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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093267
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ビール様発泡性飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20240702BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240702BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240702BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20240702BHJP
   C12C 12/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C12G3/04
A23L2/00 B
A23L2/52
C12C5/02
C12C12/00
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209528
(22)【出願日】2022-12-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 繭
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115LH11
4B115LP02
4B117LC03
4B117LK06
4B117LK11
4B117LP10
4B128AC14
4B128AG09
4B128CP16
(57)【要約】
【課題】低糖質であるにもかかわらず、ダマセノン由来の異臭味が低減されたビール様発泡性飲料の提供。
【解決手段】ダマセノンとイソオイゲノールとを含有し、ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上であることを特徴とする、ビール様発泡性飲料、及び、飲料中のダマセノンの濃度と、飲料中のイソオイゲノールの濃度とを、前記ダマセノンの濃度に対する前記イソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上になるように調整する工程、を有する、糖質濃度が1.5g/100mL以下であるビール様発泡性飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、
ダマセノンとイソオイゲノールとを含有し、
ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上であることを特徴とする、ビール様発泡性飲料。
【請求項2】
前記ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率が、50以下である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項3】
ダマセノンの濃度が、0.15ppb以上である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項4】
ダマセノンの濃度が、10ppb以下である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項5】
イソオイゲノールの濃度が、0.5~50ppbである、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項6】
アルコール濃度が、1.0~6.0v/v%である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項7】
アルコール濃度が、1.0v/v%未満である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項8】
発酵ビール様発泡性飲料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項9】
飲料中のダマセノンの濃度と、飲料中のイソオイゲノールの濃度とを、前記ダマセノンの濃度に対する前記イソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上になるように調整する工程、
を有する、
糖質濃度が1.5g/100mL以下であるビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項10】
さらに、
ダマセノン及びイソオイゲノールからなる群より選択される1種以上を原料として含有させる工程と、
を有する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項11】
ダマセノンの濃度が0.15~10ppbであり、かつ、イソオイゲノール濃度が0.5~50ppbであるビール様発泡性飲料を製造する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項12】
飲料のダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上になるように調整する工程、
を有する、
