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特開2024-93204粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093204
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネント
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/04 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
H05H13/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209420
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】荒川 慶彦
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085BA08
2G085BA14
2G085BA15
2G085BC03
2G085BC06
2G085BE02
(57)【要約】
【課題】荷電粒子線の軌道に対するマグネティックチャンネルの位置精度を向上させる粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネントを提供する。
【解決手段】サイクロトロン1は、ディ電極5Aと、ディ電極5Aを冷却する第1冷却管61と、ディ電極5Aの電場で加速された荷電粒子が通過するマグネティックチャンネル9Aを支持し第1冷却管61から離れて配置される支持板31と、支持板31を冷却する第2冷却管62と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディ電極と、
前記ディ電極を冷却する第1冷却管と、
前記ディ電極の電場で加速された荷電粒子が通過するマグネティックチャンネルを支持し前記第1冷却管から離れて配置される支持部材と、
前記支持部材を冷却する第2冷却管と、を備える、粒子加速器。
【請求項2】
前記第2冷却管は、前記第1冷却管から分岐されている、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項3】
前記第1冷却管と前記第2冷却管との分岐部分が前記ディ電極上に配置される、請求項2に記載の粒子加速器。
【請求項4】
前記第2冷却管は可撓性を有する、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項5】
前記第1冷却管が前記支持部材と前記ディ電極との間を通過する、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項6】
メディアンプレーンに直交する方向から見て、前記第2冷却管が、前記第1冷却管の環状軌道の内周側の領域に位置している、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項7】
前記第1冷却管は前記第2冷却管よりも太径である、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項8】
前記マグネティックチャンネルと前記支持部材とを含み前記ディ電極に取付けられるマグネティックチャンネルユニットを備える、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項9】
前記マグネティックチャンネルユニットは、スペーサを介して前記ディ電極に取付けられる、請求項8に記載の粒子加速器。
【請求項10】
ディ電極を冷却する第1冷却管と、
前記ディ電極の電場で加速された荷電粒子が通過するマグネティックチャンネルを支持し前記第1冷却管から離れて配置される支持部材と、
