(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093241
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240702BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240702BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20240702BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/16
C08L53/00
C08L23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209489
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 勇佑
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB05X
4J002BB11W
4J002BB12W
4J002BB15X
4J002BP00Y
4J002BP01Y
4J002CC03Z
4J002EA016
4J002EJ057
4J002FD010
4J002FD026
4J002FD030
4J002FD147
4J002FD14Z
4J002GC00
4J002GJ02
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】硬度などの機械特性に優れ、かつ圧縮永久歪みと制振性とがバランスよく優れる熱可塑性エラストマー組成物、ならびに該熱可塑性エラストマー組成物から外観の優れる成形体を提供すること。
【解決手段】エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(ただし、α-オレフィンの炭素数は3以上である。)、結晶性プロピレン系重合体(B)、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックB及びビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックAをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である、制振剤(C)、および軟化剤(D)を所定の割合で含有し、かつ、前記共重合体(A)がフェノール樹脂系架橋剤(E)により架橋されており、前記制振剤(C)中の前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が50質量%を超える、熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(ただし、α-オレフィンの炭素数は3以上である。):15~40質量%、
(B)結晶性プロピレン系重合体:10~55質量%、
(C)共役ジエン単量体単位を主体とするブロックB及びビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックAをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である、制振剤:5~30質量%、および
(D)軟化剤:10~45質量%(ただし、(A)~(D)の合計を100質量%とする。)を含有し、かつ、
前記共重合体(A)がフェノール樹脂系架橋剤(E)により架橋されており、
前記制振剤(C)中の前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が50質量%を超える、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)の含有量が15質量%以上35質量%未満である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記結晶性プロピレン系重合体(B)の含有量が12質量%を超え、かつ55質量%以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記制振剤(C)における、前記ブロックAの含有量が35質量%以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)における前記α-オレフィンが、炭素数3~20のα-オレフィンである、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記結晶性プロピレン系重合体(B)が、プロピレンの単独重合体である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記フェノール樹脂系架橋剤(E)がハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
【請求項9】
JIS K 6253に準拠して測定したショアA硬度(瞬間値)が50を超える、請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物および当該組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、軽量でリサイクルが容易なことから、省エネルギー、省資源タイプのエラストマーとして、特に加硫ゴムの代替として、自動車部品、工業機械部品、電気・電子部品、建材等に広く使用されている。とりわけ、自動車用シール材や建材用シール材として用いられる熱可塑性エラストマー組成物においては、風切り音、車体やガラスの振動に起因するノイズを低減させるための制振性が強く求められている。
【0003】
近年では特に自動車業界においては、エンジン車から電気自動車およびハイブリッド車への転換が大きく進んでいるところ、電気自動車およびハイブリッド車においてはエンジンの駆動音が生じないかエンジン車と比べて非常に小さい。そのため、車体やガラスの振動に起因するノイズや風切り音がエンジン車よりも目立つようになり、従来以上に制振性に優れた自動車用シール材、ひいては熱可塑性エラストマー組成物が求められるようになってきている。
【0004】
優れた圧縮永久歪み(へたり性)と制振性を有し、押出成形性が良好な熱可塑性エラストマー組成物として、特許文献1においては、ポリプロピレン系樹脂(A)、エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(B)、架橋剤(C)および4-メチル-1-ペンテン・エチレン及び/又はα-オレフィン共重合体(D)を含み、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対する成分(D)の含有量が0.1~100質量部である熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム弾性が高ければ良好になる圧縮永久歪みと、ゴムの粘性が高ければ良好になる制振性という本来相反する性能をある程度両立させたものであるが、圧縮永久歪みと制振性をより一層高度なバランスで両立させることが求められている。また、特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物には、機械特性と、得られる成形体の外観にさらなる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、硬度などの機械特性に優れ、かつ圧縮永久歪みと制振性とがバランスよく優れる熱可塑性エラストマー組成物、ならびに該熱可塑性エラストマー組成物から外観の優れる成形体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段には、以下の[1]~[9]の態様が含まれる。
[1]
(A)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(ただし、α-オレフィンの炭素数は3以上である。):15~40質量%、
(B)結晶性プロピレン系重合体:10~55質量%、
(C)共役ジエン単量体単位を主体とするブロックB及びビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックAをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である、制振剤:5~30質量%、および
(D)軟化剤:10~45質量%(ただし、(A)~(D)の合計を100質量%とする。)を含有し、かつ、
前記共重合体(A)がフェノール樹脂系架橋剤(E)により架橋されており、
前記制振剤(C)中の前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が50質量%を超える、熱可塑性エラストマー組成物。
【0009】
[2]
