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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093327
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240702BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240702BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240702BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209632
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】位田 祐基
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紗希
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA65
3D232DA82
3D232DA90
3D232DC08
3D232DD01
3D232DD02
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB16
3D333CB29
3D333CB46
3D333CC06
3D333CC15
3D333CC18
3D333CC28
3D333CC38
3D333CC39
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD09
3D333CE16
3D333CE20
(57)【要約】
【課題】不安定な状況で反力モータのトルクに所定成分を付与することに起因してステアリングホイールが振動することを抑制できるようにした操舵制御装置を提供する。
【解決手段】PU52は、転舵モータ42の電流から転舵輪34に加わる路面反力成分を抽出する。PU52は、抽出した路面反力成分を反力モータ22のトルクに重畳する。PU52は、操舵トルクThが過度に大きい場合、路面反力成分を反力モータ22のトルクに重畳することを制限する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が遮断された状態において、反力指令変数算出処理、反力制御処理、所定成分反映処理、および制限処理を実行するように構成され、
前記反力指令変数算出処理は、反力指令変数の値を算出する処理であり、
前記反力指令変数は、反力変数の指令値であり、
前記反力変数は、反力モータのトルクを示す変数であり、
前記反力モータは、前記ステアリングホイールに運転者の操作に抗する反力を付与するためのモータであり、
前記反力制御処理は、前記反力指令変数の値に応じて前記反力モータのトルクを操作することによって、前記ステアリングホイールに付与される反力を制御する処理であり、
前記所定成分反映処理は、前記転舵輪に付与される周波数信号のうちの所定成分を前記反力指令変数の値に反映させる処理であり、
前記制限処理は、前記ステアリングホイールを含む操舵系が不安定な状況において、前記反力指令変数の値への前記所定成分の寄与する度合いを小さい側に制限する処理である操舵制御装置。
【請求項2】
前記制限処理は、操舵トルクの検出値が所定以上の場合に前記不安定な状況とする処理を含み、
前記操舵トルクは、運転者によって前記ステアリングホイールに入力されるトルクである請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記制限処理は、前記操舵トルクの検出値の大きさに応じて前記寄与する度合いを変更する処理であって且つ、前記検出値の大きさが大きい場合の前記寄与する度合いを前記検出値の大きさが小さい場合の前記寄与する度合い以下とする処理である請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記反力指令変数算出処理は、アシストトルク算出処理を含み、
前記アシストトルク算出処理は、前記操舵トルクの検出値を入力としてアシストトルクを算出する処理であり、
前記反力指令変数の値は、前記アシストトルクに応じて算出される値であり、
前記アシストトルクの大きさは、前記検出値の大きさと正の相関を有するものであり、
前記制限処理は、前記アシストトルクの大きさが所定値以上である場合に、前記検出値の大きさが所定以上であるとして、前記不安定な状況とする処理を含む請求項3記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記反力指令変数算出処理は、アシストトルク算出処理、およびシステム安定化処理を含み、