前記支持部材を冷却する第2冷却管と、を備える、粒子加速器用コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の加速器が知られている。この加速器は、加速された荷電粒子を外に曲げるとともに収束させる機能を有するマグネティックチャンネルを備えている。このマグネティックチャンネルは、湾曲しながら周方向に延伸する内側磁性部材と、内側磁性部材よりも外周側に配置され内側磁性部材と同様に湾曲するように延伸する外側磁性部材と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-175682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなマグネティックチャンネルは、内側磁性部材と外側磁性部材との間の導入ギャップに荷電粒子線を通過させ、当該導入ギャップの磁場によって荷電粒子線の偏向及び収束を行なうものである。従って、例えばマグネティックチャンネルの部品の熱変形等によってマグネティックチャンネルの位置が荷電粒子線の軌道に対してずれると、荷電粒子線の軌道と磁場との位置関係がずれ、加速器からの荷電粒子線の安定した引出しが出来なくなる虞がある。なお、引用文献1には、マグネティックチャンネルを支持する支持板に冷却媒体の流路が形成される旨が記載されているが、その詳細については検討されていない。このような問題に鑑み、本発明は、荷電粒子線の軌道に対するマグネティックチャンネルの位置精度を向上させる粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
〔1〕 ディ電極と、前記ディ電極を冷却する第1冷却管と、前記ディ電極の電場で加速された荷電粒子が通過するマグネティックチャンネルを支持し前記第1冷却管から離れて配置される支持部材と、前記支持部材を冷却する第2冷却管と、を備える、粒子加速器。
【0007】
〔2〕 前記第2冷却管は、前記第1冷却管から分岐されている、〔1〕に記載の粒子加速器。
【0008】
〔3〕 前記第1冷却管と前記第2冷却管との分岐部分が前記ディ電極上に配置される、〔1〕又は〔2〕に記載の粒子加速器。
【0009】
〔4〕 前記第2冷却管は可撓性を有する、〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の粒子加速器。
【0010】
〔5〕 前記第1冷却管が前記支持部材と前記ディ電極との間を通過する、〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の粒子加速器。
【0011】
〔6〕 メディアンプレーンに直交する方向から見て、前記第2冷却管が、前記第1冷却管の環状軌道の内周側の領域に位置している、〔1〕~〔5〕の何れか1項に記載の粒子加速器。
【0012】
〔7〕 前記第1冷却管は前記第2冷却管よりも太径である、〔1〕~〔6〕の何れか1項に記載の粒子加速器。
【0013】
〔8〕 前記マグネティックチャンネルと前記支持部材とを含み前記ディ電極に取付けられるマグネティックチャンネルユニットを備える、〔1〕~〔7〕の何れか1項記載の粒子加速器。
【0014】
〔9〕 前記マグネティックチャンネルユニットは、スペーサを介して前記ディ電極に取付けられる、〔1〕~〔8〕の何れか1項に記載の粒子加速器。
【0015】
〔10〕 ディ電極を冷却する第1冷却管と、前記ディ電極の電場で加速された荷電粒子が通過するマグネティックチャンネルを支持し前記第1冷却管から離れて配置される支持部材と、前記支持部材を冷却する第2冷却管と、を備える、粒子加速器用コンポーネント。
【0016】
〔11〕 ディ電極に設けられる第1冷却管と、前記ディ電極に取付けられ荷電粒子が通過するマグネティックチャンネルユニットに設けられる第2冷却管と、前記第1冷却管と前記第2冷却管とを分岐させる分岐部分と、を備える、粒子加速器用コンポーネント。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、荷電粒子線の軌道に対するマグネティックチャンネルの位置精度を向上させる粒子加速器及び粒子加速器用コンポーネントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るサイクロトロンの内部の平面図である。
図2図1のサイクロトロンが備える一対の磁極の模式図である。
図3】ディ電極の外周側の端部を示す平面図である。
図4】マグネティックチャンネルの斜視図である。
図5】マグネティックチャンネルの平面図である。
