(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093340
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】神経興奮抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20240702BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K31/7048
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209650
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】石橋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】好田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】中原 光一
(72)【発明者】
【氏名】前川 知浩
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA11
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA03
(57)【要約】
【課題】神経興奮抑制剤を提供すること。
【解決手段】テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とする、神経興奮抑制剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とする、神経興奮抑制剤。
【請求項2】
神経の過剰興奮を抑制するための、請求項1に記載の神経興奮抑制剤。
【請求項3】
カフェインによる神経興奮を抑制する、請求項1又は2に記載の神経興奮抑制剤。
【請求項4】
ストレスの予防又は緩和のために使用される、請求項1又は2に記載の神経興奮抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経興奮抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
神経の興奮、特に、過剰な神経の興奮が続くと、心身が充分な睡眠や休息が取れなくなる。その結果、生体内でストレスが生じた結果、疲れやすくなる等のストレス症状が誘発される。神経の興奮を抑制するための医薬品が開発されているが、医薬品には、副作用等の課題がある。このため、神経の興奮を抑制することができ、比較的安全性が高く、日常的に摂取可能な成分が求められている。
【0003】
特許文献1には、L-テアニンを有効成分とする抗ストレス剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、神経興奮抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドが、神経興奮抑制作用を有することを見出した。
【0007】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の神経興奮抑制剤等を包含する。
〔1〕テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とする、神経興奮抑制剤。
〔2〕神経の過剰興奮を抑制するための、上記〔1〕に記載の神経興奮抑制剤。
〔3〕カフェインによる神経興奮を抑制する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の神経興奮抑制剤。
〔4〕ストレスの予防又は緩和のために使用される、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の神経興奮抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、神経興奮抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1はマイクロエレクトロードアレイ(MEA)データから算出する解析パラメータを説明するための模式図である。
【
図2】
図2Aは、主成分分析によるカフェインとテアフラビン3-O-ガレートを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである(黒丸(●):vehicle)。
図2Bは、主成分マップにおけるカフェイン単独の場合、及びカフェインとテアフラビン3-O-ガレートを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図2Cは、主成分マップにおけるカフェイン単独の場合とvehicleとの間の重心値の距離を100として、カフェインとテアフラビン3-O-ガレートを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離をカフェインに対する相対値で示したグラフである。
図2A、
図2B及び
図2C中、白丸(〇)はカフェインとテアフラビン3-O-ガレートの併用、バツ(×)はカフェイン単独を示す。
【
図3】
図3Aは、主成分分析によるカフェインとミリセチン3-O-グルコシドを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである(●:vehicle)。
図3Bは、主成分マップにおけるカフェイン単独の場合、及びカフェインとミリセチン3-O-グルコシドを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図3Cは、主成分マップにおけるカフェインとvehicleとの間の重心値を100として、カフェインとミリセチン3-O-グルコシドを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離をカフェインに対する相対値で示したグラフである。
図3A、
図3B及び
図3C中、白丸(〇)はカフェインとミリセチン3-O-グルコシドの併用、バツ(×)はカフェイン単独を示す。
