(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093400
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レーザ電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240702BHJP
H02M 9/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H02M3/155 G
H02M3/155 H
H02M9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209762
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS17
5H730BB13
5H730BB14
5H730CC01
5H730DD02
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD31
5H730FG02
(57)【要約】
【課題】バンクコンデンサの充電速度を速めることが可能なレーザ電源装置を提供する。
【解決手段】充電電源が、外部から与えられる直流電圧を昇圧してバンクコンデンサを充電する。制御部が、充電電源を制御する。バンクコンデンサからの放電電力が、パルス駆動される高周波電源を介してレーザ発振器に供給される。制御部は、バンクコンデンサを電圧目標値まで充電する電圧フィードバック制御と、バンクコンデンサの充電電流を目標電流波形に沿って変化させる電流フィードバック制御とを行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から与えられる直流電圧を昇圧して、パルス的な放電が行われるバンクコンデンサを充電する充電電源と、
前記充電電源を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記バンクコンデンサを電圧目標値まで充電する電圧フィードバック制御と、
前記バンクコンデンサの充電電流を目標電流波形に沿って変化させる電流フィードバック制御と
を行うレーザ電源装置。
【請求項2】
前記バンクコンデンサからの放電電力が、パルス駆動される高周波電源を介してレーザ発振器に供給され、
前記制御部は、前記高周波電源のパルス駆動に同期して、前記電圧フィードバック制御を開始する請求項1に記載のレーザ電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記高周波電源のパルス駆動の繰り返し周期より短い時間で、前記バンクコンデンサを前記電圧目標値まで充電できるように、前記目標電流波形を設定する請求項2に記載のレーザ電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記高周波電源の1回のパルス駆動で消費される電力量が、1回の前記電圧フィードバック制御の期間中に充電されるように、前記目標電流波形を設定する請求項2または3に記載のレーザ電源装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電圧目標値から、前記バンクコンデンサの電極間の電圧であるDCリンク電圧の現在値までの偏差に応じて、前記目標電流波形を修正する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザ電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザビームを用いて基板に穴あけ加工を行うレーザ加工機が公知である。このレーザ加工機では、レーザ電源装置から高周波電源に直流電力が供給され、高周波電源からレーザ発振器に高周波電力が供給される。高周波電源をパルス駆動することにより、レーザ発振器からパルスレーザビームが出力される。
【0003】
高周波電源をパルス駆動すると、レーザ電源装置から高周波電源に印加されている直流電圧が低下する。安定して穴あけ加工を行うために、レーザ発振器に供給する高周波電力を安定させる必要がある。高周波電力を安定させるために、高周波電源に印加されている直流電圧の低下を、素早く回復させる必要がある。
【0004】
特許文献1に、高周波電源に印加されている直流電圧の低下を回復させる電源装置が開示されている。この電源装置は、バンクコンデンサと、バンクコンデンサに充電電力を供給する昇降圧コンバータとを含む。高周波電源をパルス駆動すると、バンクコンデンサからの放電電力が高周波電源に供給される。高周波電源の動作に同期して、充電電源の昇降圧コンバータをワンパルス駆動してバンクコンデンサを充電する。昇降圧コンバータのスイッチング素子のオン時間を調整することにより、バンクコンデンサの放電電力に相当する電力をバンクコンデンサに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