図6図3に示すVI-VI線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る粒子加速器及び当該粒子加速器用のコンポーネントの実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態におけるサイクロトロン1(粒子加速器)では、荷電粒子の螺旋状の周回軌道Bが水平面上にあるものとする。なお、本発明のサイクロトロンは、周回軌道Bが鉛直面上にあるように配置してもよい。
【0020】
図1に示されるように、サイクロトロン1は、真空容器3、ディ電極5A,5B、マグネティックチャンネル9、及び静電デフレクタ90を有する。真空容器3は、荷電粒子の加速空間を高真空状態に保持するための容器である。真空容器3内には、粒子加速に必要な磁場を形成するための一対の磁極21,23(図2参照)が設けられている。図2は、磁極21,23のみを模式的に示す斜視図である。磁極21,23は、平面視で円形をなし、加速平面であるメディアンプレーン27(図6参照)に対して上下面対称の形状を成している。また、磁極21,23は、荷電粒子の周回軌道Bを挟んで、上下方向(図1の紙面に直交する方向)に対面して配置されている。磁極21,23のそれぞれの周囲にコイルが配置され、磁極21と磁極23との間に磁場が発生される。図に示されるように、磁極21,23は円柱状をなしている。以下で用いる「径方向」及び「周方向」との文言は、図1の方向から見た磁極21,23の輪郭形状である円の径方向及び周方向を意味するものとする。
【0021】
磁極21の上面には、螺旋状に湾曲した4つの凸部21aと、4つの凹部21bとが、周方向に交互に配列され形成されている。そして、磁極23の下面にも、螺旋状に湾曲した4つの凸部23aと、4つの凹部23bとが、周方向に交互に配列され形成されている。凸部21aと凸部23a、凹部21bと凹部23bは、互いにメディアンプレーン27に対して面対称をなすようにギャップをあけて配置されている。なお、ここで磁極21,23の凸部21a,23aとは、メディアンプレーン27に向けて突出している部分であり、凹部21b,23bとは、メディアンプレーン27から離れるように凹んでいる部分である。
【0022】
メディアンプレーン27とは、荷電粒子ビームが加速して進行する周回軌道Bが位置する平面である。厳密には、荷電粒子ビームは、磁極21,23が対向する方向(図3における上下方向)に振動しながら進行するので、振動する荷電粒子ビームの、磁極21,23が対向する方向の位置のおよそ中央値を取った平面がメディアンプレーン27となる。なお、凸部21a,23a及び凹部21b,23bの形状は、上記のような螺旋状に湾曲した形状に限られず、扇形であってもよい。
【0023】
磁極21と磁極23との間には、凸部21aと凸部23aとで挟まれた狭いギャップのヒル領域25hと、凹部21bと凹部23bとで挟まれた広いギャップのバレー領域25vとが形成されている。磁極21,23との対称面上に、荷電粒子の螺旋状の周回軌道Bが形成される。
【0024】
ディ電極5A,5Bは、真空容器3の内部で荷電粒子を加速するための電場を発生させる電極である。ディ電極5A,5Bは、両方ともバレー領域25vに配置され、互いに径方向に対向するように配置されている。ディ電極5A,5Bは、平面視でバレー領域25vの形状に沿った形状に形成されている。磁極21の中心部には、サイクロトロン1の外部又は内部に設けられたイオン源(図示せず)から送られてきた荷電粒子を偏向して、メディアンプレーン上に送るインフレクタ11が配置される。ただし、内部イオン源の場合、メディアンプレーン上に荷電粒子が出るため、インフレクタ11は設けられない。
【0025】
静電デフレクタ90は、磁場中で周回軌道Bを周回する荷電粒子を偏向させて、引出軌道に引き出す機能を有する。マグネティックチャンネル9は、静電デフレクタ90で引き出された荷電粒子を更に外に曲げる機能と、荷電粒子を水平方向に収束する機能を有している。マグネティックチャンネル9として、二つのマグネティックチャンネル9A、及びマグネティックチャンネル9Bが設けられている。
【0026】
