IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小池 伸の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093351
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/18 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G06F17/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209665
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】522503838
【氏名又は名称】小池 伸
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小池 伸
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB64
(57)【要約】
【課題】商品の購入者の商品購入のための費用を抑えつつ、かつ商品販売側での、商品販売のための作業を効率化することを目的とする。
【解決手段】互いに関連性を有する第1パラメータの第1パラメータ分布と、第2パラメータの第2パラメータ分布と、を取得する取得部と、第2パラメータ分布の微小区間毎の確率値と、第1パラメータ分布の変化に係る分布情報と、に基づいて、複数の微小区間それぞれに対応する複数の微小区間第1パラメータ分布を求め、関連性に基づいて、微小区間第1パラメータ分布を移動することで、第1パラメータに第2パラメータが作用することによる、変化後の前記第1パラメータ分布を求める演算部と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに関連性を有する第1パラメータの第1パラメータ分布と、第2パラメータの第2パラメータ分布と、を取得する取得部と、
前記第2パラメータ分布の微小区間毎の確率値と、前記第1パラメータ分布の変化に係る分布情報と、に基づいて、複数の微小区間それぞれに対応する複数の微小区間第1パラメータ分布を求め、前記関連性に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を移動することで、前記第1パラメータに前記第2パラメータが作用することによる、変化後の前記第1パラメータ分布を求める演算部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記分布情報に含まれる所定の前記第1パラメータ分布における第1パラメータ毎の確率値を積算することにより、変化後の前記第1パラメータの分布を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記第2パラメータ分布の前記微小区間毎の確率値と、初期の前記第1パラメータ分布における前記第1パラメータ毎の確率値と、に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記変化は、時間変化に応じた変化である、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1パラメータは、位置であり、
前記第2パラメータは、速度である、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第1パラメータは、速度であり、
前記第2パラメータは、加速度である、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記微小区間第1パラメータ分布に対する状態量を、1つの前記第1パラメータの値に割り当て、
前記第1パラメータの値に割り当てられた前記状態量に基づいて、変化後の前記第1パラメータの分布を求める、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記第2パラメータ分布の前記微小区間毎の確率値と、変化前の前記第1パラメータ分布における前記第1パラメータ毎の確率値と、に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記変化は、距離変化に応じた変化である、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記第1パラメータは、物体の変位であり、前記第2パラメータは、前記物体の歪みである、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記演算部は、変化後の前記第1パラメータ分布に対して目標とするパラメータの目標パラメータ分布を、パラメータの増加方向及び減少方向のうち、前記目標に応じた方向に累積した累積分布を求め、
変化後の前記第1パラメータの分布における確率値と、前記累積分布における確率値の積の分布を求めることで、前記目標を達成する確率を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記演算部は、
前記第2パラメータと関連性を有する第3パラメータの第3パラメータ分布に基づいて、前記第2パラメータの範囲を求め、
前記第2パラメータの範囲内に含まれる、前記第2パラメータの微小区間毎の確率値と、前記分布情報と、に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項13】
コンピュータを、
互いに関連性を有する第1パラメータの第1パラメータ分布と、第2パラメータの第2パラメータ分布と、を取得する取得部及び
前記第2パラメータ分布の微小区間毎の確率値と、前記第1パラメータ分布の変化に係る分布情報と、に基づいて、複数の微小区間それぞれに対応する複数の微小区間第1パラメータ分布を求め、前記関連性に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を移動することで、前記第1パラメータに前記第2パラメータが作用することによる、変化後の前記第1パラメータ分布を求める演算部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のパラメータを用いた演算において、各パラメータにばらつき(分布)がある場合、各パラメータのデータの数を増やして分布として処理したとしても正確な分布が得られず、パラメータのばらつきに応じた高精度な計算を行うことができなかった。これは、数値演算の本質的な限界であり、分布を持つパラメータの演算においては、複数のパラメータそれぞれの分布に基づいた分布演算を行うことで初めて正確な演算が可能となる。分布演算は、畳み込み積分として知られている。特許文献1には、畳み込み演算を用いて確率分布データを求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-1126500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確率分布演算は、これらの組み合わせの発生確率を、必要に応じて相関係数の影響を反映して確率分布として組み込んで結果を求める演算方法である。言い換えれば、確率分布演算は、個別データの数値演算で欠損する組み合わせの情報を補間する方法である。しかしながら、演算回数やパラメータの数が増えれば増えるほど、欠損が大きくなり、モンテカルロシミュレーション等が確率値を保証しない原因と考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、分布を有する複数のパラメータの演算結果を従来よりも高精度に求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、情報処理装置であって、互いに関連性を有する第1パラメータの第1パラメータ分布と、第2パラメータの第2パラメータ分布と、を取得する取得部と、前記第2パラメータ分布の微小区間毎の確率値と、前記第1パラメータ分布の変化に係る分布情報と、に基づいて、複数の微小区間それぞれに対応する複数の微小区間第1パラメータ分布を求め、前記関連性に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を移動することで、前記第1パラメータに前記第2パラメータが作用することによる、変化後の前記第1パラメータ分布を求める演算部と、を備える。