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)の含有量が15質量%以上35質量%未満である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
[3]
前記結晶性プロピレン系重合体(B)の含有量が12質量%を超え、かつ55質量%以下である、[1]または[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[4]
前記制振剤(C)における、前記ブロックAの含有量が35質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[5]
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)における前記α-オレフィンが、炭素数3~20のα-オレフィンである、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[6]
前記結晶性プロピレン系重合体(B)が、プロピレンの単独重合体である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[7]
前記フェノール樹脂系架橋剤(E)がハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
【0016】
[9]
JIS K 6253に準拠して測定したショアA硬度(瞬間値)が50を超える、[8]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、硬度などの機械特性に優れ、かつ圧縮永久歪みと制振性とがバランスよく優れ、さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から外観が優れた成形体を好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の内容の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されることはない。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後いずれか一方に記載される単位は、特に断りがない限り同じ単位を示すことを意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
[熱可塑性エラストマー組成物]
熱可塑性エラストマー組成物は、
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(ただし、α-オレフィンの炭素数は3以上である。)を15~40質量%、
結晶性プロピレン系重合体(B)を10~55質量%、
共役ジエン単量体単位を主体とするブロックB及びビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックAをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である制振剤(C)を5~30質量%、
軟化剤(D)を10~45質量%(ただし、(A)~(D)の合計を100質量%とする。)含有し、かつ、
前記共重合体(A)がフェノール樹脂系架橋剤(E)により架橋されており、
前記制振剤(C)中の前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が50質量%を超えることを特徴としている。
【0020】
<エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)>
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」とも記載する。)は、エチレン由来の構造単位、少なくとも1種の炭素数3以上(好ましくは20以下)のα-オレフィンに由来する構造単位、及び少なくとも1種の非共役ポリエンに由来する構造単位を含むエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体である。
【0021】
前記α-オレフィンとしては、プロピレン(炭素数3)、1-ブテン(炭素数4)、1-ノネン(炭素数9)、1-デセン(炭素数10)、1-ノナデセン(炭素数19)、1-エイコセン(炭素数20)等の側鎖の無い直鎖状のα-オレフィン;4-メチル-1-ペンテン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等の側鎖を有するα-オレフィンなどが挙げられる。これらα-オレフィンは1種単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、プロピレン、1-ブテン、1-ノネン、1-デセンなどの炭素数3~10のα-オレフィンが好ましく、耐熱性の観点から、特にプロピレンが好ましい。
【0022】
非共役ポリエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエンなどが挙げられる。
これら非共役ポリエンは、1種単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、非共役ポリエンとしては、圧縮永久歪みに優れる観点から、1,4-ヘキサジエンなどの環状非共役ジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン及び5-ビニル-2-ノルボルネンの混合物が好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、又は、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0023】
共重合体(A)としては、エチレン・プロピレン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ペンテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-へプテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ノネン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-デセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体などが挙げられる。
これらの中でも、圧縮永久歪み及び成形性に優れる観点から、共重合体(A)としては、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、又は、エチレン・ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体であることが好ましく、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体であることが更に好ましい。
【0024】
共重合体(A)は、機械強度の観点から、135℃デカリン(デカヒドロナフタレン)中で測定した極限粘度[η]が好ましくは2.0~7.0dL/g、より好ましくは3.0~7.0dL/g、更に好ましくは3.3~7.0dL/gである。
なお、共重合体(A)が後述の軟化剤等の油展剤を用いて油展されている場合の極限粘度[η]は、極限粘度[η]の測定前に脱脂し、共重合体(A)のみの状態で測定して求められる。
【0025】
共重合体(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
共重合体(A)は、機械強度、耐熱性の観点から、エチレン由来の構造単位[a]の含有量が、共重合体(A)の全構造単位に対して、好ましくは50~95モル%、より好ましくは60~85モル%、更に好ましくは65~80モル%の範囲にある。
【0026】
また、共重合体(A)は、エチレン由来の構造単位[a]と、α-オレフィンに由来する構造単位[b]との質量比[[a]/[b]]が、通常40/60~90/10、好ましくは45/55~80/20、更に好ましくは50/50~75/25、特に好ましくは、55/45~70/30、最も好ましくは55/45~68/32での範囲にある。
【0027】
共重合体(A)は、非共役ポリエンに由来する構造単位[c]の含有量が、上記[a]、[b]及び[c]の構造単位の合計を100質量%に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは1~8質量%、更に好ましくは2~6質量%、特に好ましくは3~5質量%の範囲にある。
【0028】
共重合体(A)の含有量は、(A)~(D)の合計100質量%に対して、15~40質量%である。
圧縮永久歪み及び成形性に優れる観点から、重合体(A)の含有量としては、(A)~(D)の合計100質量%に対して、15質量%以上35質量%未満であることが好ましく、18~33質量%であることがより好ましく、20~25質量%であることが更に好ましい。