マグネティックチャンネル9Aは、ディ電極5Aの内部に設けられる。マグネティックチャンネル9Aは、ディ電極5Aの外周側の端部に設けられており、周回軌道Bの最外周部に対応する位置に設けられている。マグネティックチャンネル9Aは、静電デフレクタ90で引き出された荷電粒子を更に外に曲げる機能と、荷電粒子を水平方向に収束する機能の両方を有している。マグネティックチャンネル9Bは、荷電粒子の周回軌道Bにおいて、マグネティックチャンネル9Aから下流側へ離間して設けられている。マグネティックチャンネル9Bは、平面視において磁極21,23の外側に設けられる。マグネティックチャンネル9Bは、真空容器3の壁部内に配置される。マグネティックチャンネル9Bは、荷電粒子を水平方向に収束する機能を有する。
【0027】
サイクロトロン1では、磁極21と磁極23との間に磁場を発生させると共に、ディ電極5A,5Bに高周波電圧が付与されることで、荷電粒子が、加速されつつ、メディアンプレーン上の螺旋状の周回軌道Bを進行する。径方向の外周側に達した荷電粒子は、静電デフレクタ90で周回軌道から分けられ、マグネティックチャンネル9Aの導入ギャップを通過することで、偏向と収束を繰り返し、更にマグネティックチャンネル9Bの導入ギャップを通過することで収束されながら、ビーム引出ダクトを通じて外部に引き出される。
【0028】
図3図6を参照しマグネティックチャンネル9Aの近傍の構成について説明する。図3は、下側のディ電極5Aの外周側の端部を示す平面図である。図3では、上下方向に対向する一対のディ電極5Aのうち、上側のディ電極5Aが省略されている。図3に示される下側のディ電極5Aの外周側の端部は、サイクロトロン1のメンテナンス時などに、磁極23や上側のディ電極5A等を開いたときに露出する。図4は、マグネティックチャンネル9Aの斜視図であり、図5は、マグネティックチャンネル9Aの平面図である。図6は、図3におけるVI-VI断面図である。
【0029】
図3及び図6に示すように、ディ電極5Aの外周側の端部には、複数のスペーサ6を介して、マグネティックチャンネル9Aを含むマグネティックチャンネルユニット10が取付けられている。スペーサ6の材料としては、熱伝導性が低い材料(例えばSUS)が採用されることが好ましい。マグネティックチャンネルユニット10は、マグネティックチャンネル9Aと、当該マグネティックチャンネル9Aを支持する支持構造30と、を備えている。マグネティックチャンネル9Aは、支持構造30の支持板31(支持部材)を介してディ電極5Aに設けられているとも言える。このように、マグネティックチャンネル9Aがディ電極5A上に設けられる構造は、サイクロトロン1の小型化に寄与する。
【0030】
支持構造30は、メディアンプレーン27を挟んで上下方向に対向する一対の支持板31,32を備えている。支持構造30は、支持板31,32同士の間にマグネティックチャンネル9Aを支持している。支持板31,32は例えば銅からなる。支持板31,32は、ディ電極5Aの外周側の端部において、周方向に沿って延びるように延伸している。下側の支持板31は、上側の支持板32よりも径方向幅が広く、支持板32よりも径方向内側に張出している。図6に示すように、支持板31,32は、後述の内周側磁性部材40の第2の壁部42A,42Bをそれぞれ支持し、且つ、外周側磁性部材50の高さ方向の両端部を支持する。なお、第2の壁部42A,42Bは、押さえ板33によって、支持板31,32に留め付けられている。
【0031】
図4に示すように、マグネティックチャンネル9Aは、内周側磁性部材40と、外周側磁性部材50と、を備える。内周側磁性部材40は、周方向に沿って湾曲しながら延伸する部材である。外周側磁性部材50は、内周側磁性部材40よりも径方向の外周側に配置され、湾曲形状における周方向に沿って湾曲するように延伸する部材である。外周側磁性部材50は、内周側磁性部材40に対して径方向に隙間を空けて配置される。内周側磁性部材40及び外周側磁性部材50の湾曲形状に対する中心位置は、サイクロトロン1の中心位置とは異なる位置に設定される。内周側磁性部材40及び外周側磁性部材50は、例えば、純鉄、コバルト鉄などの磁性材料によって構成される。
【0032】
内周側磁性部材40は、第1の壁部41と、一対の第2の壁部42A,42Bと、を備えた断面コ字状の部材である。第1の壁部41は、周方向及び高さ方向に広がる。第1の壁部41の断面形状は、高さ方向に直線状に延伸する長方形の形状を有する。第1の壁部41は、当該断面形状を維持した状態で周方向へ延伸する。第2の壁部42A,42Bは、第1の壁部41の高さ方向における両端から、径方向における内周側及び周方向へ広がり、内周側へ向かうに従って徐々に厚みが薄くなるように構成されている。第2の壁部42Aと第2の壁部42Bとは、平面視において同形状となっている。第2の壁部42A,42Bは、周回軌道Bの上流側の端部から下流側の端部へ向かうに従って、徐々に径方向の寸法が小さくなるように形成されている。
