(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093300
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】軸受用リング部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21K 1/04 20060101AFI20240702BHJP
B21J 5/08 20060101ALI20240702BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20240702BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20240702BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B21K1/04
B21J5/08 Z
B21J13/02 C
B21J13/02 K
F16C33/64
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209591
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
(72)【発明者】
【氏名】河合 英典
【テーマコード(参考)】
3J701
4E087
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA13
3J701AA14
3J701AA16
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA51
3J701DA09
3J701FA41
4E087AA08
4E087DA05
4E087EC12
4E087HA43
4E087HB02
(57)【要約】
【課題】不要な変形や曲げの発生を抑制することができる軸受用リング部材の製造方法を提供する。
【解決手段】軸受用リング部材の製造方法は、円環状のワーク本体部11を有するワーク部材10を軸方向に沿ってパンチ30とダイス40とによって挟み込み、ワーク本体部11が円筒状となるようにワーク部材10を変形させる反転工程を備える。反転工程では、径方向におけるワーク部材10の第1端部10aにパンチ30からの力が作用し、且つ径方向におけるワーク部材10の第2端部10bにダイス40からの力が作用している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のワーク本体部を有するワーク部材を軸方向に沿ってパンチとダイスとによって挟み込み、前記ワーク本体部が円筒状となるように前記ワーク部材を変形させる反転工程を備え、
前記反転工程では、前記ワーク部材の径方向における一方の端部に前記パンチからの力が作用し、且つ前記ワーク部材の径方向における他方の端部に前記ダイスからの力が作用している状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、軸受用リング部材の製造方法。
【請求項2】
前記反転工程の全体にわたって、前記ダイスは前記他方の端部に接触する、請求項1に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項3】
前記ダイスは、軸方向に対して傾斜した傾斜面を有しており、
前記反転工程では、前記傾斜面が前記他方の端部に接触する、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項4】
前記ダイスは、軸方向と平行な断面において凸状且つ円弧状に形成された凸状R面を有しており、
前記反転工程では、前記凸状R面が前記他方の端部に接触する、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項5】
前記ダイスは、軸方向と平行な断面において凹状且つ円弧状に形成された凹状R面を有しており、
前記反転工程では、前記凹状R面が前記他方の端部に接触する、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項6】
前記反転工程では、前記パンチと前記一方の端部との間に滑りが発生せず、且つ前記ダイスと前記他方の端部との間に滑りが発生している状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項7】
前記パンチ及び前記ダイスの各々は、一体に形成されている、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項8】
前記反転工程は、前記パンチ及び前記ダイスとして第1パンチ及び第1ダイスを用いる第1工程と、前記パンチ及び前記ダイスとして前記第1パンチとは異なる第2パンチ及び前記第1ダイスとは異なる第2ダイスを用いる第2工程と、をこの順に含む、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程では、前記ワーク部材を直径が増加するように変形させる、請求項8に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程では、前記ワーク部材を直径が減少するように変形させる、請求項8に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項11】
前記パンチ及び前記ダイスの少なくとも一方は、径方向に突出した突出部を有しており、前記反転工程の後に、前記突出部が前記ワーク部材に接触した状態で前記ワーク部材を変形させる工程を更に備える、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項12】
前記反転工程では、前記ワーク部材における前記一方の端部及び前記他方の端部以外の部分に力が作用していない状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項13】
前記反転工程では、前記パンチ及び前記ダイスとは別の部材によって前記ワーク部材を径方向に押すことなく、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項14】
前記ワーク部材は、径方向における前記ワーク本体部の内縁から軸方向の一方側に延在する内側フランジ部と、径方向における前記ワーク本体部の外縁から軸方向の前記一方側に延在する外側フランジ部と、を更に有する、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項15】
前記反転工程では、前記ワーク部材における前記反転工程の前に前記パンチの側を向いた表面が前記反転工程の後に径方向の外側を向くように、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項16】