前記アシストトルク算出処理は、操舵トルクの検出値を入力としてアシストトルクを算出する処理であり、
前記操舵トルクは、運転者によって前記ステアリングホイールに入力されるトルクであり、
前記システム安定化処理は、前記操舵トルクの検出値の時間微分値を入力として前記アシストトルクを補正する処理であり、
前記反力指令変数の値は、前記補正された前記アシストトルクに応じて算出される値であり、
前記制限処理は、前記システム安定化処理による前記アシストトルクの補正量の大きさが所定以上の場合に、前記不安定な状況とする処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記制限処理は、前記アシストトルクの補正量の大きさに応じて前記寄与する度合いを変更する処理であって且つ、前記アシストトルクの補正量の大きさが大きい場合の前記寄与する度合いを前記アシストトルクの補正量の大きさが小さい場合の前記寄与する度合い以下とする処理である請求項5記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、ステアリングホイールと転舵輪との動力の伝達が遮断された、いわゆる、ステアバイワイヤシステム(以下、SBW)が記載されている。SBWは、転舵輪が路面から受ける力である、路面反力がステアリングホイールに伝わらない。そのため、運転者は、路面反力に対する適度な操舵感を得ることが難しい。
【0003】
そこで同文献記載の制御装置は、転舵輪を転舵させるモータの電流の所定周波数成分に応じて、ステアリングホイールに加える反力を設定している。同モータに流れる電流は、路面反力を反映したものである。したがって、上記制御装置によれば、ステアリングホイールに路面反力を伝えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-142704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、SBWを含むシステムが不安定な状況において、上記のように所定周波数成分に応じてステアリングホイールに加える反力を設定する場合、適切な制御ができなくなるおそれがある。そして適切な制御ができない場合、ステアリングホイールが、上記路面反力の影響以上に振動するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が遮断された状態において、反力指令変数算出処理、反力制御処理、所定成分反映処理、および制限処理を実行するように構成され、前記反力指令変数算出処理は、反力指令変数の値を算出する処理であり、前記反力指令変数は、反力変数の指令値であり、前記反力変数は、反力モータのトルクを示す変数であり、前記反力モータは、前記ステアリングホイールに運転者の操作に抗する反力を付与するためのモータであり、前記反力制御処理は、前記反力指令変数の値に応じて前記反力モータのトルクを操作することによって、前記ステアリングホイールに付与される反力を制御する処理であり、前記所定成分反映処理は、前記転舵輪に付与される周波数信号のうちの所定成分を前記反力指令変数の値に反映させる処理であり、前記制限処理は、前記ステアリングホイールを含む操舵系が不安定な状況において、前記反力指令変数の値への前記所定成分の寄与する度合いを小さい側に制限する処理である操舵制御装置である。
【0007】
上記構成では、ステアリングホイールを含む操舵系が不安定な状況において、反力指令変数の値への所定成分の寄与する度合いを小さい側に制限する。これにより、不安定な状況で反力モータのトルクに所定成分を付与することに起因してステアリングホイールが振動することを抑制できる。
【0008】
2.前記制限処理は、操舵トルクの検出値が所定以上の場合に前記不安定な状況とする処理を含み、前記操舵トルクは、運転者によって前記ステアリングホイールに入力されるトルクである上記1記載の操舵制御装置である。
【0009】
操舵トルクの検出値の大きさが過度に大きい場合、操舵トルクを検出するセンサが精度良く操舵トルクを検出可能な最大値を超えるなどの理由から、操舵トルクの検出値を入力として適切な制御を行うことができなくなる。すなわち、操舵トルクの検出値の大きさが過度に大きい場合、システムが不安定な状況となる。そこで上記構成では、操舵トルクの検出値が所定以上の場合に不安定な状況とする。
【0010】
