(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093301
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】窒化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20240702BHJP
C01B 21/068 20060101ALI20240702BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20240702BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C01B21/06 N
C01B21/068 D
C01B21/072 B
C01B21/064 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209593
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(57)【要約】
【課題】結晶成長助剤としてのハロゲン化物の少量添加と、断熱により、合成結晶の大型化を可能とした窒化物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の窒化物の製造方法は、燃焼合成法により窒化物を得る製造方法であって、前記窒化物に含まれる元素と、希釈材と、ハロゲン化物を0.1wt%以上2wt%以下含む結晶成長助剤と、を含有する原料を、断熱性坩堝に充填し、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物を合成する、ことを特徴とする。本発明では、前記ハロゲン化物に、NH4Clを含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼合成法により窒化物を得る製造方法であって、
前記窒化物に含まれる元素と、希釈材と、ハロゲン化物を0.1wt%以上2wt%以下含む結晶成長助剤と、を含有する原料を、断熱性坩堝に充填し、
窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物を合成する、
ことを特徴とする窒化物の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化物に、NH4Clを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長助剤として、さらに、金属、或いは、金属酸化物を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物の製造方法。
【請求項4】
前記原料の層厚を、50mm以上300mm以下に調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物の製造方法。
【請求項5】
前記希釈材の希釈率は、前記窒化物が、Si3N4であるとき、3wt%以上10wt%以下であり、前記窒化物が、AlNであるとき、42wt%以上60wt%以下であり、前記窒化物が、BNであるとき、30wt%以上50wt%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼合成法により窒化物を合成する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化に伴い、半導体デバイスの高密度実装化が進んでいる。これに伴い、発熱密度の増加など熱対策が大きな課題となっており、高い熱伝導率を持ったセラミックス基板や放熱材料が求められている。
【0003】
放熱材料に使用されるフィラー粒子として、熱伝導性の高い粒径の大きい大型粒子を添加することで飛躍的に性能を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-215707号公報
【特許文献2】特開2004-352539号公報
【特許文献3】特表2022-541208号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Sakurai, Y. Miyamoto, O. Yamada, Combustion synthesis of fine and high-purity AlN powder and its reaction control, J. Soc. Mater. Sci. Jpn., 54 (2005) 574-579.