前記反転工程では、前記ワーク部材における前記反転工程の前に前記パンチの側を向いた表面が前記反転工程の後に径方向の内側を向くように、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用リング部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸受の内輪又は外輪の製造に用いられるリング部材の製造方法が記載されている。この製造方法では、円環状のワーク部材をパンチとダイスとによって挟み込で断面の方向を90度変化させる反転加工を経て、リング部材が形成される。特許文献2にも、同様の反転加工により軸受用のリング部材を形成する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-97809号公報
【特許文献2】特開2020-22987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような製造方法には、製造されるリング部材の品質を確保するために、反転加工においてリング部材に不要な変形や曲げが発生しないようにすることが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、不要な変形や曲げの発生を抑制することができる軸受用リング部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[1]「円環状のワーク本体部を有するワーク部材を軸方向に沿ってパンチとダイスとによって挟み込み、前記ワーク本体部が円筒状となるように前記ワーク部材を変形させる反転工程を備え、前記反転工程では、径方向における前記ワーク部材の一方の端部に前記パンチからの力が作用し、且つ径方向における前記ワーク部材の他方の端部に前記ダイスからの力が作用している状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、軸受用リング部材の製造方法」である。
【0007】
この軸受用リング部材の製造方法の反転工程では、ワーク部材の径方向における一方の端部にパンチからの力が作用し、且つワーク部材の径方向における他方の端部にダイスからの力が作用している状態で、パンチ及びダイスによってワーク部材を変形させる。これにより、例えばワーク部材における一方の端部及び他方の端部以外の部分にパンチ又はダイスからの力が作用する場合と比べて、ワーク部材に不要な変形や曲げが発生することを抑制することができる。すなわち、この軸受用リング部材の製造方法では、パンチからの力が作用する位置とダイスからの力が作用する位置との間の距離を長く確保することができ、反転工程においてワーク部材に作用する力を小さくすることができる(反転に必要なモーメントの大きさが一定であるとすると、力が作用する位置の間の距離が長いほど、反転に必要な力は小さくなる)。また、局所的に大きな応力が生じて不要な変形や曲げが発生することを抑制することができる。よって、この軸受用リング部材の製造方法によれば、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材の品質を確保することができる。
【0008】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[2]「前記反転工程の全体にわたって、前記ダイスは前記他方の端部に接触する、[1]に記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、反転工程においてワーク部材を良好に立ち上がらせることができる。
【0009】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[3]「前記ダイスは、軸方向に対して傾斜した傾斜面を有しており、前記反転工程では、前記傾斜面が前記他方の端部に接触する、[1]又は[2]に記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ダイスからの力をワーク部材の他方の端部に好適に作用させることができる。
【0010】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[4]「前記ダイスは、軸方向と平行な断面において凸状且つ円弧状に形成された凸状R面を有しており、前記反転工程では、前記凸状R面が前記他方の端部に接触する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ダイスからの力をワーク部材の他方の端部に好適に作用させることができる。
【0011】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[5]「前記ダイスは、軸方向と平行な断面において凹状且つ円弧状に形成された凹状R面を有しており、前記反転工程では、前記凹状R面が前記他方の端部に接触する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ダイスからの力をワーク部材の他方の端部に好適に作用させることができる。
【0012】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[6]「前記反転工程では、前記パンチと前記一方の端部との間に滑りが発生せず、且つ前記ダイスと前記他方の端部との間に滑りが発生している状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、反転工程においてワーク部材を良好に立ち上がらせることができる。
【0013】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[7]「前記パンチ及び前記ダイスの各々は、一体に形成されている、[1]~[6]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、製造される軸受用リング部材の品質を一層確保することができる。
【0014】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[8]「前記反転工程は、前記パンチ及び前記ダイスとして第1パンチ及び第1ダイスを用いる第1工程と、前記パンチ及び前記ダイスとして前記第1パンチとは異なる第2パンチ及び前記第1ダイスとは異なる第2ダイスを用いる第2工程と、をこの順に含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、例えば一対のパンチ及びダイスのみによる加工では良好に変形させることが難しい形状のワーク部材を変形させる場合でも、良好に変形させることが可能となる。
【0015】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[9]「前記第2工程では、前記ワーク部材を直径が増加するように変形させる、[8]に記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ワーク部材の直径を調整しつつ、ワーク部材に反転加工を施すことができる。
【0016】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[10]「前記第2工程では、前記ワーク部材を直径が減少するように変形させる、[8]に記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ワーク部材の直径を調整しつつ、ワーク部材に反転加工を施すことができる。
