(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093262
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】インダクタの製造方法、および、インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20240702BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240702BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240702BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240702BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01F41/04 B
H01F17/04 F
H01F17/04 A
H01F27/29 H
H01F27/29 U
H01F27/32 170
H01F27/28 147
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209521
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 康夫
【テーマコード(参考)】
5E043
5E044
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB03
5E043EA01
5E044AD02
5E062FF02
5E070AA01
5E070AB04
5E070BB03
5E070EA05
5E070EB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インダクタごとの特性のばらつきを抑制し易くする。
【解決手段】導線が巻回されて形成されたコイル導体20と、金属磁性粉と樹脂とを含有しコイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備えるインダクタの製造方法であって、素体は、予備成型体71と予備成型体に配置されたコイル導体とが、成型金型に形成されたキャビティ51aの内側に配置され、圧縮成型されることによって形成される。成型金型は、キャビティ51aを形成する、互いに対向する一対の第1内壁面56と、互いに対向する一対の第2内壁面54と、一対の第1内壁面の少なくとも一方に形成された第1突起56aと、を有する。第1突起は、キャビティの内側に向けて突出し、第1内壁面に平行に延在する形状を有する。コイル導体は、コイル導体の巻軸が第1突起の延びる方向と平行となる姿勢で、キャビティの内側に配置され、第1突起に近接している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備えるインダクタの製造方法であって、
前記素体は、予備成型体と前記予備成型体に配置された前記コイル導体とが、成型金型に形成されたキャビティの内側に配置され、圧縮成型されることによって形成され、
前記成型金型は、前記キャビティを形成する、互いに対向する一対の第1内壁面と、互いに対向する一対の第2内壁面と、一対の前記第1内壁面の少なくとも一方に形成された第1突起と、を有し、
前記第1突起は、前記キャビティの内側に向けて突出し、前記第1内壁面に平行に延在する形状であり、
前記コイル導体は、前記コイル導体の巻軸が前記第1突起の延びる方向と平行となる姿勢で、前記キャビティの内側に配置され、前記コイル導体が前記第1突起に近接している、
インダクタの製造方法。
【請求項2】
一対の前記第1内壁面には、前記第1突起がそれぞれ形成される、
請求項1に記載のインダクタの製造方法。
【請求項3】
前記コイル導体は、前記第1突起に対して接触している、
請求項1または2に記載のインダクタの製造方法。
【請求項4】
前記コイル導体は、前記第1突起のうち、前記第1突起の延びる方向の中央において、前記第1突起に接触している、
請求項3に記載のインダクタの製造方法。
【請求項5】
前記成型金型は、一対の前記第2内壁面において、前記キャビティの内側に向けて突出し、前記第2内壁面に平行に延在してそれぞれ形成された、第2突起をさらに有し、
前記コイル導体は、前記第2突起に対して近接している、
請求項1または2に記載のインダクタの製造方法。
【請求項6】
前記コイル導体は、前記第2突起に対して接触している、
請求項5に記載のインダクタの製造方法。
【請求項7】
前記圧縮成型によって形成された前記素体を、絶縁性樹脂によって被覆する、
請求項1または2に記載のインダクタの製造方法。
【請求項8】
導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備え、
前記コアは、前記コイル導体の巻軸に平行な一対の第1側面と、前記第1側面に交差して前記巻軸に平行な一対の第2側面と、一対の前記第1側面の少なくとも一方に形成される第1溝と、を有し、
一対の前記第1側面は、前記コアにおいて互いに対向する面であり、
前記第1溝は、前記コアの内側に向けて窪み、前記巻軸に平行に延びる、
インダクタ。
【請求項9】
一対の前記第1側面には、前記第1溝がそれぞれ形成される、
請求項8に記載のインダクタ。
【請求項10】
前記コアは、前記第2側面において前記コアの内側に向けて窪み、前記巻軸に平行に延びる第2溝をさらに有する、
請求項8に記載のインダクタ。
【請求項11】
前記導線は、平角状導線である、
請求項8から10のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項12】
前記コイル導体は、前記導線が巻回された巻回部を有し、
前記巻回部の一部は、前記第1溝を介して前記コアの外側に露出する、
請求項8から10のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項13】
前記巻回部の一部は、前記第1溝のうち、前記第1溝の延びる方向の中央において、前記コアの外側に露出する、
