(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093388
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】記録用紙
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240702BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240702BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240702BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240702BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20240702BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240702BHJP
C09D 179/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B32B27/00 F
B32B27/32
B32B27/18 Z
C08J7/04 H CER
C08J7/04 CEZ
C09D123/00
C09D7/63
C09D179/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209743
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平間 加那子
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅彦
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA12
4F006AA55
4F006AB13
4F006AB24
4F006AB32
4F006AB65
4F006AB67
4F006BA01
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4F100AK01
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4F100EH17
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4J038CB001
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4J038JB01
4J038JC30
4J038JC35
4J038MA14
4J038NA12
4J038NA17
(57)【要約】
【課題】インキ密着性が良好であり、低湿度下における帯電防止性に優れた記録用紙を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に印刷受容層を有する記録用紙であって、前記印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる、記録用紙である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に印刷受容層を有する記録用紙であって、
前記印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる、記録用紙。
【請求項2】
前記印刷受容層において、前記オレフィン系共重合体(A)が樹脂粒子または分散相として存在する、請求項1に記載の記録用紙。
【請求項3】
前記塗工液における前記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~25質量部である、請求項1に記載の記録用紙。
【請求項4】
前記塗工液は、さらにエチレンイミン系重合体(C)を含有する、請求項1に記載の記録用紙。
【請求項5】
前記塗工液の固形分中における前記オレフィン系共重合体(A)の含有量が、75~90質量%である、請求項1に記載の記録用紙。
【請求項6】
前記印刷受容層の厚みが0.1~5μmである、請求項1に記載の記録用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷用紙、ポスター用紙、ラベル用紙、インクジェット記録紙、感熱記録紙、熱転写受容紙、感圧転写記録紙、電子写真記録紙等の各種記録用紙として、耐水性、耐候性および耐久性に優れた記録用紙が提案されている。例えば、耐水性向上および被記録層の塗膜安定化のために、オレフィン系共重合体エマルジョンを含む塗工液を塗工して、乾燥することにより形成された塗工層を有する熱転写用記録用紙が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
また、同様の塗工層は他の記録方式に適した記録用紙にも応用されており、例えば、かような記録用紙は、近年普及が進んでいる、液体トナーを用いた湿式電子写真印刷方式に好適な記録用紙としてもまた提案されている(例えば、特許文献3)。特許文献3に開示された記録用紙は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)を含む塗工液を用いて形成された表面処理層を有し、当該表面処理層に含まれるエマルジョン由来のオレフィン系共重合体粒子は、印刷時、加熱により軟化し、液体トナーと融着する。これにより、上記表面処理層は、液体トナーや基材に対し、高い密着性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-113959号公報
【特許文献2】特開2015-89920号公報
【特許文献3】国際公開第2014/092142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷後の記録用紙について、紙揃え性を良好にする(束として揃えやすくする)という観点から、記録用紙の帯電防止性を向上させることができる技術が求められている。特に、湿式電子写真印刷の場合、インキ乾燥時の加熱により印刷機内の湿度が低下し、静電気が発生しやすい環境になるため、記録用紙には低湿度下における高い帯電防止性が求められる。
【0006】
一方、帯電防止性とインキ密着性とはトレードオフの関係にあり、記録用紙表面の塗工層に帯電防止剤を多量に配合すると、インキ密着性が低下する傾向がある。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インキ密着性が良好であり、低湿度下における帯電防止性に優れた記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、オレフィン系共重合体と、特定の構造を有する帯電防止剤と、を含有する塗工液を用いて形成されてなる印刷受容層を有する記録用紙により、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、上記諸目的は、下記の構成を有する本発明によって達成でき、本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0010】
本発明の一態様は、
1.熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に印刷受容層を有する記録用紙であって、前記印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる、記録用紙である。
【0011】
2.上記1.に記載の記録用紙において、前記印刷受容層において、前記オレフィン系共重合体(A)が樹脂粒子または分散相として存在すると好ましい。
【0012】
3.上記1.または2.に記載の記録用紙において、前記塗工液における前記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~25質量部であると好ましい。
【0013】
4.上記1.~3.のいずれかに記載の記録用紙において、前記塗工液は、さらにエチレンイミン系重合体(C)を含有すると好ましい。
【0014】
5.上記1.~4.のいずれかに記載の記録用紙において、前記塗工液における前記オレフィン系共重合体(A)の含有量が、75~90質量%であると好ましい。
【0015】
6.上記1.~5.のいずれかに記載の記録用紙において、前記印刷受容層の厚みが0.1~5μmであると好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インキ密着性が良好であり、低湿度下における帯電防止性に優れた記録用紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る記録用紙の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1にて得られた記録用紙の印刷受容層を走査型電子顕微鏡によって観察したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態は、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に印刷受容層を有する記録用紙であって、前記印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる、記録用紙である。以下、上記構成を有する記録用紙を、単に「本発明に係る記録用紙」とも称する。また、上記印刷受容層を単に「本発明に係る印刷受容層」と、上記塗工液を単に「本発明に係る塗工液」とも、それぞれ称する。
【0019】
本発明に係る記録用紙は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる印刷受容層を有する。本発明者らは、驚くべきことに、上記構成を有する印刷受容層が、良好なインキ密着性を有しながら、低湿度下における帯電防止性にもまた優れることを見出した。
【0020】
ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。
【0021】
一般に、帯電防止剤を用いてある層の帯電防止性を向上させるためには、当該層の表面近傍に帯電防止剤が存在し、層表面の導電性を高めることが重要となる。上記特許文献3では、表面処理層の帯電防止性を向上させるために、ポリマー型帯電防止剤を用いることが記載されている。これに対し、本発明に係る記録用紙では、ジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)を含有する塗工液によって形成される印刷受容層を有する。ここで、ジアリルジメチルアンモニウム塩は、小さな分子構造を有する(低分子型帯電防止剤である)ことから、印刷受容層を形成する過程において、印刷受容層の表面側に移動しやすく、印刷受容層の表面近傍に比較的多く存在すると考えられる。その結果、帯電防止剤としてジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)を用いると、等量のポリマー型帯電防止剤を用いた場合と比較して、優れた帯電防止効果が得られると推測される。
【0022】
なお、ジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)と同様、低分子型帯電防止剤として作用しうるモノアルキル(長鎖アルキル)トリメチルアンモニウム塩を用いた場合には、優れた帯電防止効果を得ることができなかった(下記比較例2)。これは、ジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)では、窒素原子上に二つのメチル基が置換しているのに対し、ジアリルジエチルアンモニウム塩では、窒素原子上に長鎖のアルキル基が置換しているため、比較的嵩高く、印刷受容層中において上記のような移動が十分にできなかったためであると考えられる。
【0023】
