(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093368
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】鉄鉱石の脱リン方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/10 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
C22B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209696
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】石山 理
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA09
4K001CA15
4K001CA16
4K001DA10
4K001GA09
4K001GB09
4K001HA09
(57)【要約】
【課題】鉄鉱石からリン成分を除去する脱リン処理において、大量かつ効率的な処理が可能な新規な鉄鉱石の脱リン方法を提供する。
【解決手段】リン成分を含有する鉄鉱石からリンを除去する脱リン方法であって、鉄鉱石に対して酸化性又は不活性の流動ガスを供給し、鉄鉱石に含まれる結晶水が分解して脱水する温度以上の加熱温度で鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、酸化性又は不活性の流動ガスによって、リン成分の少なくとも一部が除去された脱水処理後鉄鉱石と、流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、第1の流動層加熱工程を有することを特徴とする鉄鉱石の脱リン方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン成分を含有する鉄鉱石からリンを除去する脱リン方法であって、
鉄鉱石に対して酸化性又は不活性の流動ガスを供給し、前記鉄鉱石に含まれる結晶水が分解して脱水する温度以上の加熱温度で鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、
前記酸化性又は不活性の流動ガスによって、リン成分の少なくとも一部が除去された脱水処理後鉄鉱石と、前記流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、
第1の流動層加熱工程を有することを特徴とする鉄鉱石の脱リン方法。
【請求項2】
前記脱水処理後鉄鉱石に対して還元性の流動ガスを供給し、前記脱水処理後鉄鉱石に含まれるリンの化合物が還元分解する温度以上の加熱温度で前記脱水処理後鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、
前記還元性の流動ガスによって、前記リンの化合物の少なくとも一部が還元除去された還元処理後鉄鉱石と、前記流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、
第2の流動層加熱工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【請求項3】
前記脱水処理後鉄鉱石を粗粒部と細粒部とに分級する分級工程をさらに有し、前記第2の流動層加熱工程に供給する前記脱水処理後鉄鉱石として、前記粗粒部を用いることを特徴とする請求項2に記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【請求項4】
前記流動層加熱処理は、気泡流動層および循環流動層のうち、少なくともいずれかによる加熱処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石の脱リン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用原料としての焼結鉱において管理が重要な成分の一つに、リン(P)がある。リンは鉄との親和力が大きく、鉄鉱石に含まれるリンが、溶銑の製造を経て鋼材に残存しやすい。残存したリンは鋼材中の組織において低温脆性破壊の要因となり鋼材の品質を著しく損なう。そのため、リンの原料中における管理は溶銑の品質管理基準に広く採用されており、様々な鉄鉱石中のリンの低減方法も提案されている。
【0003】
例えば非特許文献1には、鉄鉱石を浮遊選鉱することによって、微粉部(粒径150μm以下)に含有されるリンを低減する方法が示されている。しかしながら、このような湿式処理においては、大量且つ効率的な鉄鉱石処理を実現することは困難である。
【0004】
非特許文献2には、豪州産ゲーサイト鉱を対象として、粒度別にリン含有量を把握しつつ、酸浸漬によってリンの低減を図ることが提案されている。最小篩目を2mmとし、プロセスとして大量処理の実現が可能である粒度領域を選択しているものの、湿式処理であるがゆえに大量且つ効率的な鉄鉱石処理を実現することは困難である。
【0005】
また、非特許文献3では、鉄鉱石に含まれるリンを還元して蒸気として除去する方法も提案されており、特許文献1はさらに還元ガスの組成と温度範囲を限定することで鉄鉱石中のリンを効率的に還元し、気化させて除去する方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Ranjbar, ERZMETALL 55(2002) Nr.11, p.612-616.
【非特許文献2】C. Edwards, M. Fisher-White, R. Lovel, and G. Sparrow, IRON ORE CONFERENCE, Perth, WA 11-13 July 2011, p.403-412.