【
図4】
図4Aは、主成分分析によるカフェインとプロシアニジンB4を併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである(●:vehicle)。
図4Bは、主成分マップにおけるカフェイン単独の場合、及びカフェインとプロシアニジンB4を併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図4Cは、主成分マップにおけるカフェインとvehicleとの間の重心値の距離を100として、カフェインとプロシアニジンB4を併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離をカフェインに対する相対値で示したグラフである。
図4A、
図4B及び
図4C中、白丸(〇)はカフェインとプロシアニジンB4の併用、バツ(×)はカフェイン単独を示す。
【
図5】
図5Aは、主成分分析によるカフェインとケンフェロール3-ガラクトシドを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである(●:vehicle)。
図5Bは、主成分マップにおけるカフェイン単独の場合、及びカフェインとケンフェロール3-ガラクトシドを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図5Cは、主成分マップにおけるカフェインとvehicleとの間の重心値の距離を100として、カフェインとケンフェロール3-ガラクトシドを併用した場合とvehicleとの間の重心値の距離をカフェインに対する相対値で示したグラフである。
図5A、
図5B及び
図5C中、白丸(〇)はカフェインとケンフェロール3-ガラクトシドの併用、バツ(×)はカフェイン単独を示す。
【
図6】
図6Aは、カフェイン(×)とvehicle(●)のデータをプロットした主成分マップである。
図6Bは、主成分マップにおけるカフェインとvehicleとの間の重心値の距離(×)を示すグラフである。
図6Cは、主成分マップにおける各濃度のカフェインとvehicleとの間の重心値の距離(×)を100としてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の神経興奮抑制剤は、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とするものである。
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドは、ポリフェノールの一種である。本発明の神経興奮抑制剤には、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドのいずれかを単独で用いてもよく、2種以上の組合せを用いてもよい。本発明の神経興奮抑制剤は、上記の1以上の化合物を有効成分として含む。
以下では、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を、本発明における有効成分ということもある。
【0011】
テアフラビン3-O-ガレートは、テアフラビンの没食子酸エステルである。テアフラビン3-O-ガレートは、茶葉の発酵過程で生成する赤色色素の一種である。
ミリセチン3-O-グルコシドは、ミリセチンの3位グルコース配糖体である。ミリセチンはフラボノールの一種である。
プロシアニジンB4は、(+)-カテキン及び(-)-エピカテキンを構成単位とするフラバン-3-オール2量体である。
ケンフェロール3-ガラクトシドは、ケンフェロールの3位ガラクトース配糖体である。
【0012】
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドは、その由来や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。これらの化合物は、化学合成品を使用してもよく、天然物から調製したものを使用してもよい。テアフラビン3-O-ガレートは、紅茶葉に含まれている。ミリセチン3-O-グルコシドは、緑茶葉、ブドウ、ベリー、クルミ等の植物に含まれている。プロシアニジンB4は、ブドウ等の植物に含まれている。ケンフェロール3-ガラクトシドは、緑茶葉等に含まれている。上記化合物を天然物から得る場合は、上記の植物等から抽出等して調製することができる。テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドは市販されており、市販品を使用することができる。
【0013】
本発明においては、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を、神経興奮抑制のための有効成分として使用する。
後記実施例に示すように、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドは、カフェインによる神経の興奮を抑制する作用を有する。例えば、カフェインが高濃度下(1000μM)では神経は過剰興奮の状態にあるが、上記の4種の化合物は、カフェイン高濃度下の神経の興奮を抑制した。
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物は、神経興奮抑制剤として使用することができる。また、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物は、神経興奮抑制剤を製造するために使用することができる。
【0014】
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物は、カフェインによる神経興奮を抑制するために使用することができる。本発明の神経興奮抑制剤は、カフェインによる神経興奮を抑制するために好ましく使用することができる。本発明において、神経興奮は、中枢神経の興奮であってよい。一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、中枢神経の興奮を抑制するために使用することができる。