充電電源の昇降圧コンバータをワンパルス駆動してバンクコンデンサを充電する場合、昇降圧コンバータとバンクコンデンサとからなる充電経路の回路定数に応じて、充電電流が時間の経過とともに低下する。このため、バンコンデンサの充電速度を速めることに限界がある。本発明の目的は、バンクコンデンサの充電速度を速めることが可能なレーザ電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
外部から与えられる直流電圧を昇圧してバンクコンデンサを充電する充電電源と、
前記充電電源を制御する制御部と
を備え、
前記バンクコンデンサからの放電電力が、パルス駆動される高周波電源を介してレーザ発振器に供給され、
前記制御部は、
前記バンクコンデンサを電圧目標値まで充電する電圧フィードバック制御と、
前記バンクコンデンサの充電電流を目標電流波形に沿って変化させる電流フィードバック制御と
を行うレーザ電源装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
電圧フィードバック制御のみならず、バンクコンデンサの充電電流を目標電流波形に沿って変化させる電流フィードバック制御を行うため、所望の電流波形を実現することができる。これにより、バンクコンデンサの充電速度を速めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ電源装置を含むレーザ加工装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、レーザ電源装置のより詳細なブロック図、及び充電電源の等価回路図である。
【
図3】
図3は、制御部が実行するフィードバック制御のブロック線図である。
【
図4】
図4は、レーザ電源装置の制御部が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、レーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、比較例によるレーザ電源装置で実行されるフィードバック制御のブロック線図である。
【
図7】
図7は、比較例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、他の実施例によるレーザ電源装置に用いられる充電電源の等価回路図である。
【
図9】
図9は、さらに他の実施例によるレーザ電源装置の制御部が実行するフィードバック制御のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図7を参照して、一実施例によるレーザ電源装置について説明する。
図1は、本実施例によるレーザ電源装置10を含むレーザ加工装置のブロック図である。本実施例によるレーザ電源装置10は、充電電源11及び制御部12を含む。交流電源46から出力される三相交流電流が整流器47で整流されて充電電源11に入力される。充電電源11は、整流器47によって発生された直流電圧を昇圧し、バンクコンデンサ30を充電する。
【0011】
バンクコンデンサ30からの放電電力が、パルス駆動される高周波電源40を介してレーザ発振器41の放電電極42に供給される。レーザ発振器41は、パルス的に高周波電力が供給されることによってパルスレーザビームを出力する。パルスレーザビームが加工機45に入力され、レーザ加工が行われる。
【0012】
加工機45が制御部12に発振指令Sigを送出する。制御部12は、発振指令Sigを受信すると、高周波電源40に動作指令Trg1を送出するとともに、充電電源11に動作指令Trg2を送出する。充電電源11は、動作指令Trg2を受けている期間、充電動作を実行する。高周波電源40は、動作指令Trg1を受けている期間、レーザ発振器41に高周波電力を供給する。
【0013】
電流センサ34が、バンクコンデンサ30の充電電流Ichgを測定する。電圧センサ35が、バンクコンデンサ30の電極間の電圧Vdcを測定する。本明細書において、バンクコンデンサ30の電極間の電圧Vdcを、DCリンク電圧Vdcという。電流センサ34による充電電流Ichgの測定値、及び電圧センサ35によるDCリンク電圧Vdcの測定値が、制御部12に入力される。
【0014】
制御部12は、DCリンク電圧Vdcが低下した時、バンクコンデンサ30を充電してDCリンク電圧Vdcを電圧目標値に戻す制御を行う。さらに、DCリンク電圧Vdcを電圧目標値に戻す際に、バンクコンデンサ30の充電電流Ichgを、目標電流波形に沿って変化させる制御を行う。この制御については、後に