【非特許文献3】雀部:鉄と鋼100(2013)063「高リン鉄鉱石からの直接脱リン」
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の湿式処理による方法は上述の通り大量かつ効率的な脱リン処理は難しい。また、特許文献1に記載の還元・気化による脱リン方法の場合は、還元ガスの組成と温度を正確にコントロールする必要があり、効率的な脱リン処理は難しかった。
【0009】
そこで本発明は、鉄鉱石からリン成分を除去する脱リン処理において、大量かつ効率的な処理が可能な新規な鉄鉱石の脱リン方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)リン成分を含有する鉄鉱石からリンを除去する脱リン方法であって、
鉄鉱石に対して酸化性又は不活性の流動ガスを供給し、前記鉄鉱石に含まれる結晶水が分解して脱水する温度以上の加熱温度で鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、
前記酸化性又は不活性の流動ガスによって、リン成分の少なくとも一部が除去された脱水処理後鉄鉱石と、前記流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、
第1の流動層加熱工程を有することを特徴とする鉄鉱石の脱リン方法。
【0012】
(2)前記脱水処理後鉄鉱石に対して還元性の流動ガスを供給し、前記脱水処理後鉄鉱石に含まれるリンの化合物が還元分解する温度以上の加熱温度で前記脱水処理後鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、前記還元性の流動ガスによって、前記リンの化合物の少なくとも一部が還元除去された還元処理後鉄鉱石と、前記流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、第2の流動層加熱工程をさらに有することを特徴とする上記(1)に記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【0013】
(3)前記脱水処理後鉄鉱石を粗粒部と細粒部とに分級する分級工程をさらに有し、前記第2の流動層加熱工程に供給する前記脱水処理後鉄鉱石として、前記粗粒部を用いることを特徴とする上記(2)に記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【0014】
(4)前記流動層加熱処理は、気泡流動層および循環流動層のうち、少なくともいずれかによる加熱処理であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の鉄鉱石の脱リン方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄鉱石からリン成分を除去する脱リン処理において、大量かつ効率的な処理が可能な新規な鉄鉱石の脱リン方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る脱リン方法の工程および流動層加熱装置の構成を示す図である。
【
図2】脱リン方法の別の実施形態の工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る鉄鉱石の脱リン方法を図面に基づき説明する。
図1は、第1の流動層加熱工程と第2の流動層加熱工程を有する、本実施形態の脱リン方法の工程及び流動層加熱装置の装置構成を示す図である。第1の流動層加熱工程は、第1の流動層加熱装置1で実施され、第2の流動層加熱工程は、第2の流動層加熱装置2で実施される。なお、後述の通り第1の流動層加熱工程だけでも脱リンは可能であるので、脱リン処理として第1の流動層加熱工程のみ実施してもよい。
【0018】
