、「Ca/Si比」と言うことがある。)を調整することによって、焼結体の強度や耐湿性をコントロールできるためである(特許第5993824号参照)。ここで、酸化ケイ素のモル数とは、焼結体に含まれるケイ素元素をケイ素酸化物(SiO2)で換算したモル数(MSi)を意味する。酸化カルシウムのモル数とは、焼結体に含まれるカルシウム元素をカルシウム酸化物(CaO)で換算したモル数(MCa)を意味する。したがって、Ca/Si比は、MCa/MSiで表される値である。なお、焼結体中に含まれる各酸化物のモル数やモル比、質量%などの値は、誘電結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いたICP法や、EDTAなどのキレート剤を用いたキレート滴定法などの方法で測定することができる。
【0047】
Ca/Si比は0.1以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。0.1以上であると、焼結体の強度を向上することができる。いっぽう、Ca/Si比は2.0未満が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。2.0未満であると、焼結体の耐湿性を向上することができる。
【0048】
焼結体は、酸化マグネシウム、酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)のほか、これらが反応した化合物を含んでいてもよい。焼結体は、たとえば、B2O3、Al2O3、Fe2O3、Na2SO4などを含んでもよい。
【0049】
焼結体における酸化マグネシウムの含有量は、焼結体100質量%中、85.0質量%以上が好ましく、88.0質量%以上がより好ましく、90.0質量%以上がさらに好ましく、92.0質量%以上がさらに好ましく、94.0質量%%以上がさらに好ましい。85.0質量%以上であると、焼結体の熱伝導率が優れる。いっぽう、酸化マグネシウムの含有量は、焼結体100質量%中、99.7質量%以下好ましい。99.7質量%以下であると、焼結体が、他の成分をある程度の量で含むことから耐湿性を向上することができる。
【0050】
焼結体の粒径、具体的にはメジアン径は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、10μm以上がさらに好ましい。1μm以上であると、耐湿性をいっそう向上することができる。これに加えて、ポリアミド組成物を溶融して流動させたときの、過度な流動性の低下を抑制できる。メジアン径は、30μm以上であってもよく、60μm以上であってもよい。いっぽう、メジアン径は、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。200μm以下であると、熱伝導率をいっそう向上することができる。メジアン径は、80μm以下であってもよい。なお、ここで、メジアン径はD50であり、具体的には、焼結体における体積基準での累積粒度分布の累積50%の粒径である。
【0051】
焼結体がシリカ膜、すなわち有機ケイ素化合物層で被覆されていることが好ましい。すなわち、焼結体がシリカ膜を含むことが好ましい。焼結体がシリカ膜で被覆されていることによって、焼結体がいっそう優れた耐湿性を有することから、ポリアミド組成物の放熱性や強度、耐湿性をいっそう向上することができる。
【0052】
シリカ膜を形成するために、たとえば、オリゴマー状反応性シロキサン、シランカップリング剤を使用することができる。なかでもオリゴマー状反応性シロキサンが好ましい。
【0053】
オリゴマー状反応性シロキサンは、シランカップリング剤を含む重合体であることが好ましい。具体的には、オリゴマー状反応性シロキサンは、反応性基を有するアルコキシシランを含む重合体であることが好ましい。オリゴマー状反応性シロキサンは反応性基を含む。具体的には、オリゴマー状反応性シロキサンに含まれるシランカップリング剤が反応性基を含む。反応性基として、たとえば、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、メルカプト基を挙げることができる。なかでも、ビニル基、アミノ基、エポキシ基が好ましく、ビニル基、アミノ基がより好ましい。
【0054】
オリゴマー状反応性シロキサンは、シランカップリング剤と、反応性基を有しないアルコキシシランとの共重合体であってもよい。反応性基を有しないアルコキシシランとして、たとえば、アルキルトリアルコキシシラン、アルキルメチルジアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、フェニルメチルジアルコキシシラン、テトラアルコキシシランを挙げることができる。なかでも、アルキルトリアルコキシシランが好ましい。アルキルトリアルコキシシランやアルキルメチルジアルコキシシランのアルキル基の炭素数は1~18が好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよい。なお、オリゴマー状反応性シロキサンは、シランカップリング剤の単独重合体であってもよい。ちなみに、購入可能なオリゴマー状反応性シロキサンとして、たとえば、Dynasylan6490やDynasylan1146を挙げることができる。