【非特許文献2】Hai-Bo Jin, Yun Yang, Yi-Xiang Chen, Zhi-Ming Lin, and Jiang-Tao Liw Mechanochemical-Activation-Assisted Combustion Synthesis of a-Si3N4, J. Am. Ceram. Soc., 89 [3] 1099-1102 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来において、燃焼合成時に生じる熱を利用して、合成体結晶を大型化する技術は確立されていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、結晶成長助剤としてのハロゲン化物の少量添加と、断熱により、合成結晶の大型化を可能とした窒化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における窒化物の製造方法は、燃焼合成法により窒化物を得る製造方法であって、前記窒化物に含まれる元素と、希釈材と、ハロゲン化物を0.1wt%以上2wt%以下含む結晶成長助剤と、を含有する原料を、断熱性坩堝に充填し、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物を合成する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、前記ハロゲン化物に、NH4Clを含むことが好ましい。
本発明では、前記結晶成長助剤として、さらに、金属、或いは、金属酸化物を含むことが好ましい。
本発明では、前記原料の層厚を、50mm以上300mm以下に調整することが好ましい。
【0010】
本発明では、前記希釈材の希釈率は、前記窒化物が、Si3N4であるとき、3wt%以上10wt%以下であり、前記窒化物が、AlNであるとき、42wt%以上60wt%以下であり、前記窒化物が、BNであるとき、30wt%以上50wt%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の窒化物の製造方法によれば、結晶成長を促進でき、合成体結晶を大型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、NH
4Clを添加せずに合成したβ-Si
3N
4合成体のSEM画像である。
【
図2】
図2は、NH
4Clを0.2wt%添加して合成したβ-Si
3N
4合成体のSEM画像である。
【
図3】
図3は、NH
4Clを添加せずに合成したAlN合成体のSEM画像である。
【
図4】
図4は、NH
4Clを0.2wt%添加して合成したAlN合成体のSEM画像である。
【
図5】
図5は、NH
4Clを添加せずに合成したh-BN合成体のSEM画像である。
【
図6】
図6は、NH
4Clを0.3wt%添加して合成したh-BN合成体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方の数値を含む。
【0014】
<従来技術における問題点>
焼結により、粒子の大型化を図ることができ、例えば、100μm程度の大型粒子を得ることもできる。しかしながら、このような大型粒子は、多結晶体で構成されており、粒界が多く存在している。
【0015】
また、通常、焼結助剤を使用しているため、粒界がボトルネックとなり、組成本来の熱伝導性が出せない課題があった。
【0016】
そこで、単結晶あるいは単結晶に近い大結晶粒が求められている。このような大結晶粒にあっては、粒子内部に含む粒界が少なく、粒子本来の熱伝導性を備え、且つ粒子表面が滑らかになる特徴がある。また、熱伝導特性に異方性のあるβ-Si3N4やh-BNは、結晶形状にも方位性があり、圧力や磁場などにより配向させることで、より高い特性を得ることが可能になる。
【0017】
大結晶を合成する方法としては、CVD法が一般的である。しかしながら、例えば、粒径を100μm程度まで結晶成長させるためには、膨大なエネルギーと時間を要するため、量産性に課題があった。
【0018】
また、熱処理温度を、例えば、1700~2000℃程度にして結晶成長をさせる方法もある。しかしながら、この場合、CVDよりも結晶成長速度は遅く、大型の結晶粒を得るには実用性に課題があった。
【0019】
<特許文献および非特許文献に挙げられた製造方法の問題点>
特許文献1には、大粒径の窒化アルミニウム粉末およびその製造方法に関する発明が開示されている。特許文献1では、アルミニム粉末と窒化アルミニウム粉末をペレット化させ、外部加熱により合成させ、大粒径のAlN粉末を得る方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載された製造方法では、実施例や比較例を参照すると、1000℃の外部加熱を必要とし、且つ得られる結晶粒も、最大で20μm程度であり、合成結晶体を大型化するには至っていない。