本実施形態の脱リン方法は、高リン鉄鉱石などのリン成分を含む鉄鉱石からリン(P)を除去する方法である。具体的には、鉄鉱石に対して酸化性又は不活性の流動ガスを供給し、鉄鉱石に含まれる結晶水が分解して脱水する温度以上の加熱温度で鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、酸化性又は不活性の流動ガスによって、リン成分の少なくとも一部が脱水により除去された脱水処理後鉄鉱石と、流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、第1の流動層加熱工程を有するものである。
【0019】
また、本実施形態の鉄鉱石の脱リン方法は、上記脱水処理後鉄鉱石に対して還元性の流動ガスを供給し、脱水処理後鉄鉱石に含まれるリンの化合物が還元分解する温度以上の加熱温度で脱水処理後鉄鉱石を流動させて加熱する流動層加熱処理を行い、上記還元性の流動ガスによって、リンの化合物の少なくとも一部が還元除去された還元処理後鉄鉱石と、流動層加熱処理によって生じるダストと、に分離する、第2の流動層加熱工程をさらに有するものである。
【0020】
なお、本実施形態の脱リン方法を適用する鉄鉱石としては、たとえばリン成分を0.06質量%程度以上含有する高リン鉄鉱石があげられるが、これに限られない。高リン鉄鉱石以外であっても、リン成分を含む鉄鉱石であれば本実施形態の方法によって脱リン処理を行うことができる。本実施形態の以下の説明においては、高リン鉄鉱石などリン成分を含む鉄鉱石を、単に鉄鉱石と記載する。
【0021】
また、本実施形態において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む数値範囲を意味する。
【0022】
第1の流動層加熱工程について説明する。第1の流動層加熱工程は、酸化性ガス又は不活性ガスを流動ガスとして鉄鉱石の粒子に対して供給し、流動層を形成して鉄鉱石を加熱する。この流動層による加熱処理(以下、流動層加熱処理という。)によって、鉄鉱石を乾燥させるとともに、結晶水を脱水して、結晶水近傍に存在するリンを粉化して、ダストとして分離除去することができる。
【0023】
流動層加熱処理は、鉄鉱石の粒子を流動ガスの気流によって流動状態とする(流動層を形成する)とともに、流動ガスによって加熱する処理である。本実施形態において、流動層加熱処理を行う加熱装置は、気泡流動層加熱装置または循環流動層加熱装置である。いずれの種類の加熱装置でも、鉄鉱石の粒子同士の対流、流動、衝突が起こって効率的に加熱できるとともに、その際に発生する微粉を流動ガスの気流によってダストとして分離することができる。微粉(ダスト)にはリン成分が多く含まれるので、微粉の分離によってリン成分を効率よく鉄鉱石から除去できる。
【0024】
なお、加熱装置としては、気泡流動層加熱装置および循環流動層加熱装置のうち、少なくともいずれかを備えていればよく、複数の装置を組み合わせて構成されてもよい。
【0025】
図1には、第1の流動層加熱工程を実施する第1の流動層加熱装置1の一例として、気泡流動層加熱装置の構成を示す。第1の流動層加熱装置1は、気泡流動層によって鉄鉱石を脱リン処理する装置である。第1の流動層加熱装置1は、反応器110と、投入口112と、ガス供給口114と、流動層出口118と、集塵機120と、ダスト排出口122などを備える。
【0026】
反応器110は、鉄鉱石4の流動層116を形成し、鉄鉱石4を加熱して乾燥させるとともに結晶水を脱水させる反応を行う容器である。投入口112は、鉄鉱石4が貯留される貯留槽50から供給される鉄鉱石を反応器110内に投入するための供給口である。投入口112は、反応器110においてガスの流通方向下流側の反応器上方にある。ガス供給口114は反応器110の下方から上方に向けて反応器110内に流動ガス6を供給する。流動ガス6は、分散板を介して上方の鉄鉱石に向けて供給される。流動層出口118は、反応器110において所定の加熱が完了した脱水処理後鉄鉱石8を排出する排出口である。加熱処理が完了した場合に、流動層出口118を開いて脱水処理後鉄鉱石8を外に排出する。集塵機120は、流動ガス6によって鉄鉱石から分離され、反応器110から排出されるダストを、流動ガス6と分離して回収する。回収されたダストは、ダスト排出口122から排出される。なお、ダストには、上述のように、鉄鉱石に付着していた微粉や、結晶水の脱水によって粉化した微粉などが含まれる。
