(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093242
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】信号処理方法、信号処理装置及び信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 11/06 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01H11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209490
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】轟原 正義
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】回転パルス信号を必要とせずに対象物の状態を表す指標を算出することが可能な信号処理方法を提供すること。
【解決手段】Nを1以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、前記対象物の状態を表す指標として、前記各整数iに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第iの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数の有理数倍の周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、を含む、信号処理方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
を含む、信号処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1~第Nの時間波形に基づいて、前記対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する第2状態指標算出工程を含む、信号処理方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成するリサージュ図形生成工程を含む、信号処理方法。
【請求項4】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出回路と、
を備える、信号処理装置。
【請求項5】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
をコンピューターに実行させる、信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理方法、信号処理装置及び信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機器の振動診断において、回転の位相情報を用いた診断を実施しようとする場合、回転機器から振動時間波形と回転パルス信号を得た上で、回転パルス信号に同期する振動波形成分を取り出し、診断を実施する。例えば、非特許文献1には、回転パルスを絶対基準とした振動時間波形やオービット図を得る、また回転パルスに同期した振動波形成分を抽出しフルスペクトラムを得る等により、目的とする診断を実施する方法および手順が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】API Standard 670. Machinery Protection Systems. FIFTH EDITION | NOVEMBER 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の手法では、回転機器から回転パルス信号を得て、回転パルス信号に同期する振動波形成分を取り出すために、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等のシグナルコンディショナーを併用して前処理を行う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る信号処理方法の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
を含む。
【0006】
本発明に係る信号処理装置の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出回路と、
を備える。
【0007】
本発明に係る信号処理プログラムの一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】減衰のある場合の1自由度系の強制振動モデルを示す図。
【
図2】第1実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
【
図9】第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
【
図10】第2実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
【
図12】リサージュ図形の経時変化の一例を示す図。
【
図13】リサージュ図形の経時変化の一例を示す図。
【
図14】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
【
図15】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
【
図16】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
【
図17】第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
【
図18】第3実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
【
図21】第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0010】
1.第1実施形態
1-1.考察
図1に示すように、減衰のある場合の1自由度系の強制振動モデルを仮定し、振動の位相情報から減衰定数を算定することを考える。質量mに対し調和外力を印加した場合の運動方程式の解は、調和外力を0とした時の基本解と、調和外力に対応する特解の和で与えられ、
図1のモデルに対応する定常状態における振動については、特解の振る舞いを考えればよい。調和外力の角周波数をωとすると、運動方程式は式(1)の形で表される。式(1)において、xは質量mの変位であり、kはバネ定数であり、cは減衰係数である。
【0011】
【0012】
