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特開2024-93244信号処理方法、信号処理装置及び信号処理プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093244
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】信号処理方法、信号処理装置及び信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 11/06 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01H11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209492
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】轟原 正義
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】回転パルス信号を必要とせずに対象の信号成分と非同期な信号成分を低減させた時間波形を生成することが可能な信号処理方法を提供すること。
【解決手段】1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、第1の周期又は前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、を含み、前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である、信号処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
を含み、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である、信号処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1~第Nの時間波形は、互いに同期している、信号処理方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1~第Nの時間波形の2つ以上は、互いに非同期であり、
前記周波数スペクトル生成工程の前に、前記第1~第Nの時間波形を互いに同期させる時間波形同期工程を含む、信号処理方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記トリガーの時系列の前記時間間隔は、前記第1の周期の自然数倍である、信号処理方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記各整数iに対して、前記第iの同期加算波形に対して積分処理を行う積分工程及び前記第iの同期加算波形に対して微分処理を行う微分工程の少なくとも一方を含む、信号処理方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1~第Nの同期加算波形に基づいて、前記対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する状態指標算出工程を含む、信号処理方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成するリサージュ図形生成工程を含む、信号処理方法。
【請求項8】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成回路と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算回路と、
を備え、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である、信号処理装置。
【請求項9】
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
をコンピューターに実行させ、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である、信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理方法、信号処理装置及び信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機器の振動診断において、回転の位相情報を用いた診断を実施しようとする場合、回転機器から振動時間波形と回転パルス信号を得た上で、回転パルス信号に同期する振動波形成分を取り出し、診断を実施する。例えば、非特許文献1には、回転パルスを絶対基準とした振動時間波形やオービット図を得る、また回転パルスに同期した振動波形成分を抽出しフルスペクトラムを得る等により、目的とする診断を実施する方法および手順が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】API Standard 670. Machinery Protection Systems. FIFTH EDITION | NOVEMBER 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転の位相情報を用いた診断を実施しようとする場合、従来の手法では、回転機器から回転パルス信号を得て、回転パルス信号に同期する振動波形成分を取り出すために、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等のシグナルコンディショナーを併用して前処理を行うことにより、対象である振動波形に非同期な振動波形成分を低減させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る信号処理方法の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
を含み、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【0006】
本発明に係る信号処理装置の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成回路と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算回路と、
を備え、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【0007】
本発明に係る信号処理プログラムの一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
をコンピューターに実行させ、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
図2】真空ポンプの構成を示す概略斜視図。
図3】時間波形の一例を示す図。
図4】周波数スペクトルの一例を示す図。
図5】時間波形をずらした図。
図6】同期加算波形の一例を示す図。
図7】同期加算波形の他の一例を示す図。
図8】同期加算波形の他の一例を示す図。
図9】第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
図10】第2実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
図11】同期加算波形の比較例を示す図。
図12】第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
図13】第3実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
図14】同期加算波形を積分した時間波形の一例を示す図。
図15】同期加算波形を積分した時間波形の比較例を示す図。
図16】同期加算波形を微分した時間波形の一例を示す図。
図17】同期加算波形を微分した時間波形の比較例を示す図。
図18】第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
図19】第4実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図。
図20】リサージュ図形の一例を示す図。
図21】リサージュ図形の比較例を示す図。