【0027】
加熱装置が循環流動層加熱装置である場合も、基本的には上記と同様の構成であるが、反応器出口と集塵機の間にサイクロンを配置し、サイクロンにおいて捕集された粒子を反応器110に戻す循環経路をさらに備える。また、流動ガスはサイクロンから集塵機を経由して排出される。通常、気泡流動層加熱の場合よりも高い流速の流動ガスによって鉄鉱石を飛散させ、上記経路を循環させながら加熱することができる。ダストは同様に集塵機で回収される。
【0028】
以上の第1の流動層加熱装置1における第1の流動層加熱工程の処理条件について説明する。なお、以下の加熱処理条件は、加熱装置が気泡流動層加熱装置の場合と、循環流動層加熱装置の場合の両方に適用できる。
【0029】
第1の流動層加熱工程の反応器110における鉄鉱石4の加熱温度は、鉄鉱石4に含まれる結晶水が分解する温度以上の温度とする。具体的には加熱温度は、100℃以上1000℃以下である。100℃以上の加熱温度であることにより、鉄鉱石4の結晶水を気化させて分解することができる。上限値は特に限定されないが、エネルギー効率等を考慮して1000℃以下であることが好ましい。よって、第1の流動層加熱工程の加熱温度は、100℃以上1000℃以下とすればよい。この加熱温度は、反応器110内の流動ガス6の温度であり、反応器110内の流動層116内において、温度センサによって測定される温度である。
【0030】
ガス供給口114から供給される流動ガス6は、酸化性ガス又は不活性ガスである。酸化性ガスとしては、例えば空気と燃料を燃焼させて得られる燃焼排ガスを用いることができる。燃焼排ガスは、例えば熱風炉で生成してガス供給口114に供給することができる。また、酸化性ガスとしては、大気(空気)や、酸素ガス、これらを含むガスなどを用いてもよい。不活性ガスとしては、窒素やアルゴンを用いることができる。
【0031】
流動ガス6の流速は、特に限定されないが、気泡流動層加熱と循環流動層加熱のいずれの場合についても、0.07以上3.0m/s以下の範囲で設定されればよい。
【0032】
反応器110内で鉄鉱石4に対して流動層加熱処理を行う加熱処理時間は、鉄鉱石全体について万遍なく十分に脱水処理を進行させることができる時間であれば特に限定されないが、30分以上とすることが好ましい。
【0033】
投入口112から供給される鉄鉱石4のサイズは、流動層加熱に適した粒度、つまり、流動層を形成可能な粒度であることが好ましい。具体的には、粒径が2mmを超えると、気流によって粒子を流動させることが難しい、あるいは非効率となるので、粒径が2mm以下の粒子を用いるのが好ましい。さらに、1mm以下の粒子がより好ましく、0.5mm以下の粒子がさらにより好ましい。鉄鉱石4のサイズは、篩により当該粒度範囲の粒子に篩分けして、供給されればよい。粉砕やペレタイジング、圧縮成形などによって粒度を上記範囲に調整してもよい。
【0034】
以上の加熱条件で、第1の流動層加熱装置1において反応器110内に供給された鉄鉱石4は、ガス供給口114からの流動ガス6によって、反応器110内において流動層116を形成し、加熱される。加熱により鉄鉱石4は乾燥され、水分によって付着していた微粉が鉄鉱石4から流動ガス6によって分離される。微粉は、鉄分が低く、脈石成分を主体とする高SiO2、高Al2O3である成分組成であり、粒径が0.125mm以下のサイズのものである。分離された微粉は、流動ガス6によって気流搬送され、集塵機120においてダストとして回収される。これによって、反応器110内に投入された鉄鉱石4の鉄分が向上する。
【0035】
さらに、鉄鉱石4は、流動層加熱によって、鉄鉱石中の結晶水の脱水が起こることで結晶水を含む部分(ゲーサイト部)に空隙や亀裂が生じて脆化し、更には流動ガス6による転動作用や鉄鉱石同士の衝突によって、粉化する。この脱水によって、結晶水近傍に存在するリンが気化し、流動ガス6によって気流搬送され、最終的に集塵機120によってダストとして回収されて除去される。
【0036】
