(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093282
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】缶の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B21D 51/26 20060101AFI20240702BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B21D51/26 X
B21D24/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209563
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】安部 俊樹
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA08
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA24
4E137DA14
4E137EA02
4E137GA02
4E137GB17
4E137HA07
(57)【要約】
【課題】絞りしごき加工における成形性を向上させ、リサイクルされたアルミニウム合金板でも、しわや割れの発生を抑制する。
【解決手段】底板部と該底板部の周縁から立ち上がる周壁部とを有するカップを形成するカップ形成工程と、カップの底板部の外周部を筒状のカップホルダーとリドローダイとの間で挟持しつつカップホルダーの内側に配置したパンチと前記リドローダイとの間で再絞りし、その後しごき加工して、カップより小径で深さの大きい筒体を形成する筒体形成工程とを有し、筒体形成工程では、予め、カップの底板部の中心部を軸方向外方に突出させることにより、底板部に、外周部の環状平板部に対して同心円形板状の先端面を有する円形突出部を形成しておき、パンチは、円形突出部の内側を押圧して筒体を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部と該底板部の周縁から立ち上がる周壁部とを有するカップを形成するカップ形成工程と、前記カップの前記底板部の外周部を筒状のカップホルダーとリドローダイとの間で挟持しつつ前記カップホルダーの内側に配置したパンチと前記リドローダイとの間で再絞りし、その後しごき加工して、前記カップより小径で深さの大きい筒体を形成する筒体形成工程とを有し、
前記筒体形成工程では、予め、前記カップの前記底板部の中心部を軸方向外方に突出させることにより、前記底板部に、外周部の環状平板部に対して同心円形板状の先端面を有する円形突出部を形成しておき、前記パンチは、前記円形突出部の内側を押圧して前記筒体を形成することを特徴とする缶の製造方法。
【請求項2】
前記円形突出部は、その先端の円板部と前記環状平板部との間に先端に向かうにしたがって漸次径が小さくなる傾斜面部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の缶の製造方法。
【請求項3】
底板部と該底板部の周縁から立ち上がる周壁部とを有するカップから、該カップより小径で深さの大きい筒体を形成する筒体形成金型を有し、
筒体形成金型は、前記カップを再絞りする再絞り用金型と、再絞り後にしごき加工して前記筒体を形成するしごき用金型とを有し、前記再絞り用金型は、前記カップの前記底板部の外周部の外面を当接させる当接面を有する環状のリドローダイと、該リドローダイに対向配置され、前記カップ内に侵入して前記底板部の前記外周部を前記リドローダイの前記当接面との間で挟持可能な押さえ面を有する円筒状のカップホルダーと、該カップホルダーの内側に配置され、前記カップを前記リドローダイの成形孔内に押し込みながら、リドローダイとの間で前記カップに再絞り加工を施すパンチとが同心状に備えられており、
前記リドローダイの前記成形孔の内周端部に、前記当接面の内周縁から延びる凸曲面が形成され、