請求項12に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタの製造方法、および、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導線を巻回して形成したコイルと、樹脂と磁性材料を含む封止材を用い、コイルを内蔵する成型体を備えた表面実装インダクタを開示する。このインダクタは、成型金型のキャビティの内側に、コイルと、平板形状の周縁部に柱状凸部を有するタブレットと、を配置し、加熱して圧縮する樹脂成型法に依って成型体を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のインダクタの製造方法は、小型化を目指す上で成型体の内部におけるコイル導体の位置決めの精度に改良の余地があった。そして、インダクタの特性は成型体の内部のコイル導体の位置に影響を受けるため、製造されるインダクタごとの特性のばらつきの抑制について改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一様態は、導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備えるインダクタの製造方法であって、前記素体は、予備成型体と前記予備成型体に配置された前記コイル導体とが、成型金型に形成されたキャビティの内側に配置され、圧縮成型されることによって形成され、前記成型金型は、前記キャビティを形成する、互いに対向する一対の第1内壁面と、互いに対向する一対の第2内壁面と、一対の前記第1内壁面の少なくとも一方に形成された第1突起と、を有し、前記第1突起は、前記キャビティの内側に向けて突出し、前記第1内壁面に平行に延在する形状であり、前記コイル導体は、前記コイル導体の巻軸が前記第1突起の延びる方向と平行となる姿勢で、前記キャビティの内側に配置され、前記コイル導体が前記第1突起に近接している、インダクタの製造方法である。
本発明の他の一様態は、導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備え、前記コアは、前記コイル導体の巻軸に平行な一対の第1側面と、前記第1側面に交差して前記巻軸に平行な一対の第2側面と、一対の前記第1側面の少なくとも一方に形成される第1溝と、を有し、一対の前記第1側面は、前記コアにおいて互いに対向する面であり、前記第1溝は、前記コアの内側に向けて窪み、前記巻軸に平行に延びる、インダクタである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インダクタごとの特性のばらつきを抑制し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態1に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
【
図2】実施形態1に係るインダクタを底面の側から視た斜視図である。
【
図3】実施形態1に係るインダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
【
図4】実施形態1に係るインダクタの製造工程の概要図である。
【
図5】実施形態1に係る成型金型の断面視図である。
【
図6】実施形態1に係る
図5のVI―VI断面視図である。
【
図7】実施形態1に係る素体を上面の側から視た平面図である。
【
図8】実施形態1に係る素体を側面の側から視た側面図である。
【
図9】実施例に係るシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図11】実施形態2に係る素体を上面の側から視た平面図である。
【
図12】実施形態3に係る素成型金型の断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係るインダクタ1の製造方法およびインダクタ1について説明する。
(インダクタ全体構成)
図1は本実施形態に係るインダクタ1を上面12の側から視た斜視図であり、
図2はインダクタ1を底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタ1は、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0009】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面(第2側面)14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面(第1側面)16と言う。一対の端面14は、互いに対向して配置される。また、一対の側面16は、互いに対向して配置される。一対の側面16には、互いに平行な一対の第1溝16aがそれぞれ形成されている。第1溝16aについての詳細は、後述する。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
完成品としてのインダクタ1の公称サイズは、例えば、長さL寸法が1.4mm、幅W寸法が1.2mm、厚みT寸法が0.65mmである。
【0010】
以下、DL方向およびDT方向に沿った面(DW方向に直交する面)をLT面、DT方向およびDW方向に沿った面(DL方向に直交する面)をTW面、DL方向およびDW方向に沿った面(DT方向に直交する面)をLW面というものとする。また、インダクタ1の、LT面、TW面、およびLW面に沿った断面を、それぞれ、LT断面、TW断面、及びLW断面というものとする。
【0011】
図3は、インダクタ1の内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタして構成されている。
【0012】
コア30は、磁性粒子(金属磁性粉)と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0013】