【0055】
オリゴマー状反応性シロキサンで表面処理する方法として、表面処理前の焼結体を撹拌しながらオリゴマー状反応性シロキサンを添加したうえで加熱する方法を挙げることができる(特許第5602650号参照)。このとき、高速撹拌によって生じる摩擦熱で加熱してもよいし、外部から熱を供給することによって加熱してもよいし、これらを組み合わせて加熱してもよい。
【0056】
シリカ膜で被覆された焼結体(すなわち、シリカ膜を含む焼結体)は購入することもできる。購入可能な焼結体として、宇部マテリアルズ株式会社製の「RF-50-AC」を挙げることができる。
【0057】
本実施形態のポリアミド組成物において、焼結体の含有量は35質量%以上である。35質量%以上であることによって放熱性をいっそう向上することができる。焼結体の含有量は37質量%以上が好ましく、38質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。いっぽう、焼結体の含有量は55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、47質量%以下がさらに好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
<1.4.酸化防止剤>
本実施形態のポリアミド組成物は酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤によって、ポリアミド組成物の酸化劣化を抑制することができる。
【0059】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、たとえば、N,N’-ヘキサメチレン-ビス-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、ビス(3,3-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブタン酸)グリコールエステル、2,1’-チオエチルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート(「SONGNOX2450」、分子量633)を挙げることができる。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0060】
本実施形態のポリアミド組成物において、酸化防止剤の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。0.01質量%以上であると、ポリアミド組成物の経時的な酸化劣化を防止することができる。いっぽう、酸化防止剤の含有量は1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0061】
<1.5.離型剤>
本実施形態のポリアミド組成物は離型剤を含むことが好ましい。ポリアミド組成物が離型剤を含むことによって、ポリアミド組成物を金型で成形した場合に、金型から成形品を取り出すことが容易になる。
【0062】
離型剤として、たとえば、長鎖脂肪酸のエステルや金属塩を挙げることができる。離型剤として、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどのアマイド系化合物を挙げることもできる。離型剤として、脂肪族炭化水素系、ポリエチレン系などのワックス類、ポリシロキサン系シリコーンオイルを挙げることもできる。なかでも、脂肪酸金属塩系の離型剤、脂肪酸エステル系の離型剤が好ましい。すなわち、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル系化合物(つまり脂肪酸エステル)が好ましい。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0063】
脂肪酸金属塩として、たとえばステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、モンタン酸といった炭素数12~40の脂肪酸の金属塩を挙げることができる。なかでも、炭素数22~30の脂肪族カルボン酸の金属塩が好ましい。とりわけ、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が離型性の点でより好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属として、たとえば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムを挙げることができる。