以上の第1の流動層加熱工程によって加熱され脱水処理されて得られた脱水処理後鉄鉱石8は、流動層出口118から排出されて、次の第2の流動層加熱工程に供給されて、後述の還元処理が行われる。また、集塵機120によって回収され、ダスト排出口122から排出されるダストは、鉄分が低くリンが濃縮しているので廃棄してよい。
【0037】
なお、第1の流動層加熱工程によって得られた脱水処理後鉄鉱石8は、リン成分の少なくとも一部は除去されているので、第2の流動層加熱工程を経ずに、そのまま高炉原料等に用いてもよい。
【0038】
次に、第2の流動層加熱工程を説明する。第2の流動層加熱工程は、第2の流動層加熱装置2において行われる。第2の流動層加熱工程は、第1の流動層加熱工程で得られた脱水処理後鉄鉱石8に還元性の流動ガス10を供給し、鉄鉱石中のリン化合物が還元分解する温度以上の加熱温度で流動層加熱処理する工程である。この第2の流動層加熱工程によって、さらに脱リンが進み、より脱リン率が高められた還元処理後鉄鉱石12が得られる。
【0039】
第2の流動層加熱工程を行う第2の流動層加熱装置2としては、気泡流動層加熱装置または循環流動層加熱装置を用いることができる。第2の流動層加熱装置2は、反応器210と、投入口212と、ガス供給口214と、流動層出口218と、集塵機220と、ダスト排出口222などを備える。第2の流動層加熱装置2は、第1の流動層加熱装置1と同様の構成であるが、投入口212から脱水処理後鉄鉱石8が投入され、流動層出口218から還元処理後鉄鉱石12が排出される。各部については、第1の流動層加熱装置1と同様であるので説明を省略する。
【0040】
第2の流動層加熱工程の処理条件について説明する。まず、第2の流動層加熱工程における加熱温度は、鉄鉱石に含まれるリン化合物が還元分解する温度以上の温度である。具体的には加熱温度は、400℃以上1000℃以下とすることが好ましい。400℃以上の加熱温度であることにより、鉄鉱石に含まれるリン化合物が還元され、気化して分解することにより、鉄鉱石からリンを除去することができる。1000℃を超えると、鉄鉱石の酸化鉄も還元されて金属鉄が生成され、生成されたリンを金属鉄が吸収してリン化合物を生成してしまう可能性があるため、1000℃以下が好ましい。加熱温度は、第1の流動層加熱工程の加熱温度と同様に、第2の流動層加熱装置2の反応器210内の流動ガス10の温度であり、反応器210内の流動層216中において温度センサによって測定される温度である。
【0041】
第2の流動層加熱工程における流動ガス10は、還元性ガスである。還元性ガスとしては、リン化合物を還元するガスであれば限定されないが、例えば高炉やコークス炉からの副生ガスを用いることができる。また還元性ガスとしては、水素ガスを含むガスやCOを含むガスを用いることができる。
【0042】
流動ガス10の流速は、特に限定されないが、気泡流動層加熱と循環流動層加熱のいずれの場合についても、0.07以上3.0m/s以下の範囲で設定されればよい。
【0043】
第2の流動層加熱工程における加熱処理時間は、鉄鉱石全体について十分に還元処理を進行させることができる時間であれば特に限定されないが、60分以上が好ましい。
【0044】
以上の加熱条件で、第2の流動層加熱装置2に供給された脱水処理後鉄鉱石8は、流動ガス10によって流動層216を形成して、加熱される。これにより、結晶水近傍以外に存在し、第1の流動層加熱工程では除去されなかったリン化合物が存在する鉄鉱石において、リン化合物の少なくとも一部が還元変態過程で体積変化し、それに伴って粉化する。粉化した粒子中のリン化合物(リン酸化合物等)がさらに流動層加熱により還元分解され、流動ガス10で搬送され、最終的に集塵機220においてダストとして回収され、除去される。
【0045】
第2の流動層加熱工程において、第1の流動層加熱工程で結晶水近傍のリン化合物が除去された脱水処理後鉄鉱石8について還元処理するので、鉄鉱石に残ったリン化合物を効率よく還元除去することができる。換言すれば、脱水処理していない鉄鉱石をそのまま第2の流動層加熱工程で還元処理する場合よりも、コストのより高い還元性ガスの使用を最小限に抑えつつ、残ったリン化合物を効率よく除去することができるので、脱リン率を効率よくさらに高めることができる。