【0020】
特許文献2には、棒状窒化ケイ素フィラーの製造方法に関する発明が開示されている。特許文献2では、窒化ケイ素粉末を、フラックス中で熱処理した後、アルカリ溶液処理と酸溶液処理を繰り返し行うことによりフラックス成分を溶解し、棒状窒化ケイ素フィラーを単離するが、これら工程が複雑であり、コスト高となる課題があった。
【0021】
特許文献3には、金属還元による窒化ケイ素粉末の製造方法に関する発明が開示されている。特許文献3の実施例1には、結晶長さが1~20μmの柱状β窒化ケイ素の合成方法が示されており、合成結晶体を大型化するには至っていない。
【0022】
特許文献3では、添加剤としてNH4Clを用いている。しかしながら、特許文献3の使用目的は、合成体の結晶性を下げて高α率化させ、微細化することにあると考えられ、本実施形態の使用目的とは逆行する。
【0023】
また、非特許文献1、2では、燃焼合成の添加剤にNH4Cl等のハロゲン化物を使用しているが、燃焼温度の抑制により結晶性を抑え、微細な結晶粒を得る方法が提案されている。
【0024】
<本実施の形態における窒化物の製造方法の概要>
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、燃焼合成法により窒化物を得る製造方法であって、ハロゲン化物の少量添加と、断熱により、合成結晶を大型化できることを見出した。
【0025】
すなわち、本実施の形態における窒化物の製造方法は、窒化物に含まれる元素と、希釈材と、ハロゲン化物を0.1wt%以上2wt%以下含む結晶成長助剤と、を含有する原料を、断熱性坩堝に充填し、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物を合成することに特徴がある。
【0026】
ハロゲン化物を添加したことでの結晶成長のメカニズムとしては、ハロゲンガスの燃焼の妨害と結晶を昇華させる効果が起因していると考えられる。また、ハロゲン化物として、NH4F、NH4Cl、NH4Br等を用いた場合、NH3ガスも窒化を促進する働きがあり、低希釈率でも断熱状態であれば、正常に窒化され、未反応が抑えられると考えられる。
【0027】
ハロゲンガスにより、燃焼合成体内部の温度は不均一となり、高温部では昇華が促進されてα相ができにくくなり、低温部では、その昇華ガスによる結晶成長が起こると考えられる。ここで、急激に結晶成長する温度と結晶が昇華する温度は、ほぼ同じ温度域であるため、温度が均一である外部加熱では、急激な結晶成長を行うことができない。すなわち、温度が高すぎると一斉に昇華するため、低い温度で、ゆっくり結晶成長させることになる。ハロゲン化物を添加しなかった場合は、昇華が少ないため、結晶成長の原料となる昇華ガスの発生が少なく結晶成長は小さくなる。また、ハロゲン化物を添加しすぎると、温度が低下し、結晶が逆に小さくなってしまう。さらに、断熱を行わなかった場合も、結晶成長の時間が少ないため、大結晶化の領域はごく一部になる。
【0028】
これに対して本実施形態では、断熱と燃焼温度を高めることにより、結晶成長する時間が長くなり、結晶を大型化させることができる。このように本実施の形態では、昇華を促すとともに、結晶成長させることができる。
【0029】
ハロゲンガスが得られる化合物としては、例えば、NH4F、NH4Cl、NH4Br等があり、限定するものではないが、分解後の毒性が最も低いNH4Clを用いることが好ましい。
【0030】
<本実施の形態の窒化物の製造方法における具体的構成>
(1) 本実施の形態では、結晶成長助剤としてのハロゲン化物を、0.1wt%(質量%)以上2wt%以下含むことが好ましい。これにより、α相の析出を抑え、結晶成長を促し、結晶粒の大型化を促進できる。なお、100wt%は、原料に含まれる成分を全て足した量である。
【0031】
本実施の形態の製造方法により得られる合成体は、多数の結晶粒の集合体である。これら結晶粒のうち最も大きい結晶粒の長辺(長さの一番長い部分)は、約10μm以上、好ましくは約50μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは100μm以上得ることができる。特に、Si3N4やAlNの場合は、50μm以上、好ましくは100μm以上の結晶粒の長辺(長さ)を得ることができ、BNの場合は、約10μm以上の結晶粒の長辺(長さ)を得ることができる。
【0032】