【0007】
本発明の他の形態は、プログラムであって、コンピュータを、互いに関連性を有する第1パラメータの第1パラメータ分布と、第2パラメータの第2パラメータ分布と、を取得する取得部及び前記第2パラメータ分布の微小区間毎の確率値と、前記第1パラメータ分布の変化に係る分布情報と、に基づいて、複数の微小区間それぞれに対応する複数の微小区間第1パラメータ分布を求め、前記関連性に基づいて、前記微小区間第1パラメータ分布を移動することで、前記第1パラメータに前記第2パラメータが作用することによる、変化後の前記第1パラメータ分布を求める演算部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分布を有する複数のパラメータの演算結果を精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る情報処装置の構成図である。
図2】移動体の位置と速度の関係を示す図である。
図3】第1演算処理を示すフローチャートである。
図4】第1演算処理の説明図である。
図5】実際に時系列演算を行った例を示す図である。
図6】時系列演算の相関関係を考慮しない同じ演算を行った例を示す図である。
図7】時系列演算の集約を説明するための図である。
図8】時間積分と距離積分の説明図である。
図9】微分方程式の解を求める処理の説明図である。
図10】微分方程式の解を求める処理の説明図である。
図11】微分方程式の解を求める処理の説明図である。
図12】dt*2秒後の位置分布を示す図である。
図13】第2演算処理を示すフローチャートである。
図14】3秒後の位置分布を演算した演算例を示す図である。
図15】位置分布の最小値と最大値を時系列にプロットしたグラフを示す図である。
図16】シミュレーションの説明図である。
図17】車間距離フィードバック制御の説明図である。
図18】車両の位置分布を示す図である。
図19】距離積分の説明図である。
図20】分布解を求める方法の説明図である。
図21】距離積分のステップを模式的に示す図である。
図22】距離積分の説明図である。
図23】変位量を求める演算の説明図である。
図24】位置を変更するステップの演算例を示す図である。
図25】位置を変更するステップの演算例を示す図である。
図26】1次元の累積分布の説明図である。
図27】2次元分布の累積分布の説明図である。
図28】加速度、速度及び位置の分布を示す図である。
図29】加速度、速度及び位置が分布として与えられた場合の時間積分を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態の情報処理装置100の構成を示すブロック図である。情報処理装置100は、値に分布を持つ複数のパラメータの演算を行う。図2に示すように、移動体の位置と速度のそれぞれが、その値にばらつきのある分布として与えられる場合がある。この場合、速度の速い移動体は、時間経過と共に、より遠くに移動する。一方で、速度の遅い移動体は、近傍に留まる。これは以下のことを示している。すなわち、位置と速度は、初期値として、それぞれに独立の分布が与えられたとしても、次の瞬間には、その位置と速度の間に相関関係が生じ、この相関は、時間経過と共に強くなっていく。これに対し、本実施形態の情報処理装置100は、時間と共に変化する相関関係を考慮した分布演算を行う。
【0011】
図1に示すように、情報処理装置100は、制御部110と、記憶部120と、UI部130と、通信部140と、を備えている。制御部110は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、ROM等に記録された種々のプログラムを、RAM等を用いてCPUが実行することで、情報処理装置100の各部を制御する。制御部110は、単一のチップで構成されていてもよく、複数のチップで構成されていてもよい。また、制御部110において、CPUに変えてASICが採用されてもよい。また、制御部110において、CPUとASICやGPU等の他の処理回路等とが協働して動作してもよい。
【0012】
記憶部120は、例えばハードディスクであり、各種情報や各種プログラムを記憶する。通信部140は、有線または無線で情報処理装置100に接続された他の装置と各種の通信プロトコルに従って通信するための通信インターフェース回路を含む。UI部130は、タッチパネル式のディスプレイ等の表示部と、各種のキーやスイッチ、マウス等の入力装置と、を含む。
【0013】
制御部110は、2以上の入力パラメータに対して演算を行う。制御部110は、具体的には、演算プログラム111を実行することにより、取得部112及び演算部113として機能する。以下、取得部112及び演算部113が行うこととして記載する処理は、制御部110が演算プログラム111を実行することにより行う処理である。なお、取得部112及び演算部113の処理については後述する。
【0014】
図3は、第1演算処理を示すフローチャートである。図4は、第1演算処理の説明図である。ここでは、ある位置に存在する移動体が、ある速度で移動する場合の、移動後の第1パラメータ、すなわち移動体の位置を求める場合を例に時系列演算について説明する。位置は、その値にばらつき、すなわち分布を持った値であるものとする。同様に、速度も、その値にばらつき、すなわち分布を持った値であるものとする。なお、位置及び速度は、第1パラメータ及び第2パラメータの一例であり、移動体の位置の分布(位置分布)及び速度の分布(速度分布)は、それぞれ第1パラメータ分布及び第2パラメータ分布の一例である。
【0015】
図4の右上に示すグラフのように、横軸(紙面の長手方向に沿った軸)を位置x、縦軸(紙面の短手方向に沿った軸)を速度vとする2次元平面を考える。xとvは、いずれも各軸に示すパラメータに対して分布(ばらつき)を持つ。図4の右下のグラフは、位置xの分布を示すグラフであり、横軸(紙面の長手方向に沿った軸)はx、縦軸(紙面の短手方向に沿った軸)は確率pを示す。グラフには、位置xの分布(位置分布x)として、位置分布x0の曲線201、位置分布x1の曲線202、及び位置分布x2の曲線203が示される。また、図4の左のグラフは、速度vの分布(速度分布v)を示すグラフであり、横軸(紙面の短手方向に沿った軸)は速度v、縦軸(紙面の長手方向に沿った軸)は確率pを示す。グラフには、速度vの分布(速度分布v)として、速度分布v0の曲線211、速度v1の曲線212が示される。なお、グラフにおいては、演算のために、位置xと速度vは、スケールが合わされている。
【0016】
移動体の初期位置x0の最小値及び最大値をそれぞれx0min及びx0maxとする。また、移動体の初期速度v0の最小値及び最大値をそれぞれv0min及びv0maxとする。この場合、演算対象となる移動体の1秒後の存在範囲は、初期位置x0と初期速度v0の範囲より、図4に示す矩形の範囲である初期範囲301となる。初期範囲301は、演算対象となる初期位置x0(xmin~xmax)と、初期速度v0(v0min~v0max)のすべての組み合わせを含む範囲であり、移動体が1秒後に存在する可能性がある範囲である。
【0017】
第1演算処理においては、まず、取得部112は、初期の位置分布x0及び速度分布v0を取得する(ステップS100)。ここで、位置分布x0は、位置範囲xmin~xmaxの確率値であり、速度分布v0は、位置範囲v0min~v0maxの確率値である。図4の例では、位置分布x0及び速度分布v0は、それぞれ曲線201及び曲線211で示される。次に、演算部113は、位置分布x0及び速度分布v0に基づいて、移動体の初期の存在範囲である初期範囲を設定する(ステップS102)。次に、演算部113は、初期範囲に基づいて、移動体の1秒後の範囲を設定する(ステップS104)。
【0018】
例えば、演算部113は、ステップS102において、図4に示す初期範囲301を設定し、ステップS104において、初期範囲301に基づいて、1秒後の範囲である第2範囲302を設定する。1秒後の位置分布は、初期範囲301の右上と左下それぞれの頂点から-1の傾きで補助線(一点鎖線)を下ろし、x軸(v=0の軸)との2つの交点の間の範囲(位置に速度×1秒を加算した値)となる。速度がv0minからv1minへ変化し、v0maxからv0maxへ変化する、というように、分布の通りに変化した(加速度にばらつきがない)とする。この場合、速度がv1minの場合の位置範囲は(式1)で示され、速度がv1maxの場合の位置範囲は(式2)で示される。