また、本実施形態の磁性粒子は、軟磁性体で形成されており、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子の金属粒子の平均粒径は、20μm以上28μm以下であり、第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径は、1μm以上6μm以下である。なお、第1磁性粒子の平均粒径は21.4μm以上27.4μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1.5μm以上1.8μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0014】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、金属粒子の表面を覆う酸化膜と、酸化膜の表面を覆う絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が酸化膜及び絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられている。第1磁性粒子の酸化膜は、SiO層とFe2SiO4の2層で構成されており、酸化膜全体の厚みは20nm以上155nm以下である。また、第1磁性粒子の絶縁膜は、厚み10nm以上50nm以下のリン酸塩ガラスで形成されている。
【0015】
また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられている。第2磁性粒子の酸化膜は、金属粒子であるカルボニル鉄粉を表面酸化して形成される酸化鉄である。また、第2磁性粒子の絶縁膜は、シリカを成分とするゾルゲル反応生成物である。これにより、第2磁性粒子の表面の滑り性を高めて、後述する素体2の素体成型・硬化工程の際に第1磁性粒子の間への第2磁性粒子の入り込みを容易にすることができる。その結果、コア30における磁性材料の密度をより増大させて、コア30の比透磁率を更に増大させることができる。
【0016】
なお、第1磁性粒子において、金属粒子には、Fe-Si-Cr合金粉、Fe-Ni-Al合金粉、Fe-Cr-Al合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe-Ni合金粉、Fe-Ni-Mo合金粉を用いてもよい。
また、第1磁性粒子において、絶縁膜には、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、ガラス、または樹脂を用いてもよい。
【0017】
本実施形態の混合粉が含む樹脂の材料は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とゴム変性エポキシ樹脂とを含む。これにより、素体2の強度と靭性の双方が向上したインダクタ1を製造することができる。
【0018】
本実施形態では、混合粉に含まれる磁性粉は、その混合粉に含まれる磁性粒子の総重量を基準として第1磁性粒子が70wt%以上85wt%以下、第2磁性粒子が15wt%以上30wt%以下である。また、混合粉に含まれる樹脂は、磁性粉と樹脂の総重量を基準として、2.0wt%以上3.5wt%以下である。なお、第1磁性粒子は、70wt%以上80wt%以下が好ましく、第2磁性粒子は、20wt%以上30wt%以下が好ましい。また、樹脂は、2.7wt%以上30wt%以下が好ましい。
【0019】
コイル導体20は、
図3に示すように、巻軸Kの周りに導線がその両端が外周に位置し、かつ内周で互いに繋がるように渦巻き状に巻軸Kに沿って上下2段に巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部23と、引出部23のそれぞれにつながり、後述の外部電極に接続するための導線部分である一対の外部電極接続部24と、を備える。巻回部22は、巻軸Kに沿って重なった2つの巻回領域22a、22bを含む。巻回領域22aと22bとは、それらの内周の一部において互いの導線がつながっている。
【0020】
コイル導体20は、巻軸Kが素体2の厚み方向DTに沿うように素体2内に埋設されている。
【0021】
コイル導体20を構成する導線は、導体と、導体の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、断面が矩形の平角状導線であり、導体は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導体である。導体の厚みは、52μm以上118μm以下、幅は、110μm以上180μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線同士を接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、例えば、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは3μmである。また、融着層は、例えば、ポリアミド樹脂から成り、厚みは、1μm以上25μm以下である。
【0022】
引出部23は、巻回部22から引き出され、一対の端面14のそれぞれまで引き出され露出する外部電極接続部24を介して外部電極4に電気的に接続されている。
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の外部電極接続部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(
図2)がはんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0023】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、ノボラック樹脂にフェノキシ樹脂を添加した樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。なお、素体保護層の厚みは、10μm以上20μm以下が望ましく、15μm以下がより好ましい。
【0024】
かかる構成のインダクタ1は、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタ1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0025】
(インダクタ製造工程概要)