3.前記制限処理は、前記操舵トルクの検出値の大きさに応じて前記寄与する度合いを変更する処理であって且つ、前記検出値の大きさが大きい場合の前記寄与する度合いを前記検出値の大きさが小さい場合の前記寄与する度合い以下とする処理である上記2記載の操舵制御装置である。
【0011】
操舵トルクの検出値が過度に大きい場合、操舵トルクの検出値の大きさが大きいほど、システムがより不安定となりやすい。そこで上記構成では、検出値の大きさが大きい場合の寄与する度合いを検出値の大きさが小さい場合の寄与する度合い以下とする条件の下、検出値の大きさに応じて寄与する度合いを変更する。これにより、システムの不安定度合いに応じて反力指令変数の値への所定成分の寄与する度合いを適切に制限できる。
【0012】
4.前記反力指令変数算出処理は、アシストトルク算出処理を含み、前記アシストトルク算出処理は、前記操舵トルクの検出値を入力としてアシストトルクを算出する処理であり、前記反力指令変数の値は、前記アシストトルクに応じて算出される値であり、前記アシストトルクの大きさは、前記検出値の大きさと正の相関を有するものであり、前記制限処理は、前記アシストトルクの大きさが所定値以上である場合に、前記検出値の大きさが所定以上であるとして、前記不安定な状況とする処理を含む上記3記載の操舵制御装置である。
【0013】
上記アシストトルクの大きさは、操舵トルクの検出値の大きさと正の相関を有する。そのため、アシストトルクの大きさによって操舵トルクの検出値の大きさを把握できる。
5.前記反力指令変数算出処理は、アシストトルク算出処理、およびシステム安定化処理を含み、前記アシストトルク算出処理は、操舵トルクの検出値を入力としてアシストトルクを算出する処理であり、前記操舵トルクは、運転者によって前記ステアリングホイールに入力されるトルクであり、前記システム安定化処理は、前記操舵トルクの検出値の時間微分値を入力として前記アシストトルクを補正する処理であり、前記反力指令変数の値は、前記補正された前記アシストトルクに応じて算出される値であり、前記制限処理は、前記システム安定化処理による前記アシストトルクの補正量の大きさが所定以上の場合に、前記不安定な状況とする処理を含む上記1~4のいずれか1つに記載の操舵制御装置である。
【0014】
上記補正量の大きさが過度に大きい場合、システムが不安定化しやすい。そこで、上記構成では、補正量の大きさが所定以上の場合に不安定な状況とする。
6.前記制限処理は、前記アシストトルクの補正量の大きさに応じて前記寄与する度合いを変更する処理であって且つ、前記アシストトルクの補正量の大きさが大きい場合の前記寄与する度合いを前記アシストトルクの補正量の大きさが小さい場合の前記寄与する度合い以下とする処理である上記5記載の操舵制御装置である。
【0015】
補正量の大きさが過度に大きい場合、補正量の大きさがより大きいほど、システムが不安定化しやすい。そこで上記構成では、補正量の大きさが大きい場合の寄与する度合いを補正量の大きさが小さい場合の寄与する度合い以下とする条件の下、補正量の大きさに応じて寄与する度合いを変更する。これにより、システムの不安定度合いに応じて反力指令変数の値への所定成分の寄与する度合いを適切に制限できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態にかかる操舵装置および操舵制御装置の構成を示す図である。
図2】同実施形態における操舵制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる操舵力設定処理の詳細を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示す車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の装置である。操舵装置10は、ステアリングホイール12と、ステアリング軸14と、反力アクチュエータ20と、転舵アクチュエータ30と、を備えている。ステアリング軸14は、ステアリングホイール12に連結されている。反力アクチュエータ20は、運転者がステアリングホイール12を操作する力に抗する力を付与するアクチュエータである。反力アクチュエータ20は、反力モータ22と、反力用インバータ24と、反力用減速機構26とを有している。反力モータ22は、ステアリング軸14を介してステアリングホイール12に操舵に抗する力である操舵反力を付与する。反力モータ22は、反力用減速機構26を介してステアリング軸14に連結されている。反力モータ22には、一例として、3相の同期電動機が採用されている。反力用減速機構26は、たとえば、ウォームアンドホイールからなる。
【0018】