また、本実施の形態では、ハロゲン化物の添加量を、0.1wt%以上1.0wt%以下とすることがより好ましく、0.2wt%以上0.7wt%以下とすることがさらに好ましく、0.2wt%以上0.5wt%以下とすることが最も好ましい。
【0033】
また、本実施形態では、大結晶化範囲を、約30%以上得ることができ、好ましくは、50%以上得ることができる。ここで、「大結晶化範囲」とは、約80μm以上の粒径を有する粒子は光を当てると反射するため、合成体の一定の面積に対して、光を当て、反射して光った領域を割り出し、その比率を求めたものである。
【0034】
ハロゲン化物としては、ハロゲンのうち、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を有することが好ましく、例えば、NH4F、NH4Cl、CaCl2、NH4Br等を例示できる。このうち、NH4Clを選択することが好ましい。
上記のように、本実施の形態では、ハロゲン化物を少量添加することに特徴がある。
【0035】
なお、本実施の形態では、結晶成長助剤としてハロゲン化物以外の助剤を含めることができる。例えば、金属、或いは、金属酸化物を選択できる。金属としては、Niを選択できる。また、金属酸化物としては、Y2O3、La2O3、MgO、GaO、CaO、Fe2O3、Yb2O3を選択できる。そのほか、Cを選択することもできる。
【0036】
(2) 窒化物に含まれる元素と、希釈材と、結晶成長助剤とを含有する原料を、断熱性坩堝に充填する。限定されるものではないが、坩堝に、例えば、熱伝導率が、0.2W/m・K以下の耐熱性のある断熱材を使用する。使用する断熱材は、坩堝に充填する原料(合成材料)により決定できる。断熱材には、カーボン、アルミナファイバー、ジルコニア等を用いることができる。例えば、窒化ケイ素を合成する場合、アルミナファイバーを使用すると、AlとOとが固溶し、熱伝導率が低下するため、有効な断熱効果を期待できないので、断熱材にはカーボンを使用することが好ましい。
【0037】
以上の(1)(2)により、結晶成長する時間を長くでき、α相の析出を抑制でき、結晶を大型化させることができる。
本実施の形態では、上記(1)(2)に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
【0038】
(3) 原料の層厚を、50mm以上300mm以下に調整する。なお「層厚」は、複数点における層厚を測定し、平均化して求めることができる。本実施の形態では、原料の層厚を厚くすることで、原料内部に熱を籠らせることができ、燃焼時の合成体内部の温度を高くできる。ただし、層厚を厚くしすぎると、自重で粉末同士が密に詰まってしまい、燃焼不良が発生する。本実施の形態では、層厚を、100mm以上200mm以下とすることが好ましい。
【0039】
(4) 敷粉の厚みは、10mm以上40mm以下であることが好ましく、20mm以上30mm以下とすることがより好ましい。本実施の形態では、燃焼合成により原料内部の到達温度が高く、これにより断熱材が蒸発することで、原料が反応することを抑制すべく、敷粉の厚みを上記範囲に調整する。敷粉を用いることで、断熱作用をより効果的に上げることができる。
【0040】
敷粉は、例えば、坩堝の側面、及び底面に敷き詰める。また敷粉を原料の上面に敷いてもよい。敷粉の材質を限定するものではないが、例えば、無機物を用いる。無機物の中でも窒化物、酸化物、或いは炭化物であることが好ましい。例えば、窒化物としては、Si3N4粉、AlN粉、及びBN粉等を用いることができる。また、酸化物には、Al2O3粉を用いることができる。また、炭化物には、SiCを用いることができる。
【0041】
(5) 希釈材の希釈率は、窒化物が、Si3N4であるとき、3wt%以上10wt%以下であることが好ましく、4wt%以上8wt%以下であることがより好ましく、4wt%以上6wt%以下であることがさらに好ましい。また、窒化物が、AlNであるとき、42wt%以上60wt%以下であることが好ましい。また、窒化物が、BNであるとき、30wt%以上50wt%以下であることが好ましい。このように、発熱量が多いAlNやBNは、Si3N4に比べて希釈率を高くすることで、未反応Al及びBを少なくでき、結晶粒の大型化を促進できる。
【0042】
希釈材がSi3N4であるとき、Si3N4紛の粒子径は、0.1~1μm程度であることが好ましく、0.4~0.8μm程度であることがより好ましい。ここで「粒子径」は、例えば、レーザ回折粒度分布測定装置(HORIBA製LA-950)にて測定することができ「平均粒子径D50」を指す。「D50」とは、累積個数が、全粒子数の50%となる粒径である。なお、粒子径は、メーカーカタログ値であってよい。