図4は、インダクタ1の製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタ1の製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、素体成型・硬化工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0026】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、引出部23及び、外部電極接続部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部23が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0027】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が配置される適宜形状(例えばT型など)の第1タブレットと、この第1タブレットとの間にコイル導体20を挟む適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0028】
素体成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。素体成型・硬化工程についての詳細は、後述する。また、この工程で得られた素体2に対して、素体2に生じたバリ等を除去したり、素体2の角を面取りしたりするために、バレル研磨を行っても良い。
【0029】
外部電極形成工程は、外部電極4を素体2に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0030】
素体保護層形成工程は、素体2の全表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。
【0031】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、外部電極接続部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、素体2の表面の素体保護層およびコイル導体20の外部電極接続部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光の照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0032】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにNiめっき層およびSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。
【0033】
以下、本実施形態におけるインダクタ1の製造方法およびインダクタ1の詳細について、更に説明する。
【0034】
(素体成型・硬化工程の詳細)
図5は、素体成型・硬化工程における成型金型50の断面視図であり、TW断面における成型金型50を示す。
図6は、
図5のVI-VI断面における断面視図である。成型金型50は、キャビティ51aが形成された上型51と、キャビティ51aの片端を閉塞する下型53と、下型53の反対側からキャビティ51aに挿入されるパンチ55と、を有する。成型金型50は、キャビティ51aの内側において下型53に載置される素体2の構成要素をパンチ55によって圧縮することにより、素体2を圧縮成型する。
【0035】
上型51は、外形が直方体形状の金型である。キャビティ51aは、厚み方向DTに沿って上型51を貫通して形成される孔であり、厚み方向DTから見て略矩形状である。キャビティ51aは、上型51に、互いに対向する一対の第1内壁面56と、互いに対向する一対の第2内壁面54とが形成され、一対の第1内壁面56および一対の第2内壁面54に囲まれることにより形成される孔である。第1内壁面56と第2内壁面54とは、互いに直交する。
図6に示すように、一対の第1内壁面56は、互いの間隔を幅W0として形成されている。一対の第2内壁面54は、互いの間隔を長さL0として形成されている。幅W0は、インダクタ1のうち、素体2の幅方向DWにおける寸法に相当し、実施形態1では1.15mmである。また、長さL0は、素体2の長さ方向DLにおける寸法に相当し、実施形態1では1.35mmである。第1内壁面56および第2内壁面54は、素体2の圧縮成型時において、それぞれ素体2の側面16および端面14を成型する。
【0036】
一対の第1内壁面56には、キャビティ51aの内側に向けて突出する第1突起56aがそれぞれ形成されている。第1突起56aの突出量は、例えば、50μm程度である。第1突起56aは、厚み方向DTに平行に延びている。一対の第1突起56aは、一対の第1内壁面56の対向する位置に設けられ、互いの先端どうしの間隔が間隔W1となる様に設定されている。また、第1突起56aの寸法は、長さ方向DLにおける平均寸法が、厚み方向DTにおける寸法よりも小さく形成される。一対の第1突起56aは、素体2の圧縮成型時において、それぞれ後述の第1溝16aを成型する。
【0037】
下型53は、略矩形状の板状の部材である。下型53は、上型51の外側に開口するキャビティ51aの厚み方向DTにおける片端を、キャビティ51aの外側から閉塞する。下型53は、素体2の圧縮成型時において、素体2の底面10を成型する。
【0038】
パンチ55は、厚み方向DTに沿って視たキャビティ51aの形状と同様の形状の断面を有する部材であり、厚み方向DTに沿って移動可能である。パンチ55は、下型53によって塞がれていないキャビティ51aの他端からキャビティ51aに挿入される。キャビティ51aに挿入されたパンチ55の外縁は、上型51の第1内壁面56、第2内壁面54、および、第1突起56aにそれぞれ沿う。
【0039】
図5および
図6に示すように、キャビティ51aの内側には、第1タブレット71と、コイル導体20と、第2タブレット73と、が配置される。
【0040】