式(1)の特解は式(2)の形で表される。φは式(3)で与えられ、ωnは系の共振角振動数であり、ζは減衰定数である。
【0013】
【0014】
【0015】
式(3)をζについて解くと、式(4)が得られる。
【0016】
【0017】
外力Fが式(5)の形で表される場合、定常状態における振動は、式(6)のように、対応する特解の和で与えられる。
【0018】
【0019】
【0020】
式(4)において、φをφmに置き換え、ωをmωに置き換え、ζをζmに置き換えることにより、式(7)の関係が得られる。
【0021】
【0022】
外力Fが既知である特殊な場合を考えると、定常状態での2つの調和振動についての位相φk,φlがわかれば、減衰定数ζの周波数依存性が無視できると仮定してζk=ζlと置くことにより、式(8)の関係が得られる。ωは既知なので、式(8)よりωnが求まり、式(7)より、減衰定数ζを算定することができる。
【0023】
【0024】
一般に、回転機器の構成部品の劣化は、振動強度の増加として顕在化するよりも前に、バネ定数kや減衰定数ζの変化として現れることが知られている。上記のように、基本波および高調波に対応する複数の振動ピークについて、2つ以上の位相を取得すれば減衰定数ζを算定することができる。このことは、振動の位相には回転機器の状態に対応する情報が含まれており、2つの位相の差分が分析対象の状態を表す指標となり得ることを示唆している。すなわち、(φl+φl0)-(φk+φk0)のような値を指標として監視することで、バネ定数kや減衰定数ζのいずれかの変化を疑うことができる。
【0025】
1-2.信号処理方法
図2は、第1実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。
図2に示すように、第1実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、を含む。なお、第1実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第1実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0026】
図2に示すように、まず、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10において、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する。Nは2以上の所定の整数である。
【0027】
第iの物理量は、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる物理量である。
【0028】
第iの時間波形は、第iのセンサーから出力されるデジタル信号の時系列データであってもよいし、第iのセンサーから出力されるアナログ信号がアナログフロントエンドによって変換されたデジタル信号の時系列データであってもよい。対象物は、信号処理の対象となる物であり、その種類は特に限定されず、例えば、回転機構や振動機構を有するモーター等の各種の装置であってもよいし、外力によって振動する橋梁やビル等の構造物であってもよいし、周期性を有する信号を発生させる電気回路であってもよい。以下では、第1~第Nの時間波形は、互いに同期しているものとするが、第1~第Nの時間波形の2つ以上が互いに非同期である場合は、第1~第Nの時間波形を、所定のサンプリングレートでリサンプリングすることによって同期させればよい。
【0029】
第1~第Nの物理量の種類は特に限定されず、例えば、第1~第Nの物理量は、加速度、角速度、速度、変位、圧力、電流、電圧等であってもよい。第1~第Nの物理量は、同じ種類の物理量であってもよい。すなわち、第1~第Nのセンサーは同じ種類の物理量を検出するセンサーであってもよい。例えば、互いに直交するx軸、y軸およびz軸に対して、第1のセンサーは第1の物理量としてx軸方向の速度を検出し、第2のセンサーは第2の物理量としてy軸方向の速度を検出し、第3のセンサーは第3の物理量としてz軸方向の速度を検出してもよい。あるいは、第1~第Nのセンサーの一部が他と異なる種類の物理量を検出するセンサーであってもよい。例えば、第1のセンサーは第1の物理量としてx軸方向の加速度を検出し、第2のセンサーは第2の物理量としてy軸方向の角速度を検出してもよい。また、第1~第Nのセンサーは、例えば、MEMSを用いたセンサーであってもよいし、水晶振動子を用いたセンサーであってもよい。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。また、第1~第Nのセンサーは、例えば、IMU等の1つの装置に内蔵されていてもよいし、第1~第Nのセンサーの少なくとも1つが他のセンサーから物理的に分離していてもよい。IMUは、Inertial Measurement Unitの略である。
【0030】
図3に、対象物の一例である真空ポンプ1を示す。
図3に示すように、真空ポンプ1は基台20上に設置される。真空ポンプ1は断面形状が略長丸の柱状である。真空ポンプ1の長手方向をX方向とする。長丸の長軸方向をY方向とし、長丸の短軸方向をZ方向とする。
【0031】
真空ポンプ1は筐体3を備える。筐体3は-X方向側から+X方向側に向かって配置されたモーターケース4、接続部5、ポンプケース6及びギアケース7を備える。筐体3は接続部5とポンプケース6との間に軸受ケーシングとしての第1側壁8を備える。筐体3はポンプケース6とギアケース7との間に第2側壁9を備える。
【0032】
ポンプケース6には+Z方向側の面に吸気管11が接続される。ポンプケース6には-Z方向側の面に排気管12が接続される。
【0033】
接続部5は基台20側に第1脚部13及び第2脚部を備える。第1脚部13は-Y方向側に配置され、第2脚部は+Y方向側に配置される。ギアケース7は基台20側に第3脚部14及び第4脚部を備える。第3脚部14は-Y方向側に配置され、第4脚部は+Y方向側に配置される。第1脚部13~第4脚部は第1ボルト15により基台20に締結される。
【0034】
筐体3にはセンサーユニット17が取り付けられる。センサーユニット17は、例えば接続部5に取り付けられる。センサーユニット17は、その内部に不図示の第1~第Nのセンサーを備えている。例えば、第1のセンサーはx軸方向の速度を検出する速度センサーであり、第2のセンサーはy軸方向の速度を検出する速度センサーであり、第3のセンサーはz軸方向の速度を検出する速度センサーであってもよい。例えば、センサーユニット17は、x軸、y軸及びz軸の各方向がそれぞれ+X方向、+Y方向及び+Z方向と一致するように取り付けられる。
【0035】
図4に、整数Nを3として、信号処理装置100が、時間波形取得工程S10において取得する第1~第Nの時間波形の一例を示す。
図4に示す3つの時間波形は、