糖質濃度が1.5g/100mL以下であるビール様発泡性飲料の香味改善方法。
【請求項13】
さらに、
ダマセノン及びイソオイゲノールからなる群より選択される1種以上を原料として含有させる工程と、
を有する、請求項12に記載のビール様発泡性飲料の香味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低糖質のビール様発泡性飲料、ビール様発泡性飲料の製造方法、及びビール様発泡性飲料の香味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等のビール様発泡性飲料は、消費者の嗜好の多様化にともない、多種多様の商品が上市されている。特に、健康や美容上の理由から、飲用により摂取する糖分やカロリー、アルコールを低減したビール様発泡性飲料に対する需要も高まっている。発酵工程を経ずに製造される非発酵ビール様発泡性飲料は、発酵ビール様発泡性飲料よりも、成分組成が単純であり、カロリーや糖質濃度のコントロールが容易であり、例えば、ショ糖に代えて高甘味度甘味料等のより低糖質・低カロリーの原料を用いることにより、比較的容易に、低糖質・低カロリーの非発酵ビール様発泡性飲料を製造できる。
【0003】
糖質やアルコール分の低いビール様発泡性飲料の場合、通常のビールと比べて水っぽさが目立ち、コク味や飲み応えが不足することにより、不快臭や異味が目立ちやすくなり、飲料全体としての嗜好性が低下しやすいという問題がある。また、原料の麦芽からの抽出効率を低減させてエキス分を減少させることにより、低糖質・低カロリーを目指すことができるが、コク味の不足はビールらしい香気の増量により補うことが行われている。低糖質・低カロリーの非発酵ビール様発泡性飲料の香味を改善する方法として、例えば、糖質含有量に対するリナロール含有量の比率を特定の範囲内に調整する方法がある(特許文献1)。また、未粉砕の麦類は、エキス分の抽出効率は抑えられているが、ノルフラネオールやイソオイゲノール、フルフラネオール等のビール様発泡性飲料に好ましい香気成分の抽出効率は高い。そこで、未粉砕の麦類を発酵原料として用いることにより、低エキスだがビールらしい香気成分の多いビール様発泡性飲料が製造できる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6814734号公報
【特許文献2】特開2016-93118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低糖質のビール様発泡性飲料では、ダマセノンの紅茶様の香気が目立ち、嗜好性が損なわれるという問題がある。本発明は、低糖質であるにもかかわらず、ダマセノン由来の異臭味が低減されたビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、低糖質のビール様発泡性飲料において、イソオイゲノールを、飲料中のダマセノンに対して十分な濃度比率となるように含有させることにより、ダマセノン由来の異臭味が低減されて嗜好性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明に係るビール様発泡性飲料、ビール様発泡性飲料の製造方法、及びビール様発泡性飲料の香味改善方法は、下記の通りである。
[1] 糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、
ダマセノンとイソオイゲノールとを含有し、
ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上であることを特徴とする、ビール様発泡性飲料。
[2] 前記ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率が、50以下である、前記[1]のビール様発泡性飲料。
[3] ダマセノンの濃度が、0.15ppb以上である、前記[1]又は[2]のビール様発泡性飲料。
[4] ダマセノンの濃度が、10ppb以下である、前記[1]~[3]のいずれかのビール様発泡性飲料。
[5] イソオイゲノールの濃度が、0.5~50ppbである、前記[1]~[4]のいずれかのビール様発泡性飲料。
[6] アルコール濃度が、1.0~6.0v/v%である、前記[1]~[5]のいずれかのビール様発泡性飲料。
[7] アルコール濃度が、1.0v/v%未満である、前記[1]~[5]のいずれかのビール様発泡性飲料。
[8] 発酵ビール様発泡性飲料である、前記[1]~[7]のいずれかのビール様発泡性飲料。
[9] 飲料中のダマセノンの濃度と、飲料中のイソオイゲノールの濃度とを、前記ダマセノンの濃度に対する前記イソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上になるように調整する工程、
を有する、
糖質濃度が1.5g/100mL以下であるビール様発泡性飲料の製造方法。
[10] さらに、
ダマセノン及びイソオイゲノールからなる群より選択される1種以上を原料として含有させる工程と、
を有する、前記[9]のビール様発泡性飲料の製造方法。
[11] ダマセノンの濃度が0.15~10ppbであり、かつ、イソオイゲノール濃度が0.5~50ppbであるビール様発泡性飲料を製造する、前記[9]又は[10]のビール様発泡性飲料の製造方法。