第1タブレット71は、上記混合粉が圧縮成型された予備成型体であり、下型53に載置される。第1タブレット71は、いわゆるT型予備成型体であり、平板部71aと、軸部71bと、を有する。平板部71aは、略矩形状の板状の部分であり、長さ方向DLに沿った寸法が長さL0よりも小さい。また、平板部71aの幅方向DWにおける寸法は、第1突起56aどうしの間隔W1と同等に設定される。このため、キャビティ51a内に配置される平板部71aは、一対の第1突起56aに沿って配置され、幅方向DWにおいて第1突起56aによって位置決めされる。軸部71bは、厚み方向DTから見て平板部71aにおける中心に形成され、厚み方向DTに向けて突出する。
【0041】
コイル導体20は、巻回部22に軸部71bが挿入される位置において、平板部71aに載置される。コイル導体20は、キャビティ51a内において、巻軸Kが上型51の厚み方向DTに沿い、外部電極接続部24が第2内壁面54に沿う向きに配置されている。すなわち、コイル導体20は、巻軸Kと一対の第1突起56aが延びる方向とが平行となる姿勢で、キャビティ51a内に配置される。また、巻回部22の幅方向DWに沿った寸法は、一対の第1突起56aの先端どうしの幅方向DWにおける間隔W1と同等である。換言すれば、一対の第1突起56aの先端どうしの間隔W1は、巻回部22の幅方向DWに沿った寸法と同等になるように設定される。巻回部22の外周は、一対の第1突起56aの先端に接触する位置に配置される。
【0042】
第2タブレット73は、上記混合粉が圧縮成型された予備成型体であり、第1タブレット71との間にコイル導体20を挟んで配置される。第2タブレット73は、平板形状のいわゆるI型予備成型体であり、厚み方向DTに直交する向きに配置される。
【0043】
素体成型・硬化工程においては、成型金型50に熱を加えた状態で、キャビティ51aの内側に上記の様に配置された素体2の各構成要素を、下型53に向けて移動するパンチ55によって圧縮して、コイル導体20が埋め込まれたコア30を成型する。これにより、コイル導体20とコア30とを有する素体2を成型する。
【0044】
このとき、巻回部22の幅方向DWに沿った動きが一対の第1突起56aに規制される。このため、素体成型・硬化工程において成型された素体2において、幅方向DWにおけるコイル導体20の位置は、成型された素体2ごとにばらつきにくくなる。後述の実施例に記載の様に、素体2におけるコイル導体20の位置は、直流重畳定格電流(以下、Isatと呼称する)およびインダクタンス値(以下、L値と呼称する)等のインダクタ1の特性に影響する。このため、一対の第1突起56aによってコイル導体20の位置決めを行うことにより、インダクタ1の特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0045】
また、上述したように、実施形態1のコイル導体20は平角状導線によって構成されるため、導線として丸線を使用した場合に比べ、巻回部22が第1突起56aに接する面積が大きくなり易い。このため、コイル導体20を平角状導線とすることにより、素体2内におけるコイル導体20の位置がばらつきにくくなり、インダクタ1の特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0046】
素体2の成型後は、成型金型50から下型53が取り外され、素体2はパンチ55によってキャビティ51aから押し出される。
【0047】
実施形態1においては、第1タブレット71としてT型予備成型体を用い、第1突起56aによってコイル導体20の位置決めをしているが、これは従来の素体成型・硬化工程とは異なる。従来は実施形態1とは異なり、第1タブレット71として、巻回部22の外周のうち幅方向DWの両外側に沿う2つの突起を有するE型予備成型体を使用し、E型予備成型体の軸部71bおよび2つの突起によって、巻回部22を位置決めしていた。この場合、成型金型50には、コイル導体20を位置決めできる第1突起56aが形成されていなかった。このような従来の成型金型50において、素体2の小型化のために、第1タブレット71として本実施の形態のようなT型予備成型体を用いた場合は、コイル導体20は外側から位置決めされないため、位置ずれの抑制に改良の余地があった。これに対し、実施形態1では、一対の第1突起56aが形成された成型金型50を使用することにより、巻回部22を幅方向DWの両側から挟む突起を有さないT型予備成型体を第1タブレット71として使用してもコイル導体20が位置ずれしにくくなる。このため、素体2の幅方向DWの寸法を従来よりも小さくし易くなっている。また、実施形態1では、従来とは異なり、キャビティ51a内で移動しない第1突起56aによってコイル導体20の位置決めができるため、従来よりもコイル導体20の位置決め精度が向上している。
【0048】
(成型された素体の構成)
図7は、素体2を上面12の側から視た平面図である。
図8は、素体2を側面16の側から視た側面図である。なお、
図8には、厚み方向DTにおける側面16の寸法の二等分線Cを示してある。
図7および
図8に示すように、素体成型・硬化工程において成型された素体2の互いに対向する一対の側面16には、それぞれ1つの第1溝16aが形成されている。一対の第1溝16aは、コイル導体20の巻軸Kに沿って、厚み方向DTを長手方向として延びており、コア30の内側に向けて窪んでいる。第1溝16aは、素体成型・硬化工程において、第1突起56aが混合粉を押しのけることによって形成されている。第1溝16aのLW断面形状は、第1突起56aのLW断面形状と同一の形状である。
【0049】
図8に示すように、コア30の表面からは、第1溝16aを介して、上段の巻回領域22aの一部である露出部22a1、下段の巻回領域22bの一部である露出部22b1がそれぞれ露出している。換言すれば、素体2においては、第1溝16aから素体2の外部に露出する程度に、幅方向DWにおける寸法が大きい巻回部22を有するコイル導体20が使用される。このため、巻回部22の断面積を大きくし易く、インダクタ1のL値を大きくし易い。
【0050】
また、