図3に示した真空ポンプ1のような回転機器に取り付けられた3軸速度センサーの出力信号に基づく3軸速度の時間波形である。
図4の例では、整数Nが3であり、x軸速度Vxの時間波形が第1の時間波形に相当し、y軸速度Vyの時間波形が第2の時間波形に相当し、z軸速度Vzの時間波形が第3の時間波形に相当する。
図4において、横軸は時間であり、縦軸は速度である。x軸速度Vxは、3軸速度センサーに内蔵されている第1のセンサーとしてのx軸速度センサーによって検出された速度である。y軸速度Vyは、3軸速度センサーに内蔵されている第2のセンサーとしてのy軸速度センサーによって検出された速度である。z軸速度Vzは、3軸速度センサーに内蔵されている第3のセンサーとしてのz軸速度センサーによって検出された速度である。
図4では、取得された各時間波形のうちの1秒間の時間波形のみが示されているが、実際には、工程S20以降の処理に必要な時間長、例えば30秒間以上の各時間波形が取得される。
【0036】
図2に示すように、次に、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得工程S10で取得した第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する。例えば、信号処理装置100は、第1~第Nの時間波形をそれぞれ高速フーリエ変換して第1~第Nの周波数スペクトルを生成してもよい。
【0037】
図5に、
図4のx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形のそれぞれの周波数スペクトルを示す。
図5において、横軸は周波数であり、縦軸は強度である。例えば、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、第1の周波数スペクトルとしてx軸速度Vxの周波数スペクトルを生成し、第2の周波数スペクトルとしてy軸速度Vyの周波数スペクトルを生成し、第3の周波数スペクトルとしてz軸速度Vzの周波数スペクトルを生成する。
【0038】
図2に示すように、次に、信号処理装置100は、第1状態指標算出工程S30において、対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、周波数スペクトル生成工程S20で生成した第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する。具体的には、まず、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、第1の時間波形を高速フーリエ変換して得られた複数のピークのいずれかに対応する第1の信号成分の周波数関数F(ω
1)の実数部及び虚数部から第1の信号成分のフーリエ位相φ
1を算出する。次に、信号処理装置100は、各整数jに対して、第jの時間波形を高速フーリエ変換して得られた複数のピークの1つであり、かつ、第1の信号成分と同じ周波数である第2の信号成分の周波数関数F(ω
2)の実数部及び虚数部から第2の信号成分のフーリエ位相φ
2を算出する。次に、信号処理装置100は、フーリエ位相φ
2からフーリエ位相φ
1を減算することにより、第1の信号成分の位相と第2の信号成分の位相との差分を算出する。例えば、第1の信号成分及び第2の信号成分は、ともに基本波成分であってもよいし、ともに各次数の高調波成分であってもよい。
【0039】
図6に、
図4に示したx軸速度Vx、y軸速度Vy及びz軸速度Vzにおける第1の信号成分及び第2の信号成分の各フーリエ位相の一例を示す。また、
図7に、
図6のフーリエ位相から算出されるy軸速度Vy及びz軸速度Vzの各々における位相の差分の一例を示す。なお、
図7には、参考までにx軸速度Vxのフーリエ位相も示されている。
図6及び
図7において、横軸は周波数であり、縦軸は位相である。
図5に示したように、x軸速度Vxの周波数スペクトル、y軸速度Vyの周波数スペクトル及びz軸速度Vzの周波数スペクトルは、複数のピークを含み、その一部である黒丸を付した複数のピークは、基本波成分である約84Hzのピークと第2次~第14次の高調波成分のピークである。
図7では、x軸速度Vxに含まれる約84Hzの基本波成分及び第2次~第14次の高調波成分をそれぞれ第1の信号成分とし、y軸速度Vy及びz軸速度Vzのそれぞれに含まれる約84Hzの基本波成分及び第2次~第14次の高調波成分をそれぞれ第2の信号成分として、第2の信号成分のフーリエ位相から第1の信号成分のフーリエ位相を減算して得られた位相の差分が示されている。
【0040】
図2に示すように、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S30を繰り返し行う。
【0041】
先の考察より、ユーザーは、第1~第Nの時間波形について、第1の信号成分の位相と第2の信号成分の位相との差分を監視し、当該差分に経時変化がみられる場合は、対象物の状態が変化したと推定することができる。
図8に、
図7に示したy軸速度Vy及びz軸速度Vzの各々における位相の差分の経時変化の一例を示す。なお、
図8には、参考までにx軸速度Vxのフーリエ位相の経時変化も示されている。
図8の例では、同日に計測した場合では、第14次高調波を除いて位相の差分の変化は微小である。また、6か月後には、第4次、第5次、第7次及び第10次以上の高調波において、位相の差分が大きく変化しており、6か月の間に対象物の状態が変化したと推定される。
【0042】
1-3.信号処理装置
図9は、第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例を示す図である。
図9に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、
図9の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0043】
1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサー200-iは、外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量を検出し、検出した第iの物理量に応じた大きさの信号を出力する。第1~第Nのセンサー200-1~200-Nの各々の出力信号は、アナログフロントエンド210-1~210-Nの各々に入力される。
【0044】
アナログフロントエンド210-1~210-Nの各々は、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nの各々の出力信号に対して増幅処理やA/D変換処理等を行ってデジタル時系列信号を出力する。
【0045】