また、従来、低分子型帯電防止剤を含む塗工層を形成した場合には、塗工層表面に低分子型帯電防止剤がブリードアウトし、インキ密着性の観点からは好ましくないと考えられていた。これに対し、ジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)は、窒素原子上に反応性置換基(アリル基)を有するため、印刷受容層中において、これを構成する他の成分(例えば、オレフィン系共重合体(A))と一部結合または相互作用し、上記のようなブリードアウトが生じにくい状態となっていると考えられる。したがって、ジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)は、低分子型帯電防止剤であるにも関わらず、インキ密着性の低下を抑制することができると推測される。
【0024】
このように、本発明に係る記録用紙によれば、帯電防止剤としてジアリルジメチルアンモニウム塩((B)成分)を用いることにより、ブリードアウトによるインキ密着性の低下という問題を回避しつつ、高い帯電防止性(低湿度下における優れた帯電防止性)を得るという所期の効果を得ることができる。
【0025】
なお、上記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲をなんら制限するものではない。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0027】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、「Aおよび/またはB」は、A、Bの各々および一つ以上のすべての組み合わせを含み、具体的には、AおよびBの少なくとも一方を意味し、A、BならびにAとBとの組み合わせを意味する。また、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。
【0028】
[記録用紙]
本発明の一実施形態は、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に印刷受容層を有する記録用紙であって、前記印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を用いて形成されてなる、記録用紙である。なお、本明細書において、「記録用紙」とは、合成樹脂を含む組成物をフィルム状に成形することにより得られたもの、すなわち、合成紙を指す。
【0029】
以下、本発明の記録用紙を構成する基材および印刷受容層について詳細に説明し、さらに記録用紙の用途について説明する。
【0030】
[1]印刷受容層
本発明に係る記録用紙は、
図1に示されるように、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材1(以下、単に「基材」とも称する)上に(基材1に隣接して)印刷受容層2を有する。印刷受容層2は、基材1の少なくとも一方の表面上に設けられていればよい。よって、印刷受容層2は、基材1の一方の表面にのみ設けられていてもよいし、基材1の両方の面に設けられていてもよい。この印刷受容層2は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含む塗工液を用いて形成される。なお、
図1では、基材1が単一の材料(単層)で構成される例を図示したが、基材1の構造は、後述するように、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体であってもよい。
【0031】
本発明に係る印刷受容層は、低湿度下であっても優れた帯電防止性を有し、また、インキ密着性も良好である。ゆえに、本発明に係る記録用紙を、液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いた場合において、印刷受容層とトナーとの密着性が良好であり、また、紙揃え性が良好な印刷物を提供することができる。また、同印刷受容層は、オフセット印刷やフレキソ印刷を始めとする各種印刷にも適性を有する。
【0032】
[1-1]印刷受容層を形成するための塗工液の組成
本発明の一実施形態では、印刷受容層を形成するために用いられる塗工液は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含む。また、本発明の他の実施形態では、上記塗工液は、さらにエチレンイミン系重合体(C)を含有する。本発明のさらに他の実施形態では、上記塗工液は、さらにシランカップリング剤(D)を含有する。以下、塗工液に含まれる各成分について説明する。
【0033】
[オレフィン系共重合体(A)]
本発明に係る印刷受容層を形成するために用いられる塗工液は、オレフィン系共重合体(A)を含む。
【0034】
本発明において「オレフィン系共重合体(A)」とは、オレフィン系単量体(好ましくは、α-オレフィン)と、当該オレフィン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体をいう。本発明に係る記録用紙が液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いられた場合、オレフィン系共重合体(A)は、熱により印刷受容層中で軟化し、さらに液体トナーと融着することによって、液体トナーや基材に対する強固な密着性をもたらすものと考えられる。
【0035】
オレフィン系共重合体(A)の構造は特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。共重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。
【0036】
オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテンなどが挙げられる。これら単量体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
他方、オレフィン系単量体と共重合可能な他の単量体としては、特に制限されないが、後述するように、オレフィン系共重合体(A)の乳化性を良好にする(オレフィン系共重合体(A)がエマルジョンを形成しやすい)という観点から、カルボキシル基(-COOH)またはその塩もしくはそのエステルを含む単量体であると好ましい。すなわち、オレフィン系共重合体(A)は、オレフィン系単量体に由来する構成単位と共に、カルボキシル基またはその塩もしくはそのエステルを含む構成単位を含有すると好ましい。
【0038】
カルボキシル基(-COOH)またはその塩もしくはそのエステルを含む単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸ならびにそれらの塩およびそれらのエステル(好ましくは、アルキルエステル);マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸ならびにそれらの塩、それらのエステル(好ましくは、アルキルエステル)およびそれらの無水物;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、オレフィン系単量体と共重合可能な他の単量体としては、不飽和モノカルボン酸ならびにそれらの塩およびそれらのエステル(好ましくは、アルキルエステル);不飽和ジカルボン酸ならびにそれらの塩、それらのエステル(好ましくは、アルキルエステル)およびそれらの無水物が好適に用いられる。
【0039】
さらに、以下で詳説するように、好ましい一実施形態において、本発明に係る塗工液は、シランカップリング剤(D)をさらに含む。この場合、シランカップリング剤(D)との反応性を考慮すると、オレフィン系単量体と共重合可能な他の単量体としては、不飽和モノカルボン酸およびそれらの塩;不飽和ジカルボン酸ならびにそれらの塩およびそれらの無水物がより好適に用いられる。
【0040】
本発明の一実施形態において、オレフィン系共重合体(A)は、オレフィン系単量体に由来する構成単位と、不飽和モノカルボン酸またはそれらの塩に由来する構成単位と、を含む共重合体を含むと好ましい。
【0041】
オレフィン系共重合体(A)として用いることができる共重合体の具体例としては、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ(土類)金属塩、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸グラフトポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフト(メタ)アクリル酸エステル-エチレン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、無水マレイン酸グラフトエチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン-プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトプロピレン-ブテン共重合体などを例示できる。
【0042】
これらのなかでも、融点または軟化点が130℃以下のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフト(メタ)アクリル酸エステル-エチレン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン-プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトプロピレン-ブテン共重合体がトナーの受理性の点から特に好ましい。なかでも、アクリル系樹脂を含む液体トナーとの親和性の観点から、オレフィン系共重合体(A)としては、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体またはエチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いると好ましく、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を用いると特に好ましい。
【0043】
これらのオレフィン系共重合体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、2種以上が併用される場合、オレフィン系共重合体(A)の含有量は、合計量を指す。
【0044】
オレフィン系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、50,000~300,000であると好ましく、より好ましくは100,000~200,000である。なお、本明細書において、オレフィン系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算にて算出される値である。ここで、オレフィン系共重合体(A)が、その分子中に不飽和モノ/ジカルボン酸由来のカルボキシル基を含む場合、分子がGPCのカラムに吸着されるため、そのままではGPC測定に適さない。ゆえに、通常、不飽和モノ/ジカルボン酸由来のカルボキシル基をエステル化した後にGPC測定を行い、ポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)を算出する。
【0045】
本発明に係る印刷受容層を形成する塗工液において、オレフィン系共重合体(A)は、水性分散媒中に、オレフィン系共重合体が微粒子として分散され、乳化してなるもの(エマルジョンの形態)であると好ましい。すなわち、本発明に係る印刷受容層を形成する塗工液は、オレフィン系共重合体(A)のエマルジョンを含むと好ましい。詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者らは、オレフィン系共重合体(A)がエマルジョンの形態で含まれている塗工液を用いて形成された印刷受容層が、特に優れた帯電防止性を有することもまた見出した。また、オレフィン系共重合体(A)のエマルジョンを含む塗工液を用いて印刷受容層を形成すると、インキ密着性をさらに向上させることができる。上記形態の塗工液を用いて形成された印刷受容層では、オレフィン系共重合体(A)が樹脂粒子または分散相として存在しうる(