図3~
図5を参照して詳細に説明する。
【0015】
図2は、レーザ電源装置のより詳細なブロック図、及び充電電源11の等価回路図である。充電電源11は、昇降圧コンバータ11A及びコンバータコントローラ11Bを含む。昇降圧コンバータ11Aは、リアクトルL1、昇圧用トランジスタQ1、降圧用トランジスタQ2、還流ダイオードD1、D2を含む。制御部12からコンバータコントローラ11Bに、動作指令Trg2が与えられると、コンバータコントローラ11Bは、昇圧用トランジスタQ1をスイッチングする。スイッチング時における昇圧用トランジスタQ1のオン時間をTonと標記する。
図2に、昇圧用トランジスタQ1を1回スイッチングしたときに、リアクトルL1を流れる電流I
L1及びバンクコンデンサ30の充電電流Ichgの波形の一例を示す。
【0016】
整流器47から昇降圧コンバータ11Aに直流電圧が印加される。昇圧用トランジスタQ1がオンになると、リアクトルL1及び昇圧用トランジスタQ1からなる回路を流れる電流IL1が徐々に増加する。昇圧用トランジスタQ1がオフになると、リアクトルL1及び還流ダイオードD2を通ってバンクコンデンサ30に流れる充電電流Ichgが急激に立ち上がる。充電電流Ichgは、時間の経過とともに減少する。
【0017】
リアクトルL1を流れる電流IL1がゼロに戻る前に、昇圧用トランジスタQ1を再度オンにすると、その時点から電流IL1が増加し始める。昇圧用トランジスタQ1をオフにすると、その時点から充電電流Ichgが流れ始める。昇圧用トランジスタQ1のスイッチングを繰り返すと、電流IL1の極大値が徐々に大きくなるとともに、充電電流Ichgの極大値も大きくなる。
【0018】
バンクコンデンサ30に充電電流Ichgを流すことにより、高周波電源40の駆動により低下したDCリンク電圧Vdcを電圧目標値まで回復させることができる。昇圧用トランジスタQ1のスイッチング周波数を一定にし、スイッチング時のオン時間Tonを調整することにより、充電電流Ichgの時間波形を調整することができる。
【0019】
次に、
図3を参照して、制御部12が実行するフィードバック制御について説明する。
図3は、制御部12が実行するフィードバック制御のブロック線図である。
【0020】
DCリンク電圧Vdcの電圧目標値Vrefが予め与えられている。高周波電源40の1回のパルス駆動ごとに、電圧目標値Vrefに対するDCリンク電圧Vdcの測定値Voutの偏差に応じて、PID制御ブロック12Aが電流修正指令値ΔIrefを出力する。
【0021】
目標電流波形生成ブロック12Bに、充電時間幅T、及び充電電流基準値Iref_0が与えられる。充電時間幅Tには、レーザ発振器41(
図1)から出力させるパルスレーザビームのパルスの繰り返し周期より短い値が設定される。充電電流基準値Iref_0で充電時間幅Tだけバンクコンデンサ30を充電するときにバンクコンデンサ30に供給される電力量が、パルスレーザビームの1パルスの出力によりバンクコンデンサ30から放電される電力量に等しくなるように、充電時間幅T及び充電電流基準値Iref_0が設定される。例えば、1パルスの出力でバンクコンデンサ30から放電される電力量をEと標記すると、充電電流基準値Iref_0は以下の式で与えられる。
Iref_0=E/(Vref×T)
【0022】
目標電流波形生成ブロック12Bには、予め、充電電流の目標値Irefの基準波形が設定されている。基準波形は、例えば矩形波であり、矩形波の時間幅が充電時間幅Tに等しく、高さが充電電流基準値Iref_0に等しい。すなわち、基準波形に沿うように充電電流Ichgの目標値Irefを変化させたときにバンクコンデンサ30に供給される電力量が、1パルスの出力でバンクコンデンサ30から放電される電力量に等しくなる。
【0023】
目標電流波形生成ブロック12Bは、電流修正指令値ΔIrefに基づいて、基準電流波形を修正して目標電流波形を生成する。例えば、基準電流波形の高さである充電電流基準値Iref_0を電流修正指令値ΔIrefに基づいて修正することにより目標電流波形を生成する。目標電流波形生成ブロック12Bは、時間の経過とともに、目標電流波形の現在値を、目標値Irefとして出力する。
【0024】
充電電流Ichgの目標値Irefに対する充電電流Ichgの平均値(Ichg_ave)の現在値Ioutの偏差に応じて、PID制御ブロック12Cが動作指令Trg2を出力する。動作指令Trg2には、昇圧用トランジスタQ1(
図2)のオン時間Tonを示す情報が含まれている。充電電源11は、動作指令Trg2で指令されたオン時間Tonに基づいて、昇圧用トランジスタQ1をスイッチングする。