(xmin+v0min*1sec)~(xmax+v0min*1sec) …(式1)
(xmin+v0max*1sec)~(xmax+v0max*1sec) …(式2)

したがって、位置xかつ速度vの移動体の1秒後の存在範囲は、x-v座標で示すと、下記の4点で囲まれる平行四辺形状の第2範囲302となる。演算部113は、ステップS104において、(式1)及び(式2)で示される、位置範囲に基づいて、1秒後の範囲(第2範囲302)を設定する。

(xmin+v0min*1sec,v1min)
(xmax+v0min*1sec,v1min)
(xmin+v0max*1sec,v1max)
(xmax+v0max*1sec,v1max)
【0019】
次に、演算部113は、移動体の位置と速度の取り得る範囲である初期範囲301に対して、微小区間v0を設定する(ステップS106)。すなわち、演算部113は、速度v0minからv0maxの間の任意の速度であるv0で位置分布をスライスする。これにより、演算部113は、速度v0における位置分布xv0を求める(ステップS108)。位置分布xv0は、初期の位置分布x0のそれぞれの確率値と、速度分布v0における確率値と、の積の分布となる。すなわち、分布xv0は、(式3)で表される。ここで、位置分布xv0は、微小区間第1パラメータ分布の一例である。

位置分布xv0=位置分布x0*(速度分布v0での確率値) …(式3)
【0020】
次に、演算部113は、位置分布xv0を1秒後の範囲である第2範囲302内の速度v0に対応する速度v1に移動させる(ステップS110)。次に、演算部113は、速度v0minから速度v0maxまでのすべての微小区間を設定済みでない場合には(ステップS112でN)、処理をステップS106へ進め、新たに微小区間を設定する。演算部113は、すべての微小区間を設定済みの場合には(ステップS112でY)、処理をステップS114へ進める。なお、第2範囲302は、初期範囲301に基づいて定まる範囲であり、ここで、初期範囲301は、第1パラメータの変化に係る分布情報の一例である。すなわち、分布情報は、第1パラメータの変化後の分布を定める情報である。
【0021】
ステップS114において、演算部113は、(式4)で示される、1秒後の位置分布の範囲内の各位置x1に対し、下記演算を行う。すなわち、演算部113は、v1minからv1maxの範囲内の各速度分布xv1の範囲に存在する各位置x1における確率値の合計を算出する。これにより、各位置xに対する確率値が得られる。次に、演算部113は、1秒後の位置分布を出力する(ステップS116)。

(xmin+v0min*1sec)~(xmax+v0max*1sec) …(式4)
【0022】
例えば、図4に示す初期範囲301の分布xv0をv0minからv0maxまで変化させたそれぞれの分布でのx0での確率値を合計すると分布xのx0での確率値となるはずである。(x0,v0)での分布vx0の確率値は分布xのx0での確率値と分布vのv0の確率値の積である。このため、v0をv0minからv0maxまで変化させて合計すると分布vの面積は1.0であり、分布xのx0での確率値と一致するからである。
【0023】
この分布xv0は、1秒後の移動体の位置と速度の取り得る範囲である第2範囲302において、v0の1秒後の速度であるv1でスライスした分布xv1と一致する。なぜなら、この分布xv0をv0で移動した結果として(xmin+v0*1sec,v1)から(xmax+v0*1sec,v1)に移動して、v1をv1minからv1maxまで変化させることで、平行四辺形状の第2範囲302が形成されるからである。
【0024】
そして、速度v1をv1minからv1maxまで変化させた場合の、各速度v1での位置分布xv1の範囲に位置x1が存在する場合、1以上の位置分布xv1毎の、速度v1に対する確率値を合計する。これにより、位置x1における1秒後の位置分布の確率値が求まる。演算部113は、ステップS114において、このように、位置x1が一定となる、グラフ上のv軸に平行な直線に沿って、位置分布xと速度分布vの確率値の積を求め、確率値の積を合計することで、1秒後の位置分布を得る。
【0025】
以上、1秒経過に応じた変化後の位置分布を求め、これを出力する場合について説明した。演算部113は、これにより得られた変化後の位置分布を初期範囲として、ステップS102~ステップS114を繰り返すことで、n秒(nは3以上の自然数)経過に応じた変化後の位置分布を求め、これを出力してもよい。
【0026】
例えば、図4に示す第2範囲302の左に破線で示す、平行四辺形状の第3範囲303は、2秒後における移動体の存在範囲である。2秒後の位置分布をx2minからx2maxとすると、これらの値は、それぞれ(式5)、(式6)のように表される。

x2min=xmin+v0min*1sec+v1min*1sec …(式5)
x2max=xmax+v0max*1sec+v1max*1sec …(式6)

