(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093394
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/567 20060101AFI20240702BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20240702BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C04B35/567
C03B17/06
F27D1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209753
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(72)【発明者】
【氏名】寺西 久広
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA03
4K051AA09
4K051AB03
4K051BE00
(57)【要約】
【課題】優れた高温特性を得ることができる窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合が、炭化ケイ素65質量%以上75質量%以下、窒化ケイ素25質量%以上35%重量以下の窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物である。窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における窒化ケイ素のβ比率は75%以上90%以下であり、カルシウム成分を炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.14質量%以下含み、かさ比重が2.36g/cm
3以上2.66g/cm
3以下であり、少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素がX線回折で検出されない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合が、炭化ケイ素65質量%以上75質量%以下、窒化ケイ素25質量%以上35%重量以下である窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物であって、
前記窒化ケイ素のβ比率が75%以上90%以下であり、
カルシウム成分を前記炭化ケイ素と前記窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.14質量%以下含み、
かさ比重が2.36g/cm3以上2.66g/cm3以下であり、
少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素がX線回折で検出されない
ことを特徴とする窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物。
【請求項2】
鉄成分を前記炭化ケイ素と前記窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.5質量%以下含むことを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物に係わり、例えば、フュージョン成形法で板ガラスを製造する際に溶解硝子の温度制御で使用する輻射加熱板等、1000℃を超える高温加熱装置で用いられる窒化珪素結合炭化珪素耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、熱伝導性及び耐久性に優れることから、窯道具等、各種用途に用いられている。例えば、フュージョン成形法で板ガラスを製造する際に溶解硝子の温度制御で使用する輻射加熱板にも用いることができる。フュージョン成形法で板ガラスを製造する装置としては、例えば、第1側面加熱プレート、上部プレート、及び、第2側面加熱プレートにより画成されたエンクロージャ内部に成形本体を収容し、成形本体の第1側面表面を第1側面加熱プレートにより放射加熱し、第2側面表面を第2側面加熱プレートにより放射加熱するものが知られている(特許文献1参照)。この装置では、例えば、溶融ガラスが成形本体のトラフ状部分に導入され、その上部から溢れ出し、側面表面を流れ落ちて第1ガラスリボンおよび第2ガラスリボンを成形し、その夫々が成形本体の底部で結合して単一の第3リボンを成形するようになっている。輻射加熱板である第1側面加熱プレート及び第2側面加熱プレートは、背後に配設された加熱素子により加熱されて1000℃を超える高温となることから、これらを構成する窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物については1000℃を超える高温特性に優れることが求められる。
【0003】
窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物については、従来より、様々な報告がされている。例えば、特許文献2には、少なくともSi:5~20wt%、β-Si3N4:1~10wt%を含有する主成分がSiCである成形体をN2ガス雰囲気中で焼成し、焼成後の耐火物中のSi3N4のβ比率が55%以上であり、前記耐火物中に残留するSiが実質的に0wt%であることを特徴とする窒化珪素結合炭化珪素質耐火物の製造方法の発明が開示されている。特許文献1の実施例によれば、前記製造方法で製造された焼成後の窒化珪素結合炭化珪素質耐火物は、SiCが69~86wt%、Si3N4が14~31wt%、Si3N4のβ比率55~71%、残留Si=0%からなる。特許文献2に記載の発明によれば、焼成後の耐火物中に残留Siをなくし、β比率を大きくすることで、強力な窒化珪素結合が得られ、耐酸化性、耐熱性、高温曲げ強度および耐熱衝撃性の高められた高靭な窒化珪素結合炭化珪素質耐火物が製造できる。
【0004】
また、例えば、特許文献3には、SiC骨材粒子が60~90質量%、Si3N4質及び/又はSi2ON2質の粒界結合部が8~35質量%、SiO2、Al2O3、CaO及びFe2O3を含む粒界ガラス質及び/又は結晶質相が1.0~15.0質量%、および金属Siが0.05~2.0質量%、からなり、かつカルシウム成分をCaO換算で0.2~1.0質量%含有することを特徴とする窒化物結合SiC耐火物の発明が開示されている。特許文献3に記載の発明によれば、所定量の金属Siを含むことで高温の特性が向上し、クラックの伝わりを止めることができる。また、粒界ガラス相中にCaを所定量含むことで、耐酸化特性、耐熱衝撃性、クリストバライトの生成量の制御、ガラス相量の制御を良好とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-27947号公報
【特許文献2】特開平3-223167号公報
【特許文献3】特開平4-114969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、かさ比重が特定されておらず、また、Si3N4が少ない傾向にあり、かつSi3N4の実施例ベースでの実質上β比率が低く、耐熱衝撃性が十分なものとは言えなかった。更に、高靭ではあるものの高温時の耐クリープ性が十分なものではなく、高温加熱装置用として用いた場合、満足される耐用寿命ではなかった。
【0007】
また、特許文献3に記載の発明では、金属Siが含まれているため、大気中高温下で使用されることにより、特には表層部の金属SiがSiO2化並びにクリストバライト化してしまい、強度劣化、破損につながるといった問題があった。また、カルシウム成分を多く含むため、高温時の耐クリープ性が十分なものではなく、高温加熱装置用として用いた場合、満足される耐用寿命ではなかった。
【0008】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができる窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合が、炭化ケイ素65質量%以上75質量%以下、窒化ケイ素25質量%以上35%重量以下のものであって、窒化ケイ素のβ比率が75%以上90%以下であり、カルシウム成分を炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.14質量%以下含み、かさ比重が2.36g/cm3以上2.66g/cm3以下であり、少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素がX線回折で検出されないものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物によれば、窒化ケイ素のβ比率、カルシウム成分の濃度、及び、かさ比重を所定の範囲内とし、かつ、少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素がX線回折で検出されないようにしたので、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能が高く、優れた高温特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高温曲げ強さ測定方法について説明する図である。
【
図2】耐クリープ性能の測定方法について説明する図である。
【
図3】焼結体の表面から5mmの厚さ領域における金属ケイ素の検出を示すX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、例えば、炭化ケイ素(SiC)の骨材粒子を、窒化ケイ素(Si3N4)及び炭化ケイ素を含む粒界結合部により結合したものである。この窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合は、炭化ケイ素が65質量%以上75質量%以下、窒化ケイ素が25質量%以上35%重量以下である。これにより、高温強度、耐熱衝撃性および耐クリープ性能の向上効果が得られる。また、炭化ケイ素が65質量%未満であり、窒化ケイ素が35質量%超であると、微紛の過剰反応による微亀裂発生といった問題が生じてしまう。更に、炭化ケイ素が75質量%超であり、窒化ケイ素が25質量%を未満であると、微粉の反応不足による低強度化といった問題が生じる。
