(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093276
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20240702BHJP
C08L 77/04 20060101ALI20240702BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240702BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L77/06
C08L77/04
C08K7/02
C08L63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209549
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊與 直希
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD033
4J002CL012
4J002CL031
4J002CL032
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD143
4J002GM02
(57)【要約】
【課題】点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性に優れる半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】(A)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分および1,10-デカンジアミンを主成分とする脂肪族ジアミン成分からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A成分)55~92重量部および(B)脂肪族ポリアミド樹脂(B成分)45~8重量部の合計100重量部に対して、(C)繊維状充填材(C成分)を10~55重量部および(D)エポキシ樹脂(D成分)を0.5~8重量部含有し、(E)摺動性付与材(E成分)を含有しないことを特徴とする半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分および1,10-デカンジアミンを主成分とする脂肪族ジアミン成分からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A成分)55~92重量部および(B)脂肪族ポリアミド樹脂(B成分)45~8重量部の合計100重量部に対して、(C)繊維状充填材(C成分)を10~55重量部および(D)エポキシ樹脂(D成分)を0.5~8重量部含有し、(E)摺動性付与材(E成分)を含有しないことを特徴とする半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
B成分がポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする請求項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
B成分がポリアミド66であることを特徴とする請求項2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
D成分が下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂である請求項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、mは平均値であり、1以上の整数である。R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基を表す。Xはそれぞれ独立に水素原子またはグリシジル基を表す。)
【請求項5】
D成分の含有量が、樹脂組成物中のポリアミド樹脂に由来する酸およびアミン末端基の合計(A)に対するD成分中のエポキシ基(B)のモル比(B/A)が0.005以上0.05未満の範囲となる量であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
C成分が炭素繊維であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
摺動部材の材料に用いられる請求項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性に優れる半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミド樹脂はその優れた耐疲労性、耐油性および機械特性を活かして摺動を伴う機械要素部品、特に樹脂歯車へ広く使用されている。樹脂歯車は一般的に潤滑剤存在下で使用され、歯車同士が点接触および線接触によって摺動されることで摩耗していくため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が重要な特性となる。一方で、近年の自動車・産業機械分野における省スペース化の要請に応えるために、樹脂歯車の小径化ニーズが高まっている。小径化した歯車は歯の厚みが薄くなることで歯元折れによる寿命低下を招くため、従来よりも高い耐摩耗性および剛性を有した樹脂材料を用いなければならない。また、より高い寸法精度が求められるため、吸水率の低い樹脂材料が求められている。
【0003】
特許文献1にはポリアミド11または12、サーモトロピック型の液晶高分子リン酸塩およびワックスを含有する摺動部材が開示されているが、剛性および吸水性に関する記載はなく、繊維状充填材非含有であることから剛性が不十分であると考えられる。さらに点接触(潤滑環境)における耐摩耗性についても十分ではなかった。特許文献2にはポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリテトラフルオロエチレンおよび炭素繊維からなる摺動部材向けの樹脂組成物が開示されているが、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および吸水性に関する記載はなく、さらに近年は機械要素部品の使用環境が苛酷になっており、開示されている試験条件では実使用を想定した評価としては不十分である。特許文献3にはポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミド46からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリアミド樹脂並びに繊維状充填材を含有する電動パワーステアリング装置に使用される樹脂組成物が開示されているが、脂肪族ポリアミド樹脂を用いているために吸水率が高いという問題があった。