図8に示すように、コイル導体20は、幅方向DWに沿って視て、厚み方向DTにおける側面16の二等分線Cに重なる位置に形成されており、露出部22a1、22b1は、二等分線Cに重なる。すなわち、露出部22a1、22b1は、第1溝16aの延びる方向における中央に形成される。露出部22a1、22b1は、素体成型・硬化工程において、巻回領域22a、22bのうち第1突起56aの延びる方向の中央部に接触していた部分である。このため、露出部22a1、22b1が第1溝16aの延びる方向の中央に形成される場合、素体2内において巻回部22を位置決めし易くなる。
なお、この成型された素体2が素体保護層形成工程において薄い絶縁性の樹脂でコーティングされることにより、露出部22a1、22b1は薄い絶縁性の樹脂で覆われることになる。すなわち、実施形態1の巻回部22の露出部22a1、22b1は、素体2を構成するコア30からは露出しているが、素体2の表面に対して更に絶縁性の樹脂をコーティングしたインダクタ1の外面には露出していない。このようなコーティングにより、コア30の外側に露出した露出部22a1、22b1を覆い隠すことができるため、巻回部22が露出することによる外観上の違和感を解消することができる。
【0051】
[実施例]
発明者らは、素体2におけるコイル導体20の位置のずれがインダクタ1の特性に与える影響を検証するための実験を実施した。実験において、発明者らはインダクタ1を作成し、作成されたインダクタ1のIsatおよびL値をもとに、シミュレーションによって、コイル導体20の位置のずれがIsatおよびL値に与える影響を推定した。以下、実施例において、発明者らの行った実験の詳細を説明する。
【0052】
(インダクタの作成)
始めに、発明者らは、シミュレーションに入力するIsatおよびL値を得るために、インダクタ1を作成した。
【0053】
発明者らは、コア30の材料となる混合粉のうち、金属磁性粉として、第1磁性粒子としてのFe-Si-Cr合金粉と、第2磁性粒子としてのカルボニル鉄粉と、を混合したものを使用した。粒度分布計による計測結果によれば、実施例の金属磁性粉は、第1磁性粒子の平均粒径が25.3μm、第2磁性粒子の平均粒径が1.7μmであった。また、実施例の樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とゴム変性エポキシ樹脂とを含んでおり、混合粉のうち2.7wt%を占めていた。発明者らの測定によれば、混合粉は、比透磁率が34であり、飽和磁束密度が1.36Tであった。なお、比透磁率は、BHアナライザとインピーダンス・マテリアル・アナライザを利用し、周波数1MHzの高周波信号を用いて測定された。また、飽和磁束密度は、LCRメータと直流電源を用いて重畳時のインダクタンス変化を測定し、BHデータを逆算して、磁束が飽和した値を混合粉の飽和磁束密度とした。
【0054】
実施例において、発明者らは、断面の寸法が縦横それぞれ0.128mmおよび0.083mmの平角状導線を使用してコイル導体20を作成した。
【0055】
実施例において、素体2は、長さ方向DLに沿った寸法が1.52mm、幅方向DWに沿った寸法が1.35mm、厚み方向DTに沿った寸法が0.57mmとなる様に圧縮成型された。また、素体2において、巻回部22の外周と一対の側面16との幅方向DWにおける距離であるサイドギャップWSG1、WSG2(
図7参照)は、それぞれ50μmとされた。
【0056】
発明者らは、上記の様に作成された素体2を有するインダクタ1のIsatおよびL値の測定を行った。発明者らは、作成されたインダクタ1のコイル導体20に印加する直流電流値を増加させながら、LCRメータにてインダクタンス値を測定し、インダクタンス値が初期値から30%低下した電流値をIsatとした。また、発明者らは、LCRメータによって1Hzにおけるインダクタンス値を測定し、その値をL値とした。発明者らの測定によれば、実施例のインダクタ1は、L値が0.32μHであり、Isatが6.5Aであった。
【0057】
(シミュレーション)
発明者らは、上記の様に作成されたインダクタ1のL値およびIsatをシミュレーションソフトウェアに入力し、サイドギャップWSG1、WSG2をそれぞれ変更した場合のL値およびIsatを推定した。なお、発明者らは、素体2におけるコイル導体20の幅方向DWに沿った位置ずれによる影響を評価するため、サイドギャップWSG1、WSG2の合計を100μmに固定して、シミュレーションを行った。
【0058】
図9は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
図9に示すように、L値は、サイドギャップWSG1、WSG2がともに50μmの場合に最大であることが判明した。また、L値は、サイドギャップWSG1が0μmの場合に最小となり、サイドギャップWSG1、WSG2がともに50μmの場合と比較して、最大で0.015μH程度低下した。また、Isatについては、サイドギャップWSG1、WSG2がともに50μmの場合と比較して、サイドギャップWSG1が0μmの場合に0.1A程度増加した。
【0059】
この結果より、素体2におけるコイル導体20の幅方向DWにおける変位により、L値が最大で0.015μH程度、Isatが最大で0.1A程度変化することが判明した。従って、発明者らは、実施例の実験により、素体2におけるコイル導体20の幅方向DWにおけるばらつきを抑制することにより、インダクタ1の特性のばらつきを抑制し得るとの示唆を得た。
【0060】
[実施形態2]
次に、
図10および
図11を用いて、実施形態2について説明する。なお、以下では、実施形態1と異なる点についてのみ説明し、同一の説明は省略する。
【0061】
(素体成型・硬化工程)
図10は、実施形態2の上型151の断面視図であり、
図6に相当する上型151のLW断面を示す。
図10に示すように、実施の形態2の上型151のうち、互いに対向し、第1内壁面56と直交する一対の第2内壁面154には、それぞれ第2突起154aが形成されている。一対の第2突起154aは、厚み方向DTに沿って互いに平行に延びており、キャビティ51aの内側に向けて突出する。第2突起154aどうしの長さ方向DLにおける間隔L1は、コイル導体20の巻回部22の長さ方向DLにおける寸法と同等であり、巻回部22の外周は、第2突起154aに接触している。また、実施形態2においては、長さ方向DLにおける第1タブレット71の平板部171aの寸法は、長さ方向DLにおける巻回部22の寸法と同等に設定され、平板部171aは第2突起154aに沿って配置される。