このx2minとx2maxの間にある任意の点x2の2秒後の位置分布の確率値は、速度をv2minからv2maxまで変化させたときの、位置分布xv2の各位置x2での確率値を合計することにより得られる。このように、演算部113は、所望の時間が経過した後の、変化後の位置分布を求めることができる。
【0027】
図5は、実際に時系列演算を行った例を示す図である。初期位置の分布xと速度分布vを与えて、1秒後から10秒後までの位置分布を演算した。図6は、同じ分布を用いて、時系列演算の相関関係を考慮しない同じ演算を行った例を示す図である。時系列演算の相関関係を考慮しない演算では、時間と共に分布の裾野で、確率値が0に近い領域が広がっていく。これに対し、時系列演算を考慮した演算では、初期の数秒は同様の傾向があるが、それ以降では、確率値が0に近い領域が広がることはない。以上のように、演算部113は、位置分布xと速度分布vの相関範囲を逐次計算し、この範囲を相関関係として条件を与えて次の分布演算を行うことで、時系列演算を実現することができる。
【0028】
次に、時系列演算の集約について説明する。図4に示すように、移動体の存在範囲(演算範囲)を示す平行四辺形は、時間の経過と共に細長くなり、移動体の存在範囲は、直線に集約される。図7は、集約後の存在範囲を示す図である。図7に示すように、位置分布xv1が一定のまま、v1minからv1maxまでの速度差によって、平行四辺形がx軸方向(横方向)に延びていく。これに伴い、移動体の存在範囲は、平行四辺形を囲う長方形320の対角線321上に集約されていく。ここで、対角線321は、移動体の存在範囲を形成する平行四辺形における位置xの最小値に対応した点s1、位置xの最大値に対応した点s2を対角の頂点とする長方形の対角線である。平行四辺形が十分に細長くなった場合の位置分布は、速度分布の相似形に近づいていく。従って、これ以降は速度分布のプロフィールを継承して分布を求めることができる。位置や速度に基づいてフィードバック演算などを行う場合は、この対角線のプロフィールを変化させることで結果の分布を求めることができる。このような処理については、続いて説明する時間積分において説明する。
【0029】
演算部113は、さらに、時系列演算を拡張した微分方程式の解を求める演算を行う。ここでは、設計として良く利用される技術として、時系列シミュレーションや構造設計を例に説明するが、そのための基礎技術として、微分方程式の解を求める為の積分演算について説明する。
【0030】
時間積分と距離積分は、数値演算では、同じ積分として扱われるが、分布演算では区別する必要がある。ここで、時間積分としては、距離、速度、加速度を時間で積分する例が挙げられる。距離積分としては、構造設計など、距離で積分する例が挙げられる。
【0031】
図8は、時間積分と距離積分の説明図である。図8の(式a1)は、時間による微分方程式を示し、(式b1)は、距離による微分方程式を示す。これらの解を求めるために、それぞれ(式a2)及び(式b2)の様に変形して、逐次積分の形に変形すると、それぞれ(式a3)及び(式b3)が得られる。(式a3)は、ある時点の距離xnが与えられた場合に、dt秒後の距離x(n+1)を求める式になっている。これをn=0からn=kまで逐次演算を行うと、(式a4)に示すように、任意時間の距離xkを求めることができる。距離積分において(式b3)において、例えば、距離xが与えられ、関数Fで与えられるひずみから変位を求めるとすると、(式b3)は、ある地点の変位ynが与えられた場合に、dx離れた場所の変位y(n+1)を求める式になっている。これをn=0からn=kまで逐次演算を行うと、(式b4)に示すように、任意の距離の変位ykを求めることができる。
【0032】
このように、時間積分と距離積分についての数値演算について説明したが、本実施形態の演算部113は、これを分布による積分に拡張した演算を行う。(式a4)及び(式b4)を簡素化するためにdt=1及びdx=1として単位時間及び単位距離の変化を考えると、時間積分における1秒後の位置は(式a5)で表され、2秒後の位置は(式a6)で表される。また、距離積分に1mの位置は(式b5)で表され、2mの位置は、(式b6)で表される。
【0033】
ここで、(式a6)はxa項と項xb項の和になっており、xaは1秒後の位置、xbはそこからの変化量(速度)である。前述した通り、このxaとxbの間には速度が速いものは遠方に移動し、遅いものは近傍に位置するという相関関係があり、それを考慮した演算をしなければならない。
【0034】
これに対し、(式b6)のya項とyyb項は現在の変位と次のひずみの関係になり、1mまでの距離と2mまでの距離ではそれぞれ異なる断面積や剛性によってひずみが変化することもあり、独立にバラツキが存在する。このため、両者に相関関係はなく、お互い自由なバラツキを持つと考えられる。
【0035】
以下では、時間積分を説明し、続いて距離積分について説明する。時間積分においては、演算部113は、初期の位置が時間経過に沿って速度に応じて変化する時系列演算を微小時間dtの場合に応用する。これにより、分布に対する時間積分を実現する。
【0036】
まず、時系列演算を行う場合の微分方程式の解として、時間積分を分布として演算するための課題と対処法について説明する。上述の時系列演算を拡張して、時間積分を使ったシミュレーションについて説明する。まずは、数値演算で微分方程式の解を求める方法として、差分法について説明する。
【0037】
時系列演算の例として、上述のように、速度v、位置x、時間tが、図8に示す(式a1)のような単純な微分方程式に従う場合を説明する。ある時点の速度がv、位置がxnとすると、差分法で微小時間dt秒後の位置x(n+1)を求めるためには、図8に示す(式a3)に示すようにxnに速度vと微小時間dtの積を加えたものを求めればよい。xnとvに初期値を入れて計算した結果のxn+1をxnに入れて再度演算を行い、x(n+2)を求める。これを繰り返せば位置xの時間変化を求めることができる。
【0038】
以上は、数値積分によって微分方程式の解を求める方法である。演算部113は、この数値を分布に置き換えた微分方程式の分布解を求める。図9の左のグラフは、位置分布を示す。グラフの横軸は時間t、縦軸は位置xを示す。位置xnと、位置x(n+1)は、図9の右下のグラフ及び右上のグラフに示すように、それぞれ位置分布401、402として与えられる。図9の左のグラフの上の曲線411は、位置分布の上限値を示し、下の曲線412は位置分布の下限値を示す。図9の左のグラフに示されるように、位置の上限値と下限値の間隔は、時間の経過と共に大きくなる。位置の数式を分布として示すと(式7)のように表される。

x(n+1)=xn+v*dt …(式7)

(式7)において、位置分布xnと速度分布vからdt秒後の位置分布x(n+1)を求めることができれば、数値積分と同様に分布による分布積分が可能になる。しかし、この右辺の2項目であるv*dtは分布による演算では求まらない。例えばdt=0.01秒であった場合、v*dtは、100回の和が分布vとなる分布を求めることを意味する。しかしながら、分布演算は、逆演算が不可能で、和を求めると所定の分布になる場合の元の分布を求めることはできない。vを分割した分布を求めても、その和はvにならない。
【0039】
そこで、演算部113は、図10に示すように、位置xnにおける位置分布421から位置x(n+1)における位置分布423を直接求めるのではなく、単位時間である、1秒後の位置xn+vにおける位置分布422を求める。そして、演算部113は、位置xnと位置xn+vの2つの位置分布421、422から、位置x(n+1)、すなわち位置xn+v*dtにおける位置分布423を求める。
【0040】
図11は、図4に示した初期範囲301及び第2範囲302の拡大図である。dt秒後の位置xと速度vより、dt秒後の移動体の存在範囲は、第3範囲303となる。第3範囲303は、長方形状の初期範囲301と、平行四辺形状の第2範囲302を、dt:(1-dt)の比で分割した位置範囲となる。第3範囲303は、下記の4点を頂点とする平行四辺形である。