前記カップホルダーの先端内周部に、前記押さえ面より軸方向に突出するリング状突起部が同心状に形成され、該リング状突起部は、前記リドローダイの当接面と前記カップホルダーの押さえ面との間に前記カップの底板部を挟持したときに、前記リドローダイの前記凸曲面との間に前記カップの板厚以上の隙間を形成して対向配置されることを特徴とする缶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトル形状のボトル缶などの有底円筒状の缶の底部を形成する際に適用される缶の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボトル形状のボトル缶は、アルミニウム合金からなる平板状の素板をプレス加工して浅いカップを成形した後、そのカップをさらに絞りしごき加工することにより、有底円筒状の筒体を成形し、その筒体の上端部を加工して、ボトル形状に形成することにより、成形される。
この場合、カップは筒体よりも径が大きく、したがって、このカップをさらに絞りしごき加工する際には、カップの直径より小さい直径のパンチを用いるが、このパンチの周囲でカップの底板部を板厚方向に適切な押圧力で挟持することで、再絞り加工の間にしわが生じないようにしている。
【0003】
特許文献1では、ポンチ(パンチ)と同心に円筒カップホルダースリーブが配置されるとともに、再絞りダイには、その内周部に凹部が形成されており、この凹部にカップの底部外面を嵌め込むようにして、凹部の底面と円筒カップホルダースリーブの先端面との間でカップの底板部の外周部を挟持し、円筒カップホルダースリーブの中のパンチを再絞りダイの中に送り込んで、再絞り及びしごき加工することが記載されている。この場合、再絞りダイの凹部の底面は平坦面に形成され、円筒カップホルダースリーブの先端部は屈曲形成されているが、その先端は平坦に形成される。
【0004】
また、特許文献2では、パンチと同心のホルダーの先端面と、リドローダイの表面との間でカップの底板部の外周部を挟持する点は特許文献1と同様であるが、これらホルダーの先端面とリドローダイの表面とが軸心に対して直交する平面でなく、傾斜面に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-131225号公報
【特許文献2】特開平9-122800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、アルミニウム合金で製造された缶をリサイクルし、再びアルミニウム製の缶に製造することが行われている。このリサイクルにより缶を製造する場合、通常の新規のアルミニウム製缶がJIS3000系アルミニウム合金により製造されるのに対して、蓋やキャップも混在した状態でリサイクルされるために、例えばMgを多く含むアルミニウム合金板が形成されやすい。このため、JIS3000系アルミニウム合金よりも硬い材料となり、成形が難しく、特に絞りしごき加工において材料にしわや割れが生じやすい。したがって、現状では、リサイクルにより缶材を製造する場合、リサイクルで回収された回収塊を溶解する際にJIS3000系の新塊を投入して、成分調整している。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、絞りしごき加工における成形性を向上させ、リサイクルされたアルミニウム合金板でも、しわや割れの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の缶の製造方法は、底板部と該底板部の周縁から立ち上がる周壁部とを有するカップを形成するカップ形成工程と、前記カップの前記底板部の外周部を筒状のカップホルダーとリドローダイとの間で挟持しつつ前記カップホルダーの内側に配置したパンチと前記リドローダイとの間で再絞りし、その後しごき加工して、前記カップより小径で深さの大きい筒体を形成する筒体形成工程とを有し、
前記筒体形成工程では、予め、前記カップの前記底板部の中心部を軸方向外方に突出させることにより、前記底板部に、外周部の環状平板部に対して同心円形板状の先端面を有する円形突出部を形成しておき、前記パンチは、前記円形突出部の内側を押圧して前記筒体を形成する。
【0009】
底板部が平坦面の通常のカップを再絞り加工する場合、カップの底板部の外周部をカップホルダーとリドローダイとの間で挟持しつつ、カップの底板部の中心部位をパンチで押圧するが、その際に、平坦な底板部の一部を軸方向に向けて直角に屈曲した後、その屈曲部位をパンチに沿って再度軸方向に沿うように曲げ戻す加工がなされる。また、カップホルダーとリドローダイとの間に挟持されている底板部の外周部位は、これらに挟持されたまま半径方向内方に引っ張られ、パンチの前進に伴って、半径方向内方に順次引き込まれながら、リドローダイとパンチとの間で曲げと曲げ戻しの加工を受けて深く絞り加工がなされる。その後、しごき加工がなされて筒体が形成される。この場合、筒体の底部付近の胴部が最も引き伸ばされて薄肉になる。