【0064】
脂肪酸エステル系化合物として高級脂肪酸エステル系化合物を挙げることができる。高級脂肪酸エステル系化合物として、たとえばミリシルパルミテートを主成分とする混合物、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを挙げることができる。
【0065】
本実施形態のポリアミド組成物において、離型剤の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。0.01質量%以上であると、ポリアミド組成物を金型に射出した際、ポリアミド組成物の金型へのはりつきや、離型に成形品の表面に生じうるシワを防止することができる。いっぽう、離型剤の含有量は1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0066】
<1.6.ほかの添加剤など>
本実施形態のポリアミド組成物は、たとえば、カーボンブラック、銅酸化物、ハロゲン化アルカリ金属、光安定剤、熱安定剤、結晶核剤、帯電防止剤、顔料、染料、カップリング剤、軽焼マグネシアなどを含んでいてもよい。もちろん、本実施形態のポリアミド組成物は、ポリアミド以外の樹脂を含んでいてもよい。
【0067】
本実施形態のポリアミド組成物において、繊維状無機強化材および焼結体の合計含有量は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、58質量%以上がさらに好ましい。いっぽう、繊維状無機強化材および焼結体の合計含有量は、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、62質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
<1.7.物性>
本実施形態のポリアミド組成物の曲げ強さは高いほど好ましい。曲げ強さは120MPa以上が好ましく、150MPa以上がより好ましく、160MPa以上がさらに好ましく、170MPa以上がさらに好ましい。曲げ強さは、230MPa以下であってもよく、220MPa以下であってもよく、215MPa以下であってもよい。なお、ポリアミド組成物の曲げ強さは、ポリアミド組成物を用いて試験片を作製したうえで測定される値である。具体的には、ポリアミド組成物の曲げ強さは、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0069】
本実施形態のポリアミド組成物の熱伝導率は高いほど好ましい。熱伝導率は0.60W/m・K以上が好ましく、0.65W/m・K以上がより好ましく、0.70W/m・K以上がさらに好ましい。ポリアミド組成物の熱伝導率は、1.20W/m・K以下であってもよく、1.10W/m・K以下であってもよく、1.00W/m・K以下であってもよい。なお、ポリアミド組成物の熱伝導率は、ポリアミド組成物を用いて円板状サンプルを作製したうえで測定される値である。具体的には、ポリアミド組成物の熱伝導率は、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0070】
本実施形態のポリアミド組成物は、高湿度処理したときの引張強さの保持率が高いほど好ましい。具体的には、ポリアミド組成物を用いて作製した試験片、すなわちポリアミド組成物試験片を80℃、相対湿度95%RHの環境下で168時間静置したとき(すなわち、高湿度処理をおこなったとき)の引張強さの保持率が高いほど好ましい。なぜなら、引張強さの保持率が高いほど、ポリアミド組成物を用いた成形品が高湿環境に晒された際の剛性低下や脆化を抑制できるためである。ここで、引張強さの保持率は、次の式で算出される。
引張強さの保持率=(高湿度処理されたポリアミド組成物試験片の引張強さ/高湿度処理されなかったポリアミド組成物試験片の引張強さ)×100
引張強さの保持率は40%以上が好ましく、42%以上がより好ましく、45%以上がさらに好ましい。引張強さの保持率は60%以下であってもよく、55%以下であってもよく、52%以下であってもよく、50%以下であってもよい。なお、引張強さの保持率は、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0071】
<1.8.製造方法や用途>
本実施形態のポリアミド組成物は、少なくともポリアミドと、繊維状無機強化材と、酸化マグネシウムを含む焼結体とを混練装置で混練することによって製造することができる。混練のために、押出機(たとえば単軸押出機、二軸押出機)、加圧ニーダーなどを使用することができる。なかでも押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましい。混練温度としては220℃~300℃を挙げることができる。混練時間は、たとえば2分~15分程度であることができる。
【0072】