処理回路110は、アナログフロントエンド210-1~210-Nから出力されるN個のデジタル時系列信号を第1~第Nの時間波形として取得し、信号処理を行う。具体的には、処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行し、第1~第Nの時間波形に対する各種の計算処理を行う。その他、処理回路110は、操作部130からの操作信号に応じた各種の処理、表示部140に各種の情報を表示させるための表示信号を送信する処理、音出力部150に各種の音を発生させるための音信号を送信する処理、不図示の外部装置とデータ通信を行うために通信部160を制御する処理等を行う。処理回路110は、例えば、CPUやDSPによって実現される。CPUはCentral Processing Unitの略であり、DSPはDigital Signal Processorの略である。
【0046】
処理回路110は、信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112及び第1状態指標算出回路113として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、第1状態指標算出回路113と、を含む。
【0047】
時間波形取得回路111は、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサー200-iから、第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する。Nは1以上の所定の整数である。すなわち、時間波形取得回路111は、
図2の時間波形取得工程S10を実行する。時間波形取得回路111が取得した第1~第Nの時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0048】
周波数スペクトル生成回路112は、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得回路111が取得した第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する。すなわち、周波数スペクトル生成回路112は、
図2の周波数スペクトル生成工程S20を実行する。周波数スペクトル生成回路112が生成した第1~第Nの周波数スペクトルは記憶回路120に記憶される。
【0049】
第1状態指標算出回路113は、対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、周波数スペクトル生成回路112が生成した第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する。すなわち、第1状態指標算出回路113は、
図2の第1状態指標算出工程S30を実行する。第1状態指標算出回路113が算出した指標は記憶回路120に記憶される。
【0050】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0051】
記憶回路120は、不図示のROM及びRAMを有している。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略である。ROMは、信号処理プログラム121等の各種プログラムやあらかじめ決められたデータを記憶し、RAMは、処理回路110が生成したデータを記憶する。RAMは、処理回路110の作業領域としても用いられ、ROMから読み出されたプログラムやデータ、操作部130から入力されたデータ、処理回路110が一時的に生成したデータを記憶する。
【0052】
操作部130は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号を処理回路110に出力する。
【0053】
表示部140は、LCD等により構成される表示装置であり、処理回路110から出力される表示信号に基づいて各種の情報を表示する。LCDは、Liquid Crystal Displayの略である。表示部140には操作部130として機能するタッチパネルが設けられていてもよい。例えば、表示部140は、処理回路110から出力される表示信号に基づいて、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部を含む画面を表示してもよい。
【0054】
音出力部150は、スピーカー等によって構成され、処理回路110から出力される音信号に基づいて各種の音を発生させる。例えば、音出力部150は、処理回路110から出力される音信号に基づいて、信号処理の開始や終了を示す音を発生させてもよい。
【0055】
通信部160は、処理回路110と外部装置との間のデータ通信を成立させるための各種制御を行う。例えば、通信部160は、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部の情報を外部装置に送信し、外部装置は、受信した情報を不図示の表示部に表示してもよい。
【0056】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112及び第1状態指標算出回路113の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。また、信号処理装置100は、単体の装置であってもよいし、複数の装置によって構成されてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-N及びアナログフロントエンド210-1~210-Nが第1の装置に含まれ、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160が第1の装置とは別体の第2の装置に含まれていてもよい。また、例えば、処理回路110及び記憶回路120がクラウドサーバー等の装置で実現され、当該装置が指標を算出し、算出した指標を、通信回線を介して操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む端末に送信してもよい。
【0057】
1-4.作用効果
第1実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が第1~第Nの時間波形から第1の信号成分の位相と第2の信号成分の位相との差分を算出するので、回転パルス信号を必要とせず、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等を併用する必要もない。また、第1~第Nの時間波形に含まれる各種の信号成分の位相には、対象物の状態に対応する情報が含まれているので、信号処理装置100が、対象物の状態を表す指標として、第1の時間波形に含まれる第1の信号成分の位相と第2~第Nの時間波形に含まれる第2の信号成分の位相との差分を算出することができる。このように、第1実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、回転パルス信号を必要とせずに対象物の状態を表す指標を算出することができる。