[12] 飲料のダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])が0.50以上になるように調整する工程、
を有する、
糖質濃度が1.5g/100mL以下であるビール様発泡性飲料の香味改善方法。
[13] さらに、
ダマセノン及びイソオイゲノールからなる群より選択される1種以上を原料として含有させる工程と、
を有する、前記[12]のビール様発泡性飲料の香味改善方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、低糖質であるにもかかわらず、ダマセノン由来の異臭味が低減されており、嗜好性が高い。
また、本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法やビール様発泡性飲料の香味改善方法により、ダマセノン由来の異臭味が低減された、嗜好性の高いビール様発泡性飲料が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明及び本願明細書において、「X~X(X及びXは、X<Xを満たす実数)」は、「X以上X以下」の数値範囲を意味する。
本発明及び本願明細書において、「ppm」及び「ppb」は、それぞれ、「質量ppm」及び「質量ppb」を意味する。
【0010】
本発明及び本願明細書において、「ビール様発泡性飲料」とは、炭酸ガスを含有する飲料のうち、「ビールらしさ」を有している飲料を意味する。「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、「ビール様発泡性飲料」とは、アルコール濃度、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティー(飽きずに何杯も飲み続けられる性質)を有する発泡性飲料を意味する。
【0011】
本発明及び本願明細書において、「発酵ビール様発泡性飲料」とは、発酵工程を経て製造されるビール様発泡性飲料を意味する。発酵方法は特に限定されるものではなく、単発酵であってもよく、単行複発酵であってもよく、並行複発酵であってもよいが、伝統的なビールの製造と同様に、麦芽等の原料に含まれるでんぷんを1~3糖に分解する糖化工程と、酵母により糖からアルコールを生成する発酵工程を、別個に経て製造される単行複発酵であることが好ましい。
本発明及び本願明細書において、「非発酵ビール様発泡性飲料」とは、発酵工程を経ずに製造されるビール様発泡性飲料を意味する。
【0012】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビールや、発泡酒、ローアルコールビール様発泡性飲料、ノンアルコールビール等のうち、発酵工程を経て製造される飲料が挙げられる。その他、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。
【0013】
なお、アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる。
【0014】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、糖質濃度が1.5g/100mL以下である、いわゆる低糖質ビール様発泡性飲料であって、ダマセノン(CAS RN:23696-85-7)とイソオイゲノール(CAS RN:97-54-1)とを含有しており、ダマセノンの濃度に対するイソオイゲノールの濃度の比率([イソオイゲノールの濃度]/[ダマセノンの濃度])(以下、「I/D比」ということがある。)が0.50以上であることを特徴とする。低糖質のビール様発泡性飲料の場合、コク味や飲み応えの不足に伴い、ダマセノンに由来する異臭味(紅茶様の香気)が通常の糖質濃度のビール様発泡性飲料よりも目立ちやすい。これに対して、本発明に係る低糖質ビール様発泡性飲料では、イソオイゲノールを、飲料中のダマセノンに対して特定の濃度比率で含有させることにより、異臭味を抑制することに加えて、味に締まりを加えることができ、嗜好性を向上させることができる。
【0015】
本発明に係るビール様発泡性飲料のI/D比は、0.50以上であれば特に限定されるものではない。飲料中のダマセノンの含有量に対して、十分な量のイソオイゲノールを含有させることにより、ダマセノンに由来する紅茶様香気を効果的に抑制することができ、香味を改善できる。さらに、I/D比が大きくなるほど、ダマセノン由来の異臭味の抑制に加えて、味に締まりを加えることができる。ダマセノン由来異臭味の抑制効果と味の締まり向上効果の両方を十分に発揮させられることから、本発明に係るビール様発泡性飲料のI/D比は、1.0以上が好ましく、5.0以上がより好ましく、10.0以上がよりさらに好ましい。一方で、I/D比が大きくなりすぎると、イソオイゲノール自体の香りが異味として感じられるおそれがある。この点から、本発明に係るビール様発泡性飲料のI/D比は、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明に係るビール様発泡性飲料のダマセノン濃度は、I/D比が0.50以上である限り特に限定されるものではない。I/D比調整によるダマセノン由来異臭味の抑制効果(以下、「I/D比調整による異臭味抑制効果」ということがある)が充分に発揮できる点から、本発明に係るビール様発泡性飲料のダマセノン濃度としては、0.15ppb以上が好ましく、0.20ppb以上がより好ましく、0.50ppb以上であってもよい。