図22】リサージュ図形の経時変化の一例を示す図。
図23】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
図24】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
図25】リサージュ図形の経時変化の他の一例を示す図。
図26】第4実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0010】
1.第1実施形態
1-1.信号処理方法
図1は、第1実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。図1に示すように、第1実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、を含む。なお、第1実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第1実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0011】
図1に示すように、まず、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10において、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する。Nは2以上の所定の整数である。
【0012】
第iの物理量は、第1の周波数F1の成分と、第1の周波数F1及び第1の周波数F1の高次周波数とは異なる第2の周波数F2の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる物理量である。
【0013】
第iの時間波形は、第iのセンサーから出力されるデジタル信号の時系列データであってもよいし、第iのセンサーから出力されるアナログ信号がアナログフロントエンドによって変換されたデジタル信号の時系列データであってもよい。本実施形態では、第1~第Nの時間波形は、互いに同期している。対象物は、信号処理の対象となる物であり、その種類は特に限定されず、例えば、回転機構や振動機構を有するモーター等の各種の装置であってもよいし、外力によって振動する橋梁やビル等の構造物であってもよいし、周期性を有する信号を発生させる電気回路であってもよい。
【0014】
第1~第Nの物理量の種類は特に限定されず、例えば、第1~第Nの物理量は、加速度、角速度、速度、変位、圧力、電流、電圧等であってもよい。第1~第Nの物理量は、同じ種類の物理量であってもよい。すなわち、第1~第Nのセンサーは同じ種類の物理量を検出するセンサーであってもよい。例えば、互いに直交するx軸、y軸およびz軸に対して、第1のセンサーは第1の物理量としてx軸方向の速度を検出し、第2のセンサーは第2の物理量としてy軸方向の速度を検出し、第3のセンサーは第3の物理量としてz軸方向の速度を検出してもよい。あるいは、第1~第Nのセンサーの一部が他と異なる種類の物理量を検出するセンサーであってもよい。例えば、第1のセンサーは第1の物理量としてx軸方向の加速度を検出し、第2のセンサーは第2の物理量としてy軸方向の角速度を検出してもよい。また、第1~第Nのセンサーは、例えば、MEMSを用いたセンサーであってもよいし、水晶振動子を用いたセンサーであってもよい。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。また、第1~第Nのセンサーは、例えば、IMU等の1つの装置に内蔵されていてもよいし、第1~第Nのセンサーの少なくとも1つが他のセンサーから物理的に分離していてもよい。IMUは、Inertial Measurement Unitの略である。
【0015】
図2に、対象物の一例である真空ポンプ1を示す。図2に示すように、真空ポンプ1は基台20上に設置される。真空ポンプ1は断面形状が略長丸の柱状である。真空ポンプ1の長手方向をX方向とする。長丸の長軸方向をY方向とし、長丸の短軸方向をZ方向とする。
【0016】
真空ポンプ1は筐体3を備える。筐体3は-X方向側から+X方向側に向かって配置されたモーターケース4、接続部5、ポンプケース6及びギアケース7を備える。筐体3は接続部5とポンプケース6との間に軸受ケーシングとしての第1側壁8を備える。筐体3はポンプケース6とギアケース7との間に第2側壁9を備える。
【0017】
ポンプケース6には+Z方向側の面に吸気管11が接続される。ポンプケース6には-Z方向側の面に排気管12が接続される。
【0018】
接続部5は基台20側に第1脚部13及び第2脚部を備える。第1脚部13は-Y方向側に配置され、第2脚部は+Y方向側に配置される。ギアケース7は基台20側に第3脚部14及び第4脚部を備える。第3脚部14は-Y方向側に配置され、第4脚部は+Y方向側に配置される。第1脚部13~第4脚部は第1ボルト15により基台20に締結される。
【0019】
筐体3にはセンサーユニット17が取り付けられる。センサーユニット17は、例えば接続部5に取り付けられる。センサーユニット17は、その内部に不図示の第1~第Nのセンサーを備えている。例えば、第1のセンサーはx軸方向の速度を検出する速度センサーであり、第2のセンサーはy軸方向の速度を検出する速度センサーであり、第3のセンサーはz軸方向の速度を検出する速度センサーであってもよい。例えば、センサーユニット17は、x軸、y軸及びz軸の各方向がそれぞれ+X方向、+Y方向及び+Z方向と一致するように取り付けられる。
【0020】
図3に、整数Nを3として、信号処理装置100が、時間波形取得工程S10において取得する第1~第Nの時間波形の一例を示す。図3に示す3つの時間波形は、図2に示した真空ポンプ1のような回転機器に取り付けられた3軸速度センサーの出力信号に基づく3軸速度の時間波形である。図3の例では、整数Nが3であり、x軸速度Vxの時間波形が第1の時間波形に相当し、y軸速度Vyの時間波形が第2の時間波形に相当し、z軸速度Vzの時間波形が第3の時間波形に相当する。図3において、横軸は時間であり、縦軸は速度である。x軸速度Vxは、3軸速度センサーに内蔵されている第1のセンサーとしてのx軸速度センサーによって検出された速度である。y軸速度Vyは、3軸速度センサーに内蔵されている第2のセンサーとしてのy軸速度センサーによって検出された速度である。z軸速度Vzは、3軸速度センサーに内蔵されている第3のセンサーとしてのz軸速度センサーによって検出された速度である。図3では、取得された各時間波形のうちの1秒間の時間波形のみが示されているが、実際には、工程S20以降の処理に必要な時間長、例えば30秒間以上の各時間波形が取得される。
【0021】
図1に示すように、次に、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する。例えば、信号処理装置100は、第1~第Nの時間波形のうちのいずれか1つを高速フーリエ変換して周波数スペクトルを生成してもよい。あるいは、信号処理装置100は、第1~第Nの時間波形のうちの2つ以上を結合した時間波形を生成し、当該結合した時間波形を高速フーリエ変換して周波数スペクトルを生成してもよい。
【0022】
図4に、図3のx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形のそれぞれの周波数スペクトルを示す。図4において、横軸は周波数であり、縦軸は強度である。例えば、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、x軸速度Vxの周波数スペクトル、y軸速度Vyの周波数スペクトル及びz軸速度Vzの周波数スペクトルのいずれか1つを生成してもよい。
【0023】
図1に示すように、次に、信号処理装置100は、トリガー時系列生成工程S30において、周波数スペクトル生成工程S20で生成した周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する、第1の周期T1又は第1の周期T1の実数倍の周期を時間間隔ΔTとするトリガーの時系列を生成する。第1の周期T1は、第1の周波数F1の逆数である。第1の周期T1の実数倍の周期は、対象物の構成要素により規定される周期である。例えば、対象物が回転機器であれば、構成要素は、例えば、ギアやベアリング等である。トリガーの時系列の時間間隔ΔTは、第1の周期T1の自然数倍であってもよい。例えば、時間間隔ΔTは、第1の周期T1の2倍や3倍であってもよい。トリガーの時系列は、約ΔTの周期でトリガーが発生し、トリガーの発生周期の平均値がΔTとなる時系列である。例えば、トリガーの時系列の時間間隔ΔTは、信号処理装置100のユーザーによって入力される。