【0010】
この一連の加工のなかで、カップの底板部に予め円形突出部を形成しておくことにより、パンチによる再絞り加工の前に若干の絞り加工がなされた状態となり、その円形突出部をパンチでさらに絞り加工するので、そのときの絞り率(絞り前後の直径比)が小さくなって加工が容易になる。また、カップホルダーとリドローダイとに挟持されている部分から内側部分が円形突出部で屈曲している分、材料に余裕が生じており、しかも、軸方向外方に突出した円形突出部であるので、その円形突出部はリドローダイに近づいている。したがって、その円形突出部の先端周縁部で屈曲している部分の内側がパンチで押圧されると、その外表面が変形しながらすぐにリドローダイの内周面に押し付けられてリドローダイの曲面に沿って屈曲され、このとき、材料の伸びは、屈曲により余裕が生じていた分、少なくなる。したがって、材料の引張力が緩和され、初期の再絞り加工が円滑になされ、後続の加工も円滑に進めることができ、しわや割れの発生が抑制される。
【0011】
本発明の缶の製造方法において、前記円形突出部は、その先端の円板部と前記環状平板部との間に先端に向かうにしたがって漸次径が小さくなる傾斜面部が形成されているとよい。
傾斜面部がパンチによる再絞り加工によりリドローダイに速やかに押し付けられるので、より円滑に再絞り加工を施すことができる。
【0012】
本発明の缶の製造装置は、底板部と該底板部の周縁から立ち上がる周壁部とを有するカップから、該カップより小径で深さの大きい筒体を形成する筒体形成金型を有し、
筒体形成金型は、前記カップを再絞りする再絞り用金型と、再絞り後にしごき加工して前記筒体を形成するしごき用金型とを有し、前記再絞り用金型は、前記カップの前記底板部の外周部の外面を当接させる当接面を有する環状のリドローダイと、該リドローダイに対向配置され、前記カップ内に侵入して前記底板部の前記外周部を前記リドローダイの前記当接面との間で挟持可能な押さえ面を有する円筒状のカップホルダーと、該カップホルダーの内側に配置され、前記カップを前記リドローダイの成形孔内に押し込みながら、リドローダイとの間で前記カップに再絞り加工を施すパンチとが同心状に備えられており、
前記リドローダイの前記成形孔の内周端部に、前記当接面の内周縁から延びる凸曲面が形成され、
前記カップホルダーの先端内周部に、前記押さえ面より軸方向に突出するリング状突起部が同心状に形成され、該リング状突起部は、前記リドローダイの当接面と前記カップホルダーの押さえ面との間に前記カップの底板部を挟持したときに、前記リドローダイの前記凸曲面との間に前記カップの板厚以上の隙間を形成して対向配置される。
【0013】
本発明の缶の製造装置において、前記カップホルダーのリング状突起の外周部に、該リング状突起の最先端から前記押さえ面に向かう傾斜面が形成されるとともに、該傾斜面と前記リドローダイの前記凸曲面との間に前記カップの板厚以上の隙間が形成されており、
前記傾斜面は、前記カップホルダーの前記リング状突起の最先端から半径方向外方に延びる第1傾斜曲面と、該第1傾斜面の外周縁から変曲点を介して接続され、前記押さえ面の内周縁まで延びる第2傾斜曲面とを有しているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カップの底板部に予め円形突出部を形成することにより、カップの再絞り加工の初期の段階を材料に余裕のある状態で行うことができ、したがって、しわや割れの発生を抑制することができ、しいては、リサイクルして再び缶を製造する場合に、回収した缶を溶解する際の新塊の投入を削減あるいは省略することが可能になり、リサイクルの効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態のボトル缶を示す底部を断面にした正面図である。
【
図2】
図1に示すボトル缶の底部の一部を示す拡大断面図である。
【
図3】ボトル缶の製造途中に形成されるカップ及び筒体を、(a)(b)の順に示す正面図である。
【
図4】カップから筒体を形成する際の金型の一部を示す断面図である。
【
図6】
図5に示す状態からカップの底板部に円形突出部を形成した状態を示す断面図である。
【
図7】
図6の鎖線の円で囲った要部の拡大図である。
【
図8】
