(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009330
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】増粘剤
(51)【国際特許分類】
C08F 20/18 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C08F20/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201896
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2020084553の分割
【原出願日】2020-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2019133041
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昂
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、メタクリル酸メチルに溶けやすく、シラップとして所定の粘度を付与することができ、シラップの色調に優れ、スラリー移送時のポンプアップ不良が起こりにくい増粘剤を提供することにある。
【解決手段】本発明の増粘剤は、Mw/Mnが1.7~2.5であり、平均粒子径が150~250μmであり、粒子径の標準偏差が40~150μmであるメタクリル樹脂を含むことを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mw/Mnが1.7~2.5であり、平均粒子径が150~250μmであり、粒子径の標準偏差が40μm~150μmであるメタクリル樹脂を含むことを特徴とする、増粘剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人工大理石はシリカや水酸化アルミニウムを添加したシラップを加熱重合して得られる。シラップとしては、メタクリル酸メチルにメタクリル樹脂を溶かした液が使用されている。メタクリル樹脂は、シラップの粘度を高くして取り扱いを容易にする増粘剤として溶かされている。増粘剤であるメタクリル樹脂の分子量としては、150,000~200,000程度であることが多い。しかし、メタクリル樹脂はメタクリル酸メチルに容易には溶けないため、熱を加えながら数時間かけて溶かしている。そのため、シラップ調製時間とシラップ加熱重合時間からなる人工大理石の作製時間は長くなり、総製造コストを押し上げているという課題がある。
よって、従来の人工大理石としての耐熱性や機械強度は維持しながら、シラップの調製時間を短縮化できる増粘剤や、シラップへの添加量を減らせる増粘剤の開発が望まれている。
【0003】
特定のメタクリル樹脂からなる増粘剤が特許文献1に開示されている。該メタクリル樹脂は二段懸濁重合により得られるもので、メタクリル酸メチルへの溶解特性に優れるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の増粘剤に用いるメタクリル樹脂は、二段懸濁重合で得られるため、懸濁剤の巻き込み量が多くなり、増粘剤として使用する際、得られるシラップの色調が悪くなるという課題があった。
また、懸濁重合で調製するメタクリル樹脂ビーズの粒径を小さくすると、製造上、ビーズの濾過工程でスラリー移送時にポンプアップ不良が起きるという課題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、メタクリル酸メチルに溶けやすく、シラップとして所定の粘度を付与することができ、シラップの色調に優れ、また製造時においてはスラリー移送時のポンプアップ不良が起こりにくい増粘剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、メタクリル樹脂をビーズ形状とし、平均粒子径と粒子径のばらつきとを特定の範囲内に制御等して増粘剤に用いると、メタクリル酸メチルへの溶解性が向上し、シラップの生産効率が高まること、および、人工大理石としたときに従来同等の機械強度、耐久性、色調を示すことを見出し、製造コストを削減できる増粘剤およびその製造方法として完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
Mw/Mnが1.7~2.5であり、平均粒子径が150~250μmであり、粒子径の標準偏差が40~150μmであるメタクリル樹脂を含むことを特徴とする、増粘剤。
[2]
前記メタクリル樹脂のMwが8.5万~50万である、[1]に記載の増粘剤。
[3]
前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチル単量体単位100~80質量%、及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位0~20質量%を含む、[1]又は[2]に記載の増粘剤。
[4]
前記メタクリル樹脂の10%粒子径D10が50μm~130μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の増粘剤。
[5]
前記メタクリル樹脂中のアルミニウムの含有量が1質量ppm以上50質量ppm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の増粘剤。