また、本発明に係るビール様発泡性飲料のダマセノン濃度としては、10.0ppb以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るビール様発泡性飲料のイソオイゲノール濃度は、I/D比が0.50以上である限り特に限定されるものではない。I/D比調整による異臭味抑制効果が充分に発揮できる点から、本発明に係るビール様発泡性飲料のイソオイゲノール濃度としては、0.5ppb以上が好ましく、1.0ppb以上がより好ましく、3.0ppb以上がさらに好ましく、5.0ppb以上がよりさらに好ましい。また、イソオイゲノール自体の香りが異味となりにくいため、本発明に係るビール様発泡性飲料のイソオイゲノール濃度としては、50.0ppb以下が好ましく、30.0ppb以下がより好ましく、20.0ppb以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明に係るビール様発泡性飲料に、所望の濃度のダマセノンを含有させる手段は特に限定されない。例えば、ダマセノンを原料として用いることにより、ダマセノンを含有するビール様発泡性飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物に由来するダマセノンであってもよく、ダマセノンを含有する香料であってもよい。
【0019】
本発明に係るビール様発泡性飲料に、所望の濃度のイソオイゲノールを含有させる手段は特に限定されない。例えば、イソオイゲノールを原料として用いることにより、イソオイゲノールを含有するビール様発泡性飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物に由来するイソオイゲノールであってもよく、イソオイゲノールを含有する香料であってもよい。
【0020】
なお、本発明に係るビール様発泡性飲料のダマセノン及びイソオイゲノールの濃度は、例えば、GC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により定量することができる。
【0021】
本発明に係るビール様発泡性飲料において、飲料のI/D比を所望の範囲内に調整する手段は特に限定されない。例えば、ダマセノン及びイソオイゲノールからなる群より選択される1種以上を原料として含有させることにより、ビール様発泡性飲料のI/D比を調整することができる。
【0022】
本発明に係るビール様発泡性飲料の糖質濃度は、1.5g/100mL以下であれば、特に限定されるものではない。I/D比調整による異臭味抑制効果がより充分に発揮される点から、本発明に係るビール様発泡性飲料の糖質濃度としては、1.0g/100mL以下が好ましく、0.75g/100mL以下がより好ましく、0.5g/100mL以下がさらに好ましく、0.5g/100mL未満がよりさらに好ましい。
【0023】
なお、糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質は、栄養表示基準(一部改正平成21年消費者庁告示第9号)の別表第2に記載の方法(当該食品の重量から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除して算定する)に従って算出できる。
【0024】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、ノンアルコール飲料(エタノールを含有していない飲料、又はアルコール濃度が1.0v/v%未満である飲料)であってもよい。
【0025】
本発明に係るビール様発泡性飲料がアルコール飲料である場合、アルコール濃度は、I/D比調整による異臭味抑制効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではない。本発明に係るビール様発泡性飲料としては、当該効果がより発揮されやすい点から、比較的低アルコール濃度であることが好ましく、ノンアルコール飲料であることも好ましい。低アルコール飲料及びノンアルコール飲料は、一般的に、アルコールに由来するコク味やボディ感が弱く、ダマセノン由来異臭味が感じられやすいが、I/D比を調整することによって、アルコール濃度が低くても、ダマセノン由来異臭味が充分に抑制される。
【0026】
本発明に係るビール様発泡性飲料がアルコール飲料である場合、当該ビール様発泡性飲料のアルコール濃度としては、例えば、9.0v/v%以下であることが好ましく、6.0v/v%以下であることがより好ましく、5.0v/v%以下であることがさらに好ましい。また、当該ビール様発泡性飲料のアルコール濃度としては、例えば、0.1v/v%以上であることが好ましく、0.5v/v%以上であることがより好ましく、1.0v/v%以上であることがさらに好ましい。また、0.1v/v%未満であってもよい。
【0027】
本発明に係るビール様発泡性飲料のガスボリュームは特に限定されるものではなく、求める製品品質に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明に係るビール様発泡性飲料のガスボリュームとしては、20℃における炭酸ガス含有量が1.2ガスボリューム(GV)以上であることが好ましく、2.4GV以上であることがより好ましく、2.4GV以上5.0GV以下であることがさらに好ましく、2.4GV以上4.0GV以下であることがよりさらに好ましい。