【0024】
前出の図4において、x軸速度Vxの周波数スペクトル、y軸速度Vyの周波数スペクトル及びz軸速度Vzの周波数スペクトルは、複数のピークを含み、その一部である黒丸を付した複数のピークは、基本波成分である約84Hzのピークとその高調波成分のピークである。例えば、約84Hzである基本波成分の振動に着目したい場合、信号処理装置100は、トリガー時系列生成工程S30において、例えば、第1の周波数F1を約84Hzとし、約84Hzの逆数である約12msを時間間隔ΔTとするトリガーの時系列を生成する。あるいは、ギアやベアリングの振動に着目したい場合、信号処理装置100は、トリガー時系列生成工程S30において、ギアやベアリングの振動周期を時間間隔ΔTとするトリガーの時系列を生成する。この場合、第1の周波数F1を約84Hzとすると、ギアやベアリングの振動周波数は第1の周波数F1の実数倍であり、当該振動周波数の逆数がトリガーの時系列の時間間隔ΔTとなる。
【0025】
図1に示すように、次に、信号処理装置100は、同期加算工程S40において、1以上N以下の各整数iに対して、トリガー時系列生成工程S30で生成したトリガーの時系列に基づいて、時間波形取得工程S10で取得した第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する。具体的には、信号処理装置100は、同期加算工程S40において、1以上N以下の各整数iに対して、第iの時間波形をトリガーの時系列に含まれる各トリガーが発生するタイミングずつずらした複数の時間波形、すなわち、第iの時間波形をΔTずつずらしたM-1個の時間波形を生成し、第iの時間波形及び当該M-1個の時間波形からなるM個の時間波形をすべて加算して第iの同期加算波形を生成する。整数Mは同期加算回数に相当する。本実施形態では、1以上N以下の各整数iに対して、第iの時間波形の時間長は、トリガーの時系列の時間間隔ΔTと同期加算の回数である整数Mとの積に相当する時間以上である。この条件により、トリガーの時系列の時間間隔ΔT以上の時間長の第1~第Nの同期加算波形が得られる。
【0026】
図5に、図3のx軸速度Vxの時間波形、x軸速度Vxの時間波形をΔTだけずらしたx軸速度Vx’の時間波形及びx軸速度Vxの時間波形をΔT×2だけずらしたx軸速度Vx’’の時間波形を示す。ΔTは約12msである。信号処理装置100は、同期加算工程S40において、1以上M以下の各整数jに対して、x軸速度Vxの時間波形をΔT×jだけずらしたM-1個の時間波形を生成する。Mは2以上の整数である。そして、信号処理装置100は、x軸速度Vxの時間波形及び当該M-1個の時間波形をすべて加算して第1の同期加算波形としてのx軸速度Vxの同期加算波形を生成する。同様に、信号処理装置100は、同期加算工程S40において、y軸速度Vyの時間波形をΔT×jだけずらしたM-1個の時間波形を生成し、y軸速度Vyの時間波形及び当該M-1個の時間波形をすべて加算して第2の同期加算波形としてのy軸速度Vyの同期加算波形を生成する。同様に、信号処理装置100は、同期加算工程S40において、z軸速度Vzの時間波形をΔT×jだけずらしたM-1個の時間波形を生成し、z軸速度Vzの時間波形及び当該M-1個の時間波形をすべて加算して第3の同期加算波形としてのz軸速度Vzの同期加算波形を生成する。
【0027】
図6図7及び図8に、x軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形の一例を示す。図6の例では同期加算回数が54であり、図7の例では同期加算回数が216であり、図8の例では同期加算回数が1728である。図6図7及び図8に示すように、x軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形では、トリガーの時系列の時間間隔ΔTである約12msに対応する周波数である約84Hzの信号成分と非同期の信号成分が大きく低減され、約84Hzの信号成分が強調されている。また、図6図7とを比較し、図7図8とを比較すると、同期加算回数が多いほど、約84Hzの信号成分の振幅の変動量が小さくなっており、約84Hzの信号成分と非同期の低周波数成分もより低減されることがわかる。
【0028】
図1に示すように、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S40を繰り返し行う。
【0029】
1-2.信号処理装置
図9は、第1実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例を示す図である。図9に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、図9の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0030】
1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサー200-iは、外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量を検出し、検出した第iの物理量に応じた大きさの信号を出力する。第1~第Nのセンサー200-1~200-Nの各々の出力信号は、アナログフロントエンド210-1~210-Nの各々に入力される。
【0031】
アナログフロントエンド210-1~210-Nの各々は、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nの各々の出力信号に対して増幅処理やA/D変換処理等を行ってデジタル時系列信号を出力する。
【0032】
処理回路110は、アナログフロントエンド210-1~210-Nから出力されるN個のデジタル時系列信号を第1~第Nの時間波形として取得し、信号処理を行う。具体的には、処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行し、第1~第Nの時間波形に対する各種の計算処理を行う。その他、処理回路110は、操作部130からの操作信号に応じた各種の処理、表示部140に各種の情報を表示させるための表示信号を送信する処理、音出力部150に各種の音を発生させるための音信号を送信する処理、不図示の外部装置とデータ通信を行うために通信部160を制御する処理等を行う。処理回路110は、例えば、CPUやDSPによって実現される。CPUはCentral Processing Unitの略であり、DSPはDigital Signal Processorの略である。
【0033】
処理回路110は、信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113及び同期加算回路114として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、トリガー時系列生成回路113と、同期加算回路114と、を含む。
【0034】
時間波形取得回路111は、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサー200-iから、第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する。Nは2以上の所定の整数である。すなわち、時間波形取得回路111は、図1の時間波形取得工程S10を実行する。時間波形取得回路111が取得した第1~第Nの時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0035】
周波数スペクトル生成回路112は、時間波形取得回路111が取得した第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する。すなわち、周波数スペクトル生成回路112は、図1の周波数スペクトル生成工程S20を実行する。周波数スペクトル生成回路112が生成した周波数スペクトルは記憶回路120に記憶される。
【0036】
