(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093285
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】改質逆浸透膜の製造方法、及び改質逆浸透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 67/00 20060101AFI20240702BHJP
B01D 61/10 20060101ALI20240702BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240702BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D61/10
B01D69/12
B01D69/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209567
(22)【出願日】2022-12-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】ユイシュエン チャオ
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MB02
4D006MB20
4D006MC07X
4D006MC18
4D006MC24
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC44
4D006MC54X
4D006MC60X
4D006NA54
4D006NA63
4D006PA01
4D006PB03
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】エタノールなどの低分子量かつ非電解質化合物、又は、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率が高められた、逆浸透膜の製造方法を提供する。
【解決手段】逆浸透膜を加熱処理する加熱工程と、
逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する処理工程と、
を備える、改質逆浸透膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜を加熱処理する加熱工程と、
逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する処理工程と、
を備える、改質逆浸透膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程の後、前記処理工程を行う、請求項1に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、温度60℃以上の水中で前記逆浸透膜を加熱する工程である、請求項1または2に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
【請求項4】
前記逆浸透膜は、複合逆浸透膜である、請求項1または2に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
【請求項5】
前記改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上である、請求項1または2に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
(エタノールの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×100
【請求項6】
前記改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上である、請求項1または2に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
(アンモニウムイオンの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1g/L塩化アンモニウム水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のアンモニウムイオン濃度をBb(重量%)、透過液中の濃度をCb(重量%)として、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
アンモニウムイオンの阻止率Rb=(1-Cb/Bb)×100
【請求項7】
以下の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上である、改質逆浸透膜。
(エタノールの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×100
【請求項8】
以下の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上である、改質逆浸透膜。
(アンモニウムイオンの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1g/L塩化アンモニウム水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のアンモニウムイオン濃度をBb(重量%)、透過液中の濃度をCb(重量%)として、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
アンモニウムイオンの阻止率Rb=(1-Cb/Bb)×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改質逆浸透膜の製造方法、及び改質逆浸透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水淡水化、各種溶液の濾過分離や濃縮等に逆浸透(RO)膜が使用されている。逆浸透膜を用いた水処理により、水中の塩類、低分子化合物等を水と分離することができる。
【0003】
逆浸透膜としては、例えば、多孔性支持体の上にポリアミド膜とを含む複合逆浸透膜が広く知られている(特許文献1参照)。また、酢酸セルロース膜を利用した逆浸透膜なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の逆浸透膜は、エタノール(分子量46)、メタノール(分子量32)などのような低分子量かつ非電解質化合物の阻止率が低いという問題がある。
【0006】
また、従来の逆浸透膜は、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率が低いという問題がある。
【0007】