図2)。その結果、印刷受容層表面に微細な凹凸が形成され、印刷受容層と印刷インキ(トナー)との間にアンカー効果が生じ、インキ密着性が向上すると考えられる。したがって、好ましい一実施形態では、印刷受容層において、オレフィン系共重合体(A)が樹脂粒子または分散相として存在する。後者の形態において、印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)を分散相(海島構造の「島」に相当する部分)とし、以下で詳説する印刷受容層に含まれる他の成分を連続相(海島構造の「海」に相当する部分)とした相分離構造(海島構造)を有し、上記分散相が上記連続相に対して盛り上がった凸形状を有するとより好ましい。かような形態であることにより、上記アンカー効果がより得られやすくなり、印刷インキやトナーの密着性が向上する。インキ密着性の観点から、印刷受容層におけるオレフィン系共重合体(A)は、樹脂粒子である(樹脂粒子として存在する)ことがより好ましい。
【0046】
オレフィン系共重合体(A)のエマルジョンを含む塗工液は、オレフィン系共重合体(A)を水中に分散させてエマルジョンとするための分散剤を含むことが好ましい。かような分散剤として、非イオン性界面活性剤、非イオン性水溶性高分子、カチオン性界面活性剤、カチオン性水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0047】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどを例示できる。非イオン性水溶性高分子としては、完全ケン化ポリビニルアルコール若しくは部分ケン化ポリビニルアルコールまたはこれらの変性物を例示できる。非イオン性水溶性高分子の他の例としては、ヒドロキシエチルセルロースを例示できる。カチオン性界面活性剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドなどを例示できる。
【0048】
カチオン性水溶性高分子としては、四級アンモニウム塩構造またはホスホニウム塩構造を有するポリマー、窒素含有(メタ)アクリルポリマー、四級アンモニウム塩構造の窒素を有する(メタ)アクリル系ポリマーなどを例示できる。カチオン性水溶性高分子として、好ましくは、窒素含有(メタ)アクリルポリマー、あるいは、四級アンモニウム塩構造の窒素を有する(メタ)アクリル系ポリマーが用いられる。これにより、基材としての熱可塑性樹脂フィルムへの密着性をさらに向上させることができる。
【0049】
これらの分散剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記分散剤を用いて上記オレフィン系共重合体(A)を水中に分散させる場合、オレフィン系共重合体(A)を水中に分散させやすくする傾向があることから、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、分散剤の固形分あたりの質量を1質量部以上にすることが好ましく、3質量部以上にすることがより好ましく、5質量部以上にすることがさらに好ましい。一方、高温高湿環境下においてもインキ密着性の改善効果が得られやすくなる傾向があることから、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、分散剤の固形分あたりの質量を40質量部以下にすることが好ましく、35質量部以下にすることがより好ましく、30質量部以下にすることがさらに好ましい。
【0051】
(オレフィン系共重合体(A)のエマルジョン粒子の体積平均粒径)
本発明において「エマルジョン粒子の体積平均粒径」とは、レーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD-2200)を用いて測定される体積平均粒径のことをいう。
【0052】
オレフィン系共重合体(A)のエマルジョン中の分散粒子(エマルジョン粒子)の体積平均粒径は、製造時のエネルギー効率や、エマルジョン製造時の乳化剤添加量の抑制の観点から、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がさらに好ましく、0.5μm以上が特に好ましい。一方、分散粒子自体の静置安定性が良く、これを含む印刷受容層の熱可塑性樹脂フィルムへの密着性が一段と良くなる傾向があることから、体積平均粒径は、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましく、1.3μm以下が特に好ましい。
【0053】
(エマルジョン(分散液)の調製方法)
分散剤を用いてオレフィン系共重合体(A)を水中に分散させてエマルジョンとするための方法は、特に限定されるものではなく、芳香族炭化水素系溶剤に該オレフィン系共重合体(A)を加熱溶解し、分散剤を混合攪拌し、引き続き水を添加しながら相転換せしめた後に、芳香族炭化水素系溶剤を溜去して水性分散液を得る方法が用いられてもよく、特開昭56-002149号公報に開示されているように、オレフィン系共重合体(A)を二軸押出機のホッパーに供給し、加熱溶融させた状態に分散剤の水溶液を添加して溶融混練し、引き続き水を添加して相転換させて分散液を得る方法が用いられてもよい。特に、分散剤がカチオン性水溶性高分子である場合には、特開昭56-002149号公報に開示されているような方法を用いることで、水性分散液中の樹脂粒子の平均粒子径を容易に調整することができる。
【0054】
上記エマルジョンにおけるオレフィン系共重合体(A)の含有量(固形分濃度)は、適度な容量で十分なオレフィン系共重合体(A)を含むことから、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。一方、所望の体積平均粒径を有するエマルジョンが容易に得られる点から、上記エマルジョンにおけるオレフィン系共重合体(A)の含有量は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
このようなオレフィン系共重合体(A)のエマルジョンとしては、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。オレフィン系共重合体(A)のエマルジョンの市販品としては、ジャパンコーティングレジン株式会社製のアクアテックス(登録商標)AC-3100、EC-1200、MC-3800、MC-4400(商品名);三井化学株式会社製のケミパール(登録商標)S100、S200、S300、SA100(商品名)などが挙げられる。
【0056】
[ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)]
本発明に係る印刷受容層を形成するために用いられる塗工液は、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含む。ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)は、帯電防止剤として作用し、例えば、冬場の静電気による埃の付着や印刷時の帯電による印刷機上での走行トラブル(例えば、重送や排紙時のトラブル)を軽減することができ、記録用紙としての取扱い性(帯電防止性)を向上させることができる。
【0057】
ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)は、以下の化学式(1)で表される構造を有する:
【0058】
【0059】
上記化学式(1)において、X-は、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を構成するアニオン(カウンターアニオン)である。X-は、ジアリルジメチルアンモニウムカチオンと塩を形成できるものであれば、特に制限されない。かようなアニオンとしては、例えば、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)およびヨウ化物イオン(I-)等のハロゲン化物イオン;硫酸水素イオン(HSO4
-);亜硫酸イオン(HSO3
-);アルキル硫酸イオン((Alkyl)SO4
-:Alkylは、炭素数1以上8以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、好ましくはエチル基);硝酸イオン(NO3
-);リン酸二水素イオン(H2PO4
-);過塩素酸イオン(ClO4
-);水酸化物イオン(OH-);酢酸イオンおよび乳酸イオン等のカルボン酸系アニオンなどが挙げられる。これらのうち、アニオン(カウンターアニオン)は、ハロゲン化物イオンであると好ましく、塩化物イオン、臭素イオンまたはヨウ素イオンであるとより好ましく、塩化物イオンであることが特に好ましい。すなわち、一実施形態において、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)は、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドであると好ましい。
【0060】
これらのジアリルジメチルアンモニウム塩は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、2種以上が併用される場合、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量は、合計量を指す。
【0061】
[エチレンイミン系重合体(C)]
エチレンイミン系重合体(C)は、各種の印刷インキとの親和性が高い。ゆえに、印刷受容層においてこれらの印刷インキとの密着性を向上させることができるという観点から、本発明の一実施形態において、印刷受容層を形成するために用いられる塗工液は、上記オレフィン系共重合体(A)および上記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)に加え、さらにエチレンイミン系重合体(C)を含有すると好ましい。
【0062】
エチレンイミン系重合体(C)として用いられる重合体としては、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン-尿素)、もしくはポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、またはこれらのアルキル変性体、シクロアルキル変性体、アリール(aryl)変性体、アリル(allyl)変性体、アラルキル変性体、ベンジル変性体、シクロペンチル変性体、環状脂肪族炭化水素変性体、グリシドール変性体若しくは水酸化物を例示できる。これらは、単独で用いてもよく、複数の種類の重合体を組み合わせて用いてもよい。変性体を得るための変性剤としては、塩化メチル、臭化メチル、塩化n-ブチル、塩化ラウリル、ヨウ化ステアリル、塩化オレイル、塩化シクロヘキシル、塩化ベンジル、塩化アリル、塩化シクロペンチルなどを例示できる。
【0063】
エチレンイミン系重合体(C)の重合度は特に制限されないが、10~10,000であると好ましく、20~3,000であるとより好ましく、500~2,000であると特に好ましい。また、エチレンイミン系重合体(C)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、1,000~1,000,000であると好ましく、10,000~600,000であるとより好ましく、50,000~500,000であると特に好ましい。なお、本明細書において、エチレンイミン系重合体(C)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)におけるプルラン換算にて算出される値である。
【0064】
印刷インキとの密着性を向上させるという観点から、エチレンイミン系重合体(C)は、下記化学式(2)で表される構成単位を有すると好ましい。なお、重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。
【0065】
【0066】
上記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖または分岐状のアルキル基、炭素数6~12の脂環式構造を有するアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表す。R3は、水素原子、水酸基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~18の直鎖または分岐状のアルキル基、水酸基で置換されていてもよいアリル基、水酸基で置換されていてもよい炭素数6~12の脂環式構造を有するアルキル基または水酸基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。mは、2~6の整数を表し、nは、20~3,000の整数を表す。