(xmin+v0min*dt,v0min*(1+dt))
(xmax+v0min*dt,v0min*(1+dt))
(xmin+v0max*dt,v0max*(1+dt))
(xmax+v0max*dt,v0max*(1+dt))
【0041】
第3範囲303の速度範囲をv0min'とv0max'とし、その間にある任意の速度をv0'として、この速度v0'でスライスすると、スライスされた領域の分布は、図4を参照しつつ説明した位置分布vx0と等しくなる。ここで、(式8)で示されるdt秒後の位置分布の範囲の間にある任意の点をx0'とする。速度v0'での位置分布vx0'が、x0'の位置に確率値を持てば、v0'をv0min'からv0max'まで変化させた場合の、それぞれのx0'での確率値を合計したものがdt秒後の位置分布のx0'での確率値となる。

(xmin+v0min*dt)~(xmax+v0max*dt) …(式8)
【0042】
演算部113は、これを(式9)で示される範囲のまでのすべての値で求めることで、dt秒後の位置分布を求める。

xmin+v0min*dtからxmax+v0max*dt …(式9)

こうして得られた分布がxn+v*dt秒後の位置分布となる。このx(n+1)と次のvからx(n+2)が求まり、分布としての時系列演算を行うことが可能となる。これが数値演算を分布に拡張した分布積分である。
【0043】
図12は、dt*2秒後の位置分布を示す図である。dt*2秒後の位置分布の求め方を説明する。演算部113は、dt秒後における、移動体の存在範囲である第3範囲303の1秒後の範囲である第4範囲304を求める。そして、演算部113は、第3範囲303と第4範囲304を、dt:(1-dt)の比で分割した範囲である第5範囲305を、dt*2秒後の移動体の存在範囲として求める。第5範囲305は、下記の4点を頂点とする平行四辺形である。

(xmin+(v0min+v1min)*dt,v0min*(1+dt*2))
(xmax+(v0min+v1min)*dt,v0min*(1+dt*2))
(xmin+(v0max+v1max)*dt,v0max*(1+dt*2))
(xmax+(v0max+v1max)*dt,v0max*(1+dt*2))
【0044】
図13は、分布積分を行う第2演算処理を示すフローチャートである。ステップS200~ステップS204の処理は、それぞれ図4を参照しつつ説明した、第1演算処理のステップS100~ステップS104の処理と同様である。第2演算処理においては、ステップS204の処理の後、演算部113は、移動体のdt秒後の存在範囲である、第3範囲310を設定する(ステップS206)。続く、ステップS208~ステップS210の処理は、ステップS106~ステップS108の処理と同様である。ステップS210の処理の後、演算部113は、位置分布xv0をdt秒後の範囲である第3範囲310内の、速度v0に対応する速度v0'に移動させる(ステップS212)。次に、演算部113は、速度v0minから速度v0maxまでのすべての微小区間を設定済みでない場合には(ステップS214でN)、処理をステップS208へ進め、新たに微小区間を設定する。演算部113は、すべての微小区間を設定済みの場合には(ステップS214でY)、処理をステップS216へ進める。ステップS216~ステップS218の処理は、ステップS114~ステップS116の処理と同様である。
【0045】
さらに、演算部113は、上記処理により得られた位置分布を初期範囲として、ステップS202~ステップS216の処理を繰り返すことで、所定時間の経過に応じた変化後の位置分布を求めることができる。図14は、dt=0.01とし、時系列演算を300回繰り返すことで、3秒後の位置分布を演算した演算例を示す図である。図15は、300回の間の位置分布の最小値と最大値を時系列にプロットしたグラフを示す図である。図15のグラフの横軸は、時間t、縦軸は、速度vを示す。図15のグラフからも、時間の経過と共に、位置のバラツキが広がっていることがわかる。
【0046】
演算部113は、さらに、時系列積分によってシミュレーションを行う際に、フィードバック制御などで移動体に力が加わる場合の運動の変化の演算も行う。フィードバック制御としては、本来なら、移動体の存在範囲内のすべての点に対して、どのように力を受けて、どのように速度や加速度が変化するかを求めた上で、各位置に存在する確率を求める必要がある。しかしながら、演算が複雑になる。そこで、本実施形態の演算部113は、シミュレーションを簡易な演算で実現する。
【0047】
図7を参照しつつ説明したように、速度と位置で定まる、移動体の存在範囲は、時間の経過と共に、その平行四辺形の形状が、x軸方向に細長くなっていき、やがて平行四辺形の最小点から最大点を結ぶ対角線上のラインに集約されていく。この対角線のライン上に集約されてから、対象物に力が作用して、その変化をシミュレートすることにすれば、考慮するべきポイントは格段に少なくて済む。
【0048】
図16の左のグラフは、dt*n秒後の状態、中央のグラフは、dt*(n+1)秒後の状態、右のグラフは、dt*(n+m)秒後の状態を示す。dt*n秒時点では、平行四辺形の領域が十分細長くなっており、上記において説明した任意の点x0'として加算する対象点(位置)が少なくなる。このため、演算精度が悪化することがある。そこで、本実施形態の演算部113においては、次のタイミングで平行四辺形に分散している情報を対角線上のライン上に集約させる。具体的には、演算部113は、分布のvを微小に分割したの分割幅dvに対して平行四辺形を縦方向(v軸方向)に割った断面の高さdvの10倍程度以下の高さになった時点でライン上に集約する。この時点では、速度の分布vと位置xの分布形状はほぼ相似形状をしている。
【0049】
演算部113は、その分布と同じ分割数でラインを分割して、その分割毎にその領域の確率値、位置、速度、加速度の情報を持つスポットを設定する。そして、演算部113は、これ以降は、このスポット毎に動きをシミュレートしてシミュレート結果を位置と速度の分布に投影して分布を求める。図16の中央のグラフは、dt*(n+1)秒後の状態を示すグラフであり、このスポットが設定された状態を示している。演算部113は、dt*m秒後に制御力などがスポットそれぞれに付与する。これにより、各スポットに対し、それぞれ異なる動きがシミュレートされ、スポットの密度や確率値から分布が作成される。図16の右のグラフは、dt*(n+m)秒後における、シミュレート結果を示している。
【0050】
シミュレーションとしては、先行車との車間距離に応じて加速度を制御するフィードバック制御が挙げられる。分布演算では、フィードバック制御によって車両はどこの位置を通過するか、といったことを分布として求めることができる。したがって、接近距離や車速の変化といった多くの状態量を分布として確率的に演算することが可能となり、様々なリスク設計や性能設計に応用できる。
【0051】
ここで、図17(A)に示すように、先行車と自車の車間距離をフィードバック制御する場合について説明する。自車の速度と位置のばらつきは、図14に示す分布を示すものとし、遅い先行車に追いついて接近した車間距離に応じて加速度を制御する演算を行った。ここで、dtを0.05秒、初期目標距離を40m、先行車速度60km/h、自車速度21.17~24.67m/sとした。図17(B)に示すように速度が変動した状態で、図18に示すような走行距離に応じた変動状態の分布が得られた。なお、図17(B)のグラフの横軸は時間、縦軸は速度を示す。また、図18の横軸は走行距離、縦軸は、確率を示す。この車間距離の分布と、車間距離の目標分布と、を比較することにより、車間距離が目標以下となるような危険な状態となる確率を求めることが可能である。
【0052】
フィードバック制御としてPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)が行われるものとした。この演算においては、変化をわかりやすくするために制御し始める位置を目標車間距離の後方40m程度とかなり短い距離に設定し、大きく変動して発散気味にした。距離フィードバックゲインは5m/s/m、積分項0.002m/s/m、微分項80m/s/mとする。ここで、距離フィードバックゲインは、制御目標である車間距離Xm(任意の値)からの距離差に比例した加速度が付与される比例定数である。PID制御では、距離差に加えて、距離の積分値に比例する加速度、距離の微分値に比例する加速度が考慮される。図17(B)のグラフは、比例項に加えて、積分項及び微分項を考慮して車速変動を収束させた場合を示している。
【0053】
PID制御において、4秒程度で、図16の右に示すグラフのように、演算領域がライン上に集約され、その直後から車間距離に応じた制御が開始される。図18に示すように、5秒後の位置では、まだ制御の影響はほとんどなく、図14に示す3秒後の分布とほぼ相似形で安定している。その直後、分布のピークは左右に大きく変動し、25秒位まで乱れている。30秒以降では、再び分布の形状は安定し、その範囲も10m以内に収束する。速度の範囲も極狭い範囲に制御される。これは、図17(B)の速度が距離の変動に連動し、速度が安定している間は、距離分布も形状が安定して相似形であるが、速度の変化が大きい期間においては、分布の形状も大きく変動することに起因する。分布の形状が変動していることは、車両の速度がランダムに変化していることを示しており、車両の挙動が安定していないことがわかる。車両の挙動が安定するためには、分布形状が変動していないことが必要である。このように、分布演算により、車両がどの位置を通過するか、等を分布として求めることで、近接距離や車速の変化といった多くの情報量を分布として確率的に演算することが可能となり、様々なリスク設計や性能設計への応用が可能である。
【0054】
次に、距離積分について説明する。ここでは、構造設計を例として距離を積分変数とする方程式の分布解について説明する。距離積分は、時間積分とほぼ同じであるが、最後に分布を求める処理が時間積分と異なる。ここでは、距離積分は、図8に示す(式b1)の微分方程式に従う場合について説明する。yやF(x)としてどのようなパラメータとするかで、様々な構造設計に対する応用が考えられるが、ここではF(x)は、所定の位置を基準とした距離xでのひずみ、yはひずみをx横方向に積分した物体の変位量とする。
【0055】
ある地点xのひずみがF(x)、変位がynとする。この場合、差分法で微小距離dx変化した場合の面積y(n+1)を求めるためには、演算部113は、図8の(式b3)に示すように、ynにひずみF(x)と微小距離dxの積を加えたものを求めればよい。ynとF(x)に初期値を入れて計算した結果のy(n+1)をynに入れて再度演算を行い、y(n+2)を求める。それを繰り返せば変位yがx方向に移動した際の変化を求めることができる。図19は、ynとy(n+1)とxの関係をグラフで示す図である。グラフの横軸は、距離x、縦軸は変位yを示す。
【0056】
以上は、従来の数値積分によって積分の演算結果を求める方法であるが、以下では、数値を分布に置換えた分布解を求める方法について説明する。図20は、変位yを分布に置き換えたグラフを示す図である。図20の左のグラフは、変位yの分布を示す。グラフの横軸は、距離x、縦軸は変位yを示す。変位ynと変位y(n+1)は、図20の右下のグラフ及び右上のグラフに示すように、それぞれ変位分布501、502として与えられる。図20の左のグラフの上の曲線511は、変位分布の上限値を示し、下の曲線512は変位分布の下限値を示す。図20の左のグラフに示されるように、変位の上限値と下限値の間隔は、距離xが大きくなるにつれて大きくなる。