トリガー時系列生成回路113は、周波数スペクトル生成回路112が生成した周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する、第1の周期T1又は第1の周期T1の実数倍の周期を時間間隔ΔTとするトリガーの時系列を生成する。すなわち、トリガー時系列生成回路113は、図1のトリガー時系列生成工程S30を実行する。トリガー時系列生成回路113が生成したトリガーの時系列は記憶回路120に記憶される。
【0037】
同期加算回路114は、1以上N以下の各整数iに対して、トリガー時系列生成回路113が生成したトリガーの時系列に基づいて、時間波形取得回路111が取得した第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する。すなわち、同期加算回路114は、図1の同期加算工程S40を実行する。同期加算回路114が生成した第1~第Nの同期加算波形は記憶回路120に記憶される。
【0038】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0039】
記憶回路120は、不図示のROM及びRAMを有している。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略である。ROMは、信号処理プログラム121等の各種プログラムやあらかじめ決められたデータを記憶し、RAMは、処理回路110が生成したデータを記憶する。RAMは、処理回路110の作業領域としても用いられ、ROMから読み出されたプログラムやデータ、操作部130から入力されたデータ、処理回路110が一時的に生成したデータを記憶する。
【0040】
操作部130は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号を処理回路110に出力する。
【0041】
表示部140は、LCD等により構成される表示装置であり、処理回路110から出力される表示信号に基づいて各種の情報を表示する。LCDは、Liquid Crystal Displayの略である。表示部140には操作部130として機能するタッチパネルが設けられていてもよい。例えば、表示部140は、処理回路110から出力される表示信号に基づいて、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部を含む画面を表示してもよい。
【0042】
音出力部150は、スピーカー等によって構成され、処理回路110から出力される音信号に基づいて各種の音を発生させる。例えば、音出力部150は、処理回路110から出力される音信号に基づいて、信号処理の開始や終了を示す音を発生させてもよい。
【0043】
通信部160は、処理回路110と外部装置との間のデータ通信を成立させるための各種制御を行う。例えば、通信部160は、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部の情報を外部装置に送信し、外部装置は、受信した情報を不図示の表示部に表示してもよい。
【0044】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113及び同期加算回路114の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。また、信号処理装置100は、単体の装置であってもよいし、複数の装置によって構成されてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-N及びアナログフロントエンド210-1~210-Nが第1の装置に含まれ、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160が第1の装置とは別体の第2の装置に含まれていてもよい。また、例えば、処理回路110及び記憶回路120がクラウドサーバー等の装置で実現され、当該装置が第1~第Nの同期加算波形を生成し、生成した第1~第Nの同期加算波形を、通信回線を介して操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む端末に送信してもよい。
【0045】
1-3.作用効果
第1実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が第1~第Nの時間波形からトリガー時系列を生成するので、回転パルス信号を必要としない。また、信号処理装置100が、第1~第Nの時間波形に対してそれぞれ同期加算を行うことにより、第1の周波数F1の逆数である第1の周期T1又は第1の周期T1の実数倍の周期に同期した対象の信号成分が強調され、対象の信号成分と非同期の第2の周波数F2の信号成分が低減された第1~第Nの同期加算波形が得られるので、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等を併用する必要がない。また、対象物の構成要素により規定される第1の周期T1の実数倍の周期を有する強度の小さい信号成分を対象の信号成分とする場合、強度の大きい信号成分の周期である第1の周期T1を基準として、トリガーの時系列の時間間隔ΔTを対象の信号成分の周期と合わせることができるので、対象の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形が得られる。また、第1~第Nの時間波形の時間長がそれぞれトリガーの時系列の時間間隔ΔTと同期加算の回数との積に相当する時間以上であることにより、時間間隔ΔT以上の時間長の第1~第Nの同期加算波形が得られる。このように、第1実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、回転パルス信号を必要とせずに対象の信号成分と非同期な信号成分を低減させた第1~第Nの同期加算波形を生成することができる。
【0046】
また、第1実施形態の信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形が互いに同期しているので、同期加算の精度が向上し、第1~第Nの同期加算波形のSN比が向上する。
【0047】
また、第1実施形態の信号処理方法によれば、トリガーの時系列の時間間隔ΔTを第1の周期T1の自然数倍とした場合、第1の周波数F1の信号成分と同期した第1の周波数F1以下の周波数の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形が得られる。
【0048】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0049】
図10は、第2実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。図10に示すように、第2実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、を含む。なお、第2実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第2実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0050】
図10に示すように、まず、信号処理装置100は、図1と同様の時間波形取得工程S10を行う。
【0051】
第2実施形態では、信号処理装置100が時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形の2つ以上は、互いに非同期である。そのため、次に、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20の前に、時間波形同期工程S12において、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形を互いに同期させる。例えば、信号処理装置100は、第1~第Nの時間波形を、所定のサンプリングレートでリサンプリングすることによって同期させてもよい。
【0052】
次に、信号処理装置100は、周波数スペクトル生成工程S20において、時間波形同期工程S12で互いに同期させた第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する。この周波数スペクトル生成工程S20における信号処理装置100による処理の詳細は、図1と同様である。
【0053】