【0014】
窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における窒化ケイ素のβ比率(β相の比率)は、75%以上90%以下である。これにより、高温強度および耐熱衝撃性の向上効果が得られる。窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物全体に対する炭化ケイ素と窒化ケイ素とを合計した割合は、例えば、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上、更には、99質量%以上であればより好ましい。
【0015】
また、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物はカルシウム(Ca)成分を含んでいる。すなわち、化合物や元素等の化学成分として、カルシウムを含んでいる。窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物におけるカルシウム成分の濃度は、炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.14質量%以下である。これにより、高温強度および耐クリープ性能の向上効果が得られる。また、カルシウム成分が0.05質量%未満であると、高温強度および耐クリープ性能の低下といった問題が生じ、0.14質量%超であると、耐熱衝撃性の低下といった問題が生じる。なお、カルシウム成分は、例えば、主として酸化カルシウム(CaO)として粒界結合部に存在している。
【0016】
窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物のかさ比重は、2.36g/cm3以上2.66g/cm3以下である。これにより、適正な組織充填性が得られ高温強度向上の効果が得られる。また、かさ比重が2.36g/cm3未満であると、組織脆弱化による低強度化といった問題が生じ、2.66g/cm3超であると、組織緻密化による耐熱衝撃性低下といった問題が生じる。
【0017】
窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素が存在しておらず、金属ケイ素がX線回折で検出されない。これにより、窒化反応に伴う熱間強度向上の効果が得られる。また、特に、表層に金属ケイ素が残存すると、酸化によるクリストバライト化により局部的異常膨張がおこり、表面に割れ等の不具合が生じてしまう。
【0018】
更に、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は他の成分を含んでいてもよく、例えば、鉄(Fe)成分を含んでいることが好ましい。すなわち、化合物や元素等の化学成分として、鉄を含んでいることが好ましい。窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における鉄成分の濃度は、炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.5質量%以下である。これにより、更に熱間強度と耐クリープ性能の向上効果が得られる。なお、鉄成分は、例えば、主として酸化鉄として粒界結合部に存在している。
【0019】
この窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、例えば、原材料として、炭化ケイ素骨材、炭化ケイ素微粉、窒化ケイ素微粉、金属ケイ素微粉、カルシウム成分の原材料である酸化カルシウム(CaO)粉末、必要に応じて鉄等の他の成分の原材料を用意し、秤量する。炭化ケイ素骨材の粒径は0.3mm~3.0mm、炭化ケイ素微粉の粒径は100μm以下、窒化ケイ素微粉の粒径は0.1μm~10μm、金属ケイ素微粉の粒径は50μm以下、酸化カルシウム粉末及び他の成分の原材料の粒径は20μm以下とすることが好ましい。
【0020】
次いで、例えば、原材料に、水等の溶媒、分散材、バインダー等を添加して混錬する。続いて、例えば、混錬物を型に鋳込み、型内養生を所定時間行い、型からだして自然乾燥及び高温乾燥を所定時間行う。次いで、窒素ガス雰囲気中において焼成する。焼成温度は、最高保持温度を1430℃~1460℃とすることが好ましく、最高温度保持時間を8時間から12時間とすることが好ましい。
【0021】
このように本実施の形態によれば、窒化ケイ素のβ比率、カルシウム成分の濃度、及び、かさ比重を所定の範囲内とし、かつ、少なくとも表面から5mmの厚さ領域において、金属ケイ素がX線回折で検出されないようにしたので、酸化性雰囲気下高温強度が高く、より高い耐熱衝撃性および耐クリープ性能を有する高温特性に優れた窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を提供することができる。
