(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093236
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/068 20060101AFI20240702BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209477
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522503632
【氏名又は名称】豪雅光電科技(威海)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 恵太
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】耐失透性に優れる光学ガラスを提供すること。
【解決手段】質量%表示のガラス組成において、SiO2含有量が3.00%以上20.00%以下、B2O3含有量が1.00%以上18.00%以下、La2O3含有量が20.00%以上60.00%以下、Nb2O5含有量が8.80%以上、TiO2含有量が5.00%以上20.00%以下、合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が2.00%以上、質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))が0.300以上、質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))が1.600以上、質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))が2.750以上、質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))が0.290以下、かつ質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))が1.400以上である光学ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示のガラス組成において、
SiO2含有量が3.00%以上20.00%以下、
B2O3含有量が1.00%以上18.00%以下、
La2O3含有量が20.00%以上60.00%以下、
Nb2O5含有量が8.80%以上、
TiO2含有量が5.00%以上20.00%以下、
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が2.00%以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))が0.300以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))が1.600以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するLa2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量の質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))が2.750以上、
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))が0.290以下、かつ
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))が1.400以上である光学ガラス。
【請求項2】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.300以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)が29.50%以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項4】
La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)が60.00%以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項5】
La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))が0.410以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項6】
SiO2含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)が2.400以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項7】
屈折率ndが1.95000以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項8】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.300以上であり、
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)が29.50%以上であり、
La2O3+Gd2O3+Y2O3の合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)が60.00%以下であり、
La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))が0.410以下であり、
SiO2含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)が2.400以上であり、かつ
屈折率ndが1.95000以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学素子用材料として、各種光学ガラスが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に望まれる性質の1っとして、耐失透性に優れることが挙げられる。耐失透性については、例えば、一度固化したガラスを再加熱した後にガラス表層に出現する失透部分(以下、「表面失透層」と呼ぶ。)がより薄いほど、再加熱時の耐失透性に優れるということができる。光学素子作製時、通常、表面失透層は研削によって除去される。したがって、表面失透層が薄いほど研削量を低減できるため、耐失透性に優れるガラスは歩留まり向上の観点から好ましい。
【0005】
本発明の一態様は、耐失透性に優れる光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、以下の光学ガラスに関する。