【0004】
このように点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性を高いレベルで有する樹脂材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-24186号公報
【特許文献2】特開2014-31720号公報
【特許文献3】WO04/083015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性に優れる半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分および1,10-デカンジアミンを主成分とする脂肪族ジアミン成分からなる半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、繊維状充填材およびエポキシ樹脂を特定の割合で配合することにより、上記目的を達成することを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分および1,10-デカンジアミンを主成分とする脂肪族ジアミン成分からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A成分)55~92重量部および(B)脂肪族ポリアミド樹脂(B成分)45~8重量部の合計100重量部に対して、(C)繊維状充填材(C成分)を10~55重量部および(D)エポキシ樹脂(D成分)を0.5~8重量部含有し、(E)摺動性付与材(E成分)を含有しないことを特徴とする半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
2.B成分がポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする前項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
3.B成分がポリアミド66であることを特徴とする前項2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
4.D成分が下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂である前項1~3のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【0009】
【化1】
(式(1)中、mは平均値であり、1以上の整数である。R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基を表す。Xはそれぞれ独立に水素原子またはグリシジル基を表す。)
【0010】
5.D成分の含有量が、樹脂組成物中のポリアミド樹脂に由来する酸末端基およびアミン末端基の合計(A)に対するD成分中のエポキシ基(B)のモル比(B/A)が0.005以上0.05未満の範囲となる量であることを特徴とする前項1~4のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
6.C成分が炭素繊維であることを特徴とする前項1~5のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
7.摺動部材の材料に用いられる前項1~6のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
8.前項1~7のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性に優れる半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することができ、本発明の樹脂組成物より得られる成形品は例えば電気電子、半導体、自動車、産業機械、OA機器および建築分野で用いられる摺動部材、特に樹脂歯車に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0013】
<A成分:半芳香族ポリアミド樹脂>
本発明のA成分は、ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とを構成成分として含有し、ジカルボン酸成分はテレフタル酸を主成分とし、脂肪族ジアミン成分は1,10-デカンジアミンを主成分とするものである。テレフタル酸の含有量は、耐熱性の観点から、ジカルボン酸成分中、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。1,10-デカンジアミンの含有量は、機械的特性の向上の観点から、脂肪族ジアミン成分中、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。A成分の具体例としては、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド10T)が挙げられる。
【0014】
ジカルボン酸成分は、テレフタル酸以外のジカルボン酸を含有してもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。テレフタル酸以外のジカルボン酸は、原料モノマーの総モル数に対し、20モル%以下とすることが好ましく、10モル%以下とすることがより好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。
【0015】
脂肪族ジアミン成分は、1,10-デカンジアミン以外の他の脂肪族ジアミンを含有してもよい。他の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン等が挙げられる。1,10-デカンジアミン成分以外の脂肪族ジアミンは、原料モノマーの総モル数に対し、20モル%以下とすることが好ましく、10モル%以下とすることがより好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。
【0016】
本発明におけるA成分は、300℃より高い融点を有することが好ましく、それにより耐熱性をより向上させることができる場合がある。融点を複数有する場合や、2種以上の半芳香族ポリアミド樹脂を用いる場合には、300℃以下の融点を有してもよい。ここで、本発明におけるA成分の融点とは、半芳香族ポリアミド樹脂のペレットを約10mg採取して、示差走査熱量計を用いて、窒素雰囲気下で、溶融状態から20℃/分の降温速度で20℃まで降温して5分間保持した後、20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの温度を指す。但し、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、最も温度の高いピークを融点とする。