【0022】
よって、この窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物は、特には、フュージョン成形法で板ガラスを製造する際に溶解硝子の温度制御で使用する輻射加熱板等、1000℃を超える高温加熱装置で用いられる部材として好適である。更に、例えば、高温特性が求められる非鉄金属(アルミニウムや銅等)の鋳造用ノズル、溶解用浸漬チューブ、又は、フェライトや積層セラミックコンデンサ等の熱処理用台板にも用いることができる。
【実施例0023】
(実施例1)
まず、原材料として、粒径0.3mm~3.0mmの炭化ケイ素骨材、粒径100μm以下の炭化ケイ素微粉、粒径0.1μm~10μmの窒化ケイ素微粉、粒径30μm以下の金属ケイ素微粉、及び、粒径10μm以下の酸化カルシウム粉末を用意し、秤量した。炭化ケイ素骨材、炭化ケイ素微粉、窒化ケイ素微粉、及び、金属ケイ素微粉の配合率は、炭化ケイ素骨材が50質量%、炭化ケイ素微粉が25質量%、窒化ケイ素微粉が10質量%、金属ケイ素微粉が15質量%とした。酸化カルシウム粉末の配合率は、炭化ケイ素骨材、炭化ケイ素微粉、窒化ケイ素微粉、及び、金属ケイ素微粉の合計に対して0.18質量%とした。また、原材料の窒化ケイ素微粉におけるβ比率は82%である。
【0024】
次いで、原材料に、水と、分散材としてポリカルボン酸アンモニウム塩と、バインダーとしてアクリル系樹脂バインダーとを添加し、混錬してスラリーを得た。これらの配合率は、炭化ケイ素骨材、炭化ケイ素微粉、窒化ケイ素微粉、及び、金属ケイ素微粉の合計に対して、水を10質量%、分散材を0.1質量%、バインダーを1質量%とした。混錬は、100Lのダルトンミキサーを使用して30分間行った。
【0025】
続いて、スラリーを型に入れ、25Hz以上の振動を加えて鋳込んだ。型内の形状は、50mm×1200mm×4000mmの矩形状とした。次いで、型内養生を100時間行った後、型から出して、自然乾燥を100時間、及び、100℃における高温乾燥を100時間行った。その後、窒素ガス雰囲気中において、最高保持温度を1450℃、最高温度保持時間を10時間として焼成した。これにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物の焼成体を得た。
【0026】
(実施例2,3及び比較例1,2)
原材料において、炭化ケイ素微粉と金属ケイ素微粉の配合率を変更・調整することにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を製造した。なお、比較例1は窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における窒化ケイ素の割合が多くなるようにしたものであり、比較例2は窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における炭化ケイ素の割合が多くなるようにしたものである。
【0027】
(評価方法)
<焼成体中の炭化ケイ素及び窒化ケイ素の定量方法>
焼成体を粉砕した微粉末を加圧成形して得られたサンプルを蛍光X線により定量分析した。定量分析の方法はFP法(Fundamental parameter method)を利用した。FP法は既知のパラメータと測定された蛍光X線強度を使用して定量演算する手法である。SiC、Si3N4、金属ケイ素のSiはTotal.Siとして算出されるため、N、Cの分析値からSiC、Si3N4、金属ケイ素の含有量を算出し、金属ケイ素を除いたSiCとSi3N4との存在比率(SiCとSi3N4との合計に対するそれぞれの割合)を算出した。なお、窒化焼成時に酸素が混入した場合、Si2ON2やSiO2が生成されるため予め粉末X線回折によりSi2ON2やSiO2のピーク発生がないことを確認した。
【0028】
<焼成体中の窒化ケイ素のβ比率測定方法>
焼成体を粉砕した微粉末サンプルを粉末X線回折装置で分析し、α-Si3N4とβ-Si3N4の第1ピーク及び第2ピークを測定し、そのピーク高さ比から下記計算式により算出した。
β比率=(A+B)/(A+B+C+D)
A:β-Si3N4の第1ピーク
B:β-Si3N4の第2ピーク
C:α-Si3N4の第1ピーク
D:α-Si3N4の第2ピーク
【0029】
<焼成体中のカルシウム成分濃度の定量方法>
焼成体を粉砕した微粉末を加圧成形して得られたサンプルを蛍光X線により定量分析し、炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対する割合を算出した。定量分析の方法はFP法を利用した。
【0030】
<焼成体のかさ比重測定方法(JIS R 2205)>
寸法20mm×20mm×100mmのサンプルを使用し、サンプルの乾燥重量、水中重量、抱水重量を測定して下記計算式から算出した。