【0043】
また、Si3N4紛に含まれる酸素不純物は、粉末中、1wt%以下であることが好ましい。これにより、燃焼温度の低下を抑制できる。なお、Si3N4紛は、α-Si3N4、β-Si3N4のどちらであってもよい。
【0044】
希釈材が、AlNであるとき、細粒子と粗粒子とを混ぜた混合紛を用いることが好ましい。限定されるものではないが、細粒子の粒子径は、8μm以下であり、粗粒子の粒子径は、100~150μmであることが好ましい。また、細粒子群と粗粒子群と約1:1として混ぜた混合物とすることが好ましい。よって粒度分布は、広い分布で、二山を示す。
【0045】
希釈材が、BNであるとき、BN紛の粒子径は、1~20μm程度であることが好ましく、5~10μm程度であることがより好ましい。「粒子径」の定義は、上記Si3N4紛の粒子径と同様である。
【0046】
(6) 原料粒子径は、小さい方が、燃焼温度は上がる傾向にある。一方、原料粒子径が小さすぎると、酸素不純物が増え、燃焼温度の低下や、合成体内の酸素不純物量が増えて性能が低下しやすくなるため、ある程度の大きさを保つことが好ましい。
【0047】
窒化物が、Si3N4であるとき、原料に含まれるSiの粒子径は、3~20μm程度であることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。なお、ここでの粒子径は、混合粉砕前の大きさである。各原料成分を混合して粉砕混合した後のSiの粒子径は、1~5μm程度であり、2~3μm程度であることがより好ましい。
【0048】
窒化物が、AlNであるとき、原料に含まれるAlの粒子径は、5~25μm程度であることが好ましく、6~20μm程度であることがより好ましい。範囲内の下限値付近の粒子径で調整すると、大きな結晶を得られるが、酸素不純物が増える問題が生じるため、Alの粒子径は、10~15μm程度とすることがさらに好ましい。なお、AlNの合成では、原料成分の混合後に粉砕は行わない。
【0049】
窒化物が、BNであるとき、原料に含まれるBの粒子径は、5μm以下であることが好ましい。また、各原料成分を混合して粉砕混合した後のBの粒子径は、1~2μm程度であることがより好ましい。
【0050】
(7) 窒素ガス圧は、高いほど燃焼温度は上がり、結晶は大型化する傾向にある。一方、高圧に対応可能な合成装置では、堅牢化し、処理容積(反応容積)が縮小化することで、生産性は低下する。このため、窒素ガス圧は、0.5MPa~3MPa程度であることが好ましく、0.8MPa~3MPa程度であることがより好ましく、0.95MPa~2.5MPa程度であることがさらに好ましい。
【0051】
<本実施の形態の製造方法により製造された窒化物>
本実施の形態の製造方法により製造された窒化物は、形状を限定するものではないが、柱状晶、略多面体(平坦な面が複数存在する)、鱗片形状等を例示できる。本実施の形態では、多数の結晶粒が凝集した合成体を製造でき、合成体を解砕し、分級して結晶粒子を得ることができる。
【0052】
本実施の形態では、この結晶粒子の粒子径を大きくでき、約50μm以上の長辺を有する粒子を得ることができる。「長辺」とは、粒子の中で一番長い部分を指す。「長辺」を「長さ」「高さ」と言い換えることもできる。あるいは、粒子を中心付近にて切断したときに、切断面に現れる最も長さの長い部分を「長辺」として定義できる。
【0053】
本実施の形態では、例えば、SEMで観察したときに、合成体の表面に現れる、粒子径を計測可能な粒子のうち、最も大きい粒子径を有する粒子を選択し、その粒子径を測定したときの長辺の長さが、50μm以上であり、好ましくは60μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。
【0054】
本実施の形態にて、燃焼合成により生成された窒化物は、例えば、AlN、Si3N4、BN等であるが、これらに限定されるものでなく、周期表で似た特性を示す13族のGaN、InN、14族のGe3N4等にも適用できる。
【実施例0055】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
<実験1:結晶成長助剤の種類の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Si(窒化物中の元素):純度4N、粒子径6μm
α-Si3N4(希釈材):純度2N、粒子径1μm、希釈率10wt%
結晶成長助剤:表1に示す。各結晶成長助剤を0.2wt%を添加した。
【0057】
[合成方法]