質量%表示のガラス組成において、
SiO2含有量が3.00%以上20.00%以下、
B2O3含有量が1.00%以上18.00%以下、
La2O3含有量が20.00%以上60.00%以下、
Nb2O5含有量が8.80%以上、
TiO2含有量が5.00%以上20.00%以下、
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が2.00%以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))が0.300以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))が1.600以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するLa2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量の質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))が2.750以上、
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))が0.290以下、かつ
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))が1.400以上である光学ガラス。
【0007】
上記光学ガラスは、上記ガラス組成を有することによって、優れた耐失透性を示すことができる。例えば、上記光学ガラスは、再加熱時の耐失透性に優れる光学ガラスであることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、耐失透性に優れる光学ガラスを提供できる。また、本発明の一態様によれば、かかる光学ガラスからなる光学素子も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[光学ガラス]
<ガラス組成>
本発明および本明細書において、光学ガラスのガラス組成は、質量%表示で表記される。質量%表示のガラス組成では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。質量%表示のガラス組成では、ガラス組成は質量基準(質量%、質量比)で表示される。以下、質量%表示のガラス組成について、「質量%」を単に「%」とも記載する。
【0010】
本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0%、0.0%もしくは0.00%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。「0%」は、例えば、「0.0%」または「0.00%」を意味することができる。
【0011】
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。例えば、定量分析は、ICP-AESを用いて各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
【0012】
本発明および本明細書において、屈折率は、ヘリウムのd線(波長587.56nm)における屈折率ndをいう。
【0013】
本発明および本明細書において、アッベ数νdは、分散に関する性質を表す値として用いられるものであり、以下の式で表される。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
上記式中、nFは青色水素のF線(波長486.13nm)における屈折率であり、nCは赤色水素のC線(656.27nm)における屈折率である。
【0014】
以下、上記光学ガラスについて、更に詳細に説明する。
【0015】
SiO2含有量は、ガラスの熱的安定性の向上および耐失透性の向上の観点から、3.00%以上であり、3.50%以上であることが好ましく、4.00%以上、4.50%以上、5.00%以上、5.50%以上、6.00%以上の順により好ましい。一方、ガラスの熔融性維持、高屈折率維持および耐失透性の維持の観点から、SiO2含有量は、20.00%以下であり、19.50%以下であることが好ましく19.00%以下、18.50%以下、18.00%以下、17.50%以下、17.00%以下、16.50%以下、16.00%以下、15.50%以下、15.00%以下、14.50%以下、14.00%以下、13.50%以下、13.00%以下、12.50%以下、12.00%以下、11.50%以下、11.00%以下の順により好ましい。
【0016】
B2O3は、ガラスの熔融性維持、液相温度の低下および低分散化に寄与し得る成分である。B2O3含有量は、ガラスの熱的安定性の維持、ガラスの熔融性維持および液相温度の低下の観点から、1.00%以上であり、2.00%以上であることが好ましく、3.00%以上、4.00%以上の順により好ましい。一方、化学的耐久性の維持の観点から、B2O3含有量は、18.00%以下であり、17.00%以下であることが好ましく、16.00%以下、15.00%以下、14.00%以下、13.00%以下、12.00%以下、11.00%以下、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下の順により好ましい。
【0017】
SiO2とB2O3との合計含有量(SiO2+B2O3)は、ガラスの熱的安定性の向上および耐失透性の更なる向上の観点から、5.00%以上25.00%以下であることが好ましい。上記観点から、合計含有量(SiO2+B2O3)は、6.00%以上であることがより好ましく、7.00%以上、8.00%以上、9.00%以上、10.00%以上、11.00%以上、12.00%以上、13.00%以上の順に更に好ましい。また、上記観点から、合計含有量(SiO2+B2O3)は、24.00%以下であることがより好ましく、23.00%以下、22.00%以下、21.00%以下、20.00%以下、19.00%以下、18.00%以下、17.00%以下、16.00%以下、15.00%以下の順に更に好ましい。
【0018】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))は、ガラスの熱的安定性の向上から、0.300以上であることがより好ましく、0.320以上、0.340以上、0.360以上、0.380以上、0.400以上であることがより好ましい。質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))は、例えば、0.900以下、0.850以下、0.800以下、0.750以下または0.700以下であることができる。
【0019】