次に、信号処理装置100は、図1と同様のトリガー時系列生成工程S30を行う。
【0054】
次に、信号処理装置100は、同期加算工程S40において、1以上N以下の各整数iに対して、トリガー時系列生成工程S30で生成したトリガーの時系列に基づいて、時間波形同期工程S12で同期させた第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する。この同期加算工程S40における信号処理装置100による処理の詳細は、図1と同様である。
【0055】
そして、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S40を繰り返し行う。
【0056】
前出の図3の例において、x軸速度センサーのサンプリング周波数とz軸速度センサーのサンプリング周波数とが等しく、y軸速度センサーが100ppmだけサンプリング周波数が高い場合を想定する。仮に、信号処理装置100が時間波形同期工程S12を行わなかった場合に同期加算工程S40において生成されるx軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形の一例を図11に示す。図11の例では、x軸速度Vxの周波数スペクトルの複数のピークの1つに対応する約84Hzを第1の周波数F1として、トリガーの時系列の時間間隔ΔTを第1の周波数F1の逆数として、1728回同期加算を行ったものである。一方、信号処理装置100が時間波形同期工程S12を行った場合のx軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形の一例は図8と同様である。図8図11とを比較すると、図8のx軸速度Vxの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形は、それぞれ、図11のx軸速度Vxの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形と同じであるが、y軸速度Vyの同期加算波形に含まれる約84Hzの周期的なピークは、図8の方が図11よりも鋭くなっている。すなわち、信号処理装置100が時間波形同期工程S12を行うことにより、約84Hzの信号成分がより強調されるようになることがわかる。
【0057】
図12は、第2実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例である。図12に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、図12の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0058】
第1~第Nのセンサー200-1~200-N、アナログフロントエンド210-1~210-N、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150、通信部160の構成及び機能は第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0059】
処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114及び時間波形同期回路115として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、トリガー時系列生成回路113と、同期加算回路114と、時間波形同期回路115と、を含む。
【0060】
時間波形取得回路111及びトリガー時系列生成回路113の機能は第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0061】
時間波形同期回路115は、時間波形取得回路111が取得した第1~第Nの時間波形を互いに同期させる。すなわち、時間波形同期回路115は、図10の時間波形同期工程S12を実行する。時間波形同期回路115が同期させた第1~第Nの時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0062】
周波数スペクトル生成回路112は、時間波形同期回路115が互いに同期させた第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する。すなわち、周波数スペクトル生成回路112は、図10の周波数スペクトル生成工程S20を実行する。周波数スペクトル生成回路112が生成した周波数スペクトルは記憶回路120に記憶される。
【0063】
同期加算回路114は、1以上N以下の各整数iに対して、トリガー時系列生成回路113が生成したトリガーの時系列に基づいて、時間波形同期回路115が同期させた第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する。すなわち、同期加算回路114は、図10の同期加算工程S40を実行する。同期加算回路114が生成した第1~第Nの同期加算波形は記憶回路120に記憶される。
【0064】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0065】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114及び時間波形同期回路115の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。
【0066】
以上に説明した第2実施形態の信号処理方法によれば、第1実施形態の信号処理方法と同様の効果が得られる。さらに、第2実施形態の信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形の2つ以上が互いに非同期であっても、信号処理装置100が、第1~第Nの時間波形を互いに同期させてから同期加算を行うので、同期加算の精度が向上し、第1~第Nの同期加算波形のSN比が向上する。
【0067】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0068】
図13は、第3実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。図13に示すように、第3実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、を含む。さらに、第3実施形態の信号処理方法は、積分工程S50及び微分工程S60の少なくとも一方を含む。なお、第3実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第3実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0069】
図13に示すように、まず、信号処理装置100は、図1又は図10と同様の時間波形取得工程S10を行う。
【0070】
次に、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形の2つ以上が互いに非同期である場合、図10と同様の時間波形同期工程S12を行う。なお、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形が互いに同期している場合は、時間波形同期工程S12を行わなくてよい。
【0071】
次に、信号処理装置100は、図1又は図10と同様の周波数スペクトル生成工程S20を行う。次に、信号処理装置100は、図1又は図10と同様のトリガー時系列生成工程S30を行う。次に、信号処理装置100は、図1又は図10と同様の同期加算工程S40を行う。
【0072】
次に、信号処理装置100は、積分工程S50において、1以上N以下の各整数iに対して、同期加算工程S40で生成した第iの同期加算波形に対して積分処理を行う。
【0073】
図14に、前出の図7に示したx軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形をそれぞれ積分して得られるx軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzの時間波形を示す。また、比較例として、図15に、前出の図3に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形を、それぞれ、同期加算せずに積分して得られるx軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzの時間波形を示す。図14図15とを比較すると、信号処理装置100が速度の時間波形に対して同期加算後に積分処理を行うことで、積分処理後の変位の時間波形においても、約84Hzの信号成分と非同期の信号成分が大きく低減され、約84Hzの信号成分が強調されていることがわかる。