上記の各原料成分を、ウレタンポット及びφ10の窒化ケイ素ボールを有する振動ボールミルにて、Siの平均粒子径D50が、3μm以下となるまで、粉砕し、混合を行った。なお、D50は、2~3μm範囲であることが好ましい。これにより、表面に形成される酸化膜の影響を低減でき、燃焼温度の低下を抑制できる。
【0058】
次に、混合粉末300gを、カーボンフェルトからなる断熱性の円筒型坩堝(内壁のφ70mm×高さ170mm)に充填した。このときの原料の層厚は、150mmであった。
【0059】
また原料の外周を、厚み5mm程度の窒化ケイ素粉末(希釈材と同じ原料)の敷粉にて覆った。これにより、断熱を確保でき、カーボンフェルトと反応するのを抑制した。
【0060】
その後、原料上面に、アルミ粉末5gを着火剤として乗せ、電極につなげたカーボンフォイルを、着火剤に接触させた。更に、原料上面に、カーボンフェルトからなる断熱材で蓋をした。
【0061】
続いて、坩堝内部を、50Paまで真空引きした後、窒素ガスを導入し、ガス圧を、0.95MPaまで昇圧させた。その際の昇圧速度を、30KPa/min以下とした。
【0062】
昇圧完了後、5秒間、カーボンフォイルに通電し、燃焼合成を開始した。燃焼合成終了後、坩堝から合成体(β-Si3N4)を取り出し、敷粉を除去した。これにより、約φ60mm×150mmの円筒形の合成体を得た。
【0063】
[実験方法]
続いて、実験方法について説明する。この実験では、表1に示す各結晶成長助剤を0.2wt%添加した。結晶成長助剤には、Y2O3(D50=1μm)、La2O3(D50=1μm)、MgO(D50=1μm)、GaO(D50=1μm)、CaO(D50=3μm)、Fe2O3(D50=1μm)、Yb2O3(D50=1μm)、C(D50=5μm)、Ni(D50=2μm)、BN(D50=1μm)、CaCl2(粒状粉)、NH4Cl(粒状粉)を用いた。
【0064】
[評価方法]
次に、評価方法について説明する。合成体(β-Si3N4)の水平方向に対し中心付近で、且つ着火点とは逆側の合成体の底面から高さ30mmの位置でサンプリングを行った。
【0065】
SEM(Phenom ProX、PhenomWorld社製)にて観察を行い、SEM画像内で計測できる最も大きい柱状晶の長辺(長さ)と短辺(幅)を測定した。
XRD(Mini Flex600-C、Rigaku社製)にて未反応Si量を、定量した。
【0066】
【0067】
表1に示すように、結晶成長助剤としてNH4Clを用いると、大粒径にできる効果が一番を大きいことがわかった。また、未反応Siも検出されなかった。
【0068】
図1は、NH
4Clを添加せずに合成したβ-Si
3N
4合成体のSEM画像である。
図2は、NH
4Clを0.2wt%添加して合成したβ-Si
3N
4合成体のSEM画像である。
【0069】
図1に示すβ-Si
3N
4合成体と
図2に示すβ-Si
3N
4合成体とを対比すると、明らかに、NH
4Clを添加して合成した
図2のほうが、結晶粒を大きくできることがわかった。
【0070】
表1に示すように、NH4Cl以外のハロゲン化物である、CaCl2も大粒径にできる効果が見られた。ただしNH4Clに比べて、未反応Siが検出された。金属酸化物についても多少の効果は見られるが、未反応Siが検出された。Niも大粒径の効果が多少見られ、未反応Siも検出されなかった。
【0071】
この実験結果から、結晶成長助剤としてNH4Clを用いることとした。また、CaCl2などNH4Cl以外のハロゲン化物、金属酸化物、Ni、及びCのうち少なくとも1種を、NH4Clとともに添加してもよいこととした。特に、NH4ClとNiの複合材の使用が好ましい。
【0072】
<実験2:β-Si3N4合成時におけるNH4Clの添加量の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Si(窒化物中の元素):純度4N、粒子径6μm
α-Si3N4(希釈材):純度2N、粒子径1μm、希釈率5wt%
NH4Cl(結晶成長助剤)
[合成方法]は、実験1と同じとし、β-Si3N4を合成した。
【0073】
[実験方法]
表2に示すように、NH4Clの添加量を、0wt%~1.0wt%の範囲で、0.1wt%刻みで増やして実験を行った。
【0074】
[評価方法]
合成体(β-Si3N4)の水平方向に対し中心付近で、且つ着火点とは逆側の合成体の底面から高さ30mmの位置でサンプリングを行った。
また、合成体(β-Si3N4)の長辺(長さ)と短辺(幅)の測定や、未反応Siの定量は、実験1での評価方法と同じとした。
【0075】
また、SEM画像から目視にて大結晶化範囲を計測し、合成体断面積に対しての比率を算出した。すなわち、粒径が約80μm以上である粒子は光が当たると反射し光るため、目視で確認できる。そして、所定面積内にて反射で光った領域の面積の100分率を求めた。