【0046】
また、鉄鉱石を還元性雰囲気で加熱する場合、酸化鉄の還元も起こり得る。還元で生じた金属鉄はリンと結合しやすく、リンが再吸収されるので、かえって脱リン率が低下する場合がある。そのため、全ての加熱工程を還元性雰囲気とはせず、第2の流動層加熱工程のみ還元性雰囲気とすることで、脱リン率の低下につながる金属鉄への還元反応を最小限に抑制し、脱リン反応だけを効率よく進行させることができるというメリットも得られる。
【0047】
以上の本実施形態によれば、酸化性ガス又は不活性ガスを供給して流動層加熱処理を行う第1の流動層加熱工程で脱リン処理を行うことにより、結晶水の脱水に伴って効率よく脱リンすることができる。また、酸化性又は不活性の流動ガスを用いるので、金属鉄への還元は起こりにくく、脱離したリンの金属鉄への再吸収は抑制される。そのため、還元ガスを使わなくても除去可能なリン成分を鉄鉱石から効率よく除去することができる。また、乾燥や結晶水の脱水による粉化で生じたダスト(微粉)は、加熱と並行して分離回収できるので、効率的である。そして、流動層加熱工程によって、上記一連の作用を加熱と同時に与えることが出来る為に、その能力や効率に制約を受けず、湿式の場合に比べて大量の鉄鉱石を脱リン処理することができる。
【0048】
また、第1の流動層加熱工程によって得られた脱水処理後鉄鉱石8に対して、さらに第2の流動層加熱工程を施して脱リン処理することにより、脱水処理で脱リンを行った上で、さらに残ったリン化合物を還元ガスで効率よく除去することができるので、脱リン率を効率よくさらに高めることができる。また、第2の流動層加熱工程についても、流動層加熱で脱リン処理を行うので、大量に鉄鉱石を脱リンできる。
【0049】
(他の実施形態)
鉄鉱石の脱リン方法の他の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の流動層加熱工程と第2の流動層加熱工程の間に、分級工程をさらに備える。
図2は、本実施形態の脱リン方法の工程を示す工程図である。本実施形態では、第1の流動層加熱装置1から排出された脱水処理後鉄鉱石8を分級装置3に供給して、粗粒部14と細粒部16とに分級する。そして、第2の流動層加熱装置2(第2の流動層加熱工程)に供給する脱水処理後鉄鉱石として、分級装置3において分級された粗粒部14を用いて供給し、還元処理する。第1の流動層加熱装置1と第2の流動層加熱装置2は
図1に示した装置と同様の構成であるので、説明を省略する。
【0050】
分級工程について具体的に説明する。分級工程は分級装置3によって実施される。分級装置3は、鉄鉱石を所定の分級粒度(分級点)で粗粒部14と細粒部16に分離できるものであれば特に限定されないが、例えば振動篩や風力分級機を用いることができる。
【0051】
風力分級機の場合、分級装置3として別途の風力分級機を配置してもよいが、第1の流動層加熱装置1をそのまま風力分級機として機能させてもよい。第1の流動層加熱装置1を風力分級機として利用する場合には、第1の流動層加熱工程の加熱完了後に、流動ガス6が流動層出口118に流れるように流動ガスの経路を切り換える。そして流動ガスの流速を高めて、反応管10内の鉄鉱石4のうち、所定の粒径未満の細粒部の粒子のみを流動ガスで流動させて搬送し、流動層出口118から排出する。そして細粒部の排出が完了した後、残った粗粒部を流動層出口118から排出することで、第1の流動層加熱装置1によって細粒部16と粗粒部14に分級することができる。
【0052】
なお、分級処理を行う場合の流動ガス6の流速は、予め第1の流動層加熱装置1において、流動ガス6の流速と、流動層出口118から排出される粒子の最大サイズ(つまり、分級粒度)との関係を求めておき、その関係に基づいてガス流速を設定すればよい。以上のような方法の場合、分級装置を別途導入しなくても、
図1の装置構成で分級工程も実施可能である。
【0053】