本発明の神経興奮抑制剤は、神経の過剰興奮を抑制するために使用することができる。一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、カフェインによる神経の過剰興奮を抑制するために使用することができる。
【0015】
本発明の神経興奮抑制剤は、神経興奮抑制により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。このような状態又は疾患として、自律神経失調症、てんかん、不眠症等が挙げられる。
本明細書において、状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の症状を軽減若しくは緩和すること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。回復は、部分的に回復させることを含む。
【0016】
神経興奮を抑制することは、例えば、ストレスの予防又は緩和にも有効である。ストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことをいう。外部からの刺激として、環境的要因、身体的要因(病気、睡眠不足等)、心理的要因、社会的要因等が挙げられる。一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、ストレスの予防又は緩和のために使用することができる。
【0017】
本発明の神経興奮抑制剤は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
【0018】
本発明の神経興奮抑制剤は、任意の投与形態で投与することができるが、経口で投与されることが好ましい。本発明の神経興奮抑制剤は、好ましくは経口用の神経興奮抑制剤である。
【0019】
本発明の神経興奮抑制剤は、上記化合物を有効成分として含む組成物の形態であってもよい。本発明の神経興奮抑制剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に配合して使用されてもよい。
【0020】
本発明の神経興奮抑制剤は、本発明の効果を損なわない限り、本発明における有効成分以外の成分を含んでいてもよく、例えば、任意の添加剤等を含有することができる。添加剤等には、一般的に飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。
【0021】
例えば、本発明の神経興奮抑制剤を、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)に配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、液剤、飲料、ドリンク剤、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
【0022】
本発明の神経興奮抑制剤を医薬品又は医薬部外品に使用する場合、例えば、本発明の神経興奮抑制剤に、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口投与の形態が好ましい。経口投与のための剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0023】
本発明の神経興奮抑制剤を、飼料に配合することもできる。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0024】
本発明の神経興奮抑制剤における上記の有効成分の含有量は、その形態等に応じて設定することができる。一態様において、本発明における有効成分の含有量は、例えば、組成物中に、0.0005~90重量%が好ましく、0.001~70重量%がより好ましく、0.005~50重量%がさらに好ましく、0.01~10重量%が特に好ましい。
上記含有量は、有効成分の化合物の2種以上を含む場合は、これらの合計量である。
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドの含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で測定することができる。
【0025】
本発明の神経興奮抑制剤は、その形態又は剤形に応じて自体公知の種々の方法で摂取又は投与することができる。一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。
本発明の神経興奮抑制剤の投与量(摂取量ということもできる)は特に限定されない。本発明の神経興奮抑制剤の投与量は、神経興奮抑制効果が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法、対象の体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
一態様において、本発明の神経興奮抑制剤を、ヒト(成人)を対象に摂取させる又は投与する場合、本発明における有効成分の投与量は、1日当たり、好ましくは0.5mg以上、より好ましくは1.5mg以上、また、好ましくは450mg以下、より好ましくは150mg以下である。一態様において、本発明における有効成分の投与量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり、好ましくは、0.5~450mg、より好ましくは、1.5~150mgである。上記の投与量は、体重60kgあたり、1日あたりの投与量であってよい。
本発明における有効成分は、1日1回で、又は、数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することができる。一態様においては、上記量の本発明における有効成分を、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましい。
一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量の有効成分の化合物を摂取させる又は投与するために使用することができる。
上記投与量は、有効成分の化合物の2種以上を投与する場合は、これらの合計量である。