【0033】
外周側磁性部材50は、高さ方向及び周方向に広がる板状部材によって構成され、内周側磁性部材40の第1の壁部41と平行に延びている。外周側磁性部材50の高さ方向の中央部には、所定のピッチで矩形の貫通部53が形成される。貫通部53は、板状部材である外周側磁性部材50を径方向に貫通する。このような外周側磁性部材50は、高さ方向の両端側において周方向に細長く延伸する延伸部51A,51Bと、延伸部51A,51B同士を上下に連結する複数の連結部52と、を有する梯子状の形状をなすと言うこともできる。
【0034】
内周側磁性部材40の第1の壁部41と外周側磁性部材50との径方向の間隙が、荷電粒子を通過させる導入ギャップ49である。外周側磁性部材50に交互に存在する貫通部53と連結部52とに対応して、導入ギャップ49には、偏向タイプのマグネティックチャンネルと、収束タイプのマグネティックチャンネルと、が交互に繰返し形成される。すなわち、マグネティックチャンネル9Aは、荷電粒子を外周側に偏向させる偏向タイプ(Deflection type)のマグネティックチャンネルと、荷電粒子を収束させる収束タイプ(Radial forcusing type)のマグネティックチャンネルと、を一部品の中で有することとなる。従って、導入ギャップ49に入り込んだ荷電粒子に対して、外周側への偏向と、水平方向の収束とが交互に繰り返し行われる。
【0035】
続いて、ディ電極5Aを冷却するとともに、マグネティックチャンネル9Aを冷却する冷却部60について説明する。
【0036】
ディ電極5Aには荷電粒子を加速するための高周波数の電流が流れるので、ディ電極5Aの発熱量は大きい。また、マグネティックチャンネル9Aでは金属部品(内周側磁性部材40及び外周側磁性部材50)の直近を荷電粒子線が通過するので、荷電粒子の一部が金属部品に当たるなどしてマグネティックチャンネル9Aも発熱する。ディ電極5A及びマグネティックチャンネル9Aが高温になり熱変形すると、マグネティックチャンネル9Aの導入ギャップ49の位置がずれることで、サイクロトロン1からの荷電粒子線の安定した引出しが出来なくなる虞がある。そこで、ディ電極5A及びマグネティックチャンネル9Aの温度を一定に抑えるために、サイクロトロン1には冷却部60が設けられ、冷却部60がディ電極5Aを冷却するとともに、マグネティックチャンネル9Aを冷却する。
【0037】
図3及び図6に示されるように、冷却部60は、下側のディ電極5Aの外周側の端部に配置されている。冷却部60は、ディ電極5Aを冷却する第1冷却管61と、マグネティックチャンネル9Aを冷却する第2冷却管62と、を備えている。なお、第2冷却管62は、マグネティックチャンネルユニット10の下側の支持板31を冷却することで、間接的にマグネティックチャンネル9Aを冷却する。また、冷却部60は、給水口63及び排水口65を備えている、冷却部60は、外部から給水口63を通じて供給される冷却水を第1冷却管61及び第2冷却管62に循環させた後、排水口65を通じて外部に排出する。また、冷却部60は、第1冷却管61と第2冷却管62とを分岐/合流させる分岐部67を備えている。分岐部67はディ電極5Aの上面に設けられた部品であり、分岐部67には、第1冷却管61と第2冷却管62との分岐部分69及び合流部分71を含む流路と、給水口63及び排水口65と、が形成されている。第1冷却管61と、第2冷却管62と、はそれぞれ、分岐部67から環状に延び出している。
【0038】
第1冷却管61は、給水口63から排水口65まで冷却水を流動させる金属管(例えば銅管)であり、支持板31とディ電極5Aとの間を通過している。第1冷却管61は、ディ電極5Aの上面に設けられた溝内に埋め込まれ半田付けで固定されている。図6に示されるように、第1冷却管61は、スペーサ6,6同士の間の位置でディ電極5Aの上面よりも低い位置に配置されているので、第1冷却管61と支持板31とは直接接触せず離れて位置している。第1冷却管61は、支持板31とディ電極5Aとの間に位置しているとも言える。