y(n+1)=yn+F(x)*dx …(式10)

(式10)において、変位分布ynとひずみの分布F(x)からdxの微小距離だけ移動した位置の変位の分布y(n+1)を求めることができれば、数値積分と同様に分布による分布積分が可能になる。しかし、時間積分と同様にこの右辺の2項目であるF(x)*dxは分布による演算では求まらない。
【0057】
そこで、演算部113は、時間積分の場合と同様に、単位距離である1m移動した位置での分布であるyn+F(x)を求める。その後、ynとyn+F(x)の2つのそれぞれの分布の確率値がdx:(1-dx)の加重平均となる分布を求める。具体的には、演算部113は、xnとxn+vの分布形状を画像処理で使われるモーフィングを行い、そのynからyn+vに至る変化のdxだけ変化した過程をyn+1として代用する。これによって得られた分布は、モーフィングを1/dx回繰り返すとyn+F(x)と、かなり近い分布となる。これにより、yn+1の代替となる分布が得られる。これが数値演算を分布に拡張した分布積分である。モーフィングとは、ひとつの画像から別の画像になめらかに変化させるコンピューターグラフィックスによる映像手法であるが、本実施形態においては、演算部113は、ある分布から別の分布に、なめらかに変化させてその途中の分布をyn+1として採用する。具体的には、演算部113は、2つの分布に共通なある特徴点を指定して、その特徴点をdx:(1-dx)で加重平均した点を結ぶ分布をdxだけ変化した場合の分布として得る。
【0058】
図21は、距離積分のステップを模式的に示す図である。初期位置での変位分布y0と、そこから単位距離である1m離れた位置でのひずみ分布であるy0+F(x)から、モーフィングによってdx離れた位置での変位分布y1が得られる。ここでは、初期の変位分布とは0であるので、単位距離のひずみの範囲をdx倍して、相似形の分布を初期分布として、dxずれた位置から積分を始めるものとする。さらに、変位分布y1とそこから単位距離である1m離れた位置での面積分布y1+F(x)から、モーフィングによってdx離れた位置での変位分布y2が得られる。この処理が繰り返されることで、yの距離積分が実現できる。
【0059】
図22は、距離積分の説明図である。図22のグラフは、横軸を変位y、縦軸をひずみFとする2次元平面を示している。図22のグラフの横軸と縦軸は、それぞれ、物体に対する、第1パラメータとしての変位yと、第2パラメータとしてのひずみFである。変位分布y0からdx離れた位置での変位分布y1を求める演算は、図11を参照しつつ説明した、時間積分において、位置分布xからdt秒後の位置分布x+dxを求める演算と同様である。
【0060】
初期範囲601は、演算対象となる初期変位y0(ymin~ymax)と、初期ひずみF0(F0min~F0max)のすべての組み合わせを含む範囲である。演算部113は、初期範囲601に基づいて、距離1mの範囲である第2範囲602を設定する。第2範囲602は、初期範囲601の右上と左下それぞれの頂点から-1の傾きで補助線を下ろし、y軸(F=0の軸)との2つの交点の間の範囲となる。さらに、dx離れた位置での変位とひずみの範囲である範囲は、第3範囲603となる。第3範囲603は、長方形状の初期範囲601と、平行四辺形状の第2範囲602をdx:(1-dx)で分割した位置範囲となる。第3範囲603は、下記4点を頂点とする平行四辺形である。