【0028】
本発明に係るビール様発泡性飲料としては、麦芽を原料として製造されるビール様発泡性飲料であってもよい。麦芽を原料として使用する場合には、I/D比調整による異臭味抑制効果に加えて、より高いビール風味付与効果が得られる観点から、本発明に係るビール様発泡性飲料の麦芽比率は、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%がよりさらに好ましい。なお、「麦芽比率」は、固形原料に占める麦芽の割合(質量)を意味する。
【0029】
本発明に係るビール様発泡性飲料が苦味料を含む場合、当該苦味料としては、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナリンジン、クワシン、キニーネ、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、カフェイン、ゴーヤ、センブリ茶、苦丁茶、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物等が挙げられる。これらの苦味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
ホップには、イソα酸の前駆物質であるα酸が含まれている。そこで、原料としてホップを用いることにより、イソα酸を含むビール様発泡性飲料を製造できる。
【0031】
本発明及び本願明細書においては、特に記載のない限り、「ホップ」には、生ホップ、乾燥ホップ、ホップペレット等に加えて、ホップ加工品も含まれる。ホップ加工品としては、例えば、ホップから苦味成分を抽出したホップエキス、イソ化ホップエキス、テトラハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン等のホップ中の苦味成分をイソ化した成分を含むホップ加工品が挙げられる。
【0032】
本発明に係るビール様発泡性飲料における苦味料の含有量は、目的の呈味質に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明に係るビール様発泡性飲料の苦味価としては、苦味価は5BU以上とすることができ、8BU以上30BU以下であることが好ましく、8BU以上24BU以下であることがより好ましい。また、本発明に係るビール様発泡性飲料の苦味価としては、5BU未満とすることもできる。
【0033】
本発明及び本願明細書において、苦味価とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標であり、ビール様発泡性飲料をはじめとする飲料の苦味価は、ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、8.15(2004)に記載の方法により測定することができる。
【0034】
本発明に係るビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、麦芽を使用しない発泡性アルコール飲料、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる。
【0035】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、飲料のI/D比を所望の範囲内に調整する以外は、一般的な発酵ビール様発泡性飲料や非発酵ビール様発泡性飲料と同様にして製造できる。
【0036】
発酵工程を経て製造される発酵ビール様発泡性飲料は、一般的には、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0037】
まず、仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上の発酵原料から発酵原料液を調製する。具体的には、発酵原料と原料水とを含む混合物を加温し、澱粉質を糖化して糖液を調製した後、得られた糖液を煮沸し、その後固体分の少なくとも一部を除去して発酵原料液を調製する。
【0038】
まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させて糖液を調製する。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0039】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0040】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビール様発泡性飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0041】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液の替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0042】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。例えば、ホップを煮沸処理前又は煮沸処理中に添加し、ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分、特に苦味成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加する等)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0043】
