(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093401
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レーザ電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240702BHJP
H02M 9/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H02M3/155 G
H02M3/155 H
H02M9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209763
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS17
5H730BB13
5H730BB14
5H730CC01
5H730DD02
5H730EE59
5H730FD01
5H730FG02
(57)【要約】
【課題】シマー放電時にレーザ発振器に供給される電力量のばらつきを抑制するとともに、スループットの低下を抑制することが可能なレーザ電源装置を提供する。
【解決手段】レーザ発振器に供給される電力がバンクコンデンサに蓄積される。充電電源がバンクコンデンサを充電することにより、電極間の電圧であるDCリンク電圧を上昇させる。制御装置が、バンクコンデンサからレーザ発振器に電力を供給してレーザ発振器を励振させるとともに、充電電源を動作させてバンクコンデンサを充電する励振充電制御を行う。さらに、バンクコンデンサからレーザ発振器に電力を供給してレーザ発振器にシマー放電を生じさせるとともに、充電電源を動作させてバンクコンデンサを充電するシマー充電制御を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器に供給される電力を蓄積するバンクコンデンサと、
前記バンクコンデンサを充電することにより、電極間の電圧であるDCリンク電圧を上昇させる充電電源と、
前記充電電源を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記バンクコンデンサから前記レーザ発振器に電力を供給して前記レーザ発振器を励振させるとともに、前記充電電源を動作させて前記バンクコンデンサを充電する励振充電制御を行う機能と、
前記バンクコンデンサから前記レーザ発振器に電力を供給して前記レーザ発振器にシマー放電を生じさせるとともに、前記充電電源を動作させて前記バンクコンデンサを充電するシマー充電制御を行う機能と
を有するレーザ電源装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記シマー充電制御を行う際に、1回の前記シマー放電によって前記バンクコンデンサから放電される電力量に相当する電力量が、前記バンクコンデンサに供給されるように、前記充電電源をフィードフォワード制御する請求項1に記載のレーザ電源装置。
【請求項3】
前記充電電源は、トランジスタのスイッチングにより昇圧動作を行うコンバータを含み、
前記制御装置は、前記シマー充電制御を行う際に、前記コンバータを1パルス駆動することにより前記バンクコンデンサを充電する請求項1または2に記載のレーザ電源装置。
【請求項4】
前記充電電源は、トランジスタのスイッチングにより昇圧動作を行うコンバータを含み、
前記制御装置は、前記シマー充電制御において、前記コンバータを1パルス駆動することにより前記バンクコンデンサを充電し、前記トランジスタのオン時間を変化させることにより、前記バンクコンデンサに充電する電力量を調整する請求項1に記載のレーザ電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記シマー放電を生じさせる前の前記DCリンク電圧の測定値を取得し、取得した測定値に基づいて前記オン時間を変化させる請求項4に記載のレーザ電源装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記シマー充電制御において、前記オン時間が許容上限値を超えないように、前記オン時間を制限する機能を有する請求項4または5に記載のレーザ電源装置。
【請求項7】
前記充電電源は、シマー用充電電源と励振用充電電源とを含み、
前記制御装置は、前記シマー充電制御を行う際に前記シマー用充電電源を動作させ、前記励振充電制御を行う際に、前記励振用充電電源を動作させる請求項1、2、4、及び5のいずれか1項に記載のレーザ電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザビームを用いて基板に穴あけ加工を行うレーザ加工機が公知である。このレーザ加工機では、充電電源がバンクコンデンサを充電し、バンクコンデンサから高周波電源に直流電力が供給され、高周波電源からレーザ発振器に高周波電力が供給される。高周波電源をパルス駆動することにより、レーザ発振器からパルスレーザビームが出力される。
【0003】
高周波電源をパルス駆動すると、バンクコンデンサの電極間の電圧が低下する。安定して穴あけ加工を行うために、レーザ発振器に供給する高周波電力を安定させる必要がある。高周波電力を安定させるために、バンクコンデンサの電極間の電圧の低下を回復させる必要がある。
【0004】