【0025】
図3に示したように、DCリンク電圧Vdcを制御する電圧フィードバック制御のループの中に、充電電流Ichgを制御する電流フィードバック制御のループが含まれている。電流フィードバック制御の実行周期は、電圧フィードバック制御の実行周期より短い。例えば、電流フィードバック制御の実行周期は10μsであり、電圧フィードバック制御の実行周期は100μsである。
【0026】
上述のように、制御部12は、レーザ発振器41からレーザパルスが出力されるごとに、DCリンク電圧Vdcを目標値Vrefまで回復させる電圧フィードバック制御を実行する。さらに、制御部12は、電圧フィードバック制御の周期より短い周期で、バンクコンデンサ30の充電電流Ichgを目標電流波形に沿って変化させる電流フィードバック制御を実行する。
【0027】
次に、
図4及び
図5を参照して、本実施例によるレーザ電源装置10の動作について説明する。
図4は、レーザ電源装置10の制御部12が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図5は、本実施例によるレーザ電源装置10に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【0028】
制御部12が加工機45(
図1)から発振指令Sigを受信すると、高周波電源40の動作を開始する(ステップS1)。具体的には、制御部12は、高周波電源40に与える動作指令Trg1を立ち上げる(
図4の時刻t
1)。動作指令Trg1が立ち上がると、高周波電源40は、レーザ発振器41に対して励起用の高周波電力Pexcの供給を開始する。励起用の高周波電力Pexcの供給開始時点からやや遅れて、レーザ発振器41からレーザパルスLpが出力される。
【0029】
制御部12は、高周波電源40への動作指令Trg1の送出と同期して、充電電源11の動作を開始させる(ステップS2)。すなわち、バンクコンデンサ30からのパルス的な放電に同期して、バンクコンデンサ30を充電する動作が開始される。具体的には、
図3に示した電圧フィードバック制御及び電流フィードバック制御を開始する。これにより、目標電流波形生成ブロック12B(
図3)が、充電電流Ichgの目標値Irefを出力する。PID制御ブロック12Cは、目標値Irefに応じて、オン時間Tonを求め、充電電源11に動作指令Trg2を送出する。目標値Irefの波形の時間幅は、予め設定されている充電時間幅T(
図3)に等しい。
【0030】
充電電源11のコンバータコントローラ11B(
図2)は、動作指令Trg2で指令されたオン時間Tonに基づいて昇圧用トランジスタQ1をスイッチングする。昇圧用トランジスタQ1がスイッチングされることにより、充電電流Ichgが断続的に流れ、バンクコンデンサ30が充電される。
図3を参照して説明した電流フィードバック制御が行われているため、充電電流Ichgの平均値Ichg_aveが、目標値Irefの波形に沿うように変化する。
【0031】
時刻t1において、高周波電源40からレーザ発振器41に高周波電力が供給され始めると、DCリンク電圧Vdcが低下し始める。バンクコンデンサ30には充電電流Ichgも流れるため、DCリンク電圧Vdcは、昇圧用トランジスタQ1のスイッチングに同期して、下降と上昇を繰り返しながら全体として徐々に低下し、ある時点からDCリンク電圧Vdcが上昇し始める。
【0032】
加工機45から指令されたパルス幅に相当する時間が経過すると、高周波電源40の動作を停止させる(ステップS3、S4)。具体的には、高周波電源40に与えている動作指令Trg1を立ち下げる(時刻t2)。これにより、レーザ発振器41への高周波電力Pexcの供給が停止し、レーザパルスLpが立ち下がる。
【0033】
充電開始(時刻t1)から充電時間幅Tが経過する(時刻t3)と、充電電源11の動作を停止させる(ステップS5、S6)。具体的には、目標値Irefがゼロになり、オン時間Tonがゼロになる。これにより、昇圧用トランジスタQ1のスイッチングが停止され、充電電流Ichgもゼロになる。
【0034】
充電時間幅Tの間に、1回のレーザパルスの出力による放電電力量に相当する電力量がバンクコンデンサ30に供給されるように、充電電流Ichgの目標値Irefの目標電流波形が生成されるため、DCリンク電圧Vdcは、時刻t3において、バンクコンデンサ30からの放電開始直前の電圧まで回復する。また、充電時間幅Tは、パルスレーザビームのパルスの繰り返し周期より短く設定されているため、DCリンク電圧Vdcは、次のレーザパルスの出力時点(時刻t4)までに、放電開始直前の電圧まで回復する。