【0058】
また、第1実施形態の信号処理方法によれば、対象物の状態を表す指標として複数の時間波形に基づく指標が得られる。
【0059】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0060】
図10は、第2実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。
図10に示すように、第2実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、第2状態指標算出工程S60と、リサージュ図形生成工程S70と、を含む。さらに、第2実施形態の信号処理方法は、積分工程S40及び微分工程S50の少なくとも一方を含んでもよい。なお、第2実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第2実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0061】
図10に示すように、まず、信号処理装置100は、
図2と同様の時間波形取得工程S10を行って第1~第Nの時間波形を取得する。
【0062】
次に、信号処理装置100は、
図2と同様の周波数スペクトル生成工程S20を行う。次に、信号処理装置100は、
図2と同様の第1状態指標算出工程S30を行う。
【0063】
次に、信号処理装置100は、積分工程S40において、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得工程S10で取得した第iの時間波形に対して積分処理を行う。例えば、整数Nを3として、信号処理装置100は、第1~第3の時間波形として取得した前出の
図4に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形をそれぞれ積分して、x軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzの時間波形を生成する。
【0064】
次に、信号処理装置100は、微分工程S50において、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得工程S10で取得した第iの時間波形に対して微分処理を行う。例えば、整数Nを3として、信号処理装置100は、第1~第3の時間波形として取得した前出の
図4に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形をそれぞれ微分して、x軸加速度Axの時間波形、y軸加速度Ayの時間波形及びz軸加速度Azの時間波形を生成する。
【0065】
次に、信号処理装置100は、第2状態指標算出工程S60において、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形に基づいて、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する。信号処理装置100は、対象物の状態を表す指標となるベクトルとして、第1~第Nの時間波形の各時刻の値を要素とするN次元のベクトルを算出してもよい。また、信号処理装置100は、積分工程S40で第1~第Nの時間波形を積分処理して得られたN個の時間波形の各時刻の値を要素とするN次元のベクトルを算出してもよいし、微分工程S50で第1~第Nの時間波形を微分処理して得られたN個の時間波形の各時刻の値を要素とするN次元のベクトルを算出してもよい。また、信号処理装置100は、これらのいずれかのN次元のベクトルを微分してN次元の接線ベクトルを算出してもよいし、N次元の接線ベクトルをさらに階微分してN次元の主法線ベクトルを算出してもよい。例えば、当該N次元のベクトルが変位ベクトルである場合、接線ベクトルは速度ベクトルであり、主法線ベクトルは加速度ベクトルである。また、信号処理装置100は、対象物の状態を表す指標となるベクトルとして、接線ベクトルと主法線ベクトルとの外積である従法線ベクトルを算出してもよいし、さらに従法線ベクトルを単位ベクトルに変換した振動面法線ベクトルを算出してもよい。
【0066】
次に、信号処理装置100は、リサージュ図形生成工程S70において、第2状態指標算出工程S60で算出したベクトルに基づくリサージュ図形を生成する。信号処理装置100は、N次元のベクトル、接線ベクトル、主法線ベクトル、従法線ベクトル又は振動面法線ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成してもよい。
【0067】
そして、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S70を繰り返し行う。なお、信号処理装置100は、積分工程S40の前に微分工程S50を行ってもよいし、積分工程S40及び微分工程S50の少なくとも一方を行わなくてもよい。
【0068】
図11に、リサージュ図形生成工程S70で生成されるリサージュ図形の一例を示す。
図11において、A1は、積分工程S40で前出の
図4に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形を積分して生成されるx軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzの時間波形から算出される3次元変位ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。B1は、A1の変位ベクトルを微分して得られる接線ベクトルとしての3次元速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。C1は、B1の速度ベクトルをさらに微分して得られる主法線ベクトルとしての3次元加速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。D1は、B1の速度ベクトルとC1の加速度ベクトルとの外積である従法線ベクトルを単位ベクトルに変換した振動面法線ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。
図11に示されるいずれのリサージュ図形もある程度の規則性を有する軌跡となっていることがわかる。
【0069】
ユーザーは、リサージュ図形生成工程S70で生成されるリサージュ図形を監視し、ベクトルの軌跡の規則性に経時変化がみられる場合は、対象物の状態が変化したと推定することができる。
図12に、