特許文献1に、高周波電源に印加されている直流電圧の低下を回復させる電源装置が開示されている。この電源装置は、バンクコンデンサと、バンクコンデンサに充電電力を供給する昇降圧コンバータとを含む。高周波電源をパルス駆動すると、バンクコンデンサからの放電電力が高周波電源に供給される。高周波電源の動作に同期して、充電電源の昇降圧コンバータをワンパルス駆動してバンクコンデンサを充電する。昇降圧コンバータのスイッチング素子のオン時間を調整することにより、バンクコンデンサの放電電力量に相当する電力量をバンクコンデンサに供給する。
【0005】
レーザ媒質ガスを放電させてパルスレーザビームを発生させるレーザ発振器において、パルスレーザビームを安定して出力させるために、高周波電源から放電電極に高周波短パルスを印加してシマー放電を生じさせる技術が公知である。シマー放電により、レーザ媒質ガスが励振前にイオン化されることにより、パルスレーザビームの出力が安定化される。シマー放電の時間は、放電開始からレーザビームが出力されるまでの時間に比べて十分短い。このため、シマー放電によってレーザビームが出力されることはない。シマー放電は、通常、一定の周波数で繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シマー放電を生じさせるために高周波電源からレーザ発振器に高周波電力が供給される。このときバンクコンデンサからの放電により、その電極間の電圧(以下、DCリンク電圧という。)が低下する。DCリンク電圧が低下すると、シマー放電を生じさせるときにレーザ発振器に供給される電力量がばらついてしまう。また、レーザパルスを出力させる時点において、DCリンク電圧が許容下限値を下回っている場合は、レーザパルスを出力させる前に、DCリンク電圧を回復させるための充電を行う必要がある。このため、レーザパルスの出力までの待ち時間が生じてしまい、スループットが低下してしまう。
【0008】
本発明の目的は、シマー放電時にレーザ発振器に供給される電力量のばらつきを抑制するとともに、スループットの低下を抑制することが可能なレーザ電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によると、
レーザ発振器に供給される電力を蓄積するバンクコンデンサと、
前記バンクコンデンサを充電することにより、電極間の電圧であるDCリンク電圧を上昇させる充電電源と、
前記充電電源を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記バンクコンデンサから前記レーザ発振器に電力を供給して前記レーザ発振器を励振させるとともに、前記充電電源を動作させて前記バンクコンデンサを充電する励振充電制御を行う機能と、
前記バンクコンデンサから前記レーザ発振器に電力を供給して前記レーザ発振器にシマー放電を生じさせるとともに、前記充電電源を動作させて前記バンクコンデンサを充電するシマー充電制御を行う機能と
を有するレーザ電源装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
シマー放電を生じさせるとともにシマー充電制御を行うため、シマー放電ごとに、DCリンク電圧の低下が回復する。このため、シマー放電時にレーザ発振器に供給される電力量のばらつきが抑制される。さらに、励振指令受信時にDCリンク電圧を回復させるための待ち時間が無くなり、スループットの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ電源装置を含むレーザ加工装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した実施例によるレーザ電源装置の充電電源の等価回路図及びブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した実施例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【
図4】
図4Aは、昇降圧コンバータの等価回路図であり、
図4Bは、リアクトルを流れる電流、バンクコンデンサの充電電流、及びDCリンク電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1に示した実施例によるレーザ電源装置の制御装置が行う制御の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、他の実施例によるレーザ電源装置の制御装置が行う制御のブロック線図である。
【
図7】
図7は、さらに他の実施例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、
図7に示した実施例によるレーザ電源装置の制御装置による制御の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、
図7に示した実施例の変形例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、さらに他の実施例によるレーザ電源装置を含むレーザ加工装置のブロック図である。
【
図11】
図11は、
図10に示した実施例によるレーザ電源装置の制御装置が行う制御のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5を参照して、一実施例によるレーザ電源装置について説明する。
図1は、本実施例によるレーザ電源装置を含むレーザ加工装置のブロック図である。本実施例によるレーザ電源装置は、充電電源10、高周波電源20、バンクコンデンサ30、及び制御装置50を含む。交流電源46から出力される三相交流電流が整流器47で整流されて充電電源10に入力される。充電電源10は、整流器47によって発生した直流電圧を昇圧し、バンクコンデンサ30を充電する。
【0013】