(ymin+F0min*dx,F0min*(1+dx))
(ymin+F0max*dx,F0max*(1+dx))
(ymax+F0min*dx,F0min*(1+dx))
(ymax+F0max*dx,F0max*(1+dx))
【0061】
ただし、dx*2離れた位置の変位分布y2を求める場合の処理は、時間積分の場合の処理と異なる。距離積分においては、変位yとひずみFの間に相関がないため、dx*2の変位分布y2を求める場合に、平行四辺形状の第3範囲603ではなく、第3範囲603に接する長方形状の第4範囲604(図22において点線で示す)を基準とする。ここで、第4範囲604は、下記の4点を頂点とする長方形である。

(ymin+F0min*dx,F0min*(1+dx))
(ymax+F0max*dx,F0min*(1+dx))
(ymin+F0min*dx,F0max*(1+dx))
(ymax+F0max*dx,F0max*(1+dx))
【0062】
演算部113は、dx離れた位置における第4範囲604から1m離れた範囲である第5範囲605を求める。そして、演算部113は、第4範囲604と第5範囲605を、dx:(1-dx)の比で分割した範囲である第6範囲606を、dx*2離れた位置における範囲として求める。第6範囲606は、下記の4点を頂点とする平行四辺形である。このように、第6範囲606は、第4範囲604に基づいて定まる範囲であり、第4範囲604は、第1パラメータの変化に係る分布情報の一例である。このように、分布情報は、初期の第1パラメータの情報を引き継がない、変化直前の第1パラメータの情報であってもよい。

(ymin+(F0min+F1min)*dx,F0min*(1+dx*2))
(ymax+(F0max+F1min)*dx,F0min*(1+dx*2))
(ymin+(F0min+F1max)*dx,F0max*(1+dx*2))
(ymax+(F0max+F1max)*dx,F0max*(1+dx*2))
【0063】
図23に示すように、棒に力Pが作用したときに位置xでのひずみをF(x)、変位量をyとして、微小範囲dxでの変位量F(x)*dxをx=0から先端までを積分して、トータルの変位量を求める計算を行った。その際に、棒の途中まではひずみFx(x)が比較的高く(F(x)=0.005~0.008、平均0.006、標準偏差0.0004)、それ以降は比較的低く(F(x)=0.003~0.006、平均0.005、標準偏差0.0004)設定した。
【0064】
断面積をA、剛性をE、長さLとすると、力Pと変位yの関係は(式11)で表される。(式11)は、(式12)のように変形して、断面積Aが位置によって変化することを想定して変位yを求めることを考えると、xから微小範囲dxずれた位置での変位dyは(式13)で表される。これをx=0から先端まで積分するとトータルの変位量が求まる。ここで、「P/(E*A(x))」をF(x)とおくと(式14)になり、これは先に分布積分を説明した(式b2)と等しくなる。