【0062】
実施形態2では、コイル導体20の巻回部22および第1タブレット71は、一対の第2突起154aによって長さ方向DLにおいて位置決めされ、圧縮成型中の移動を規制される。
【0063】
(成型された素体の構成)
図11は、実施形態2の素体102を上面12の側から視た平面図である。
図11に示すように、素体102のコア130は、側面16と直交し、互いに対向する一対の端面(第2側面)114において、それぞれ互いに平行な第2溝114aを有する。一対の第2溝114aは、厚み方向DTに沿って端面114の全長に渡って延びる巻回部22の巻軸Kに平行な溝であり、コア130の内側に向けて窪んでいる。
【0064】
このように、上型151に第2突起154aを設け、素体102に第2溝114aが形成される構成とすることにより、素体102におけるコイル導体20の位置は、長さ方向DLにおいても素体102ごとにばらつきにくくなる。このため、実施形態2では、インダクタ1の特性のばらつきをより抑制し易い。
【0065】
[実施形態3]
次に、
図12を用いて、実施形態3について説明する。以下では、実施形態1のインダクタ1の製造方法およびインダクタ1と異なる点についてのみ説明し、同一の説明は省略する。
図12は、実施形態3における上型251の断面視図であり、
図6に相当する上型251のLW断面を示す。
【0066】
図12に示すように、上型251は、互いに対向する一対の第1内壁面56、256を有する。第1内壁面56には、第1突起56aが形成され、第1内壁面256には、第1突起56aが形成されていない。また、第1突起56aの先端と第1内壁面256との幅方向DWの間隔W1は、巻回部22の幅方向の寸法と同等である。
【0067】
実施形態3では、コイル導体20の巻回部22は、第1突起56aと第1内壁面256とによって幅方向DWにおいて位置決めされ、圧縮成型中の移動を規制される。このように、一方の第1内壁面56に第1突起56aを1つだけ設けることによっても、素体中のコイル導体20の位置のばらつきを抑制し、インダクタ1の特性のバラつきを抑制できる。また、
図12の上型251を用いることにより成型された素体は、一方の側面16にのみ第1溝16aを有しており、素体内におけるコイル導体20の位置がばらつきにくくなっている。
【0068】
[他の実施形態]
上述した実施形態1では、素体保護層形成工程において素体2が絶縁性の樹脂にコーティングされると説明したが、これは一例である。インダクタ1の使用目的に応じて、素体2の表面には樹脂によるコーティングがされない構成としてもよい。この場合、露出部22a1、22b1は、インダクタ1の製造方法の最後まで絶縁性の樹脂で覆われることなく、コイル導体20の巻回部22がインダクタ1の外面に露出したままとなる。
【0069】
また、実施形態1~3では、素体2、102に形成された一対の第1溝16aは、厚み方向DTにおける側面16の全長に渡って形成されると説明した。また、素体102に形成された一対の第2溝114aは、厚み方向DTにおける端面14の全長に渡って形成されると説明したが、これらは一例である。第1溝16aおよび第2溝114aは、それぞれ、素体2をキャビティ51aから抜くことができる形状に形成されていればよい。例えば、素体2、102の底面10を成型する下型53の側に向けて素体2、102をキャビティ51aから抜く場合、素体2、102の第1溝16aおよび第2溝114aは、底面10まで延びていなくてもよい。
【0070】
また、実施形態1~3では、素体2の圧縮成型時において、一つの部材によって構成された上型51、151、251を使用すると説明したが、これは一例である。上型51、151、251は、複数の部品に分割可能な構成であってもよい。また、成型金型50は、下型53を有さず、2つのパンチ55によって素体2、102を圧縮成型する構成としてもよい。また、素体2の圧縮成型時において、キャビティ51aには、T型予備成型体である第1タブレット71と、コイル導体20と、I型予備成型体である第2タブレット73と、が配置されると説明したが、これは一例である。例えば、第2タブレット73の代わりに、磁性粒子と樹脂との混合粉を第1タブレット71およびコイル導体20の上からキャビティ51a内に充填し、素体2を圧縮成型してもよい。
【0071】
また、実施形態1~3では、キャビティ51aの内側に配置されたコイル導体20は、第1突起56aおよび第2突起154aに対して接触していると説明したが、これは一例である。第1突起56aおよび第2突起154aは、コイル導体20に対し、接触せずに隙間を開けて近接していても、コイル導体20の位置ずれを抑制することができる。このように第1突起56aおよび第2突起154aとコイル導体20との間に隙間を設けた場合、隙間の分だけコイル導体20をキャビティ51a内に対して配置し易くなる。また、このように第1突起56aおよび第2突起154aをコイル導体20に接触させることなく素体2を圧縮成型した場合、露出部22a1、22b1のように巻回部22がコア30から露出した部分は形成されず、巻回部22の全体はコア30に埋設される。
【0072】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。また、上述した各実施形態の任意の要素を組み合わせ、新たな実施形態としてもよい。
また、上述した実施形態における水平、直交、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0073】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0074】
(構成1)導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備えるインダクタの製造方法であって、前記素体は、予備成型体と前記予備成型体に配置された前記コイル導体とが、成型金型に形成されたキャビティの内側に配置され、圧縮成型されることによって形成され、前記成型金型は、前記キャビティを形成する、互いに対向する一対の第1内壁面と、互いに対向する一対の第2内壁面と、一対の前記第1内壁面の少なくとも一方に形成された第1突起と、を有し、前記第1突起は、前記キャビティの内側に向けて突出し、前記第1内壁面に平行に延在する形状であり、前記コイル導体は、前記コイル導体の巻軸が前記第1突起の延びる方向と平行となる姿勢で、前記キャビティの内側に配置され、前記コイル導体が前記第1突起に近接している、インダクタの製造方法。