転舵アクチュエータ30は、運転者によるステアリングホイール12の操作が示す運転者の操舵の意思に応じて転舵輪34を転舵させる用途を有したアクチュエータである。転舵アクチュエータ30は、ラック軸32と、転舵モータ42と、転舵用インバータ44と、転舵伝達機構46と、変換機構48とを備えている。転舵モータ42には、一例として、3相の表面磁石同期電動機(SPM)が採用されている。転舵伝達機構46は、ベルト伝達機構からなる。転舵伝達機構46によって、転舵モータ42の回転動力が変換機構48に伝達される。変換機構48は、伝達された回転動力を、ラック軸32の軸方向の変位動力に変換する。ラック軸32の軸方向への変位によって、転舵輪34が転舵される。
【0019】
操舵制御装置50は、ステアリングホイール12および転舵輪34を制御対象とする。すなわち、操舵制御装置50は、制御対象としてのステアリングホイール12の制御量である、運転者の操舵に抗する操舵反力を制御する。また、操舵制御装置50は、制御対象としての転舵輪34の制御量である転舵角を制御する。転舵角は、転舵輪34としてのタイヤの切れ角である。
【0020】
操舵制御装置50は、制御量の制御のために、トルクセンサ60によって検出される操舵トルクThを参照する。操舵トルクThは、運転者がステアリングホイール12の操作を通じてステアリング軸14に付与したトルクである。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、操舵側回転角センサ62によって検出される、反力モータ22の回転軸の角度である回転角θaを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、反力モータ22を流れる電流ius,ivs,iwsを参照する。電流ius,ivs,iwsは、たとえば反力用インバータ24の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵側回転角センサ64によって検出される、転舵モータ42の回転軸の角度である回転角θbを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵モータ42を流れる電流iut,ivt,iwtを参照する。電流iut,ivt,iwtは、たとえば転舵用インバータ44の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。操舵制御装置50は、車速センサ66によって検出される車速Vを参照する。
【0021】
操舵制御装置50は、PU52、および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。記憶装置54は、電気的に書き換え不可能な不揮発性メモリであってもよい。また記憶装置54は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ、およびディスク媒体等の記憶媒体であってもよい。
【0022】
「制御の概要」
図2に、操舵制御装置50が実行する処理を示す。図2に示す処理は、記憶装置54に記憶されたプログラムをPU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0023】
操舵角算出処理M10は、回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ22の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。操舵角算出処理M10は、換算して得られた積算角に反力用減速機構26の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する処理を含む。
【0024】
転舵相当角算出処理M12は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸32の位置であるラック中立位置からの転舵モータ42の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。転舵相当角算出処理M12は、換算して得られた積算角に転舵伝達機構46の減速比および変換機構48のリード等に応じた換算係数を乗算することで、転舵輪34の転舵角に応じた転舵相当角θpを算出する処理を含む。転舵相当角θpは、転舵角と比例関係にある量である。なお、転舵相当角θpは、一例として、ラック中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。
【0025】
目標転舵相当角算出処理M18は、操舵角θsと、車速Vとに応じて、目標転舵相当角θp*を算出する処理である。