図11のA1に示した変位ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、
図13に、
図11のB1に示した速度ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、
図14に、
図11のC1に示した加速度ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、
図15に、
図11のD1に示した振動面法線ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。
図12~
図15のいずれの軌跡も6か月後には規則性が変化しており、6か月の間に対象物の状態が変化したと推定される。
【0070】
なお、信号処理装置100は、第2状態指標算出工程S60において、第1~第Nの時間波形に含まれる特定の周波数の信号成分を抽出して、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出してもよい。例えば、信号処理装置100は、前出の
図4に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形から、約84Hzの基本波成分、第2次高調波成分、第3次高調波成分及び第4次高調波成分を抽出したx軸速度の時間波形、y軸速度の時間波形及びz軸速度の時間波形を生成し、これらの3個の時間波形に基づいて、対象物の状態を表す指標となる3次元の速度ベクトルを算出してもよい。
図16に、この3次元速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形の経時変化の一例を示す。
図16の軌跡も、6か月後には規則性が変化しており、6か月の間に対象物の状態が変化したと推定される。
【0071】
なお、信号処理装置100は、対象物の状態を表す指標として、リサージュ図形の幾何学的特徴、例えば、楕円の長軸や短軸、楕円面の法線ベクトル等をさらに算出してもよい。
【0072】
図17は、第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例である。
図17に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、
図17の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0073】
第1~第Nのセンサー200-1~200-N、アナログフロントエンド210-1~210-N、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150、通信部160の構成及び機能は第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0074】
処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、第1状態指標算出回路113、積分回路114、微分回路115、第2状態指標算出回路116及びリサージュ図形生成回路117として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、第1状態指標算出回路113と、積分回路114と、微分回路115と、第2状態指標算出回路116と、リサージュ図形生成回路117と、を含む。
【0075】
時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112及び第1状態指標算出回路113の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0076】
積分回路114は、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得回路111が取得した第iの時間波形に対して積分処理を行う。すなわち、積分回路114は、
図10の積分工程S40を実行する。積分回路114の積分処理により得られたN個の時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0077】
微分回路115は、1以上N以下の各整数iに対して、時間波形取得回路111が取得した第iの時間波形に対して微分処理を行う。すなわち、微分回路115は、
図10の微分工程S50を実行する。微分回路115の微分処理により得られたN個の時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0078】
第2状態指標算出回路116は、時間波形取得回路111が取得した第1~第Nの時間波形に基づいて、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する。すなわち、第2状態指標算出回路116は、
図10の第2状態指標算出工程S60を実行する。第2状態指標算出回路116が算出したベクトルは記憶回路120に記憶される。
【0079】
リサージュ図形生成回路117は、第2状態指標算出回路116が算出したベクトルに基づくリサージュ図形を生成する。すなわち、リサージュ図形生成回路117は、
図10のリサージュ図形生成工程S70を実行する。リサージュ図形生成回路117が生成したリサージュ図形は、表示部140に表示される。
【0080】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、積分工程S40と、微分工程S50と、第2状態指標算出工程S60と、リサージュ図形生成工程S70と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0081】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、第1状態指標算出回路113、積分回路114、微分回路115、第2状態指標算出回路116及びリサージュ図形生成回路117の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。
【0082】
以上に説明した第2実施形態の信号処理方法によれば、第1実施形態の信号処理方法と同様の効果が得られる。さらに、第2実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出するので、比較的小さいデータ量でありながら対象物の状態を反映した情報が得られる。また、第2実施形態の信号処理方法によれば、ユーザーは、リサージュ図形によって対象物の状態を視覚的に理解することができる。
【0083】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0084】
図18は、第3実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。