【0027】
本発明の神経興奮抑制剤を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。一態様において、投与対象として、神経興奮抑制を必要とする又は希望する対象が挙げられる。このような対象として、例えば、不眠症患者等が挙げられる。一態様において、投与対象は、健常者であってよい。
【0028】
本発明の神経興奮抑制剤には、例えば、神経興奮を抑制する旨の機能の表示や、神経興奮抑制作用により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明の神経興奮抑制剤には、例えば、「ストレス緩和」、「リラックス」、「疲労感低減」等の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。
本発明の一態様において、本発明の神経興奮抑制剤は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。上記の表示は、神経興奮抑制剤自体に付されてもよいし、その容器又は包装に付されていてもよい。
【0029】
本発明は、以下の方法も包含する。
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物を投与する、神経興奮抑制方法。
上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。
上記化合物を対象に投与すると、神経興奮を抑制することができる。
【0030】
本発明は、以下の使用も包含する。
テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物の、神経興奮を抑制するための使用。
上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。使用は、治療的な使用であってもよく、非治療的な使用であってもよい。
【0031】
上記の方法及び使用において、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物は、神経の過剰興奮を抑制するために好ましく使用することができる。上記化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上の組合せを用いてもよい。神経興奮は、カフェインによる神経興奮であってよく、カフェインによる神経の過剰興奮であってよい。上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、本発明における有効成分を対象に投与する(摂取させる)ことが好ましい。一態様において、上記方法及び使用においては、上記化合物の1種又は2種以上を、経口投与(摂取)することが好ましい。
【0032】
上記方法及び使用においては、所望の作用が得られる量(有効量ということもできる)の本発明における有効成分を使用すればよい。好ましい投与量や投与対象等は上述した本発明の神経興奮剤と同じである。一態様においては、ストレスの予防又は緩和のために、本発明における有効成分を使用することができる。一態様においては、神経の過剰興奮を抑制することによって、ストレスを予防又は緩和するために、本発明における有効成分を使用することができる。
【0033】
本発明は、神経興奮抑制剤を製造するための、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドからなる群より選択される1以上の化合物の使用も包含する。神経興奮抑制剤及びその好ましい態様等は、上記と同じである。
【0034】
本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値~上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1~2」により表される範囲は、1以上2以下を意味し、1及び2を含む。本明細書において、上限及び下限は、いずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
ヒトiPS細胞由来神経細胞(NeuCyte社製、CAT No.:1010-7.5)を用いて、試験化合物の神経興奮抑制作用を評価した。評価においては、マイクロエレクトロードアレイ(MEA)を用い、電気生理学的パラメータを用いた多変量解析を行った。
【0037】
(試験化合物)
下記の化合物を使用した。
テアフラビン3-O-ガレート(長良サイエンス(株)製)、ミリセチン3-O-グルコシド(EXTRASYNTHSE S社製)、プロシアニジンB4(AbMole BioScience社製)及びケンフェロール3-ガラクトシド(EXTRASYNTHESE社製)
【0038】
(MEAプレート)
CyteView MEA24 プレート(AXION Biosystems社製)を使用した。
【0039】
(ヒトiPS細胞由来神経細胞の培養)
ヒトiPS細胞由来神経細胞は、SynFire(登録商標)Co-Culture Kit(MEA)(NeuCyte社製)を使用して培養した。培養は、原則としてNeuCyte社のプロトコールに従い、37℃、5%CO2環境下で行った。ただし、MEAプレートのコーティング剤、培地は以下のものを使用した。
【0040】
(MEAプレートのコーティング剤)
0.1% Polyethyleneimine(PEI)(Sigma-Aldrich社、Cat No.:P3143-100ML)、2.5μg/mL iMatrix-511((株)ニッピ製)
【0041】
(培地)
(A)細胞播種時に使用した培地(Seeding-Medium)
Seeding Basal Media(2001-20、NeuCyte社製)
Seeding Supplement(2001S-20、NeuCyte社製)
(B)培養1~7日に使用した培地(Short-Term Medium)
Short-Term Basal Media(2002-40、NeuCyte社製)
Short-Term Supplement(2002S-40、NeuCyte社製)