操舵力設定処理M20は、操舵トルクTh、および車速Vを入力として、操舵力Tb*を算出する処理である。操舵力Tb*は、運転者の操舵方向と同一方向の量となっている。操舵力Tb*の大きさは、運転者による操舵をアシストする力を大きくする場合に大きい値に設定される。
【0026】
軸力算出処理M22は、車速V、転舵モータ42のq軸電流iqt、および目標転舵相当角θp*を入力として、転舵輪34を通じてラック軸32に作用する軸力Fを算出する処理である。軸力Fは、ステアリング軸14に加わるトルクに換算されている。軸力Fは、運転者の操舵方向とは反対方向に作用する量である。軸力算出処理M22は、目標転舵相当角θp*の絶対値が大きくなるほど、軸力Fの絶対値が大きくなるように軸力Fを算出する処理としてもよい。またたとえば、軸力算出処理M22は、車速Vが大きくなるにつれて軸力Fの絶対値が大きくなるように軸力Fを算出する処理としてもよい。また、軸力算出処理M22は、q軸電流iqtの絶対値が大きくなるほど、軸力Fの絶対値が大きくなるように軸力Fを算出する処理としてもよい。ここで、q軸電流iqtは、PU52によって、転舵相当角θpと、電流iut,ivt,iwtとに応じて算出される。
【0027】
目標反力算出処理M24は、操舵力Tb*から軸力Fを減算した値を、目標反力トルクTs*に代入する処理である。目標反力トルクTs*は、反力モータ22がステアリング軸14に加えるトルクの目標値である。
【0028】
反力用操作信号生成処理M26は、ステアリング軸14に加えるトルクが目標反力トルクTs*となるように、反力モータ22のトルクを制御すべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを生成する処理である。詳しくは、反力用操作信号生成処理M26は、目標反力トルクTs*を反力モータ22の目標トルクに換算する処理を含む。また、反力用操作信号生成処理M26は、電流のフィードバック制御によって、反力モータ22を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを算出する処理を含む。なお、操作信号MSsは、実際には、反力用インバータ24の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0029】
転舵フィードバック処理M30は、転舵相当角θpを制御量として且つ目標転舵相当角θp*を制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量を、目標転舵トルクTt*に代入する処理である。目標転舵トルクTt*は、転舵モータ42のトルクと一定の比率を有する。
【0030】
転舵用操作信号生成処理M32は、転舵モータ42のトルクが目標転舵トルクTt*と一定の比率を有した値となるように、転舵モータ42のトルクを制御すべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを生成する処理である。詳しくは、転舵用操作信号生成処理M32は、目標転舵トルクTt*を転舵モータ42の目標トルクに換算する処理を含む。また、転舵用操作信号生成処理M32は、電流のフィードバック制御によって、転舵モータ42を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを算出する処理を含む。なお、操作信号MStは、実際には、転舵用インバータ44の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0031】
「操舵力設定処理M20の詳細」
図3に、操舵力設定処理M20の詳細を示す。
アシストトルク算出処理M40は、操舵トルクThおよび車速Vを入力として、アシストトルクTaを算出する処理である。アシストトルク算出処理M40は、操舵トルクThの大きさ(絶対値)が大きい場合のアシストトルクTaの大きさを、操舵トルクThの大きさが小さい場合のアシストトルクTaの大きさ以上とする処理である。また、アシストトルク算出処理M40は、操舵トルクThの大きさが同じであっても、車速Vに応じてアシストトルクTaの大きさを変更する処理である。詳しくは、アシストトルク算出処理M40は、車速Vが大きい場合のアシストトルクTaの大きさを車速Vが小さい場合のアシストトルクTaの大きさ以下とする処理であってもよい。
【0032】
アシストトルク算出処理M40は、記憶装置54にマップデータが記憶された状態でPU52によってアシストトルクTaをマップ演算する処理であってもよい。ここで、マップデータは、操舵トルクThおよび車速Vを入力変数として且つ、アシストトルクTaを出力変数とするデータである。このマップデータにおいて、車速Vが同一である出力変数の値には、互いに異なるものが含まれる。