図6に示す状態からパンチを前進させる途中の段階を示す断面図である。
【
図9】
図8に示す状態からさらにパンチを前進させた状態を示す断面図である。
【
図10】
図9に示す状態からさらにパンチを前進させてリドローダイの成形孔内にパンチの先端部が押し込まれた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
一実施形態としては、本発明をボトル缶の製造に適用した形態である。
ボトル缶1は、アルミニウム合金からなる金属板により形成され、
図1に示すように、底部2と、底部2の周縁から連続する円筒状の胴部3と、胴部3の上端から上方に向けて漸次縮径するテーパ状の縮径部4と、この縮径部4の上端から上方に延びる筒状小径の首部5と、この首部5よりも上方部分に形成され、キャップ(図示略)が装着される口部6と、を有するボトル状に形成されている。また、口部6は、その下端部に半径方向外方に突出する膨出部7が形成され、その上方に雄ねじ部8、雄ねじ部8の上方に開口端部を丸めてなるカール部9が形成されている。
底部2、胴部3、縮径部4、首部5、口部6は互いに同軸に配置されており、本実施形態において、これらの共通軸を缶軸Sと称して説明を行う。
【0017】
また、底部2は、
図2に示すように、缶軸方向外方(下方)に向けて環状に突出する周状接地部11と、胴部3及び周状接地部11を連結する外周テーパ部12と、周状接地部11に連結され、周状接地部11の内周端から上方に向けて延びる縦壁部13と、縦壁部13の上端から上方屈曲部14を介して接続された凹状のドーム部15とを備えている。
周状接地部11は、その頂点より半径方向内側に凸状に形成された内側屈曲部16と、半径方向外側に凸状に形成された外側屈曲部17とを有している。これら内側屈曲部16及び外側屈曲部17は曲率半径が異なっていても、同じでもよい。
【0018】
外周テーパ部12は、胴部3の下端から連続する凸状湾曲部18、凸状湾曲部18の下端から連続する凹状湾曲部19を有しており、凹状湾曲部19が、下方に向けて漸次直径を小さくするように傾斜している。そして、その凹状湾曲部19の下端内周端が周状接地部11の外側屈曲部17の外周端に接続されている。
このような形状の底部2は、ドーム部15の中心が缶軸Sに配置され、缶軸Sを通る縦断面において、左右対称に形成される。
【0019】
本実施形態において、諸寸法は限定されないが、円筒状の胴部3は、外径D1が公称21径であり、64.25mm以上68.24mm以下の外径に形成される。口部6は、公称38mmの外径である。
また、底部2は、例えば、ドーム部15の曲率半径R1が28mm以上37mm以下、上方屈曲部14の曲率半径R2が2.0mm以上2.5mm以下、周状接地部11の頂点の直径(縦断面においては頂点どうしを結ぶ缶軸を通る直線の距離)D2が46.8mm以上48.1mm以下、内側屈曲部16の曲率半径R3が1.2mm以上2.5mm以下、外側屈曲部17の曲率半径R4が1.5mm以上2.5mm以下、外周テーパ部12の凹状湾曲部19の曲率半径R5が10mm以上20mm以下、凸状湾曲部18の曲率半径R6が2.5mm以上4.5mm以下とされている。なお、曲率半径は、いずれもボトル缶1の外面上における数値である。
【0020】
次に、このように形成されたボトル缶1の製造方法について説明する。
アルミニウム合金からなる平板状の金属板をプレス加工して、
図3(a)に示すように、浅くて径の大きいカップ21を形成した(カップ形成工程)後、そのカップ21をさらに絞りしごき加工することにより、
図3(b)に示すように、有底円筒状の筒体22を成形し(筒体形成工程)、その筒体22の上端部を加工して、縮径部4、首部5、口部6を形成する(上端部形成工程)ことにより、ボトル缶1が形成される。
【0021】
カップ21は、底板部23とその周囲の円筒状の周壁部24とを有する。筒体22は、カップ21より小径で深さが大きい。
ボトル缶1の底部2は、筒体形成工程において形成され、その後の上端部形成工程においては筒体22の上端部が加工され、底部は変化しない。この場合、底部2の中心部分は、ほぼ元の金属板の板厚のままであるが、筒体22の胴部3等は元の板厚から変化する。特に、底部(ボトル缶1の底部2となる)に近い付近の肉厚が最も薄く形成され、上端部(縮径部4となる部位より上方部分)では厚く形成される。
【0022】
次に、筒体形成工程において底部2を形成する加工を詳細に説明する。