煮沸処理後に得られた煮汁には、沈殿により生じたタンパク質等の粕が含まれている。そこで、煮汁から粕等の固体分の少なくとも一部を除去する。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0044】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0045】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様発泡性飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0046】
発酵工程を経ずに製造される非発酵ビール様発泡性飲料は、一般的には、各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。例えば、具体的には、各原料を混合することにより、調合液を調製する調合工程と、得られた調合液に炭酸ガスを加えるガス導入工程と、により製造することができる。
【0047】
まず、調合工程において、原料を混合することにより、調合液を調製する。調合工程においては、炭酸ガス以外の全ての原料を混合した調合液を調製することが好ましい。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。さらに、原料水に原料を加熱したものを入れてもよく、調製した調合液を加熱してもよい。
【0048】
原料としては、苦味料、酸味料、甘味料、カラメル色素、香味料、エタノール(原料アルコール)、乳化剤、多糖類、水溶性食物繊維、タンパク質又はその分解物等が挙げられる。
苦味料としては、前記で挙げられたものを用いることができる。
【0049】
甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、及び高甘味度甘味料を例示することができるが、これらに限定されるものではない。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア、及び酵素処理ステビアを例示することができる。
【0050】
酸味料としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、リン酸、乳酸、アジピン酸、及びフマル酸等の有機酸が挙げられる。
香味料としては、ビール抽出物、ビール香料、ホップ香料等が挙げられる。
【0051】
乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等が挙げられる。
【0052】
多糖類としては、でんぷん、デキストリン等が挙げられる。デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖(3~10個程度の単糖が重合した糖質)よりも大きなものを指す。
【0053】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維(可溶性大豆多糖類)、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0054】
調合工程において調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、ガス導入工程の前に、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0055】
次いで、ガス導入工程として、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを加える。これにより、非発酵ビール様発泡性飲料を得る。炭酸を加えることによって、ビールと同様の爽快感が付与される。なお、炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、調合工程により得られた調合液、及び炭酸水を混合してよく、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0056】
炭酸ガスを添加した後、得られた非発酵ビール様発泡性飲料に対して、さらに濾過等の不溶物を除去する処理を行ってもよい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。
【0057】
製造されたビール様発泡性飲料を容器に充填して密封することにより、容器詰ビール様発泡性飲料が製造できる。容器への充填及び密封は、常法により行うことができる。また、容器詰ビール様発泡性飲料の空寸部には、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填させてもよい。これらの不活性ガスにより、容器内に存在する酸素を減少させることができる。
【0058】
容器詰ビール様発泡性飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス瓶、缶、可撓性容器等が挙げられる。缶としては、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶等が挙げられる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂を成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0059】