[6]
メタクリル樹脂を一段懸濁重合により製造する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の増粘剤の製造方法。
[7]
平均粒子径が10~40μmである懸濁剤を水中に分散させて重合する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の増粘剤の製造方法。
[8]
[1]~[5]のいずれかに記載の増粘剤を用いることを特徴とする、増粘剤の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明による増粘剤は、メタクリル酸メチルに溶けやすく、シラップとして所定の粘度を付与することができ、シラップの色調に優れ、また製造時においてはスラリー移送時のポンプアップ不良が起こりにくい増粘剤を提供することができる。
また、短時間でシラップを調製することができ、シラップ生産性を向上することができ、該シラップを加熱重合して得られる人工大理石は従来の機械強度、耐久性を維持することができる。
また、上記増粘剤は、懸濁重合時に、ビーズ濾過工程でのスラリー移送時にポンプアップ不良を防止でき、生産性を向上することができる。また、シラップの調製コストを削減できるため、従来より安価に人工大理石を提供することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[増粘剤]
本実施形態の増粘剤は、Mw/Mnが1.7~2.5であり、平均粒子径が150~250μmであり、粒子径の標準偏差が40~150μmであるメタクリル樹脂を含む。
上記増粘剤は、さらに、その他のメタクリル樹脂組成物を不純物として含む混合物であってもよいが、上記メタクリル系樹脂のみからなることが好ましい。
【0012】
(メタクリル樹脂)
上記メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単量体からなる単独重合体、又はメタクリル酸メチル単量体とメタクリル酸メチルに共重合可能な少なくとも1種の他のビニル単量体とからなる共重合体である。
【0013】
メタクリル酸メチルと共重合可能な上記他のビニル単量体としては、アルキル基の炭素数が2~18のメタクリル酸アルキル、アルキル基の炭素数が1~18のアクリル酸アルキル;アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、マレイミド、N-置換マレイミド等;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー;等が挙げられ、これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。これら中でも、耐光性、熱安定性、耐熱性、流動性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が好ましく用いられる。アクリル酸メチル、アクリルエチル、アクリル酸n-ブチルが特に好ましく、さらにはアクリル酸メチルが入手しやすく最も好ましい。
【0014】
上記メタクリル樹脂100質量%に対する、メタクリル酸メチルに由来する構成単位の質量割合は、80~100質量%であることが好ましい。99質量%より多いと耐熱性が必要以上に向上して溶解特性が悪くなり、好ましくない。また、80質量%より少ないと機械強度が低下する為、好ましくない。好ましくは、耐熱性と溶解特性から、85~99質量%が好ましく、さらに好ましくは90~93質量%である。
【0015】
上記メタクリル樹脂において、メタクリル酸メチルと共重合可能な上記他のビニル単量体は、共重合体に含まれる成分であり、単独重合体の場合には含まなくてもよい成分である。
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体は、溶解特性と耐熱性に影響を与える。上記メタクリル樹脂100質量%に対する、メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位の質量割合は、0~20質量%であることが好ましい。溶解特性の観点から、1質量%以上が好ましい。また、機械強度の観点から、20質量%以下が好ましい。より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0016】
上記メタクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が、85,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは85,000~145,000である。人工大理石としたときの機械強度及び使用樹脂量の観点から、85,000以上が良い。85,000未満ではシラップを所定の粘度にするためのメタクリル樹脂の使用量が増えるため好ましくない。また重合の安定生産の観点から、145,000以下が好ましい。さらに好ましくは、90,000~130,000、特に好ましくは95,000~110,000である。
【0017】