【0074】
次に、信号処理装置100は、微分工程S60において、1以上N以下の各整数iに対して、同期加算工程S40で生成した第iの同期加算波形に対して微分処理を行う。
【0075】
図16に、前出の図7に示したx軸速度Vxの同期加算波形、y軸速度Vyの同期加算波形及びz軸速度Vzの同期加算波形をそれぞれ微分して得られるx軸加速度Axの時間波形、y軸加速度Ayの時間波形及びz軸加速度Azの時間波形を示す。また、比較例として、図17に、前出の図3に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形を、それぞれ、同期加算せずに微分して得られるx軸加速度Axの時間波形、y軸加速度Ayの時間波形及びz軸加速度Azの時間波形を示す。図16図17とを比較すると、信号処理装置100が速度の時間波形に対して同期加算後に微分処理を行うことで、微分処理後の加速度の時間波形においても、約84Hzの信号成分と非同期の信号成分が大きく低減され、約84Hzの信号成分が強調されていることがわかる。
【0076】
そして、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S60を繰り返し行う。なお、信号処理装置100は、積分工程S50の前に微分工程S60を行ってもよいし、積分工程S50又は微分工程S60を行わなくてもよい。
【0077】
図18は、第3実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例である。図18に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、図18の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0078】
第1~第Nのセンサー200-1~200-N、アナログフロントエンド210-1~210-N、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150、通信部160の構成及び機能は第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0079】
処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114、時間波形同期回路115、積分回路116及び微分回路117として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、トリガー時系列生成回路113と、同期加算回路114と、時間波形同期回路115と、積分回路116と、微分回路117と、を含む。
【0080】
時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114及び時間波形同期回路115の機能は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0081】
積分回路116は、1以上N以下の各整数iに対して、同期加算回路114が生成した第iの同期加算波形に対して積分処理を行う。すなわち、積分回路116は、図13の積分工程S50を実行する。積分回路116の積分処理により得られたN個の時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0082】
微分回路117は、1以上N以下の各整数iに対して、同期加算回路114が生成した第iの同期加算波形に対して微分処理を行う。すなわち、微分回路117は、図13の微分工程S60を実行する。微分回路117の微分処理により得られたN個の時間波形は記憶回路120に記憶される。
【0083】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、積分工程S50と、微分工程S60と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0084】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114、時間波形同期回路115、積分回路116及び微分回路117の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。
【0085】
以上に説明した第3実施形態によれば、第1実施形態又は第2実施形態の信号処理方法と同様の効果が得られる。さらに、第3実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、対象の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形に対してそれぞれ積分処理や微分処理を行うことにより、対象の信号成分に対応する物理量とは異なる物理量の時間波形が得られる。
【0086】
4.第4実施形態
以下、第4実施形態について、第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態と異なる内容について説明する。
【0087】
図19は、第4実施形態の信号処理方法の手順を示すフローチャート図である。図19に示すように、第4実施形態の信号処理方法は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、積分工程S50と、微分工程S60と、状態指標算出工程S70と、リサージュ図形生成工程S80と、を含む。なお、第4実施形態の信号処理方法は、これらの工程の一部が省略または変更され、あるいは、他の工程が付加されてもよい。第4実施形態の信号処理方法は、例えば、信号処理装置100によって実行される。第4実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例については後述する。
【0088】
図19に示すように、まず、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様の時間波形取得工程S10を行う。
【0089】
次に、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形の2つ以上が互いに非同期である場合、図10と同様の時間波形同期工程S12を行う。なお、信号処理装置100は、時間波形取得工程S10で取得した第1~第Nの時間波形が互いに同期している場合は、時間波形同期工程S12を行わなくてよい。
【0090】
次に、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様の周波数スペクトル生成工程S20を行う。次に、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様のトリガー時系列生成工程S30を行う。次に、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様の同期加算工程S40を行う。次に、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様の積分工程S50を行う。次に、信号処理装置100は、図1図10又は図13と同様の微分工程S60を行う。なお、信号処理装置100は、積分工程S50の前に微分工程S60を行ってもよいし、積分工程S50又は微分工程S60を行わなくてもよい。
【0091】
次に、信号処理装置100は、状態指標算出工程S70において、同期加算工程S40で生成した第1~第Nの同期加算波形に基づいて、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する。信号処理装置100は、対象物の状態を表す指標となるベクトルとして、第1~第Nの同期加算波形の各時刻の値を要素とするN次元の同期加算ベクトルを算出してもよいし、N次元の同期加算ベクトルを微分してN次元の接線ベクトルを算出してもよいし、N次元の接線ベクトルをさらに階微分してN次元の主法線ベクトルを算出してもよい。例えば、第1~第Nの同期加算波形がそれぞれ変位の時間波形であれば、同期加算ベクトルは変位ベクトルであり、接線ベクトルは速度ベクトルであり、主法線ベクトルは加速度ベクトルである。また、信号処理装置100は、対象物の状態を表す指標となるベクトルとして、接線ベクトルと主法線ベクトルとの外積である従法線ベクトルを算出してもよいし、さらに従法線ベクトルを単位ベクトルに変換した振動面法線ベクトルを算出してもよい。