【0017】
A成分は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とから反応生成物を得る工程(i)と、得られた反応生成物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
【0018】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とを混合し、予め脂肪族ジアミンの融点以上、かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とに、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、脂肪族ジアミンを添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法としては、溶融状態の脂肪族ジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で、ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとモノカルボン酸の反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応生成物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0019】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応生成物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミド樹脂を得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180~270℃ 、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0020】
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
【0021】
A成分の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマーに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0022】
<B成分:脂肪族ポリアミド樹脂>
本発明のB成分として使用される脂肪族ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよく、1種類もしくは複数種類の混合物を用いてもよい。脂肪族ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを構成成分として含有し、主鎖中に芳香族成分を含まないポリアミド樹脂であり、例えば、ポリε-カプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカナミド(ポリアミド11)、ポリドデカナミド(ポリアミド12)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体が例示される。これらポリアミド樹脂の中でもポリアミド6、ポリアミド66およびこれらの混合物が好ましく、ポリアミド66がより好ましい。これら好ましいポリアミド樹脂を用いることで点接触(潤滑環境)における耐摩耗性をより向上させる場合がある。
【0023】
B成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部中、8~45重量部であり、好ましくは15~45重量部であり、より好ましくは20~40重量部である。B成分の含有量が8重量部未満の場合、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が低下する。一方、45重量部を超える場合には点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が低下するとともに低吸水性も損なわれる。
【0024】
<C成分:繊維状充填材>
本発明でC成分として用いられる繊維状充填材は、繊維状の充填材であれば特に限定されない。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維および導電性物質で被覆された繊維状充填材等が挙げられるが、接触(潤滑環境)における耐摩耗性および剛性の観点からガラス繊維および炭素繊維よりなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填材であることが好ましく、炭素繊維がより好ましい。
【0025】
ガラス繊維としては、丸型断面を有するガラス繊維、繊維長断面の長径の平均値が5~20μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維、ガラスミルドファイバーが好適に例示される。上記のガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、CガラスおよびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス繊維は、必要に応じてTiO2、SO3、およびP2O5等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられ、半芳香族ポリアミド樹脂との密着性が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0026】
炭素繊維としては、一般的に炭素繊維と称されるものであればいかなる炭素繊維を用いてもよい。例えば、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、ビスコースレーヨンなどを原料とするセルロース系炭素繊維などが挙げられる。
【0027】
炭素繊維の平均繊維径は特に限定されないが、2~20μmが好ましく、より好ましくは3~15μmであり、さらに好ましくは4~10μmである。かかる範囲の平均繊維径を持つ炭素繊維は、成形体外観を損なうことなく良好な低摩耗性を発現することができる場合がある。ここで言う平均繊維径は、樹脂組成物を用いた成形体の断面を電子走査顕微鏡にて倍率1800倍で撮影し、炭素繊維100本の繊維径を計測し、その平均値として求めた値である。また、炭素繊維は生産性や機械強度の観点から集束処理をされていてもよい。集束剤としてはオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂およびウレタン系樹脂等が挙げられるが、特に限定されるものではない。加工性の観点から好ましい集束剤量は0~5重量%であり、より好ましくは0.1~4重量%である。炭素繊維は、表面に金属層をコートしてもよい。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。