【0033】
なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0034】
システム安定化処理M42は、図1に示したシステムの共振を抑制するための処理である。システム安定化処理M42は、微分作用素M42aおよび補償量算出処理M42bを含む。微分作用素M42aは、操舵トルクThが入力されることによって、操舵トルクThの1階の時間微分値である操舵速度dThを算出する処理である。補償量算出処理M42bは、操舵速度dThおよび車速Vを入力として、システム安定化補償量Tadを算出する処理である。補償量算出処理M42bは、操舵速度dThの大きさが大きい場合のシステム安定化補償量Tadの大きさを、操舵速度dThの大きさが小さい場合のシステム安定化補償量Tadの大きさ以上とする処理であってもよい。また、補償量算出処理M42bは、操舵速度dThが同じであっても、車速Vに応じてシステム安定化補償量Tadを変更する処理を含む。
【0035】
システム安定化処理M42は、たとえば、記憶装置54にマップデータが記憶された状態で、PU52によって、システム安定化補償量Tadをマップ演算する処理としてもよい。ここで、マップデータは、操舵速度dThおよび車速Vを入力変数として且つ、システム安定化補償量Tadを出力変数とするデータであってもよい。このマップデータにおいて、同一の車速Vに対応する出力変数の値には、互いに異なるものが含まれる。
【0036】
ロードインフォメーション生成処理M46は、路面から転舵輪34に加わる力である路面反力に関する情報を、ステアリングホイール12に重畳するための処理である。ロードインフォメーション生成処理M46は、バンドパスフィルタM46aおよびゲイン乗算処理M46bを含む。バンドパスフィルタM46aには、q軸電流iqtが入力される。q軸電流iqtは、路面反力による転舵輪34の振動成分を含む変数としてバンドパスフィルタM46aに入力される。バンドパスフィルタM46aは、路面の凹凸に起因した振動周波数帯の信号を選択的に抽出する処理である。ゲイン乗算処理M46bは、バンドパスフィルタM46aの出力値に、ゲインGrを乗算した値を、路面情報トルクTi0に代入する処理である。
【0037】
ゲイン算出処理M52は、アシストトルクTaを入力として、ゲインG1を算出する処理である。ゲインG1は、「0」以上「1」以下の値を取る。ゲインG1は、路面情報トルクTiの大きさを小さい側に制限するための変数である。ゲイン算出処理M52は、アシストトルクTaの大きさが大きい場合のゲインG1を、アシストトルクTaの大きさが小さい場合のゲインG1以下とする処理である。詳しくは、ゲイン算出処理M52は、アシストトルクTaの大きさが閾値Tath未満の場合、ゲインG1を「1」とする処理である。また、ゲイン算出処理M52は、アシストトルクTaの大きさが閾値Tath以上の場合、アシストトルクTaの大きさに応じてゲインG1を変更する処理である。詳しくは、ゲイン算出処理M52は、アシストトルクTaの大きさが大きい場合のゲインG1を、アシストトルクTaの大きさが小さい場合のゲインG1以下となるように変更する処理である。閾値Tathは、トルクセンサ60によって精度良く検出できる操舵トルクThの大きさの最大値に応じて設定されている。閾値Tathは、たとえば、操舵トルクThの大きさが上記最大値であるときのアシストトルクTaの大きさよりも所定量小さい値であってもよい。
【0038】
ゲイン算出処理M52は、記憶装置54に記憶されたマップデータを用いてPU52がゲインG1をマップ演算する処理としてもよい。ここで、マップデータは、アシストトルクTaを入力変数として且つ、ゲインG1を出力変数とするデータである。このマップデータは、出力変数の値が互いに異なるものを含むデータである。
【0039】
ゲイン算出処理M54は、システム安定化補償量Tadを入力として、ゲインG2を算出する処理である。ゲインG2は、「0」以上「1」以下の値を取る。ゲインG2は、路面情報トルクTiの大きさを小さい側に制限するための変数である。ゲイン算出処理M54は、システム安定化補償量Tadの大きさが大きい場合のゲインG2を、システム安定化補償量Tadの大きさが小さい場合のゲインG2以下とする処理である。詳しくは、ゲイン算出処理M54は、システム安定化補償量Tadの大きさが閾値Tadth未満の場合、ゲインG2を「1」とする処理である。また、ゲイン算出処理M54は、システム安定化補償量Tadの大きさが閾値Tadth以上の場合、ゲインG2を変更する処理である。詳しくは、ゲイン算出処理M54は、システム安定化補償量Tadの大きさが大きい場合のゲインG2が、システム安定化補償量Tadの大きさが小さい場合のゲインG2以下となるように変更する処理である。