α相の定量は、XRD(Mini Flex600-C、Rigaku社製)を用いて行った。
そして、α相のピーク強度比を、以下の式(1)で算出した。
【0076】
【0077】
【0078】
表2の実験結果に基づいて、NH4Clの添加量を、0.1wt%以上2.0wt%以下に設定した。NH4Clの添加量の上限値を2.0wt%としたのは、NH4Clの添加量が1.0wt%を超えても比較的、大粒径を保つことができ、2.0wt%程度まで大きくしても、50μm以上(長辺)の粒径を保ち得ると予測できるためである。
【0079】
また、表2の実験結果から、NH4Clの添加量は、0.1wt%以上1.0wt%以下であることが好ましいとした。この範囲内で調整することで、α相の増大を抑制し、粒径の大型化を図ることができる。NH4Clの添加量が0.8wt%以上になると、結晶の粗大化効果が弱まり結晶が小さくなり始めるが、大結晶範囲は広いまま維持できることがわかった。
【0080】
表2の実験結果から、NH4Clの添加量は、0.1wt%以上0.7wt%以下であることがより好ましく、0.2wt%以上0.5wt%以下であることがさらに好ましいとわかった。NH4Clの添加量を0.2wt%以上0.5wt%以下とすることで、未反応Si及びα相を抑制でき、効果的に大結晶化を図ることが可能になる。
【0081】
上記の実験では、ハロゲン化物として代表的に、NH4Clを用いたが、他のハロゲン化物(NH4F、NH4Br等)であっても同様の効果を期待できると推測できる。
【0082】
<実験3:β-Si3N4合成時の希釈率の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Si(窒化物中の元素):純度4N、粒子径6μm
NH4Cl(結晶成長助剤):添加量0.2wt%
α-Si3N4(希釈材):純度2N、粒子径1μm
[合成方法]は、実験1と同じとし、β-Si3N4を合成した。
【0083】
[実験方法]
表3に示すように、希釈材の希釈率を、3wt%~11wt%の範囲で、1wt%刻みで増やして実験を行った。
[評価方法]は実験2と同じとした。
【0084】
【0085】
この実験結果により、α-Si3N4(希釈材)の希釈率は、3wt%以上10wt%以下であることが好ましいとわかった。これにより、未反応Siの発生を抑え、大結晶粒化を図ることができる。希釈率が3wt%を下回ると、燃焼不良により、温度が低下し結晶成長が悪く、大結晶化を効果的に促進できないと考えられる。表3から、希釈率は、4wt%以上8wt%以下であることがより好ましく、4wt%以上6wt%以下であることがさらに好ましいことがわかった。
【0086】
<実験4:AlN合成時の希釈率の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Al(窒化物中の元素):純度2N、粒子径15μm
NH4Cl(結晶成長助剤):添加量0.2wt%
AlN(希釈材):粒子径8μm
[合成方法]
上記の各原料成分を、ウレタンポット及びφ10のアルミナボールを有する転動ボールミルにて混合を行った(ただし、粉砕はしない)。
【0087】
次に、混合粉末500gを、カーボンフェルトからなる断熱性の円筒型坩堝(内壁のφ70mm×高さ170mm)に充填した。このときの原料の層厚は150mmであった。
【0088】
また原料の外周を、厚み5mm程度のAlN粉末(希釈材と同じ原料)の敷粉にて覆った。これにより、断熱を確保でき、カーボンフェルトと反応するのを抑制した。
【0089】
その後、原料上面に、アルミ粉末5gを着火剤として乗せ、電極につなげたカーボンフォイルを、着火剤に接触させた。更に、原料上面に、カーボンフェルトからなる断熱材で蓋をした。
【0090】
続いて、坩堝内部を、50Paまで真空引きした後、窒素ガスを導入し、ガス圧を、0.95MPaまで昇圧させた。その際の昇圧速度を、30KPa/min以下とした。
【0091】
昇圧完了後、5秒間、カーボンフォイルに通電し、燃焼合成を開始した。燃焼合成終了後、坩堝から合成体(AlN)を取り出し、敷粉を除去した。これにより、約φ60mm×150mmの円筒形の合成体を得た。
【0092】
[実験方法]
表4に示すように、希釈材の希釈率を、40wt%~60wt%の範囲で、2wt%刻みで増やして実験を行った。
[評価方法]は実験2と同じとした。なお、AlNの結晶は等軸成長であり、柱状晶ではない。
【0093】
【0094】