La2O3含有量は、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率低分散化の観点から、20.00%以上であり、21.00%以上であることが好ましく、22.00%以上、23.00%以上、24.00%以上、25.00%以上、26.00%以上、27.00%以上、28.00%以上、29.00%以上の順により好ましい。一方、ガラスの耐失透性の維持および液相温度の維持の観点から、La2O3含有量は、60.00%以下であり、59.00%以下であることが好ましく、58.00%以下、57.00%以下、56.00%以下、55.00%以下、54.00%以下、53.00%以下、52.00%以下、51.00%以下、50.00%以下、49.00%以下、48.00%以下、47.00%以下、46.00%以下、45.00%以下、44.00%以下、43.00%以下、42.00%以下、41.00%以下、40.00%以下、39.00%以下の順により好ましい。
【0020】
ガラスの熱的安定性維持の観点からは、La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)は、60.00%以下であることが好ましく、59.00%以下であることがより好ましく、58.00%以下、57.00%以下、56.00%以下、55.00%以下、54.00%以下、53.00%以下、52.00%以下、51.00%以下、50.00%以下、49.00%以下、48.00%以下、47.00%以下の順に更に好ましい。一方、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率低分散化の観点から、合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)は、20.00%以上であることができ、22.00%以上であることが好ましく、24.00%以上、26.00%以上、28.00%以上、30.00%以上、32.00%以上、34.00%以上、36.00%以上、38.00%以上、40.00%以上の順により好ましい。
【0021】
La2O3含有量に対するGd2O3とY2O3との合計含有量の質量比((Gd2O3+Y2O3)/La2O3)は、0.000、0.000以上または0.000超であることができ、ガラスの熱的安定性の向上の観点から、0.000以上であることが好ましく、0.000超であることがより好ましく、0.050以上、0.100以上、0.150以上の順に更に好ましい。また、質量比((Gd2O3+Y2O3)/La2O3)は、高屈折率低分散化の観点から、10.000以下であることが好ましく、9.000以下、8.000以下、7.000以下、6.000以下、5.00以下、4.00以下、3.00以下、2.00以下、1,00以下、0.800以下、0.700以下、0.600以下、0.500以下の順により好ましい。
【0022】
Gd2O3含有量は、例えば、0%、0%以上、0%超、0.50%以上、1.00%以上、2.00%以上、3.00%以上または4.00%以上であることができる。また、Gd2O3含有量は、例えば、20.00%以下、18.00%以下、16.00%以下、14.00%以下、12.00%以下または10.00%以下であることができる。
【0023】
Y2O3含有量は、例えば、0%、0%以上、0%超、0.50%以上、1.00%以上または2.00%以上であることができる。また、Y2O3含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下、6.00%以下または5.00%以下であることができる。
【0024】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するLa2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量の質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))は、高屈折率低分散化の観点から、2.750以上であり、2.800以上であることが好ましく、2.850以上、2.900以上、2.950以上の順により好ましい。一方、ガラスの熱的安定性の維持、ガラスの耐失透性の維持および液相温度の維持の観点からは、質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))は、5.000以下であることが好ましく、4.750以下、4.500以下、4.250以下、4.000以下、3.750以下、3.500以下の順により好ましい。
【0025】
Nb2O5含有量は、ガラスの高屈折率化および耐失透性の向上の観点から、8.80%以上であり、9.00%以上であることが好ましく、10.00%以上、11.00%以上、12.00%以上、13.00%以上の順により好ましい。一方、ガラスの耐失透性の維持および液相温度の維持の観点からは、Nb2O5含有量は、25.00%以下であることが好ましく、24.00%以下、23.00%以下、22.00%以下、21.00%以下、20.00%以下、19.00%以下の順により好ましい。
【0026】
TiO2含有量は、ガラスの高屈折率化および耐失透性の向上の観点から、5.00%以上であり、6.00%以上であることが好ましく、7.00%以上、8.00%以上、9.00%以上、10.00%以上、11.00%以上の順により好ましい。一方、ガラスの耐失透性の維持、液相温度の維持および透過率の維持の観点から、TiO2含有量は、20.00%以下であり、19.00%以下であることが好ましく、18.00%以下、17.00%以下、16.00%以下の順により好ましい。
【0027】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))は、ガラスの高屈折率化および耐失透性の向上の観点から、1.400以上であり、1.500以上でありことが好ましく、1.600以上、1.700以上の順により好ましい。一方、ガラスの耐失透性の維持、液相温度の維持および透過率の維持の観点からは、質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))は、3.000以下であることが好ましく、2.900以下、2.800以下、2.700以下、2.600以下、2.500以下、2.400以下、2.300以下の順により好ましい。
【0028】
ガラスの高屈折率化の観点から、SiO2含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)は、2.400以上であることが好ましく、2.500以上、2.600以上、2.700以上、2.800以上の順により好ましい。一方、ガラスの熱的安定性の維持の観点から、質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)は、10.00以下であることが好ましく、9.00以下、8.00以下、7.00以下、6.000以下、5.500以下、5.000以下、4.550以下の順により好ましい。