たとえば、本実施形態のポリアミド組成物は、少なくともポリアミドと、繊維状無機強化材と、酸化マグネシウムを含む焼結体とを二軸押出機で溶融混練したうえでストランドを押し出し、必要に応じてストランドを冷却し、必要に応じてストランドを切断する方法によって製造することができる。
【0073】
本実施形態のポリアミド組成物の形状は適宜設定できる。本実施形態のポリアミド組成物は、たとえばペレット状であってもよく、ストランド状であってもよく、粉末状であってもよく、任意の形状に成形されていてもよい。なかでもペレット状が好ましい。
【0074】
本実施形態のポリアミド組成物は、さまざまな成形品の原料として使用することができる。なかでも、高い熱伝導性が求められる電気・電子部品や、自動車部品(たとえば電気自動車部品)、工業用部品などの原料として好適に使用することができる。そのような部品として、たとえばランプソケット、電装部品、ヒートシンク、半導体パッケージ用部品、冷却ファン用部品、コネクタ、スイッチ、ケースハウジング、バッテリーケース周辺に用いられる部品、バッテリーケース内部に用いられる部品を挙げることができる。とりわけ、高いジュール熱を発生する電気電子部品(たとえばバッテリー)の周辺部品(たとえば、バッテリーケース周辺に用いられる部品、バッテリーケース内部に用いられる部品)の製造のために好適に使用することができる。
【0075】
<2.成形品>
本実施形態の成形品は、上述した本実施形態のポリアミド組成物を成形することによって得ることができる。つまり、本実施形態の成形品は、上述した本実施形態のポリアミド組成物から得ることができる。成形方法として、たとえば、射出成形、押出し成形、ブロー成形などを挙げることができる。なかでも射出成形が好ましい。
【実施例0076】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0077】
<1.原料>
次に示す原料を使用した。
<1.1.ポリアミド>
A1・・・・MEIDA社製の「M2000」(ポリアミド6、相対粘度2.0、融点225℃)
A2・・・・集盛社製の「ZISAMIDE TP4208」(ポリアミド6、相対粘度2.5、融点225℃)
A3・・・・集盛社製の「ZISAMIDE TP6603」(ポリアミド6、相対粘度3.6、融点225℃)
【0078】
<1.2.繊維状無機強化材>
B1・・・・重慶国際複合材料有限公司(CPIC社)製の「ECS301HP-3-H」(ガラス繊維)
B2・・・・日本ポリマー産業株式会社製の「CFUW-MC」(炭素繊維)
【0079】
<1.3.熱伝導性無機フィラー>
C1・・・・宇部マテリアルズ株式会社製の「RF-50-AC」(表面処理された粒径50μmの酸化マグネシウム焼結体。この焼結体は、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化ケイ素を含む。)
C2・・・・表面処理された粒径100μmの酸化マグネシウム焼結体(詳細は後述する。)
C3・・・・表面処理された粒径10μmの酸化マグネシウム焼結体(詳細は後述する。)
C4・・・・神島化学株式会社製の「スターマグP」(粒径10μmの軽焼マグネシア。表面処理なし)
C5・・・・粒径70μmの酸化マグネシウム焼結体(詳細は後述する。)
C6・・・・表面処理された粒径50μmの軽焼マグネシア(詳細は後述する。)
【0080】
熱伝導性無機フィラーC2
特許第5993824号に従って製造された、粒径100μmの酸化マグネシウム焼結体(この焼結体は、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化ケイ素を含む。)に、熱伝導性無機フィラーC1(すなわち「RF-50-AC」)と同じ表面処理がおこなわれた熱伝導性無機フィラー。
【0081】
熱伝導性無機フィラーC3
特許第5993824号に従って製造された、粒径10μmの酸化マグネシウム焼結体(この焼結体は、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化ケイ素を含む。)に、熱伝導性無機フィラーC1(すなわち「RF-50-AC」)と同じ表面処理がおこなわれた熱伝導性無機フィラー。
【0082】
熱伝導性無機フィラーC5
特許第5993824号に従って製造された、粒径70μmの酸化マグネシウム焼結体(この焼結体は、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化ケイ素を含む。)。
【0083】
熱伝導性無機フィラーC6
熱伝導性無機フィラーC1(すなわち「RF-50-AC」)と同じ表面処理がおこなわれた、粒径50μmの軽焼マグネシア。
【0084】
<1.4.酸化防止剤>
D・・・・BASF社製の「SONGNOX2450」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
【0085】
<1.5.離型剤>