本開示は、エタノールなどの低分子量かつ非電解質化合物、又は、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率が高められた、改質逆浸透膜の製造方法を提供することを主な目的とする。さらには、本開示は、当該阻止率が高められた改質逆浸透膜を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、逆浸透膜を加熱処理する加熱工程と、逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する処理工程とを併用することにより、それぞれを単独で行って逆浸透膜を改質する場合と比較して、エタノールのような低分子量かつ非電解質化合物の阻止率と、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率とが、予想外に高められることを見出した。
【0009】
さらに、逆浸透膜の加熱処理及び処理剤による処理は、逆浸透膜の水透過流束を低下させることから、両方の処理を併用すると、逆浸透膜の水透過流束が著しく低下する懸念があったが、本開示の発明者らは、予想に反して、前記の加熱処理と処理剤での処理の併用によっても、得られた改質逆浸透膜は、十分に高い水透過流束を備えていることも見出した。
【0010】
本開示は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 逆浸透膜を加熱処理する加熱工程と、
逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する処理工程と、
を備える、改質逆浸透膜の製造方法。
項2. 前記加熱工程の後、前記処理工程を行う、項1に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
項3. 前記加熱工程は、温度60℃以上の水中で前記逆浸透膜を加熱する工程である、項1または2に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
項4. 前記逆浸透膜は、複合逆浸透膜である、項1~3のいずれか1項に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
項5. 前記改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上である、項1~4のいずれか1項に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
(エタノールの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×100
項6. 前記改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上である、項1~5のいずれか1項に記載の改質逆浸透膜の製造方法。
(アンモニウムイオンの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1g/L塩化アンモニウム水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のアンモニウムイオン濃度をBb(重量%)、透過液中の濃度をCb(重量%)として、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
アンモニウムイオンの阻止率Rb=(1-Cb/Bb)×100
項7. 以下の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上である、改質逆浸透膜。
(エタノールの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×100
項8. 以下の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上である、改質逆浸透膜。
(アンモニウムイオンの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1g/L塩化アンモニウム水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のアンモニウムイオン濃度をBb(重量%)、透過液中の濃度をCb(重量%)として、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
アンモニウムイオンの阻止率Rb=(1-Cb/Bb)×100
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、エタノール(分子量46)などの低分子量かつ非電解質化合物、又は、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率が高められた、改質逆浸透膜の製造方法を提供することができる。さらに、本開示によれば、当該阻止率が高められた逆浸透膜を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各実施例及び各比較例で得られた逆浸透膜(改質逆浸透膜)のエタノール阻止率(%)を示すグラフである。
【
図2】各実施例及び各比較例の逆浸透膜(改質逆浸透膜)のエタノール阻止率(%)の測定時における水の透過流束(LMH:L/m
2/hr)を示すグラフである。
【
図3】実施例1及び比較例1,5の逆浸透膜(改質逆浸透膜)の各種有機溶媒(メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、グリセロール)の阻止率(%)を示すグラフである。
【
図4】実施例1及び比較例1の逆浸透膜(改質逆浸透膜)を、浸透圧補助型逆浸透膜法に適用した場合のエタノール水溶液の濃縮結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1及び比較例1,5の逆浸透膜(改質逆浸透膜)のアンモニウムイオンの阻止率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の改質逆浸透膜の製造方法は、逆浸透膜を加熱処理する加熱工程と、逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する処理工程と、を備えることを特徴とする。以下、本開示の改質逆浸透膜の製造方法、及び、本開示の改質逆浸透膜について詳述する。
【0014】
本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0015】
本開示の改質逆浸透膜の製造方法において、加熱工程は、逆浸透膜を加熱処理する工程である。加熱対象となる逆浸透膜は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけると、溶媒を透過させ、溶質を阻止する液体分離膜である。逆浸透膜の膜構造としては、特に制限はなく、非対称逆浸透膜、複合逆浸透膜などの高分子膜などを挙げることができる。
【0016】