【0035】
次に、
図6及び
図7に示した比較例と比較しながら、本実施例の優れた効果について説明する。
【0036】
図6は、比較例によるレーザ電源装置で実行されるフィードバック制御のブロック線図である。比較例では、電流フィードバック制御が行われず、電圧フィードバック制御のみが行われる。DCリンク電圧Vdcの電圧目標値Vrefに対する測定値Voutの偏差に応じて、PID制御ブロック12Dが、オン時間Tonの修正値ΔTonを出力する。オン時間Tonの基準値Ton_0に修正値ΔTonを加えてオン時間Tonを求め、このオン時間Tonを充電電源11に指令する。
【0037】
図7は、比較例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。高周波電源40に対する動作指令Trg1、高周波電源40がレーザ発振器41に供給する高周波電力Pexc、及びレーザ発振器41から出力されるレーザパルスLpのタイミングは、上記実施例(
図5)の場合と同一である。上記実施例では、パルスレーザビームの繰り返し周期の間に、昇圧用トランジスタQ1(
図2)を複数回スイッチングするが、比較例においては、1回のみスイッチングを行う。例えば、動作指令Trg1の立ち上がりに同期して、昇圧用トランジスタQ1をオンにし、電圧フィードバック制御により決定されたオン時間Ton(
図6)が経過した時点(時刻t
3)でオフにする。
【0038】
昇圧用トランジスタQ1がオンになっている期間、リアクトルL1(
図2)を流れる電流I
L1が増加する。昇圧用トランジスタQ1がオフになると(時刻t
3)、電流I
L1が減少し始めるとともに、充電電流Ichgが流れ始める。
【0039】
高周波電源40が駆動されている期間(時刻t1~t2)、DCリンク電圧Vdcが低下し、高周波電源40の動作が停止した(時刻t2)後は、DCリンク電圧Vdcはほぼ一定に維持される。充電電流Ichgが流れ始めると(時刻t3)、DCリンク電圧Vdcが上昇し始める。
【0040】
比較例では、昇圧用トランジスタQ1をオフにした時点(時刻t
3)において、充電電流Ichgが最大であり、その後徐々に低下する。充電電流Ichgの波形は、昇降圧コンバータ11A及びバンクコンデンサ30(
図2)の回路定数で決まってしまい、波形を自由に変化させることができない。このため、バンクコンデンサ30を効率よく充電することが困難であり、DCリンク電圧Vdcを回復させるための所要時間の短縮化にも限界がある。
【0041】
加工機45(
図1)で、時刻t
4においてレーザパルスを出力させる条件が整っても、DCリンク電圧Vdcが回復していない場合は、高周波電源40を駆動することができない。高周波電源40の駆動は、DCリンク電圧Vdcが十分回復するまで待たなければならない。このため、レーザ加工のスループットが低下してしまう。
【0042】
これに対して上記実施例では、充電電流Ichgを所望の目標電流波形に沿って変化させることができるため、バンクコンデンサ30を効率よく充電することができる。このため、DCリンク電圧Vdcを電圧目標値まで回復させるまでの時間を短縮することができる。その結果、レーザ加工のスループットを高めることが可能になる。なお、昇圧用トランジスタQ1をオンにした時のリアクトルL1を流れる電流IL1の立ち上がりを急峻にするために、比較例と比べて、リアクトルL1のインダクタンスを小さくすることが好ましい。
【0043】
次に、上記実施例の変形例によるレーザ電源装置について説明する。
上記実施例では、昇降圧コンバータ11A(
図2)の昇圧用トランジスタQ1をオンオフすることにより昇圧動作を行う場合について説明しているが、降圧用トランジスタQ2をオンオフすることにより降圧動作を行わせる場合もある。例えば、DCリンク電圧Vdcを昇圧しすぎた場合は、降圧用トランジスタQ2を動作させて、バンクコンデンサ30からリアクトルL1を通して整流器47に含まれる平滑コンデンサに電流を流し、DCリンク電圧Vdcを降圧させることができる。なお、降圧動作を行う必要がない場合は、降圧用トランジスタQ2を有しない昇圧コンバータを用いてもよい。
【0044】
次に、
図8を参照して他の実施例によるレーザ電源装置について説明する。以下、
図1~
図5を参照して説明した実施例によるレーザ電源装置と共通の構成については説明を省略する。
【0045】
図8は、本実施例によるレーザ電源装置に用いられる充電電源11の等価回路図である。
図2に示した実施例では、充電電源11が1つの昇降圧コンバータ11Aを含むが、
図8に示した実施例では、2段に接続された2つの昇降圧コンバータ11A1、11A2を含む。1段目の昇降圧コンバータ11A1が昇圧動作を行い、2段目の昇降圧コンバータ11A2が降圧動作を行う。2段に接続された昇降圧コンバータ11A1、11A2の間に、段間コンデンサ11Cが接続されている。