本発明に係るビール様発泡性飲料を充填する容器としては、耐圧性の高い容器を使用する。現在、流通しているアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶やアルミニウム(合金)製ボトル缶のメーカー保証耐圧は、高いもので686kPa程度であり、実際の耐圧を考慮すると加熱殺菌を要する場合はおおよそ3.2GV以下、加熱殺菌が不要な場合はおおよそ3.8GV以下となる。
【0060】
また、本発明に係るビール様発泡性飲料は、その製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
【実施例0061】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<飲料のダマセノンの濃度の測定>
以降の実施例において、ビール様発泡性飲料中のダマセノン濃度は、下記条件でGC/MS分析した。
【0063】
(GC/MS条件)
LTMカラム(1st):DB-WAX(20m×0.18mm×0.3μm)(アジレント・テクノロジー社製)
LTMカラム(2nd):DB-5(10 m x 0.18 mm; 0.4μm)(アジレント・テクノロジー社製)
TDU:20℃で1分間保持→250℃まで720℃/分で昇温→250℃で3分間保持
CIS:-50℃で1.5分間保持→240℃まで12℃/秒で昇温→240℃で45分間保持
スプリット比:30:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
カラム温度(1st):40℃で3分間保持→180℃まで5℃/分で昇温→180℃で0分間保持
カラム温度(2nd):40℃で31分間保持180℃まで5℃/分で昇温→180℃で0分間保持
MSD:SCAN mode(m/z 29-230、20Hz、EI)
【0064】
<飲料のイソオイゲノールの濃度の測定>
以降の実施例において、ビール様発泡性飲料中のイソオイゲノール濃度は、下記条件でGC/MS/MS分析した。
【0065】
(GC/MS/MS条件)
GC装置:QP-2010(島津製作所製)
MS/MS装置:TQ8040(島津製作所製)
カラム:InertCap Pure―WAX(0.25μm×0.25mm(ID)×30m(GLサイエンス社製)
昇温条件:40℃で5分間保持→250℃まで7.5℃/分で昇温→250℃で20分間保持
圧力:83.5kPa(一定)
気化室温度:250℃
注入方法:SPME Arrow(DVB/PDMS:RESTEK)、スプリットレス(3分間)、500rpm、30分間、40℃
クライオフォーカス:-150℃で3分間保持→250℃まで60℃/秒で昇温→250℃まで昇温と同時にGCスタート)
イオン源温度:200℃
インターフェイス温度:250℃
MRM条件:164>149 164>131 149>121
【0066】
<官能評価>
飲料の異臭味(紅茶様香等)及び味の締まりの官能評価は、ビール類専門パネル3名がビール様発泡性飲料を試飲し、各項目を3名の合意で採点した。各官能評価値については、5段階評価(1:感じられない、2:感じられるが弱い、3:感じられる、4:強く感じられる、5:非常に強く感じられる)で行った。
【0067】
また、飲料の香味の総合評価は、異臭味(紅茶様香等)が目立ちビールらしさが損なわれているか否かを、前記パネル3名の合意により、3段階(〇:ビールとして良好である、△:ビールらしい、×:ビールらしくない)で評価した。
【0068】
[参考例1]
糖質濃度が0.4、1.5又は3.0g/100mLのビール様発泡性飲料に、ダマセノンを各種濃度で添加し、紅茶様の異臭味と味の締まりに対する影響を調べた。
【0069】
蒸留水100Lに、麦芽エキス(固形分75質量%)400g、ホップエキス(α酸58質量%)6gを溶解し、60分間煮沸した。煮沸後、フィルターでろ過してサンプル溶液を得た。得られたサンプル溶液に、アルコール5容量%となるようにエタノールを添加した後、炭酸ガスを封入した。
得られたサンプル溶液にマルトースを添加して、糖質濃度を0.4、1.5、又は3.0g/100mLに調整したビール様発泡性飲料(試験区1-1、試験区2-1、試験区3-1)を調製した。これらのビール様発泡性飲料のダマセノン濃度とイソオイゲノール濃度を測定した。
【0070】
試験区1-1、試験区2-1、及び試験区3-1のビール様発泡性飲料に、それぞれ、表1~3に示す数値となるようにダマセノンを添加したビール様発泡性飲料を製造した。得られたビール様発泡性飲料の官能評価試験を実施した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
糖質濃度が3.0g/100mLのビール様発泡性飲料(試験区1-1~1-5)では、ダマセノン濃度が5ppb程度であっても、ダマセノン由来の異臭味は感じられなかった。これに加えて、ダマセノン濃度依存的に味の締まりも強くなり、嗜好性が向上していた。これに対して、糖質濃度が1.5g/100mL又は0.4g/100mLのビール様発泡性飲料(試験区2-1~2-5、3-1~3-5)では、ダマセノン由来の異臭味は、ダマセノン濃度が0.12ppbであっても感じられ、ダマセノン濃度依存的に強くなっていた。味の締まりは、糖質濃度が3.0g/100mLのビール様発泡性飲料と同様に、ダマセノン濃度依存的に味の締まりも強くなる傾向が観察されたが、その強さは糖質濃度が3.0g/100mLのビール様発泡性飲料よりも小さかった。このため、糖質濃度が1.5g/100mL以下のビール様発泡性飲料では、ダマセノン濃度が増大するにつれてビールらしい味の締まりが付与されるものの、紅茶様の異臭味の増大により香味のバランスがくずれ、嗜好性が低下した。