加熱対象とする逆浸透膜は、公知の逆浸透膜であってよく、市販の逆浸透膜であってもよい。逆浸透膜としては、例えば、ポリアミド膜、酢酸セルロース膜などを備える逆浸透膜が知られており、これらの逆浸透膜は、本開示に加熱処理対象とする逆浸透膜として好適である。本開示においては、特に、ポリアミド膜を備える逆浸透膜が好適である。
【0017】
ポリアミド膜を形成するポリアミドとしては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材料などが挙げられる。また、酢酸セルロース膜を形成する素材は酢酸セルロースなどのセルロース系の素材である。
【0018】
逆浸透膜は、複合逆浸透膜であることが好ましい。複合逆浸透膜とは、多孔質支持体の上にスキン層(例えばポリアミドスキン層)を備える逆浸透膜であり、公知の複合逆浸透膜であってよく、市販の複合逆浸透膜を利用することもできる。多孔性支持体は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなどによって形成される。
【0019】
逆浸透膜のモジュール形式に特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどが挙げられる。
【0020】
本開示の効果をより好適に発揮する観点から、加熱工程における逆浸透膜の加熱温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、加熱温度の上限は、例えば100℃である。加熱工程は、温度60℃以上の水中で逆浸透膜を加熱する工程であることが好ましい。加熱時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上であり、また、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下であり、好ましい範囲としては、1~10時間、2~6時間、3~6時間などが挙げられる。
【0021】
また、後述の通り、本開示の改質逆浸透膜の製造方法においては、加熱工程の後、処理剤による処理工程を行うことが好ましい。この場合、加熱工程に供される逆浸透膜は、後述の処理剤による処理工程に供されていない逆浸透膜である。なお、この場合にも、他の処理剤による処理が施された逆浸透膜を加熱工程に供してもよい。
【0022】
本開示の改質逆浸透膜の製造方法において、処理工程は、逆浸透膜を、タンニン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミジン、ポリビニルアミジン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の処理剤で処理する工程である。
【0023】
本開示の効果をより好適に発揮する観点から、処理剤は、タンニン酸及びポリエチレンイミンの少なくとも一方を含むことが好ましく、タンニン酸及びポリエチレンイミンを含むことがより好ましい。
【0024】
また、本開示の効果をより好適に発揮する観点から、逆浸透膜を処理剤で処理する際の処理剤の濃度としては、例えば0.01mg/ml以上、好ましくは0.1mg/ml以上、さらに好ましくは0.5mg/ml以上であり、また、好ましくは10mg/ml以下であり、好ましい範囲としては、0.01~100mg/ml程度、0.1~100mg/ml程度、0.1~10mg/ml程度、0.5~10mg/ml程度などが挙げられる。具体的には、例えば処理剤としてタンニン酸を用いる場合であれば、タンニン酸の濃度としては、例えば0.01mg/ml以上、好ましくは0.1mg/ml以上、さらに好ましくは0.5mg/ml以上であり、好ましい範囲としては、0.01~100mg/ml程度、0.1~100mg/ml程度、0.1~10mg/ml程度、0.5~10mg/ml程度などが挙げられる。また、例えば処理剤としてポリエチレンイミンを用いる場合であれば、ポリエチレンイミンの濃度としては、例えば0.01mg/ml以上、好ましくは0.1mg/ml以上、さらに好ましくは0.5mg/ml以上であり、また、好ましくは10mg/ml以下であり、好ましい範囲としては、0.01~100mg/ml程度、0.1~100mg/ml程度、0.1~10mg/ml程度、0.5~10mg/ml程度などが挙げられる。処理温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下であり、好ましい範囲としては、60~100℃、70~100℃、80~100℃、70~90℃、80~90℃などが挙げられる。処理時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上であり、また、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下であり、好ましい範囲としては、1~10時間、2~6時間、3~6時間などが挙げられる。
【0025】
また、処理剤としてポリエチレンイミンを用いる場合、ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、好ましくは1000000以下、より好ましくは200000以下、さらに好ましくは10000以下、さらに好ましくは5000以下、さらに好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下が挙げられ、好ましい範囲としては、300~1000000、300~200000、300~10000、300~5000、300~2000、300~1000、500~1000000、500~200000、500~10000、500~5000、500~2000、500~1000などが挙げられる。ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、液体クロマトグラフ法により測定される値である。
【0026】
処理剤による逆浸透膜の処理は、逆浸透膜に対して処理剤を接触させることにより行うことができる。具体的には、処理剤を含む溶液中に逆浸透膜を浸漬するなどして処理工程を行うことができる。
【0027】
本開示の効果をより好適に発揮する観点から、処理工程の対象とする逆浸透膜は、前述の加熱工程によって加熱された逆浸透膜であることが好ましい。本開示において、加熱工程で加熱された逆浸透膜を、さらに処理工程において処理剤で処理することにより、改質逆浸透膜は、エタノールのような低分子量かつ非電解質化合物の阻止率と、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率とがより好適に高められるだけでなく、水透過流束についてもより良好な改質逆浸透膜となり得る。
【0028】
本開示の製造方法により得られた改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが、例えば80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0029】