(C)培養7日から試験に使用した培地(Long-Term Medium)
Long-Term Basal Media(2003-120、NeuCyte社製)
Long-Term Supplement(2003S-120、NeuCyte社製)
【0042】
(MEAプレートのコーティング)
MEAプレートにPEI 0.1%を70μL/well添加し、37℃で60分間インキュベートした。滅菌水でプレートを4回洗浄し、一晩風乾した。MEAプレートにiMatrix-511 2.5μg/mLを5μL/well添加し、37℃で60分間インキュベートした。
【0043】
(ヒトiPS細胞由来神経細胞の播種)
コーティングしたMEAプレートに、ヒトiPS細胞由来神経細胞を、73×103cells/wellとなるように播種した。培地量は1ウェルあたり1mLとした。
【0044】
(細胞外電位測定)
試験化合物添加試験は、培養4週目にAXION Biosystems社のMEAシステム(Maestro EDGE)を用いて実施した。底面ヒーター温度37℃、CO2(5%)供給下で実施した。
(測定手順)
(1)MEAプレートをMaestro EDGEに設置し、自発発火を15分間測定。
(2)試験化合物溶液を10μL/well添加後、37℃で5分間インキュベート。
(3)MEAプレートをMaestro EDGEに設置し、神経細胞の電気応答を15分間測定。
(4)その後、カフェイン溶液を10μL/well添加後、37℃で5分間インキュベートし、神経細胞の電気応答を15分間測定。
【0045】
コントロール群(vehicleコントロール)には、上記の測定の(2)において、試験化合物溶液の代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。また、コントロール群の測定においては、上記(4)でカフェイン溶液を添加しなかった。
カフェイン単独添加群においては、上記の測定の(2)において試験化合物溶液を添加しない以外は、上記と同じ方法で測定を行った。
また、試験化合物単独の場合の神経細胞の電気応答を確認するため、上記の細胞外電位測定の(4)において、カフェイン溶液の代わりにDMSOを添加した以外は、上記と同じ方法で上記測定を行った(カフェイン濃度0μM)。
【0046】
上記細胞外電位測定に使用した試験化合物溶液及びカフェイン溶液を、下記に示す。試験化合物溶液は、試験化合物をDMSO(vehicle)に溶解させて調製した。試験化合物は、上記のテアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4又はケンフェロール3-ガラクトシドである。
(試験化合物溶液)
試験化合物のDMSO溶液(試験化合物濃度:3000μM)
(カフェイン溶液)
上記で使用したカフェイン溶液は、カフェインのDMSO溶液である(カフェイン濃度1mM、10mM又は100mM)。
【0047】
上記の測定において、試験化合物溶液を添加したウェル中の試験化合物の最終濃度は30μMであった。カフェイン溶液を添加したウェル中のカフェインの最終濃度は、10μM、100μM又は1000μMであった。
【0048】
(データ解析)
(パラメータの算出)
MEAシステムにより測定したデータを、AXION Biosystems社解析ソフトAxIS Navigator 2.0.4を用いてスパイク検出を行った。
同期バースト発火の検出は、アルファメッドサイエンティフィック社の解析ソフトBurst analysis for Advanced2[ver3]を使用した。
自発活動の解析項目として、各試験化合物添加群について、下記の9個のパラメータを算出した。
(1)Total spikes(TS):15分間の発火数、(2)No. of SBF:15分間の同期バースト発火数、(3)Inter burst interval(IBI):同期バースト発火から次の同期バースト発火までの時間、(4)Duration of SBFs(Duration):同期バースト発火の持続時間、(5)Spikes in a SBF(SiB):同期バースト発火中の発火数、(6)Max frequency(MF):同期バースト発火中の最大発火周波数(100msec bin)、(7)CV of MF(cvMF):MFの変動係数、(8)Inter MF interval(IMFI):MFが検出された時間から次のMFが検出された時間までの間隔、(9)CV of IMFI(cvIMFI):IMFIの変動係数
図1に、MEAデータから算出する解析パラメータを説明するための模式図を示す。MEAシステムによる細胞外電位測定によって、
図1に示すようなスパイクのラスタープロットとヒストグラムが得られる。
図1中の(1)~(9)は、上記(1)~(9)の解析パラメータを示す。
【0049】
統計解析は統計ソフトEZRを使用し、Dunnett法を用いて解析を行った。多変量解析はMATLAB(登録商標)(MathWorks社)を使用した。
上記(1)~(9)の解析パラメータについて、vehicleコントロールの各解析パラメータ値を100%として相対値を算出した。
【0050】
(主成分分析)
9種類のパラメータの中で、カフェインの興奮作用の評価に有効とされたパラメータ(No. of SBF、IBI、Duration、Spikes in a SBF(SiB)、IMFI)を用いて主成分分析を実施した。主成分分析は、MATLAB(登録商標) function pcaIを用いて、石橋らの方法(Ishibashi Y et. al, TOXICOLOGICAL SCIENCES, 184(2), 2021, 265-275)に準じて行った。主成分マップにカフェイン単独の場合の重心値及びカフェインと試験化合物を併用した場合の重心値をプロットし、重心値のvehicleとの距離(重心値の距離)をカフェインの興奮作用の指標として比較することで、試験化合物のカフェインの神経興奮作用におよぼす影響を解析した。
【0051】
(結果)
(電気生理学的パラメータの算出)
試験化合物の自発活動データについて、vehicleコントロールの各解析パラメータを100%として相対値(%)を算出した。結果を表1~表4に示す。