【0017】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[11]「前記パンチ及び前記ダイスの少なくとも一方は、径方向に突出した突出部を有しており、前記反転工程の後に、前記突出部が前記ワーク部材に接触した状態で前記ワーク部材を変形させる工程を更に備える、[1]~[10]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、反転工程の後にワーク部材の形状を所望の形状に整えることが可能となる。
【0018】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[12]「前記反転工程では、前記ワーク部材における前記一方の端部及び前記他方の端部以外の部分に力が作用していない状態で、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、[1]~[11]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、ワーク部材には一方の端部及び他方の端部のみにおいて力が作用するため、ワーク部材に作用する力を単純化することができる。例えばワーク部材における一方の端部及び他方の端部以外の部分に力が作用する場合、ワーク部材に作用する力が複雑になり、変形や曲げが発生した際に原因を分析することが難しくなるおそれがあるが、この軸受用リング部材の製造方法では、そのような事態の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[13]「前記反転工程では、前記パンチ及び前記ダイスとは別の部材によって前記ワーク部材を径方向に押すことなく、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、[1]~[12]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、製造される軸受用リング部材の品質を一層確保することが可能となる。
【0020】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[14]「前記ワーク部材は、径方向における前記ワーク本体部の内縁から軸方向の一方側に延在する内側フランジ部と、径方向における前記ワーク本体部の外縁から軸方向の前記一方側に延在する外側フランジ部と、を更に有する、[1]~[13]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。内側フランジ部及び外側フランジ部を有するワーク部材に反転加工を施すことは比較的難しいが、この軸受用リング部材の製造方法によれば、そのような場合でも不要な変形や曲げの発生を抑制して良好に反転加工を施すことができる。
【0021】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[15]「前記反転工程では、前記ワーク部材における前記反転工程の前に前記パンチの側を向いた表面が前記反転工程の後に径方向の外側を向くように、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、[1]~[14]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、例えば内輪の製造に用いられるリング部材を得ることができる。
【0022】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、[16]「前記反転工程では、前記ワーク部材における前記反転工程の前に前記パンチの側を向いた表面が前記反転工程の後に径方向の内側を向くように、前記パンチ及び前記ダイスによって前記ワーク部材を変形させる、[1]~[14]のいずれか1つに記載の軸受用リング部材の製造方法」であってもよい。この場合、例えば外輪の製造に用いられるリング部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、不要な変形や曲げの発生を抑制することができる軸受用リング部材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)はワーク部材の断面図であり、(b)は軸受用リング部材の断面図である。
【
図2】(a)及び(b)は、反転工程を説明するための断面図である。
【
図3】(a)及び(b)は、反転工程を説明するための断面図である。
【
図4】(a)及び(b)は、反転工程を説明するための断面図である。
【
図5】反転工程を更に説明するための断面図である。
【
図6】(a)、(b)及び(c)は、比較例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図7】(a)、(b)及び(c)は、実施形態における反転工程を説明するための断面図である。
【
図8】参考例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図9】参考例において用いられる治具の平面図である。
【
図10】参考例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図11】(a)及び(b)は、第1変形例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図12】(a)及び(b)は、第1変形例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図13】(a)及び(b)は、第2変形例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図14】(a)及び(b)は、第2変形例における反転工程を説明するための断面図である。
【
図15】(a)及び(b)は、第3変形例における反転工程の第1工程を説明するための断面図である。
【
図16】(a)及び(b)は、第3変形例における反転工程の第2工程を説明するための断面図である。
【
図17】(a)及び(b)は、第4変形例における反転工程の第2工程を説明するための断面図である。
【
図18】(a)及び(b)は、外輪用リング部材を製造する場合の反転工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0026】
実施形態に係る軸受用リング部材の製造方法では、
図1及び
図2に示されるように、ワーク部材10から軸受用のリング部材20が製造される。
図1及び
図2には、ワーク部材10及びリング部材20の軸方向(中心軸CLに平行な方向)と平行な断面(中心軸CLを通る断面)が示されている。この例では、ワーク部材10及びリング部材20は、略コ字状(U字状)の断面形状を有している。なお、
図1及び
図2では各部材の一部が省略して示されているが、各部材は径方向に関して一様な形状を有している。この点は他の図についても同様である。以下、中心軸CL(ワーク部材10及びリング部材20並びに後述するパンチ30及びダイス40の中心軸)に平行な方向を軸方向といい、中心軸CLに垂直な方向を径方向といい、中心軸CLに平行な方向から見た場合に中心軸CLを中心とする円周に沿った方向を周方向という。
【0027】