上記メタクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1.7~2.5であり、好ましくは1.8~2.4、さらに好ましくは1.9~2.2である。1.7未満では重合時間がより長くなるため好ましくない。2.5を超えると分子量の違いにより溶ける速度に差が生じ、特に高分子量成分が溶ける前に未溶解成分が凝集し、溶け残りが発生することがある。
なお、重量平均分子量は、GPCで測定される。あらかじめ、単分散の重量平均分子量が既知である試薬として入手可能な標準メタクリル樹脂と、高分子量成分から溶出される分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。その検量線から各試料の分子量を測定することが出来る。
【0018】
上記メタクリル樹脂の平均粒子径は150μm~250μmである。溶解時間は粒子径が小さいほど短くなるため、250μm以下であり、粒子径が小さすぎる場合は、ビーズの飛散が多くなるため、150μm以上である。より好ましくは平均粒子径155~245μmで、最も好ましくは平均粒子径160~240μmである。
本明細書において、粒子径は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる体積粒子径をいう。
【0019】
上記メタクリル樹脂は、粒子径の標準偏差(SD値)が40~150μmであることで重合したビーズを洗浄する際、スラリー移送時のポンプアップ不良やライン詰まりを防止できる。より好ましくは40μm超150μm未満、さらに好ましくは60μm以上150μm未満、さらに好ましくは70~140μm、特に好ましくは75~135μmである。
ここでSD値は下記式で表され、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【数1】
上記式において、x
iは粒子径、x
-(エックスバー)は平均粒子径、f
iはレーザー散乱におけるx
iの体積頻度である。
【0020】
上記メタクリル樹脂の10%粒子径D10は、50μm~120μmであることが好ましく、より好ましくは50μm~120μmである。
【0021】
<アルミニウム元素含有量>
上記メタクリル樹脂中のアルミニウム元素の含有量は、メタクリル樹脂100質量%に対して、1質量ppm以上50質量ppm以下であることが好ましい。アルミニウムの含有量が1質量ppm以上とすることにより、重合を安定化させることができる。より好ましくは1.5質量ppm以上であり、さらに好ましくは2質量ppm以上である。50質量ppm以下であることにより、色調をよくすることができる。より好ましくは40質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下である。
アルミニウム元素の含有量を上記範囲とする方法としては、重合完了後、懸濁剤を除去する際に硫酸によってpHを3~5に調整する方法が挙げられる。
アルミニウム元素の含有量は、質量分析ICP-MSにより測定することができる。
また、上記メタクリル樹脂は、カルシウム元素を含まなくてもよい。
【0022】
<重合方法>
上記メタクリル樹脂は、例えば、メタクリル系樹脂を構成する単量体と、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁剤、その他添加剤等を用いて製造することができる。
【0023】
上記重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキサイド系や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカボニトリル)等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。
上記重合開始剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0024】
上記メタクリル樹脂の製造方法では、ラジカル重合法で製造する場合には、分子量を調整するために、一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。
上記連鎖移動剤としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコート、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。
上記連鎖移動剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いてよい。連鎖移動剤の量は望む分子量に依存して決定される。
【0025】
上記メタクリル樹脂の重合方法としては、一段懸濁重合を用いることが好ましい。懸濁重合は粉末状の樹脂ビーズを与える為、シラップを所望の粘度に調整するための増粘剤として適量を溶解させる際に操作上有利である。
他の重合方法では粉末状の樹脂ビーズが得られないため、好ましくない。また粉末状の重合体が得られる乳化重合よりも懸濁重合の方の重合時間が短い為、懸濁重合の方が好ましい。
特に上記メタクリル樹脂にあっては一段懸濁重合により得られることが好ましい。二段重合や三段重合を行うと懸濁剤や乳化剤のビーズへの巻き込みが多くなり、色味が悪くなるため、好ましくない。
【0026】
また、上記メタクリル樹脂の重合方法としては、平均粒子径が10~40μm(好ましくは13~32μm、より好ましくは15~29μm)である懸濁剤を水中に分散させて重合する方法を用いることが好ましい。中でも、平均粒子径が10~40μmである懸濁剤を水中に分散させて一段懸濁重合することが好ましい。