図18に示すように、第3実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、第3状態指標算出工程S32と、積分工程S40と、微分工程S50と、第2状態指標算出工程S60と、リサージュ図形生成工程S70と、を含む。なお、第3実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第3実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0085】
図18に示すように、まず、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の時間波形取得工程S10を行って第1~第Nの時間波形を取得する。
【0086】
次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の周波数スペクトル生成工程S20を行う。次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の第1状態指標算出工程S30を行う。
【0087】
次に、信号処理装置100は、第3状態指標算出工程S32において、対象物の状態を表す指標として、1以上N以下の各整数iに対して、周波数スペクトル生成工程S20で生成した第1の周波数スペクトルに含まれる第3のピークに対応する第3の信号成分の位相と、第iの周波数スペクトルに含まれる第4のピークに対応し、第3の信号成分の周波数の有理数倍の周波数である第4の信号成分の位相との差分を算出する。具体的には、まず、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、第1の時間波形を高速フーリエ変換して得られた複数のピークのいずれかに対応する第3の信号成分の周波数関数F(ω3)の実数部及び虚数部から第3の信号成分のフーリエ位相φ3を算出する。次に、信号処理装置100は、各整数iに対して、第iの時間波形を高速フーリエ変換して得られた複数のピークのいずれかに対応する第4の信号成分の周波数関数F(ω4)の実数部及び虚数部から第4の信号成分のフーリエ位相φ4を算出する。次に、信号処理装置100は、フーリエ位相φ4から、フーリエ位相φ4にスケーリングしたフーリエ位相φ3を減算することにより、第3の信号成分の位相と第4の信号成分の位相との差分を算出する。例えば、第4の信号成分の周波数が第3の信号成分の周波数の2倍であれば、φ3を2倍にスケーリングしてφ4-2φ3により、第3の信号成分の位相と第4の信号成分の位相との差分を算出する。例えば、第3の信号成分が基本波成分であり、第4の信号成分が基本波成分及び複数の高調波成分のそれぞれであってもよい。すなわち、第4の信号成分の周波数は、第3の信号成分の周波数の自然数倍であってもよい。
【0088】
図19に、前出の
図6に示したフーリエ位相から算出されるx軸速度Vx、y軸速度Vy及びz軸速度Vzの各々における位相の差分の一例を示す。
図19において、横軸は周波数であり、縦軸は位相である。前出の
図5に示したように、x軸速度Vxの周波数スペクトル、y軸速度Vyの周波数スペクトル及びz軸速度Vzの周波数スペクトルは、複数のピークを含み、その一部である黒丸を付した複数のピークは、基本波成分である約84Hzのピークと第2次~第14次の高調波成分のピークである。
図19では、x軸速度Vxに含まれる約84Hzの基本波成分を第3の信号成分とし、x軸速度Vx、y軸速度Vy及びz軸速度Vzのそれぞれに含まれる約84Hzの基本波成分及び第2次~第14次の高調波成分をそれぞれ第4の信号成分として、第4の信号成分のフーリエ位相から、スケーリングした第3の信号成分のフーリエ位相を減算して得られた位相の差分が示されている。
【0089】
図18に示すように、次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の積分工程S40を行う。次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の微分工程S50を行う。次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様の第2状態指標算出工程S60を行う。次に、信号処理装置100は、
図2又は
図10と同様のリサージュ図形生成工程S70を行う。そして、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S70を繰り返し行う。
【0090】
先の考察より、ユーザーは、第1~第Nの時間波形について、第3の信号成分の位相と第4の信号成分の位相との差分を監視し、当該差分に経時変化がみられる場合は、対象物の状態が変化したと推定することができる。
図20に、
図19に示したx軸速度Vx、y軸速度Vy及びz軸速度Vzの各々における位相の差分の経時変化の一例を示す。
図20の例では、同日に計測した場合でも、第5次高調波や第7次高調波以上の高調波では位相の差分が変化している。また、6か月後には、基本波については位相の差分の変化が小さいが、すべての高調波において位相の差分が大きく変化しており、6か月の間に対象物の状態が変化したと推定される。
【0091】
図21は、第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例である。
図21に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、
図21の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0092】
第1~第Nのセンサー200-1~200-N、アナログフロントエンド210-1~210-N、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150、通信部160の構成及び機能は第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0093】
処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、第1状態指標算出回路113、積分回路114、微分回路115、第2状態指標算出回路116、リサージュ図形生成回路117及び第3状態指標算出回路118として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、第1状態指標算出回路113と、積分回路114と、微分回路115と、第2状態指標算出回路116と、リサージュ図形生成回路117と、第3状態指標算出回路118と、を含む。
【0094】