【0067】
ここで、炭素数1~18の直鎖または分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基などが挙げられる。
【0068】
炭素数6~12の脂環式構造を有するアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0069】
炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0070】
なかでも、上記式(2)において、R1およびR2は、水素原子であり、R3は、水素原子、または水酸基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~18の直鎖または分岐状のアルキル基であり、mは、2~3の整数を表し、nは、500~2,000の整数を表すと好ましい。さらに、R1およびR2は、水素原子であり、R3は、水素原子、または水酸基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~5の直鎖または分岐状のアルキル基であり、mは、2~3の整数を表し、nは、500~2,000の整数を表すとより好ましい。
【0071】
これらのエチレンイミン系重合体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、2種以上が併用される場合、エチレンイミン系重合体(C)の含有量は、合計量を指す。
【0072】
また、エチレンイミン系重合体(C)としては、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。エチレンイミン系重合体(C)の市販品としては、株式会社日本触媒製のエポミン(登録商標、商品名)シリーズ;BASF社製のポリミンSK(商品名);三菱ケミカル株式会社製のサフトマー(登録商標、商品名)AC-72、AC-2000などが挙げられる。
【0073】
[シランカップリング剤(D)]
シランカップリング剤(D)は、本発明に係る印刷受容層中において、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材と、印刷受容層とを強固に結びつける作用効果を供しうる。ゆえに、印刷受容層と基材との密着性を向上させることができるという観点から、本発明の一実施形態において、印刷受容層を形成するために用いられる塗工液は、上記オレフィン系共重合体(A)および上記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)に加え、さらにシランカップリング剤(D)を含有すると好ましい。また、本発明の他の実施形態において、塗工液は、上記オレフィン系共重合体(A)および上記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)に加え、さらに上記エチレンイミン系重合体(C)およびシランカップリング剤(D)を含有すると好ましい。
【0074】
シランカップリング剤(D)を含む塗工液を用いて印刷受容層を形成することにより、基材の熱可塑性樹脂とオレフィン系共重合体(A)との間において、架橋反応により網目構造が形成され、その結果、基材と印刷受容層との間の密着性を向上させることができる。また、同様に、シランカップリング剤(D)を含む塗工液を用いて印刷受容層を形成することにより、オレフィン系共重合体(A)同士の間においても架橋反応により網目構造が形成される結果、強固な印刷受容層を形成することができる。
【0075】
シランカップリング剤(D)は、オレフィン系共重合体(A)と反応する基を有するものであることが好ましい。ここで、「オレフィン系共重合体(A)と反応する基」とは、オレフィン系共重合体(A)が有する原子または原子団と反応して結合を形成しうる基のことをいう。反応によって形成される結合の種類は特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合等のいずれであってもよい。オレフィン系共重合体(A)と反応する基としては、例えば、アルコキシシリル基、シラノール基に加え、以下に挙げるその他の官能基(エポキシ基等)を挙げることができる。
【0076】
例えば、シランカップリング剤(D)として、アルコキシシリル基またはこれの加水分解により生じるシラノール基と、エポキシ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基と、をその分子内に有するシラン化合物を好ましく用いることができる。
【0077】
上述のように、好ましい一実施形態において、本発明に係る塗工液は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)に加え、エチレンイミン系重合体(C)およびシランカップリング剤(D)を含む。この場合、シランカップリング剤(D)は、以下のように反応しうる。すなわち、シラノール基が基材を構成する熱可塑性樹脂と縮合反応し、一方、上記に例示した他の官能基がオレフィン系共重合体(A)に含まれる(メタ)アクリル酸残基や無水マレイン酸残基と、またエチレンイミン系重合体(C)に含まれるアミノ基と、縮合反応しうる。このようにして、シランカップリング剤(D)により、架橋反応が進行すると推測される。
【0078】
また、上記の形態において、シランカップリング剤(D)は、以下のようにも反応しうる。すなわち、シラノール基がオレフィン系共重合体(A)に含まれる(メタ)アクリル酸残基や無水マレイン酸残基と、またエチレンイミン系重合体(C)におけるアミノ基と縮合反応し、一方、上記に例示した他の官能基が基材を構成する熱可塑性樹脂と高い親和性で結びつくことで、架橋反応が進行すると推測される。
【0079】
さらに、好ましい一実施形態では、シランカップリング剤(D)と、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)との間において、以下のように架橋反応が進行すると推測される。すなわち、アルコキシシリル基の加水分解により生じるシラノール基および/または上記に例示した他の官能基と、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)に含まれるアリル基とが、縮合反応しうる。このようにして、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)が印刷受容層からブリードアウトすることを抑制し、その結果、印刷インキやトナーとの密着性に優れた印刷受容層を形成することができる。
【0080】
以上のように、シランカップリング剤(D)を含む塗工液を用いて形成された印刷受容層を有する記録用紙は、基材と印刷受容層との密着性が良好であるだけでなく、印刷受容層と印刷インキとの密着性に優れる。ゆえに、本発明の一実施形態に係る記録用紙は、各種印刷が可能であるだけでなく、印刷インキやトナーとの密着性が十分であり、これらの脱落を効果的に抑制することができる。
【0081】
シランカップリング剤(D)におけるアルコキシシリル基またはこれの加水分解により生じるシラノール基の含有率は、基材と印刷受容層とを強固に密着させ、且つ印刷受容層と印刷インキやトナーとを強固に密着させる点から、25~75%であることが好ましく、50~75%であることがより好ましい。一方、シランカップリング剤(D)におけるアルコキシシリル基またはこれが加水分解したシラノール基以外の他の官能基(反応性官能基)の含有率は、25~75%であることが好ましく、25~50%であることがより好ましい。
【0082】
上記作用効果を奏するシランカップリング剤(D)としては、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、(メタ)アクリル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤などを挙げることができる。
【0083】
エポキシ系シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0084】
ビニル系シランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0085】
(メタ)アクリル系シランカップリング剤の具体例としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0086】
アミノ系シランカップリング剤の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0087】
ウレイド系シランカップリング剤の具体例としては、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0088】
メルカプト系シランカップリング剤の具体例としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0089】
イソシアネート系シランカップリング剤の具体例としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0090】
これらのシランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、2種以上が併用される場合、シランカップリング剤(D)の含有量は、合計量を指す。
【0091】
また、シランカップリング剤(D)としては、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。シランカップリング剤(D)の市販品としては、信越化学工業株式会社製のKBM-303、KBM-402、KBM-403、KBE-402、KBE-403、KBM-1003、KBE-1003、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103、KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103、KBM-573、KBM-575、KBE-585、KBM-802、KBM-803、KBE-9007(いずれも商品名);東レ・ダウコーニング株式会社製のZ-6043、Z-6040、Z-6519、Z-6300、Z-6030、Z-6011、Z-6094、Z-6062(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0092】
これらの中でも、印刷インキやトナーとの密着性の観点から、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤を用いることが好ましく、エポキシ系シランカップリング剤を用いることがより好ましい。
【0093】
また、オレフィン系共重合体(A)やエチレンイミン系重合体(C)に含まれうる1~3級アミノ基との架橋反応のし易さの観点からは、エポキシ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤を用いることが好ましく、エポキシ系シランカップリング剤を用いることがより好ましい。
【0094】
印刷受容層の形成工程を簡素化するという観点から、本発明の一実施形態において、印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)と共に、シランカップリング剤(D)を水性媒体中に溶解させた塗工液を調製して、これを基材上に塗工し、乾燥させて形成されると好ましい。また、同様の観点から、本発明の他の実施形態において、印刷受容層は、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)と共に、エチレンイミン系重合体(C)およびシランカップリング剤(D)を水性媒体中に溶解させた塗工液を調製して、これを基材上に塗工し、乾燥させて形成されると好ましい。
【0095】
一般に、シランカップリング剤は、アルコキシシリル基の種類によって加水分解速度を制御できることが知られており、この性質を利用して、シランカップリング剤の自己縮合に基づく塗工液の劣化を抑制し、経時安定性を高めることができる。
【0096】