【0028】
C成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対し、10~55重量部であり、好ましくは10~50重量部、より好ましくは15~45重量部である。C成分の含有量が55重量部を超える場合、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が低下する。一方、含有量が10重量部未満の場合、剛性が損なわれる。
【0029】
<D成分:エポキシ樹脂>
本発明のD成分として使用されるエポキシ樹脂は、分子構造中にエポキシ基を有する化合物であれば如何なるものを用いてもよく、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を使用した場合、接触(潤滑環境)における耐摩耗性をより向上できる場合がある。この理由については定かではないが、エポキシ樹脂を含有することで摺動時の繊維状充填材の脱落が抑制されている可能性が考えられる。1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の具体例としてはビスフェノール型エポキシ、ノボラック型エポキシ、環状脂肪族型エポキシ、グリシジルエステル型エポキシ、グリシジルアミン型エポキシ、トリスフェノールメタン型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシ、ビフェニル型エポキシなどが挙げられる。D成分は単独あるいは2種類以上の化合物を組み合わせることができる。このようなエポキシ樹脂の例としては三菱ケミカル(株)よりjER154、jER1001、jER1010、jER1256、YX4000、(株)ダイセルよりEHPE3150、日本化薬(株)よりNC-3000、NC-7000、XD-1000、EPPN-502H、EOCN-104Sとして市販されており容易に入手可能である。半芳香族ポリアミド樹脂と繊維状充填材とを溶融混錬する際には、せん断発熱により押出機シリンダーの設定温度よりも40~50℃程度高い樹脂温度になる場合があり、ポリアミド樹脂との反応性が必要以上に高いエポキシ樹脂を用いるとゲルの発生などにより押出安定性が損なわれる場合がある。上記の押出安定性の観点から下記式(1)で表されるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
【化2】
(式(1)中、mは平均値であり、1以上の整数である。R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基を表す。Xはそれぞれ独立に水素原子またはグリシジル基を表す。)
【0031】
D成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対し、0.5~8重量部であり、好ましくは0.5~6重量部、より好ましくは1~4重量部である。D成分の含有量が8重量部を超える場合、押出時に半芳香族ポリアミド樹脂との反応によってストランドの引取りが安定せず、ペレットの作成が困難となる。含有量が0.5重量部未満の場合、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が低下する。
【0032】
D成分の含有量は、樹脂組成物中のポリアミド樹脂に由来する酸末端基およびアミン末端基の合計(A)に対するD成分中のエポキシ基(B)のモル比(B/A)が0.005以上0.08未満の範囲となる量であることが好ましく、0.005以上0.05未満であることがより好ましい。樹脂組成物中のポリアミド樹脂に由来する酸末端基およびアミン末端基の合計に対するD成分中のエポキシ基のモル比が上記の範囲内にあることで、点接触(潤滑環境)における高い耐摩耗性を発現する場合がある。樹脂組成物中のポリアミド樹脂に由来する酸末端基およびアミン末端基量は、樹脂組成物の溶解液に対して中和滴定を行うことにより求められる。また、D成分中のエポキシ基量はJIS K7236に記載の方法によって求められる。
【0033】
<E成分:摺動性付与材>
本発明の樹脂組成物は、摺動性付与材を実質的に含有しないことを特徴とする樹脂組成物であり、含有していたとしてもA成分およびB成分の合計100重量部に対し、1重量部未満、好ましくは0.5重量部未満である。一般に摺動性付与材は樹脂組成物中に含有することで材料表面のせん断応力を低下させ、摺動性を向上できることが知られている。一方で、摺動性付与材を含有することで点接触(潤滑環境)における耐摩耗性が悪化する。この理由は定かではないが、非相溶である摺動性付与材を含むことでマトリックス樹脂と摺動性付与材との界面を起点とした摩耗が促進されているものと推察される。
【0034】
ここでいう摺動性付与材は、上述した摺動性向上効果を有する数平均分子量が10,000以上の有機化合物または無機化合物を指し、フッ素樹脂、ポリオレフィン、シリコーン、層状無機化合物が例示される。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの酸変性物やグリシジル変性物が挙げられる。シリコーンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、アルコール変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシ変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリジメチルシロキサンが挙げられる。層状無機化合物としては、例えば、グラファイト、二硫化モリブデンが挙げられる。
【0035】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配合し、必要に応じて酸化防止剤、衝撃改質剤、可塑剤、C成分以外の有機、無機充填材、難燃剤、色材、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、流動改質剤、結晶核剤、離型剤等の各添加材を含むことが出来る。
【0036】
色材としては公知の有機系、無機系の材料を用いてよく、特に限定されないが、半芳香族ポリアミド樹脂の加工温度に対する耐熱性および摺動性維持の観点で黒鉛系が好ましく、中でもカーボンブラックが好ましい。色材の添加量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.1~2重量部である。