【0039】
第2冷却管62は第1冷却管61から分岐して冷却水を流動させる金属管(例えば銅管)であり、第2冷却管62の一部は支持板31の上面に設けられた溝内に埋め込まれ半田付けで固定されている。第2冷却管62は、給水口63の直ぐ下流で第1冷却管61から分岐し、配水管の直ぐ上流で第1冷却管61に合流している。第1冷却管61は第2冷却管62よりも太径に設けられている。
【0040】
メディアンプレーン27に直交する方向から見た(図3のように見た)第1冷却管61及び第2冷却管62の形状について説明する。ディ電極5Aのうち最も高温になり易いのは、当該ディ電極5Aの縁部である。従って、第1冷却管61は、ディ電極5Aの縁部を冷却すべく、ディ電極5Aの縁部に近い位置を通る軌道で環状に形成されている。第1冷却管61は、マグネティックチャンネルユニット10の直下を通過している。
【0041】
第2冷却管62は、メディアンプレーン27に直交する方向から見て、第1冷却管61の環状軌道の内周側の領域に位置している。当該領域内において、第2冷却管62の一部分は直線的に延在しており前述の通り支持板31の上面の溝に固定されている。第2冷却管62を埋め込む溝は、支持板31のうち、支持板32よりも径方向内側に張出した部分に形成されている。第2冷却管62のうち上記溝よりも上流側の部分と下流側の部分は、それぞれ、メディアンプレーン27に平行な面内においてS字状に湾曲している。このようなS字状の部位を備えることで、第2冷却管62は可撓性を有する。すなわち、金属管である第2冷却管62は分岐部67を支点として弾性的に撓むことができる。
【0042】
分岐部67において、第2冷却管62における分岐部分69の直ぐ下流側と、合流部分71の直ぐ上流側と、には、流路径が絞られたオリフィス部73が形成されている。このオリフィス部73の圧力損失に起因して、第1冷却管61と第2冷却管62との冷却水の流量が適切に配分され、ディ電極5Aとマグネティックチャンネル9Aとがそれぞれ適切に冷却される。
【0043】
一般的なサイクロトロンのディ電極とマグネティックチャンネルとの発熱量の比を考慮すれば、第2冷却管62との冷却水の流量は、第1冷却管61の1/2以下とすることが好ましく、従って、第2冷却管62は第1冷却管61よりも細径に設けられることが好ましい。ここでは、ディ電極5Aの発熱量とマグネティックチャンネル9Aの発熱量との比に基づいてオリフィス部73のサイズが設定され、第1冷却管61と第2冷却管62との冷却水の流量の比が例えば8:1とされる。なお、ディ電極5Aとマグネティックチャンネルユニット10との間にはスペーサ6によって間隙が形成されているので、ディ電極5Aとマグネティックチャンネルユニット10との間の熱交換は抑制されている。
【0044】
本実施形態の粒子加速器用コンポーネント13(図3)は、サイクロトロン1の一部をなすコンポーネントである。例えば、粒子加速器用コンポーネント13の一部が破損した場合には、当該コンポーネントごと交換することができる。粒子加速器用コンポーネント13は互いに分岐された第1冷却管61及び第2冷却管62を備えている。粒子加速器用コンポーネント13には分岐部67が含まれてもよい。また、粒子加速器用コンポーネント13には、支持板31が含まれてもよく、マグネティックチャンネルユニット10が含まれてもよく、スペーサ6が含まれてもよく、下側のディ電極5Aが含まれてもよい。
【0045】
続いて、粒子加速器用コンポーネント13を備えるサイクロトロン1による作用効果について説明する。
【0046】
サイクロトロン1においては、第1冷却管61によってディ電極5Aが冷却され、ディ電極5Aの熱変形が抑えられる。そうすると、ディ電極5Aに取付けられたマグネティックチャンネルユニット10の位置が、上記の熱変形に起因してずれることが抑制される。更に、第2冷却管62によってマグネティックチャンネルユニット10の支持板31が冷却され、ひいてはマグネティックチャンネル9Aの部品(内周側磁性部材40及び外周側磁性部材50)が冷却される。従って、マグネティックチャンネル9A自体の熱変形による位置ずれも抑制される。その結果、荷電粒子線の軌道に対するマグネティックチャンネル9Aの位置精度が向上する。そして、サイクロトロン1からの荷電粒子線の安定した引出しが可能になり、荷電粒子線の引出し調整の作業負担が軽減される。