【0029】
(共重合体(A)の製造方法)
共重合体(A)の製造方法は、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、国際公開第2018/181121号の段落[0028]~[0145]の記載の製造方法を参照することができる。
【0030】
<結晶性プロピレン系重合体(B)>
熱可塑性エラストマー組成物は結晶性プロピレン系重合体(B)(以下、単に「重合体(B)」ともいう。)を含む。重合体(B)は、熱可塑性エラストマー組成物の硬度などの機械特性を向上させる役割や成形体の外観を良好にする役割を果たす。
なお、結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)にて、融点(Tm)が測定されることを意味する。具体的には、後述の示差走査熱量測定(DSC)の測定方法により融点(Tm)が求められる。
【0031】
重合体(B)は、プロピレン単独、又はプロピレンとその他の1種又は2種以上のモノオレフィンを、高圧法又は低圧法の何れかにより重合して得られる結晶性の高分子量固体生成物が挙げられる。
このような重合体としては、アイソタクチックモノオレフィン重合体、シンジオタクチックモノオレフィン重合体等が挙げられる。
【0032】
重合体(B)は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品を用いてもよい。
重合体(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
重合体(B)のプロピレン以外の適当な原料となるモノオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。
上記オレフィンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0034】
機械特性及び成形外観に優れる観点から、重合体(B)は、プロピレンの単独重合体及びプロピレンと炭素数2~20のα-オレフィン(但しプロピレンを除く)との共重合体(プロピレン共重合体)の少なくとも一方であることが好ましく、プロピレンの単独重合体であることがより好ましい。なお、プロピレン共重合体の場合、プロピレンに由来する構造単位の含有量は好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、炭素数2~20のα-オレフィン(但しプロピレンを除く)に由来する単量体の構造単位となるモノオレフィンとしては、好ましくはプロピレン以外の上記モノオレフィン、より好ましくはエチレン及びブテンである。
【0035】
重合体(B)の重合様式はランダム型であってもよいしブロック型であってもよく、結晶性の樹脂状物が得られればどのような重合様式を採用しても差支えない。
【0036】
重合体(B)は、メルトフローレート(MFR)(ASTMD1238-65T、230℃、2.16kg荷重)が、好ましくは30~100g/10分であり、より好ましくは40~80g/10分である。MFRがこの範囲内であると成形体の外観不良がより起きにくくなる。
【0037】
重合体(B)は、示差走査熱量測定(DSC)で得られる融点(Tm)が、通常100℃以上、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは150~170℃である。融点がこの範囲にあると、熱可塑性エラストマー組成物の硬度などの機械特性および耐熱性が優れる。
示差走査熱量測定は、例えば次のようにして行われる。試料5mg程度を専用アルミパンに詰め、示差走査熱量計(たとえば、(株)パーキンエルマー社製DSCPyris1又はDSC7)を用い、30℃から200℃までを320℃/分で昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から30℃までを10℃/分で降温し、30℃で更に5分間保持し、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より融点を求める。なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピーク温度を融点(Tm)と定義する。
【0038】
重合体(B)の含有量は、(A)~(D)の合計100質量%に対して、10~55質量%である。
機械特性及び成形外観に優れる観点から、重合体(B)の含有量としては、(A)~(D)の合計100質量%に対して、12質量%を超え55質量%以下であることが好ましく、15~53質量%であることがより好ましい。
【0039】
<制振剤(C)>
熱可塑性エラストマー組成物は制振剤(C)を含む。制振剤(C)は、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックB及びビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックAをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物であり、前記制振剤(C)中の前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が50質量%を超える。
【0040】
制振剤(C)中の共役ジエン単量体単位の少なくとも一部は水素添加(以下、「水添」と呼称する場合がある。)されている。
ここで、「共役ジエン単量体単位」とは、単量体である共役ジエンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、共役ジエン単量体に由来するオレフィンの二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。また、「ビニル芳香族単量体単位」とは、単量体であるビニル芳香族化合物を重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、置換ビニル基に由来する置換エチレン基の二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。
【0041】
本明細書中において、「主体とする」とは、共役ジエン単量体単位(又はビニル芳香族単量体単位)を当該重合体ブロック中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことをいう。例えば、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックBとは、共役ジエン単量体単位を当該ブロックB中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことを意味する。
【0042】
制振剤(C)における、ビニル芳香族単量体は、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等のビニル芳香族化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0043】
制振剤(C)における、共役ジエン単量体は、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から、ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
制振剤(C)における各ブロックの配置は、特に限定されず、適宜好適なものを採用することができる。例えば、前記ブロックAをAで表示し、前記ブロックBをBで表す場合、このブロック共重合体の水添物は、AB、A(BA)n1(ここで、n1は1~3の整数を表す。)、A(BAB)n2(ここで、n2は1~2の整数を表す。)等で表されるリニアブロック共重合体や、(AB)n3X(ここで、n3は3~6の整数を表す。Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ、ポリエポキシ化合物等のカップリング剤残基を表す。)で表される共重合体が挙げられる。これらの中でも、ABの2型(ジブロック)、ABAの3型(トリブロック)、ABABの4型(テトラブロック)のリニアブロック共重合体が好ましい。
【0045】
ここで、ブロックBは、共役ジエン単量体単位のみからなる重合体ブロックであっても、共役ジエン単量体単位を主体として含み、かつビニル芳香族単量体単位を含む(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位が共重合した)共重合体ブロックであってもよく、重合体ブロックと共重合体ブロックのいずれも共役ジエン単量体単位の少なくとも一部は水添されている。
【0046】