(エタノールの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×100
【0030】
また、本開示の製造方法により得られた改質逆浸透膜は、以下の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが、例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0031】
(アンモニウムイオンの阻止率の測定法)
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認する。次に、純水を1g/L塩化アンモニウム水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収する。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm2)から、水の透過流束J(L/m2/hr)を以下の式で算出する。また、透過前後の液中のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフを用いて測定する。供給液中のアンモニウムイオン濃度をBb(重量%)、透過液中の濃度をCb(重量%)として、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)を以下の式で算出する。
水の透過流束J=V/(A×T)
アンモニウムイオンの阻止率Rb=(1-Cb/Bb)×100
【0032】
さらに、本開示の製造方法により得られた改質逆浸透膜は、前記の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが、例えば80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上であって、かつ、前記の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが、例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上であることが望ましい。
【0033】
本開示の製造方法により得られた改質逆浸透膜は、前記の方法で測定される水の透過流束J(エタノールの阻止率Ra(%)の測定時、又は、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)の測定時)は、それぞれ、好ましくは10L/m2/hr以上、より好ましくは20L/m2/hr以上、さらに好ましくは30L/m2/hr以上であり、また、好ましくは100L/m2/hr以下、より好ましくは80L/m2/hr以下であり、好ましい範囲としては、10~100L/m2/hr、20~80L/m2/hr、30~80L/m2/hrなどが挙げられる。
【0034】
本開示の製造方法により、エタノール(分子量46)などの低分子量かつ非電解質化合物、又は、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物の阻止率が高められた、逆浸透膜の製造方法を提供することができる。
【0035】
本開示の製造方法により製造される改質逆浸透膜の阻止対象物は、エタノール(分子量46)などの低分子量かつ非電解質化合物、アンモニウムイオンなどの低分子量かつ陽イオン化合物などが好適であるが、これらに限定されるものではない。低分子量かつ非電解質化合物としては、エタノールの他、メタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、グリセロール、エチレングリコールなどアルコール類、アセトン、アセトニトリル、酢酸、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、トリエチルアミン、ピリジンなどの各種有機溶媒(分子量が例えば100以下の水溶性有機溶媒)が挙げられる。また、低分子量かつ陽イオン化合物としては、アンモニウムイオンの他、リチウムイオンなどが挙げられる。阻止対象物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0036】
本開示は、新規な改質逆浸透膜を提供することもできる。具体的には、前記の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上である改質逆浸透膜、前記の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上である改質逆浸透膜を提供することができる。本開示の新規な改質逆浸透膜は、前記の方法で測定されるエタノールの阻止率Raが88%以上であり、かつ、前記の方法で測定されるアンモニウムイオンの阻止率Rbが99%以上であることが望ましい。
【0037】
本開示の新規な改質逆浸透膜は、前記の方法で測定される水の透過流束J(エタノールの阻止率Ra(%)の測定時、又は、アンモニウムイオンの阻止率Rb(%)の測定時)は、それぞれ、好ましくは10L/m2/hr以上、より好ましくは20L/m2/hr以上、さらに好ましくは30L/m2/hr以上であり、また、好ましくは100L/m2/hr以下、より好ましくは80L/m2/hr以下であり、好ましい範囲としては、10~100L/m2/hr、20~80L/m2/hr、30~80L/m2/hrなどが挙げられる。
【実施例0038】
以下に実施例を示して本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1(80℃+TP600)>
逆浸透膜として、市販の海水淡水化用RO平膜(日東電工株式会社製SWC4)を用意した。逆浸透膜を直径36mmの円形に切り取り、25重量%のイソプロパノール水溶液に30分間浸漬して、逆浸透膜に付着した不純物や残留物を除去した。その後、純水中で30分間洗浄した後、温度を80℃に保った水槽中に4時間浸すことで、逆浸透膜の加熱工程を行った。
【0040】
次に、加熱後の逆浸透膜の活性層側を上にして、ポリテトラフルオロエチレン製の樹脂枠に固定し、0.8mg/mlのFeCl3水溶液を枠内に流し込み、2分間保持した。次に、処理剤として、1mg/mlのタンニン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)水溶液100mlと、2mg/mlのポリエチレンイミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均分子量は600)水溶液15mlを用意した。逆浸透膜を固定した樹脂枠を傾けて溶液を排出し、これらの処理剤を直ちに加え、100rpmで回転振盪させながら1時間保持して、処理剤による逆浸透膜の処理工程を行い、改質逆浸透膜(80℃+TP600)を製造した。
【0041】
なお、各実施例及び各比較例において処理剤による処理工程を行った後の改質逆浸透膜は、純水で洗浄した後、使用時まで純水中で4℃で保存した。
【0042】
<実施例2(80℃+TP1800)>