この筒体形成工程は、カップ形成工程で形成されたカップ21を再絞りした(再絞り加工)後、円筒部分をしごき加工して(しごき加工)、深さの大きい筒体22を形成する。この再絞り加工としごき加工とは、
図4に示すように、再絞り用金型30としごき用金型50とが同軸C上に並べて配置され、同じパンチ60を用いて連続して行われる。しごき用金型50は、
図4にはしごき用ダイ51を一つのみ表示しているが、目的とするしごき加工の程度に応じて、内径を順次小さくして複数のしごき用ダイが同軸上に並べて配置される。これら再絞り用金型30及びしごき用金型50は、通常、その軸Cを水平方向に向けて配置され、パンチ60は、
図4の左から右へ前進して加工する。
なお、パンチ60の進行方向前方には、最先端のしごき用金型を通過したパンチ60の先端部との間で筒体22のドーム部15を含めた底部2を形成するための底部形成用金型(図示略)が配置される。筒体22を形成するための筒体形成金型は、これら再絞り用金型30、しごき用金型50、底部形成用金型により構成される。
【0023】
再絞り用金型30は、
図5に示すように、環状のリドローダイ31と、このリドローダイ31に対向配置された円筒状のカップホルダー32と、このカップホルダー32の内側に配置された円筒状のパンチ60とを備えている。これらの軸をCで示す。なお、リドローダイ31及びしごき用ダイ51は、軸方向位置が固定されており、カップホルダー32及びパンチ60が軸方向に移動可能に支持されている。
【0024】
リドローダイ31は、その上面に、カップ21の底板部23の外周部の外面を当接する平坦な当接面34が形成され、当接面34と成形孔35の内周部の角部が凸曲面36に形成されている。当接面34は、軸Cに直交する平面に形成される。この凸曲面36は、軸Cを通る縦断面が90°以上の円弧角度に形成されており、これにより、凸曲面36において成形孔35内に最も突出した位置が成形孔35の最小内径D3となる部位であり、それより先端方向(パンチ50の前進方向)には成形孔35が漸次拡径して、逃げ面37が形成される。なお、この凸曲面36は、
図7に示すように、複数の曲率半径の円弧を連続させて形成されており、比較的大きい曲率半径R11が大部分を形成し、最小内径部付近は小さい曲率半径R12によって形成されている。ただし、単一の曲率半径からなる凸円弧
面としてもよい。
【0025】
カップホルダー32は、リドローダイ31の当接面34に対向する押さえ面38が軸Cに直交する平坦面に形成されており、この押さえ面38より内周部に、押さえ面38より軸方向下流側(
図7の左側を上流側、右側を下流側とする)に突出するリング状突起部39が同心状に形成されている。
カップホルダー32の内周面32aは軸方向にストレート状に形成されており、リング状突起部39は、その内周面32aの先端に連続する凸型円弧面40によって形成されている。この凸型円弧面40は、単一の曲率半径からなるものであってもよいが、複数の曲率半径からなる複合曲面形状であってもよい(
図7参照)。
【0026】
この凸型円弧面40の径方向外側(軸Cから遠い方の曲率半径)の曲率半径R13は0.3mm以上2.0mm以下に形成され、その頂点Tから押さえ面38までの軸方向距離(リング状突起部39の突出高さ)Hは、0.3mm以上3.0mm以下に形成される。(例えば、曲率半径R13は0.5mm、軸方向距離Hは0.597mmに形成される。曲率半径R13が0.3mm未満であるとシニング(材料が局所的に薄くなる現象)が起きやすく、曲率半径R13が2.0mmを超えると、材料に接触し、押さえ面38が当接面34との間で材料をしっかり押さえることが出来なくなるおそれがある。そして、このリング状突起部39の凸型円弧面40においてその頂点Tを超えた外周縁に、軸Cに直交する平面に対して傾斜する凸曲面状の第1傾斜曲面41が接続され、この第1傾斜曲面41の外周縁に、変曲点を介して接続され、押さえ面38の内周縁まで延びる凹曲面状の第2傾斜曲面42とを有しているとよい。
【0027】
なお、カップホルダー32の内径は、リドローダイ31の内径(凸曲面36による最小内径部の内径D3)より大きく形成されている。
したがって、カップホルダー32のリング状突起部39は、リドローダイ31の凸曲面36に対向している。このリドローダイ31の凸円湾曲36は、当接面34の延長平面に対して、当接面34の内周縁から徐々に軸方向先端方向に遠ざかるように傾斜しており、その傾斜している湾曲面の途中にリング状突起部39が対向し、カップホルダー32の凸型円弧面40より外側の第1傾斜曲面41及び第2傾斜曲面42が、リドローダイ31の凸曲面36の外周部に対向するように配置される。