高周波電源20は、パルス駆動されることにより、バンクコンデンサ30から放電される直流電力を高周波電力Prfに変換し、レーザ発振器41の放電電極42に供給する。すなわち、バンクコンデンサ30に、レーザ発振器41に供給する電力が蓄積される。レーザ発振器41は、パルス的に高周波電力Prfが供給されることによってパルスレーザビームを出力する。パルスレーザビームが加工機45に入力され、レーザ加工が行われる。
【0014】
加工機45が制御装置50に励振指令Sig_e及びシマー指令Sig_sを送出する。制御装置50は、励振指令Sig_eを受信すると、高周波電源20に励振用の動作指令Trg1を送出するとともに、充電電源10に励振用の動作指令Trg2を送出する。高周波電源20は、励振用の動作指令Trg1を受けている期間、レーザ発振器41に高周波電力Prfを供給する。充電電源10は、励振用の動作指令Trg2を受信すると、バンクコンデンサ30の充電動作を実行する。
【0015】
制御装置50は、シマー指令Sig_sを受信すると、高周波電源20にシマー用の動作指令Trg1を送出するとともに、充電電源10にシマー用の動作指令Trg2を送出する。高周波電源20は、シマー用の動作指令Trg1を受けている期間、レーザ発振器41に高周波電力Prfを供給する。シマー用の動作指令Trg1が送出されている時間は、励振用の動作指令Trg1が送出されている時間より短い。充電電源10は、シマー用の動作指令Trg2を受信すると、バンクコンデンサ30の充電動作を実行する。シマー用の動作指令Trg2を受信したときにバンクコンデンサ30に供給される電力量は、励振用の動作指令Trg2を受信したときにバンクコンデンサ30に供給される電力量より少ない。
【0016】
電圧センサ35が、バンクコンデンサ30の電極間の電圧Vdcを測定する。本明細書において、バンクコンデンサ30の電極間の電圧Vdcを、DCリンク電圧Vdcという。電圧センサ35によるDCリンク電圧Vdcの測定値が、制御装置50に入力される。
【0017】
制御装置50は、励振指令Sig_e及びシマー指令Sig_sを受信したときに、バンクコンデンサ30の放電によるDCリンク電圧Vdcの低下分を回復させるための充電を行うように充電電源10を制御する。この制御については、後に
図3~
図5を参照して詳細に説明する。
【0018】
図2は、充電電源10の等価回路図及びブロック図である。
充電電源10は、昇降圧コンバータ11及びコンバータコントローラ12を含む。昇降圧コンバータ11は、リアクトルL1、昇圧用トランジスタQ1、降圧用トランジスタQ2、還流ダイオードD1、D2を含む。なお、昇降圧コンバータ11に代えて、昇圧動作のみを行うコンバータを用いてもよい。
【0019】
制御装置50からコンバータコントローラ12に、動作指令Trg2が与えられると、コンバータコントローラ12は、昇圧用トランジスタQ1をスイッチングする。スイッチング時における昇圧用トランジスタQ1のオン時間をTonと標記する。
図2に、昇圧用トランジスタQ1を1回スイッチングしたときに、リアクトルL1を流れる電流I
L1及びバンクコンデンサ30の充電電流Ichgの波形の一例を示す。
【0020】
整流器47から昇降圧コンバータ11に直流電圧が印加される。昇圧用トランジスタQ1がオンになると、リアクトルL1及び昇圧用トランジスタQ1からなる回路を流れる電流IL1が徐々に増加する。昇圧用トランジスタQ1がオフになると、リアクトルL1及び還流ダイオードD2を通ってバンクコンデンサ30に流れる充電電流Ichgが急激に立ち上がる。充電電流Ichgは、時間の経過とともに減少する。バンクコンデンサ30が充電されると、DCリンク電圧Vdcが上昇する。
【0021】
昇圧用トランジスタQ1のオン時間Tonを調整することにより、昇降圧コンバータ11を1パルス駆動したときにバンクコンデンサ30に供給される電力量を調整することができる。励振用の動作指令Trg2を受信したときと、シマー用の動作指令Trg2を受信したときとで、オン時間Tonを異ならせることにより、充電電力量を異ならせることができる。
【0022】
図3は、本実施例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
制御装置50が加工機45(
図1)からシマー指令Sig_s及び励振指令Sig_eを受信する。シマー指令Sig_s及び励振指令Sig_eのパルスの立ち上がりが、高周波電源20からレーザ発振器41への高周波電力Prfの供給開始の指令を意味し、パルスの立ち下がりが、高周波電源20からレーザ発振器41への高周波電力Prfの供給停止の指令を意味する。
【0023】
シマー指令Sig_sの受信(時刻t
1)に同期して、高周波電源20からレーザ発振器41に高周波電力Prfの供給が開始され、シマー指令Sig_sが立ち下がると(時刻t
3)、高周波電力Prfの供給が停止される。
図3では、1回のシマー指令Sig_sの受信時に、1周期分の高周波電力Prfがレーザ発振器41に供給されるように示されているが、レーザ発振器41に供給される高周波電力Prfは、1周期分以上であってもよい。ただし、高周波電力Prfが供給される時間幅(時刻t
1からt
3までの時間幅)は、レーザ発振器41が発振しない程度の短さに設定される。このため、制御装置50がシマー指令Sig_sを受信しても、レーザパルスLpは出力されない。
【0024】