時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、第1状態指標算出回路113、積分回路114、微分回路115、第2状態指標算出回路116及びリサージュ図形生成回路117の機能は第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0095】
第3状態指標算出回路118は、対象物の状態を表す指標として、1以上N以下の各整数iに対して、周波数スペクトル生成回路112が生成した第1の周波数スペクトルに含まれる第3のピークに対応する第3の信号成分の位相と、第iの周波数スペクトルに含まれる第4のピークに対応し、第3の信号成分の周波数の有理数倍の周波数である第4の信号成分の位相との差分を算出する。すなわち、第3状態指標算出回路118は、
図18の第3状態指標算出工程S32を実行する。第3状態指標算出回路118が算出した指標は記憶回路120に記憶される。
【0096】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、第1状態指標算出工程S30と、第3状態指標算出工程S32と、積分工程S40と、微分工程S50と、第2状態指標算出工程S60と、リサージュ図形生成工程S70と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0097】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、第1状態指標算出回路113、積分回路114、微分回路115、第2状態指標算出回路116、リサージュ図形生成回路117及び第3状態指標算出回路118の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。
【0098】
以上に説明した第3実施形態によれば、第1実施形態又は第2実施形態の信号処理方法と同様の効果が得られる。さらに、第3実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、対象物の状態を表す指標として、第1の時間波形に含まれる第3の信号成分の位相と第1~第Nの時間波形に含まれる第4の信号成分の位相との差分を算出することができる。
【0099】
また、第3実施形態の信号処理方法によれば、第4の信号成分の周波数を第3の信号成分の周波数の自然数倍とした場合、第4の信号成分は第3の信号成分を基本波成分とする高調波成分となるので、信号処理装置100が、対象物の状態を表す指標として、基本波成分の位相と高調波成分の位相との差分を算出することができる。
【0100】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0101】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0102】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0103】
信号処理方法の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
を含む。
【0104】
この信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形から第1の信号成分の位相と第2の信号成分の位相との差分を算出するので、回転パルス信号を必要とせず、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等を併用する必要もない。また、第1~第Nの時間波形に含まれる各種の信号成分の位相には、対象物の状態に対応する情報が含まれているので、対象物の状態を表す指標として、第1の時間波形に含まれる第1の信号成分の位相と第2~第Nの時間波形に含まれる第2の信号成分の位相との差分を算出することができる。このように、この信号処理方法によれば、回転パルス信号を必要とせずに対象物の状態を表す指標を算出することができる。
【0105】
また、この信号処理方法によれば、対象物の状態を表す指標として複数の時間波形に基づく指標が得られる。
【0106】
前記信号処理方法の一態様は、
前記第1~第Nの時間波形に基づいて、前記対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する第2状態指標算出工程を含んでもよい。
【0107】
この信号処理方法によれば、比較的小さいデータ量でありながら対象物の状態を反映した情報が得られる。
【0108】
前記信号処理方法の一態様は、
前記ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成するリサージュ図形生成工程を含んでもよい。
【0109】
この信号処理方法によれば、ユーザーは、リサージュ図形によって対象物の状態を視覚的に理解することができる。
【0110】
信号処理装置の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出回路と、
を備える。
【0111】
この信号処理装置によれば、回転パルス信号を必要とせずに対象物の状態を表す指標を算出することができる。
【0112】
信号処理プログラムの一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形に基づいて、第iの周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記対象物の状態を表す指標として、2以上N以下の各整数jに対して、前記第1の周波数スペクトルに含まれる第1のピークに対応する第1の信号成分の位相と、前記第jの周波数スペクトルに含まれる第2のピークに対応し、前記第1の信号成分の周波数と同じ周波数である第2の信号成分の位相との差分を算出する第1状態指標算出工程と、
をコンピューターに実行させる。
【0113】
この信号処理プログラムによれば、回転パルス信号を必要とせずに対象物の状態を表す指標を算出することができる。
【符号の説明】
【0114】
1…真空ポンプ、3…筐体、4…モーターケース、5…接続部、6…ポンプケース、7…ギアケース、8…第1側壁、9…第2側壁、11…吸気管、12…排気管、13…第1脚部、14…第3脚部、15…第1ボルト、17…センサーユニット、20…基台、100…信号処理装置、110…処理回路、111…時間波形取得回路、112…周波数スペクトル生成回路、113…第1状態指標算出回路、114…積分回路、115…微分回路、116…第2状態指標算出回路、117…リサージュ図形生成回路、118…第3状態指標算出回路、120…記憶回路、121…信号処理プログラム、130…操作部、140…表示部、150…音出力部、160…通信部、200-1~200-N…第1~第Nのセンサー、210-1~210-N…アナログフロントエンド