【0092】
次に、信号処理装置100は、リサージュ図形生成工程S80において、状態指標算出工程S70で算出したベクトルに基づくリサージュ図形を生成する。信号処理装置100は、N次元の同期加算ベクトル、接線ベクトル、主法線ベクトル、従法線ベクトル又は振動面法線ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成してもよい。
【0093】
そして、信号処理が終了するまで(工程S100のN)、信号処理装置100は、工程S10~S80を繰り返し行う。なお、信号処理装置100は、積分工程S50の前に微分工程S60を行ってもよいし、積分工程S50又は微分工程S60を行わなくてもよい。
【0094】
図20に、リサージュ図形生成工程S80で生成されるリサージュ図形の一例を示す。図20において、A1は、前出の図14に示したx軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzの時間波形から算出される同期加算ベクトルとしての3次元変位ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。B1は、A1の変位ベクトルを微分して得られる接線ベクトルとしての3次元速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。C1は、B1の速度ベクトルをさらに微分して得られる主法線ベクトルとしての3次元加速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。D1は、B1の速度ベクトルとC1の加速度ベクトルとの外積である従法線ベクトルを単位ベクトルに変換した振動面法線ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。また、比較例として、図21に、信号処理装置100が同期加算工程S40を行わない場合のリサージュ図形の一例を示す。図21において、A2は、前出の図3に示したx軸速度Vxの時間波形、y軸速度Vyの時間波形及びz軸速度Vzの時間波形を、それぞれ、同期加算せずに積分して得られるx軸変位Dxの時間波形、y軸変位Dyの時間波形及びz軸変位Dzから算出される変位ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。B2は、A2の変位ベクトルを微分して得られる接線ベクトルとしての3次元速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。C2は、B2の速度ベクトルをさらに微分して得られる主法線ベクトルとしての3次元加速度ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。D2は、B2の速度ベクトルとC2の加速度ベクトルとの外積である従法線ベクトルを単位ベクトルに変換した振動面法線ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形である。図20図21とを比較すると、同期加算が行われない場合は、いずれのリサージュ図形も規則性が不明瞭な軌跡となっているのに対して、同期加算が行われる場合は、いずれのリサージュ図形も規則性を有する軌跡となっていることがわかる。
【0095】
ユーザーは、リサージュ図形生成工程S80で生成されるリサージュ図形を監視し、ベクトルの軌跡の規則性に経時変化がみられる場合は、対象物の状態が変化したと推定することができる。図22に、図20のA1に示した変位ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、図23に、図20のB1に示した速度ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、図24に、図20のC1に示した加速度ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。また、図25に、図20のD1に示した振動面法線ベクトルの軌跡の経時変化の一例を示す。図22図25のいずれの軌跡も6か月後には規則性が変化しており、6か月の間に対象物の状態が変化したと推定される。
【0096】
図26は、第4実施形態の信号処理方法を実行する信号処理装置100の構成例である。図26に示すように、信号処理装置100は、第1~第Nのセンサー200-1~200-N、N個のアナログフロントエンド210-1~210-N、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、信号処理装置100は、図26の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、第1~第Nのセンサー200-1~200-Nやアナログフロントエンド210-1~210-Nは、信号処理装置100の構成要素で無くてもよい。
【0097】
第1~第Nのセンサー200-1~200-N、アナログフロントエンド210-1~210-N、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150、通信部160の構成及び機能は第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0098】
処理回路110は、記憶回路120に記憶されている信号処理プログラム121を実行することにより、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114、時間波形同期回路115、積分回路116、微分回路117、状態指標算出回路118及びリサージュ図形生成回路119として機能する。すなわち、信号処理装置100は、時間波形取得回路111と、周波数スペクトル生成回路112と、トリガー時系列生成回路113と、同期加算回路114と、時間波形同期回路115と、積分回路116と、微分回路117と、状態指標算出回路118と、リサージュ図形生成回路119と、を含む。
【0099】
時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114、時間波形同期回路115、積分回路116及び微分回路117の機能は、第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0100】
状態指標算出回路118は、同期加算回路114が生成した第1~第Nの同期加算波形に基づいて、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する。すなわち、状態指標算出回路118は、図19の状態指標算出工程S70を実行する。状態指標算出回路118が算出したベクトルは記憶回路120に記憶される。
【0101】
リサージュ図形生成回路119は、状態指標算出回路118が算出したベクトルに基づくリサージュ図形を生成する。すなわち、リサージュ図形生成回路119は、図19のリサージュ図形生成工程S80を実行する。リサージュ図形生成回路119が生成したリサージュ図形は、表示部140に表示される。
【0102】
このように、信号処理プログラム121は、時間波形取得工程S10と、時間波形同期工程S12と、周波数スペクトル生成工程S20と、トリガー時系列生成工程S30と、同期加算工程S40と、積分工程S50と、微分工程S60と、状態指標算出工程S70と、リサージュ図形生成工程S80と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0103】
なお、時間波形取得回路111、周波数スペクトル生成回路112、トリガー時系列生成回路113、同期加算回路114、時間波形同期回路115、積分回路116、微分回路117、状態指標算出回路118及びリサージュ図形生成回路119の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。
【0104】