高周波電源20がレーザ発振器41に高周波電力Prfを供給することにより、バンクコンデンサ30が放電され、DCリンク電圧Vdcが基準電圧Vrefから低下する。同時に、制御装置50が充電電源10を動作させることにより、バンクコンデンサ30に充電電流Ichgが流れる。充電電流Ichgが立ち上がるのは、昇圧用トランジスタQ1をオンにした後オフにした時点からである。このため、充電電流Ichgの立ち上がり(時刻t2)は、DCリンク電圧Vdcが低下し始める時点(時刻t1)より遅れる。
【0025】
充電電流Ichgが流れ始めると、DCリンク電圧Vdcが増加し始める。充電電流Ichgがほぼゼロになった時点で、DCリンク電圧Vdcがシマー放電前の基準電圧Vrefまで回復する。シマー指令Sig_sを受信したときに、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させる制御をシマー充電制御ということする。例えば、充電電流Ichgがほぼゼロになる時点が、シマー指令Sig_sの立ち下がり時点(時刻t3)より前または時刻t3とほぼ等しくなるように、昇降圧コンバータ11及びバンクコンデンサ30の回路定数が設定されている。
【0026】
励振指令Sig_eの受信に同期して、高周波電源20からレーザ発振器41に高周波電力Prfの供給が開始され(時刻t4)、励振指令Sig_eが立ち下がると(時刻t5)、高周波電力Prfの供給が停止される。レーザ発振器41に高周波電力Prfが供給されることにより、レーザ発振器41からレーザパルスLpが出力され、高周波電力Prfの供給が停止すると、レーザパルスLpが立ち下がる。なお、レーザパルスLpの立ち上がりは高周波電力Prfの供給開始時点よりやや遅れる。
【0027】
高周波電源20からレーザ発振器41に高周波電力Prfが供給されることにより、DCリンク電圧Vdcが低下する。高周波電力Prfの供給が停止されると(時刻t5)、DCリンク電圧Vdcはほぼ一定の値を維持する。
【0028】
制御装置50は、励振指令Sig_eの受信と同期して、励振用の動作指令Trg2を充電電源10(
図2)に送信する。これにより、コンバータコントローラ12は、昇圧用トランジスタQ1をオンにする。所定時間経過後、昇圧用トランジスタQ1をオフにすると(時刻t
6)、充電電流Ichgが立ち上がる。これにより、DCリンク電圧Vdcが上昇し始める。充電電流Ichgがほぼゼロになる時点で、DCリンク電圧Vdcがほぼ基準電圧Vrefまで回復する。励振指令Sig_eを受信したときに、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させる制御を励振充電制御ということとする。
【0029】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、充電電源10の昇圧用トランジスタQ1のオン時間Tonの好ましい値について説明する。制御装置50がシマー指令Sig_sを受信したときは、1回のシマー放電でバンクコンデンサ30から放電される電力量に等しい電力量が、充電電源10からバンクコンデンサ30に供給されるようにシマー充電制御を行う。
【0030】
図4Aは、昇降圧コンバータ11の等価回路図であり、
図4Bは、リアクトルL1を流れる電流I
L1、バンクコンデンサ30の充電電流Ichg、及びDCリンク電圧Vdcの時間変化の一例を示すグラフである。コンバータコントローラ12は、バンクコンデンサ30からの放電の開始と同期して昇圧用トランジスタQ1をオンにする。これにより、DCリンク電圧Vdcが低下し始めるとともに、リアクトルL1に電流I
L1が流れ始める。
【0031】
オン時間Tonが経過した時点で、コンバータコントローラ12は昇圧用トランジスタQ1をオフにする。これにより、充電電流Ichgが流れ始める。充電電流Ichgが流れることにより、DCリンク電圧Vdcが上昇し始める。昇圧用トランジスタQ1がオンになっている期間における電流IL1の増加の程度、及び昇圧用トランジスタQ1がオフになっている期間における充電電流Ichgの減少の程度は、リアクトルL1のインダクタンスLA、バンクコンデンサ30のキャパシタンスC、昇降圧コンバータ11に印加されている直流電圧Vinに依存する。
【0032】
シマー放電が終了したときのDCリンク電圧Vdcの極小電圧値Vminは、1回のシマー放電においてバンクコンデンサ30から放電される電力量によって決まる。1回のシマー放電における電力量の標準値は予め決められているため、極小電圧値Vminの標準値も決まっている。充電電流Ichgがゼロになった時点で、DCリンク電圧Vdcを元の基準電圧Vrefまで回復させるためのオン時間Tonは、以下の式で近似的に与えられる。
【数1】
【0033】
制御装置50は、シマー指令Sig_sを受信したとき、式(1)で求まるオン時間Tonだけ昇圧用トランジスタQ1をオンにするように、コンバータコントローラ12に動作指令Trg2を送信する。これにより、シマー放電によって低下したDCリンク電圧Vdcが、ほぼ元の基準電圧Vrefまで回復する。すなわち、制御装置50が行うバンクコンデンサ30のシマー充電制御は、フィードフォワード制御である。
【0034】
次に、
図5を参照して、制御装置50が行う制御の手順について説明する。
図5は、制御装置50が行う制御の手順を示すフローチャートである。
【0035】
制御装置50は、加工機45(
図1)から指令を受信すると、受信した指令がシマー指令Sig_sか励振指令Sig_eかを判定する(ステップS1)。受信した指令がシマー指令Sig_sである場合、制御装置50は高周波電源20(
図1)を動作させてレーザ発振器41(
図1)にシマー放電用の高周波電力Prf(
図3)を出力させる(ステップS4)。
【0036】
さらに、制御装置50は、充電電源10に対してシマー充電制御を行う(ステップS5)。具体的には、