リング部材20は、例えば軸受の内輪として用いられ得る内輪用リング部材である。製造されたリング部材20自体が内輪として用いられてもよいし、リング部材20に更なる加工が施されることで内輪が製造されてもよい。リング部材20が適用される軸受は、任意の軸受であってよく、例えばニードル軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、玉軸受等であってよい。
【0028】
リング部材20は、本体部21と、一対のフランジ部22,23とを有している。本体部21は、円筒状に形成されており、径方向の外側を向いた円筒状の軌道面21aを有している。一方のフランジ部22は、本体部21における軸方向の第1側S1(
図1中の上側)の縁から径方向の外側に延在しており、他方のフランジ部23は、本体部21における第2側S2(第1側S1とは反対側)の縁から径方向の外側に延在している。各フランジ部22,23は、例えば円環板状に形成されている。
【0029】
ワーク部材10は、ワーク本体部11と、内側フランジ部12と、外側フランジ部13とを有している。ワーク本体部11は、円環板状に形成されており、リング部材20の軌道面21aとなる表面11aを有している。この例では、表面11aは、円環状の平坦面である。内側フランジ部12は、径方向におけるワーク本体部11の内縁から軸方向の一方側(
図1中の上側)(第1側S1)に延在しており、外側フランジ部13は、径方向におけるワーク本体部11の外縁から軸方向の当該一方側に延在している。すなわち、内側フランジ部12及び外側フランジ部13は、ワーク本体部11から同一の側に突出している。内側フランジ部12及び外側フランジ部13の各々は、例えば円筒状に形成されている。
【0030】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法は、ワーク部材10を軸方向に沿ってパンチ30とダイス40とによって挟み込み、ワーク本体部11が円筒状となるようにワーク部材10を変形させる反転工程を備えている(
図2)。反転工程では、ワーク部材10の断面の方向が約90度変化する。パンチ30及びダイス40は、互いに共通の中心軸CLを有しており、パンチ30及びダイス40の各々は、径方向に関して一様な断面形状を有している。パンチ30及びダイス40の各々は、一体に形成されている。すなわち、パンチ30及びダイス40の各々は、分割又は分離されていない単一の部材により形成されている。
【0031】
パンチ30は、パンチ本体部31と、パンチ突出部32とを有している。パンチ本体部31は、軸方向に平行な軸線を有する略円筒状に形成されている。パンチ本体部31における第2側S2の内縁部には、R面33が形成されている。R面33は、パンチ本体部31における第2側S2の角部が丸められることにより形成された湾曲面であり、軸方向に平行な断面(
図2)において円弧状に形成されている。パンチ突出部32は、パンチ本体部31における第1側S1の端部に形成されており、パンチ本体部31から径方向の内側に突出している。パンチ突出部32は、例えば円筒状に形成されている。パンチ本体部31は、R面33とパンチ突出部32との間に、円筒状の内面34を有している。
【0032】
ダイス40は、ダイス本体部41と、ダイス突出部42とを有している。ダイス本体部41は、軸方向に平行な軸線を有する略円筒状に形成されている。ダイス本体部41は、径方向の外側に、軸方向に対して傾斜した傾斜面43(テーパ面)を有している。傾斜面43は、第2側S2に向かうほど中心軸CLから離れるように、軸方向に対して傾斜している。この例では、軸方向に対する傾斜面43の傾斜角度θは、5度である。ダイス突出部42は、ダイス本体部41における第2側S2の端部に形成されており、ダイス本体部41から径方向の外側に突出している。ダイス突出部42は、例えば円筒状に形成されている。ダイス本体部41は、傾斜面43とダイス突出部42との間に、円筒状の外面44を有している。また、ダイス本体部41における第1側S1の端部には、反転工程の開始時にワーク部材10を芯出しするのための芯出し部Pが形成されている。芯出し部Pは、例えば円筒状に形成されており、傾斜面43に連なる円筒状の外面を有している。
【0033】
図2に示されるように、反転工程では、パンチ30とダイス40とによってワーク部材10を挟み込み、径方向の外側に向かって立ち上がるように変形させる。反転工程の開始時には、パンチ30はダイス40に対して第1側S1に配置されており、ダイス40はパンチ30に対して第2側S2に配置されている(
図2(a))。反転工程の開始時には、パンチ30のR面33とダイス40の芯出し部Pの外面とがワーク部材10に接触している。そして、例えばパンチ30を軸方向に沿って移動(下降)させてダイス40に近づけることにより、パンチ30とダイス40との間にワーク部材10が挟み込まれ、ワーク部材10が径方向の外側に向かって立ち上がるように変形する(
図2(b))。すなわち、反転工程では、ワーク部材10における反転工程の前にパンチ30の側(第1側S1)を向いた表面11aが反転工程の後に径方向の外側を向くように、ワーク部材10を変形させる。
【0034】
反転工程では、パンチ30のR面33とダイス40の傾斜面43とがワーク部材10に接触する。より具体的には、R面33がワーク部材10の径方向における第1端部10a(一方の端部)に接触し、傾斜面43がワーク部材10の径方向における第2端部10b(他方の端部)に接触する。この例では、第1端部10aは、ワーク部材10における径方向の外側の端部であり、外側フランジ部13と、ワーク本体部11における外側フランジ部13との接続部分とからなる。ワーク部材10が外側フランジ部13を有している場合、第1端部10aは、例えば、軸方向から見た場合に外側フランジ部13と重なる部分である。ワーク部材10が外側フランジ部13を有しておらず、例えばワーク本体部11のみからなる場合、第1端部10aは、例えば、ワーク本体部11における外縁に沿った所定の幅を有する円環状の部分である。この幅は、例えばワーク本体部11の厚さ(軸方向における長さ)の0.5倍又は2倍である。この例では、第2端部10bは、ワーク部材10における径方向の内側の端部であり、内側フランジ部12と、ワーク本体部11における内側フランジ部12との接続部分とからなる。ワーク部材10が内側フランジ部12を有している場合、第2端部10bは、例えば、軸方向から見た場合に内側フランジ部12と重なる部分である。ワーク部材10が内側フランジ部12を有しておらず、例えばワーク本体部11のみからなる場合、第2端部10bは、例えば、ワーク本体部11における内縁に沿った所定の幅を有する円環状の部分である。この幅は、例えばワーク本体部11の厚さ(軸方向における長さ)の0.5倍又は2倍である。
【0035】
反転工程では、ワーク部材10の第1端部10aにパンチ30からの力が作用し、且つワーク部材10の第2端部10bにダイス40からの力が作用している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。より具体的には、パンチ30は、R面33において第1端部10aに接触し、第1端部10aに第2側S2向きの力を作用させる。ダイス40は、傾斜面43において第2端部10bに接触し、第2端部10bに第1側S1向きの力を作用させる。この例の反転工程では、ワーク部材10における第1端部10a及び第2端部10bのみにパンチ30又はダイス40からの力が作用し、ワーク部材10における第1端部10a及び第2端部10b以外の部分には力が作用しない。