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、懸濁重合水中に分散する懸濁剤の平均粒子径を10~40μmとして重合することが好ましい。これにより、ビーズの粒子径の標準偏差を制御でき、また重合挙動が安定化し徐熱量が下がり、生産性を向上することができる。
懸濁剤の平均粒子径は、使用する炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム粉体の粒子径を適宜選定することで調整できる。さらに粒子径の異なる粉体を混ぜ合わせることで、適切な平均粒径の懸濁剤を得ることができる。
【0027】
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、水相のpHを4~7の範囲に調整することが好ましい。pHが当該範囲に入ることによって、ビーズの粒子径の標準偏差を制御でき、また重合挙動の安定化をはかることができる。
【0028】
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、あらかじめ懸濁剤を50℃~90℃に昇温して調整したうえで、反応器内の水中(50℃~90℃)に投入することが好ましい。有機系の懸濁剤では、50~70℃とすることが好ましく、55~65℃とすることがより好ましい。無機系の懸濁剤では、50~80℃とすることが好ましく、60~75℃とすることがより好ましい。これによりビーズの平均粒子径と、そのバラつきを調整することができる。
【0029】
上記メタクリル樹脂の製造方法によっては、有機系の懸濁剤より無機系の懸濁剤を使用することが好ましい。有機系の懸濁剤の場合はビーズの平均粒子径のバラつきが小さくなりすぎる傾向にある。ここで有機系の懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ酢酸ビニル、等が挙げられる。
上記無機懸濁剤としては、カルシウム及び/又はアルミニウムを含む無機化合物を含むことが好ましく、例えば、リン酸三カルシウム(第3リン酸カルシウム)等のリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。特に、重合が安定する観点から、アルミニウムを含む無機化合物を含むことがより好ましい。
また、上記懸濁剤は、さらに、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の懸濁助剤を含んでいてもよい。上記懸濁助剤は、懸濁剤100質量%に対して、0.01~10質量%含んでいてよい。
上記懸濁剤は、水中にモノマー原料とともに混合して用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態の増粘剤は、上述の方法で得られた上記メタクリル樹脂をそのまま増粘剤として用いてもよいし、さらに、その他のメタクリル樹脂組成物と混合して増粘剤としてもよい。
【0031】
本実施形態の増粘剤は、メタクリル酸メチルに増粘剤を溶かしてシラップとして用いることができる。上記シラップは、加熱重合して人工大理石を得ることができる。
また、本実施形態の増粘剤は、顔料や染料等を添加して塗料としたり、接着剤を添加して接着剤としたりして使用することができる。
【0032】
本実施形態の増粘剤は、従来の人工大理石の機械強度、耐久性を損なうことなく、作製時間を短縮させたものである。シラップの生産性を向上させると共に、メタクリル樹脂の使用量を減らすことで生産コストを下げることが可能で、人工大理石用途に好適である。
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、人工大理石のシラップ用途の他、塗料や接着剤などの増粘剤用途にも使用できる。
【実施例0033】
以下の実施例、比較例を用いて更に具体的に説明する。
<原料>
用いた原料は下記のものである。
メタクリル酸メチル(MMA):旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール(2,4-di-methyl-6-tert-butylphenol)を2.5質量ppm添加されているもの)
アクリル酸メチル(MA):三菱ケミカル製(重合禁止剤として川口化学工業製4-メトキシフェノール(4-methoxyphenol)が14質量ppm添加されているもの)
アクリル酸n-ブチル(BA):東亜合成製(重合禁止剤として4-メトキシフェノール(4-methoxyphenol)が15質量ppm添加されているもの)
n-オクチルメルカプタン(n-octylmercaptan、NOM):アルケマ製
2-エチルヘキシルチオグリコレート(2-ethylhexyl thioglycolate、EHTG):アルケマ製
ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide、LPO):日本油脂製
第3リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製
炭酸カルシウム(calcium calbonate):
日東粉化工業製NN#200、平均粒子径14.8μm
ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム2水和物(EDTA):キシダ化学製
水酸化アルミニウム:日本軽金属株式会社製
【0034】
[I.増粘剤の製造]
(実施例1)
-懸濁剤-
攪拌機を有する容器に、水5kg、平均粒子径23μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入し混合液(a2)を得た。得られた混合液(a2)を70℃まで加熱した。混合液(a2)中の懸濁剤の平均粒子径は23μmであった。希硫酸および水酸化ナトリウム水溶液を適量加え、pHを4~7の範囲に調整した。
-重合-
60Lの反応器に水25kg、上記懸濁剤3kg、表1に示す配合割合のモノマー原料21kg、を投入し攪拌混合し、表1に記載の条件で、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合反応を実質終了して重合体を得た。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0035】
(実施例2~12、比較例1、2)
粒子径の違う水酸化アルミニウムを用いて、懸濁剤を表1に示す範囲に調整し、表1に記載の条件で重合をした以外は実施例1と同様にして、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0036】
(実施例13)
攪拌機を有する容器に、水2kg、第3リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入し、混合液(a1)を得た。得られた混合液(a1)を70℃まで加熱した。混合液(a1)中の懸濁剤の平均粒子径は16μmであった。希硫酸および水酸化ナトリウム水溶液を適量加え、pHを4~7に調整した。
-重合-
60Lの反応器に水25kg、上記懸濁剤3kg、表1に示す配合割合のモノマー原料21kg、を投入し攪拌混合し、表1に記載の条件で、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合反応を実質終了して重合体を得た。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0037】
(実施例14)
60Lの反応器に水23kgを入れ60℃まで加熱し、有機懸濁剤としてポリビニルアルコール630gを60℃まで加熱した状態で溶解させ、表1に示す配合割合のモノマー原料21kgを投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。得られたビーズ分散液を洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0038】
(実施例15)
アクリル酸メチルの代わりにアクリル酸ブチルを用いた以外は実施例1と同様にして、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0039】
(比較例3)
60Lの反応器に水23kg、有機懸濁剤としてポリビニルアルコール630gを溶解させ、表1に示す配合割合のモノマー原料21kgを投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。得られたビーズ分散液を洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0040】
(比較例4)
重合時のpHを3.8とし、懸濁剤の投入温度を25℃にしたこと以外は、実施例9と同様にしてメタクリル樹脂ビーズを得た。
【0041】
(比較例5)
用いた懸濁剤の平均粒子径を9μmにしたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂ビーズを得た。
【0042】
(比較例6、7)
60Lの反応器に水及び実施例7、8と同様に粒径を調製した懸濁剤を投入し、モノマー原料としてMMA97質量%、EHTG2質量%、LPO0.7質量%攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合反応を実質終了して重合体(1)を得た。その後、上記重合体(1)を含む重合系を60分間、80℃を維持し、次に重合体(2)の原料としてMMA97質量%、MA2質量%、NOM0.2質量%、LPO0.2質量%を投入し、引き続き80℃で90分懸濁重合し、続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。重合体(1)と(2)の重量比率は(1)/(2)=25/75とした。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0043】
(比較例8)
先ず、硫酸アルミニウム1.9g、錯形成剤(トリロンB;エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム二水和物/BASF社)3.8mg、及び乳化剤(K30;C15-パラフィンスルホネートのナトリウム塩/バイエル社)19mgを、蒸留水350g中に攪拌しながら溶解した。次に、約40℃の温度で、1Nの水酸化ナトリウムを添加し、pH値を5~5.5に調整した。その後、静置沈殿させ水相を容量1Lの攪拌機付重合槽へと移し、懸濁剤(Al(OH)3)を得た。