【0046】
1段目の昇降圧コンバータ11A1の構成は、
図2に示した実施例による充電電源11の昇降圧コンバータ11Aの構成と同一である。2段目の昇降圧コンバータ11A2は、昇圧用トランジスタQ3、降圧用トランジスタQ4、リアクトルL2を含む。昇圧用トランジスタQ3及び降圧用トランジスタQ4に、それぞれ還流ダイオードD3、D4が接続されている。2段目の昇降圧コンバータ11A2は、段間コンデンサ11Cからバンクコンデンサ30に向かって降圧動作を行うように構成されている。
【0047】
1段目の昇降圧コンバータ11A1が、段間コンデンサ11Cを充電し、2段目の昇降圧コンバータ11A2が、段間コンデンサ11Cの電極間の電圧を降圧し、バンクコンデンサ30を充電する。
図8に、昇圧用トランジスタQ1を1回スイッチングしたときに、リアクトルL1を流れる電流I
L1、及び段間コンデンサ11Cの充電電流Ichg0の波形を示す。1段目の昇降圧コンバータ11AのリアクトルL1を流れる電流I
L1の波形、及び段間コンデンサ11Cの充電電流Ichg0の波形は、それぞれ
図2に示した電流I
L1及び充電電流Ichgの波形と同一である。
【0048】
2段目の昇降圧コンバータ11A2の降圧用トランジスタQ4をオンにすると、段間コンデンサ11Cから降圧用トランジスタQ4及びリアクトルL2を通って、段間コンデンサ11Cの放電電流Idisが流れ始める。
図8に、降圧用トランジスタQ4を1回スイッチングしたときに、降圧用トランジスタQ4を流れる電流Idis、及びバンクコンデンサ30の充電電流Ichgの波形を示す。
【0049】
降圧用トランジスタQ4がオンになった時点から、放電電流Idis及び充電電流Ichgが徐々に増加する。降圧用トランジスタQ4がオフになると、放電電流Idisは急激に立ち下がるとともに、リアクトルL2、還流ダイオードD3、及びバンクコンデンサ30からなる閉回路に充電電流Ichgが流れ始める。この閉回路を流れる充電電流Ichgは徐々に減少する。
【0050】
図2に示した実施例では、昇圧用トランジスタQ1がオフの期間にのみ充電電流Ichgが流れるが、
図8に示した実施例では、降圧用トランジスタQ4がオン及びオフの両方の期間に、充電電流Ichgが流れる。本実施例では、
図3に示した動作指令Trg2で指令されたオン時間Tonに応じて、昇圧用トランジスタQ1及び降圧用トランジスタQ4のスイッチングを行えばよい。なお、
図8を参照して説明したように、1段目の昇降圧コンバータ11A1に昇圧動作のみを行わせ、2段目の昇降圧コンバータ11A2に降圧動作のみを行わせる場合には、降圧用トランジスタQ2及び昇圧用トランジスタQ3は接続しなくてもよい。
【0051】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、降圧用トランジスタQ4のスイッチング時に、オンオフの状態によらず充電電流Ichgが流れる。このため、バンクコンデンサ30を、より効率的に充電することができる。
【0052】
次に、
図9を参照してさらに他の実施例によるレーザ電源装置について説明する。以下、
図1~
図5を参照して説明した実施例によるレーザ電源装置と共通の構成については説明を省略する。
図9は、制御部12が実行するフィードバック制御のブロック線図である。
【0053】
図3に示した実施例では、目標電流波形生成ブロック12Bが生成する初期の波形は矩形である。これに対して本実施例では、目標電流波形生成ブロック12Bが生成する初期の波形が台形である。このため、電圧フィードバック制御が開始されると、充電電流の目標値Irefが徐々に増加した後一定になり、電圧フィードバック制御の終了時に、充電電流の目標値Irefが徐々に低下する。
【0054】
図9に示した実施例のように、充電電流Ichgの目標値Irefの時間波形を台形にしてもよい。なお、充電電流Ichgの目標値Irefの時間波形を、矩形、台形以外の形状にしてもよい。
【0055】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0056】
10 レーザ電源装置
11 充電電源
11A、11A1、11A2 昇降圧コンバータ
11B コンバータコントローラ
11C 段間コンデンサ
12 制御部
12A PID制御ブロック
12B 目標電流波形生成ブロック
12C、12D PID制御ブロック
30 バンクコンデンサ
34 電流センサ
35 電圧センサ
40 高周波電源
41 レーザ発振器
42 放電電極
45 加工機
46 交流電源
47 整流器