図4Bを参照して説明したように、1回のシマー放電でバンクコンデンサ30から放電される電力量に等しい電力量を、充電電源10からバンクコンデンサ30に供給する。
【0037】
制御装置50が受信した指令が励振指令Sig_eである場合、制御装置50は高周波電源20(
図1)を動作させてレーザ発振器41(
図1)に励振用の高周波電力Prf(
図3)を出力させる(ステップS2)。これにより、レーザ発振器41からレーザパルスLp(
図3)が出力される。さらに、制御装置50は、充電電源10に対して励振充電制御を行う(ステップS3)。励振充電制御により、
図3に示したように、DCリンク電圧Vdcが基準電圧Vrefまで回復する。
【0038】
制御装置50は、レーザ発振器41からパルスレーザビームを出力させる処理を終了させるまで、ステップS1、S2、S3の手順、またはステップS1、S4、S5の手順を繰り返す(ステップS6)。
【0039】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、
図3を参照して説明したように、シマー放電が行われるごとに、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させるシマー充電制御を行う。このため、シマー放電ごとのDCリンク電圧Vdcのばらつきが抑制され、安定したシマー放電を行うことができる。さらに、制御装置50が励振指令Sig_eを受信したときのDCリンク電圧Vdcを、ほぼ基準電圧Vrefに維持することができる。これにより、レーザ発光を安定化させることができる。
【0040】
また、励振指令Sig_eを受信した時点で、DCリンク電圧Vdcが励振可能範囲の下限値未満まで低下しているような状況が発生しないため、励振指令Sig_eを受信すると、直ちにレーザ発振させることができる。レーザ発振までの待ち時間が無くなるため、加工のスループットが高まるという優れた効果が得られる。
【0041】
次に、
図6を参照して他の実施例によるレーザ電源装置について説明する。以下、
図1~
図5を参照して説明した実施例によるレーザ電源装置と共通の構成については説明を省略する。
【0042】
図6は、本実施例によるレーザ電源装置の制御装置50(
図1)が行う制御のブロック線図である。
図4Bに示した実施例では、シマー充電制御を行う際に、昇圧用トランジスタQ1をオンにするオン時間Tonが予め設定されている。このオン時間Tonに応じて、DCリンク電圧Vdcの上昇幅が決まる。すなわち、DCリンク電圧Vdcを回復させるシマー充電制御は、フィードフォワード制御である。これに対して本実施例におけるシマー充電制御は、フィードバック制御である。
【0043】
図6に示すように、制御装置50は、励振充電制御のフィードバックループFBL1と、シマー充電制御のフィードバックループFBL2とを切り替える切替ブロック53、54を含む。制御装置50が励振指令Sig_eを受信すると、切替ブロック53、54がフィードバックループFBL1を選択し、シマー指令Sig_sを受信すると、切替ブロック53、54がフィードバックループFBL2を選択する。
【0044】
フィードバックループFBL2が選択されると、シマー充電制御を行うときは、基準電圧Vrefに対するDCリンク電圧Vdcの測定値Voutの偏差が、PID制御ブロック52に入力される。DCリンク電圧Vdcの測定値Voutは、例えば、前回のシマー充電制御の後に取得されたものである。なお、十分な高速演算処理が可能である場合は、シマー指令Sig_sを受信した時点におけるDCリンク電圧Vdcの測定値Voutに基づいて、フィードバック制御を行ってもよい。
【0045】
PID制御ブロック52は、この偏差に応じてオン時間修正値ΔTon2を出力する。オン時間初期値Ton2_0にオン時間修正値ΔTon2を足し合わせて得られるオン時間暫定値Ton2_tが、オン時間制限ブロック56に入力される。オン時間初期値Ton2_0は、1回のシマー放電でバンクコンデンサ30から放電される電力量に相当する電力量がバンクコンデンサ30に供給される時間幅に設定されている。なお、オン時間初期値Ton2_0として式(1)により算出された値を用いてもよい。
【0046】
オン時間制限ブロック56が、オン時間制限値Ton2_Limitとオン時間暫定値Ton2_tとを比較し、比較結果に基づいてオン時間指令値Ton2を生成する。例えば、オン時間暫定値Ton2_tがオン時間制限値Ton2_Limit以下である場合、オン時間暫定値Ton2_tをオン時間指令値Ton2とする。オン時間暫定値Ton2_tがオン時間制限値Ton2_Limitを超えている場合、オン時間制限値Ton2_Limitをオン時間指令値Ton2とする。すなわち、オン時間制限ブロック56は、オン時間指令値Ton2が許容上限値を超えないように、許容上限値以下に制限する機能を有する。
【0047】
制御装置50は、このようにして決定したオン時間指令値Ton2を充電電源10に与える。充電電源10は、オン時間指令値Ton2に基づいて昇圧用トランジスタQ1のスイッチング制御を行う。すなわち、昇圧用トランジスタQ1をオンにする時間を、指令されたオン時間指令値Ton2に等しくする。
【0048】
本実施例によるシマー充電制御においては、シマー放電によってDCリンク電圧Vdcが低下すると、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させる電圧フィードバック制御が行われる。
【0049】