また、懸濁助剤として、RSO3-Na+(Rはアルキル基)を、上記懸濁剤と併用し、後述する重合工程の安定化を図った。
次に、上記重合槽に、メタクリル酸メチル(MMA)270g、アクリル酸メチル(MA)17g、重合開始剤としてラウロイルパーオキサイド0.5g、及び連鎖移動剤としてn-オクチルメルカプタン0.7gを加えて激しく攪拌し、かつ、75℃に加温し、約75~80℃で90分保持した。
その後、重合槽の内部温度を約90℃に上昇させ、40分間、90℃の温度条件を保持し、重合反応を進行させた。これにより、懸濁重合体が得られた。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0044】
[II.メタクリル系樹脂の物性]
(重量平均分子量、分子量分布)
実施例、比較例で得られたメタクリル樹脂ビーズの重量平均分子量、分子量分布を下記の装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC) カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本を順に直列接続して使用した。
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル樹脂のテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加。
検量線用標準サンプルとして、単分散のピークトップ分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
ピークトップ分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準資料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、3次近似式の検量線を基にメタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0045】
(体積平均粒子径、D10)
ベックマン・コールター社製LS13320のレーザー散乱方式にて、体積平均粒子径、SD値、10%粒子径を測定した。
【0046】
(アルミニウムの含有量)
Thermo Fisher製ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)、型式XSERIES2を用いてアルミニウムの含有量を測定した。
【0047】
[III.増粘剤の評価]
実施例、比較例で得られたメタクリル樹脂ビーズを増粘剤として用いて、以下の評価を行った。
【0048】
(溶解速度)
スターラー付きウォーターバスに水を入れ、60℃に加熱する。110ccネジ口瓶(直径50mm)に増粘剤16g、メタクリル酸メチル単量体64g(増粘剤20wt%の場合)と回転子を入れ、ネジ口瓶の蓋を閉める。ウォーターバスにネジ口瓶を入れ、スターラーを回転させたら測定開始。瓶中の増粘剤がメタクリル酸メチルに溶けるまでの時間を測定する。
15分以内にすべて溶けたもの:◎(非常に優れる)
20分以内にすべて溶けたもの:〇(優れる)
25分以内にすべて溶けたもの:△(良好)
溶解に25分以上かかったもの:×(不良)
【0049】
(シラップの粘度)
測定機器はB型粘度計、ロータはSB2号を使用する。上記溶解速度に記載の方法で作製したシラップを室温(23±3℃)まで撹拌しながら冷却する。シラップ液を40cc測定管に量り取る。測定管を粘度計に設置して粘度測定を開始。ロータの回転数60rpmで粘度を測定する。(60rpmで測定範囲を越えた場合は回転数を落として測定する)ロータの回転数6rpmの粘度も併せて測定し、粘度の数値を比較して精度を見極める。粘度の高いものは、シラップ製造時に添加量を調整し、適切な粘度に調整する必要がある。
【0050】
(長光路の透過率)
重合で得られたメタクリル樹脂ビーズについて2軸押出機を用い、樹脂温度240℃~250℃で押出してペレットを得た。
人工大理石を作製した時の色味を簡易的に評価するため、メタクリル樹脂のみから作製した成形品の光学特性を測定した。上記の方法で得られたペレットを用いて、射出成形機(EC-100SX、東芝機械株式会社製)により、成形温度280℃、金型温度60℃の条件により、厚さ3mm×幅20mm×長さ220mmの試験片を作製した。得られた試験片から220mm長光路透過率の測定を行った。そして、以下の基準で透過率を評価した。
なお、透過率は、色差計(有限会社東京電色社製、TC-8600A、光源:10-C)を用いて、JIS K7375に準拠して測定した。
◎(非常に優れる):85%以上
○(優れる):80%以上85%未満
△(良好):75%以上80%未満
×(不良):75%未満
【0051】
(重合安定性)
重合安定性については、重合後のメタクリル樹脂ビーズ21kg中に含まれる粗大ビーズ(ガラ)の質量を秤量し、200g以下であれば「◎(非常に優れる)」、200g超300g以下であれば「〇(優れる)」、300g超400g以下で「△(良好)」、400g超で「×(不良)」とした。
【0052】
(スラリー移送時のポンプアップ不良)
重合後に得られたビーズ入りの重合液(スラリー)を洗浄脱気層に移送する際、ポンプアップが起きなかったものを「〇(優れる)」、ポンプアップが一度だけ起きたものを「△(良好)」、二度以上ポンプアップ不良が起きたものを「×(良好)」とした。
【0053】