そのため、シランカップリング剤(D)としては上記の諸性能に優れ、特に塗工液として取扱う際に水への溶解性が高く、かつ経時安定性が高いエポキシ系シランカップリング剤を用いることが更に好ましい。これらの中でも3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いることが最も好ましい。
【0097】
また、上記塗工液において、シランカップリング剤(D)分子内のアルコキシシリル基は、加水分解によりシラノール基に変化していると推測される。そして、同シラノール基は、表面酸化処理を施した熱可塑性樹脂フィルム上に存在する官能基(例えば水酸基、カルボキシル基など)と水素結合または化学結合を形成すると考えられる。その結果、基材と印刷受容層との密着性が向上しうる。
【0098】
また、上記のようにして生じたシラノール基同士が縮合反応することで、印刷受容層自体の凝集力も向上し、印刷受容層自体の物理的強度も向上すると考えられる。
【0099】
[任意成分]
本発明に係る印刷受容層およびこれを形成するために用いられる塗工液は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の任意成分を含んでいてもよい。かような任意成分としては、pH調整剤、消泡剤、その他の助剤等が挙げられる。
【0100】
[量比]
本発明に係る塗工液に含まれる各成分の含有量について説明する。
【0101】
強固な印刷受容層を形成するという観点から、塗工液の固形分中におけるオレフィン系共重合体(A)の含有量は、75~99質量%であると好ましい。さらに同様の観点から、塗工液の固形分中におけるオレフィン系共重合体(A)の含有量は、75~90質量%であるとより好ましく、78質量%以上90質量%未満であるとさらにより好ましく、80~88質量%であると特に好ましい。なお、上記におけるオレフィン系共重合体(A)の含有量は、塗工液に含まれる固形分(すなわち、印刷受容層を構成する成分であり、溶媒等の常温または必要により加熱することで揮発する成分を除いた成分)の合計を100質量%とし、これに対するオレフィン系共重合体(A)の固形分の含有割合(質量%)を表す。
【0102】
また、本発明に係る塗工液に含まれる各成分の質量比について説明する。以下では、各成分の量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対する各成分の固形分の量比(質量比率)として記載する。
【0103】
印刷インキやトナーとの密着性が良好であり、低湿度下における帯電防止性に優れた記録用紙を提供するという観点から、塗工液におけるジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~30質量部であると好ましい。さらに、印刷インキやトナーとの密着性をさらに向上させるという観点から、塗工液におけるジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~25質量部であるとより好ましく、1質量部を超え20質量部未満であるとさらにより好ましく、2~15質量部であるとさらにより好ましく、2質量部を超え10質量部以下であると特に好ましい。さらに、帯電防止性を向上させるという観点から、アリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、2.5質量部以上10質量部以下であると最も好ましい。
【0104】
特に、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)の含有量の上限を30質量部以下、25質量部以下、20質量部未満、15質量部以下、さらには10質量部以下とすることにより、ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)と水分子との親和性が高いことに起因する、印刷受容層と印刷インキやトナーとの界面剥離(上記界面に水分子が引き寄せられやすく、これによって上記界面が剥離しやすくなること)を抑制することができる。
【0105】
また、塗工液がエチレンイミン系重合体(C)を含有する場合において、印刷インキやトナーとの密着性を向上させる観点から、塗工液におけるエチレンイミン系重合体(C)の含有量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~15質量部であると好ましく、2~10質量部であるとより好ましく、2.5~8質量部であるとさらにより好ましく、2.5質量部を超え8質量部未満であると特に好ましく、3~7質量部であると最も好ましい。
【0106】
さらに、塗工液がシランカップリング剤(D)を含有する場合において、印刷インキやトナーとの密着性を向上させ、また、基材と印刷受容層とを強固に密着させるという観点から、塗工液におけるシランカップリング剤(D)の含有量は、オレフィン系共重合体(A)の固形分100質量部に対して、1~15質量部であると好ましく、2~10質量部であるとより好ましく、2.5~8質量部であるとさらにより好ましく、2.5質量部を超え8質量部未満であると特に好ましく、3~6質量部であると最も好ましい。
【0107】
さらに、上述のように、好ましい一実施形態において、本発明に係る塗工液は、エチレンイミン系重合体(C)およびシランカップリング剤(D)を含有する。この場合において、塗工液中におけるシランカップリング剤(D)の含有量は、エチレンイミン系重合体(C)の固形分100質量部に対して、70~130質量部であると好ましく、80~120質量部であるとより好ましく、83~110質量部であるとさらにより好ましく、84~110質量部であると特に好ましく、95~105質量部であると最も好ましい。
【0108】
[1-2]印刷受容層の形成方法
印刷受容層の形成方法は、特に限定されるものではないが、印刷受容層を構成する上記の各成分を溶媒に溶解させて塗工液を調製すること、調製された塗工液を、基材の少なくとも一方の面に塗工すること、および、塗工された塗工液を乾燥(乾燥固化)させることを含む方法によって、印刷受容層を形成することが好ましい。したがって、本発明は、他の態様として、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に、オレフィン系共重合体(A)およびジアリルジメチルアンモニウム塩(B)を含有する塗工液を塗工すること、および前記塗工された塗工液を乾燥させることを含む、記録用紙の製造方法もまた提供する。これにより、記録用紙をロール・ツゥ・ロールで製造することもでき、生産性を向上させることができる。さらに、印刷受容層の厚さを比較的容易に調整することができるため、印刷適性を維持しながら印刷受容層の厚さを薄くするなど、所望の特徴を有する記録用紙を製造することができる。
【0109】
[塗工液]
印刷受容層を構成する上記の各成分を溶媒に溶解させることにより、塗工液を調製することができる。
【0110】
このとき用いられる溶媒は、水であってもよく、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどの有機溶媒であってもよく、水および有機溶媒の混合溶媒であってもよい。溶媒は、水または水を主成分とする溶媒であることが好ましい。なお、「主成分」とは、塗工液に用いられる溶媒全体のうち、95質量%以上、好ましくは99質量%以上(上限100質量%)が水であることをいう。これにより、工程管理が容易になり、安全上の観点からも好ましい。塗工液中の固形分は、塗工液全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、塗工液中の固形分は、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0111】
また、塗工液の調製方法は特に制限されず、一例として、印刷受容層を構成する各成分を混合容器内に添加し、所望の固形分濃度となるように溶媒(好ましくは、水)を添加して混合する方法が挙げられる。この際、インキ密着性が良好であり、優れた帯電防止性を有する記録用紙を得るという観点から、オレフィン系共重合体(A)は、予めエマルジョン(分散液)を調製してから他の成分と混合すると好ましい。このような方法を用いることにより、印刷受容層において、オレフィン系共重合体(A)が樹脂粒子として存在する形態、または、上述した相分離構造(海島構造)が形成されやすくなる。その結果、アンカー効果が得られやすくなる。また、印刷受容層の帯電防止性がより向上する。オレフィン系共重合体(A)エマルジョン(分散液)を調製する方法は特に制限されないが、上記[オレフィン系共重合体(A)]中の(エマルジョン(分散液)の調製方法)の項で説明した方法を用いると好ましい。
【0112】
混合容器に対する各成分の添加方法は、一括して添加されてもよいし、逐次添加されてもよい。また、後者の場合、その添加順序も特に限定されない。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0113】
[塗工]
塗工工程は、熱可塑性樹脂フィルムの成形ライン中においてフィルム成形と併せて実施されてもよく、熱可塑性樹脂フィルムの成形ラインとは別のライン中において、成形されたフィルムに対して実施されてもよい。基材への塗工液の塗工は、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、サイズプレスコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーターなどの塗工装置を用いて実施することができる。
【0114】
[塗工量]
印刷受容層は、上記オレフィン系共重合体(A)および上記ジアリルジメチルアンモニウム塩(B)、ならびに必要に応じて用いられるエチレンイミン系重合体(C)、シランカップリング剤(D)およびその他の任意成分を含む塗工液を、上記基材上に塗工し、乾燥させて設けることが好ましい。オフセット印刷インキ等の各種印刷インキとの密着性や、液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式におけるトナーとの密着性が十分得られる傾向にあることから、片面当たりの乾燥後の印刷受容層の固形分量は、0.1g/m2以上であり、0.25g/m2以上であることが好ましく、0.3g/m2以上であることがより好ましく、また、塗工工程の調整が比較的容易であり、印刷媒体の生産性を向上させたり、塗工ムラを防止したりすることが可能であることから、片面当たりの乾燥後の印刷受容層の固形分量は、5g/m2以下であることが好ましく、3g/m2以下であることがより好ましく、1.5g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0115】
[乾燥]
上記のように塗工工程を行った後、塗工された塗工液を乾燥することが好ましい。この際、乾燥条件(温度、時間など)は、塗工液中の溶媒を除去することができる条件であれば、特に制限されない。一例として、乾燥温度は、20~120℃であると好ましく、35~80℃であるとより好ましい。乾燥時間も特に制限されない。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
【0116】
また、乾燥手段(装置)としては、特に制限されないが、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができる。一方、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0117】
[印刷受容層の厚さ]
印刷受容層の厚さ(乾燥時の膜厚)は、0.1μm以上であることが好ましく、0.25μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。また、印刷受容層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。印刷受容層の厚さが0.1~5μmであると、各種印刷への適性をはじめとする所期の性能を有し、既存の印刷用紙に似た風合いの記録用紙を製造しやすくなる傾向がある。すなわち、好ましい一実施形態において、印刷受容層の厚みは、0.1~5μmである。
【0118】
[2]基材