【0047】
また、第1冷却管61が支持板31とディ電極5Aとの間を通過し、第1冷却管61の一部が支持板31とディ電極5Aとの間に位置している。このように、第1冷却管61がマグネティックチャンネルユニット10の近傍に配置されているので、ディ電極5Aのうちマグネティックチャンネルユニット10の取付け箇所に近い部位が効率良く冷却され、当該部位の熱変形に起因するマグネティックチャンネル9Aの位置ずれが効率良く抑制される。
【0048】
また、メディアンプレーン27に直交する方向から見て、第1冷却管61がディ電極5Aの縁部に近い位置を通る軌道で環状に形成されているので、ディ電極5Aのうち最も高温になり易い縁部を冷却することができる。また、この第1冷却管61の環状軌道の内周側の領域に第2冷却管62が配置されることで、第2冷却管62の設置スペースをコンパクトにすることができる。
【0049】
また、マグネティックチャンネルユニット10が、スペーサ6を介して、ディ電極5Aとの間に隙間をあけて取付けられている。この構成によれば、マグネティックチャンネルユニット10とディ電極5Aとの熱交換が抑えられ、比較的高温になり易いディ電極5Aの熱がマグネティックチャンネルユニット10に流入することが抑えられる。従って、第2冷却管62の冷却能力を過剰に高める必要はなく、第2冷却管62の太さを細くすることができる。また、第2冷却管62を細くすることは、前述したような第2冷却管62の可撓性の確保に寄与する。
【0050】
ディ電極5Aは比較的大きい部品であり設置精度もマグネティックチャンネルユニット10に比べて粗いところ、マグネティックチャンネルユニット10の取付時には、別治具を用いて、マグネティックチャンネル9Aが荷電粒子線の軌道に合わせて高精度に位置調整される。この位置調整は、スペーサ6の位置や高さ等の微調整により実行される。位置調整は、第2冷却管62が分岐部67及びマグネティックチャンネルユニット10に既に固定された状態で実行することもできる。位置調整によってマグネティックチャンネルユニット10と分岐部67との位置関係が変動し得るが、前述したように第2冷却管62は可撓性を有するので、第2冷却管62の撓みによりマグネティックチャンネルユニット10と分岐部67との位置関係の変動が吸収される。
【0051】
或いは、上記位置調整の後に第2冷却管62が取付けられてもよい。この場合、マグネティックチャンネルユニット10と分岐部67との位置関係に合わせて、第2冷却管62を撓ませて設置することができる。このように、第2冷却管62が可撓性を有することにより、マグネティックチャンネルユニット10の位置調整を円滑に行なうことができる。また、サイクロトロン1の運転中の熱変形等でマグネティックチャンネルユニット10と分岐部67との位置関係が変動したとしても、この変動が第2冷却管62の撓みにより吸収される。
【0052】
また、冷却部60では、第2冷却管62が第1冷却管61から分岐されている。この構成によれば、ディ電極5Aの外周側の端部の狭い範囲内に、ディ電極5Aを冷却するための第1冷却管61と、マグネティックチャンネル9Aを冷却するための第2冷却管62と、を構築することができる。また、第1冷却管61と第2冷却管62との分岐部67はディ電極5A上に配置される。この構成によれば、外部からディ電極5A上を通過して分岐部67の給水口63及び排水口65まで延びる冷却水配管を、上り/下りで1本ずつ設ければ済むので、冷却水配管をシンプルにすることができ、当該冷却水配管用の設置スペースを小さくすることができる。例えば、ディ電極5Aを支持する支柱の内部に上記冷却水配管を通すこともできる。
【0053】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…サイクロトロン(加速器)、5A…ディ電極、6…スペーサ、9A…マグネティックチャンネル、10…マグネティックチャンネルユニット、13…粒子加速器用コンポーネント、27…メディアンプレーン、31…支持板(支持部材)、61…第1冷却管、62…第2冷却管、67…分岐部、69…分岐部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6