制振剤(C)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、50質量%を超え、耐熱性や分散性の観点から55~80質量%であることが好ましく、60~70質量%であることがより好ましい。ビニル芳香族単量体単位の含有量を50質量%を超える範囲とすることで硬度などの機械物性が一層向上し、制振性を改善でき、80質量%以下とすることで低温特性と成形外観を一層改善できる。
制振剤(C)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により測定することができる。
【0047】
制振剤(C)におけるブロックAの含有量は、機械的強度の観点から、35質量%以上であることが好ましく、35~42質量%であることがより好ましい。ここで、制振剤(C)におけるブロックAの含有量は、四酸化オスミウムを触媒として水添前の共重合体をtert-ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I. M. Kolthoff,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法、以下、「四酸化オスミウム分解法」ともいう。)により得たビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量(ここで、平均重合度が約30以下のビニル芳香族化合物重合体は除かれている)を用いて、下記式で定義される。
ブロックAの含有量(質量%)=(水添前の共重合体中のビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量/水添前の共重合体の質量)×100
【0048】
制振剤(C)中に重合体ブロックが複数存在している場合には、各々の分子量や組成等の構造は同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、制振剤(C)中に、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む水添共重合体ブロックと、共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロックとが存在してもよい。各ブロックの境界や端部は必ずしも明瞭に区別される必要はない。各重合体ブロック中のビニル芳香族単量体単位の分布の態様は、特に限定されず、均一に分布していてもよいし、テーパー状、階段状、凸状、あるいは凹状に分布していてもよい。また、重合体ブロック中に、結晶部が存在していてもよい。
【0049】
制振剤(C)中における各重合体ブロック中の共役ジエン単量体単位のビニル単位の分布の態様は、特に限定されず、例えば、分布に偏りがあってもよい。ビニル単位の分布を制御するための方法としては、重合中にビニル化剤を添加する方法や、重合温度を変化させる方法等が挙げられる。また、共役ジエン単量体単位の水添率の分布に偏りがあってもよい。水添率の分布は、ビニル単位の分布の状況を変更する方法や、イソプレンとブタジエンを共重合した後に、後述される水添触媒を用いて水添し、イソプレン単位とブタジエン単位の水添速度の差を利用する方法等により制御することができる。
【0050】
制振剤(C)は、耐熱性、耐老化性及び耐候性の観点から、水添前の共役ジエン単量体単位中に含まれる不飽和結合のうち、好ましくは75mol%以上が、より好ましくは85mol%以上が、更に好ましくは97mol%以上が水添されている。
【0051】
水添に用いる水添触媒は特に限定されず、従来公知である
(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、
(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、
(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒を用いることができる。
【0052】
具体的な水添触媒としては、特公昭42-008704号公報、特公昭43-006636号公報、特公昭63-004841号公報、特公平01-037970号公報、特公平01-053851号公報、特公平02-009041号公報等に記載された水添触媒を使用することができる。これらの中でも、好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物等の還元性有機金属化合物が挙げられる。
【0053】
チタノセン化合物としては、例えば、特開平08-109219号公報に記載された化合物が使用でき、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上有する化合物等が挙げられる。
【0054】
還元性有機金属化合物としては、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0055】
制振剤(C)における上記水添前のブロック共重合体の重合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することもできる。例えば、特公昭36-019286号公報、特公昭40-23798号公報、特公昭43-017979号公報、特公昭46-032415号公報、特公昭49-036957号公報、特公昭48-002423号公報、特公昭48-004106号公報、特公昭56-028925号公報、特開昭59-166518号公報、特開昭60-186577号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0056】
必要に応じて、ブロック共重合体の水素添加物は、極性基を有してもよい。極性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、チオカルボン酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、アルコキシケイ素基、ハロゲン化スズ基、ボロン酸基、ホウ素含有基、ボロン酸塩基、アルコキシスズ基、フェニルスズ基等が挙げられる。
【0057】
架橋する前の制振剤(C)の重量平均分子量は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、好ましくは5万以上であり、成形流動性の観点から、好ましくは40万以下であり、より好ましくは5万~30万である。分子量分布(Mw/Mn:重量平均分子量/数平均分子量)は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、1に近い値であることが好ましい。重量平均分子量及び数平均分子量は、溶媒に、テトラヒドロフラン(1.0mL/分)を使用し、オーブン温度40℃の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;島津製作所製、装置名「LC-10」)、カラム:TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm、2本)により求めることができる。重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算分子量として算出される。
【0058】
前記共役ジエン単量体単位を主体とするブロックBは、共役ジエン単量体単位を主体として含み、かつビニル芳香族単量体単位を含む共重合体ブロック(以下、共重合体ブロックB’という。)であることが、制振性と機械強度の観点から好ましい。
【0059】
制振剤(C)は、特に限定されず、上記した共役ジエン単量体及びビニル芳香族単量体を用いることができる。それらの中でも、圧縮永久歪みと制振性のバランスの観点から、好ましい組合せとしては、ブタジエン単位とスチレン単位とを含むブロック、イソプレン単位とスチレン単位とを含むブロック等が挙げられる。
【0060】
制振剤(C)は、少なくとも共役ジエン単量体単位を主体として含むものであればよく、各単量体の含有量は特に限定されない。特に、圧縮永久歪みと制振性のバランスの観点から、共重合体ブロックB’中におけるビニル芳香族単量体単位の含有量は、共重合体ブロックB’中における共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位の合計を100質量%としたときに10質量%以上50質量%未満であることが好ましく、30~48質量%であることがより好ましい。
【0061】
制振剤(C)は、市販品であってもよいし、合成品であってもよい。市販品としては、例えば、商品名「タフテック SOE 1605」(旭化成(株)製)等が挙げられる。
【0062】
制振剤(C)の含有量は、(A)~(D)の合計100質量%に対して、5~30質量%である。
硬度が優れ、圧縮永久歪みと制振性とがバランスよく優れる観点から、制振剤(C)の含有量としては、(A)~(D)の合計100質量%に対して、6~30質量%であることが好ましく、7~30質量%であることがより好ましく、8~25質量%であることが更に好ましい。
【0063】
<軟化剤(D)>