記録用紙における基材は、記録用紙に、印刷適性に重要なコシ等の機械強度や、耐水性、耐薬品性、必要に応じて不透明性等を付与するものである。本発明に係る印刷受容層を設けることにより、通常では帯電しやすい熱可塑性樹脂フィルムであっても帯電防止性を付与でき、各種印刷に適した記録用紙を提供することができる。そして、このように、熱可塑性樹脂フィルムを基材として用いることにより、記録用紙や印刷物に耐水性を付与することができる。
【0119】
以下、記録用紙に用いられる熱可塑性樹脂フィルムの組成、構成、製造方法について詳細に説明する。
【0120】
[2-1]熱可塑性樹脂フィルムの組成
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、記録用紙に適した薄膜状に成形でき、適切な機械強度やコシ、耐水性、耐薬品性等を具備しているものであれば特に限定されない。このような熱可塑性樹脂の具体例として、ポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1~8であることが好ましい)、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;シンジオタクティックポリスチレン、アタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも上記特性や生産コスト等の観点から、プロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、およびポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等を用いることが好ましい。これらの樹脂は2種以上混合して用いることもできる。
【0121】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、フィルムの成形性の観点からポリプロピレン系樹脂を用いることがより好ましい。
【0122】
上記ポリプロピレン系樹脂の好適な例としては、プロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレンまたはシンジオタクティックホモポリプロピレンを挙げることができる。またプロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン等を共重合させた様々な立体規則性を有するプロピレン系共重合体を挙げることができる。プロピレン系共重合体は2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0123】
[無機フィラーおよび有機フィラー]
熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂以外の成分を含むものであってもよい。例えば熱可塑性樹脂フィルムは無機フィラーおよび有機フィラーの少なくとも一方を含むものであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムが無機フィラー等を含む場合、これを延伸したものは、無機フィラー等を核とした微細な空孔を熱可塑性樹脂フィルム内部に多数形成することができ、更なる白色化、不透明化、軽量化を与えることができる。その結果、印刷の視認性を高めることができ、記録用紙として好適なものとすることができる。
【0124】
熱可塑性樹脂フィルムに用いられる無機フィラーとしては、熱可塑性樹脂フィルムを白色化、不透明化させることができるものであれば、その種類は特に限定されない。無機フィラーの具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化珪素などが挙げられる。また、これらを脂肪酸、高分子界面活性剤、帯電防止剤等で表面処理したものも挙げられる。なかでも重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルクが、空孔成形性が良く、安価なために好ましい。また、白色度、不透明度を向上させるため、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムを用いることも好ましい。
【0125】
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムは、無機フィラーと同様の目的から有機フィラーを含むものであってもよい。
【0126】
熱可塑性樹脂フィルムに用い得る有機フィラーもまた、その種類は特に限定されない。これらの有機フィラーは熱可塑性樹脂とは非相溶であり、融点ないしはガラス転移温度が熱可塑性樹脂よりも高く、熱可塑性樹脂の溶融混練条件下で微分散するものが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合は、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィンとエチレンとの共重合体等が挙げられる。またはメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよい。更に熱可塑性樹脂を架橋して不熔化することもまた好ましい。
【0127】
無機フィラーおよび有機フィラーは、これらの中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせる場合は無機フィラーと有機フィラーとの組み合わせであってもよい。
【0128】
無機フィラーの平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、さらに好ましくは0.2μm以上である。熱可塑性樹脂との混合の容易さから、本発明に使用できる無機フィラーの平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、0.01μm以上であることが好ましい。また、延伸により内部に空孔を発生させて不透明性や印刷性を向上させる場合に、延伸時のシート切れや表面層の強度低下等のトラブルを発生させにくくする観点から、無機フィラーの平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下であり、特に好ましくは10μm以下である。
【0129】
本発明に使用できる無機フィラーの平均粒子径は、一例として粒子計測装置、例えば、レーザー回折式粒子計測装置「マイクロトラック」(株式会社日機装製、商品名)により測定した累積で50%にあたる粒子径(累積50%粒径)により測定することができる。また、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散した有機フィラーの粒子径は、熱可塑性樹脂フィルムの切断面の電子顕微鏡観察により、粒子の少なくとも10個の最大径を測定し、その平均値を粒子径として求めることも可能である。
【0130】
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムが、無機フィラーおよび有機フィラーの少なくとも一方を含む場合、無機フィラーおよび有機フィラーの含有量が、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対して1質量%以上であれば、得られる熱可塑性樹脂フィルムへの不透明性の付与など、熱可塑性樹脂フィルムへ無機フィラーや有機フィラーを配合する趣旨に沿いやすい。ゆえに、前記熱可塑性樹脂フィルムにおける無機フィラーおよび有機フィラーの含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、特に好ましくは5質量%以上である。
【0131】
一方、無機フィラーおよび有機フィラーの含有量が、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対し、45質量%以下であれば、得られる熱可塑性樹脂フィルムに適度な強度を持たせて記録用紙が取扱いやすくなる。ゆえに、前記熱可塑性樹脂フィルムにおける無機フィラーおよび有機フィラーの含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対し、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは35質量%以下である。
【0132】
[任意成分]
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて公知の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラーの分散剤、脂肪酸アミドなどのスリップ剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料、可塑剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤等として公知のものが挙げられる。特に、記録用紙を屋外で用いるポスター用紙のように耐久性が求められる場合には酸化防止剤や光安定剤等を含むことが好ましい。
【0133】
酸化防止剤の例としては、立体障害フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられ、かような酸化防止剤を、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対して0.001~1質量%の範囲内で使用することが好ましい。光安定剤の例としては、立体障害アミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ベンゾフェノン系光安定剤などが挙げられ、かような光安定剤を、熱可塑性樹脂フィルムの総質量に対して0.001~1質量%の範囲内で使用することが好ましい。これらは熱可塑性樹脂フィルムと印刷受容層との密着を阻害しない範囲で添加することが好ましい。
【0134】
[2-2]基材の構成
[熱可塑性樹脂フィルムの層構成]
記録用紙の基材となりうる熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を製膜し、所望の熱可塑性樹脂フィルムとすることで得られる。また、熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂に無機フィラー、有機フィラーおよび公知の添加剤等を任意に配合したものを製膜したものであってもよい。
【0135】
熱可塑性樹脂フィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。
【0136】
本発明における基材としての熱可塑性樹脂フィルムの好ましい様態は、多層構造であって、各層に特有の性質を付与したものである。例えば熱可塑性樹脂フィルムを表層(i)/基層/表層(ii)の3層構造とし、基層にて記録用紙に好適な剛度、不透明性、軽量性などを付与することができる。また、表層(i)と表層(ii)とは、同質の表面構造であってもよく、異質の表面構造であってもよい。例えば、一方の表層を、印刷受容層を設けるために適した表面構造とし、他方の表層は粘着剤層を設けるに適した表面構造とすることで、ラベル用紙として好適な記録用紙を得ることができる。また、一方の表層と他方の表層の組成や厚さ等を適宜設計することで、基材のみならず、記録用紙やラベル用紙の様態となってもカールを特定範囲内に制御することが可能となる。また、熱可塑性樹脂フィルムを多層構造とし、これに最表面層以外の層間にベタ印刷層を設けたり、最表面層以外の層内に顔料含有層を設けたりして、熱可塑性樹脂フィルムに隠蔽層を含有させることにより、ポスター用紙などに用いた場合に片面の印刷が背面から透けて見えることもなく、更に両面に設けた印刷の視認性を向上させることもできる。
【0137】
[厚さ]
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、大型のポスター等として屋外掲示する際にも十分な機械的強度が得られやすい傾向があることから、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、記録用紙が重くなりすぎず取り扱いやすい傾向があることから、前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0138】
[空孔率]
熱可塑性樹脂フィルムが内部に空孔を有する場合、熱可塑性樹脂フィルムに不透明性や軽量性を付与することができる。フィルム中に占める空孔の割合は空孔率で表すことができる。
【0139】
熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、不透明性を得る観点から、10%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、機械的強度を維持する観点から、45%以下であることが好ましく、44%以下であることがより好ましく、42%以下であることが更に好ましく、40%以下であることが特に好ましい。
【0140】
熱可塑性樹脂フィルムにおける空孔率の測定方法は、熱可塑性樹脂フィルムの断面を電子顕微鏡で観察し、観察領域において空孔が占める面積の比率より求めることができる。具体的には、樹脂フィルム試料より任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いてフィルムの面方向に垂直な切断面を作製し、切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付け、その観察面に金ないしは金-パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍~3000倍の拡大倍率)における表面の空孔を観察し、さらに観察した領域を画像データとして取り込み、その画像を画像解析装置にて画像処理を行い、空孔部分の面積率を求めて、空孔率とすることができる。この場合、任意の10箇所以上の観察における測定値を平均して空孔率とすることが可能である。
【0141】
[2-3]基材の製造方法
[熱可塑性樹脂フィルムの成形]
熱可塑性樹脂フィルムは、公知の種々の方法を単独でもしくは組み合わせて製造することができ、その成形方法は特に限定されない。如何なる方法により製造された熱可塑性樹脂フィルムであっても、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、本発明の範囲内に含まれる。
【0142】
熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、スクリュー型押出機に接続された単層または多層のTダイ、Iダイなどにより溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形などを用いて、熱可塑性樹脂を含むフィルム層として成形することができる。熱可塑性樹脂と、有機溶媒またはオイルとの混合物をキャスト成形またはカレンダー成形した後、溶媒またはオイルを除去する方法を用いて、熱可塑性樹脂を含むフィルム層を成形してもよい。
【0143】
[熱可塑性樹脂フィルムの多層化]
熱可塑性樹脂フィルムは、2層構造、3層以上の多層構造のものであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムを多層構造にする場合は公知の種々の方法が使用できるが、具体例としては、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式と、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられる。又、多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0144】
[熱可塑性樹脂フィルムの延伸]
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸されていないフィルムであってもよく、延伸されたフィルムであってもよい。フィルムを延伸する場合もまた従来公知の種々の方法を使用することができ、その方法は特に限定されない。
【0145】
例えば前述の熱可塑性樹脂を、スクリュー型押出機を用いて溶融混練し、この押出機に接続されたTダイやIダイを用いて溶融樹脂を押し出してシート状に成形した後、該シートを延伸して樹脂フィルムを得る方法としては、ロール群の周速差を利用したロール間縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法などが使用できる。また、圧延法、テンターオーブンとパンタグラフとの組み合わせによる同時二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターとの組み合わせによる同時二軸延伸法などが使用できる。さらには、スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法などが使用できる。
【0146】
また、熱可塑性樹脂フィルムが複数の層から構成される場合は、少なくともその一層が延伸されていることが好ましい。複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸しても差し支えない。
【0147】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸は、同フィルムに含まれる熱可塑性樹脂に好適な温度範囲内で実施することが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの延伸温度は、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましい。具体的には、フィルム層の延伸温度は、フィルム層に用いられる熱可塑性樹脂の融点よりも2~60℃低い温度であると好ましい。
【0148】
熱可塑性樹脂フィルムを延伸する場合の延伸速度は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂フィルムの安定した延伸成形のために20~350m/分の範囲内であることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムを延伸する場合の延伸倍率は特に限定されず、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂の特性などを考慮して適宜決定される。
【0149】
例えば、熱可塑性樹脂としてプロピレンの単独重合体またはその共重合体を含むフィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、通常約1.2倍以上、好ましくは2倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常12倍以下、好ましくは10倍以下である。一方、同フィルムを二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で通常1.5倍以上、好ましくは10倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常60倍以下、好ましくは50倍以下である。
【0150】
また、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を含むフィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、通常1.2倍以上、好ましくは2倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常10倍以下、好ましくは5倍以下である。一方、同フィルムを二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で通常1.5倍以上、好ましくは4倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常20倍以下、好ましくは12倍以下である。
【0151】
上記延伸倍率の範囲内であれば所望の空孔が得られて不透明性が向上しやすく、熱可塑性樹脂フィルムの破断が起きにくく安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0152】
[熱可塑性樹脂フィルムの表面処理]
熱可塑性樹脂フィルムは、後述する印刷受容層を設けて記録用紙とする前に、その表面に表面酸化処理を施すことが好ましい。表面酸化処理を施すことによって、熱可塑性樹脂フィルムと印刷受容層との密着性がより向上する。
【0153】
上記表面酸化処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理若しくはオゾン処理などより選ばれた処理方法が挙げられ、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0154】
表面酸化処理を実施する場合、コロナ放電処理またはフレーム処理を実施することが好ましい。コロナ放電処理を実施する場合、その処理量は、好ましくは600J/m2(10W・分/m2)以上であり、より好ましくは1,200J/m2(20W・分/m2)以上であり、また、その処理量は、好ましくは12,000J/m2(200W・分/m2)以下であり、より好ましくは10,800J/m2(180W・分/m2)以下である。フレーム処理を実施する場合、その処理量は、好ましくは8,000J/m2(約133W・分/m2)以上であり、より好ましくは20,000J/m2(約333W・分/m2)以上であり、また、その処理量は、好ましくは200,000J/m2(約3,333W・分/m2)以下であり、より好ましくは100,000J/m2(約1,666W・分/m2)以下である。
【0155】
[3]記録用紙の用途
本発明の記録用紙は、オフセット印刷、レタープレス印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷を含む種々の方法の印刷が可能であり、得られた印刷物のインキの密着性および帯電防止性に優れる。したがって、本発明の記録用紙は、屋内外で用いるポスター、屋内外で用いるステッカー、屋内外で用いるメニュー、冷蔵・冷凍食品用容器のラベルや工業製品のネーマー(使用方法、注意書きを記したラベル)、本、フォトブック、カレンダー、メモ帳、包装紙、各種カード・チケット、病院や遊園地等で使用されるリストバンド、各種タグ(機械設備の警告タグ・配管識別タグ等)、工業用マニュアル(工場などで使用されるマニュアル)等の用紙として好適に用いられる。
【0156】
また、本発明の記録用紙は特に、液体トナーを用いた電子写真印刷方式において得られた印刷物のトナーの密着性にも優れており、小ロット印刷や可変情報印刷が行われる用途にも好適である。
【0157】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【実施例0158】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の製造例、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の技術的範囲は、以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下の実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、溶液あるいは分散液として使用する原料の量比(単位:「質量部」、「質量%」)は、いずれも固形分換算の値である。なお、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0159】
[基材の製造]
(製造例1:基材)
(I)プロピレン単独重合体(商品名:ノバテック(登録商標)PP FG4AQ、日本ポリプロ(株)製)53質量部、重質炭酸カルシウム粒子(平均粒子径:1.25μm、商品名:ソフトン1800、備北粉化工業(株)製)10質量部、重質炭酸カルシウム粒子(商品名:カルテックス7、丸尾カルシウム(株)製)30質量部、および二酸化チタン(商品名:タイピュア R-103、伊藤忠ケミカルフロンティア(株)製)7質量部を混合して、樹脂組成物aを調製した。
【0160】
(II)次いで、樹脂組成物aを270℃に設定した押出機で溶融混練し、ダイよりシート状に押出した。このシートを冷却ロールにより冷却して、無延伸シートを得た。この無延伸シートを140℃まで再度加熱した後、ロール間の速度差を利用してシート流れ方向(MD)に4.8倍の延伸を行って縦一軸延伸樹脂フィルムを得た。
【0161】