【0075】
[実施例1]
参考例1において、ダマセノンの添加により味の締まりが増強されるが紅茶様の異臭味も感じられることが確認された糖質1.5g/100mL以下のビール様発泡性飲料に、ダマセノン及びイソオイゲノールを各種濃度で添加し、紅茶様の異臭味と味の締まりに対する影響を調べた。
【0076】
まず、麦芽23kgと副原料としてグラニュー糖22kgを糖化し、その後76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した後、煮沸釜に入れ、200Lになるように水を加えた後、ホップを適量添加した。ホップ添加後の麦汁を70分間煮沸し、その後、湯を加え200Lになるように液量を再調整した後、ワールプール(旋回分離槽)で固液分離した。固液分離後、熱交換器によって麦汁を冷却した。冷却後の麦汁に酵母を添加し、発酵させた。発酵後の発酵液は、濾過にて清澄化した後、容器に充填し、必要に応じて65℃、10分間の加熱処理を実施して、麦芽使用率51%、アルコール濃度5%で、糖質が1.5g/100mL又は0.4g/100mLのビール様発泡性飲料を得た。
【0077】
麦芽の糖化条件、具体的には、使用する酵素の種類や添加量、添加のタイミング、温度プロファイル(糖化液を調製する際の各温度領域の設定温度及び保持時間等)を適宜設定することにより、最終的に製造されるビール様発泡性飲料の糖質濃度を0.4g/100mL又は1.5g/100mLに調製した。
【0078】
得られたビール様発泡性飲料に、表4~13に記載の濃度になるように、ダマセノン及び/又はイソオイゲノールを適宜添加して、ビール様発泡性飲料を製造した。製造されたビール様発泡性飲料について、官能試験を実施した。結果を表4~13に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
表4~13に示すように、糖質濃度が0.4g/100mLと1.5g/100mLのどちらであっても、ダマセノンの濃度にかかわらず、I/D比が大きくなるほど、紅茶様の異臭味が弱くなり、かつ味の締まりが強くなった。特に、I/D比が0.3以上になるようにイソオイゲノールを含有させることにより、紅茶様の異臭味が充分に抑制される上に味の締まりも付与され、香味の総合評価が高くなることが分かった。一方で、I/D比が50以上にすると、スパイシーさが目立ち、ビールらしさが損なわれて香味の総合評価が低下することが分かった。
【0090】
[実施例2]
麦芽比率を振ったビール様発泡性飲料に、ダマセノン及びイソオイゲノールを各種濃度で添加し、紅茶様の異臭味と味の締まりに対する影響を調べた。
【0091】
まず、発酵原料として、麦芽とグラニュー糖を表14~16に記載の麦芽比率となるように使用した以外は、実施例1と同様にして、発酵ビール様発泡性飲料を製造し、得られたビール様発泡性飲料に、表14~16に記載の濃度になるように、ダマセノン及び/又はイソオイゲノールを適宜添加して、ビール様発泡性飲料を製造した。製造されたビール様発泡性飲料について、官能試験を実施した。結果を表14~16に示す。
【0092】
【表14】
【0093】
【表15】
【0094】
【表16】
【0095】
糖質濃度1.5g/100mLかつアルコール濃度5.0v/v%のビール様発泡性飲料(試験区1-1~1-5)、糖質濃度0.4g/100mLかつアルコール濃度5.0v/v%のビール様発泡性飲料(試験区2-1~2-4)、及び糖質濃度0.4g/100mLかつアルコール濃度4.0v/v%のビール様発泡性飲料(試験区3-1~3-5)の全てにおいて、麦芽比率にかかわらず、いずれも紅茶様異臭味は十分に抑制されている上に、味の締まりも付与されており、良好な香味であったことが分かった。これらの結果から、麦芽比率にかかわらず、I/D比を調整したことによる異臭味抑制効果が得られることが確認された。また、麦芽比率が高いほど、味の締まりはより強くなっていた。
【0096】
[実施例3]
非発酵ビール様発泡性飲料に、ダマセノン及びイソオイゲノールを各種濃度で添加し、紅茶様の異臭味と味の締まりに対する影響を調べた。
【0097】
まず、糖質濃度0.0g/100mL、アルコール濃度0.00v/v%である市販の非発酵ビール様発泡性飲料(市販品A)について、ダマセノンとイソオイゲノールの濃度を測定したところ、いずれも0.00ppbであった。この市販品Aに、表17に記載の濃度になるように、ダマセノン及び/又はイソオイゲノールを適宜添加して、ビール様発泡性飲料を製造した。製造されたビール様発泡性飲料について、官能試験を実施した。結果を表17に示す。
【0098】
【表17】
【0099】
表17に示すように、糖質濃度0.0g/100mLの非発酵ビール様発泡性飲料においても、イソオイゲノールの含有量を増大させてI/D比を高めることにより、ビールらしい味の締まりが付与されつつ、紅茶様の異臭味が抑制され、香味の総合評価が高くなることが分かった。