粗粒部14と細粒部16との境界である分級粒度は、0.125mm以上0.25mm以下の範囲で設定されることが好ましい。設定した分級粒度の粒径以上の粒子が粗粒部14であり、分級粒度の粒径未満の粒子が細粒部16となる。分級粒度の調整は、分級装置3が振動篩の場合には篩目の大きさで調整でき、風力分級機の場合にはガス流速を変更することで調整できる。
【0054】
以上の分級工程によって、脱水処理後鉄鉱石8のうち、比較的脱リン率の低い粗粒部14と、比較的脱リン率の高い細粒部16とに分離し、粗粒部14のみを優先的に第2の流動層加熱工程に供することができる。そうすることで、鉄鉱石全体のうち還元によるさらなる脱リン処理が必要な部分、換言すれば、脱リンが進みにくく還元による脱リン処理をより優先して実施すべき部分に絞ってより効果的に脱リン処理することができる。そして、粗粒部14のみ第2の流動層加熱工程を実施することで、全て加熱する場合より、全体のエネルギー効率やガス原単位の観点でより効率的な脱リン処理を実施できる。
【0055】
本実施形態における分級工程によって分離された細粒部16は、十分に脱リン率が高いので、脱リン処理された鉄鉱石としてそのまま高炉原料等に用いることができる。
【0056】
さらなる実施形態の変形例として、分級工程及び還元性ガスによる第2の流動層加熱工程を、分級処理と還元性ガスによる流動層加熱処理とを複数回繰り返す多段式の工程としてもよい。すなわち、還元性ガスによる流動層加熱処理によって得られた還元処理後鉄鉱石12について、さらに分級処理と、その粗粒部についての還元性ガスによる流動層加熱処理を複数回繰り返して行ってもよい。これにより、リンの除去が進みにくい粗粒部について、加熱還元処理が繰り返して行われるので、より効率的にかつより確実にリンを除去することができる。また、投入するエネルギーや活用するガス原単位の削減をより一層実現することも可能である。
【0057】
分級工程と流動層加熱処理を繰り返す多段式の工程とする場合には、分級装置と流動層加熱装置を複数設置すればよい。また、第2の流動層加熱装置2から得られた還元処理後鉄鉱石12を分級装置3に戻して分級工程と流動層加熱処理を繰り返し行うことで多段式としてもよい。
【実施例0058】
実施例を示して鉄鉱石の脱リン方法の実施形態をさらに詳細に説明する。バッチ式の流動層加熱装置で鉄鉱石を実際に加熱して、本実施形態の脱リン方法の効果について確認した。
【0059】
(原料に用いた鉄鉱石)
鉄鉱石には、高リン鉄鉱石である豪州高リンブロックマン鉱を用いた。この鉄鉱石の成分は、質量%で鉄分:62%、P(リン):0.25%、SiO2:2.9%、アルミナ:2.4%、結晶水分:3.7%であった。鉄鉱石の機械式篩を用いて分級した粒径は0.25~0.5mmであった。
【0060】
(実施例1:第1の流動層加熱工程)
実施例1として、上記鉄鉱石に対して第1の流動層加熱工程のみで脱リン処理を実施した。流動層加熱として気泡流動層加熱によって鉄鉱石を加熱した。流動層加熱は、内径が0.05mの反応器(反応管)を用いて行った。反応器内において気泡流動層が形成され、所定温度で流動層により加熱される範囲(所定の加熱温度に制御されている流動層の範囲)の長さを1.0mとした。
【0061】
鉄鉱石の反応器への1バッチあたりの投入量は、1kgとした。流動ガスとして、酸化性ガスである空気(N2-21%O2)を、20NmL/minで反応器に供給した。また、反応器の流動ガスの流通方向下流側で、集塵機により鉄鉱石から分離したダストを回収した。流動層内の温度(加熱温度)は700℃とし、加熱処理時間は120分間とした。
【0062】
(実施例2:第1の流動層加熱工程および第2の流動層加熱工程)
実施例2として、実施例1に示した条件で第1の流動層加熱工程を実施し、得られた脱水処理後鉄鉱石に対してさらに還元性雰囲気で第2の流動層加熱工程を実施する工程により脱リン処理を実施した。第1の流動層加熱工程については実施例1に記載の通りであるので、説明を省略する。
【0063】