【0040】
ゲイン算出処理M54は、記憶装置54に記憶されたマップデータを用いてPU52がゲインG2をマップ演算する処理としてもよい。ここで、マップデータは、システム安定化補償量Tadを入力変数として且つ、ゲインG2を出力変数とするデータである。このマップデータは、出力変数の値が互いに異なるものを含むデータである。
【0041】
乗算処理M56は、路面情報トルクTi0にゲインG1およびゲインG2を乗算した値を、路面情報トルクTiに入力する処理である。
操舵力算出処理M50は、アシストトルクTaとシステム安定化補償量Tadとの和から路面情報トルクTiを減算した値を操舵力Tb*に入力する処理である。
【0042】
「本実施形態の作用および効果」
たとえば車両が走行している路面に凹凸がある場合、転舵輪34には凹凸に起因した路面反力が加わる。PU52は、路面反力にかかわらず、転舵相当角θpを目標転舵相当角θp*に追従させるために転舵モータ42のトルクを制御する。これにより、転舵モータ42のトルクは、路面反力の振動に応じて振動する成分を有する。そのため、q軸電流iqtは、路面反力の振動に応じて振動する成分を有する。PU52は、q軸電流iqtに応じて路面情報トルクTiを算出する。PU52はアシストトルクTaから路面情報トルクTiを減算した値に基づき、操舵力Tb*を算出する。そして、操舵力Tb*に応じて反力モータ22のトルクを操作する。これにより、ステアリングホイール12には、路面反力に応じた成分が加わる。これにより、運転者は、ステアリングホイールに加わる力から、路面反力を感じることができる。
【0043】
PU52は、アシストトルクTaの大きさが閾値Tath以上の場合、路面情報トルクTiが操舵力Tb*に寄与する度合いを小さい側に制限する。アシストトルクTaの大きさが閾値Tathを超えて大きくなる状況は、運転者によってステアリングホイール12に入力される実際のトルクの大きさが、トルクセンサ60によって精度良く検出できる最大値を超える状況等である。そのため、PU52は、運転者によってステアリングホイール12に入力される実際のトルクの大きさに応じた適切な制御を行うことが困難な状況である。この状況は、図1に示したシステムが不安定となる状況である。不安定となる状況においては、路面情報トルクTiが、ステアリングホイール12に路面反力以上の振動を発生させる要因となりうる。そこで、PU52は、路面情報トルクTiが操舵力Tb*に寄与する度合いを小さい側に制限することにより、上記振動を抑制することができる。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)PU52は、システム安定化補償量Tadの大きさが閾値Tadth以上の場合、路面情報トルクTiが操舵力Tb*に寄与する度合いを小さい側に制限する。システム安定化補償量Tadの大きさが過度に大きい場合、システムが不安定となりうる。そして、システムが不安定となる場合、ステアリングホイール12に路面反力以上の振動を発生させる要因となりうる。そこで、PU52は、路面情報トルクTiが操舵力Tb*に寄与する度合いを小さい側に制限することにより、上記振動を抑制することができる。
【0045】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]反力指令変数算出処理は、アシストトルク算出処理M40、システム安定化処理M42、操舵力算出処理M50、軸力算出処理M22、および目標反力算出処理M24に対応する。反力制御処理は、反力用操作信号生成処理M26に対応する。所定成分反映処理は、ロードインフォメーション生成処理M46および操舵力算出処理M50に対応する。制限処理は、ゲイン算出処理M52,M54および乗算処理M56に対応する。[2]アシストトルクTaに応じてゲインG1が設定されることに対応する。[3]ゲイン算出処理M52によるゲインG1の設定に対応する。[4]アシストトルク算出処理は、アシストトルク算出処理M40に対応する。[5]アシストトルク算出処理は、アシストトルク算出処理M40に対応する。システム安定化処理は、システム安定化処理M42に対応する。[6]ゲイン算出処理M54によるゲインG2の設定に対応する。アシストトルクの補正量は、システム安定化補償量Tadに対応する。
【0046】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
「システム安定化処理について」