【0029】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))は、ガラスの高屈折率化および耐失透性の向上の観点から、1.600以上であり、1.700以上であることが好ましく、1.800以上、1.900以上、2.000以上、2.100以上の順により好ましい。一方、ガラスの熱的安定性の維持、ガラスの耐失透性の維持、液相温度の維持および透過率の維持の観点からは、質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))は、4.000以下であることが好ましく、3.800以下、3.600以下、3.400以下、3.200以下、3.000以下、2.900以下、2.800以下、2.700以下の順により好ましい。
【0030】
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)は、ガラスの高屈折率化の観点から、29.50%以上であることが好ましく、30.00%以上であることがより好ましく、30.50%以上であることが更に好ましい。一方、ガラスの熱的安定性の維持、ガラスの耐失透性の維持および液相温度の維持の観点から、合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)は、40.00%以下であることが好ましく、39.00%以下、38.00%以下、37.00%以下、36.50%以下の順により好ましい。
【0031】
ZrO2含有量は、高屈折率化および耐失透性の向上の観点から、0%、0%以上、0%超、0.50%以上、1.00%以上、2.00%以上、3.00%以上、4.00%以上または5.00%以上であることができる。一方、ZrO2含有量は、耐失透性の低下を抑制する観点から、10.00%以下であることが好ましく、9.00%以下であることがより好ましく、8.00%以下であることが更に好ましい。
【0032】
WO3含有量は、高屈折率化および液相温度低下の観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、0.50%以上、1.00%以上、1.50%以上または2.00%以上であることができる。一方、耐失透性の維持および液相温度維持の観点からは、WO3含有量は、8.00%以下であることが好ましく、7.00%以下、6.00%以下、5.00%以下の順により好ましい。
【0033】
Ta2O5含有量は、高屈折率化および低分散性の維持の観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、0.50%以上、1.00%以上、1.50%以上または2.00%以上であることができる。一方、耐失透性の維持の観点およびTa2O5は高価な成分であるためガラスの低コスト化の観点から、Ta2O5含有量は、10.00%以下であることが好ましく、8.00%以下、6.00%以下、4.00以下、2.00%以下の順により好ましい
【0034】
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量に対するLa2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量の質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))は、低分散化の維持の観点から、0.740以上であることが好ましく、0.800以上、0.900以上、1.000以上、1.100以上、1.200以上の順により好ましい。質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))は、例えば、3.000以下、2.600以下、2.200以下、2.000以下、1.800以下、1.700以下、1.600以下または1.500以下であることができる。
【0035】
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)は、ガラスの低分散化、ガラスの熔融性向上、ガラスの耐失透性の向上および液相温度の低下の観点から、2.00%以上であり、3.00%以上であることが好ましく、4.00%以上、5.00%以上の順により好ましい。一方、ガラスの高屈折率維持の観点からは、合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)は、22.00%以下であることが好ましく、20.00%以下、18.00%以下、16.00%以下、14.00%以下、12.00%以下、10.00%以下、9.00%以下の順により好ましい。
【0036】
MgO含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、1.00%以上または2.00%以上であることができる。一方、高屈折率の維持の観点から、MgO含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下、6.00%以下、5.00%以下、4.00%以下または3.00%以下であることができる。
CaO含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、1.00%以上または2.00%以上であることができる。一方、高屈折率の維持の観点から、CaO含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下、6.00%以下、5.00%以下または4.50%以下であることができる。
SrO含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、1.00%以上または2.00%以上であることができる。一方、高屈折率の維持の観点から、SrO含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下または7.50%以下であることができる。
BaO含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.50%以上であることができる。また、BaO含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下、6.00%以下または5.50%以下であることができる。
ZnO含有量は、高屈折率化、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.50%以上であることができる。一方、耐失透性の維持の観点から、ZnO含有量は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下または6.00%以下であることができる。