【0028】
この場合、後述するように、リドローダイ31の当接面34とカップホルダー32の押さえ面38との間でカップ21の底板部23の外周部が挟持され、この挟持状態において、カップホルダー32の凸型円弧面40から第1傾斜曲面41、第2傾斜曲面42がリドローダイ31の凸曲面36との間にカップ21の底板部23の板厚以上の隙間をあけて対峙する関係に設定される。したがって、リドローダイ31の当接面34とカップホルダー32の押さえ面38との間で挟持されたカップ21の底板部23は、これら当接面34と押さえ面38との内周縁より半径方向内側では、その隙間の範囲で板厚方向に動くことが可能な状態となる。
【0029】
パンチ60は、円筒状に形成され、その先端部に、環状に突出した突出成形型部61が形成されている。このパンチ60は、リドローダイ31との間でカップ21を再絞りするためのものであり、したがって、リドローダイ31の最小内径D3より小さい外径D4に形成される。これらパンチ60とリドローダイ31との間の隙間は、カップ21の板厚よりわずかに大きい数値に設定される。
突出成形型部61は、
図5に示すように、その先端に先端円弧型面62が形成され、先端円弧型面62の外周縁から凹状円弧型面63、凸状円弧型面64が順次形成され、その凸状円弧型面64がパンチ60の外周面に接続されている。
【0030】
なお、カップホルダー32とパンチ60は、ともに金型に取り付けられているが、カップホルダー32はパンチ60との間で軸方向に相対移動可能であり、ばね等の付製手段によって軸方向先端方向に押圧付製された状態に支持されている。
【0031】
次に、このように構成された金型を用いて筒体形成工程における筒体22の底部2を形成する加工の詳細を説明する。
リドローダイ31とカップホルダー32とを軸方向に離間させておき、カップ形成工程で作製したカップ21を径方向に移動しながらリドローダイ31とカップホルダー32との間に配置し、リドローダイ31の当接面34との間でカップ21の底板部23の外周部を挟持するべく、カップホルダー32を前進させ、
図5に示すようにカップ21内に挿入する。この状態では、カップホルダー32の先端よりパンチ60の先端が後退した状態である。したがって、カップ21の底板部23にはカップホルダー32の先端のリング状突起部39が当接し、パンチ60の押さえ面38との間には隙間が形成される。
なお、カップ21は加工の経過に伴って形状が変化するが、便宜上、加工途中のものもカップと称して符号21を用いて説明する。
【0032】
この
図5に示す状態から、カップホルダー32を前進させると、その押さえ面38より突出しているリング状突起部39が
図7に示すようにまずカップ21の底板部23を押圧し、続いて押さえ面38でカップ21の底板部23をリドローダイ31の当接面34に押し当てるようにして挟持する。この状態を
図6に示しており、カップ21の底板部23がリドローダイ31とカップホルダー32との間で挟持されると、その挟持部分の内側でカップホルダー32のリング状突起部39が底板部23を押圧して変形させ、リドローダイ31の凸曲面36の外周部付近と、カップホルダー32のリング状突起部39の凸型円弧面40の外側面とで屈曲形成され、リング状突起部39の形状に応じた円形突出部71を形成する。リドローダイ31とカップホルダー32との間に挟持されている部分は平板のまま維持される。この部分を環状平板部72とする。
【0033】
この円形突出部71は、
図7に拡大して示したように、環状平板部72に対して、カップホルダー32のリング状突起部39の高さH分、軸方向前方に突出しており、環状平板部72の内周縁から順に第1屈曲部73、先端に向かうにしたがって漸次径が小さくなる傾斜面部74、第2屈曲部75を介して、環状平板部72と同心円形板状に円板部76が形成される。リング状突起部39の高さHがわずかな寸法であることから、第1屈曲部73及び第2屈曲部75もわずかな屈曲である。特に、第1屈曲部73は、ほぼリドローダイ31の凸曲面36の外周面に沿う程度の屈曲であり、環状平板部72から円形突出部71まで滑らかに接続されている。また、この円形突出部71の周縁部が第1屈曲部73、傾斜面部74、第2屈曲部75と屈曲形成されるため、円形突出部71のない平板状の底板部23に対して、材料に余裕が生じており(縦断面における長さが大きくなっており)、また、リドローダイ31の凸曲面36に接近した状態となる。