構成1に記載のインダクタの製造方法によれば、成型金型に形成された第1突起によってキャビティの内側のコイル導体の位置ずれを抑制できる。このため、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0075】
(構成2)一対の前記第1内壁面には、前記第1突起がそれぞれ形成される、構成1に記載のインダクタの製造方法。
構成2に記載のインダクタの製造方法によれば、一対の第1突起によって、キャビティの内側のコイル導体の位置ずれを抑制できる。このため、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0076】
(構成3)前記コイル導体は、前記第1突起に対して接触している、構成1または2に記載のインダクタの製造方法。
構成3に記載のインダクタの製造方法によれば、コイル導体に接触する第1突起により、コイル導体の位置ずれをより抑制し易くなる。このため、インダクタの特性のばらつきをより抑制し易くなる。
【0077】
(構成4)前記コイル導体は、前記第1突起のうち、前記第1突起の延びる方向の中央において、前記第1突起に接触している、構成3に記載のインダクタの製造方法。
構成4に記載のインダクタの製造方法によれば、コイル導体に対して第1突起のうち、第1突起の延びる方向における中央が接触するため、コイル導体の位置ずれをより抑制し易くなる。このため、インダクタの特性のばらつきをより抑制し易くなる。
【0078】
(構成5)前記成型金型は、一対の前記第2内壁面において、前記キャビティの内側に向けて突出し、前記第2内壁面に平行に延在してそれぞれ形成された、第2突起をさらに有し、前記コイル導体は、前記第2突起に対して近接している、構成1から4のいずれかに記載のインダクタの製造方法。
構成5に記載のインダクタの製造方法によれば、成型金型に形成された第2突起によってキャビティの内側のコイル導体の位置ずれを抑制できる。このため、インダクタの特性のばらつきを更に抑制し易くなる。
【0079】
(構成6)前記コイル導体は、前記第2突起に対して接触している、構成5に記載のインダクタの製造方法。
構成6に記載のインダクタの製造方法によれば、コイル導体に接触する第2突起により、コイル導体の位置ずれをより抑制し易くなる。このため、インダクタの特性のばらつきをより抑制し易くなる。
【0080】
(構成7)前記圧縮成型によって形成された前記素体を、絶縁性樹脂によって被覆する、構成1から6のいずれかに記載のインダクタの製造方法。
構成7に記載のインダクタの製造方法によれば、製造されるインダクタの磁束漏れを抑制し易くなる。
【0081】
(構成8)導線が巻回されて形成されたコイル導体と、金属磁性粉と樹脂とを含有し前記コイル導体が埋設されたコアと、を有する素体を備え、前記コアは、前記コイル導体の巻軸に平行な一対の第1側面と、前記第1側面に交差して前記巻軸に平行な一対の第2側面と、一対の前記第1側面の少なくとも一方に形成される第1溝と、を有し、一対の前記第1側面は、前記コアにおいて互いに対向する面であり、前記第1溝は、前記コアの内側に向けて窪み、前記巻軸に平行に延びる、インダクタ。
構成8に記載のインダクタによれば、第1溝により、コア内におけるコイル導体の位置がばらつきにくくなる。このため、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0082】
(構成9)一対の前記第1側面には、前記第1溝がそれぞれ形成される、構成8に記載のインダクタ。
構成9に記載のインダクタによれば、一対の第1溝により、コア内におけるコイル導体の位置がばらつきにくくなる。このため、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0083】
(構成10)前記コアは、前記第2側面において前記コアの内側に向けて窪み、前記巻軸に平行に延びる第2溝をさらに有する、構成8または9に記載のインダクタ。
構成10に記載のインダクタによれば、第2溝により、コア内におけるコイル導体の位置がばらつきにくくなる。このため、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0084】
(構成11)前記導線は、平角状導線である、構成8から10のいずれかに記載のインダクタ。
構成11に記載のインダクタによれば、導線を平角状導線とすることによってコイル導体の位置決めがし易くなり、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【0085】
(構成12)前記コイル導体は、前記導線が巻回された巻回部を有し、前記巻回部の一部は、前記第1溝を介して前記コアの外側に露出する、構成8から11のいずれかに記載のインダクタ。
構成12に記載のインダクタによれば、コイル導体の巻回部を大きくすることができ、インダクタの特性を向上し易くできる。
【0086】
(構成13)前記巻回部の一部は、前記第1溝のうち、前記第1溝の延びる方向の中央において、前記コアの外側に露出する、構成12に記載のインダクタ。
構成13に記載のインダクタによれば、コイル導体を第1溝によって位置決めし易くなり、インダクタの特性のばらつきを抑制し易くなる。
【符号の説明】
【0087】
1…インダクタ、2…素体、4…外部電極、10…底面、12…上面、14…端面(第2側面)、16…側面(第1側面)、16a…第1溝、20…コイル導体、22…巻回部、22a1…露出部、22b1…露出部、24…外部電極接続部、30…コア、50…成型金型、51a…キャビティ、54…第2内壁面、56…第1内壁面、56a…第1突起、71…第1タブレット(予備成型体)、73…第2タブレット(予備成型体)、102…素体、114…端面(第2側面)、114a…第2溝、130…コア、154…第2内壁面、154a…第2突起、256…第1内壁面、K…巻軸。