かさ比重=乾燥重量/(抱水重量-水中重量)
乾燥重量:サンプルを110℃24時間乾燥後に測定した重量
水中重量:サンプルを煮沸槽に入れ4時間煮沸後に冷却し水中で懸垂測定した重量
抱水重量:サンプルを水中から取り出し、湿布で表面をぬぐって測定した重量
【0031】
<焼結体の表面から5mmの厚さ領域における金属ケイ素の検出方法>
焼結体の表面から□5mm×5mm×深さ5mmを切断加工後に粉砕した微粉末サンプルを粉末X線回折装置で分析し、金属ケイ素の第1ピークの有無で確認した。
【0032】
<酸化性雰囲気下高温強度>
高温曲げ強さ測定方法(JIS-R2656)に基づき、次のようにして測定した。まず、
図1に示したように、20mm×20mm×100mmの大きさのサンプルSを使用し、炉内に支持ロールRにより間隔60mmで両端支持した状態で設置した。次いで、時間当たり100℃の昇温速度で1400℃まで加熱し、保持時間2時間でサンプルを加熱した。続いて、荷重速度を一定に保つことのできる材料試験機を使用し、0.25MPa/sでサンプル中央に荷重をかけてサンプルが3点曲げ破壊したときの最大荷重を測定した。3点曲げ強さは下記計算式により算出した。その結果、算出した3点曲げ強さが50MPaの場合には◎、30MPa以上50MPaの場合には〇、30MPa以下の場合には×と評価した。
3点曲げ強さ(MPa)=3WL
1/2bd
2
W:最大荷重(N)
L
1:支持ロールRの中心間距離=60mm
b:サンプルSの幅=20mm
d:サンプルSの厚み=20mm
【0033】
<耐熱衝撃性(JIS-R2657)>
230mm×114mm×65mm大きさのサンプルを使用し、加熱面(114×65)から長さ方向の約1/3(76mm)が炉外になるように炉内に挿入し、一旦下がった炉内温度が1200℃に到達してから1200℃で15分間保持した後、サンプルを炉から取り出し、流水中に挿入側の1/3を浸して3分間冷却し、更に、流水中から取り出した後、12分間空冷してサンプルのき裂の発生、及び、伸長情況を記録した。この加熱、水冷、及び、空冷の作業をサンプルが剥落するまで繰り返した。サンプルが剥落しない場合には10回繰り返した。その結果、10回繰り返しても剥落しなかった場合には◎、繰り返し6回~10回の中で剥落した場合には〇、繰り返し1回~5回の中で剥落した場合には×と評価した。
【0034】
<耐クリープ性能>
図2に示したように、200mm×30mm×10mmの大きさのサンプルSを使用し、炉内に間隔160mmで両端支持された状態で設置し、サンプルSの中央に20kgf/cm
2の加重となる重しwを積載して、時間当たり100℃の昇温条件で1200℃まで加熱し、24時間保持した後、室温まで冷却し、サンプルの変形量を測定した。重しwによる荷重Wは、4点曲げ強さの下記計算式により算出した。また、ベンド量は、ベンド量=初期の反り量-試験後の反り量により算出した。その結果、サンプルSの変形量(ベンド量)が0mmから0.03mmの場合には◎、0.03mm超から0.10mmの場合には〇、0.10超の場合には×と評価した。
σ=3W(L
2-L
3)/2bd
2
σ=20kgf/cm
2
W=重しwの荷重約3.3kg
L
2=スパン160mm
L
3=重しwの幅40mm
b=サンプルSの幅30mm
d=サンプルSの厚み10mm
【0035】
(評価結果)
実施例1~3及び比較例1,2の評価結果を表1に示す。表1に示したように、実施例1~3によれば、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能についていずれも良好な結果が得られた。これに対して、窒化ケイ素の割合が多い比較例1及び炭化ケイ素の割合が多い比較例2では、酸化性雰囲気下高温強度、及び、耐熱衝撃性が不十分であった。すなわち、炭化ケイ素と窒化ケイ素との割合を、炭化ケイ素65質量%以上75質量%以下、窒化ケイ素25質量%以上35%重量以下とするようにすれば、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができることが分かった。
【0036】
【0037】
(実施例4,5及び比較例3,4)
原材料において、窒化ケイ素微粉におけるβ比率を変更・調整することにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物における窒化ケイ素のβ比率を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を製造した。なお、比較例3はβ比率が低くなるようにしたものであり、比較例4はβ比率が高くなるようにしたものである。実施例4,5及び比較例3,4についても、実施例1と同様にして、評価を行った。評価結果を実施例1の結果と共に表2に示す。
【0038】