以上に説明した第4実施形態によれば、第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態の信号処理方法と同様の効果が得られる。さらに、第4実施形態の信号処理方法によれば、信号処理装置100が、対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出するので、比較的小さいデータ量でありながら対象物の状態を反映した情報が得られる。また、第4実施形態の信号処理方法によれば、ユーザーは、リサージュ図形によって対象物の状態を視覚的に理解することができる。
【0105】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0106】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0107】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0108】
信号処理方法の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
を含み、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【0109】
この信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形からトリガー時系列を生成するので、回転パルス信号を必要としない。また、第1~第Nの時間波形に対してそれぞれ同期加算を行うことにより、第1の周波数の逆数である第1の周期又は第1の周期の実数倍の周期に同期した対象の信号成分が強調され、対象の信号成分と非同期の第2の周波数の信号成分が低減された第1~第Nの同期加算波形が得られるので、PLL、トラッキングフィルター、ローパスフィルター等を併用する必要がない。また、対象物の構成要素により規定される第1の周期の実数倍の周期を有する強度の小さい信号成分を対象の信号成分とする場合、強度の大きい信号成分の周期である第1の周期を基準として、トリガーの時系列の時間間隔を対象の信号成分の周期と合わせることができるので、対象の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形が得られる。また、第1~第Nの時間波形の時間長がそれぞれトリガーの時系列の時間間隔と同期加算の回数との積に相当する時間以上であることにより、トリガーの時系列の時間間隔以上の時間長の第1~第Nの同期加算波形が得られる。このように、この信号処理方法によれば、回転パルス信号を必要とせずに対象の信号成分と非同期な信号成分を低減させた時間波形を生成することができる。
【0110】
前記信号処理方法の一態様において、
前記第1~第Nの時間波形は、互いに同期していてもよい。
【0111】
この信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形の同期精度が担保されるので同期加算の精度が向上し、第1~第Nの同期加算波形のSN比が向上する。
【0112】
前記信号処理方法の一態様は、
前記第1~第Nの時間波形の2つ以上は、互いに非同期であり、
前記周波数スペクトル生成工程の前に、前記第1~第Nの時間波形を互いに同期させる時間波形同期工程を含んでもよい。
【0113】
この信号処理方法によれば、第1~第Nの時間波形の同期精度が担保されるので同期加算の精度が向上し、第1~第Nの同期加算波形のSN比が向上する。
【0114】
前記信号処理方法の一態様において、
前記トリガーの時系列の前記時間間隔は、前記第1の周期の自然数倍であってもよい。
【0115】
この信号処理方法によれば、第1の周波数の信号成分と同期した第1の周波数以下の周波数の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形が得られる。
【0116】
前記信号処理方法の一態様は、
前記各整数iに対して、前記第iの同期加算波形に対して積分処理を行う積分工程及び前記第iの同期加算波形に対して微分処理を行う微分工程の少なくとも一方を含んでもよい。
【0117】
この信号処理方法によれば、対象の信号成分が強調された第1~第Nの同期加算波形に対してそれぞれ積分処理や微分処理を行うことにより、対象の信号成分に対応する物理量とは異なる物理量の時間波形が得られる。
【0118】
前記信号処理方法の一態様は、
前記第1~第Nの同期加算波形に基づいて、前記対象物の状態を表す指標となるベクトルを算出する状態指標算出工程を含んでもよい。
【0119】
この信号処理方法によれば、比較的小さいデータ量でありながら対象物の状態を反映した情報が得られる。
【0120】
前記信号処理方法の一態様は、
前記ベクトルの軌跡を表すリサージュ図形を生成するリサージュ図形生成工程を含んでもよい。
【0121】
この信号処理方法によれば、ユーザーは、リサージュ図形によって対象物の状態を視覚的に理解することができる。
【0122】
信号処理装置の一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得回路と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成回路と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成回路と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算回路と、
を備え、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【0123】
この信号処理装置によれば、回転パルス信号を必要とせずに対象の信号成分と非同期な信号成分を低減させた時間波形を生成することができる。
【0124】
信号処理プログラムの一態様は、
Nを2以上の所定の整数として、1以上N以下の各整数iに対して、第iのセンサーから、第1の周波数の成分と、前記第1の周波数及び前記第1の周波数の高次周波数とは異なる第2の周波数の成分とを有する周期的な変動を少なくとも含む外力、速度又は変位が対象物に作用することによって生じる第iの物理量に関する第iの時間波形を取得する時間波形取得工程と、
前記第1~第Nの時間波形の少なくとも1つに基づいて、周波数スペクトルを生成する周波数スペクトル生成工程と、
前記周波数スペクトルに含まれる複数のピークのいずれかの周波数に対応する周期であって、前記第1の周波数の逆数である第1の周期又は前記対象物の構成要素により規定される前記第1の周期の実数倍の周期を時間間隔とするトリガーの時系列を生成するトリガー時系列生成工程と、
前記各整数iに対して、前記トリガーの時系列に基づいて、前記第iの時間波形に対して同期加算を行って第iの同期加算波形を生成する同期加算工程と、
をコンピューターに実行させ、
前記各整数iに対して、前記第iの時間波形の時間長は、前記トリガーの時系列の前記時間間隔と前記同期加算の回数との積に相当する時間以上である。
【0125】
この信号処理プログラムによれば、回転パルス信号を必要とせずに対象の信号成分と非同期な信号成分を低減させた時間波形を生成することができる。
【符号の説明】
【0126】
1…真空ポンプ、3…筐体、4…モーターケース、5…接続部、6…ポンプケース、7…ギアケース、8…第1側壁、9…第2側壁、11…吸気管、12…排気管、13…第1脚部、14…第3脚部、15…第1ボルト、17…センサーユニット、20…基台、100…信号処理装置、110…処理回路、111…時間波形取得回路、112…周波数スペクトル生成回路、113…トリガー時系列生成回路、114…同期加算回路、115…時間波形同期回路、116…積分回路、117…微分回路、118…状態指標算出回路、119…リサージュ図形生成回路、120…記憶回路、121…信号処理プログラム、130…操作部、140…表示部、150…音出力部、160…通信部、200-1~200-N…第1~第Nのセンサー、210-1~210-N…アナログフロントエンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
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図14
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図26