第2の流動層加熱工程は、気泡流動層加熱によって脱水処理後鉄鉱石を加熱した。反応器の内径は0.05mであり、気泡流動層加熱によって所定温度で加熱される範囲(所定の加熱温度に制御されている流動層の範囲)の長さを1.0mとした。第2の流動層加熱工程への鉄鉱石の投入量は、第1の流動層加熱工程で脱水処理後鉄鉱石として得られた分の全量である。流動ガスとして、還元ガスである窒素と水素と二酸化炭素の混合ガス(N2-25%H2-25%CO2)を、20NmL/minで反応器に供給した。また、反応器の流動ガスの流通方向下流側で集塵機によりダストを回収した。第2の流動層加熱工程での流動層内の加熱温度は700℃とし、加熱処理時間は120分間とした。
【0064】
(実施例3:第1の流動層加熱工程+分級工程+第2の流動層加熱工程)
実施例3として、実施例1と同条件で第1の流動層加熱工程を実施し、得られた脱水処理後鉄鉱石を篩分けで分級した。そして篩上の粗粒部を第2の流動層加熱工程に供して加熱する工程により脱リン処理を実施した。第1の流動層加熱工程は実施例1と同じである。第2の流動層加熱工程についても、分級後の粗粒部の全量を原料として投入した以外は実施例2と同じである。
【0065】
分級工程は、目開きが0.25mmの篩を用いて、第1の流動層加熱工程で得られた脱水処理後鉄鉱石を篩分けすることにより行った。
【0066】
(比較例1)
比較例1として、流動層加熱ではなく、酸化性雰囲気のバッチ炉により上記鉄鉱石を加熱して脱リン処理を実施した。実施例1と同じガス(空気(N2-21%O2))を用いてバッチ炉内を酸化性雰囲気とした。加熱温度は700℃、加熱処理時間は120分とした。鉄鉱石の投入量も実施例1と同じく、1kgをバッチ炉に投入した。比較例1では集塵機によるダスト回収は行っていない。
【0067】
(脱リン処理の評価)
以上の実施例1~3および比較例1の脱リン処理後の鉄鉱石について、脱リン率を求めて、それぞれの脱リン方法の評価を行った。脱リン率は、以下の式(1)で表される。式(1)は、リン含有量(濃度)(P)を、鉄分含有量(濃度)(Fe)で規格化した値(P/Fe)について、処理前後の差分を百分率で表している。なお、処理前後の鉄分含有量およびリン含有量は、ICP発光分光分析法(JIS M 8206)で測定した。
【0068】
脱リン率(%)=(1-(Pa/Fea)/(Pb/Feb))×100 (1)
式(1)において、Pa:脱リン処理後リン濃度、Fea:脱リン処理後鉄濃度、Pb:脱リン処理前リン濃度、Feb:脱リン処理前鉄濃度である。脱リン率は質量%であり、各濃度も鉄鉱石中の成分の質量%である。また、脱リン処理前濃度は、実施例1~3、比較例1のいずれについても、上述した加熱前の鉄鉱石の含有量である。
【0069】
実施例1~3、比較例1の概要及び脱リン率を表1に示す。表1において加熱1が第1の流動層加熱工程、加熱2が第2の流動層加熱工程である。実施例3は、第1の流動層加熱工程後に分級して得られた細粒部の脱リン率と、第1の流動層加熱工程後に分級して得られた粗粒部を第2の流動層加熱工程に供して得られたものの脱リン率を求め、両者から全体の脱リン率を求めた。実施例3の全体の脱リン率は、粗粒部と細粒部のそれぞれの質量の割合と各脱リン率を掛け合わせた値の合計で求められる。
【0070】
【0071】
酸化性ガスを供給して、鉄鉱石の粒子が流動・衝突する流動層加熱を実施した実施例1(脱リン率:13.2%)は、鉄鉱石が動かない状態で加熱した比較例1(脱リン率:0.5%)に比べて、脱リン率が向上した。また、実施例1は比較例1に対して、同じ原料投入量、同じ加熱温度、処理時間で脱リン率がより高いので、より効率的に脱リン処理ができることや、より大量に脱リン処理できることを確認できた。
【0072】
また、第1の流動層加熱工程の後に、さらに還元性ガスを供給して第2の流動層加熱工程を実施した実施例2(脱リン率:19.8%)は、実施例1に比べてさらに脱リン率が向上した。
【0073】
また、第1の流動層加熱工程の後に分級処理を行って、粗粒部について第2の流動層加熱工程を実施した実施例3は、第2の流動層加熱工程実施後の鉄鉱石(粗粒部)の脱リン率が9.9%で、第2の流動層加熱工程に供しなかった細粒部と粗粒部全体での脱リン率は21.7%となった。この結果から、分級工程をさらに含むことで、分級工程を含まない実施例2よりさらに脱リン率が向上したことが確認できた。