【0034】
次いで、パンチ60を前進させ、円形突出部71の内側の円板部76を押圧すると、
図8に示すように、パンチ60の前進に伴って第2屈曲部75が曲げ戻しされ、さらにパンチ60が前進すると、
図9に示すように、第1屈曲部73から傾斜面部74であった部位がリドローダイ31の凸曲面36に押し付けられ、リドローダイ31の凸曲面36とパンチ60の先端円弧型面62との間を繋ぐように、環状平板部72の内周縁からパンチ60の先端円弧型面62までの間が屈曲部位のないテーパ面形状となる。このため、第2屈曲部75は消滅する。
【0035】
その後、
図10に示すように、パンチ60がリドローダイ31の成形孔35内に侵入して、その外周部の凸状円弧型面64とリドローダイ31の凸曲面36との間で絞り加工される。また、この再絞り加工に続いてしごき用金型50によってしごき加工がなされ、最後に底部形成用金型(図示略)とパンチ60の先端部との間で挟持されて、ドーム部15、縦壁部13、周状接地部11、外周テーパ部12等の加工がなされて、底部2を有する筒体22が完成する。
【0036】
この一連の再絞り加工の間、リドローダイ31とカップホルダー32との間に挟持されている部分(環状平板部72)は、パンチ60の前進に伴って半径方向内方に引きずられ、リドローダイ31の成形孔35内に引き込まれていく。
【0037】
そして、この製造方法によれば、カップ21の底板部23にカップホルダー32によって予め円形突出部71を形成しておいたことにより、パンチ60による再絞り加工の前に若干の絞り加工がなされた状態となり、その円形突出部71をパンチ60でさらに絞り加工するので、そのときの絞り率(絞り前後の直径比)が小さくなって加工が容易になる。この場合、リドローダイ31の凸曲面36に対してカップホルダー32の第2傾斜曲面42、第1傾斜曲面41がカップ21の板厚より大きい隙間で離間しているため、最初の円形突出部71は金型の他の部位への接触などの支障なく形成できる。
【0038】
また、カップホルダーとリドローダイとに挟持されている部分から内側部分が円形突出部71で屈曲している分、材料に余裕が生じており、しかも、軸方向外方に突出した円形突出部71であるので、その円形突出部71の特に周縁部(第1屈曲部73、傾斜面部74、第2屈曲部75)はリドローダイ31の凸曲面36に近づいている。
【0039】
このため、その円形突出部71の円板部76の内側がパンチ60で押圧されると、第1屈曲部73、傾斜面部74、第2屈曲部75が変形しながらすぐにリドローダイ31の凸曲面36に押し付けられて、凸曲面36に沿って屈曲される。このとき、材料の伸びは、円形突出部71により余裕が生じていた分、少なくなる。したがって、材料の引張力が緩和され、
図6から
図10に至る初期の再絞り加工が円滑になされ、その後に続く加工も円滑に進めることができ、しわや割れの発生が抑制される。
【0040】
このようにして再絞り加工が円滑に行われることにより、しごき加工及び最後の底部2の加工も円滑に行われ、しわや割れが少なく、精度よく筒体22を形成することができる。
そして、この筒体形成工程を円滑に行うことができることから、材料の選択の幅が広がり、リサイクルして再び缶を製造する場合においても、リサイクルした鋳塊を用いて製造された圧延板をそのまま使用することが可能になり、回収した缶を溶解する際の新塊の投入を削減あるいは省略することが可能になり、リサイクルの効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ボトル缶
2 底部
22 筒体
3 胴部
4 縮径部
5 首部
6 口部
11 周状接地部
12 外周テーパ部
13 縦壁部
14 上方屈曲部
15 ドーム部
16 内側屈曲部
17 外側屈曲部
18 凸状湾曲部
19 凹状湾曲部
21 カップ
23 底板部
24 周壁部
30 再絞り用金型
31 リドローダイ
32 カップホルダー
34 当接面
35 成形孔
36 凸曲面
37 逃げ面
38 押さえ面
39 リング状突起部
40 凸型円弧面
41 第1傾斜面
42 第2傾斜面
60 パンチ
61 突出成形型部
62 先端円弧型面
71 円形突出部
72 環状平板部
73 第1屈曲部
74 傾斜面部
75 第2屈曲部
76 円板部