【0052】
表1は、テアフラビン3-O-ガレート、表2は、ミリセチン3-O-グルコシド、表3はプロシアニジンB4、表4はケンフェロール3-ガラクトシドである(n=5の平均)。「カフェイン濃度」は、試験化合物と併用したカフェインの濃度である。
表5に、カフェインだけを添加した場合(カフェイン単独添加群)の自発活動データ(vehicleコントロールの解析パラメータに対する相対値)を示す(n=5の平均)。
表1~表4に示す解析パラメータの値(相対値(%))が、表5に示すカフェイン単独の場合の値と比較して小さいと、カフェインの神経興奮作用を抑制する傾向があることを示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
(主成分分析)
上記で算出した解析パラメータを用いて、主成分分析を実施した。主成分分析は、MATLAB(登録商標) function pcaIを用いて、石橋らの方法(Ishibashi Y et. al, TOXICOLOGICAL SCIENCES, 184(2), 2021, 265-275)に準じて行った。パラメータセットとして、9種類のパラメータの中で、カフェインの興奮作用の評価に有効とされたNo.of SBF、IBI、Duration、SiB、IMFIを使用した。このパラメータセットで主成分分析を実施することで主成分スコアを算出し、主成分マップを作成した。作成した主成分マップにカフェインの重心値をプロットし、vehicleの重心値との距離を比較した(
図2A、
図3A、
図4A及び
図5A)。主成分マップには、各濃度n=5の平均値をプロットした。
【0059】
図2Aは、テアフラビン3-O-ガレートとカフェインを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである。
図3Aは、ミリセチン3-O-グルコシドとカフェインを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである。
図4Aは、プロシアニジンB4とカフェインを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである。
図5Aは、ケンフェロール3-ガラクトシドとカフェインを併用した場合とカフェイン単独の場合の比較を示す主成分マップである。
図6Aは、各濃度のカフェイン単独の場合とvehicleの重心値をプロットした主成分マップである。
図2A、
図3A、
図4A、
図5A及び
図6Aにおいて、黒丸(●)はvehicle(コントロール)、バツ(×)はカフェイン単独の場合を示す。白丸(〇)はカフェインと試験化合物(テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4又はケンフェロール3-ガラクトシド)を併用した場合を示す。
図2A、
図3A、
図4A、
図5A及び
図6A中に示す濃度は、カフェインの濃度である。
【0060】
上記の主成分マップにおけるvehicleとの間の重心値の距離をカフェインの神経興奮作用の指標として、カフェイン単独の場合とカフェインと試験化合物を併用した場合と比較した。
図2Bは、主成分マップにおけるカフェインとテアフラビン3-O-ガレート併用の場合のvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図3Bは、主成分マップにおけるカフェインとミリセチン3-O-グルコシド併用の場合のvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図4Bは、主成分マップにおけるカフェインとプロシアニジンB4併用の場合のvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図5Bは、主成分マップにおけるカフェインとケンフェロール3-ガラクトシド併用の場合のvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図6Bは、主成分マップにおける各濃度のカフェイン単独の場合のvehicleとの間の重心値の距離を示すグラフである。
図2B、
図3B、
図4B及び
図5B中の横軸の濃度は、カフェインの濃度(μM)である。
図2B、
図3B、
図4B及び
図5Bには、
図6Bに示す各濃度のカフェイン単独の場合とvehicleとの間の重心値の距離も示した。
図2B、
図3B、
図4B、
図5B及び
図6Bにおいて、白丸(〇)はカフェインと試験化合物を併用した場合、バツ(×)はカフェイン単独の場合を示す。
【0061】
更に、
図2C、
図3C、
図4C及び
図5Cに、主成分マップにおける、各濃度のカフェイン単独の場合のvehicleとの重心値の距離を100とした場合の、カフェインと試験化合物併用の場合のvehicleとの重心値の距離の相対値をプロットしたグラフを示す。
図2C、
図3C、
図4C及び
図5C中の横軸の濃度は、カフェインの濃度(μM)である。
図6Cは、主成分マップにおける各濃度のカフェイン単独の場合とvehicleとの間の重心値の距離を100としてプロットしたグラフである。
図2C、
図3C、
図4C、
図5C及び
図6Cにおいて、白丸(〇)はカフェインと試験化合物を併用した場合、バツ(×)はカフェイン単独の場合を示す。
【0062】
主成分マップにおけるvehicleとの間の重心値の距離が小さいことは、作用特性がvehicle(コントロール)に近いことを示す。
図2B、
図3B、
図4B及び
図5Bから、主成分マップにおけるカフェインと試験化合物を併用した場合のvehicleとの間の重心値の距離は、カフェイン単独の場合のvehicleとの重心値距離よりも小さかった。従って、テアフラビン3-O-ガレート、ミリセチン3-O-グルコシド、プロシアニジンB4及びケンフェロール3-ガラクトシドは、カフェインによる神経興奮を抑制する作用を有することが分かった。また、これらの化合物は、カフェイン濃度が1000μMと高い場合に、カフェインによる神経興奮を抑制する作用を示した。これは、これらの試験化合物が、カフェインによる神経の過剰興奮を抑制する作用を有することを示す。