処理剤として、ポリエチレンイミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均分子量は600)水溶液の代わりに、ポリエチレンイミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均分子量は1800)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、改質逆浸透膜(80℃+TP1800)を製造した。
【0043】
<実施例3(80℃+TP10000)>
処理剤として、ポリエチレンイミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均分子量は600)水溶液の代わりに、ポリエチレンイミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均分子量は10000)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、改質逆浸透膜(80℃+TP10000)を製造した。
【0044】
<比較例1(未処理SWC4)>
市販の海水淡水化用RO平膜(日東電工株式会社製SWC4)を、評価対象の逆浸透膜(未処理SWC4)とした。
【0045】
<比較例2(TP600)>
市販の海水淡水化用RO平膜(日東電工株式会社製SWC4)を加熱工程に供さずに、処理剤による逆浸透膜の処理工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、改質逆浸透膜(TP600)を製造した。
【0046】
<比較例3(TP1800)>
市販の海水淡水化用RO平膜(日東電工株式会社製SWC4)を加熱工程に供さずに、処理剤による逆浸透膜の処理工程を行ったこと以外は、実施例2と同様にして、改質逆浸透膜(TP1800)を製造した。
【0047】
<比較例4(TP10000)>
市販の海水淡水化用RO平膜(日東電工株式会社製SWC4)を加熱工程に供さずに、処理剤による逆浸透膜の処理工程を行ったこと以外は、実施例3と同様にして、改質逆浸透膜(TP10000)を製造した。
【0048】
<比較例5(80℃)>
加熱後の逆浸透膜を、処理剤による逆浸透膜の処理工程に供さなかったこと以外は、実施例1と同様にして、改質逆浸透膜(80℃)を製造した。
【0049】
[エタノール阻止率の測定]
撹拌子を有し、有効膜面積が7cm
2の逆浸透膜セルに逆浸透膜をセットし、純水を流速10ml/分、背圧65barで1時間送液し、逆浸透膜を透過した水が逆浸透膜セルから排出されることを確認した。次に、純水を1重量%エタノール水溶液に変更し、流速10ml/分、背圧60barで1時間送液した後、さらに1時間同条件で送液を続け、その際に得られた透過液を、重量測定しながら回収した。T時間に透過した水の液量Vと逆浸透膜の面積A(=7cm
2)から、水の透過流束J(L/m
2/hr、以下、この単位をLMHと略記。)を以下の式で算出した。また、透過前後の液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフを用いて測定した。供給液中のエタノール濃度をBa(重量%)、透過液中のエタノール濃度をCa(重量%)として、エタノールの阻止率Ra(%)を以下の式で算出した。得られたエタノールの阻止率Ra(%)及び水の透過流束J(LMH)を表1、
図1,2に示す。
水の透過流束J=V/(A×T)
エタノールの阻止率Ra=(1-Ca/Ba)×10
【0050】
【0051】
表1、
図1,2に示される結果から明らかなとおり、実施例1~3で得られた改質逆浸透膜は、エタノール阻止率が非常に高く、さらに水の透過流束も大きかった。
【0052】
[各種有機溶媒の阻止率の測定]
前記の[エタノール阻止率の測定]において、それぞれ、比較例1の逆浸透膜、比較例5及び実施例1の改質逆浸透膜を用い、1重量%エタノール水溶液の代わりに、それぞれ、各種有機溶媒(1重量%メタノール水溶液、1重量%2-プロパノール水溶液、1重量%1-ブタノール水溶液、又は1重量%グリセロール水溶液)を用いたこと以外は、同様にして、各種有機溶媒の阻止率を測定した。結果を
図3に示す。
【0053】
図3に示される結果から明らかなとおり、実施例1の改質逆浸透膜(80℃+TP600)は、エタノール阻止率だけでなく、メタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及びグリセロールの阻止率も非常に高かった。
【0054】
[浸透圧補助型逆浸透膜法によるエタノール濃縮]
実施例1及び比較例1で得られた逆浸透膜を、浸透圧補助型逆浸透膜法に適用した場合のエタノール水溶液の濃縮性能を評価した。供給液側に2ポート、透過液側にも2ポートを有する逆浸透膜セルを用い、逆浸透膜又は改質逆浸透膜をセットした後、供給液側に15重量%のエタノール水溶液(200g)を背圧60barで10ml/分の流速で循環式に流すと同時に、透過側には30重量%のエタノール水溶液(5kg)を背圧をかけずに10ml/分の流速で循環式に流した。この時、供給液の入った瓶は電子天秤上に置き、重量の変化を測定した。供給液側に背圧をかけているため透過側へ水の移動が起こるので、供給液の瓶重量は減少する。減少量が160gとなり(液量減少率で80%)、供給液が5倍に濃縮された時点で実験を終了した。エタノール水溶液の濃縮結果を示すグラフ(エタノール濃度と供給液の液量減少率(%)との関係を示すグラフ)を
図4に示す。
【0055】
図4に示される結果から明らかなとおり、比較例1の逆浸透膜(未処理SWC4)では液量が1/5に減少する間にエタノール濃度は21.2重量%までしか濃縮されなかったのに対し、実施例1の改質逆浸透膜(80℃+TP600)では30.6重量%まで濃縮されたことが確認された。実施例1の改質逆浸透膜は、比較例1の逆浸透膜と比較して、2.5倍以上のエタノール濃縮効果が認められた。このことから、本開示の改質逆浸透膜は、従来の逆浸透膜と比較してエタノール阻止率が向上したことで、エタノールを高濃度まで濃縮できることが明らかとなった。
【0056】
[アンモニウムイオン阻止率の測定]
前記の[エタノール阻止率の測定]において、それぞれ、比較例1の逆浸透膜、比較例5及び実施例1の改質逆浸透膜を用い、1重量%エタノール水溶液の代わりに、1g/Lの塩化アンモニウム水溶液を用いたことと溶質濃度の定量にイオンクロマトグラフを用いたこと以外は、同様にして、アンモニウムイオンの阻止率Rbを測定した。結果を
図5に示す。
【0057】
図5に示される結果から明らかなとおり、比較例1の逆浸透膜(未処理SWC4)のアンモニウムイオン阻止率は94.4%であったのに対し、比較例5の改質逆浸透膜(80℃)のアンモニウムイオン阻止率は98.2%に高められたが、加熱と処理剤とを併用した実施例1の改質逆浸透膜(80℃+TP600)では、アンモニウムイオン阻止率が99.4%にまで高められており、アンモニウムイオンに対する極めて高い阻止率を発揮することが分かる。