P/A=E*y/L ・・・(式11)
y=P*L/(E*A) ・・・(式12)
dy=dx*P/(E*A(x)) ・・・(式13)
dy=F(x)*dx ・・・(式14)
【0065】
図24は、位置を変更するステップを実際に演算した例である。初期の変位分布をy0=0とおいて、ひずみ分布F(x)=0.005~0.008から、dx=0.1離れた位置の変位分布yを求め、それを10回繰返し、単位距離離れた1mの位置での変位分布を求めた。この演算結果により、(a)のひずみ分布F(x)に対し、0.1m位置では、(b)に示す変位分布yが得られ、さらに、1.0mでは(c)に示す変位分布yが得られた。
【0066】
その後、1mの位置での変位を初期の変位y0とおいて、ひずみの分布F(x)=0.003~0.006、dx=0.1として繰返し数20回で、積分を行うと1+2m位置での変位分布を求めることができる。これにより、(d)のひずみ分布F(x)に対し、1.1mでは、(e)に示す変位分布yが得られ、さらに、3.0mでは、(f)に示す変位分布yが得られた。
【0067】
図24に示す(b)、(c)のグラフにおいては、変位y0=0から積分が行われる。このため、積分途中のyの分布は、すべて前半のひずみF(x)に相似の形状の分布になる。一方で、図(e)、(f)のグラフにおいては、前半のひずみに相似な形状から始まり、徐々に後半のひずみの形状に近付いていく。
【0068】
3.0m位置での変位分布は、1.0m位置での変位に後半のひずみ2.0m分(F(x)*2)を加算した分布になるはずである。そこで、検証を行った。図25の(c)のグラフは、(b)に示す1.0m位置での変位yに、(a)に示す後半のひずみ分布F(x)を2回和算した分布である。この(c)に示す変位分布yは、図24の(f)に示す3.0m位置での変位分布y(図25の(d))とほぼ同じ形状になった。このことから、距離積分が十分な精度で実現されていることが確認できる。
【0069】
なお、距離積分は、これ以外にも、温度と熱量の関係、圧力と流速の関係、エネルギーと電荷といった2つのパラメータの演算に対しても適用可能である。例えば、温度伝搬のシミュレーション、熱機関の設計、飛行機の翼の設計等に適用可能である。
【0070】
情報処理装置100はさらに、2つの分布を比較する処理を行うことができる。分布の比較を行うために、まず累積分布の求め方について説明する。図26は、1次元の累積分布の説明図である。図26に示すグラフの横軸は、パラメータxを示し、縦軸はその頻度(確率)pを示す。実線で示す分布701は、対象となる確率分布であり、分布702は、目標分布である。図26に示すように、目標分布702のうち、確率分布701よりも小さいパラメータの面積と、対象となる確率分布701と、の積が、目標値を上回る確率となる。したがって、目標分布としては累積分布を考える必要がある。破線703は、確率分布をプラス方向に累積した累積分布を示している。x軸上のある点x1における累積分布の確率値は、パラメータxの最小値からx1までの確率分布を積分した面積になる。この面積の最小値から最大値まで求めたものがパラメータxのプラス方向の累積分布となる。演算部113は、確率分布701のうち、この累積分布を超える確率を、確率分布701で示される実力が目標分布702を上回る確率として演算する。同様に、マイナス方向に累積した累積分布は、x1での累積分布の確率値を、パラメータxの最大値からx1まで積分した面積になる。この面積の最小値から最大値まで求めたものがパラメータxのマイナス方向における累積分布となる。演算部113は、確率分布701のうち、この累積分布を下回る確率を、確率分布701で示される実力が目標分布702以下となる確率として演算する。このように、演算部113は、あるパラメータ分布と、目標値の分布である目標分布と、の比較を行うことにより、目標値を超える確率、目標を下回る確率、目標に一致する確率、というように、目標を達成する確率を演算することができる。
【0071】
さらに、多次元分布を比較する場合には、目標となる累積分布の累積方向に範囲を有する方向として定義される。その範囲を有する方向に累積された多次元分布と、比較対象の分布(対象となる確率分布)との確率値の積を求め、面や立体の範囲で合計したものがその範囲の方向に向かう範囲となる。
【0072】
図27は、2次元分布の累積分布の説明図である。図26に示すグラフの横軸及び縦軸は、それぞれパラメータx、yを示す。x、yに垂直な軸(紙面に垂直な軸)に沿った等高線で、累積分布を示している。実線は、確率分布であり、破線で示される範囲が累積分布である。この場合、xy平面上のある点(x1,y1)における累積分布の確率値は、(x1,y1)に向かうすべての累積方向に含まれる確率分布の確率値を積分した体積とする。図27において斜線で示す範囲711は、(x1,y1)の累積方向が含まれる範囲であり、この範囲711の確率分布の確率値を積分した体積が(x1,y1)の累積した確率値となる。この確率値を分布のパラメータx、yのすべての範囲で求めた結果が2次元の累積分布となる。
【0073】
3次元分布の累積分布は、一つの3次元ベクトルとそれを中心とする2つの角度で定義される。3次元の確率分布のパラメータ範囲のポイント(x1,y1,z1)の累積分布の確率値は、その点を頂点とするベクトルと2つの角度で示された四角錐の内側の確率分布の確率値を積分した超体積となる。
【0074】
以上のように、多次元の累積分布は、範囲を有する方向を定義し、定義された方向に向かって確率分布を積分したものである。こうして得られた累積分布が定義されることによってはじめて2つの分布を比較することが可能になる。
【0075】
次に、加速度、速度及び位置が分布として与えられる場合について説明する。図28は、加速度、速度及び位置の分布を示す図である。加速度分布から、速度分布が得られる。情報処理装置100が、加速度分布から、変化後の速度分布を求める処理は、図4を参照しつつ説明した、速度分布から、変化後の位置分布を求める処理と同様である。続いて、速度と位置の演算において、情報処理装置100は、加速度のばらつきを考慮して、速度毎に到達する位置の広がりを求める。例えば、1秒後の速度がv1である場合、情報処理装置100は、0秒時点の最大速度と最小速度を求め、最大速度から最小速度の範囲で0秒時点の位置分布(xvlowからxvhigh)を求める。これは、0秒時点の位置分布に速度毎の確率値を掛けた積の分布になる。位置分布(xvlowからxvhigh)は、その速度毎に1秒後の位置が定まる。そこで、情報処理装置100は、速度毎の位置分布を、x1秒後のv1のライン上に並べて、それぞれの確率値を合計した分布を作成する。そして、情報処理装置100は、v1をv1minからv1maxまで変化させ、位置毎に確率値の合計を求める。これにより、1秒後の位置分布が得られる。
【0076】
図29は、加速度、速度及び位置が分布として与えられた場合の時間積分を示す図である。加速度分布から、変化後の速度分布を求める処理は、図11を参照しつつ説明した、速度分布から、変化後の位置分布を求める処理と同様である。続いて、速度と位置の演算において、情報処理装置100は、加速度のばらつきを考慮して、速度毎に到達する位置の広がりを求める。例えば、dt秒後の速度がv1である場合、情報処理装置100は、0秒時点の最大速度と最小速度を求め、最大速度から最小速度の範囲で0秒時点の位置分布(xvlowからxvhigh)を求める。位置分布(xvlowからxvhigh)は、その速度毎に1秒後の位置が定まる。そこで、情報処理装置100は、dt秒後のv1のライン上に、速度毎の位置分布を並べて、それぞれの確率値を合計した分布を作成する。そして、情報処理装置100は、v1をv1minからv1maxまで変化させ、位置毎に確率値の合計を求める。これにより、dt秒後の位置分布が得られる。
【0077】
以上のように、本実施形態の情報処理装置100は、分布を有する複数のパラメータの演算結果を従来よりも高精度に求めることができる。
【0078】
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えばある変形例を他の変形例に適用するなど、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、情報処理装置100を構成する各部の少なくとも一部が複数の装置やシステムに分かれて存在していてもよい。また、上述の実施形態の一部の構成が省略されてもよいし、処理の順序が変動または省略されてもよい。
【0079】
さらに、本発明は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のようなシステム、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。例えば、以上のようなシステムで実現される方法、プログラムを提供することが可能である。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、装置を制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし半導体メモリであってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【符号の説明】
【0080】
100 情報処理装置
110 制御部
112 取得部
113 演算部
120 記憶部
130 UI部
140 通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29