【0036】
また、反転工程では、パンチ30と第1端部10aとの間に滑りが発生せず、且つダイス40と第2端部10bとの間に滑りが発生している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。より具体的には、パンチ30のR面33と第1端部10aとの間には滑りが発生せず、第1端部10aはR面33に引っ掛かった状態となる。すなわち、第1端部10aはR面33上を滑って移動しない。一方、ダイス40の傾斜面43と第2端部10bとの間には滑りが発生し、第2端部10bは傾斜面43上を滑って第2側S2へ移動する。反転工程の全体にわたって、ダイス40は第2端部10bに接触する。
【0037】
また、実施形態の軸受用リング部材の製造方法は、反転工程の後に、パンチ30のパンチ突出部32及びダイス40のダイス突出部42がワーク部材10に接触した状態でワーク部材10を変形させる押込工程を更に備えている(
図2(b))。押込工程では、パンチ30が更に下降し、パンチ突出部32とダイス突出部42とによってワーク部材10が軸方向に沿って挟み込まれる。このとき、径方向においては、ワーク部材10は、パンチ30の内面34とダイス40の外面44との間に配置されている。ワーク部材10は、例えば内面34及び外面44に接触している。押込工程は、反転工程とは別の工程であるとみなすこともできるし、反転工程に含まれる工程(反転工程の一部)であるとみなすこともできる。
【0038】
以上の工程により、ワーク部材10のワーク本体部11、内側フランジ部12及び外側フランジ部13がそれぞれリング部材20の本体部21、フランジ部22及びフランジ部23となり、リング部材20(内輪用リング部材)が得られる。
【0039】
図3及び
図4に示されるように、ダイス40の傾斜面43の傾斜角度θは、任意に設定されてよい。例えば、
図3の例では傾斜角度θが15度であり、
図4の例では傾斜角度θが30度である。傾斜角度θが小さいほど、ワーク部材10を反転させるのに必要な荷重が小さくなると共に、パンチ30の移動量に対するワーク部材10の変形量が小さくなる。したがって、例えば、厚さが薄くてワーク部材10が変形しやすい場合や、パンチ30及びダイス40からワーク部材10に作用させることができる荷重が小さい場合には、傾斜角度θは小さく設定され得る。一方、例えば、厚さが厚くてワーク部材10が変形しにくい場合や、パンチ30及びダイス40からワーク部材10に作用させることができる荷重が十分に大きい場合には、傾斜角度θは大きく設定され得る。傾斜角度θが大きいほど、パンチ30のストローク量(反転工程における移動量)を短くすることができ、生産性を向上することができる。
[作用及び効果]
【0040】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法における反転工程では、ワーク部材10の径方向における第1端部10a(一方の端部)にパンチ30からの力が作用し、且つワーク部材10の径方向における第2端部10b(他方の端部)にダイス40からの力が作用している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。これにより、例えばワーク部材10における第1端部10a及び第2端部10b以外の部分にパンチ30又はダイス40からの力が作用する場合と比べて、ワーク部材10に不要な変形や曲げが発生することを抑制することができる。すなわち、実施形態の軸受用リング部材の製造方法では、パンチ30からの力が作用する位置とダイス40からの力が作用する位置との間の距離を長く確保することができ、反転工程においてワーク部材10に作用する力を小さくすることができる(反転に必要なモーメントの大きさが一定であるとすると、力が作用する位置の間の距離が長いほど、反転に必要な力は小さくなる)。また、局所的に大きな応力が生じて不要な変形や曲げが発生することを抑制することができる。よって、実施形態の軸受用リング部材の製造方法によれば、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材(リング部材20)の品質を確保することができる。
【0041】
図5~
図7を参照しつつ、実施形態における反転工程について更に説明する。
図5~
図7では各部材が模式的に示されている。
図5に示されるように、実施形態における反転工程では、第1端部10aにパンチ30(R面33)からの力F1が作用し、第2端部10bにダイス40(傾斜面43)からの力F2が作用する。これにより、力F1が作用する位置と力F2が作用する位置との間の距離Lを最大化することができる。ワーク部材10を反転させるのに必要なモーメントの大きさは一定であるため、距離Lが長いほど、反転に必要な力が小さくなり、反転工程においてワーク部材10に作用する力を小さくすることができる。
【0042】
図6は、比較例における反転工程を説明するための断面図であり、
図7は、実施形態における反転工程を説明するための断面図である。
図6に示される比較例では、パンチ130及びダイス140を用いてワーク部材110に反転加工が施されている。パンチ130からの力F1はワーク部材110の第1端部110aに作用し、ダイス140からの力F2はワーク部材110の中間部に作用している。比較例では、ダイス140とワーク部材10との間に滑りが発生していない。
図6に示されるように、比較例では、反転加工が進行するにつれて力F1,F2間の距離Lが短くなっている。力F1,F2間の距離Lが短いと、反転に必要な力が大きくなる。反転に必要な力が大きいと、ワーク部材10に局所的に大きな応力が生じて不要な変形や曲げが発生してしまうおそれがある。これに対し、
図7に示されるように、実施形態の反転工程では、反転加工が進行しても力F1,F2間の距離Lは略同一のままで維持されている(最長のままで維持されている)。そのため、反転工程においてワーク部材10に作用する力を小さくすることができる。また、局所的に大きな応力が生じて不要な変形や曲げが発生することを抑制することができる。その結果、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材の品質を確保することができる。
【0043】
反転工程の全体にわたって、ダイス40が第2端部10bに接触する。これにより、反転工程においてワーク部材10を良好に立ち上がらせることができる。
【0044】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法では、ダイス40が軸方向に対して傾斜した傾斜面43を有しており、反転工程では、傾斜面43がワーク部材10の第2端部10bに接触する。これにより、ダイス40からの力F2をワーク部材10の第2端部10bに好適に作用させることができる。
【0045】
反転工程では、パンチ30と第1端部10aとの間に滑りが発生せず、且つダイス40と第2端部10bとの間に滑りが発生している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10が変形させられる。これにより、反転工程においてワーク部材10を良好に立ち上がらせることができる。
【0046】