【0037】
離型剤としては、公知の有機系、無機系の材料を用いてよく、数平均分子量が10,000未満のポリオレフィンワックス、エステル化合物、シリコーンオイル、脂肪酸およびそれらの金属塩などが例示され、特に限定されない。離型剤の添加量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.1~2重量部である。
【0038】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0039】
<成形品について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。押出成形においては、丸棒を押出成形しその後円盤状に切削加工することにより成形品を得る方法や、厚肉シートを押出成形しその後所定の形状に打ち抜き加工することにより成形品を得ることができる。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明を実施する形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、諸物性の評価は以下の方法により実施した。
【0041】
[樹脂組成物の評価]
(1)耐摩耗性 [点接触(潤滑環境)]
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件にて射出成形を行い、厚み2mm、幅および長さが50mmの板状試験片を得た。この試験片に潤滑油としてマルテンプ SC-U(協同油脂(株)製、炭化水素系合成油)を塗布し、往復動摩擦試験機(トライボギアTYPE-40、新東科学(株)製)を用いて面圧140MPa、速度100mm/s、7,000往復の条件で、直径3mmのSUJ2製金属球を圧子として摺動試験を行った。試験後の摺動面について、摺動方向と直交する方向に対して表面粗さ形状測定機(SURFCOM NEX001 SD2-12、(株)東京精密製)を用いて断面曲線を測定し、摺動試験により削れた深さを求めた。試験は3回行い、それらの平均値をその組成物の耐摩耗性の指標とした。削れた深さが5μm以下であることが必要である。
【0042】
(2)曲げ弾性率
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件にて試験片を作製し、ISO178に従い23℃、湿度50%における曲げ弾性率を測定し剛性の指標とした。曲げ弾性率が8GPa以上であることが必要である。
【0043】
(3)吸水率
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件にて試験片を作製し、ISO62に従い23℃の水中に24時間浸漬した試験片の吸水率を求めた。吸水率が0.3%以下であることが必要である。
【0044】
(4)樹脂組成物中の酸末端基およびアミン末端基の合計に対するD成分中のエポキシ基のモル比
下記方法で得られたペレットをフェノール/メタノール混合液(体積比9:1)により溶解し、指示薬としてチモールブルー溶液を適量加えた上で、0.01mol/l塩酸水溶液で中和滴定を行いアミン末端基量を求めた。次いで下記方法で得られたペレットをベンジルアルコールにより溶解し、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を適量加えた上で、水酸化カリウムの0.01mol/lエタノール溶液で中和滴定を行い酸末端基量を求めた。次いでJIS K7236に従いD成分中のエポキシ基量を求め、樹脂組成物中の酸末端基およびアミン末端基の合計量で除することにより、樹脂組成中の酸末端基およびアミン末端基の合計に対するD成分中のエポキシ基のモル比を求めた。
【0045】
[実施例1-9、比較例1-7]
表1で示した添加量に従って、A成分、B成分、D成分およびE成分を第1供給口より別々に二軸押出機に供給した。ここで第1供給口とは根元の供給口のことである。C成分は、第2供給口よりサイドフィーダーを用いて別々に供給した。押出は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaにて溶融混錬しペレットを得た。なお、押出温度は実施例1~9、比較例1~7は310℃にて行った。
【0046】
(A成分)
A-1:ポリアミド10T:ゼコットXP500(製品名) (ユニチカ(株)製)
(B成分)
B-1:ポリアミド66:レオナ 1402S(製品名) (旭化成(株)製)
B-2:ポリアミド6:UBEナイロン 1011FB(製品名) (宇部興産(株)製)
(C成分)
C-1:炭素繊維:PAN系炭素繊維 HT P722(商品名) (帝人(株)製、平均繊維長3mm、長径7μm、ポリイミド系集束剤)
C-2:ガラス繊維:T-262H(製品名) (日本電気硝子(株)製、長径10.5μm、平均繊維長3mm、Eガラス)
(D成分)
D-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂:jER1256(製品名) ((株)三菱ケミカル製、エポキシ当量7,500~8,500g/eq)
(E成分)
E-1: ポリテトラフルオロエチレン:KT-400M(製品名) ((株)喜多村製、融点325~335℃、50%粒子径33μm)
【0047】
【0048】
<実施例1~9>
本請求の範囲内にある樹脂組成物であるため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性、剛性および低吸水性に優れる結果であった。
<比較例1>
B成分の含有量が下限未満であるため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性に劣る結果であった。
<比較例2>
B成分の含有量が上限を上回るため、吸水率が高く、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性に劣る結果であった。
<比較例3>
C成分の含有量が下限未満であるため、曲げ弾性率が低い結果であった。
<比較例4>
C成分の含有量が上限を上回るため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性に劣る結果であった。
<比較例5>
D成分の含有量が下限未満であるため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性に劣る結果であった。
<比較例6>
D成分の含有量が上限を上回るため、押出時にストランドの引取りが安定せず、ペレットが作成できなかった。
<比較例7>
E成分を含有するため、点接触(潤滑環境)における耐摩耗性に劣る結果であった。