【0037】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))は、ガラスの耐失透性の向上、ガラスの低分散化およびガラスの熔融性の向上の観点から、0.300以上であり、0.320以上であることが好ましく、0.340以上、0.360以上であることがより好ましい。一方、ガラスの高屈折率維持の観点からは、質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))は、0.800以下であることが好ましく、0.750以下、0.700以下、0.650以下の順により好ましい。
【0038】
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))は、ガラスの高屈折率維持の観点から、0.290以下であり、0.280以下であることが好ましく、0.270以下、0.260以下、0.250以下の順により好ましい。一方、ガラスの低分散化およびガラスの熔融性の向上の観点からは、質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))は、0.100以上であることが好ましく、0.110以上、0.120以上、0.130以上、0.140以上、0.150以上の順により好ましい。
【0039】
La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))は、ガラスの高屈折率維持の観点から、0.410以下であることが好ましく、0.400以下、0.350以下、0.300以下、0.250以下、0.200以下の順により好ましい。質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))は、例えば、0.000超、0.010以上、0.050以上または0.100以上であることができる。
【0040】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、0.50%以上または1.00%以上であることができる。ガラスの低分散化、熔融性向上および液相温度の低下の観点からは、合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、20.00%以下であることが好ましく、18.00%以下、16.00%以下、14.00%以下、12.00%以下、10.00%以下、8.00%以下の順により好ましい。
【0041】
SiO2とB2O3との合計含有量に対するMgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO)/(SiO2+B2O3))は、ガラスの熔融性の向上および高屈折率化の観点から、例えば、0.000であることができ、0.000以上、0.000超、0.010以上、0.030以上、0.050以上、0.070以上または0.090以上であることもできる。ガラスの熱的安定性維持、液相温度の低下および低分散化の観点からは、質量比((MgO+CaO+SrO+BaO)/(SiO2+B2O3))は、5.000以下であることが好ましく、4.000以下、3.000以下、2.000以下、1.000以下、0.800以下、0.600以下の順により好ましい。
【0042】
上記光学ガラスは、1種以上のアルカリ金属酸化物を含むこともでき、含まないこともできる。アルカリ金属酸化物をR2Oと表記すると、R2O含有量(即ちアルカリ金属酸化物の合計含有量)は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、0%、0%以上、0%超、0.10%以上、0.20%以上または0.30%以上であることができる。ガラスの熱的安定性維持および高屈折率維持の観点からは、R2O含有量は、15.00%以下であることが好ましく、13.00%以下、11.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下、6.00%以下、5.00%以下、4.00%以下、3.00%以下、2.00%以下または1.50%以下であることができる。
【0043】
アルカリ金属酸化物R2Oとしては、Li2O、Na2O、K2OおよびCs2Oからなる群から選ばれる1種以上のアルカリ金属酸化物を挙げることができる。上記光学ガラスは、Li2O、Na2O、K2OおよびCs2Oからなる群から選ばれるアルカリ金属酸化物を1種のみ含むこともでき、2種、3種または4種を含むこともできる。
Li2O含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、例えば、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.30%以上であることができる。また、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率維持の観点から、Li2O含有量は、例えば、10.00%以下、8.00%以下、6.00%以下、4.00%以下、2.00%以下、1.00%以下または0.80%以下であることができる。
Na2O含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、例えば、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.30%以上であることができる。また、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率維持の観点から、Na2O含有量は、例えば、10.00%以下、8.00%以下、6.00%以下、4.00%以下、2.00%以下または1.00%以下であることができる。
K2O含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、例えば、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.30%以上であることができる。また、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率維持の観点から、K2O含有量は、例えば、10.00%以下、8.00%以下、6.00%以下、4.00%以下、2.00%以下または1.50%以下であることができる。
Cs2O含有量は、ガラスの熔融性の向上およびガラス転移温度Tgを低下させる観点から、例えば、0%、0%以上、0%超、0.10%以上または0.30%以上であることができる。また、ガラスの熱的安定性維持および高屈折率維持の観点から、Li2O含有量は、例えば、10.00%以下、8.00%以下、6.00%以下、4.00%以下、2.00%以下、1.00%以下または0.80%以下であることができる。
【0044】