軟化剤(D)としては、特に制限はなく、通常ゴムに使用される軟化剤を用いることができる。軟化剤(D)としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン油、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤;コールタール、コールタールピッチなどのコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤;トール油;サブ(ファクチス);蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛等の脂肪酸又は脂肪酸塩;ナフテン酸;パイン油、ロジン又はその誘導体;テルペン樹脂、石油樹脂、アタクチックポリプロピレン、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等のエステル系軟化剤;マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、液状チオコール、炭化水素系合成潤滑油などが挙げられる。
これらの中でも、軟化剤(D)としては、石油系軟化剤を含むことが好ましく、プロセスオイル、パラフィン油又は炭化水素系合成潤滑油を含むことがより好ましく、プロセスオイルであることが更に好ましい。
【0064】
これら軟化剤(D)の含有量は、(A)~(D)の合計100質量%に対して、10~45質量%である。
耐油性及び成形性に優れる観点から、軟化剤(D)の含有量は、(A)~(D)の合計100質量%に対して、13~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましく、17~35質量%であることが更に好ましい。
軟化剤(D)が上記含有量であると、熱可塑性エラストマー組成物の作製時及び成形時の流動性に優れ、例えば、カーボンブラック等の分散性を向上させ、得られる成形体の機械物性を低下させ難い。また、得られる成形体は、耐熱性、耐油性及び成形性に優れる。
軟化剤(D)は、1種単独であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
<フェノール樹脂系架橋剤(E)>
熱可塑性エラストマー組成物はフェノール樹脂系架橋剤(E)(以下、「架橋剤(E)」ともいう。)を含む。架橋剤(E)としては、レゾール樹脂でありアルキル置換フェノール又は非置換フェノールのアルカリ媒体中のアルデヒドでの縮合、好ましくはホルムアルデヒドでの縮合、又は二官能性フェノールジアルコール類の縮合により製造されることも好ましい。アルキル置換フェノールは1~10の炭素原子のアルキル基置換体が好ましい。更にはp-位において1~10の炭素原子を有するアルキル基で置換されたジメチロールフェノール類又はフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂系硬化樹脂は、典型的には、熱架橋性樹脂であり、フェノール樹脂系架橋剤又はフェノール樹脂とも呼ばれる。
【0066】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、架橋剤(E)を含むことにより、有機過酸化物での架橋により生じうる制振剤(C)のラジカル分解反応が生じないため、制振性を維持することができ、圧縮永久歪みと制振性とのバランスが優れると推定される。
【0067】
架橋剤(E)の例としては、下記一般式[XV]で表される化合物を挙げることができる。
【0068】
【0069】
式中、Qは、-CH2-及び-CH2-O-CH2-からなる群から選ばれる二価の基であり、mは0又は1~20の正の整数であり、R'は有機基である。
好ましくは、Qは、二価基-CH2-O-CH2-であり、mは0又は1~10の正の整数であり、R'は20未満の炭素原子を有する有機基である。より好ましくは、mは0又は1~5の正の整数であり、R'は4~12の炭素原子を有する有機基である。
【0070】
具体的にはアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、メチロール化アルキルフェノール樹脂、ハロゲン化アルキルフェノール樹脂等が挙げられ、好ましくはハロゲン化アルキルフェノール樹脂であり、更に好ましくは、末端の水酸基を臭素化したものである。フェノール樹脂系硬化樹脂において、末端が臭素化されたものの一例を下記一般式[XVI]に示す。
【0071】
【0072】
式中、nは0~10の整数、Rは炭素数1~15の飽和炭化水素基である。
【0073】
前記フェノール樹脂系硬化樹脂の製品例としては、タッキロール(登録商標)201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、タッキロール(登録商標)250-I(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、タッキロール(登録商標)250-III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、PR-4507(群栄化学工業(株)社製)、Vulkaresat510E(Hoechst社製)、Vulkaresat532E(Hoechst社製)、Vulkaresen E(Hoechst社製)、Vulkaresen105E(Hoechst社製)、Vulkaresen130E(Hoechst社製)、Vulkaresol315E(Hoechst社製)、Amberol ST 137X(Rohm&Haas社製)、スミライトレジン(登録商標)PR-22193(住友デュレズ(株)社製)、Symphorm-C-100(Anchor Chem.社製)、Symphorm-C-1001(Anchor Chem.社製)、タマノル(登録商標)531(荒川化学(株)社製)、Schenectady SP1059(Schenectady Chem.社製)、Schenectady SP1045(Schenectady Chem.社製)、CRR-0803(U.C.C社製)、Schenectady SP1055F(Schenectady Chem.社製、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、Schenectady SP1056(Schenectady Chem.社製)、CRM-0803(昭和ユニオン合成(株)社製)、Vulkadur A(Bayer社製)が挙げられる。その中でも、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤が好ましく、タッキロール(登録商標)250-I、タッキロール(登録商標)250-III、Schenectady SP1055Fなどの臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂がより好ましく使用できる。
【0074】
ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤は、共重合体(A)との相溶性に優れるとともに、反応性に富んでおり、架橋反応開始時間を比較的早くできるので好ましい。また、有機過酸化物での架橋により生じうる制振剤(C)のラジカル分解反応が生じないため、制振性を維持することが可能となる。
【0075】
また、熱可塑性加硫ゴムのフェノール樹脂による架橋の具体的な例としては、米国特許第4,311,628号明細書、米国特許第2,972,600号明細書及び米国特許第3,287,440号明細書に記載され、これらの技術も本発明で用いることができる。
【0076】
米国特許第4,311,628号明細書には、フェノール系硬化性樹脂(phenolic curing resin)及び加硫活性剤(cure activator)からなるフェノール系加硫剤系(phenolic curative system)が開示されている。該系の基本成分は、アルカリ媒体中における置換フェノール(例えば、ハロゲン置換フェノール、C1-C2アルキル置換フェノール)又は非置換フェノールとアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドとの縮合によるか、あるいは二官能性フェノールジアルコール類(好ましくは、パラ位がC5-C10アルキル基で置換されたジメチロールフェノール類)の縮合により製造されるフェノール樹脂系架橋剤である。アルキル置換フェノール樹脂系架橋剤のハロゲン化により製造されるハロゲン化されたアルキル置換フェノール樹脂系架橋剤が、特に適している。メチロールフェノール硬化性樹脂、ハロゲン供与体及び金属化合物からなるフェノール樹脂系架橋剤が特に推奨でき、その詳細は米国特許第3,287,440号及び同第3,709,840号各明細書に記載されている。
【0077】
非ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤は、ハロゲン供与体と同時に、好ましくはハロゲン化水素受酸剤とともに使用される。通常、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤、好ましくは、2~10質量%の臭素を含有している臭素化フェノール樹脂系架橋剤はハロゲン供与体を必要としないが、例えば酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛、好ましくは酸化亜鉛のような金属酸化物のごときハロゲン化水素受酸剤と同時に使用される。これら酸化亜鉛などのハロゲン化水素受酸剤は、フェノール樹脂系架橋剤100質量部に対して、通常0.1~20質量部用いられる。このような受酸剤の存在はフェノール樹脂系架橋剤の架橋作用を促進するが、フェノール樹脂系架橋剤で容易に加硫されないゴムの場合には、ハロゲン供与体及び酸化亜鉛を共用することが望ましい。
ハロゲン化フェノール系硬化性樹脂の製法及び酸化亜鉛を使用する加硫剤系におけるこれらの利用は米国特許第2,972,600号及び同第3,093,613号各明細書に記載されており、その開示は前記米国特許第3,287,440号明細書及び同第3,709,840号明細書の開示とともに参考として明細書にとり入れるものとする。
適当なハロゲン供与体の例としては、例えば、塩化第一錫、塩化第二鉄、又は塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン及びポリクロロブタジエン(ネオプレンゴム)のようなハロゲン供与性重合体が挙げられる。本明細書で使用されている「加硫促進剤」なる用語はフェノール樹脂系架橋剤の架橋効率を実質上増加させるあらゆる物質を意味し、そして金属酸化物及びハロゲン供与体を包含し、これらは単独で、又は組み合わせて使用される。フェノール系加硫剤系のより詳細に関しては、「Vulcanization and Vulcanizing Agents」(W. Hoffman, Palmerton Publishing Company)を参照されたい。
【0078】
フェノール樹脂系架橋剤及び臭素化フェノール樹脂系架橋剤は、市販品であってもよいし、合成品であってもよい。市販品としては、例えば、商品名「SP-1045」、「CRJ-352」、「SP-1055F」及び「SP-1056」(以上、Schenectady Chemicals, Inc.社製)が挙げられる。
【0079】
架橋剤(E)は、分解物の発生が少ないため、フォギング防止の観点から好適な加硫剤である。架橋剤(E)は、ゴムの本質的に完全な加硫を達成させるに充分な量で使用される。
【0080】
本発明においては、架橋剤(E)の存在下での熱処理に際し、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p'-ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N,4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン-N,N'-m-フェニレンジマレイミドのようなペルオキシ架橋助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートなどの多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルステアレートなどの多官能性ビニルモノマー等の助剤を配合することができる。
【0081】
上記助剤を用いることにより、均一かつ穏やかな架橋反応が期待できる。上記助剤としては、ジビニルベンゼンが好ましい。ジビニルベンゼンは、取扱い易く、共重合体(A)及び重合体(B)との相溶性が良好であり、かつ、架橋剤(E)を可溶化する作用を有し、架橋剤(E)の分散剤として働くため、熱処理による架橋効果が均質で、流動性と物性のバランスのとれた熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0082】
上記助剤は、共重合体(A)100質量部に対して、通常2質量部以下、好ましくは0.3~1質量部となるような量で用いられる。
【0083】
また、架橋剤(E)の分解を促進するために、分散促進剤を用いてもよい。分解促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、2,4,6-トリ(ジメチルアミノ)フェノールなどの三級アミン;アルミニウム、コバルト、バナジウム、銅、カルシウム、ジルコニウム、マンガン、マグネシウム、鉛、水銀等、ナフテン酸と種々の金属(例えば、Pb、Co、Mn、Ca、Cu、Ni、Fe、Zn、希土類)とのナフテン酸塩等が挙げられる。
【0084】
架橋剤(E)は、共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~12質量部の割合で用いられる。架橋剤(E)の含有量を上記範囲にすることにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の機械物性や成形加工性が良好である。また本発明における、共重合体(A)の架橋の程度は特に制限はないが、架橋剤(E)の量を本発明の範囲内で変えることで調整可能である。
上記観点から、架橋剤(E)の含有量としては、共重合体(A)100質量部に対して、2~10質量部であることがより好ましく、3~9質量部であることがさらに好ましい。
【0085】
(その他の成分)
熱可塑性エラストマー組成物は、発明の効果を損なわない範囲において、上記共重合体(A)、上記重合体(B)、制振剤(C)、軟化剤(D)及び架橋剤(E)以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、特に限定されないが、受酸剤(F)、無機充填剤(G)等が挙げられる。また、添加剤としては、共重合体(A)以外のゴム(例えば、ポリイソブチレン、ブチルゴム、プロピレン・エチレン共重合体ゴム、プロピレン・ブテン共重合体ゴム及びプロピレン・ブテン・エチレン共重合体ゴムなどのプロピレン系エラストマー、エチレン・プロピレン共重合体ゴムなどのエチレン系エラストマー);熱硬化性樹脂、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂等の結晶性プロピレン系重合体(B)以外の樹脂;紫外線吸収剤;酸化防止剤;耐熱安定剤;老化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤;帯電防止剤;金属セッケン;脂肪族アミド;ワックスなどの滑剤等、ポリオレフィンの分野で用いられている公知の添加剤が挙げられる。
その他の成分は、1種単独であってもよいし、2種以上併用してもよい。
【0086】
無機充填剤(G)としては、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、シリカ、ケイソウ土、雲母粉、アスベスト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、二硫化モリブデン、グラファイト、カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、シラスバルーン、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
【0087】
これら無機充填剤(G)は、(A)~(D)の合計100質量部に対して、通常1~80質量部、好ましくは1~50質量部の量で用いられる。
【0088】
受酸剤(F)としては、例えば、上述の酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、受酸剤(F)としては、酸化亜鉛が好ましい。
受酸剤(F)の含有量としては、(A)100質量部に対して、0.05~5質量部であることが好ましく、0.10~3質量部であることがより好ましく、0.15~2質量部であることが更に好ましい。
熱可塑性エラストマー組成物が受酸剤(F)を含む場合、架橋剤(E)の架橋作用を促進することができる。
【0089】
老化防止剤としては、例えば、フェニルブチルアミン、N,N-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等の芳香族第2アミン系老化防止剤;ジブチルヒドロキシトルエン、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン等のフェノール系老化防止剤;ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等のチオエーテル系老化防止剤;ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等のジチオカルバミン酸塩系老化防止剤;2-メルカプトベンゾイルイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系老化防止剤がある。