パンチ30及びダイス40の各々が、一体に形成されている。これにより、製造される軸受用リング部材の品質を一層確保することができる。
【0047】
図8~
図10を参照しつつ、この点について更に説明する。
図8~
図10は参考例を説明するための図である。
図8に示される参考例では、パンチ230及びダイス240を用いてワーク部材210に反転加工が施されている。また、治具250によってワーク部材210を径方向の外側に向けて押しながら、ワーク部材210に反転加工が施されている。このように治具250によって押す場合、パンチ230及びダイス240からワーク部材210に作用させる力を小さくすることができると考えられる。しかしながら、治具250からの力F3がワーク部材210に作用し、ワーク部材210に3つの力F1,F2,F3が作用する。そのため、ワーク部材210に作用する力が複雑になり、変形や曲げが発生した際に原因を分析することが難しくなるおそれがある。
【0048】
また、
図9に示されるように、治具250は、例えば、径方向に沿って並べられた複数の部材251からなる。しかしながら、このように分割された複数の部材251からなる治具250によってワーク部材210を押すと、ワーク部材210が多角形状に変形し、真円度が低下するおそれがある。また、バリが発生するおそれもある。
【0049】
また、治具250は、実際には、カム構造を構成し、いくつかの治具が複雑に組み合わされて動作し得る。例えば、
図10の例では、治具250(カム)が、軸方向に移動するカムパンチ252によって径方向の内側から押されることで動作する。しかしながら、ワーク部材210の直径が大きい場合には径方向の内側にスペースがあるためカム構造を配置し得るが、ワーク部材210の直径が小さい場合には当該スペースが小さくなるためカム構造を配置することが難しくなるおそれある。
【0050】
このような参考例に対して、実施形態の軸受用リング部材の製造方法では、パンチ30及びダイス40の各々が一体に形成されており、分割されていない。これにより、これにより、上述した真円度の低下やバリの発生を抑制することができ、製造される軸受用リング部材の品質を一層確保することができる。
【0051】
また、反転工程では、ワーク部材10における第1端部10a及び第2端部10b以外の部分に力が作用していない状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。これにより、ワーク部材10に作用する力を単純化することができる。
【0052】
また、反転工程では、パンチ30及びダイス40とは別の部材(例えば治具250)によってワーク部材10を径方向に押すことなく、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。これにより、上述した真円度の低下やバリの発生を抑制することができ、製造される軸受用リング部材の品質を一層確保することができる。また、例えば治具250を動作させるためのカム構造が不要であるため、上述したカム構造を配置するためのスペースに関する問題を回避することができる。
【0053】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法は、反転工程の後に、パンチ30のパンチ突出部32及びダイス40のダイス突出部42がワーク部材10に接触した状態でワーク部材10を変形させる押込工程を備えている。これにより、反転工程の後にワーク部材10の形状を所望の形状に整えることが可能となる。
【0054】
ワーク部材10が、径方向におけるワーク本体部11の内縁から軸方向の一方側に延在する内側フランジ部12と、径方向におけるワーク本体部11の外縁から軸方向の当該一方側に延在する外側フランジ部13と、を有している。内側フランジ部12及び外側フランジ部13を有するワーク部材10に反転加工を施すことは比較的難しいが、実施形態の軸受用リング部材の製造方法によれば、そのような場合でも不要な変形や曲げの発生を抑制して良好に反転加工を施すことができる。
【0055】
反転工程では、ワーク部材10における反転工程の前にパンチ30の側(第1側S1)を向いた表面11aが反転工程の後に径方向の外側を向くように、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。これにより、例えば内輪の製造に用いられるリング部材20(内輪用リング部材)を得ることができる。
[変形例]
【0056】
図11及び
図12に示される第1変形例のようにダイス40が構成されてもよい。
図11及び
図12では各部材が模式的に示されている。第1変形例では、ダイス40が、傾斜面43に代えて凸状R面45を有している。凸状R面45は、軸方向と平行な断面において凸状且つ円弧状に形成されている。
図11の例では、凸状R面45は、直径が20mmの円(球)に沿った形状に形成されており、
図12の例では、凸状R面45は、直径が30mmの円(球)に沿った形状に形成されている。第1変形例の反転工程では、凸状R面45がワーク部材10の第2端部10bに接触する。
【0057】
第1変形例によっても、上記実施形態と同様に、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材(リング部材20)の品質を確保することができる。また、ダイス40からの力をワーク部材10の第2端部10bに好適に作用させることができる。凸状R面45が有するR形状は、上記実施形態における傾斜面43の傾斜角度θが第2側S2に向かうにつれて連続的に減少する形状であるとみなすことができる。例えば、上記実施形態のダイス40の形状では反転加工の後半部分においてワーク部材10が意図せず変形してしまい反転を良好に行うことができない場合に、第1変形例のダイス40の形状が採用され得る。
【0058】
図13及び
図14に示される第2変形例のようにダイス40が構成されてもよい。
図13及び
図14では各部材が模式的に示されている。第2変形例では、ダイス40が、傾斜面43に代えて凹状R面46を有している。凹状R面46は、軸方向と平行な断面において凹状且つ円弧状に形成されている。
図13の例では、凹状R面46は、直径が35mmの円(球)に沿った形状に形成されており、
図14の例では、凹状R面46は、直径が341mmの円(球)に沿った形状に形成されている。第2変形例の反転工程では、凹状R面46がワーク部材10の第2端部10bに接触する。
【0059】
第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材(リング部材20)の品質を確保することができる。また、ダイス40からの力をワーク部材10の第2端部10bに好適に作用させることができる。凹状R面46が有するR形状は、上記実施形態における傾斜面43の傾斜角度θが第2側S2に向かうにつれて連続的に増加する形状であるとみなすことができる。例えば、上記実施形態のダイス40の形状では反転加工の前半部分においてワーク部材10が意図せず変形してしまい反転を良好に行うことができない場合に、第2変形例のダイス40の形状が採用され得る。このように、第2変形例の凹状R面46は、第1変形例の凸状R面45と双対的な関係を有している。
【0060】
図15及び
図16を参照しつつ、第3変形例について説明する。第3変形例のリング部材の製造方法では、反転工程が第1工程及び第2工程をこの順に含んでいる。