上記光学ガラスは、Al2O3を含まないガラスであることもでき、ガラスの熱的安定性の向上の観点からAl2O3を含むガラスであることもできる。Al2O3含有量は、例えば、0%、0%以上、0%超または0.10%以上であることができる。また、ガラスの熔融性、耐失透性の維持および液相温度の維持の観点から、Al2O3含有量は、例えば、5.00%以下、4.00%以下、3.00%以下、2.00%以下、1.00%以下、0.80%以下または0.60%以下であることができる。
【0045】
Sb2O3は、清澄剤として添加可能な成分である。少量の添加でFe等の不純物混入による光線透過率の低下を抑える働きをすることもできるが、Sb2O3の添加量を多くすると、ガラスの着色が増加傾向を示す。したがって、Sb2O3の添加量は、外割りで0.00%以上0.10%以下であることが好ましく、より好ましくは0.00%以上0.05%以下、更に好ましくは0.00%以上0.03%以下である。外割りによるSb2O3含有量とは、Sb2O3以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSb2O3の含有量を意味する。
【0046】
SnO2も清澄剤として添加可能であるが、外割りで1.00%を超えて添加するとガラスが着色したり、ガラスを加熱、軟化してプレス成形等の再成形をする際に、Snが結晶核生成の起点となって失透傾向が生じる。したがって、SnO2の添加量は、外割りで0.00%以上1.00%以下とすることが好ましく、0.00%以上0.50%以下とすることがより好ましく、添加しないことが特に好ましい。外割りによるSnO2含有量とは、SnO2以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSnO2の含有量を意味する。
【0047】
上記光学ガラスは、Lu、Hfといった成分を含有させることなく作製することができる。Lu、Hfは高価な成分であるため、Lu2O3、HfO2の含有量をそれぞれ0.00%以上2.00%以下に抑えることが好ましく、それぞれ0.00%以上1.00%以下に抑えることがより好ましく、それぞれ0.00%以上0.80%以下に抑えることが更に好ましく、それぞれ0.00%以上0.10%以下に抑えることが一層好ましく、Lu2O3を導入しないこと、HfO2を導入しないことがそれぞれ特に好ましい。
また、環境影響に配慮し、Pbを導入しないことが好ましく、As、U、Th、Te、Cdも導入しないことが好ましい。
更に、ガラスの優れた光線透過性を活かす観点から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Co等の着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
【0048】
Fは、熔融時のガラスの揮発性を著しく高め、ガラスの光学特性の安定性および均質性を低下させる原因になる成分である。F含有量は、先に記載したように求められる酸化物基準のガラス組成の合計含有量100質量%に対するF元素の外割での含有量(単位:質量%)で規定することができる。上記光学ガラスにおいて、こうして規定されるF含有量は0.10%未満であることが好ましく、0.08%未満であることがより好ましく、0.05%未満であることが更に好ましい。F含有量は0.00%以上であることができ、0.00%であってもよい。
【0049】
<ガラス物性>
(屈折率nd)
上記光学ガラスは、光学素子用材料としての有用性の観点から、高屈折率ガラスであることが好ましい。上記観点から、上記光学ガラスの屈折率ndは、1.95000以上であることが好ましく、1.96000以上、1.97000以上、1.98000以上、1.98200以上、1.98400以上、1.98600以上、1.98800以上、1.99000の順により好ましい。上記光学ガラスの屈折率ndは、例えば、2.10000以下または2.05000以下であることができるが、ここに例示した値を超えてもよい。
【0050】
(アッベ数νd)
上記光学ガラスは、光学素子用材料としての有用性の観点からは、低分散ガラスであることが好ましい。上記観点から、上記光学ガラスのアッベ数νdは、20.00以上であることが好ましく、22.00以上、24.00以上、24.50以上、25.00以上、25.50以上、26.00以上の順により好ましい。また、光学素子用材料としての有用性の観点からは、上記光学ガラスのアッベ数νdは、35.00以下であることが好ましく、33.00以下、31.00以下、30.00以下、29.00以下の順により好ましい。
【0051】
(比重)
光学ガラスの比重が低いことは、光学素子の軽量化の観点から好ましい。上記光学ガラスの比重は、例えば、5.50以下であることが好ましく、5.40以下、5.30以下、5.20以下の順により好ましい。また、上記光学ガラスの比重は、例えば4.50以上であることができるが、比重が低いほど好ましいため、下限は特に限定されない。本発明および本明細書において、「比重」はアルキメデス法によって測定される値とする。
【0052】
(ガラス転移温度Tg)
上記光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、低いガラス転移温度Tgを有することができる。低Tgガラスは、例えば、プレス成形において、離型膜の劣化を抑制する観点、プレス成形型の消耗を抑制する観点等から好ましい。上記光学ガラスのTgは、750℃以下であることが好ましく、740℃以下であることがより好ましく、730℃以下、720℃以下、710℃以下、700℃以下の順により好ましい。Tgの下限は、特に限定されるものではなく、例えば、500℃以上、550℃以上または600℃以上であることができる。本発明および本明細書における「ガラス転移温度Tg」は、示差走査熱量分析装置を用いて昇温速度10℃/分にて測定される値とする。
【0053】
(耐失透性)
耐失透性の指標としては、後述の実施例の欄に記載の方法によって求められる表面失透層の厚みによって評価することができる。上記光学ガラスの耐失透性について、表面失透層の厚みが60μm以下(後述のAランクまたはBランク)であることが好ましく、40μm以下(後述のAランク)であることがより好ましい。
【0054】
<光学ガラスの製造方法>
上記光学ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料である酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等を秤量、調合し、十分に混合して混合バッチとし、熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、撹拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。
【0055】
[プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、およびそれらの製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材;
上記光学ガラスからなる光学素子ブランク、
に関する。
【0056】
本発明の他の一態様によれば、
上記光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法;
上記光学ガラスプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法;
上記光学ガラスを光学素子ブランクに成形する工程を備える光学素子ブランクの製造方法、
も提供される。
【0057】
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研磨しろ(研磨により除去することになる表面層)、必要に応じて研削しろ(研削により除去することになる表面層)を加えた光学素子母材である。光学素子ブランクの表面を研削、研磨することにより、光学素子が仕上げられる。一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスをプレス成形する方法(ダイレクトプレス法と呼ばれる。)により、光学素子ブランクを作製することができる。他の一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスを固化することにより光学素子ブランクを作製することもできる。
【0058】
また、他の一形態では、プレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材をプレス成形することにより、光学素子ブランクを作製することができる。
【0059】
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、加熱して軟化した状態にあるプレス成形用ガラス素材をプレス成形型でプレスする公知の方法により行うことができる。加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
【0060】
プレス成形用ガラス素材は、そのままの状態で光学素子ブランク作製のためのプレス成形に供されるプレス成形用ガラスゴブと呼ばれるものに加え、切断、研削、研磨等の機械加工を施してプレス成形用ガラスゴブを経てプレス成形に供されるものも含む。切断方法としては、ガラス板の表面の切断したい部分にスクライビングと呼ばれる方法で溝を形成し、溝が形成された面の裏面から溝の部分に局所的な圧力を加えて、溝の部分でガラス板を割る方法や、切断刃によってガラス板をカットする方法等がある。また、研削、研磨方法としてはバレル研磨等が挙げられる。
【0061】
プレス成形用ガラス素材は、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込みガラス板に成形し、このガラス板を複数のガラス片に切断することにより作製することができる。または、適量の熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラスゴブを作製することもできる。プレス成形用ガラスゴブを、再加熱、軟化してプレス成形して作製することにより、光学素子ブランクを作製することもできる。ガラスを再加熱、軟化してプレス成形して光学素子ブランクを作製する方法は、ダイレクトプレス法に対してリヒートプレス法と呼ばれる。
【0062】
[光学素子およびその製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなる光学素子
に関する。
上記光学素子は、上記光学ガラスを用いて作製される。上記光学素子において、ガラス表面には、例えば、反射防止膜等の多層膜等、一層以上のコーティングが形成されていてもよい。
【0063】
また、本発明の一態様によれば、
上述の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法、
も提供される。
【0064】
上記光学素子の製造方法において、研削、研磨等の機械加工は公知の方法を適用して行うことができ、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させる等することにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。このようにして、上記光学ガラスからなる光学素子を得ることができる。光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ等の各種のレンズ、プリズム等を例示することができる。
【0065】
また、上記光学ガラスからなる光学素子は、接合光学素子を構成するレンズとしても好適である。接合光学素子としては、レンズ同士を接合したもの(接合レンズ)、レンズとプリズムを接合したもの等を例示することができる。例えば、接合光学素子は、接合する2つの光学素子の接合面を形状が反転形状となるように精密に加工(例えば、球面研磨加工)し、接合レンズの接着に使用される紫外線硬化型接着剤を塗布し、貼り合わせてからレンズを通して紫外線を照射し接着剤を硬化させることで作製することができる。このように接合光学素子を作製するために、上記光学ガラスは好ましい。接合する複数個の光学素子を、アッベ数νdが相違する複数種のガラスを用いてそれぞれ作製し、接合することにより、色収差の補正に好適な素子とすることができる。
【実施例0066】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1、比較例1]
<光学ガラスの作製>
以下の表に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当する硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
この調合原料を白金製坩堝に入れ、1200~1400℃に設定された炉内で加熱し2時間熔融した。熔融ガラスを撹拌して均質化した後、熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度程度の温度で約30分間保持した後、徐冷速度-30℃/時間で4時間徐冷し、その後炉内で室温まで放冷することにより、以下の表に示す実施例1(No.1~66)および比較例1の各光学ガラスを得た。
【0068】
<光学ガラスの物性評価>
上記で得られた光学ガラスの諸物性を以下の表に示す。
光学ガラスの諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0069】
(1)屈折率ndアッベ数νd
日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率ndおよびアッベ数νdを測定した。