【0090】
共重合体(A)以外のゴムを用いる場合には、ゴムは、(A)~(D)の合計100質量部に対して、通常2~100質量部、好ましくは5~80質量部の量で用いる。
【0091】
また、本明細書において特に言及している添加剤以外の添加剤の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、(A)~(D)の合計100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.0001以上10質量部未満であることがより好ましく、0.01~5質量部程度であることが更に好ましい。
【0092】
(熱可塑性エラストマー組成物の製造方法)
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、共重合体(A)、重合体(B)、制振剤(C)、軟化剤(D)及び必要に応じて配合される添加剤を含む混合物を、架橋剤(E)の存在下に、動的に熱処理して架橋(動的架橋)することによって得られる。
【0093】
「動的に熱処理する」とは、架橋剤の存在下で、前記混合物を溶融状態で混練することをいう。また、「動的架橋」とは、混合物にせん断力を加えながら架橋することをいう。
【0094】
動的な熱処理は、非開放型の装置中で行なうことが好ましく、又は、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理の温度は、通常、重合体(B)の融点~300℃の範囲であり、好ましくは150~280℃、より好ましくは170~270℃である。混練時間は、通常1~20分間、好ましくは1~10分間である。また、加えられる剪断力は、最高剪断速度で通常10~100,000s-1、好ましくは100~50,000s-1、より好ましくは1,000~10,000s-1、更に好ましくは2,000~7,000s-1の範囲である。
【0095】
動的に熱処理する際に用いられる混練装置としては、特に制限はなく公知の混練装置を用いることができる。混練装置としては、例えば、ミキシングロール、インテンシブミキサー(例えばバンバリーミキサー、ニーダー等)、一軸押出機、二軸押出機などが挙げられる。なお、これら混練装置としては、非開放型の装置が好ましい。
【0096】
熱可塑性エラストマー組成物は、上述した共重合体(A)と、架橋剤(E)とを原料としているため、これらを含む原料を動的に熱処理して得られる熱処理物の中においては、通常、共重合体(A)が架橋されている。
【0097】
熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、前記共重合体(A)、および前記架橋剤(E)と、前記結晶性プロピレン系重合体(B)のうちの少なくとも一部とを動的に熱処理すればよいが、前記結晶性プロピレン系重合体(B)は全量を当該動的熱処理に供してもよく、また前記軟化剤(D)および任意の添加剤は、それぞれ前記共重合体(A)、前記架橋剤(E)、および前記結晶性プロピレン系重合体(B)のうちの少なくとも一部と共に動的に熱処理してもよく、前記熱処理物と混合してもよく、これらの両者(すなわち、一部を動的に熱処理し、残りを前記熱処理物と混合する。)であってもよい。
熱可塑性エラストマー組成物としては、前記軟化剤(D)としてパラフィン系プロセスオイルを含む組成物が好ましい。
【0098】
[成形体]
本発明に係る成形体は、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を含むことを特徴としている。
成形体は、例えば、上記熱可塑性エラストマー組成物を、押出成形、射出成形、圧縮成形等の従来のプラスチック成形法によって成形することにより得られる。また、このような成形法によって生じた屑やバリを回収して再利用することもできる。
本発明に係る成形体は、機械特性の点から、JIS K 6253に準拠して測定したショアA硬度(瞬間値)が50を超えることが好ましく、成形体にする際の硬度調整の観点から60以上であることがより好ましく、70以上であることが更に好ましい。本発明に係る成形体の硬度の上限は特に制限されないが、例えばショアD硬度(瞬間値)が50以下であるものとすることができる。ショアA硬度(瞬間値)およびショアD硬度(瞬間値)は、後述の実施例に記載の測定方法により求められる。
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を用いる場合、射出成形して得られる成形体は、外観に優れる。具体的には、成形体表面にべたつきがなく、フローマークが発生しない。なぜなら、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物であれば、制振剤(C)が共重合体(A)や重合体(B)との相溶性に優れるためオイル成分のブリードアウトが無く、さらに架橋剤による制振剤(C)のラジカル分解反応が生じないため、低分子量成分の発生が生じないためである。
【0099】
成形体としては、例えば、バンパー部品、ボディパネル、サイドシールド、グラスランチャンネル、インストルメントパネル表皮、ドア表皮、天井表皮、ウェザーストリップ材、ホース、ステアリングホイール、ブーツ、ワイヤーハーネスカバー、シートアジャスターカバー、シール材等の自動車部品;電線被覆材、コネクター、キャッププラグ等の電気部品;靴底、サンダル等の履物;水泳用フィン、水中眼鏡、ゴルフクラブグリップ、野球バットグリップ等のレジャー用品、ガスケット、防水布、ベルト、ガーデンホース;土木・建築用各種ガスケット及びシートなどが挙げられる。
成形体としては、特に制振性が求められる用途に適しており、自動車用のシール材等の自動車部品が好ましい用途であり、自動車用グラスランチャンネル、ホールプラグ、エンジンやバッテリー、タイヤ等の騒音源の遮音部品が特に好ましい用途として挙げられる。
【0100】
成形体としては、前述のように自動車部品が好ましく、自動車部品のより詳細な例としては、機構部材、内装部材、外装部材、その他部材が挙げられる。
機構部材としては、CVJブーツ、サスペンションブーツ、ラック&ピニオンブーツ、ステアリングロッドカバー、ATクッション、ATスライドカバー、リーフスプリングブッシュ、ボールジョイントリテーナ、タイミングベルト、Vベルト、エンジンルーム内ホース、エアーダクト、エアバッグカバー、プロペラシャフトカバー材などが挙げられる。
【0101】
内装部材としては、各種表皮材(インストルメンタルパネル、ドアトリム、天井、リアピラー)、コンソールボックス、アームレスト、エアバックケースリッド、シフトノブ、アシストグリップ、サイドステップマット、リクライニングカバー、トランク内シート、シートベルトバックル、レバースライドプレート、ドアラッチストライカー、シートベルト部品、ダッシュサイレンサー、ホールプラグスイッチ類などが挙げられる。
【0102】
外装部材としては、各種モール材(インナー/アウターウィンドウモール、ルーフモール、ベルトモール、サイドトリムモール)、ドアシール、ボディシール、グラスランチャンネル、泥よけ、キッキングプレート、ステップマット、ナンバープレートハウジング、消音ギア、コントロールケーブルカバー、フェンダーシール、エンブレムなどが挙げられる。
【0103】
その他部材としては、エアダクトパッキン、エアダクトホース、エアダクトカバー、エアインテークパイプ、エアダムスカート、タイミングベルトカバーシール、オープニングシール・トランクシール部材、ボンネットクッション、燃料タンクバンド、ケーブルなどが挙げられる。
【0104】
成形体は、雑貨、日用品又はこれらの部材であってもよい。雑貨、日用品又はこれらの部材としては、グリップ(例えば、ボールペン、シャープペンシル、歯ブラシ、カップ、使い捨てカミソリ、手すり、カッター、電動工具、ドライバー、電源ケーブル、ドアなどのグリップ)、アシストグリップ、シフトノブ、玩具、手帳表皮、ガスケット(例えば食器・タッパーなどのガスケット)、各種足ゴム、スポーツ用品(例えば、シーズソール、スキーブーツ、スキー板、スキービンディング、スキーソール、ゴルフボール、ゴーグル部材、スノーボード部材、スノーボードシューズ、スノーボードビンディング、サーフボード部材、ボディボード、バナナボート、カイトボード、シュノーケリング部材、水上スキー部材、パラセーリング部材、ウェイクボード部材などのスポーツ用品)、ベルト(例えば、時計用ベルト、ファッションベルトなどのベルト)、ヘアブラシ、浴槽パネルボタンシート、キャップ、靴のインナーソール、健康器具部材等が挙げられる。
【実施例0105】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらの実施例に制約されるものではない。
【0106】
実施例及び比較例において使用した原材料を以下に示す。なお、特に断らない限り、いずれの原材料も常法に従い重合を行い調製したか、市販品を調達した。
【0107】
(原材料)
[エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)]
・「共重合体(A)」:油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン含量=63質量%、プロピレン含量=32.5質量%、非共役ジエン種:5-エチリデン-2-ノルボルネン、非共役ジエン含量=4.5質量%、非共役ジエン含量(ヨウ素価)=13、極限粘度[η]=3.4(dL/g)、ゴム成分100質量部に対する油展量=40(PHR))
なお、下記表1中の共重合体(A)の数値は、油展量を除いたゴム成分のみの配合量を示す。換言すれば、下記表1中の軟化剤(D)の数値は、共重合体(A)に油展された軟化剤と、外添された軟化剤の合計量を示す。共重合体(A)の油展には、下記軟化剤(D)を用いた。
【0108】
[結晶性プロピレン系重合体(B)]
・「プロピレン系重合体(B-1)」:プロピレンホモポリマー、MFR(230℃、2.16kg荷重)=50g/10分)、DSCで測定した融点:160℃)
【0109】
[制振剤(C)]
・「ビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体の水素添加物(C-1)」:タフテック SOE 1605 旭化成(株)製
水素添加:完全水添
重合体ブロックA:スチレン(37質量%)
共重合体ブロックB’:スチレン(29質量%)とブタジエン(34質量%)
重量平均分子量:20万
【0110】
・「ビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体の水素添加物(c-2)」:タフテック SOE 1606 旭化成(株)製
水素添加:完全水添
重合体ブロックA:スチレン(30質量%)
共重合体ブロックB’:スチレン(20質量%)とブタジエン(50質量%)
重量平均分子量:15万
【0111】
・「4-メチル-1-ペンテン・エチレン及び/又はα-オレフィン共重合体(c-3)」:アブソートマーEP-1001 三井化学(株)製
【0112】
・「ブチルゴム(c-4)」:Butyl065 日本ブチル(株)製
【0113】
[軟化剤(D)]
・「軟化剤(D-1)」:パラフィン系プロセスオイル(商品名:ダイアナプロセスオイル(登録商標) PW-100、出光興産(株)製)
【0114】
[架橋剤(E)]
・「架橋剤(E-1)」:臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(商品名:SP-1055F、Schenectady社製)
・「架橋剤(e-2)」:有機パーオキシド(パーヘキサ25B、日本油脂(株)製)
【0115】
[その他の添加物]
・「受酸剤」:酸化亜鉛(酸化亜鉛2種、ハクスイテック社製)
・「架橋助剤」:ジビニルベンゼン DVB-810(新日鉄住金化学(株)製)
【0116】
(測定方法)
実施例および比較例で使用した各成分の組成や物性は、以下の方法により測定した。
<構成単位の質量分率>
前記共重合体(A)中に含まれる各構成単位の質量分率(質量%)は、13C-NMRによる測定値により求めた。具体的には、ECX400P型核磁気共鳴装置(日本電子(株)製)を用いて、測定温度:120℃、測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=4/1(体積比)、積算回数:8000回の条件で得られた共重合体(A)の13C-NMRのスペクトルから算出した。
【0117】
<メルトフローレート(MFR)>
プロピレン系重合体(B-1)のMFRは、ASTM D-1238に準拠し、230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0118】
<極限粘度>
前記共重合体(A-1)の極限粘度[η](dL/g)は、(株)離合社製全自動極限粘度計を用いて、温度:135℃、測定溶媒:デカリンにて測定した。
【0119】
<融点>
前記プロピレン系重合体(B-1)の融点は、JIS K 7121に準拠して示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定した。具体的には、プロピレン系重合体(B-1)のペレットを、230℃で10分間加熱し、次いで、30℃まで10℃/分の速度で降温した後1分間保持し、その後、10℃/分の速度で昇温した。この際のDSC曲線において、吸収熱量が最大の温度を融点とした。
【0120】
[実施例1]
共重合体(A-1)とプロピレン系重合体(B-1)、ビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体の水素添加物(C-1)、軟化剤(D-1)、フェノール樹脂系架橋剤(E-1)、受酸剤を表1の配合量になるように添加し、原料とした。
原料の全量を押出機(品番 KTX-30、(株)神戸製鋼所製、シリンダー温度:C1=50℃、C2=90℃、C3=100℃、C4=120℃、C5=180℃、C6=200℃、C7~C14=200℃、ダイス温度:200℃、スクリュー回転数:500rpm、押出量:40kg/h)を用いて、混練しながら動的架橋させ、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0121】
[実施例2~9および比較例1~4]
用いる原材料の種類および量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
表1中、(A)~(D)の配合の欄の数値は、(A)~(D)の合計100質量%に占める割合を示す。また、架橋剤(E)およびその他の添加剤の配合量は、共重合体(A)100質量部に対する量として記載している。
【0122】
<プレスシートの作製と試験片の作成>
実施例1~9または比較例1~4で得られた熱可塑性エラストマー組成物の各々のペレットから、射出成形機を用いて、120mm×150mmで厚さ2mmのプレスシート(角板)を得た。その後、得られたプレスシートから3号ダンベル片を打ち抜いて、厚さ2mmの試験片を作製した。
射出成形性を、以下の指標により角板外観から目視評価した。結果を表1に示す。
A・・・角板表面にべたつきがなく、フローマークが見られなかった。
B・・・角板表面にべたつきがなく、フローマークが見られた。
C・・・角板表面にべたつきがあった。
【0123】
また、物性測定用サンプルを用いて下記の方法に従って物性を評価した。
<ショア硬度>
JIS K 6253に準拠して、前述の方法で作製した厚さ2mmのプレスシートを3枚重ねてサンプルとして用い、デュロメータを用いてショアA硬度(瞬間値)を求めた。A硬度が95以上のものに関してはショアD硬度(5秒後)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0124】
<引張特性(TB)>
前述の方法で作成したダンベル状3号形試験片に対して、JIS K 6301に準拠して引張試験(引張速度:500mm/分、測定温度:23℃)を行い、引張破断強度(MPa)(TB)を測定した。結果を表1に示す。
【0125】
<圧縮永久歪み(CS)>
JIS K 6250に準拠して、厚さ2mmのプレスシートを6枚重ねて厚み12mmの積層シートとした。得られた積層シートに対して、JIS K 6262に準拠して、23℃または70℃で22時間長さ方向に25%圧縮した後、圧縮装置から取り出して30分後の成形体の長さを測定し、圧縮永久歪みを計算した。結果を表1に示す。
【0126】
<制振性評価:粘弾性測定および23℃におけるマスターカーブの作成>
前述の方法で作製した厚さ2mmのプレスシートを用いて、試験片有効サイズを、長さ20mm×幅10mm×厚さ2mmで測定するため、短冊片を切り出した。粘弾性測定装置(商品名:RSA-III、TA Instrumens JAPAN Inc.社製)を用いて、下記測定条件で動的粘弾性の周波数依存性を測定した。当該測定で得られた、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)との比(G’’/G’)である損失正接(tanδ)が得られる。
(測定条件)
周波数(Frequency):0.016~15.9 Hz
温度(Temperature):0℃、23℃、50℃
歪み(Strain):0.6%
ついで、温度-周波数の換算則であるWLF式(JIS K 6394記載の実験式(13))を用いて23℃を基準温度とし、シフトファクターを求めた。
0℃におけるシフトファクター=1.0×104
50℃におけるシフトファクター=2.0×10-4
このシフトファクターに従って、各測定温度における損失正接(tanδ)と周波数依存曲線をシフトさせることにより23℃におけるマスターカーブを作成し、制振性を評価した。
本マスターカーブにおいて、100~10000Hzの領域において損失正接(tanδ)の最大値が0.25以上になった場合に〇と表記し、最大値が0.25未満になった場合に×と表記した。
【0127】