・システム安定化補償量Tadが、操舵速度dThおよび車速Vの2つの変数の値から算出されることは必須ではない。たとえば、システム安定化補償量Tadが、操舵速度dThに応じて算出されるものの、車速Vに依存しなくてもよい。
【0048】
・システム安定化補償量Tadの算出のための入力となる変数としては、操舵速度dThおよび車速Vに限らない。たとえば、操舵トルクThの変化に対する操舵力Tb*の変化の比率を入力に含めてもよい。なお、ここで、操舵力Tb*をアシストトルクTaに置換してもよい。
【0049】
「所定成分反映処理について」
・上記実施形態では、ロードインフォメーション生成処理M46の入力を、q軸電流iqtとしたが、これに限らない。たとえば、転舵モータ42のトルクであってもよい。転舵モータ42がSPMである場合、このトルクは、q軸電流iqtに電機子鎖交磁束定数を乗算した値とすればよい。また、転舵モータ42が埋込磁石同機機の場合、トルクを、d軸電流idtとq軸電流iqtとを用いた所定のモデル式によって算出された値とすればよい。
【0050】
・所定成分反映処理が、転舵モータ42のトルクを示す変数の値の時系列データをバンドパスフィルタ処理した値にゲインGrを乗算した値を出力する処理であることは必須ではない。たとえば、バンドパスフィルタ処理した値と閾値との比較に応じて、路面の凹凸の有無を判定する処理を含めてもよい。その場合、路面の凹凸があると判定された場合に限って、バンドパスフィルタ処理した値にゲインGrを乗算した値を出力する処理としてもよい。
【0051】
・ロードインフォメーション生成処理M46を操舵力設定処理M20に含めることは必須ではない。たとえば、軸力算出処理M22に含めてもよい。
「制限処理について」
・上記実施形態では、アシストトルクTaを入力としてゲインG1を設定したが、これに限らない。たとえば、操舵トルクThを入力としてゲインG1を設定してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、アシストトルクTa等、操舵トルクThの大きさを示す変数の値に応じたゲインG1と、システム安定化補償量Tadに応じたゲインG2とを各別に算出したが、これに限らない。たとえば、操舵トルクThの大きさを示す変数の値と、システム安定化補償量Tadとに応じて単一のゲインを算出してもよい。これは、たとえば、操舵トルクThの大きさを示す変数の値と、システム安定化補償量Tadと、を入力変数として且つ、ゲインを出力変数とするマップデータを用いることによって実現できる。
【0053】
・制限処理が、操舵トルクThの大きさを示す変数の値と、システム安定化補償量Tadと、を入力とすることは必須ではない。たとえば、操舵トルクThの大きさを示す変数の値を入力とするものの、システム安定化補償量Tadについては入力としなくてもよい。
【0054】
「反力指令変数算出処理について」
・反力指令変数算出処理としては、上記実施形態において例示した処理に限らない。たとえば、操舵トルクThが制御量であって且つ操舵トルクThの目標値が制御量の目標値であるフィードバック制御の操作量として、反力モータ22のトルクを示す変数値を算出する処理としてもよい。その場合、PU52は、フィードバック制御の操作量を、ロードインフォメーション生成処理M46の出力によって補正した値に応じて、反力モータ22のトルクを制御すればよい。また、その場合、制限処理は、たとえば操舵トルクThが所定値以上の場合に、ロードインフォメーション生成処理M46の出力に応じたフィードバック制御の操作量の補正を制限する処理とすればよい。
【0055】
「操舵制御装置について」
・操舵制御装置としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、操舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0056】
「そのほか」
・転舵モータ42が同機機であることは必須ではない。たとえば、誘導機であってもよい。
【0057】
・上記各実施形態は、操舵装置10を、ステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチによりステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリング軸
20…反力アクチュエータ
22…反力モータ
24…反力用インバータ
26…反力用減速機構
30…転舵アクチュエータ
32…ラック軸
34…転舵輪
42…転舵モータ
44…転舵用インバータ
46…転舵伝達機構
48…変換機構
50…操舵制御装置
60…トルクセンサ
図1
図2
図3