フィードバックループFBL1の基本的な制御は、フィードバックループFBL2の制御と同一である。フィードバックループFBL2のPID制御ブロック52の代わりにPID制御ブロック51が用いられ、オン時間制限ブロック56の代わりにオン時間制限ブロック55が用いられる。さらに、フィードバックループFBL1においては、フィードバックループL2のオン時間初期値Ton2_0がオン時間初期値Ton1_0に変更され、オン時間制限値Ton2_Limitがオン時間制限値Ton1_Limitに変更されている。基準電圧Vrefは、フィードバックループFBL1とFBL2とで同一である。オン時間初期値Ton1_0は、1つのレーザパルスを出力させるときにバンクコンデンサ30から放電される電力量に相当する電力量がバンクコンデンサ30に供給されるように設定されている。
【0050】
フィードバックループFBL1においては、フィードバックループFBL2のオン時間修正値ΔTon2、オン時間暫定値Ton2_t、オン時間指令値Ton2の代わりに、それぞれオン時間修正値ΔTon1、オン時間暫定値Ton1_t、オン時間指令値Ton1が生成される。DCリンク電圧Vdcの測定値Voutは、例えば、前回の励振充電制御の後に取得されたものである。
【0051】
制御装置50は、このようにして決定したオン時間指令値Ton1を充電電源10に与える。充電電源10は、オン時間指令値Ton1に基づいて昇圧用トランジスタQ1のスイッチング制御を行う。すなわち、昇圧用トランジスタQ1をオンにする時間を、指令されたオン時間指令値Ton1に等しくする。
【0052】
本実施例による励振充電制御においては、レーザ発振器41の1回の励振によってDCリンク電圧Vdcが低下すると、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させる電圧フィードバック制御が行われる。
【0053】
次に、シマー充電制御におけるオン時間制限値Ton2_Limitについて説明する。
シマー指令Sig_sは、
図3に示すように一定の周期で繰り返される。オン時間指令値Ton2が長くなり過ぎると、昇圧用トランジスタQ1をオフにする時点が次のシマー指令Sig_sの受信以降になることもあり得る。この場合は、シマー指令Sig_sの受信時に新たなシマー充電制御を開始することができない。シマー放電ごとのシマー充電制御の実行を可能にするために、オン時間制限値Ton2_Limitを、シマー指令Sig_sの周期より短くすることが好ましい。なお、シマー充電制御が、シマー放電期間中に終了するように、オン時間制限値Ton2_Limitを設定してもよい。
【0054】
次に、励振充電制御におけるオン時間制限値Ton1_Limitについて説明する。
オン時間制限値Ton1_Limitは、次の励振指令Sig_eを受信したときのレーザパルスの出力に影響が無いタイミングで励振充電制御が終了するように、オン時間制限値Ton1_Limitを設定しておくことが好ましい。
【0055】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、
図1~
図5を参照して説明した実施例と同様に、シマー放電が行われるごとに、DCリンク電圧Vdcを基準電圧Vrefまで回復させるシマー充電制御を行うため、励振指令Sig_eを受信したときのDCリンク電圧Vdcを、ほぼ基準電圧Vrefに維持することができる。
【0056】
また、基準電圧Vrefに対するDCリンク電圧Vdcの測定値Voutの偏差が大きい場合、フィードバック制御を行うことによってオン時間指令値Ton2が長くなるため、DCリンク電圧Vdcを、早期に基準電圧Vrefまで回復させることができる。さらに、オン時間指令値Ton2をオン時間制限値Ton2_Limit以下に制限しているため、シマー充電制御を、次のシマー指令Sig_sの受信までに完了させることが可能になる。
【0057】
次に、本実施例の種々の変形例について説明する。
まず、シマー充電制御を行っている期間に励振指令Sig_eを受信した場合の制御の一例について説明する。充電電源10に対してシマー充電制御を行っている期間に励振指令Sig_eを受信すると、通常通り、高周波電源20を動作させてレーザ発振器41に励振用の高周波電力Prfを供給する。シマー充電制御によって昇圧用トランジスタQ1がオンになっている場合、昇圧用トランジスタQ1をオフにするまでの時間を、シマー用のオン時間指令値Ton2から励振用のオン時間指令値Ton1に切り替えるとよい。または、シマー用のオン時間指令値Ton2と励振用のオン時間指令値Ton1との合計値によって、昇圧用トランジスタQ1を制御してもよい。
【0058】
本実施例では、シマー放電ごとにシマー充電制御を行っているため、次の励振指令Sig_eを受信するまでの期間におけるシマー放電によるDCリンク電圧Vdcの低下分は回復する。ところが、シマー放電以外の要因によって、DCリンク電圧Vdcが低下する場合がある。例えば、放電抵抗等による放電に起因して、DCリンク電圧Vdcが低下する場合がある。
【0059】
励振指令Sig_eの受信時に、レーザパルスのエネルギが許容範囲に収まらない程度までDCリンク電圧Vdcが低下している場合は、レーザ発振器41に励振用の高周波電力Prfを供給せず、バンクコンデンサ30の充電動作のみを行う。この充電動作においては、DCリンク電圧Vdcを、許容範囲内まで短時間で上昇させるために、シマー充電制御におけるオン時間初期値Ton2_0よりも長いオン時間を設定する。
【0060】
また、シマー充電制御において、基準電圧Vrefに対するDCリンク電圧Vdcの測定値Voutの偏差が大幅に大きくなった場合は、オン時間初期値Ton2_0より長いオン時間を設定して、DCリンク電圧Vdcを短時間に基準電圧Vreまで回復させる制御を行うことが好ましい。