図15に示されるように、第1工程では第1パンチ30A及び第1ダイス40Aが用いられる。
図16に示されるように、第2工程では、第1パンチ30A及び第1ダイス40Aとは異なる第2パンチ30B及び第2ダイス40Bが用いられる。
【0061】
図15に示されるように、第1パンチ30Aは、反転工程においてワーク部材10の第1端部10aに接触するR面33を有していない点で実施形態のパンチ30と相違する。第1パンチ30Aのパンチ本体部31は、第2側S2の端面である平坦な接触面35を有し、接触面35においてワーク部材10の第1端部10aに接触する。第2ダイス40Bは、例えば
図3に示されるダイス40と同一の形状を有している。
【0062】
図16に示されるように、第1工程では第1パンチ30Aが第1ダイス40Aに対して径方向の外側に配置されていたのに対し、第2工程では第2パンチ30Bが第2ダイス40Bに対して径方向の内側に配置されている。第2パンチ30Bのパンチ本体部31は、傾斜面36を有している。傾斜面36は、第2側S2に向かうほど中心軸CLに近づくように、軸方向に対して傾斜している。パンチ突出部32は、パンチ本体部31における第1側S1の端部に形成されており、パンチ本体部31から径方向の外側に突出している。パンチ本体部31は、傾斜面36とパンチ突出部32との間に、円筒状の外面37を有している。
【0063】
第2ダイス40Bは、ダイス突出部42を有しておらず、ダイス本体部41のみを有している。ダイス本体部41は、第1側S1の端面である平坦な接触面47を有し、接触面47においてワーク部材10の第1端部10aに接触する。
【0064】
図15に示されるように、第1工程では、第1パンチ30Aと第1ダイス40Aとによってワーク部材10を挟み込み、径方向の外側に向かって立ち上がるように変形させる。第1工程の開始時には、第1パンチ30Aは第1ダイス40Aに対して第1側S1に配置されている(
図15(a))。そして、例えば第1パンチ30Aを軸方向に沿って移動(下降)させて第1ダイス40Aに近づけることにより、ワーク部材10を径方向の外側に向かって立ち上がるように変形させる(
図15(b))。
図15(b)に示されるように、第3変形例では、反転加工の途中で第1パンチ30Aの移動を止める。第1工程では、第1パンチ30Aの接触面35がワーク部材10の第1端部10aに接触し、第1ダイス40Aの傾斜面43がワーク部材10の第2端部10bに接触する。
【0065】
図16に示されるように、続く第2工程では、第2パンチ30Bと第2ダイス40Bとによって第1工程による加工後のワーク部材10を挟み込み、ワーク部材10を径方向の外側に向かって更に立ち上がるように変形させる。第2工程の開始時には、第2パンチ30Bが第2ダイス40Bに対して第1側S1に配置されている(
図16(a))。そして、例えば第2パンチ30Bを軸方向に沿って移動(下降)させて第2ダイス40Bに近づけることにより、ワーク部材10を径方向の外側に向かって立ち上がるように変形させる(
図16(b))。第2工程では、第2パンチ30Bの傾斜面36がワーク部材10の第2端部10b(径方向における一方の端部)に接触し、第2ダイス40Bの接触面47がワーク部材10の第1端部10a(径方向における他方の端部)に接触する。また、第2工程では、ワーク部材10が、直径が増加するように変形させられる。すなわち、第2パンチ30Bの傾斜面36は、第2ダイス40Bとの間でワーク部材10を挟み込んだ際にワーク部材10の直径が増加するように形成されており、第2工程において第2パンチ30Bと第2ダイス40Bとによってワーク部材10を挟み込むと、ワーク部材10に反転加工が施されつつ、ワーク部材10の直径が増加する。
【0066】
第2工程の後に、第2パンチ30Bのパンチ突出部32及び第2ダイス40Bの接触面47がワーク部材10に接触した状態でワーク部材10を変形させる押込工程が実施される(
図16(b))。押込工程では、第2パンチ30Bが更に下降し、パンチ突出部32と接触面47とによってワーク部材10が軸方向に沿って挟み込まれる。このとき、径方向においては、ワーク部材10は、第2パンチ30Bの外面37の外側に配置されている。押込工程は、第2工程とは別の工程であるとみなすこともできるし、第2工程に含まれる工程(第2工程の一部)であるとみなすこともできる。
【0067】
第3変形例によっても、上記実施形態と同様に、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材(リング部材20)の品質を確保することができる。また、反転加工が、第1パンチ30A及び第1ダイス40Aを用いる第1工程と、第2パンチ30B及び第2ダイス40Bを用いる第2工程とを含むため、例えば一対のパンチ30及びダイス40のみによる加工では良好に変形させることが難しい形状のワーク部材10を変形させる場合でも、良好に変形させることが可能となる。また、第2工程においてワーク部材10を直径が増加するように変形させることで、ワーク部材10の直径を調整しつつ、ワーク部材10に反転加工を施すことができる。なお、第3変形例において、第1パンチ30Aは、上記実施形態のパンチ30と同一の形状を有していてもよい。第2パンチ30Bは、パンチ突出部32を有していなくてもよい。
【0068】
図17を参照しつつ、第4変形例について説明する。第4変形例は、以下の点を除いて第3変形例と同様である。第4変形例の第1工程は、第3変形例の第1工程と同様である。第4変形例の第2パンチ30Bは、パンチ突出部32を有しておらず、パンチ本体部31のみを有している。パンチ本体部31は、第2側S2の端面である平坦な接触面38を有し、接触面38においてワーク部材10の第2端部10bに接触する。
【0069】
第2ダイス40Bは、径方向の内側に、軸方向に対して傾斜した傾斜面48を有している。傾斜面48は、第2側S2に向かうほど中心軸CLに近づくように、軸方向に対して傾斜している。ダイス突出部42は、ダイス本体部41から径方向の内側に突出している。ダイス本体部41は、傾斜面48とダイス突出部42との間に、円筒状の内面49を有している。
【0070】
第4変形例の第2工程では、第2パンチ30Bと第2ダイス40Bとによって第1工程による加工後のワーク部材10を挟み込み、ワーク部材10を径方向の外側に向かって更に立ち上がるように変形させる。第2工程の開始時には、第2パンチ30Bが第2ダイス40Bに対して第1側S1に配置されている(
図17(a))。そして、例えば第2パンチ30Bを軸方向に沿って移動(下降)させて第2ダイス40Bに近づけることにより、ワーク部材10を径方向の外側に向かって立ち上がるように変形させる(
図17(b))。第2工程では、第2パンチ30Bの接触面38がワーク部材10の第2端部10b(径方向における一方の端部)に接触し、第2ダイス40Bの傾斜面48がワーク部材10の第1端部10a(径方向における他方の端部)に接触する。また、第2工程では、ワーク部材10が、直径が減少するように変形させられる。すなわち、第2ダイス40Bの傾斜面48は、第2パンチ30Bとの間でワーク部材10を挟み込んだ際にワーク部材10の直径が減少するように形成されており、第2工程において第2パンチ30Bと第2ダイス40Bとによってワーク部材10を挟み込むと、ワーク部材10に反転加工が施されつつ、ワーク部材10の直径が減少する。軸方向に対する傾斜面48の傾斜角度は、ワーク部材10の第1端部10a(外側フランジ部13)が意図せず変形しないように、例えば15度以下に設定され得る。