【0070】
(2)ガラス転移温度Tg
ガラス転移温度Tgは、NETZSCH JAPAN社製の示差走査熱量分析装置(DSC3300SA)を使用し、昇温速度10℃/分にて測定した。
【0071】
(3)比重
アルキメデス法により比重を測定した。
【0072】
(4)耐失透性(表面失透層の厚みによるランク付け)
上記で得られた光学ガラスを1cm×1cm×1cmの大きさに切断してガラスサンプルを作製した。作製したガラスサンプルを、炉内温度をガラス転移温度Tgに設定した第1の試験炉で10分間加熱し、更にガラス転移温度Tgよりも180~200℃高い温度に炉内温度を設定した第2の試験炉で10分間加熱した。加熱後のガラスサンプルの表面(平行な表面2面)を光学研磨した。光学研磨後のガラスサンプルを光学顕微鏡(観察倍率:10~100倍)で目視観察し、表層の失透(結晶質)部分の厚みを測定した。こうして測定された厚みを「表面失透層の厚み」とし、表面失透層の厚み40μm以下をAランク、40μm超60μm以下をBランク、60μm超をCランクとした。
以下の表に示すように、実施例1の各光学ガラスは、Nb2O5含有量が8.80質量%を下回り、合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が2.00%を下回り、かつ質量比(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3)が0.300を下回る比較例1の光学ガラスと比べて耐失透性に優れていた。比較例1の光学ガラスは、特開2015-91752号公報(特許文献1)の実施例29と同様のガラス組成を有する。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
(実施例2)
実施例1で得られた各種ガラスを使用し、プレス成形用ガラス塊(ガラスゴブ)を作製した。このガラス塊を大気中で加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0088】
(実施例3)
実施例1において作製した熔融ガラスを所望量、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0089】
(実施例4)
実施例1において作製した熔融ガラスを固化して作製したガラス塊(光学素子ブランク)アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0090】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0091】
[1]質量%表示のガラス組成において、
SiO2含有量が3.00%以上20.00%以下、
B2O3含有量が1.00%以上18.00%以下、
La2O3含有量が20.00%以上60.00%以下、
Nb2O5含有量が8.80%以上、
TiO2含有量が5.00%以上20.00%以下、
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が2.00%以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(SiO2+B2O3))が0.300以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)/(SiO2+B2O3))が1.600以上、
SiO2とB2O3との合計含有量に対するLa2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量の質量比((La2O3+Gd2O3+Y2O3)/(SiO2+B2O3))が2.750以上、
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3))が0.290以下、かつ
SiO2とB2O3との合計含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/(SiO2+B2O3))が1.400以上である光学ガラス。
[2]SiO2とB2O3との合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.300以上である、[1]に記載の光学ガラス。
[3]Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)が29.50%以上である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)が60.00%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の光学ガラス。
[5]La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))が0.410以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の光学ガラス。
[6]SiO2含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)が2.400以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の光学ガラス。
[7]屈折率ndが1.95000以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の光学ガラス。
[8]SiO2とB2O3との合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.300以上であり、
Nb2O5、TiO2、ZrO2およびWO3の合計含有量(Nb2O5+TiO2+ZrO2+WO3)が29.50%以上であり、
La2O3+Gd2O3+Y2O3の合計含有量(La2O3+Gd2O3+Y2O3)が60.00%以下であり、
La2O3、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するMgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量の質量比((MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))が0.410以下であり、
SiO2含有量に対するNb2O5とTiO2との合計含有量の質量比((Nb2O5+TiO2)/SiO2)が2.400以上であり、かつ
屈折率ndが1.95000以上である、[1]に記載の光学ガラス。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを得ることができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。