表2に示したように、実施例1,4,5によれば、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能についていずれも良好な結果が得られた。これに対して、β比率が低い比較例3では、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能が不十分であり、β比率が高い比較例4では、耐熱衝撃性が不十分であった。すなわち、窒化ケイ素のβ比率を75%以上90%以下とするようにすれば、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができることが分かった。
【0039】
【0040】
(実施例6,7及び比較例5,6)
原材料において、炭化ケイ素微粉及び窒化ケイ素微粉の粒径を変更・調整することにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物におけるかさ比重を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を製造した。なお、比較例5はかさ比重が低くなるようにしたものであり、比較例6はかさ比重が高くなるようにしたものである。実施例6,7及び比較例5,6についても、実施例1と同様にして、評価を行った。評価結果を実施例1の結果と共に表3に示す。
【0041】
表3に示したように、実施例1,6,7によれば、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能についていずれも良好な結果が得られた。これに対して、かさ比重が低い比較例5では、酸化性雰囲気下高温強度、及び、耐熱衝撃性が不十分であり、かさ比重が高い比較例6では、耐熱衝撃性が不十分であった。すなわち、かさ比重を2.36g/cm3以上2.66g/cm3以下とするようにすれば、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができることが分かった。
【0042】
【0043】
(比較例7)
スラリーを作成後、成型までの放置時間を変更・調整することにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物の表面から5mmの厚さ領域において金属ケイ素が残存するようにしたことを除き、他は実施例1と同様にして窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を製造した。比較例7についても、実施例1と同様にして、評価を行った。評価結果を実施例1の結果と共に表4に示すと共に、
図3にX線回折図を示す。なお、
図3には、参考として比較例3のX線回折図も合わせて示した。
【0044】
図3に示したように、実施例1及び比較例3では、金属ケイ素の第1ピークは検出されなかったのに対して、比較例7では、金属ケイ素の第1ピークが検出された。すなわち、比較例7では、表面から5mmの厚さ領域において金属ケイ素が残存していることが分かった。また、表4に示したように、実施例1によれば、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能についていずれも良好な結果が得られたのに対して、比較例7では、酸化性雰囲気下高温強度が不十分であった。すなわち、表面から5mmの厚さ領域において金属ケイ素が検出されないようにすれば、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができることが分かった。
【0045】
【0046】
(実施例8,9及び比較例8,9)
原材料において、酸化カルシウム粉末の炭化ケイ素骨材、炭化ケイ素微粉、窒化ケイ素微粉、及び、金属ケイ素微粉の合計に対する配合率を変更・調整することにより、窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物におけるカルシウム成分の濃度を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして窒化ケイ素結合炭化ケイ素耐火物を製造した。なお、比較例8は酸化カルシウム粉末を添加しなかったものであり、比較例9はカルシウム成分の濃度が高くなるようにしたものである。実施例8,9及び比較例8,9についても、実施例1と同様にして、評価を行った。評価結果を実施例1の結果と共に表5に示す。
【0047】
表5に示したように、実施例1,8,9によれば、酸化性雰囲気下高温強度、耐熱衝撃性、及び、耐クリープ性能についていずれも良好な結果が得られた。これに対して、カルシウム成分が低い比較例8では、酸化性雰囲気下高温強度、及び、耐クリープ性能が不十分であり、カルシウム成分が高い比較例9では、耐熱衝撃性が不十分であった。すなわち、カルシウム成分を炭化ケイ素と窒化ケイ素との合計に対して0.05質量%以上0.14質量%以下とするようにすれば、耐用寿命の長期化を可能とする優れた高温特性を得ることができることが分かった。
【0048】
【0049】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、製造方法について具体的に説明したが、これに限定されない。