(III)これとは別に、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテック(登録商標)PP MA3、日本ポリプロ(株)製)14質量部、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテック(登録商標)PP FY6、日本ポリプロ(株)製)60質量部、高密度ポリエチレン樹脂(商品名:ノバテック(登録商標)HD HJ580N、日本ポリエチレン(株)製)10質量部、重質炭酸カルシウム粒子(商品名:ソフトン1800、備北粉化工業(株)製)15.5質量部、二酸化チタン(平均粒子径:0.21μm、商品名:タイペーク(登録商標)CR60、石原産業(株)製)0.5質量部を混合して、樹脂組成物bを調製した。
【0162】
上記樹脂組成物bを270℃に設定した押出機で溶融混練し、上記縦一軸延伸樹脂フィルムの片面にダイよりフィルム状に押し出し、積層して、第1表面層/コア層の積層体(樹脂組成物b/樹脂組成物a)を得た。
【0163】
さらに、別の押出機を用い、上記樹脂組成物bを250℃に設定した押出機で溶融混練し、ダイよりフィルム状に押し出し、上記積層体(樹脂組成物b/樹脂組成物a)のコア層(樹脂組成物a)側の面に積層した。これにより、第1表面層/コア層/第2表面層の3層構造の積層体(樹脂組成物b/樹脂組成物a/樹脂組成物b)を得た。
【0164】
この3層構造の積層体をテンターオーブンに導き、155℃に加熱した後、テンターを用いて横方向に8倍延伸した。次いで163℃で熱セット(アニーリング)して、さらに55℃まで冷却し、耳部をスリットして厚さ200μmの熱可塑性樹脂フィルムを基材(1)として得た。
【0165】
[印刷受容層材料の製造]
(製造例2:オレフィン系共重合体(A)のエマルジョン(分散液))
還流冷却器、窒素導入管、攪拌機、温度計、滴下ロートおよび加熱用のジャケットを装備した内容積が150Lの反応器に、イソプロパノール(商品名:トクソー(登録商標)IPA、(株)トクヤマ製)40kgを仕込み、続いて攪拌しながら、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(商品名:メタクリレートDMA、三洋化成工業(株)製)12.6kg、ブチルメタクリレート(商品名:アクリエステル(登録商標)B、三菱ケミカル(株)製)12.6kg、および高級アルコールメタクリル酸エステル(商品名:アクリエステル(登録商標)SL、ラウリルメタクリレートとトリデシルメタクリレートの混合物、三菱ケミカル(株)製)2.8kgを仕込んだ。続いて系内の窒素置換を行い、内温を80℃まで上昇させた後、系内に重合開始剤として2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(商品名:V-60(AIBN)、富士フイルム和光純薬工業(株)製)0.3kgを添加して重合を開始した。
【0166】
次いで、反応温度を80℃に保ち4時間重合を行い、得られた共重合体を、氷酢酸(富士フイルム和光純薬工業(株)製)4.3kgを用いて中和した。
【0167】
次いで、反応器からイソプロパノールを留去しながらイオン交換水48.3kgを添加して系内を置換し、メタクリル系共重合体からなるカチオン性高分子(重量平均分子量40,000)の粘調な水溶液(固形分濃度35質量%)を得て、これをオレフィン系共重合体エマルジョン(分散液)の分散剤として用いた。
【0168】
続いて、二軸押出機(装置名:TEX30HSS、(株)日本製鋼所製)を使用して、原料樹脂の溶融混練と乳化を以下の手順で行い、オレフィン系共重合体(A)のエマルジョン(分散液)を製造した。
【0169】
具体的には、オレフィン系共重合体としてペレット状のエチレン-メタクリル酸共重合体(商品名:ニュクレル(登録商標)N035C、三井・ダウポリケミカル(株)製)を用い、これをホッパーから押出機に供給し、スクリュー回転数230rpm、シリンダー温度160℃~250℃の条件で溶融、混練した。
【0170】
次いで、上記例で製造した分散剤を、押出機のシリンダー中間部の注入口から、オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して5質量部(固形分換算)となるように連続的に供給してオレフィン系共重合体の乳化・分散処理を行い、押出機出口から押出して、乳白色の水性分散液を得た。
【0171】
この水性分散液にイオン交換水を加えて固形分が45質量%となるように調整し、オレフィン系共重合体(A1)のエマルジョン(分散液)を得た。このオレフィン系共重合体(A1)のエマルジョン粒子の体積平均粒径をレーザー回折型粒度分布測定装置(機器名:SALD-2200、(株)島津製作所社製)で測定したところ、1.0μmであった。
【0172】
(製造例3:エチレンイミン系重合体(C)の水溶液)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、および窒素ガス導入管を取り付けた四つ口フラスコ内に、ポリエチレンイミン水溶液(商品名:エポミン(登録商標)P-1000、重合度:1,600、(株)日本触媒製)の100質量部、塩化n-ブチル10質量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテル10質量部を添加し、系内を窒素置換後、窒素気流下で80℃の温度で25時間変性反応を行い、固形分20質量%のブチル変性ポリエチレンイミン水溶液を得て、これをエチレンイミン系重合体(C1)として用いた。
【0173】
[実施例1]
上記製造例2で得たオレフィン系共重合体(A1)のエマルジョン(分散液)、帯電防止剤(B1)であるジアリルジメチルアンモニウムクロライド(商品名:DADMAC((株)大阪ソーダ製)、固形分濃度:65.8%)、製造例3で得たエチレンイミン系重合体(C1)(水溶液)、およびシランカップリング剤(D1)である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-403、信越化学工業(株)製)を混合し、塗工液を調製した。このとき、オレフィン系共重合体(A1)100質量部に対し、帯電防止剤(B1)9.5質量部、エチレンイミン系重合体(C1)4.8質量部、シランカップリング剤(D1)4.8質量部となるよう調整して水溶液(固形分濃度:18質量%)を調製し、これを塗工液とした。
【0174】
上記製造例で得た基材の両面に、30W・分/m2の強度でコロナ放電処理を施し、次いで同基材の両面に、上記塗工液をロールコーターにて塗工し、60℃のオーブン中で乾燥させて印刷受容層を設けることにより、実施例1の記録用紙を得た。このとき、形成された印刷受容層の厚さはそれぞれ0.4μm、片面当たりの固形分量は0.4g/m2であった。
【0175】
[実施例2~3]
実施例1において、塗工液に含まれる各成分を表1記載の量比(単位:質量部)に変更して印刷受容層を設けたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~3の記録用紙を得た。なお、表1において、各成分の含有量に関し、括弧内の数値は、塗工液に含まれる固形分の合計を100質量%とし、これに対する各成分の含有割合(質量%)として記載する。
【0176】
[比較例1]
実施例1において、塗工液中に含まれる帯電防止剤(B1)を、ポリマー型帯電防止剤(B’1)であるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液(商品名:ユニセンス FPA-102L(センカ(株)製)、固形分濃度39%、Mw=20,000~100,000未満(DADMACポリマー))に変更して印刷受容層を設けたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の記録用紙を得た。
【0177】
[比較例2]
実施例1において、塗工液中に含まれる帯電防止剤(B1)の代わりに、低分子型帯電防止剤(B’2)である下記構造式で表されるモノアルキルトリメチルアンモニウム塩((ココ-アルキル)(トリメチル)アンモニウムクロライド、商品名:リポカード(登録商標) C-50、固形分濃度50%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を、オレフィン系共重合体(A1)100質量部に対し10.8質量部使用して印刷受容層を設けたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の記録用紙を得た。
【0178】
【0179】
[比較例3]
実施例1において、塗工液中に含まれるオレフィン系共重合体(A1)のエマルジョン(分散液)を、エチレンイミン系共重合体(C2)(商品名:サフトマー(登録商標)AC-2000(三菱ケミカル(株)製)(AC-2000))に変更して印刷受容層を設けたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の記録用紙を得た。
【0180】
[評価]
(印刷受容層の表面観察)
上記実施例1で得られた記録用紙の印刷受容層を走査型電子顕微鏡(機器名:SM-200、(株)トプコン製)によって、3000倍の倍率で観察した。得られた画像を
図2に示す。
図2に示すように、印刷受容層中にオレフィン系共重合体(A1)の粒子が分散していることが確認された。また、他の実施例についても上記と同様の構造が観察された。
【0181】
(インキ密着性:液体トナーを用いた電子写真印刷への適性)
液体トナーを用いた電子写真印刷機(機器名:Indigo(登録商標)5600、日本ヒューレット・パッカード(株)社製)を用いて、上記実施例1~3および比較例1~3で得られた記録用紙の印刷適性について、以下の評価を行った。
【0182】
《ドライ状態におけるインキ密着性》
印刷後の記録用紙について、ドライ状態におけるインキ密着性を次のようにして評価した。
【0183】
長さ5cmに切り取ったセロファンテープ(商品名:セロテープ(登録商標)CT-18、ニチバン(株)製)を印刷受容層表面に貼りつけて十分密着させた後、2.5cmを低速(2.5cm/s)で、残りの2.5cmを高速(25cm/s)で手で剥がした。剥がした後の、インキの剥離の程度によって、下記基準に基づいて密着性を評価した。
【0184】
-評価基準-
5(優秀):低速、高速で共に剥離なし
4(良好):低速で剥離なし、高速で部分的(高速剥離面全体の50%未満)に剥離した
3(実用可):低速で剥離なし、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した
2(実用不可):低速で部分的(低速剥離面全体の50%未満)に剥離、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した
1(実用不可):低速、高速で共に全面的に剥離した。
【0185】
《ウェット状態におけるインキ密着性》
印刷後の記録用紙について、ウェット状態におけるインキ密着性を次のようにして評価した。
【0186】
印刷後の記録用紙を23℃の水中に24時間浸漬した後取り出し、印刷面の水分をかるくウエスにて拭き取り、10分後に、《ドライ状態でのインキ密着性》に記載の方法と同様にしてインキの密着性を評価した。
【0187】
(帯電防止性)
《低湿度における帯電防止性》
上記実施例1~3および比較例1~3で得られた記録用紙を、23℃、相対湿度10%RHの雰囲気下で2時間以上、記録用紙の状態を調節した後、絶縁計(日置電機株式会社製、商品名:DSM-8104)にて印刷受容層の表面固有抵抗値を測定した。表面固有抵抗値が9.9×1011(Ω)以下のものを合格とする。
【0188】
《帯電防止性》
23℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で2時間以上、記録用紙の状態を調節したこと以外は、上記《低湿度における帯電防止性》に記載の方法と同様にして表面固有抵抗値を測定した。表面固有抵抗値が9.9×1011(Ω)以下のものを合格とする。
【0189】
上記各評価より得られた結果を表1に示す。
【0190】
【0191】
表1から示されるように、実施例1~3の記録用紙は、いずれも低湿度環境下に保管した後の表面固有抵抗値が9.9×1011(Ω)以下であった。したがって、実施例1~3の記録用紙は、低湿度下における帯電防止性に優れることがわかる。
【0192】
また、実施例1~3の記録用紙に液体トナーを用いた電子写真印刷を行った印刷物は、インキ密着性もまた良好であった。