【0061】
次に、
図7及び
図8を参照して、さらに他の実施例によるレーザ電源装置について説明する。以下、
図6を参照して説明した実施例によるレーザ電源装置と共通の構成については説明を省略する。
【0062】
図7は、本実施例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
図6に示した実施例では、直前のシマー充電制御が終了した時点のDCリンク電圧Vdcの測定値Voutと、基準電圧Vrefとを比較し、基準電圧Vrefに対する測定値Voutの偏差に基づいてシマー充電制御を行っている。これに対して
図7に示した実施例では、シマー充電制御を行う直前のDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_a、及びシマー充電制御が完了した時点におけるDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bを用いて、シマー充電の制御を行う。この制御手順について、
図8を参照して説明する。
【0063】
図8は、制御装置50による制御の手順を示すフローチャートである。
制御装置50は、シマー指令Sig_sを受信すると、高周波電源20を動作させる前に、DCリンク電圧Vdcの測定値Vout_aを取得する(ステップSA1)。取得した測定値Vout_aが許容範囲から外れているか否かを判定する。さらに、単位時間あたりに、測定値Vout_aが許容範囲から外れた回数(以下、逸脱回数という。)が規定回数以上か否かを判定する(ステップSA2)。測定値Vout_aの許容範囲は、基準電圧Vrefを含む一定の範囲、例えば基準電圧Vrefを中心とする範囲に設定される。逸脱回数が規定回数以上である場合、アラームを発出して(ステップSA8)、処理を停止する。
【0064】
単位時間当たりの逸脱回数が規定回数未満である場合、制御装置50は高周波電源20を動作させてシマー放電を生じさせる(ステップSA3)。これにより、
図7に示すように、DCリンク電圧Vdcが低下し始める。さらに、現時点のオン時間初期値Ton2_0(
図6)を用いて、充電電源10に対してシマー充電制御を行う(ステップSA4)。これにより、
図7に示すように、充電電流Ichgが立ち上がる。
【0065】
充電電流Ichgが流れることにより、DCリンク電圧Vdcが基準電圧Vrefに向かって上昇する。制御装置50は、充電電流Ichgがゼロになった時点のDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bを取得する(ステップSA5)。さらに、測定値Vout_bと基準電圧Vrefとの差分から、オン時間初期値Ton2_0を算出する(ステップSA6)。オン時間初期値Ton2_0の算出方法は、
図6を参照して説明したフィードバックループFBL2のフィードバック制御と同一である。シマー放電を継続する場合(加工を継続する場合)は、ステップSA1からの手順を繰り返し、シマー放電を継続しない場合(加工を終了する場合)は、処理を終了する(ステップSA7)。
【0066】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、
図6に示した実施例と同様に、基準電圧Vrefに対するDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bの偏差が大きい場合、フィードバック制御を行うことによってオン時間指令値Ton2が長くなるため、DCリンク電圧Vdcを、早期に基準電圧Vrefまで回復させることができる。
【0067】
ステップSA2において、単位時間あたりの逸脱回数が規定回数以上になると判定されることは、シマー充電制御による充電電力量が少な過ぎるか、または多過ぎることを意味する。すなわち、装置に何らかの異常が発生していることを意味する。この場合に、アラームが発出(ステップSA8)されるため、メンテナンス要員が早期に異常に気付くことができる。
【0068】
次に、本実施例の変形例によるレーザ電源装置について説明する。
図8に示した実施例では、ステップSA1で取得したDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_aを、異常発生の有無の判定にのみ利用している。これに対して本変形例では、制御装置50がシマー指令Sig_sを受信すると、高周波電源20を動作させてシマー放電を生じさせるとともに、測定値Vout_aと基準電圧Vrefとの差分に基づいてシマー充電制御を行う。充電開始から一定時間経過後に、DCリンク電圧Vdcの測定値が許容範囲に収まらない場合に、アラームを発出する。
【0069】
DCリンク電圧Vdcの測定値Vout_aに基づくシマー充電制御による充電電流Ichgはゼロになった後、DCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bを取得し、測定値Vout_bが許容範囲に収まっているか否かを判定する。測定値Vout_bが許容範囲の下限値未満である場合、短時間の追加充電を行い、DCリンク電圧Vdcを調整する。
【0070】
次に、本変形例の優れた効果について説明する。
図7に示した実施例では、制御装置50がシマー指令Sig_sを受信すると、直近のシマー放電時に実行したシマー充電制御の直後のDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bに基づいて、今回のシマー充電制御を行う。これに対して本変形例では、シマー放電開始直前のDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_aに基づいてシマー充電制御を行う。このため、DCリンク電圧Vdcをより正確に基準電圧Vrefに近づけることができる。