E1・・・・クラリアントジャパン株式会社製の「リコルブ WE-40」(脂肪族エステル)
E2・・・・淡南化学工業株式会社製の「N.P.1500-S」(ステアリン酸マグネシウム)
【0086】
<2.ペレットの作製>
表1および2に記載の配合割合に従って各原料を計量しタンブラーで混合したうえで、二軸押出機に投入し、ペレットを得た。二軸押出機の設定温度は250℃~300℃、混錬時間は5分~10分であった。
【0087】
<3.評価方法>
<3.1.ポリアミドの相対粘度(98%硫酸溶液法)>
ウベローデ粘度管を用い、JIS K6920-2:2009に従って98%硫酸を用いて、ポリアミド1g/dL、25℃で相対粘度を測定した。
【0088】
<3.2.ポリアミドの融点>
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製の「EXSTAR 6000」)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、吸熱ピーク温度を求めた。
【0089】
<3.3.曲げ強さ>
ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の射出成形機で、JIS K 7139:2009のA1に規定された形状の試験片を成形した。この試験片について、ISO178:2010に準拠して曲げ試験をおこない、曲げ強さ(すなわち、曲げ試験中,試験片が耐える最大曲げ応力)を測定した。曲げ試験は、支点間距離64mm、試験速度2mm/minで試験中にひずみ速度を変更しないA法でおこなった。
【0090】
<3.4.熱伝導率>
ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度90℃の射出成形機で、厚み2mm、長さ100mm、幅100mmの平板成形品に成形した。平板成形品の中央部を、幅10mm程度の円板状に切削した。円板状サンプルについて、熱拡散係数や密度、比熱を測定した。熱拡散係数は、ASTM E1461に準拠したレーザーフラッシュ法で測定した。密度は、ISO 1183:1987に準拠した水中置換法で測定した。比熱は、JIS K 7123:1987に準拠した方法で測定した。そのうえで、熱伝導率を次の式で算出した。
【数1】
【0091】
<3.5.引張強さの保持率>
ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の射出成形機で、JIS K 7139:2009のA1に規定された形状の試験片を成形した。この試験片を、80℃、相対湿度95%RHの環境下で168時間静置した。つまり、この試験片に高湿度処理をおこなった。そのうえでISO527-1:2012に準拠して引張試験をおこない、引張強さ(すなわち、引張試験中に観察される最初の最大応力)を求めた。引張試験は、室温下、試験速度5mm/分、つかみ具間距離115mmでおこなった。高湿度処理をおこなわなかった試験片についても引張試験をおこない、引張強さを求めた。そのうえで、引張強さの保持率を次の式で求めた。
引張強さの保持率=(高湿度処理された試験片の引張強さ/高湿度処理されなかった試験片の引張強さ)×100
なお、すべての実施例および比較例において、高湿度処理された試験片も、高湿度処理されなかった試験片も、降伏前に破断することはなかった。
【0092】
<4.結果>
結果を含む表を次に示す。
【表1】
【表2】
【0093】
熱伝導性無機フィラーC3(すなわち、表面処理された粒径10μmの酸化マグネシウム焼結体)を用いた場合、熱伝導性無機フィラーC4(すなわち、表面処理なしの粒径10μmの軽焼マグネシア)を用いた場合に比べて、引張強さの保持率や、曲げ強さ、熱伝導率が優れていた(実施例6および比較例1参照)。
【0094】
熱伝導性無機フィラーC1(すなわち、表面処理された粒径50μmの酸化マグネシウム焼結体)を用いた場合、熱伝導性無機フィラーC6(すなわち、表面処理された粒径50μmの軽焼マグネシア)を用いた場合に比べて、引張強さの保持率や、曲げ強さ、熱伝導率が優れていた(実施例1および比較例6参照)。
【0095】
熱伝導性無機フィラーC1、C2、C3を用いた場合、熱伝導性無機フィラーC5(すなわち、表面処理なしの粒径70μmの酸化マグネシウム焼結体)を用いた場合に比べて、引張強さの保持率や、曲げ強さ、熱伝導率が優れていた(実施例1、5および6と、比較例5とを参照)。
【0096】
熱伝導性無機フィラーC1、C2、C3について、粒径が小さいほど、曲げ強さ、および熱伝導率が優れていた(実施例1、5および6参照)。いっぽう、粒径が小さいほど、引張強さの保持率が低かった(実施例1、5および6参照)。
【0097】
繊維状無機強化材が多いほど、曲げ強さが優れていた(実施例1、10および12参照)。
【0098】
ポリアミドの相対粘度が高いほど、曲げ強さが優れていたものの、熱伝導率は低かった(実施例1、2および3参照)。