表4の実験結果から、AlNの希釈率は、42~60wt%が好ましいとわかった。これにより、未反応Alの発生を抑制でき、結晶粒の大型化を図ることが可能になる。また、AlNの希釈率は、48~56wt%であることがより好ましいとわかった。
【0095】
AlNと同様に発熱量が多いBNの場合も、AlNと同様に希釈率を高くする必要があり、BNの場合は、30wt%以上50wt%以下を好ましい範囲とした。
【0096】
<実験5:N2雰囲気圧力の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Si(窒化物中の元素):純度4N、粒子径6μm
α-Si3N4(希釈材):純度2N、粒子径1μm、希釈率5wt%
NH4Cl(結晶成長助剤):0.4wt%
Ni(結晶成長助剤):0.04wt%
[合成方法]は実験1と同じとし、β-Si3N4を合成した。
【0097】
[実験方法]
燃焼合成時の窒素圧力を、0.5MPa、1MPa、5MPa、10MPaに変化させ、実験を行った。
[評価方法]は実験1と同じとした。
【0098】
【0099】
表5に示す通り、燃焼合成時の窒素ガス圧は高い方が、大きな柱状結晶が得られることがわかった。
【0100】
その一方で、窒素ガス圧が高くなりすぎると、合成装置の堅牢化に伴い、処理容積(反応容積)が縮小化するため、量産性を考慮すると、窒素ガス圧は、0.95~5MPaの範囲が好ましいと設定した。
【0101】
<実験6:AlN合成への応用実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Al(窒化物中の金属元素):純度2N、粒子径15μm
AlN(希釈材):粒子径40μm、希釈率53wt%
NH4Cl(結晶成長助剤)
[合成方法]は実験4と同じとし、AlNを合成した。
【0102】
[実験方法]
NH4Clの添加量を、0~1.0wt%の範囲で、0.1wt%ずつ上昇させて、実験を行った。
[評価方法]は実験2と同じとした。なお、AlNの結晶は等軸成長であり、柱状晶ではない。
【0103】
【0104】
表6の実験結果に基づいて、NH4Clの添加量を、0.1wt%以上2.0wt%以下に設定した。NH4Clの添加量の上限値を2.0wt%としたのは、NH4Clの添加量が1.0wt%を超えても比較的、大粒径を保つことができ、2.0wt%程度まで大きくしても、50μm以上(長辺)の粒径を保ち得ると予測できるためである。
【0105】
また、表6の実験結果から、NH4Clの添加量は、0.1wt%以上1.0wt%以下であることが好ましいとした。この範囲内で調整することで、未反応Alの発生を抑制し、粒径の大型化を図ることができる。
【0106】
表6の実験結果から、NH4Clの添加量は、0.1wt%以上0.7wt%以下であることがより好ましく、0.2wt%以上0.5wt%以下であることがさらに好ましいとわかった。NH4Clの添加量を0.2wt%以上0.5wt%以下とすることで、未反応Alを抑制でき、効果的に大結晶化を図ることが可能になる。
【0107】
上記の実験では、ハロゲン化物として代表的に、NH4Clを用いたが、他のハロゲン化物(NH4F、NH4Br等)であっても同様の効果を期待できると推測できる。
【0108】
図3は、NH
4Clを添加せずに合成したAlN合成体のSEM画像である。
図4は、NH
4Clを0.2wt%添加して合成したAlN合成体のSEM画像である。
【0109】
図3に示すAlN合成体と
図4に示すAlN合成体とを対比すると、明らかに、NH
4Clを添加して合成した
図4のほうが、結晶粒を大きくできることがわかった。
また、
図4に示すように、AlN結晶は、複数の平面を備えた略多面体形状になることがわかった。
【0110】
<実験7:BN合成への応用実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
B(窒化物中の元素):純度2N、粒子径1μm
h-BN(希釈材):粒子径5μm、希釈率40wt%
NH4Cl(結晶成長助剤)
[合成方法]は実験4と同じとし、BNを合成した。
【0111】
[実験方法]
NH4Clの添加量を、0wt%(添加せず)、あるいは、0.3wt%添加し、実験を行った。
[評価方法]は実験1と同じとした。なお、未反応Bを測定した。また、BNの結晶は鱗片状であり、長辺のみ測定した。
【0112】
【0113】
図5は、NH
4Clを添加せずに合成したh-BN合成体のSEM画像である。
図6は、NH
4Clを0.3wt%添加して合成したh-BN合成体のSEM画像である。
BN合成体においても、AlN合成体と同様に、NH
4Clによる結晶の大型化が確認された。また、
図6より、鱗片状ではない結晶の大型化も確認された。