【0071】
さらに、シマー充電制御を行った直後のDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bに基づいて追加の充電を行うか否かを判定し、追加の充電が必要と判断されたら追加の充電を行う。このため、DCリンク電圧Vdcを、より正確に基準電圧Vrefに維持することが可能である。
【0072】
本変形例では、基準電圧Vrefと比較するためのDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_aを、シマー指令Sig_sを受信した時点に取得するため、シマー指令Sig_sの受信から、オン時間初期値Ton2_0の算出完了までに時間を要する。シマー放電の開始から実際にバンクコンデンサ30の充電を開始するまでの時間を短縮するために、制御装置50に高い演算速度が要求される。レーザ電源装置として、
図8に示した実施例の構成を採用するか、本変形例の構成を採用するかは、制御装置50の処理能力に応じて決定することが好ましい。
【0073】
次に、
図9を参照して、本実施例の他の変形例によるレーザ電源装置について説明する。
図9は、本変形例によるレーザ電源装置に関する種々の信号のタイミングチャートである。
図7に示した実施例では、シマー放電が行われている期間中に、バンクコンデンサ30の充電がほぼ完了する。これに対して
図9に示した変形例では、シマー放電が行われている期間中にバンクコンデンサ30の充電が終わらず、次のシマー放電の開始までに充電が完了する。このため、充電が完了した後に取得されるDCリンク電圧Vdcの測定値Vout_bの取得が、
図7に示した実施例の場合より遅くなる。
【0074】
充電が完了した後に測定値Vout_bを取得するタイミングから、次のシマー放電の前に測定値Vout_aを取得するタイミングまでの時間幅が短い場合は、測定値Vout_bを、次のシマー放電の前に取得する測定値Vout_aとして用いてもよい。
【0075】
次に、
図10及び
図11を参照してさらに他の実施例によるレーザ電源装置について説明する。以下、
図6を参照して説明した実施例によるレーザ電源装置と共通の構成については説明を省略する。
【0076】
図10は、本実施例によるレーザ電源装置を含むレーザ加工装置のブロック図である。
図1に示した実施例では、シマー放電時の充電と、励振時の充電とを、充電電源10の共通の昇降圧コンバータ11(
図2)により行っている。これに対して本実施例では、充電電源10が、シマー用充電電源10S及び励振用充電電源10Eを含む。シマー用充電電源10S及び励振用充電電源10Eは、相互に並列に接続されている。
【0077】
シマー用充電電源10S及び励振用充電電源10Eのそれぞれは、
図2に示した充電電源10と同様に、コンバータ及びコンバータコントローラを含む。制御装置50は、励振用充電電源10Eに励振用の動作指令Trg2Eを与え、シマー用充電電源10Sにシマー用の動作指令Trg2Sを与える。
【0078】
図11は、制御装置50が行う制御のブロック線図である。
図6に示した実施例では、切替ブロック53、54が、フィードバックループFBL1とFBL2との切り替えを行い、一方のフィードバックループのみが動作する。これに対して
図11に示した実施例では、フィードバックループFBL1とFBL2とが相互に独立している。フィードバックループFBL1の制御は、
図6に示した実施例において、切替ブロック53、54が、フィードバックループFBL1を選択しているときの制御と同一である。フィードバックループFBL2の制御は、
図6に示した実施例において、切替ブロック53、54が、フィードバックループFBL2を選択しているときの制御と同一である。
【0079】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、充電電源10がシマー用充電電源10Sと励振用充電電源10Eとを別々に含んでいるため、シマー用充電電源10Sのコンバータのリアクトルのインダクタンスと、励振用充電電源10Eのコンバータのリアクトルのインダクタンスとを、異ならせることが可能である。このため、シマー充電制御においてリアクトルを流れる電流の増加及び減少の傾きと、励振充電制御においてリアクトルを流れる電流の増加及び減少の傾きとを異ならせることができる。これにより、シマー充電制御時及び励振充電制御時のそれぞれにおいて、リアクトルを流れる電流の増加及び減少の傾きを好ましい傾きに個別に調整することが可能である。
【0080】
さらに、本実施例では、シマー用充電電源10S及び励振用充電電源10Eを同時に動作させることが可能である。例えば、制御装置50がシマー充電制御中に励振指令Sig_eを受信した場合、シマー充電制御と並行して励振充電制御を実行することが可能である。
【0081】
各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0082】
10 充電電源
10E 励振用充電電源
10S シマー用充電電源
11 コンバータ
12 コンバータコントローラ
20 高周波電源
30 バンクコンデンサ
35 電圧センサ
41 レーザ発振器
42 放電電極
45 加工機
46 交流電源
47 整流器
50 制御装置
51、52 PID制御ブロック
53、54 切替ブロック
55、56 オン時間制限ブロック