【0071】
第2工程の後に、第2パンチ30Bの接触面38及び第2ダイス40Bのダイス突出部42がワーク部材10に接触した状態でワーク部材10を変形させる押込工程が実施される(
図17(b))。押込工程では、第2パンチ30Bが更に下降し、接触面38とダイス突出部42とによってワーク部材10が軸方向に沿って挟み込まれる。このとき、径方向においては、ワーク部材10は、第2ダイス40Bの内面49の内側に配置されている。
【0072】
第4変形例によっても、上記実施形態と同様に、不要な変形や曲げの発生を抑制して軸受用リング部材(リング部材20)の品質を確保することができる。また、反転加工が、第1パンチ30A及び第1ダイス40Aを用いる第1工程と、第2パンチ30B及び第2ダイス40Bを用いる第2工程とを含むため、例えば一対のパンチ30及びダイス40のみによる加工では良好に変形させることが難しい形状のワーク部材10を変形させる場合でも、良好に変形させることが可能となる。また、第2工程においてワーク部材10を直径が減少するように変形させることで、ワーク部材10の直径を調整しつつ、ワーク部材10に反転加工を施すことができる。なお、第4変形例において、第2ダイス40Bは、ダイス突出部42を有していなくてもよい。
【0073】
上記実施形態及び変形例では軸受用リング部材として内輪用リング部材を製造する場合を例に挙げて説明したが、上記実施形態及び変形例の軸受用リング部材の製造方法は、軸受用リング部材として外輪用リング部材を製造する場合に適用されてもよい。例えば、
図18に示される例では、リング部材20は、軸受の外輪として用いられ得る外輪用リング部材である。製造されたリング部材20自体が外輪として用いられてもよいし、リング部材20に更なる加工が施されることで外輪が製造されてもよい。この場合、リング部材20の軌道面21aは、径方向の内側を向いた表面である。フランジ部22は、本体部21における軸方向の第2側S2の縁から径方向の内側に延在しており、フランジ部23は、本体部21における第1側S1の縁から径方向の内側に延在している。
【0074】
図18に示される例では、パンチ30は、
図3に示されるパンチ30の形状を径方向に関して反転した形状を有している。すなわち、パンチ本体部31における第2側S2の外縁部には、R面33が形成されている。R面33は、パンチ本体部31における第2側S2の角部が丸められることにより形成された湾曲面であり、軸方向に平行な断面において円弧状に形成されている。パンチ突出部32は、パンチ本体部31から径方向の外側に突出している。パンチ本体部31は、R面33とパンチ突出部32との間に、円筒状の外面39を有している。
【0075】
図18に示される例では、ダイス40は、
図3に示されるダイス40の形状を径方向に関して反転した形状を有している。すなわち、ダイス本体部41は、径方向の内側に、軸方向に対して傾斜した傾斜面43を有している。傾斜面43は、第2側S2に向かうほど中心軸CLに近づくように、軸方向に対して傾斜している。ダイス突出部42は、ダイス本体部41から径方向の内側に突出している。ダイス本体部41は、傾斜面43とダイス突出部42との間に、円筒状の内面51を有している。
【0076】
図18に示されるように、反転工程では、パンチ30とダイス40とによってワーク部材10を挟み込み、径方向の内側に向かって立ち上がるように変形させる。すなわち、おの例の反転工程では、ワーク部材10における反転工程の前にパンチ30の側(第1側S1)を向いた表面11aが反転工程の後に径方向の内側を向くように、ワーク部材10を変形させる。
【0077】
反転工程では、パンチ30のR面33とダイス40の傾斜面43とがワーク部材10に接触する。より具体的には、R面33がワーク部材10の径方向における第2端部10b(一方の端部)に接触し、傾斜面43がワーク部材10の径方向における第1端部10a(他方の端部)に接触する。反転工程では、ワーク部材10の第2端部10bにパンチ30からの力が作用し、且つワーク部材10の第1端部10aにダイス40からの力が作用している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。また、反転工程では、パンチ30と第2端部10bとの間に滑りが発生せず、且つダイス40と第1端部10aとの間に滑りが発生している状態で、パンチ30及びダイス40によってワーク部材10を変形させる。
【0078】
また、この例においても、軸受用リング部材の製造方法は、反転工程の後に、パンチ30のパンチ突出部32及びダイス40のダイス突出部42がワーク部材10に接触した状態でワーク部材10を変形させる押込工程を更に備えている(
図18(b))。押込工程では、パンチ30が更に下降し、パンチ突出部32とダイス突出部42とによってワーク部材10が軸方向に沿って挟み込まれる。このとき、径方向においては、ワーク部材10は、パンチ30の外面39とダイス40の内面51との間に配置されている。
【0079】
以上の工程により、ワーク部材10のワーク本体部11、内側フランジ部12及び外側フランジ部13がそれぞれリング部材20の本体部21、フランジ部22及びフランジ部23となり、リング部材20(外輪用リング部材)が得られる。以上、パンチ30及びダイス40が
図3に示されるパンチ30及びダイス40の形状(実施形態のパンチ30及びダイス40の形状)を径方向に関して反転した形状を有する場合を例に挙げて説明したが、パンチ30及びダイス40は第1変形例~第4変形例のパンチ30及びダイス40の形状を径方向に関して反転した形状を有していてもよい。なお、第3変形例及び第4変形例については、第1工程及び第2工程の各々におけるパンチ30及びダイス40(第1パンチ30A、第1ダイス40A、第2パンチ30B及び第2ダイス40B)の形状を径方向に関して反転した形状とすればよい。
【0080】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。ワーク部材10は、任意の形状であってよく、例えば内側フランジ部12及び外側フランジ部13を有さずにワーク本体部11のみを有していてもよい。上記実施形態及び変形例ではダイス40が傾斜面43、凸状R面45及び凹状R面46のいずれかのみを有していたが、ダイス40は、傾斜面43、凸状R面45及び凹状R面46の2つ以上を有していてもよい。
【0081】
上記実施形態ではパンチ30がダイス40に近づくことによりパンチ30とダイス40とによってワーク部材10が挟み込まれたが、パンチ30とダイス40とが相対的に移動すればよく、例えばパンチ30とダイス40とが互いに近づくように移動することによりワーク部材10が挟み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…ワーク部材、10a…第1端部、10b…第2端部、11…ワーク本体部、11a…表面、12…内側フランジ部、13…外側フランジ部、20…リング部材、30…パンチ、30A…第1パンチ、30B…第2パンチ、32…パンチ突出部、40…ダイス、40A…第1ダイス、40B…第2ダイス、43…傾斜面、45…凸状R面、46…凹状R面、48…傾斜面。